東京藝術大学の学園祭「藝祭2015」が9月4日から3日間、
上野キャンパスにて行われました。
皆様は芸術系大学の学園祭に訪れたことがありますでしょうか?
学園祭といえば、学生たちが模擬店を出したり、バンドのライブを行ったり、
パレードやミスコンなどにぎやかな企画が目白押し。
藝祭も例に漏れず、このようなイベントももちろん行われますが、それに加えて
美術学部の学生たちの作品展示や音楽学部の学生たちのコンサートも行われています。
藝大生たちの作品・演奏を間近で体験できる機会となっているのです。
この藝祭で、とびらプロジェクトとして始めてのイベント
「藝祭さんぽ」を9月5日に開催しました。
我々アート・コミュニケータ「とびラー」が来場者の方々と一緒に
キャンパスを歩いて美術学部の学生たちの作品を見て周り、
参加者同士で感想を共有したり、作者とお話をして色々聞いてみたり。
藝祭さんぽは、参加者と作品・作者をつなげたいというとびラーの気持ちから生まれた企画です。
2015年9月5日。藝祭さんぽ当日。
大賑わいの藝祭の中、12名の方にご参加いただきました。
参加者とナビゲーターとなるとびラーが3つのグループに分かれて
それぞれ別の学生たちの作品をめぐりました。
今回は初めてナビゲーターを行ったとびラー川口さんのグループをメインにご紹介しましょう。
にぎやかな模擬店を横目に、まずは日本画の展示スペースへ。
たくさんの作品が並ぶ中、ある一つの作品の前に立ち、
その印象について参加者の方へ一人ひとり伺います。
同じ作品であっても、見ている人やその時の心情によってその印象が変わるものです。
その時感じた思いをグループ鑑賞という形でみんなで共有します。
そんな参加者の会話を後ろでこっそり聞いている学生がいます。
作者である日本画科修士1年生の渡邉ゆうさんです。参加者の生の感想をひそかに聞いてもらっていました。
ここからは作者本人から作品のコンセプトを説明してもらったり、こちらから質問を投げかけたりと
直接作者とお話できる時間となります。
参加者は自分たちが感じた作品の印象と、実際に作者が話す作品の内容とを比べながら
作品に対する思いを聞いています。また、様々な質問を投げかけます。
作者本人と語れる機会なので質問は途切れません。
ここで渡邉さんからサプライズ。
作品のテクスチャを味わって欲しいと、なんと素手で作品を触らしていただきました。
「お手を触れないでください」が当然のアートの世界。
本当に触って大丈夫なの?と、後ろから見ていた自分もドキドキでした。
参加者の方には貴重な体験になったと思います。
続いて工芸科の展示スペースへ。
次の作品は今にも動き出しそうなカメレオンの彫刻。リアリティにあふれています。
こちらの作品についても参加者とグループで鑑賞を行います。
こちらのカメレオンは工芸科3年生の橋本未帆さんの作品です。
橋本さんからは、彫刻の技法について詳しくお話をうかがうことが出来ました。
普段美術館や街中でよく目にする彫刻ですが、
なかなか詳細な作成手順はあまりわからないところ。。
作品が出来上がるまでの過程をわかりやすく説明いただきました。
こちらの作品も橋本さんのもの。この写真だと少しわかりづらいですが、
虫食いの葉っぱをかたどったオブジェです。
色違いの葉っぱたちが並び、これだけでもおしゃれな雰囲気ですが、実はこの作品はペン立てなのです。
実際に橋本さんが虫食い穴にペンを差し込み実践してくれました。
実は機能的なものだったとは、お話を伺うまでわかりませんでした。
まだまださんぽは続きます。
この時点ではどの科の展示スペースをめぐるか決まっていません。
さんぽはその時の気分次第、さてどこに行きましょう。
そこで注目したのは参加者の中のお一人。
川口グループには美大志望の高校生の方がいらっしゃいました。
せっかくなので希望する学科の学生とお話してもらいたい。
志望学科はデザイン科とのことだったので
それならばと、デザイン科の展示エリアへ向かうことに。
その場で行き先が決まるのも「さんぽ」ならではのゆるさ。
デザインの展示エリアへ入り作品を見回っていると、そこに一人の学生の方がいらっしゃいました。
作品の話をしてくれませんか、と企画の趣旨を説明すると快く引き受けてくださいました。
デザイン科3年生の矢崎花さんです。
「和ろうそくの炎」というテーマの作品、ウェットな奥深い作品のイメージを丁寧に整理して伝えてくださいました。
美しい気づきについて説明をしていくうちに、参加者の関心がどんどん深まっていったように感じます。
特に高校生の方は志望する学科の先輩の話を聞ける機会だったようで、とても熱心に聴いていました。
いきなりのお願いで若干ドキドキだったと思いますが、矢崎さんも参加者の方との対話を楽しんでいらっしゃいました。
楽しい時間はあっという間。
3名の作者とその作品に触れ、さんぽの時間も終わりとなります。
参加者の皆さんは、作者と直接お話できてよかった、学生の一生懸命な姿と向き合えた、と満足げでした。
途中少し迷子になるなどハプニングもありましたが楽しんでいただけたようです。
また、作者の皆さんも一般の方と近い距離感で自分の作品についてお話できる機会は新鮮であり、
なかなか出来ない貴重な体験が出来たという感想を頂きました。
初ナビゲーターを勤めた川口さんは
「お客さんのノリがよくて楽しかった。
ひとつの質問にみなさんいろいろな思いを言葉にしてくださいました。
今回のように作家も巻き込んでの鑑賞会は、
作家も鑑賞者も作品と記憶を深く結びつけていただけたのではないかと思います。
人はいろいろなことを考えながらアート鑑賞をしているのだということを知り
<対話を通して鑑賞する><他者の声に耳を傾ける時間>を
アートの愉しみかたの一つとして広まっていくことができたらいいなと思います。」
と充実した時間を作者・参加者の皆さんと過ごせたようです。
ここで他のグループが訪れた学生さんたちも簡単にですがご紹介しましょう。
デザイン科修士1年生の仁藤 潤さん。
油絵科2年生の副島 しのぶさん。
工芸科3年生の村崎 謙介さん。
日本画科4年生の磯崎 菜那さん。
ご協力いただいた学生の皆さん、本当にありがとうございました。
それぞれのグループで、それぞれのさんぽがありました。
作者と作品とふれあい、参加者同士で思いを共有し、とびラーたちとも語らう。
同じ企画でも参加したグループ・その時の参加者によってまったく違う形のコミュニケーションの場が生まれます。
人と作品、参加者と作者をつなげる、とびラーのさんぽ企画。
実際に作者とお話をしてみると作品の思いを直接受け取ることが出来ます。
また、作品に対する一生懸命な姿勢をみているとこれからの活動を応援したくなりますよ。
次回のさんぽは藝大の卒展での実施を予定しております。
今度は皆さんもとびラーと一緒にさんぽをしてみませんか?
とびラー3期生、アート・コミュニケータ活動2年目。
会社に勤めているだけでは知り合えない様々な分野の人々と美術館で活動できて刺激的な日々です。
世の中にもっとアートと出会える場所が増えていくにはどうすればいいか活動を通じて模索中。
2015.09.05