東京都美術館× 東京藝術大学 「とびらプロジェクト」

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対話による鑑賞について:「スクールマンデー」実践講座3回目

「スクールマンデー(対話を通した作品鑑賞)」の実践講座の3回目が行われました。今回の実践講座は学芸員の稲庭さんによるファシリテートのもと、9月10日に行われたスクールマンデー(多田小学校・青井中学校の訪問)の振り返りからはじまりました。小中学校が来館するにあたり、事前に行う先生方との打ち合わせの内容や、美術館での鑑賞が授業にどの様に位置づけられているのかなど、裏方の大切な部分をとびラー候補生(以下:とびコー)と共有しました。
続いて、NPO法人芸術資源開発機構のアートプランナーである三ツ木紀英さん(スクールマンデー実践講座講師)による、「聴く、応答するワークショップ」が行われました。
まずは三人一組になります。一人はお話をする人です。もう一人はお話を聴く人です。ただしお話を聴く人は、話題の一区切りごとに聴いたお話を自分の言葉で要約して、「今あなたの言っていることはこう言うことですね。」とパラフレーズしなくてはなりません。お話をした人は自分の意図がキチンと伝わっていれば○、間違っていれば×のサインを手でだします。例えば「朝食でコーヒーを入れるのですが、マメはやっぱり挽きたてが一番なので、毎朝欠かさず挽くようにしています。」というお話ならば、「挽たてのコーヒーマメの香りを味わいうことの出来る、朝のコーヒータイムがすきなのですね」と聴く人は返してあげます。それでお話の意図が合っていれば○と返答されます。○と返答された時だけ、会話を前に進めることができます。×が出た場合は再度パラフレーズをやり直さなくてはなりません。しかし、×が3回続いた場合は、お話をする人がそのニュアンスの違いについて補足修正し、「なるほど~」となれば、会話を前に進めることができます。そして3人目の人は、そこで行われている一連のコミュニケーションを見守る人になります。
ちなみに、会話にはテーマはが与えられます。1つのテーマに与えられた制限時間は5分間です。これを、役割を交換しながら3回繰り返し、一巡して終了となります。

 

ルールを覚えたら早速スタートです。はじめの出題は「あなたがすきなもの・こと」です。相手の話を聴いて、「こういうことですよね。」と要約して返してみると、意外に話し手と聞き手の間に、理解のギャップがある事に気付きます。さらに、話し手の意図を汲み取って、自分の言葉としてフィードバックすることの難しさに悪戦苦闘の様子でした。
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実はこれ、VTS(対話による鑑賞方)を身に付けるための一つのトレーニング方法なのです。VTSのファシリテータは何人もの参加者の言葉を一つひとつ受け止めながら、その都度、参加者各々が思考を深く掘り下げて行ける様に、受け止めた言葉を丁寧に整理して、個人の感覚や解釈が、全体の理解となる様な言葉に置き換えて、再度参加者全員にフィードバックする役割を担わなくてはなりません。大変です。。。

 

5分が経過したら、講師の三ツ木さんからストップの合図があります。会話は上手く進んでいたのか、いなかったのか、もしも上手く進まなかったのらなば、どこに問題があったなのかなど、少しだけ振り返りの時間を持ちます。こうした時、3人目の見守る人の存在が効果を発揮するのです。1ラウンド目が終了したあとは、2ラウンド目に移ります。テーマは「あなたがとびラーをやって見ようと思った理由」です。

 

そして3ラウンド目は「あなたが大切だと思うこと」です。みなさん少しずつ慣れて来た様でした。

「スクールマンデー(対話を通した作品鑑賞)」では、必ずしもVTSの手法を用いた鑑賞プログラムを実施するわけではありませんが、VTSの手法を学ぶことを通して、作品鑑賞について理解を深めることを期待しています。また、これは僕個人の感想なのですが、普段のミーティングを行う上でも、このVTSの実践講習を通して身に付けることのできる能力はのとても有効であると感じました。アートプロジェクトの現場などではよく、年齢も職業も違う人たちが集まり、喧々諤々と議論したりしますが、その場合、場を取りまとめる役の者は、都度言葉と議論の積み重なりを整理して、建設的な話し合いになるように、舵取りを行わなくてはなりません。同じことを言っていても、対立している様な話し合いや、全く違うことを言っていても、同意が起こったりなど、いまいち噛み合ないミーティングは意外と多いものです。そうした時、この言葉のパラフレーズ的手法が非常に効果的で、僕もそれとは知らず使っていた様に思います。鑑賞教育の実践だけでなく、日常のとびコーさんのミーティング能力の向上にも期待を寄せている次第です。

 

最後は、「勉強」と「学び」の違いについてお話を伺いました。美術館は正しい情報を持ち帰るだけでなく、分からない事を分かろうとする「学び」の場であり、個々人のホントのコトを探求する場であって欲しいとのこと。
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美術において何がホントであるかを明らかにするのはとても難しいことですが、作品を通して知る事の出来た個々人の真実「ホントのコト」の魅力は、きっと人の心を豊にしてくれる様に感じました。
(とびらプロジェクトマネージャ 伊藤達矢)

 

2012.09.24

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