東京都美術館× 東京藝術大学 「とびらプロジェクト」

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「素材のさまざまな表情を感じるのが好き!」藝大生インタビュー2018 | 美術教育 修士2年・藤澤穂奈美さん

2019.01.21

 

東京藝術大学と言えば上野というイメージがあるのですが、今回の訪問先は取手。とてつもなく広いキャンパスは、正門からのアプローチもまるでゴルフ場のよう。まずは、リニューアルされた藝大食堂にて腹ごしらえ。外光が眩しいくらいのお洒落な空間は、上野の趣とは随分と異なります。すっかり寛いでいるタイミングで、藤澤穂奈美さんと待ち合わせさせていただきました。

 

 

ー藤澤さん、今日は何てお呼びすればよいですか?

 

「そうですねぇ。呼ばれていることが分かれば何でも。私、あだ名とかがつきにくいみたいで。…ホナミとか、ホナちゃん、フジちゃん,フジッピーとか。ゆるキャラみたいで、今日はフジッピーでお願いしようかなぁ。」

 

全く飾らない人だなぁというのが第一印象です。

「じゃぁアトリエの方に来ていただきましょうか。」

早速にフジッピーのアトリエに移動してお話を伺うことになりました。

 

 

「蟻(あり)をモチーフにした20cm角のアルミの鋳物を149枚くらい組み合わせて絵柄にします。組み合わせて170cm大の大きなパネル3枚の作品です。まだ途中で、完成に近いものをお見せできないのですが。」

 

アトリエに着くと、すぐに作品の紹介をしてくださいました。

 

 

ーどのように展示される予定ですか?

 

「美術館の外のエントランス広場に置きます。配置イメージは今のところこんな感じで考えています。(レイアウト図をみせていただく)実際は台座に載せます。立てるのでも横にするのでもなく、ただ寝かせておきます。最終的には(鑑賞者に)乗って欲しい。蟻(あり)を踏んで欲しいと思っています。」

 

ーえ?踏むんですか?

 

「はい。本当は屋内での展示を希望していて、靴を脱いで素足で乗ってもらいたかったんです。最近は手で触れる作品も増えてきましたが、まだ手だけじゃないですか。これだけの大きさがあれば、足の裏だったり、寝転んで背中だったり、あるいは腕全体とかで、色々と感じていただけると思うんですね。それぞれに感覚が異なると思いますし、鋳物の堅さだったり、日が当たっていれば温かさだったり、そういった素材そのものについても感じて欲しいんです。」

 

 

美術教育を専攻する学生は、修了にあたり、作品制作の他に理論研究の成果として論文も提出しなければいけないとのこと。フジッピーの論文のタイトルは『美術作品における素材の存在感の重要性』。まさに素材の存在感を感じる作品になるようです。

 

ーアルミは素材としてよく使われるんですか?

 

「アルミを選んだのはコストの面や、重さの面などもありますが、私、金属素材は全部好きなんです。みさかいなく何でも(笑)。金属っていうと、堅いとか強そうとか冷たいとか、そんな印象があるじゃないですか。ところが使っていると柔らかかったり、温かかったり、磨くと光ったり、色々な表情があるんですよね。それも毎回異なる。今回の作品も、この後、溶液で化学反応をおこさせて黒く着色するのですが、少しの差で色目が大きく変わるんです。均一ではないんですね。金属は、研究対象としても飽きないですね。」

 

ー金属が好きになったきっかけとかはありますか?

 

「うーん、直接的には…。高校の時、美術科だったので、色々な素材を扱いました。木工とかFRPとか紙とか、色々。ただ高校ですから、設備の関係などで金属は扱えなかったんです。だから金属はいつかやってみたいなぁって思っていました。自分でも言うのも何ですが、割と何でも器用にこなせちゃうタイプで。だからうまくいかない時の方が面白い。不測の事態が好きなんです。変化の無い素材と一般的に思われている金属が、非常に異なる表情を見せるのが新鮮なのだと思います。狙い通りにいっちゃうと、つまらないんです。」

 

ー屋内での展示希望が、屋外になっちゃったのも不測の事態でかえって良かったとか?

 

「あぁ、そうですね。本当にそうかも。雨対策や雪対策も考えなければならないし。展示して2,3日したら、パネルが何枚か無くなったりしたりするのも面白いかも。」

 

ーええ?作品の一部が無くなってもいいんですか?

 

「だってお婆ちゃんになったらその方がエピソードとして記憶に残るじゃないですか。単に展示しましただけでは、すぐに忘れちゃうでしょう。」

 

ーそもそも美術教育を専攻したのはどんな理由からですか?

 

「一度別の美大を出て、高校の美術教師を2年間やっていたんです。その時に、まだまだ全然”学び”が足りないなぁと感じました。高校生たちが本当に凄くて。ジェラシーを感じたというか、負けてられないなぁって思って。後進を育成している場合ではないと。藝大の美術教育は理論研究と制作を両方やるのですけれど、それも面白いかなぁと思って。」

 

 

ーもっと上手に教えたくなったからということではないんですね。

 

「教える人は私でなくても一杯いるでしょうし。それに、こちらが”教える”姿勢だと、”教わり”たくないだろうなって当時から思っていました。やる気をもって学びたいということを一緒に学習していくような、そんな相互関係、一方向ではない関係性が良いのかなと。幼稚園生とかの感性にも「やられた!」と思う事もあるし。そういう意味では、全人類は私の敵かもしれませんね(笑)。」

 

-作品の話に戻りますが、タイトルとかお聞きしても?

 

「…『LIVES』…で、”りぶず”あるいは”らいぶず”です。命の複数形、あるいは生きることの名称として。」

 

 

ーこれまでの作品を拝見して、”命”を感じる作品が多いような気がしました。

 

「そうですね。気が付くとそうなっていたという感じです。小さい時から生き物は好きでした。お風呂場で水没しそうな蟻をみつけると、救出して自分は裸のまま外に逃がしたりしたこともありました。雨の中、運転していてカエルを踏んだりしちゃうことも嫌です。気づかないうちにそういうことしていることって、誰にでもありますよね。でも、美術作品を踏むってことは絶対ないじゃないですか。たとえ床に置いてあったとしても。もし踏んだら凄く嫌な想いがする。この差って何だろう。美術作品と小さな生き物の命の差って。私の作品を踏んでもらって、その嫌な気持ちとかを味わってもらったり、あるいは小さな生き物への弔いを感じてもらったりしてもいいのかなと思っています。…ごめんなさい、解説するとつまらないですね。そろそろ、工房の方にも行っていただきましょうか。」

 

 

工房とお聞きしましたが、工場のような建屋に案内していただきました。ここにある設備で”家も建つ”そうです。

 

ーこちらで鋳物を作るんですね。

 

「はい。最初に粘土で蟻のレリーフを作り、その原型からシリコンの型(雌型)を作ります。次にワックスを流して雄型を作ってパキパキ割って板に張りつけます。その後、砂で鋳型をとってからアルミを流して、先ほど見てもらった鋳物を作ります。シリコンって金属だってご存知でした。私も後で知ったんですけど、金属なのにとても柔らかい側面がありますよね。鋳物も開けてみないと出来栄えが分からないこともあって、なかなか面白いです。」

 

 

ー台座もご自身で制作されたんですよね。

 

「そちらも見ていただきたいと思います。台座なので、図面だけ書いて発注しても良いのですが、私は自分で作りました。やはり作品を制作する過程で、手直しが必要な時もあるし、一度図面を書いてしまうとそのままでは使えないでしょ。何より、作りながら考えることができるのがいいんです。」

 

 

「こちらの台座にパネルを乗せます。展示場所がエントランスなので、座りながら待ち合わせ場所に使ってもらってもいいかもしれませんね。『え、そうなの?』と、こちらが思うような反応がでるのが楽しみですね。

 

ーこれまで制作の過程で難しく感じたことはありますか?

 

「…正直、難しく感じたこと、大変だと思ったことはないです。困難なことは楽しいことなので。昔から美術は好きで、小学校の夏休みの宿題も美術だけは計画通りに進んで、逆に日にちが余ってあれもこれもとさらに手を加え始めて、結局締め切りに間に合わないなんてことはありました。でも、それも、やはり楽しかったし。」

 

ー卒業後の計画はありますか?

 

「好きなことだけして生きてくことを考えています(笑)。一応、博士課程は受けています。設備や教員、友達のいるこの環境で、もっと色々なことを習得して世に出たいなと。」

 

ー本当に作ることが大好きなんですね。

 

「そうですね。作ることが好きな人の中には、こんな技術を使いたいので作品を作りたいという方もいると思いますが、私は作品として形にすることに関心があります。手段や方法は、その作品が作れればそれでいいという感じです。実は出来上がったものそのものに、それほど愛着があるわけでもないんです。展示が終了すれば、それはもう終わったことです。金属以外の素材に目が向くことも、ひょっとすると、いや、多分間違いなくあると思います。作りたいものや試してみたいことがめちゃくちゃ沢山あって、(博士課程の)3年でも全然足りないくらい。」

 

ー今日はありがとうございました。卒展で作品を観に行くのがとても楽しみです。

 

 

★インタビューを終えて

 

藤澤穂奈美さん(フジッピー)を、一言で表現するとしたら、自然体(ナチュラル)な人というのが最も相応しい気がします。作ることが大好き、生き物が大好き、何より不測の事態が大好き! 自分の意図通りには決してならない「自然」が大好きで、そこから何かを感じている「自然」な自分を形にして表してみたい、そんな印象を受けました。
作品について「説明」いただこうと質問を投げかけると、何度となく躊躇されていたのは、「説明」してしまうことで、作品と出会う人の感じてもらえる幅を制限してしまうことを恐れてのことではないかと思います。「教える」ことほどつまらないことはない。自分と異なる感覚、感性があること自体が「自然」であり、それを知ることが面白い。そんな風に思われているのではないかと勝手に想像しています。

 

 

「今日は、色々な感想がいただけてよかったです。不測の事態から、今日お話した内容とだいぶ異なる作品になっていたりしてもおかしくないですね(笑)。」

 

チャーミングで自然な笑顔とともに、最後にこちらの台詞で取手キャンパスから見送っていただきました。

 

 


取材|臼井清、上田紗智子、鈴木優子(アート・コミュニケータ「とびラー」)
執筆|臼井清
2013年に、認知症の方やご家族向けの絵画鑑賞プログラムを体感する機会があり、アートの持つ魅力と可能性を強く実感しました。とびラーに応募したのも、もっとアートが知りたくなったからです。現在は、アートナビゲーター(美術検定1級)としての知見なども踏まえ、ビジネスパーソン向けのアートワークショップ、研修企画なども行っています。大好きな作家はターナー♪

 


第67回東京藝術大学 卒業・修了作品展 公式サイト
2019年1月28日(月)- 2月3日(日) ※会期中無休
9:30 – 17:30(入場は 17:00 まで)/ 最終日 9:30 – 12:30(入場は 12:00 まで)
会場|東京都美術館/東京藝術大学美術館/大学構内各所


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「光と自然現象の伝道師」藝大生インタビュー2018 | デザイン 学部4年・渡邉菜⾒⼦さん

2019.01.20

12月中旬のある日、寒空のもと藝大を訪れました。
今回お話を伺うデザイン科4年生の渡邉菜見子さんは、屋外で作品を制作中とのこと。
どんな方なのか、どんな作品なのか。期待を膨らませつつ総合工房棟へ向かいます。

 

 

ー作品について教えてください。木でできた小部屋のように見えますが・・・。

 

「インスタレーション作品で、通路のような細長い部屋を通り抜けながら鑑賞してもらいます。タイトルは『PPW』。Phenomenon(現象)PassWay(通路)の頭文字をとっています。」

 

 

 

ーさっそく、作品の中にお邪魔します。

通路の内部は真っ黒に塗られ、外観からは想像もつかない光景が広がっていました。天井に張り巡らされた透明なチューブが白い光に浮かびあがり、幻想的な印象を与えます。クラゲ、深海、水族館・・・。いろいろなイメージがわき、不思議な気分になってきました。

 

「この作品を設置する場所は、構内にある『森の中の通り道』のような場所です。木々の中に真っ白な箱が建っていて、中に入ると真っ暗。そんな異空間的な感じを出せれば、と。」

 

 

ー作品内部に関しては、どんな意味が込められているのですか?

 

「頭上のチューブにはゼリーと泡が詰まっています。それらをランダムに点滅する光で照らし、暗闇の中に浮かびあがらせます。チューブが人の感情だとして、それらが見え隠れする。人間みんな、実は何を考えているのかわからない、そんな不気味な感じを表現できればと思いました。箱の中に入ると、同じ空間内にいる他者が見えたり見えなくなったり、その人の本質が見えたり見えなくなったり、そんなイメージです。作品を見てくれる人には、好きなように色々なことを感じ、想像してもらえればと思います。」

 

 

ー照明にこだわりがあるようですが、音響などはつけないのでしょうか。

 

「音はつけない予定ですね。入った人に自由に想像を膨らませてもらいたいので、あえて無音にしています。」

 

ー制作について伺いたいと思います。この独特なチューブは、どのように制作しているのですか?

 

「ゼラチンを砕いてからお湯でふやかし、チューブに口で吸い込んでいます。チューブの全長は300メートルくらいです。」

 

ーすべて息で吸い込んだら疲れますよね。掃除機などを使うわけにはいかないのでしょうか。

 

「機械は微調整ができないんです。口で吸うと泡の感じがうまく出るので頑張っています。切り口で口内炎だらけになりますが(笑)。室内の気温だとドロドロに溶けて液体状になってしまうので、ゼラチンをふやかしてチューブに吸い込んだらすぐ外に出して冷やしてます。冬の今しかできない展示ですね。」

 

 

ーいつ頃から制作に着手されましたか。

 

「木を買い揃えて実際に作業を始めたのは、2週間前からです。紙で模型を作った後、この1/3サイズの試作を作り始めました。本番では、この試作をバラして現場で再構成する事になっていて、あちらに見える森の中に、全長6mくらいの通路を設置します。セッティングが完了するその日まで、自分でも完成した状態を見られません。」

 

ーそれだけの大きさのものを組み立てるのは大変そうですね。

 

「3日もあれば組み立てられます。むしろ壁などを作る方が、時間がかかりますね。チューブをはめるための穴も、ジャストサイズのものを一つ一つ開けています。」

 

ー当初から、この構想で制作を進めていたのですか。

 

「ベースが通路ということと、透明の素材を使おうという方向性は変わっていません。ただ、具体的な作品内容は当初の予定から5回くらい変遷しています。以前から、樹脂の中にガラスを閉じ込めてそれに光をあてる作品を作っていたので、初めはそれを通路内に展示しようと考えていました。ただ、それでは通路に対してサイズ感が合わず、作品全体としてのスケールも小さくなってしまうなと思って。次に、樹脂で椅子や机を作って通路の中に設置しようと思ったのですが、材料費が300万円くらいかかることが分かってやめました(笑)。そのあと、チューブを買ってみて中にものを入れたら、あ、綺麗、と。これに光を当てたら、泡がキラキラして夜の水中みたいなイメージでになるんじゃないかと思いついて、この展示になりました。たまたま行き着いた感じです。」

 

「アイデアにしても素材にしても、いい方を拾って、そちらに転がっていくように進めていきました。固定してしまうと、発展しないと思っていて。講評が先月末にあったのですが、箱だけその時のものを残して、内容は変わっています。教授にも言わずに勝手にコロコロ変えちゃって。今この作品を制作していることを知っている教授も多分いませんし、この状態から今後さらに変わるかもしれません(笑)。設置場所も、当初とは違うところになりました。」

 

 

ー藝大に入るまでのことを聞かせてください。

 

「中学生の頃は美容師になりたかったんです。でも、美大卒でグラフィック・サイン系の仕事をしている両親からは、中卒で美容師の専門学校に行くのではなく、高校に行きなさいと言われました。」

 

ーご両親がともに芸術の道を歩んでいらっしゃる。渡邉さんはサラブレットだったのですね。

 

「中学までは、反抗心から『絵は好きじゃない!』と言ったりしていたのですが(笑)。両親は、私がこっそり絵を描いたりしていることを知っていたんですね。勉強か美術か選択するように言われた時は、迷わず美術を選びました。そうして美術系の高校に入ってから、知り合いのヘアメイクアップアーティストの方に進路相談をしたところ、美大で引き出しを増やしてからでも遅くないよと言われて。行くならトップを目指そうかなと思い、藝大だけを受験しました。」

 

ー藝大ではどんな作品を制作してこられたのですか?

 

「飽き性というか、いろいろなところに手を出す性質で。デザイン科は自由に色々できると聞いて入ったので、最初からやることを絞らずに制作していましたね。はじめは服飾やテキスタイル、ヘアメイクをやっていました。建築物も好きだったので、木組みで椅子を作ったりしているうちに、次第に空間や光に関心を持つようになって。そこからは、透明の素材を使うことが多かったです。樹脂とか、ゼリーとか、ガラスとか。それらと光を使った作品を制作してきました。現象系と言いますか。」

 

 

ー「透明」「現象」がキーワードですか。詳しく教えてください。

 

「もともと木漏れ日や、水面に光が反射して揺れている様子などの自然現象に関心があり、それを作品化しようとしています。透明だけれど、光をあてるとプリズムになる。そういう想像がつかないような現象が面白いなと思っています。写真を撮ったりして記録するわけではないのですが、ふと思い出してあれ良かったな、と思えば作品にしたり。人工的な輝き、例えばジュエリーなどの作られたキラキラはあんまり好きではないです。自然界の光を再現したいというのに近いかもしれません。卒業制作でも、時間で太陽の落ち方が違うとか、そういう現象を扱った作品を制作したかったのですが、展示期間中に曇ってしまうと困るので、そのアイデアは採用しませんでした。ずっと思っているのは、生活の中で余裕がなければ気づかないような”現象の面白さ”に目を向ける人が増えればいいなということです。今回の作品でも、鑑賞者の方に気付いてもらえれば嬉しいです。」

 

ー作品を通し、普段見過ごしてしまいがちな現象の美しさへと鑑賞者の視点を導くねらいがあるのですね。参考にしているアーティストなどはいますか?

 

「プロダクトデザイナーの倉俣史朗さんは、アクリルの使い方などが好きでよく見ています。
あと、参考にしているという訳ではないのですが、光や透明を扱っているアーティストの吉岡徳仁さんには勝ちたいな、と思ってやっています(笑)。建築では、隈研吾さん。いろいろな素材を使っていて面白いなと思って。基本的に参考にするものは、あまり近いものを見ないようにしています。そちらに引っ張られてしまうので。建築やプロダクトなど、遠めの所から拾ってくることが多いです。」

 

ー他にインスピレーション源やリフレッシュ方法はありますか。

 

「一つのところに居座れなくて、常に動いたり遊んだりしていますね。暇な日も、家にいられないんです。ドライブしたり、銭湯に行ったり。」

 

 

 

ー卒制を制作中の現在はどんな生活を送っていますか?

 

「屋外は寒くなってきたので、大学では7時~8時くらいまで木を組むような大型の作業をしています。その他、チューブ制作などの作業は、三河島にあるアトリエで行っています。アトリエ近くは下町で銭湯もあり楽しいです。」

 

 

ー今後の制作や、卒業後の進路について教えてください。

 

「照明のデザイン事務所に就職が決まっています。最終的にはショーなどの舞台美術を手掛けたいですね。働きながら、作品も作り続けたいです。透明なものへの興味は変わらないと思いますが、いろいろな素材を触っていきたいです。」

 

 

作品を通して、生活の中で見過ごしてしまうような現象のうつくしさを発信する、その姿はまさに「光と自然現象の伝道師」。
様々な方向に興味をひろげ、柔軟にアイデアを発展させてゆく姿勢にも魅力を感じました。現象への飽くなき探究心が生んだこの作品が、最後にはどのように仕上がるのか。卒展当日を楽しみに待ちたいと思います。

 


取材|⽯井萌愛、⻄牟⽥道⼦、萩⽥裕⼆(アート・コミュニケータ「とびラー」)
執筆|⽯井萌愛

 

普段は美学を勉強している大学生です。美術館のアクセシビリティや対話型鑑賞をはじめ、芸術を取りまく物事について、色々な人と語り合えるのが楽しいです。

 


第67回東京藝術大学 卒業・修了作品展 公式サイト
2019年1月28日(月)- 2月3日(日) ※会期中無休
9:30 – 17:30(入場は 17:00 まで)/ 最終日 9:30 – 12:30(入場は 12:00 まで)
会場|東京都美術館/東京藝術大学美術館/大学構内各所


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「過去の未来、未来の過去をつなぐ『今』」藝大生インタビュー2018 | 文化財保存油画 修士2年・國方沙希さん

2019.01.20

清々しい寒さが肌に心地よい初冬の昼前、ひとつの出会いがありました。

 

 

彼女の名は、國方沙希さん。
文化財保存油画を専攻する修士2年生です。

いかにしてご自身の研究テーマに至り、いかなる手法にてアプローチされたのか。

 

 

 

―まず、修了制作の課題について教えていただけますか。

 

「他の専攻より圧倒的に多く、4つの課題を提出しなければなりません。内訳は個人の油画修復、学年という単位でのチームで行う共同修復、修士論文、ロシア・イコン(聖像)の模写です。4つの目の模写はたまたまで、私たちの代はロシアから先生がいらっしゃっていた関係で、ご縁あってロシア・イコンとなりました。」

 

―国際色豊かなのですね。海外から来ている学生も多いのでしょうか。

 

「今年度は特に多くの留学生が来ています。中国、ギリシャ、韓国、つい最近まで台湾の子がいて、文化の多様性がありますね。」

 

―多方から学生さんがいらしているとのことですが、研究のテーマも幅広いのでしょうか。

 

「かなり広い範囲で研究テーマの設定が可能です。考古学・美術史学等、文系の側面も理系の側面もある分野なので、基本的には各々自由に研究しています。指導教官の先生はアドヴァイザー的な立ち位置で、大きく道を逸れそうな状況の場合は指導が入りますが、大抵はのびのびとやらせてもらっています。」

 

 

―個人での修復作品ですね。なぜこのような傷み方をするのですか。

 

「絵を巻いて保存したからだと考えられます。修復方法としては石膏充填剤を削ってマチエルを作り、一次補彩といって水彩で色をつけ一度ニスをかけた後、有機溶剤に溶けるアクリル絵具で補彩し、最終ニスを塗って仕上げます。意外かもしれませんが油画の修復には油彩を使いません。将来を見据え、基本的には可逆的でなければならないからです。周りの色から予測できる場合や写真がある場合は比較的修復がしやすいですが、そうでない場合は想像力が必要な作業となります。」

 

 

 

―ロシア・イコンについても教えてください。

 

「卒業課題にあるロシア・イコンは、テンペラ(卵を溶かした固着剤)を使用しています。チョウザメのニカワや、白ワイン、コーヒーなどのように、ロシアは修復や描画の材料として割と日本とは異なる素材を用いているようです。」

 

 

―どのように作成するのですか。

 

「私が模写したイコンの場合、原寸大だと大きすぎるので縮小したサイズで作製しました。板にニカワで麻布を張って、白亜地を塗った後そこに絵を描いていきます。写真をトレースして、そこから描き始めます。他の作業と並行しながらで、大体1年ほどで制作しました。図柄は違うものの、元々モチーフによって使用する色は決まっているのでイコン独特のやわらかい色味や風合いは、ほかの学生の作品とも共通しています。これを機に指導教官であったタマーラ先生に会いにロシアに行く学生たちもいます。」

 

 

―國方さんの研究テーマを教えてください。

 

「私は、油画の修復に用いられていた強化ワックスと呼ばれる蜜蝋と樹脂でできた接着剤を題材に、油画の再修復のための研究しています。強化ワックスによる油画の裏打ちは50年前頃によく行われていた修復手法でした。しかし現在は濡れ色になって暗色化してしまう等のネガティブな要素が強調されています。近年、過去にワックスで裏打ちされた作品が再修復の時期を迎えているタイミングでもあり、研究テーマとして選びました。」

 

 

―どの様な手法で検証されるのですか。

 

「今回は、本物の油画は使用せず、テストピースを作成します。温湿度による劣化試験を行い、強制劣化させたサンプルで検証します。中には実験用として使用の許可をもらっている個人の作品もありますが、今回は使用しませんでした。一定の指標を定め、サンプル間での比較を行います。」

 

―ワックスで一度裏打ちされた作品の再修復は難しいそうですが、画期的な代替案等はあるのでしょうか。」

 

「さすがに修士の二年間では新たな保存方法の提案までは厳しいかなと思っています。昨今蜜蝋による修復はタブー視されており確かな情報が少ないという背景から、現研究段階では、過去にワックスで修復されていた方々へのヒアリングによって現状を明らかにする事が大切だと考えています。」

 

 

―ワックスとの出会いを教えてください。

 

「社会人をしていたとき、家の近くに絵画修復工房があって、そこで出会いました。修復素材として一時は、万能であるとされていた材料で、個人的には蜜蝋使用時の甘い匂いがとても好きです。それがなぜネガティブな修復技法として捉えられるようになったのかとても興味深いと考え、自分で確かめたいと思ったのです。」

 

―平日お仕事をされながら工房に通うのは大変だったと思うのですが、修復に対してのとても強いお気持ちがあったのでしょうか。

 

「私の場合、元々美術と数学が好きで学部は理系寄りの建築学科でした。しかし漠然と修復に携わりたい気持ちがあって、学部のゼミは歴史学系に進みました。学部生のときは修士に進むことに迷いがあったため、一旦就職することに決めました。職場の関係で神奈川に移り住んだ際、近くに工房があることを知り、そしてそこで油画の修復に出会うこととなりました。私自身はこうしたい、こうあるべきという我の気持ちが強いタイプではありません。誰かのためにしてきたことが結果として今に繋がっているという感じが強いように思います。」

 

―これまでのお話や学部の専攻から、國方さんは理系の印象が強いのですが、この専攻に入学した決め手は何ですか。

 

「この研究室の入試説明会に参加した際、先生のお人柄と、様々なバックグラウンドの人たちが在籍しているという特色に惹かれました。将来こうなりたい、という明確な目標はまだないですが、異業種からきた自分だからこそできる新たな視点からのアプローチでこの分野に貢献できたらと考えました。」

 

 

―大学院生活はいかがですか。

 

「私自身作業を始めると没何時間も没頭してしまうのですが、先生には集中力のためできるだけこまめに休憩を取ることは勧められます。修復で失敗してしまったときはすぐに先生に相談し、普段の修復の進捗もできるだけ細かく記録しています。研究内容に関しては、大学院に入る前は概念的なことへの興味が強かったのですが、やっていく中で落とし所を見つけ焦点を合わせていったという感じでした。」

 

 

―社会人から学生を目指す人に向けてのメッセージをお願いします。

 

「まず自分の仕事に満足してから学生に戻るのがいいと思います。私は5年ほどかかりました。やってきたことを生かしてやろうという気持ちで臨んだのですが、結局は流れに身を任せるほうがいいのかもしれません。同時に、いつも誰かのためにやったことが自然と結果につながっているような気がします。私の場合、我を貫くというよりは人のためを思って行動したことが自分自身になっているので、そういうスタンスもいいのかもしれません。」

 

 

 

初対面から小1時間半にかけての印象は、一貫して、香り立つオーラが他者を惹きつける方だなあというものでした。実際、お話を伺うなかでも國方さんの「引寄せ力」について感じるところが多々あり、素敵な巡り合わせをご自身の力で手繰り寄せていらっしゃったのだと確信しました。口調に始まる柔らかい空気感、その中に見え隠れする情熱、そして細部に広がる他者への心遣い。それら全てに彼女の魅力の理由が散りばめられているのではないでしょうか。

 

テーマ設定の動機も、物事における正負両側面がその価値であるという認識のもと、時代の変化によって負に変換されたものを現在においてフラットにすることにより、同じ流れの上にある過去と未来を守りたいという願いが根底にあるのではないかと想像力を働かせずにはいられません。

 

私観ながら、映画「時をかける少女」(2006,監督:細田守)に出てくる保存修復師のお姉さんに國方さんを重ね合わせてしまいます。主人公・真琴の叔母であり美術館に勤める彼女ですが、物語を彩るミステリアスなキーパーソンです。私自身映画の中で最も好きなキャラクターであり、國方さんとの共通点にピンときた瞬間から胸の高鳴りが抑えられませんでした。

 

 

変わらない過去をどのように解釈するのか。
待ってくれない未来のために私たちは何ができるのか。

時の女神との、丁寧に注がれたコーヒーのように味わい深いひと時でありました。

 


取材|江藤敦美、西見涼香、安東由美、山本俊一(アート・コミュニケータ「とびラー」)
執筆|江藤敦美

 

1年目とびラーです。活動の中で出会うすべてに、感動で胸がいっぱいです。これからはその気持ちをみなさんとたくさん共有していけたらと考えています。

 

 


第67回東京藝術大学 卒業・修了作品展 公式サイト
2019年1月28日(月)- 2月3日(日) ※会期中無休
9:30 – 17:30(入場は 17:00 まで)/ 最終日 9:30 – 12:30(入場は 12:00 まで)
会場|東京都美術館/東京藝術大学美術館/大学構内各所


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「『みんな本当はこう思ってない?』社会を逆から眺める視線〜表現されるユーモアと毒」藝大生インタビュー2018 | 油画 学部4年・杖谷美彩さん

2019.01.14

12月も後半に入った19日、藝大美術学部絵画棟7階で卒業制作を行なっている杖谷美彩さんを訪ねて行きます。アトリエのドアを開けると、ピンクのトップスにシルバーのボトムスの装いの杖谷さんが、にこやかに我々を迎え入れ、床に敷かれたカーペットの上に座るように促してくれました。

 

【卒業制作は三畳の空間】

 

杖谷さんのアトリエで最初に目が行ったのは、そこに置かれている、洋式の便器です。

 
ー デュシャンへのオマージュ? これは何ですか?

 
「それは卒業制作の“部屋”の中に置く便器です」

 
“部屋”が卒業制作の作品! テーブルの上にあった模型を、カーペットの上に持ってきて見せていただきます。それは小さな部屋とそこに連なる廊下のような構造物です。

 

「卒業制作は、この三畳くらいの部屋なんです。貧乏で、狭い部屋しかなくても、そこで楽しく生きていける方法を提案していく作品です。床の波型の模様は、以前の作品から発想を持ってきたのですが、ゴキブリホイホイのゴキブリを捕まえるネバネバした薬の模様を、人間サイズにしたものです。子供の頃から、ディズニーランドがすごく好きで、ディズニーランドには興味を持っているんですが、人がディズニーランドに行ってホイホイお金を使っちゃう感じが、人間版ゴキブリホイホイに近いと感じて、そんな作品を作ったことがあったんです。
実は、この部屋には、裏テーマもあるんです。それは死刑囚の独房というテーマです。それで便器も置こうと思っているんです。平成最後にオウム事件の死刑執行もあったので、そんな話も、あまり気づかれなくてよいのですが、要素として入れたら、面白くできるのではないかと考えているんです」

 
話の意外な展開にびっくりしている間にも、杖谷さんのお話はどんどん進んでいきます。

 
ー卒業制作はなぜインスタレーション作品にしたのでしょうか?

 

「今まで絵画作品を多く作ってきて、作品も溜まってきたのですが、どの絵も絵画として完結しているというより、インスタレーション的な面白さがあると感じていたんです。そこで、卒業制作は体験型のインスタレーションにすることにしました。体験の感覚を強くするために、大学や美術館の床とか天井が見えないようにインスタレーション全体が一つの部屋になっています。来場者が会場のドアを開けると、突然廊下があって、三畳の部屋に誘導される仕掛けです。
ちょっとしたテーマパークのように、脳味噌を一瞬だけ騙して、また夢から覚ますというような空間を作りたかったんです。そこで、『わっ、めちゃめちゃペインターだな』と感じるタッチは控えて、部屋のパースの中にさらにパースを描いて部屋を広く見せたり、見る場所によってはパースが狂っているように感じさせたり、平面としてテレビを描くことによって平面と立体の間の行ったり来たりを感じさせるようにしたりしているんです。
中にある赤く下地が描いてあるテレビには、お笑い番組でよくあるボタンを押すと人が落ちていくセットを描こうと思っています。それは死刑執行のボタンを押すという動作と同じなんです。死刑執行の方は3人で押すようですけど。だからどうっていうことはないんですけど、ちょっとドキッとして、日常で笑っていることに対して疑問を持つようなことがあっても良いかなと思っています」

 

 
― ディズニーランドから死刑囚の独房まで、扱うモチーフの幅がとても広いですね。

 

「今年の春頃には、卒業制作では宗教的な話を掘り下げた作品を作ろうかと思っていたんです。でも作品のテーマとして扱うにはまだ私自身がそのことに関して知識が浅すぎると感じたので、それはいつか作品にすることにして、今回はやめにしました。
今の関心は、自分が制限した三畳の空間で何かできるかとか、ディズニーランドにもあるような立体から突然平面になる境目を三畳の中に組み込むとか、そんなことができると面白いなと思っています。裏テーマとしては死刑囚の独房というのがあるんですが、初めは、狭い空間でも絵を使って豊かに暮らすことができるということが見えれば良いかなと思っています」

 
― 騙し絵の空間のようなところがディズニーランドと共通しているんですね。

 

「水槽の中の魚を、パソコンの中に移動することでヴァーチャルなペットになるとか、そんな入れ替えが起こる空間があったら面白いと思ったのが、この作品の発想の元になっています。
これは、本物のランプにハエを描いて、ちょっとしたインテリアにしたもの。インスタ映えのハエ。みんなが家にあるもので作れるような、軽いものです。卒展の展示は結構写真に撮られるので、出来るだけどこから撮られても良いようにしようなんていうことも考えています」

 

 

「今、入れようかどうしようか考えているのは、布団の花畑です。死ぬときは独りみたいなことを表現するために、家具屋さんで布団カバーを買ってきて、そこに花を描いて、花畑で寝ているように見せて、一人で死んでも花があるから怖くないみたいなものも作ったらどうかなと思っています。体験型で実際に寝てもらい、布団に触れてもらうんです。妹を連れてきて寝てもらいサクラになってもらうのも良いですね。
一見風景画、一見アニメ、一見何々みたいな、はじめよくわからなくても、聞けばちゃんと考えているんだなとわかるようなものを作りたいと思っています。大学に入ってから、逆側を突くようなのが好きなんだなって分かってきました。
天井には電気工事ができないためシーリングライトなどはつけられないのですが、そこをどうリアルに見せるかとか、コントラストをつけることで部屋を広く見せるとか、いろいろやってみたいと思っています。建築の授業も取って、綺麗な建築の話とかもいろいろ聞いたので、丁寧な作業をしていきたいと思っていて、裏側までちゃんとパネルを作るとか、枠組みにパッと留めるのではなくちゃんと組んだりとかしています」

 
ー 誘導する通路のところはどうなるんですか?

 

 

「住宅のモデルルームに誘導するような形式にするか、遊園地の入り口のようにするかは、まだ悩んでいるんですが、ここにちょっとした受付のような窓を作って、私が監視している人になって来場者に対応しようとしています。そこでは、死刑を免れるために首を鍛えた人がいるとかいう話を提供するとか、実際にマッチョな人が使うような首を鍛える道具をちょっと可愛くして置いてみるとか、来場者に、新たな引き出しを提供できれば良いかなと思っています。
来場者は、フード付きのパーカーを着てはダメとか、35cm以上の紐がついた服はダメとか、そういう制限を入れると体験型として面白くなるかなとも思っています。受付の所には、ディズニーランドにもあるような、こう言われたらこう応答するというマニュアルも用意するつもりです」

 

 

 

― 卒展の内覧展と東京都美術館での展示は同じものになるんですか?

 

「東京都美術館は、規定が厳しくて、この天井もつけられないようなので、イケアのショールームのような天井のない形にしようと思っています。部屋に誘導する動線も省略するバージョンになります」

 

 

 

― この作品の制作はいつ頃から始めたんですか?

 

「部屋を丸々使いたいというのは決めていたんですが、この形になったのは後期になってからです。そのきっかけは、今年友人四人とドイツの美術館に行った時に、荷物と上着を脱がなければ入れない部屋があったんです。その理由は中の展示を取られたくないからということで、特に外国人には厳しかったんです。そこで、このやり方はドキッとして面白いなと考えて、それを取り入れて今の形になったんです。
制作について相談するための先生との面談は、リクエスト制なんですけど、できるだけ色々な話を聞こうと思って、先生みんなに申し込んで色々な先生の意見を聞きました。そこでは、良いと思ったらすぐ採用し、それは違うと思ったら『それ合っていません』というストレートな形で話を伺いました。そんな中から、受付で紙の受け渡しをするというアイデアをもらったり、立体と平面の行き来をもっとやってみたら面白いんじゃないとかアドバイスをもらったりしました」

 

 

杖谷さんが、色々な方向にアンテナを張り、様々な意見を聴きながら、自ら面白いと思うものを探し、選びとって、この卒業制作に至った様子が分かってきました。

 

 

 

【自画像としての雑誌】

 

油画の卒業生は自画像を描くことも卒業制作の課題になっています。その話も伺いました。

 

「卒業の時に自画像を提出しなければいけないんですけど、自分の顔を描くことにすごく抵抗があって、『やらされている感』がすごくきつかったので、自分の絵の代わりに、雑誌を作って、それを自画像として提出することにしました。雑誌の表紙は私なんですけど、雑誌の中は今までに制作した作品に関する資料を、週刊誌の記事のように入れます。そこでは、第三者が紹介する形で、作家が、それは私なんですが、その絵を描いた理由とか、制作のエピソードとかを書きます。雑誌の中には、私のブランド『たにゃ』で作った指輪の広告も入れます」

 

 

「この雑誌は美術館に5冊納めます。卒業制作展では雑誌の売り買いまで成立させたいと思っています。そうすれば印刷代も賄えます。この雑誌は卒業制作の部屋にもポンと置いておこうと思っているので、『三畳で上手に暮らす』という特集も組んで中に入れようとしています。ゴキブリホイホイのマットの種明かしとか、読めば読むほど作品が面白くなるような資料を入れて、作品を見るときのヒント集にします」

 

 

ー 空間だけでなく雑誌も作品の一部として作るのですね。

 

「私の周りには美術には関係ない親戚とかが多くて、鹿児島に帰ると、桜島を描いてと言われるようなこともあります。そんなことも考えると、やはり作品は意味がわかって楽しいということもあるので、この雑誌にはそんな役割も期待しているんです」

 

ー どんな雑誌ができるか楽しみですね。

 

「実は、雑誌の文章で結構行き詰まってしまって、元々の入稿予定だった明日の入稿は無理なので、クリスマスの朝まで締め切りを延ばしているところなんです」

 
【これまでの作品】

 
そんな忙しい中、嫌な顔もせず付き合っていただいている杖谷さんに甘えて、杖谷さんのこれまでの作品をポートフォリオで見せていただきました。

 

「これは1年の時に制作した、国会の乱闘の様子を急激に冷えて固まった溶岩にみたてて絵画です。プレパラート型の名刺には作品が印刷されていてとなりに置いてある段ボール製の万華鏡で作品を覗き込むことができます」

 

「これは、ラーメンを人より先に食べ終わって、待っている間に、油をチョンチョンと繋げて世界時図を作った状態を、リトグラフにした作品。リトグラフとは、水と油の反発で描く手法と聞いて、リトグラフで水と油を描いてしまいました」

 

「このアニメの男の子のようなのは、3年生の進級展「蜃気楼」に出した作品。ツイッター上に、藝大生の作品を見てくれる人がいて、絵を見に来ては写真を撮ってツイッターに上げてくれるんですけど、いつも見たということしか書いてくれないので、その人に一番印象に残る作品を作ろうと思ってこの作品を作ったんです。その人は顔を出していない人だったので、その人を思わせるプロフィール画像を50号の大きさでアニメタッチで描いてみました。結局、その人と思われる人が展覧会に来てこの作品を買ってくれました。美大生や身内の人はクスッと笑える作品です」

 

「このキャラクターが並んでいる作品は、実際に池袋にある宝くじ売り場にあった看板から着想したもので、ミッキーのキャラを普通に使うのは著作権的にダメだけれど、ここまで変えればギリ、ミッキーじゃないんだというような、そういう図の使い方に興味を持って、そんなグレーゾーンを描いた作品です」

 

「地元の鹿児島に帰ると、駅前の小さな土地に数本の樹を植えてある場所があるんです。それは税金対策の果樹園だと聞いたので、それを作品にしました。この作品にはポートフォリオでは地図の果樹園記号がありますが、実際に絵にはそれは描いていないんです。ポートフォリオに入れるたびに、ポートフォリオに果樹園記号を描いています。「あっ果樹園だってさ」みたいな軽さが良いんです」

 

「こちらも、地元に帰ると見かける風景で、農地がソーラーパネルで覆われている作品です」

 

 
アトリエの隅に置いてあった、絵画作品も見せていただきました。

 

「これは、ジャポニズムといえば出てくる図像に、団扇や、以前問題になった団扇型ビラを散りばめた作品。ウチワ揉めみたいなダジャレも含めています」

 

「このピザは、SNOWアプリでピザを撮ったら、一枚だけ顔認証されて、顎が削られた状態を描いた作品」

 

「これは制作途中です。祖父が家の周りに除草剤を撒いてくれているところが宇宙飛行士みたいで格好いいなと思って描いていたんです。そうしたら、この地球の草を刈る姿を頭の髪を刈っているような感じに見せると面白いなと思って、草をふわっとした髪の毛のように見せるようにしようと思っています」

 

「こちらのは一年の時の作品で、その夏にボーッとテレビを見ていたら、私と同じくらいの歳の人が、赤い札を掲げて何かに反対してデモを行っている、それを見ながらこのタイミングで戦争に行くことになるんだろうかとか、芸術家になりたいのに何もできないのかとか、赤い紙がサッカーのレッドカードに似ているとか思いながら、これを作りました。絵の周りの額のようなところがテレビになっているのは、そのためです。実は遠目だと見えないんですけど、ここには政治家の名前の印鑑が押してあります。これがレッドカードではなく赤紙だと気付いた人は、腑に落ちてくれる、気付かない人は気付かずに過ぎて行く、それで良いと思っています」

 

 
アトリエに掛かっている絵も説明していただきました。

 

「真ん中に砂に埋まった人の足がありますけど、これは地元指宿の砂蒸し温泉と、生き埋めという殺人的要素を両方思わせるように描いてあります。後ろの窓には、Windowsのロゴが描いてあります。右側は部屋の床と繋がるような相撲の土俵になっています。昔はテレビをつけるといつもお相撲が流れていたんですが、それはずっと小さなテレビだったんで、ここでは部屋のパースと繋がるリアルな状態にしてみました。この作品は自画像の雑誌の中に入れようとして描いたものなんですけど、それにしては結構大きいし、ここにあるだけで日の目を浴びないのはかわいそうだと思って、公募展に応募したところ、一次選考が通ったので、これから仕上げないといけないんです」

 


 
夏の藝祭に展示した絵についても説明していただきました。
密集して建っている家に囲まれた空き地の中に、椅子やテレビが置いてあり、親子と思われる4人が椅子に寝っ転がったりして生活している様子が描かれています。ずっと画面の上を見ると、絵の端の黒いボーダーの中をミサイルが飛んでいます。

 

「この130号の作品は藝祭に展示した絵で、《みさ、居る?》というタイトルなんですが、それは『ミサイル』と掛けているんです。展示した時には、消失点を思い切り下に持ってきて、画面をガッと上にあげ、4mくらいの上のミサイルに気付く人は気付くというような展示をしました。
家が密集しているために、お互い見えないように家に窓がないというようなところも、面白いと思っています。地方だと車で10分くらいの人とも繋がりがあるのに、東京だと逆に隣に座った人を一番警戒するというようなところがあります。東京だとホームレスがいても見て見ぬ振りをしますが、もしこの空き地に自分の家族がショーウィンドウの中にいるように暮らしていたら、みんなヤバッとか言って見ないふりをするんだろうな、みたいなことを絵にしたんです。
これは、FACE展に応募して通ったので、また違う場所で違う展示の仕方をされたら面白いだろうなと思っています」
 
杖谷さんの軽やかで、毒もある発想は、留まるところを知らないようです。
 
「鶏肉に水を注射してかさ増しするという話を最近聞きましたが、そういう話を聞いて怒るんではなく、水で増えるんだったらお得だよねと思って、共感して作品を作ったり、領収書を作ってお金をだまし取る事件でも、領収書でお金入ってくるんだったら欲しい、わかる、みたいなところからスタートして、誰も責めてないよというようなスタンスでいきたい、ということはありますね。
自分と関係ないことに関しても、近いものと擦り合わせて、この関係は似ているなとか合わせてみます。逆に、自分を見てみようというようなところはあまりなくて、私がこういうものが好きとかは、あまり作品から出したくないと思っています。いつでも公平な位置にいたいというような拘りはあります。『みんなこう思っていない?』というような立ち位置で、やれると良いなと思っています」

 

杖谷さんの、重い社会的課題に対しても、ユーモアを持って接していく姿が、この作品の軽やかさにつながっているんだなと分かってきました。

 
【藝大への進学の動機】

 

― 東京藝大への進学の動機を聞かせていただけますか?

 

「鹿児島出身なんですけど、小学校2年生の時に、絵を描いて入選したらディズニーランドに行けるという企画があったんで、それからずっと中学校まで、絵を描いていました。そうしているうちに画力もついてきたので、どうせなら一番のところでというミーハー心で藝大を目指しました。
藝大受験前に会田誠さんの展示があり、家族で見に行った所、本人がいらしたので「藝大を目指してます」と言ったら、『あんな所に行かなくて良いよ』と冗談半分だと思いますが、親の前で言われ、みんなに心配されてしまったなんていうこともありました。でも入学できて良かったと思っています」

 
【パネル組み立て中のアトリエへ移動】

 

パネルが組み立てられている別のアトリエへ連れて行ってもらいました。そこには三畳の空間がパネルで作られ、木の匂いがします。ゴキブリホイホイ型波模様の材料も傍にあります。

 

「このアトリエを『使わないから使っていいよ』と言ってくれた友人がいたので、この場所を貸してもらっています。作品のパネルは、1週間くらいでできると思っていたんですが、もう4週間かかっていて、天井のパネルはできたんですが、床がまだという感じで、肉体労働が続いていて大変です。でも今は新築の部屋をもらったような気分で、今までのなかでは一番アクティブに動きながら制作しています。
天井のこの辺には、監視カメラの絵を描こうと思っています。偽物カメラでも犯罪が減るというようなそんなことを考えています」

 

 

「電子レンジが欲しいんですけど、それもないので、一年生の時に描きかけた電子レンジを持ってきました。複製絵画みたいな感じで、クッキーのモナリザや、アラザンの耳飾の少女も作って、雑誌の中に入れるんで、電子レンジはその背景になります。1月13日の内覧展までに作り終わらないといけないんですが、学校も休みに入るので、あと作れる日は実質8日くらいしかないんです。その間に雑誌も作らなければいけないし、作品を展示会場で組み立てるお手伝いをお願いしている方もいるので、そのための謝礼金をまかなうためにバイトも入れてしまっていて、大変で、頭もゴチャゴチャになってきているんです」

 

― 1月13日から14日の二日間、絵画等の6階、7階で内覧展を行うのですね。

 

「そうです。ここで組み立てたものは、一度バラしてまた組み立てます。卒展の都美術館バージョンとは、また違った形になっているので、ぜひこちらも観に来て下さい」

 

【今後の計画】

 

― 卒業した後はどうされる予定ですか?

 

「大学院に申し込んであります。絵に対して何か言ってくださるより、距離を持って色々言ってくださる先生のところに、行ければ良いなと思っています。
将来は、海外に住んで、海外からだと日本がどう見えるかをみたいし、紛争のある地域で展示すると、どのような制約があり、どのような表現ができるのかも、そんなことも考えられると面白いと思っています。」

 

杖谷さんの、軽やかに縦横無尽に飛び回るようなお話を伺い、卒業制作がどのように完成するのか、ぜひ見届けたいという思いが強くなってきました。杖谷さんの、クスッと笑えて、毒もちょっとあって、そして考えさせられる作品、またそれだけでなく、平面と立体の間を行ったり来たりする造形的にも興味深い作品。楽しみです。卒業制作のパネル作り、雑誌の入稿、それにバイトと、本当に忙しいなか、インタビューを受けていただいて、ありがとうございました。


取材:鈴木重保、東濃誠、陸嬋、上田紗智子(アート・コミュニケータ「とびラー」)
執筆:鈴木重保


2年目の「とびラー」です。昨年も藝大生インタビューを行い、作家が作品を生む場に感動したので、今年もインタビューにチャレンジしました。

 
 
 


第67回東京藝術大学 卒業・修了作品展 公式サイト
2019年1月28日(月)- 2月3日(日) ※会期中無休
9:30 – 17:30(入場は 17:00 まで)/ 最終日 9:30 – 12:30(入場は 12:00 まで)
会場|東京都美術館/東京藝術大学美術館/大学構内各所


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第8期とびラー募集

「猫のアクビと犬の死が対等に存在する世界、ぼくも作品もその中にいる」 藝大生インタビュー2018|先端芸術表現 学部4年・平井亨季さん

2019.01.13

 

師走の取手校地。風が冷たい。実質あと4週間、卒展に向けての制作に取り組んでいる藝大生平井亨季(ひらいこうき)さんへのインタビューに向かいました。入口で迎えてくれた平井さんと「4年部屋」のアトリエのある階まで上がり、インタビューを開始しました。

 

 

―先端芸術表現科にはいるまでの道のりを教えてください。

 

「小さい頃から絵がすきで、マンガを描く人になりたいと思っていました。物語をつくること、アニメーションを描くことも好きでした。幼いころはおしゃべりな子でしたが、中学になると、社交性は薄れていきました。高2のころから美術系に行きたいと思うようになり、地元広島の呉の画塾に通いました。そこで、先端芸術表現科(以下:先端)に入学した先輩のポートフォリオを見つけ、それまでは『人に言えることではない』と思ってきた自分の考えを、作品にしている人がいる!ということを知りました。自分は絵だけ描きたいのではないことに気付かされ、先端には考えていることを表現する場がある、と思いました。」

 

ー高校生のころ考えていたことって何でしょうか?

 

「祖父母、母、兄が二人の6人家族だったのですが、小学校を卒業するくらいに祖父が亡くなり、そのころから祖母の認知症が始まったように思います。今まで人格者だったおばあちゃんが、人に理不尽なことを言ったりと、『私』という個人が醜く崩れていくのを中学、高校のときに体験しました。特に亡くなる前の3年間は兄が独立していたので、母と私だけで受け止めなければなりませんでした。確かだと思っていたことや勉強して知識を蓄えたり、約束事を重ねて一人の人間として出来上がっていくことが揺らぎ、醜い形で壊れていってしまうことを考えたのです。この時、もう一度世界を再構築する必要に迫られていたのだと思います。
画塾で先輩に出会ったことで先端を受験したいと思うようになり、高3の夏、東京にいた兄に間借りさせてもらって予備校に通いました。」

 

 

―大学に入って一番影響を受けたことは何ですか?

 

「大学に入ってみると、絵を描く人はすでにデッサンの技術を持っていたし、皆がそれぞれ表現方法をもっていました。私は中学は野球部、高校は山岳部と軽音楽部をやっていて、つくって見せることに慣れてはいませんでしたが、藝大は、制作しながら自分に馴染む表現方法を身につけていくことのできる場だと思います。
また違和感もありました。つくっては捨てていことで何か消費されていくような、短い時間の講評での評価によって既にある価値観に自分が留まってしまっているような、そんな感覚を覚えました。卒業制作もそうですが、私が感じるそうした違和感と折り合いをつけながら、制作をしてきました。」

 

―作品集をみました。最近は、知らない人や街から感じる謎の郷愁をテーマとしていますね。

 

「謎の郷愁とは、知らない人とか街に会ったときに、なぜかわからないけどなつかしいと思う感じです。みんながいろんなところに経験として持っているものがあって、それに繋がっていく感覚です。その感覚を探りながら作品をつくっています。」

 

―ある作品の文章では、「当たり前にある感覚を揺るがしたい」とも書かれていますね。

 

「世界は形がはっきりとせず、ゆらゆらとしていると考えています。作品を制作するときには、暗黙のうちに固まっているものを思い直したり、当たり前に疑いなくやってしまうと流れてしまうことや、普通の生活の中では捉えきれないものを、スローモーションカメラのようにゆっくり眺めたりしています。ぴったり合わさってつくられた調和した世界と、その後ろに重なって、サラサラと流れるつかみどころのない世界の存在にリアイティを感じます。そのリアリティを表現したいと考えています。」

「この感覚に気づいた経験を話しますね。大学3年生のゴールデンウィークに帰省したときのことです。実家は怪我や病気をしている犬や猫は連れて帰ってもいい家でした。子猫を拾ったとき、電車では連れて帰れないので母に自動車で迎えにきてもらったこともありました。昨年帰省した時、小1から飼っていた4匹のうち1の犬が私を待っていたかのように亡くなりました。でも涙が出ず、なぜ悲しい気持ちにならないのか、庭に埋める前に日だまりに置いて、これでいいのか、楽しかったのだろうか、幸せだったのか、と自問していました。と、そのとき、いつもうちにご飯を食べに来る野良猫がデッキの柵に乗っていつものようにアクビをし、ご飯を食べ、ノビをして、いつものように帰っていくのを見て、はっとしました。死んだものと自分だけでグルグルと回っていた世界が、猫のアクビによって途切れたのを感じました。
私に無関心な世界があることで、私がその世界に救われることに気付かされました。このとき、自分にとっての猫のアクビのような作品を制作したいと思ったのです。」

 

―作品をつくることは、平井さんにとってどういうことなのでしょう?

 

「先端のPRIZE展では屋外で制作したのですが、自然と応答し、偶然性を取り込みながら変化していく作品をつくりました。不確定な要素や予期しなかったことが起きたとき、物語を自分の中につくって受け入れていくのは、私が信じている人間の力であり、生活も制作も同じだと感じます。私の世界は、作品をつくる度に更新されていくので、作品をつくることはその時点での定点観測地点をつくっていることなのかもしれません。また展示は、自分が考えていることがどれだけ他者に響くのか、可能性を観測する場所としての定点観測地点なのだと思います。」

 

 

―卒業制作について教えてください。

 

「素材はパネルを貼るとき台にしたり作品を載せる台にしたりする垂木です。作品を補助する裏方の素材なので、他の学生が作品をつくればそれだけ、どんどんゴミ捨場に溜まっていくような素材です。そして、裏方だからこそ自在に形を変えていける素材でもあります。捨てるはずの垂木を生かすことで、輪廻のように記憶をつなげたり、先程の話につなげれば、崩れたものを再構築したり、今まで考えてきたことを表現できるのではないか、と気が付きました。」

 

 

「10月の事前審査のときは展示空間に合わせ5m×9mの大きさとしましたが、東京都美術館(以下:都美)で展示することになる卒展では、5m×5m×高さ3mのスペースの中に展示します。少し小さくなりますが、その空間の中に大きさを感じさせないように落とし込みたいと考えています。」

 

 

―大きな立体作品による表現ですね。都美での展示楽しみです。

 

「仏像の立体曼荼羅のようにその人に影響を与える空間をつくりたいと思いました。中を人が通っていけるようになっていて、3次元に体験を足した3.5次元を目指します(笑)。
場所と作品の関係に興味があります。美術館だけではなく、公民館とか図書館、屋外、外光がはいらないスペース、夜など、場所や状況に応じて作品を捉えるようにしています。都美でもそれは同じです。以前につくった『流木をつくること』という作品では、場所によって作品がどのように変化するのか、写真を撮影しました。」

―卒業作品のタイトルを教えてください。

 

「『島にうめられた本の骨』としました。記憶って断片的なものを極大化したり、穴があいていたりして島のように浮かんでいて、必要なときにそれらをつなげてストーリーをつくっているのでは、と考えています。私が育った瀬戸内の海。そこに浮かぶ島々はそれぞれ別々の記憶を持ち、それらを航路でつないで人間が移動する光景を重ねて作品を制作します。社会の大きなストーリーを語るのではなく、一人ひとりがもつ小さなストーリーや歴史を星座のようにつなげていけたらと考えています。」

 

―「本」そして「骨」は何を示しているのでしょうか?

 

「昔の羊皮紙は貴重なものだったので、一度書いた面を削って再利用したそうです。よく見ると削る前の文字が痕跡として残っています。島の多層する物語の痕跡が同時に存在できるモチーフとして本を構想しています。
骨はいまそこにいないものを想像する言葉として使っています。実家の庭には、たくさんの動物たちの骨が群島のように埋まり、見えない彼らを想起させます。垂木で星座のようにそれらをつないだりして世界を構築します。また作品の一部を持ち帰っていただくことで、作品の世界を広げられないかと考えています。」

 

 

「モチーフに限らず、すべての物事を等価に扱いたいという気持ちがあります。みんながいろんなところで経験した世界があり、普段は気づかないけどそこには様々な相似形があるに違いないと思います。何かを失った時の悲しさも同じです。それらは優劣がなく対等等価に存在しています。その一つを作品で描写したいと考えています。作品が要請してくるものを僕がつくる、という感覚があるので、作品と私も対等の世界、等価の世界にいるのだと思います。」

 

 

―お話を伺っていると、制作のプロセスも作品と感じます。

 

「アーティストの川俣正さんが耕した土壌、先端芸術宣言やワーク・イン・プログレス(*)は、今ここで学ぶ私たちに影響を与えています。一つの作品が制作過程でいろんな形になると面白いですね。ドローイングから想起するものも、そこに行かなければ体験できないようなサイト・スペシフィックな体験も、そしてそれを美術館に持ち込む時に起こることも作品だし、経年劣化したり、作品がなくなって痕跡や思想として残ることも作品であると考えています。文章や写真や映像という形も作品の付属物ではなく等価であると考えていて、2度も3度も美味しい作品がいいと思っています。」

 

 

―卒業後の進路は?

 

「大学院に進みたいと思い映像研究科を受験しました。研究室見学で私が考える『本』の話を桂英史教授としていたとき、作家の作品は閉じられたものではなく、社会につながり影響を及ぼしていると話されました。私は、制作について、作家の個性を表現するというより、みんながいろんなところで経験としてもっている世界を表現したいと考えているので、先生の言葉に引かれました。映像作家という職業を目指すと決めたわけではなく、外に開かれた状態で集中して考え制作する場所として映像研究科を選びました。」

 

 

―先端にいてなぜ映像を選んだのですか?

 

「見えないから面白いというのもあるし、日本で生活していて感じる違和感の表現の振り幅を増やすため、自分の方を変えていきたいと感じています。できるだけ海に近い方にいきたい、というのもありますね(笑)。」

 

 

インタビューを終えて

 

「おしゃべりで、世界が面白かった幼い頃の自分に、今は戻ってきています」と言う平井さん。2時間にわたってたくさんお話してくださいました。平井さんが表現したい世界は、作家の個の表現ではなく、共感の根源、平井さんの言葉を借りると、「みんながいろんなところに経験として持っているもの」を表現することに向かっているようです。感性は子供のように外に開かれ、自分に入ってくるものを、制作することで折り合いをつけながら深く受け入れていく姿。シャープな目は、ものごとをスローモーションカメラのようにゆっくりと眺めながらも、調和の後ろをサラサラと流れる世界に目を向けているようでした。流れ行くものたちが、どこから来たのかを言葉にし、それらは宇宙空間の星のように等価に平井さんの世界に浮かんでいるのではないでしょうか。

 

 

平井さんの言葉を受け取りながら、自分もそこに手が届きそうな、そんな感覚を覚えました。このインタビューを通じ、一気に平井さんのファンとなってしまった取材メンバーたちも、自分と重ねてそれぞれの「島にうめられた本の骨」をイメージしたのではないでしょうか。

平井さんの世界を表現する大きな定点観測地点の一つになる卒業作品。卒展で体感できることを楽しみに、応援しています!

そして今後の進路である映像研究科では、どのようにその世界が更新され、作品になるのでしょうか。これからの変化にも期待です。

 

(*)川俣正が自らの作品を言葉にしたもの。「工事中」の意味。

 


取材|鈴木康裕、西原香、東濃誠、宮本ひとみ(アート・コミュニケータ「とびラー」)
執筆|東濃誠

 

稼ぐ仕事(都市開発系)3日、NPO活動2日、とびラー1日、調整日1日という感じの1週間です。若いアーティストの旬を切り取る藝大生インタビューは、とびラー冥利に尽きますね。

 


第67回東京藝術大学 卒業・修了作品展 公式サイト
2019年1月28日(月)- 2月3日(日) ※会期中無休
9:30 – 17:30(入場は 17:00 まで)/ 最終日 9:30 – 12:30(入場は 12:00 まで)
会場|東京都美術館/東京藝術大学美術館/大学構内各所


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「自分の中のものを彫りだす」 藝大生インタビュー2018|彫刻 学部4年・福島李子さん

2019.01.13

ある秋晴れの日の午後、藝大上野校地内の一番奥、チェンソーとノミの音が響き渡る工事現場のような場所で、彫刻科の福島李子さんと出会った。

 

 

石を削った屑に汚れた厚手の作業着と灰色のキャップにゴーグルをかけた出で立ちで、チェンソーの音が響く空き地から小さく会釈をしてくれる。小柄で線の細い可愛らしい風貌の福島さんだが、たくましい服装と可愛らしい笑顔のギャップに心がつかまれた。

 

挨拶もそこそこに、現在取り組んでいる作品を見せていただいた。胸のあたりまである大きな四角い灰色の大理石の塊から、足や車や手などの形が今まさに生まれ出ようとしていた。

 

 

ーこの作品はどういうものを表しているんですか?

 

「これは私の『夢』です。夢と言っても、実際に自分が寝ているときに見た夢です。私はなぜか怖い夢を見ることが多くて、追いかけられたり、車の陰に隠れたり、といった夢のワンシーン、夢のかけらを集めています。何故見たのかわからないような漠然としたものを形にしたらどんな感じなのかな、と思って。自分の好きなカタチが現れてくれればいいな、と思ってやっています。」

 

作品の、雲のようにもやもやとした部分からリアルな物体が出てきている姿は、福島さんの言うように、もやのような夢の中から夢のかけらが飛び出してきているような、幻想的な雰囲気を醸し出していた。

 

作品を眺めていると、福島さんから驚きの一言が。

 

「わたし、自分の作品があまり好きじゃないんです。愛着がわかないというか…」

 

思わず聞き返すと、
「今まで、自分の価値観じゃないものを作ってきた。…でも今回はいいものができそうな気がする」
…ということで、どういうことなのか、過去の作品を見せていただいた。

 

藝大の敷地の隅に、学生たちの様々な過去の作品が野ざらしで置かれていた。その中に、福島さんの作品が2点あった。

 

 

まずは、ひとつめ「灰皿」。

 

 

ーこのコンセプトは?

 

「何か実用性のありそうなものを作りたかった。外国の灰皿とか、周りに人がいて作品を囲んでコミュニケーションが生まれるというか。でも、こういう形を作るのは嘘がつけないので難しかったです。」

 

ふたつめは「クモ」の作品。
入学してはじめて作ったものだそう。

 

 

ーこれはどういう作品なんですか?

 

「はじめての作品では挑戦したいことをやりました。物体がくっついている構造で作ってみたのですが、石は割れてしまうと戻らないし、細い部分は割れやすくて。どう石に負担をかけずに削るかが難しかったです。」

 

確かに見せていただいた3つの作品は、コンセプトも雰囲気も違い、同じ人物が作ったものとは思えないくらい、振り幅がある。「灰皿」は機能的、「クモ」は精密でリアル、そして卒業制作は幻想的なイメージを膨らませた作品だ。

そこに、福島さんの自分の目指すもの、しっくりくるものを模索している姿勢を感じた。

 

話を聞いていくと、彫刻に本格的に取り組み始めたのは大学に入学してからとのこと。4年間の学生生活でたくさんの作品ができるのかと思っていたが、実際にはオリジナルの作品を作れるようになるには、長い月日が必要だということだった。

 

「1,2年生は素材に慣れるまでの実技。道具の使い方から、石、金属、木、テラコッタなど全素材を学んでから、さあどれを選ぼうか、となる。」

 

ー素材を選ばないといけないんですか?

 

「素材を絞っていかないと上手くならないし、4 年間だと時間が足りない。3 年生は自由に彫り、4 年生は卒展に向けての作品作りになるので。絵画より時間がかかるので、地道にやらないと…サボると自分に返ってくる。毎日学校開始の9時から来て夜まで制作をする生活が続きます。削ったときにでる粉も体に良くないので粉塵予防のマスクとゴーグルをかけています。外は寒いし、結構忍耐力が要ります。」

 

 

 

ーた、大変ですね…

 

「基本的にみんな没頭しているので、時間を忘れてやっています。楽しいので。」
と、作品に向かい続ける日々がとても幸せだと微笑む。

 

ーそもそも、どうして彫刻をやりたいと思ったんですか?

 

「もともと中学生から藝大に行きたくて、美術予備校で学んでいる中で粘土が一番楽しかったので彫刻にしようと思った。その中で、本物のウサギを見て作る粘土作品は鮮明に覚えています。粘土は焼かないと残らないので一瞬のアートですね。大学に入るための試験はデッサン。でも平面のデッサンからどうやって立体にするのか、これが難しい。立体にすると形の狂いなどの嘘が付けなくなるので。」

 

 

ー将来はどのようになっていきたいですか?

 

「作り続けたい。今やっと見えてきたものを無にするのはちょっと…でもどうしていったらいいかはまだわからない。受験で得た価値観からは一旦離れて、何が自分に合うかチョイスしていかないといけない。合う、合わないは、私はやらないとわからない。まだ今は、ちょっと見えつつあるけど漠然としていて、だけど『これだ! 』はあるんじゃないかと思っています。」

 

様々な場面で、作り続けたいという熱意と、でもまだ自分の作品には納得がいかずもがいているストイックな姿が映し出される。そういった悩みながらも真摯な姿が常に福島さんを纏う。

 

ーアイデアの源はなんですか?

 

「色んな作品を見ました。昔の彫刻から現代アートまで。でも、私は現代アートじゃないな、と感覚的に思っている。社会性が全面に出ているメッセージ性の強いビジュアルではなくて、形そのものが格好良ければいいと思う。コンセプトよりカタチ。そういう考えに至るまでにたくさんの作品を見ました。行ったり来たりです。」

 

ー好きな彫刻家はいますか?

 

「ルイーズ・ブルジョワです。女性のアーティストが好きで、フェミニズムアートでも社会性が強いのはちょっと自分の好みと違うな、と思う。ルイーズ・ブルジョワは、六本木のクモの作品などが有名なんですけど、内面の感情が作品を通し出てくるところが好き。女性の立場が弱くて、それを超えるための作品に、強さを感じます。」

と、自分の方向性を模索するように話す姿が印象的である。

 

ー作品を通じてどういうことを感じてほしいですか?

 

「自分のために作っていることが多くて。作品を通じて自分をどう見てくれているか知りたいです。」

作品は自分の化身、もしくは自分から出てきた自分の一部なのだろう。確かに今回の作品も、自分の見た夢というまさに自分の無意識世界を具現化した作品だ。

 

 

ー作品を作る原動力は何ですか?

 

「想像力を膨らませても限界があって、素材と向き合ってわかる、自分と素材との対話だと思う。手を動かして、考えて、手を動かして、考えて、の繰り返し。こうやって続けていくことで、表現したいものの方向性がみえてくるんじゃないか。そしたらもう少し答えが出るんじゃないか、素材と向き合うことで、自分が表現したいもの、自分が見てみたいものが見えてくるんじゃないかと思う。」

 

自分の中の自分を見つけるために、「作り続けたい」と繰り返す。

 

インタビューを通じて、福島さんの作品作りの原動力は、福島さんの中の「漠然としたキラキラしたモノ」を彫刻作品を通じて彫りだして、カタチにしていく作業ではないかと感じた。

 

 

そして、これからも自分の中の原石を彫りだすために、石を彫り続けてほしい、そういう安心して作品に没頭できる場所で、自分と真摯に向き合いながら、幸せに石と向き合っている福島さんと、福島さんから生まれる作品を見ていきたいと思った。

 


取材:市川佳世子、山本俊一(アート・コミュニケータ「とびラー」)
執筆:市川佳世子

小さいころからアートと読書が大好き。しかしながら、仕事はお堅いので、藝大生やアーティストに無条件に憧れてます。とびラーの活動を通して、アートの世界が身近になりとっても嬉しいです。

 

 


第67回東京藝術大学 卒業・修了作品展 公式サイト
2019年1月28日(月)- 2月3日(日) ※会期中無休
9:30 – 17:30(入場は 17:00 まで)/ 最終日 9:30 – 12:30(入場は 12:00 まで)
会場|東京都美術館/東京藝術大学美術館/大学構内各所


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「妖怪建築―ありえるかもしれない世界のために」 藝大生インタビュー2018|建築 修士2年・國清尚之さん

2018.12.17

 

穏やかな晩秋の日、藝大上野校地内の総合工房棟に建築科の國清尚之さんをお訪ねしました。
月曜日の午前中、研究室が並ぶ4階は静かです。

笑顔で出迎えてくださったのが、國清さんです。黒いシャツがお似合いの青年です。
トム・へネガン教授の研究室が國清さんのアトリエです。テーブルの上には、さまざまな模型、ファイル、資料、パソコンが整然と置かれています。事前に、修了制作が「妖怪建築」と伺っていましたが、それはいったいどんなものなのでしょう? 興味津々で、インタビューを始めました。

 

■ハロウィンの夜、渋谷で

 

まず、目の前に置かれた段ボールに貼られた写真は、実際に妖怪建築を作り、ハロウィンの夜、渋谷の街中に持ち込んだ時の記録だそうです。名付けて「塵塚怪王大作戦」。これも修了制作のプロジェクトの一つとのこと。

「ハロウィンて、イベントを主催している人がいるわけではないけれど、多くの人が集まって騒ぎ、結果的に皆が大量にゴミを捨てる…ある意味、現代の妖怪現象ととらえています。昔、『塵塚怪王』というゴミを集める妖怪がいました。ゴミでできたゴミを集める妖怪です。それで、藝大の廃材所で集めた廃材でゴミ箱を作ってみました。ゴミ箱として使えるけれど、ゴミ箱っぽくないものを。こういうものが街中に置いてあったら人々はどう反応するのか、それを動画に記録しました。」

 

―やってみてどうでしたか?

 

「観察していてわかったのは、意外と皆、無視してしまうこと。自分の目的と関係ないものに対して、これはゴミ箱なのか?と考えることすらあきらめているような…。こういうものには捨てないけれど、誰かが捨て始めると、何も迷わずに路上に捨ててしまいます。無意識なものを透明化しようとした時に、現代の妖怪がみつかるのでは、と。なぜ妖怪建築をやるのかという証拠動画が撮れたみたいな感じです。」

「現代で多く起きている『透明化してしまう現象』。例えばホームレス…人々は見て見ぬふりをしていて、お互いに近づいていくことは難しい。でも、もし近づいた時に、お互いに知らなかった世界があるのでは、と思います。いない、として扱われてしまうような存在、そういう声を聴きたいという思いが妖怪につながっています。」

 

■存在しないもののための建築に興味が

 

―なぜ妖怪建築をやろうと思ったのですか?

 

「もともと存在しないもののための建築に興味がありました。学部(九州大学工学部建築科)の卒業制作は、お墓でした。多くの人を一緒に埋葬する空間(=永代供養墓)として、もう少し違う形があるのでは、と考えて制作しました。」

パソコンで写真を示しながら話してくださった卒業制作「micro Re:construction」は、巨大な共同墓地で、21世紀のランドマークのイメージ。人工的な山並みの表面が祈る場所で、中が埋葬するところです。ここは祈りにくるだけでなく、人が住んだり、仕事をしたり…という空間。生きる人と死者が一緒にいる空間をデザインしたそうです。

 

■山口、福岡、東京、リヒテンシュタイン

 

―大学は九州だったのですね。そもそも、建築を専攻したきっかけは?

 

「生まれ育ったのは山口県です。中学生の時は『革命家』になりたいと思い、その後『数学者』『ハッカー』と変わっていって…(笑)今思うと恥ずかしいですが…。大学で建築科を専攻したのはたまたまだったんです。大学院から藝大に来ました。九州の大学と藝大、学部と修士とでは、全然違う学び方ができました。今は、僕が考えていることを表現できるのが建築だと思っています。」

 

―山口県で育ったとのこと。妖怪が身近に感じられた思い出はありますか?

 

「うーん、それがそうではなくて…。大学院で初めて東京に出てきましたが、守られた田舎から出てきて、東京の人々が妖怪に見えたのです。違和感がありました。『人間、怖い!(笑)』と思いました。それが、見知らぬ人だからに限定されず、一緒にいる友達もどういう人かわからない。そして、自分のなかにも妖怪的な面があると思ったのです。東京に出て感じたことが、妖怪に気づかされたきっかけです。」

 

―昨年度、留学されていたそうですね。

 

「リヒテンシュタイン公国に1年間留学しました。スイスとオーストリアに挟まれた小国で、人口は3万人。大学は一つ。ほとんど人と会わないような日本と真逆のような国です。その大学の教授が、藝大の担当教授(トム・へネガン先生)の友人で、考え方が近いと思い選びました。地理で選んだところもあって、もともとスイス圏に行ってみたかったのです。これは、行く前の仮説ですが、現代の日本ではまず歩く道があるけれど、もともとは人が歩いたところが道になったはず。スイスにはまだそれがあるかと思いました。アルプスの道とか。そういうことを知りたいと思っていましたが、スイスは思ったより現代的でした。」

 

「留学中、大きかった経験は、アルプスがいつも見える所にいて、『富嶽三十六景』のことを考えていました。1枚ずつ見ると富士山が主役だけど、36枚並べた時に、富士山が共通の記号となって消えてしまいます。そこで、富士山の手前にある日常的な風景が目立ってきて、こちらが主役になるのではないかと…。ふたつの世界が同じ大きさで重なり合うこと、見立てが異なる世界が同時にあることを感じました。妖怪も現実にある世界で、どっちから見るかによって人間と妖怪になると思います。留学の経験から、一周回って日本への関心に戻ってきました。」

 

■妖怪を学ぶ

 

リヒテンシュタイン留学から帰国後、修了制作として妖怪建築をやろうと決め、そこから妖怪学を学び始めたそうです。

 

「一番最初にやった作業は、江戸時代の鳥山石燕の妖怪画の画集を見て、妖怪にまつわる物語を分析したことです。200体くらいあります。現代のキャラクターは、キャラクターとして独立していて文脈がないけれど、昔の妖怪はその妖怪を通して、その時代に人々が考えていたことや教科書では語れない細部が見えてきます。妖怪って、100%悪くないし、100%善でもない。こうなったらダメだよ、これ以上行ってはダメだよ、というグレーゾーンを表現している。人間が間違いを犯さないよう作られたものだと思います。」

 

 

―昔の人々にとって、妖怪は身近な存在だったのでしょうか?

 

「昔は、今と違って簡単に見えていたと思います。例えば『天井嘗め』という妖怪は、天井についたシミを嘗めていました。ずっとそこに居られたのは、天井のシミが残っていたからです。今は、シミはすぐ除かれてクリーンになってしまいます。昔は、建築が妖怪の存在を保つ一側面になっていました。」

 

國清さんのデスクには、妖怪に関する本が山積みになっていました。その一部を見せてくださいましたが、どの本にも几帳面に付箋が貼られていました。中を拝見すると、各所に線が引いてあります。日本の妖怪に関する本だけでなく、西洋の幽霊学、民俗学、社会学、心理学などさまざまな分野から「妖怪建築」を考察していることがわかります。

  

デスクの壁には、読んだ本の一節をメモ書きしたものが壁いっぱいに貼られていました。今は、書き出すのが間に合わなくなって、パソコンでアーカイブを作っているそうです。

 

 

■現代の百鬼

 

―この夏に、Museum Start あいうえのの「ミュージアム・トリップ」というプログラムで、参加した中学生達とこちらをお訪ねした時に、オリジナル妖怪の絵を見せていただいたのですが、その後も描いていますか?

 

「はい、描いています。現代の百鬼を描きたいと思って、今、97体描きました。あと3体で百鬼です。昔の妖怪造形を知ったうえで、21世紀の文脈をどう入れるかを考えました。異界からの訪問者が、現代都市のどこに出現しているか、どんな物語が生まれているかを考ています。」

  

「例えば、ホームレスの人が押している荷台には、大量の空き缶が載っています。それを横に置いてホームレスの人が寝ている様子から、背中に缶を載せた亀のような妖怪が寄り添っているように見えました。その妖怪を『荷亀(にがめ)』と名付けました。名前を付けるのは、妖怪を作る上で大切なルールで、イメージを固定化でき、それを見ていない人にも想像してもらえます。他にも、タバコの吸い殻や、コンビニの袋も、それ自体が意志を持っているように思えて、妖怪にしてみました。ありえるかもしれないことを想像した時に、現代の都市空間を説明することができる。事実とは違う物語が、都市にはあるのではないかと思います。」

 

■妖怪建築

 

―この不思議な曲線の模型は何ですか?

「これは、煙の妖怪『座煙(ざけむり)』のための椅子です。ある雑居ビルの路地裏に二つの排気口があり、その下にビールケースが3つ並べて置いてありました。不快な臭いの立ちこめる空間です。ケースには、人が座った形跡があり、誰かが喫煙していたのでしょう。ここに妖怪がいるとしたらと考え、煙の妖怪『座煙』の椅子を作りました。図面もあります。排気口の向きから煙の形を想定し、立面と平面の大きさを決めました。『座煙』の形と椅子の形状は対応しています。幅はビールケース3つ分にして、煙が座るので椅子の足は細く軽やかなものにしました。『妖怪がいること』は事実ではないけれど、妖怪の身体性を信じて建築を考えることについては論理づけを意識的にしています。」

  

現実と想像をオーバーラップさせながら、國清さんの視点で論理的に組み立てられた妖怪建築…このような妖怪建築のモデルは12個あり、これから模型を作りこんでいくそうです。

 

■6つのプロジェクトを提案

 

―具体的な修了制作のプランを教えてください。

 

「妖怪と建築、人と妖怪の関係性は一つの落ちでは語り尽くせないので、6つのプロジェクトに分類してすすめています。6つに分けることで、それぞれの関係性を探りたいと思っています。ハロウィンでの検証や現代の百鬼、妖怪建築もプロジェクトの一部です。
妖怪がいるかもしれないと思わせるものを模型で表現するのは難しいですが、1分の1じゃない面白さを物語、図面、絵でも伝えていきたいです。展示は1月末からなので、時間も限られていて大変ではありますが、楽しみでもあります。今は、妖怪達と向き合い続けるしかないです。」

 

―大学院修了後はどうされるのですか?

 

「あまり良い人生設計ではないのですが(笑)。この修了制作が終わらないと、僕がどう生きていくかが見えてこないのです。今は自分の制作が終わることで、どう生きていくかがわかると期待しています。作品を見て下さる方には、僕の妖怪を面白いと思ってもらえれば嬉しいです。存在しないものについて想いを巡らせ、いないものを考えることが肯定され、一人一人の妖怪がいても良い、そんなことを感じてもらえたらと思っています。」

 

 

國清さんは、修了制作について、誠実に熱意を込めて語ってくださいました。
「建築」というと、公共建築物や商業施設、地域の再開発など、大きな新しいもの、というイメージがありましたが、國清さんの視点は、都市のなかで私達が見て見ぬふりをしてしまうものや存在しないものに向けられています。現実を疑いながら、社会を観察し、「透明化されてしまう存在の声」を聴き、思考を建築につなげています。
修了制作をまとめた後も、國清さんの観察、想像、思考、表現は続いていくことでしょう。今後、國清さんの表現は、「建築」という枠から広がり、さらに深まっていく予感がします。とても楽しみです。

 

國清さんの作品「妖怪建築―存在しないもののための建築」は、卒業・修了制作展の会期中に構内の陳列館に展示される予定です。6つのプロジェクトで紹介される妖怪建築をぜひご覧ください。そこに「ありえるかもしれない世界」を感じ、物語が聴こえてくるかもしれません。

そして、國清さんの素敵な笑顔にも出会っていただきたいと思います。


 

取材|関恵子、ふかやのりこ、黒佐かおり、濱野かほる (アート・コミュニケータ「とびラー」)
執筆|関恵子

小学校の教員を退職後、美術館で子ども達を迎える側になりたいと思い、とびラーになって3年目。子ども達のミュージアム・デビューに立ち会える幸せと、アートを通じてさまざまな人達と出会える喜びを感じています。

 

 

 


第67回東京藝術大学 卒業・修了作品展 公式サイト
2019年1月28日(月)- 2月3日(日) ※会期中無休
9:30 – 17:30(入場は 17:00 まで)/ 最終日 9:30 – 12:30(入場は 12:00 まで)
会場|東京都美術館/東京藝術大学美術館/大学構内各所


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【開催報告】「墨のオリジナル缶バッジを作ろう!」

2018.12.16

2018年11月から2019年1月にかけて東京都美術館で開催された「見る、知る、感じるー現代の書」。この展覧会に合わせて、缶バッジ作りのワークショップ「墨のオリジナル缶バッジを作ろう!」を実施しました。

 

このプログラムは、書に関心をもっていただくきっかけとして、どなたでも墨のおもしろさ、美しさを体験できる、書をモチーフにオリジナル缶バッジを作るワークショップです。

 

当日は、真冬の寒さでしたが、日曜日で来館者も多く、館内は賑わっていました。このワークショップについて、とびラーがロビー階でご案内したり、「現代の書」展会場出入口や「ムンク」展会場出口でチラシをお渡ししたり、お声がけをして、ワークショップ会場であるアートスタディルームへご案内をしました。

多くの方に書をモチーフにした缶バッジ作りに興味をもっていただき、160名の方が参加してくださいました。

当日の様子をご報告します。

 

 

〈墨実験コーナー〉

受付後、墨で汚れないために雨がっぱを着ていただき、「墨実験コーナー」へご案内します。4つのテーブルの上には、90㎝×180㎝の障子紙が置いてあります。いったい何が始まるのでしょう。

 

ここでは、筆の代わりに縄、木の枝、段ボール、ヘチマ、特製大筆などを使います。たまたま同じテーブルになったメンバーで、この大きな紙に、文字でも絵でもなく思いのままに自由に描いていきます。初めはおそるおそる手を動かしていた人も、次第に身体を大きく使って描いています。

さまざまな道具や墨の濃淡で偶然できる線や点、にじみやかすれが大きな紙にどんどん広がり、重なっていきます。

汚れ防止の雨がっぱが、実験室での白衣のようで、まさに「墨の実験室」になっていました。大人も子どもも笑顔で楽しんでくれました。

 

〈大きな作品から小さな缶バッジに〉

一人一人の線や点が、同じ紙の上で手を動かした人のものと重なり合って、大きな墨アート作品が誕生しました。この作品を、天井から下げたバーに吊るして鑑賞します。吊り下げることで、墨が流れたりにじんだりして、また変化していきます。

「おぉ!」という歓声や、「わぁ、素敵!」「これはアートですね!」という声があがり、皆さん、予想以上の作品に驚いていました。写真を撮る方も多くいらっしゃいました。

 

 

この大きな墨アート作品から、どの部分を自分の缶バッジにしたいかを、特製スコープで探していきます。グループでの大きな作品から、個人の小さな作品に切り取る瞬間です。大人も子どもも真剣にスコープを動かして、お気に入りの「ここ!」というポイントを探していました。

 

選んだ所を少し大きめにカットして、いよいよ缶バッジに仕立てます。

とびラーが缶バッジマシーンにセットする時、「ここを上にして下さい。」「もう少し余白を出して。」など、お一人お一人が愛着をもってくださることを感じました。

 

出来上がった缶バッジを手にされた時は、皆さん笑顔で、満足感や喜びが伝わってきました。家族や友人同士で見せ合ったり、私達とびラーに「できました!」と嬉しそうに見せて下さったり、早速セーターやジャケットに着けて下さる方も多かったです。

160人の「世界に一つの墨の缶バッジ」ができました。

 

 

〈感想コメントより〉

参加者より、感想コメントもたくさん寄せていただきました。ここにいくつか紹介させていただきます。

 

・大きな紙に色々な道具を使って書くワクワク感と、偶然にできる缶バッジが、本当に楽しいワークショップでした!

・あえて大きな紙に描いてから小さく切るのが楽しかったです。大切にします。

・墨色の美しさ、白の美しさをあらためて感じました。

・「筆がない」という発想に驚きました!ここで初めて出会った人とチームで大きな作品を作れるという点も楽しかったです!

・墨の香りにいやされました。自分でも思ってもみなかった線と色で楽しかったです。

・書道は苦手です。でも、墨のワークショップは楽しかったです。缶バッジもGetできて、ありがとうございました。

・入った時に、すう~っと墨の香りがただよってきて、最初はどんなのができるかなとワクワクした。缶バッジ用の機械も見られて良かった。楽しかった。

・頭ではなく「手に任せる」。しかも何人かで一枚の大きな紙を使うワークショップは、とても新鮮な体験でした。楽しかったです、ありがとうございました。

 

 

〈終わりに〉

参加された方は、グループでの墨実験コーナーから、個人の缶バッジ作りの流れのなかで、墨の多様さ、おもしろさ、余白の美しさを感じてくださっていました。

皆さまの表情も、身体を動かして描きながら、生き生きと変化していき、最後に缶バッジを手にされた時には、満足そうな笑顔でした。

大人も子どもも、書になじみのない方にも、書を嗜む方にも楽しんでいただけたこと、たくさんの笑顔に出会えたことは、私達とびラーにとっても喜びでした。

 

また、当日は「現代の書」展示室で、とびラーによる「はなしてみま書!」という鑑賞プログラムも同時開催していて、鑑賞からワークショップへ、あるいはワークショップから鑑賞へというながれができたことも嬉しいことでした。

ご参加くださった皆さま、ありがとうございました。

 

 

執筆:関恵子 (アート・コミュニケータ「とびラー」)

          

【あいうえの連携】スペシャル・マンデー・コース(2018.12.3)

2018.12.04

12月3日(月)、今年度最後の「スペシャル・マンデー・コース(学校向けプログラム)」が行われました。

「スペシャル・マンデー・コース」とは、展覧会休室日(月曜日)に学校のために特別に開室し、ゆったりとした環境の中でこどもたちが本物の作品と出会い、アート・コミュニケータ(愛称:とびラー)と共に対話をしながら鑑賞する特別なプログラムです。

今回みんなで鑑賞したのは東京都美術館で開催中の特別展「ムンク展―共鳴する魂の叫び」。
普段は多くの方で賑わっている展示室も今日はこどもたちのためだけの特別な空間に変わります。

今日参加したのは、全部で3校。
午前中は台東区立金曽木小学校の4年生と文京区立柳町小学校の6年生、午後に文京区立文林中学校の1〜3年生が参加しました。
こどもたちは、美術館でどのような時間を過ごしたのでしょうか。

台東区立金曽木小学校4年生の様⼦はこちら→
文京区立柳町小学校6年生の様⼦はこちら→
(「Museum Start あいうえの」ブログに移動します。)

【あいうえの連携】うえの!ふしぎ発見:けんちく部 歴史てくてく編(2018.11.24)

2018.11.25

『100年前にタイムスリップ!!』
こんな見出しで、冒険ノートを書いてくれたのは、2018年11月24日に行われた「うえの!ふしぎ発見:けんちく部 歴史てくてく編」に参加したひとり。

「うえの!ふしぎ発見」は、9つの文化施設があつまる上野公園を舞台に、ミュージアムとミュージアムのコラボレーションを通じて、たくさんのふしぎやホンモノとの出会いを探求するプログラムです。*プログラムについてはこちらからご覧いただけます。

今回のテーマは「けんちく」。「歴史てくてく編」というタイトルどおり、『100年前の上野公園を見つけよう!』を合言葉に、国立国会図書館国際子ども図書館(以下国際子ども図書館)と東京藝術大学(以下藝大)、その周辺の歴史的建造物を巡る、こどもと大人の建築ツアーです。

プログラムの様⼦はこちら→
(「Museum Start あいうえの」ブログに移動します。)

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