東京都美術館× 東京藝術大学 「とびらプロジェクト」

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Archive for 1月 8th, 2015

2015.01.08

冬の曇天を切り裂くような、けたたましいチェンソーや金槌の連続音…をBGMに金工棟での取材は始まった。
まずは、修士2年の阪上万里英さん。
案内された作業場は大きな機械や、重たそうな素材が所狭しとひしめく、工場さながらの熱気に包まれている。阪上さんと、金属との出会いは高校で入った金属工芸科でのこと。「最初はイヤイヤ始めたけど、やっているうちに金属という素材がしっくりきたんです。」
主に、彫金などで小さな作品を作ることから始まった、阪上さんの金属との歩みは、4年生の卒業制作で一つの転機を迎える。
その時の卒業作品は2m四方の真っ白な四角い台をベースにした箱庭のような作品で、「限られた空間、切り取られた空間の存在を見せたい」という想いがあったという。数々の受賞をしたものの、自分の中では美術館の沢山の作品に囲まれての展示、置かれる場所によって作品は受ける印象が変わるんだな、ということを経験した阪上さん。
今回の修了制作では「どういう場所に展示したいか?」というところからイメージを膨らませて、グランドでのスケールの大きな作品展示に行きついた。
「作品そのものだけではなく、地面や空の色を映しこんで周りの景色と一体化して見えたらいいな。」と話す阪上さんの作品に対する想いとは――
「作品に対して〝こう思ってほしい“というのはなくって、ただ見た後に、『ヘンなの』とかでもいいし、何かよくわからないけど観る前と後で『“何か”が違ってるな、自分』って思ってもらえたら…
地面があって、その上に空があって…そしてこの作品が“そこ”にあることで、ふだん意識しない“ここ”にも空間がある、と気づいてもらえたらいいんです。」

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作品名「結びつきをとりもどす」は、高さ3.5mx幅約10mと、制作はもちろんのこと、設置も女性一人の手に余る大仕事だ。「どんどんムキムキになります(笑)」と、阪上さん。
風にたなびくリボンのような鋼材が、幾重にも重なり、巻きつき、はためく。
支柱は表面のコーティングを剥がし錆液をつけ、3ヵ月程屋外に放置し茶色いざらっとした質感を出している。白銀に磨き上げたリボンとの質感の対比で、鉄のもつ素材そのものの特性の両端を魅せる。
中央にぶら下げる石はイメージ通りの質感のものが近郊では見つからず、沼津まで拾いに行かれたそう。
「自分の今いるこの空間と親密になれる、これまでの時間との結びつきをもう一度見つめ直す、そういうきっかけにこの作品がなればいいなと思います。」

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今回、大きな作品ということで「ダイナミックにしなきゃ」とか、「(模型より)リボンの本数増やさなきゃ同じ見えかたにならない」とかその大きさゆえの苦労も多く、つい先日も「普段、大切にしている繊細な部分が作品を大きくすることで薄れてしまってないか?そもそも全部が違うのでは!?という思いにとらわれたばかり…」という阪上さん。外での展示という原点に立ち返り、「どうやったら外でやる意味があるのか?」と自問を重ねる。

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毎回、作品を作り終えると、思うところがあると悔しさを滲ませる。
その満たされなさが次の作品への原動力へと繋がっていくのであろう。
鍛金の魅力を尋ねると「形も大きさも融通が利きやすい。他の金属加工は型を別の素材で取ったりするけど、鍛金は試作の段階から一貫して金属から離れずに試行錯誤してやれるところです。」という答えが。彼女の手によって息吹を与えられた鉄が、グランドに降り立つ日を楽しみにしている。
常に見る人の目線に寄り添って作品を作り続ける阪上さん。作品を人に見せることを今後も続けたいという。
彼女がこの作品の完成の先に、感じた〝何か“を昇華させ、ぎゅっと凝縮させた時、また新たな展開があるような気がしてワクワクしてならない。

 

お二人目は、4年生の佐藤周祐さん。
「世の中のものはほとんどのものって鉄で出来てるんですよ。」「鉄が扱えれば、何でもできんじゃないか。ほとんどのことができるということだと思ってます。」と、ソフトな外見から想像できない、鉄への熱い想いが溢れる佐藤さん。
作品は、「勝利のための偶像」――自分の中にある憧れ“強い存在”を形にしていったもの。
卓上に並べられた甲冑が作品かと思いきや、それを着用させる人形にも同様に思い入れがある。
佐藤さんのお祖母さまの恩人だったという実在の人物がモデルだ。写真等はなく、お祖母さまから聞いた彼女の逸話の数々をもとに自分の中の“強い存在”とリンクさせ、顔立ちや目の色など具体的に作りこんでいる。

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3年生時から何となくコンセプトは決まっていたという佐藤さんは、4月から製作をスタートさせ、蝋細工の頭部のみで3カ月を要した。それもそのはず、眉毛は1本1本、これまた自分で作った専用の道具で植込み、目も眼球を1から作り虹彩も一筆一筆塗り重ねる、といった徹底した理想への追求が各所に行われているからだ。
「ピカピカすぎると形が見えづらいんです」と甲冑の仕上げ磨きにもベストを尽くす。

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「親父が工場をやっていて、小さい頃から遊びの感覚で鉄と触れていた。」と話す佐藤さん。お父さんとお揃いだという上着に、縫い付けたお手製のネームプレートが光る。
進学の際は、テキスタイルの道に進むことも考えたが、商業的なデザインのあり方に疑問を持ち、「もっといろんな可能性を模索できるのでは?」というので、慣れ親しんだ金属の道へ。
数ある科の中で鍛金科を選んだ理由をお聞きすると、「鍛金は一番丈夫な部分を扱える。素材で一番強いのが鋳鉄で、炭素含有量が低い。その次が鋼。これを扱えるんです。粘りもあって硬いという鉄の相反する特性を生かせるんです。」と明解が返ってきた。
宗教や思想といった枠にとらわれない発想の自由度の高さも、その昔武器をつくることから始まったのだと鍛金のルーツも教えて下さった。
オフの時は、You Tubeで鍛造の動画をぼーっと見るという佐藤さん。このまま制作中心の人生を歩まれるのかと思いきや、将来は意外にも「社会に貢献したい、起業しようと思ってます。」とのこと。
具体的にはまだきまってはいないそうですが、「鉄を制する者は、世界を制する」精神で進んでゆく、佐藤さんのこれから向かう先も気になるところだ。
物事の表面だけでなく、骨格から生い立ちまで調べて理解してから取り入れる、佐藤さんの真摯な姿勢と、「周りからの期待に押しつぶされそうな時期があって、自分の理想に近づくためには…って」とふと見せる繊細な部分は、扱っている鉄そのもののようなイメージを受けた。

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佐藤さんは甲冑マニアでも、自分の理想の女性像を求めているわけでもなく、己が己に勝つ=克己の精神を今回の卒業制作で形にすることで、これまでの自分の歩みにも何か区切りをつけられるのかもしれない。
「まだ台の部分が気に入らない。」と話していた佐藤さん。卒展の際に、全てが組み上がったコンプリート状態の彼の“勝利”を観るのが楽しみだ。きっと台の部分も、何らかの進化を遂げているに違いない。

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鍛金科でのインタビューを終え、“鉄”という素材の可能性の奥深さを知ると共に、“鍛金”という技巧の枠の大きさも感じた。鍛金との出会いの時期も、作風も、制作の過程も、全く異なるお二人ではあるが、お二人から出ている“想い”は同じくらい、熱いものである。
“鉄”=硬い、冷たい、という安易なイメージしか抱いていなかったが、お二人の作品を通じて、“鉄”の持つ、体温のようなものを感じた。“鉄”に生命を吹き込む、鍛金。卒業・修了作品展での再会が待ち遠しい。

(2014.12.11)

執筆:新西美樹(アート・コミュニケータ「とびラー」)

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