東京都美術館× 東京藝術大学 「とびらプロジェクト」

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Archive for 7月, 2016

2016.07.11

よく晴れた日曜日、2016年7月10日、上野公園の青空の下で本年度のキックオフ・プログラム<ミュージアム・トリップ>が始まりました。

「ミュージアム・トリップ」とは、Museum Start あいうえので本年度より取り組み始めたインクルーシブ・プログラムです。児童養護施設やファミリーホーム、経済的に困難なご家庭のこどもを支援している団体、そして海外にルーツを持ちカルチャー・ギャップなどを抱えるこどもを支援する団体を対象に実施しています。

この日参加してくれたのは台湾慈済日本会東京支部人文教室に通うみなさん。日本に在住する外国人の方々を広く受け入れ支援している慈善団体が土日に開催している教室の夏休み特別プログラム。

この教室に通う台湾、中国、韓国、オーストリア、そして日本も含めた多様な国々にルーツをもつこどもたちが28名、その保護者の方21名と団体のボランティア・引率の方々22名 計43名のおとなたちが参加してくださいました。一緒に活動するアート・コミュニケータ(以下、愛称:とびラー)22名とスタッフ8名を加え、総勢101名もの活動体となりました。

プログラムの様子はこちら→
(「Museum Start あいうえの」ブログに移動します。)

2016.07.10

2016年7月10日(日)

アクセス実践講座①
「創造・想像から排除された人々へとひらかれる美術館」
熊谷晋一郎氏(東京大学先端科学技術研究センター准教授)

 


 

今回のアクセス実践講座では、美術館にアクセスしづらい人々について、より具体的に先進的な事例から学びます。第1回目となる回では、医師で当事者研究をされている熊谷晋一郎さんをお招きしました。

障害はどこに宿るのか

生まれつき脳性麻痺の熊谷さんは車椅子で生活をされています。
熊谷さんが生まれた1970年代は少しでも健常なひとに近づこうというトレーニングが主流でした。当時脳性麻痺は治ると思われていたそうです。
80年代になってレジデンスが支持されるようになり、それまでは偉い人が治るといえば治ると言われていたが、しっかり研究したうえでその結果を知ろうという流れになってきました。81年に入ると当事者運動が起こります。

ここで一枚のスライドが映し出されます。
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「みなさんはどこにやどっていると思いますか」

「階段を指差す」
「車椅子を指差す」
「周り。まわりに人がいないから。」
「足。足に障害があるから階段がのぼれない。」

他の場所で行った例で、こどもたちは頭を指さして「根性がたりない」と言ったそうです。どれも正解です。

障害がやどる場所は大きく2つにわかれる、と熊谷さんは仰います。
本人の体のなかに宿っている医学モデルと本人の体のそとに宿っている社会モデル。

80年代は医学モデルから社会モデルに意識が移動した時期で、その背景には脳性麻痺はなおらない、当事者問題(社会が変わるべきなんだ 障害者に限らない問題。個人は変わらない。社会が変わるべきなんだ)が挙げられるそうです。医学モデルから社会モデルの変化は、熊谷さんにとって生きるための大きな変動だったそうです。

「みなさま東日本大震災はどこにいましたか?」と熊谷さんからとびラーへの投げかけがありました。震災の時、熊谷さんは研究室にいらっしゃいました。エレベーターが動かず結局救助されて担ぎ出された時に「これが障害だ」と思ったそうです。
健常者は階段に、はしごやロープに依存して逃げることができるので、エレベーターに依存しなくても逃げる手段がたくさんあります。この社会は健常者の身体用にカスタマイズされており、健常者は依存先が多いです。しかし、障害をお持ちの方にとっては、依存先が少ない。階段にもはしごにもロープにも依存できず、エレベーターへむける矢印が太いと熊谷さんが仰います。

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健常者は本数が多く矢印が細い
矢印の本数と依存度は反比例する
矢印の本数が多ければ多いほど依存度は低く、矢印の本数が少なければ少ないほど依存度が高い。

 

そもそも依存という概念に太さと本数のバラメーターを知らないと足元を掬われてしまいます。太さと本数のバラメーターを混ぜてしまうから間違った解釈が起こり、本数が多く矢印の細い方が自立していることになっています。結果として、依存先を奪うことが自立支援だということになります。

 

例として、薬物物依存症を挙げます。依存しすぎるのが依存症ではなく、
身内から虐待されている人、トラウマを抱えている人等、「人に依存してはいけない」「人なんか信用していたら大変なことになる」という人の病です。その結果物質や、一部の神格化した誰かにしか依存でき無くなります。これは、障害の問題にも通じることです。

 

回復するにはどうすれば良いか?矢印の数を減らすことではなく、薬物以外に依存するツールをふやす支援が大切であると熊谷さんが仰います。

 

1970年代までの身体に障害を持つ人々にとっては、依存先がとても少なかった状況でした。年老いた親か、施設に身を置くしかありませんでした。依存先が少ないということは、暴力の被害者になる確率が増え、共依存に陥ることが多くなります。こうした背景を変えるため、自立生活運動へと時代は進んでいきました。様々な視点からよりよい生活デザインの提案がされ、その結果、地域と市場に依存先を開拓することが可能となり、飛躍的に暴力事件は減りました。

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後半

前半より、自立生活運動の話が続きます。

 

自立生活運動では大きな二つのスローガンが掲げられました。
・自己決定の原則
・手足論
この2つは、介助者に支配されないためにどうすれば良いか、という課題から考えられました。
文化的な生活というのはそれをするためにたくさんの条件が必要ということを伝えたい、と熊谷さんは仰います。

 

当時は自己決定の権利を失ったら支配されてしまうと思っていたそうです。
しかし、例えば、シャワーを浴びる時、介護者は指示がないと動くことができません。
左腕から、左腕のどこから?脇から?爪先から?
日常生活のあらゆるところにこの構造があるが、全てこれに支持していたら生活が果てしなく終わりません。
しかし健常者の人はこれらのことを、ほぼ習慣として自己決定しています。手足に良き計らいボタンがあると、熊谷さんは続けます。
つまり、自己決定と手足論は同じ意味に成り立ちません。

このようなことを実現するためには、自分のベーシックレベルを相手に意識してもらうことが大事だと言えます。例えば、いつお風呂にはいるのか、いつ行くのかは自己決定だが、腕のどこから洗うのかなどは徹底しなくてもよい領域です。このベーシックレベルの幅は人によって違う。

ここで「自分の声を制御することができないから、会話に入れない。」という障害を持つ方の事例が出されます。

フィードバックが大事
A発生期間の筋肉
B肉体電線フィードバツク
C空気伝導
D他者のリアクションのフィードバック

発話を構造的に整理します。
・予想していたよりも喉の動きが大きかった、予測しながら運動していた
・運動指令とフィードバックをしている
・予測誤差に直面するとは話せなくなる。
・たとえば自分の声が違うようにきこえる、それだけで話しづらくなる。
・予測誤差の敏感さが自閉症の根本にあるのかもしれない

 

発声だと思考と運動が直列になり、手話だと思考と運動が並列になるそうです。
これはパソコンに通ずる親和性があると言えます。

 

人間の意識の状態について、3種類のモードを事例として説明されました。

—– —– —– —– —– —–

●あたふたモード
予想をたてた瞬間から予想を裏切られる状態が続いていること
予測誤差と自己決定がたくさんせめられている状態
親の気持ちがわからないなど
社会的弱者の子が多い

●すいすいモード
生活の中のおおよそ扉がひらく。
身体を含めた生活の基盤が予測可能な状態で、初めて人はクリエイティブにな意識を立ち上げることができる。

●ぐるぐるモード
世界とオフラインになる。過去の記憶だけど思い出して反芻する。生産的なこともあるし、ネガティブなこともある。

—– —– —– —– —– —–

薬物依存症の人は、日中は覚醒しあたふたしてしまいます。しかし夜になるにつれて、あたふたからぐるぐるに移動する。この時間帯が一番危ないと考えられます。そういったときにクリエイティブな気持ちになるのは難しい。

少数派の人たちは、単に不便さを享受しているだけでなく、すいすいモードや文化的体験の機会を剥奪されていると言えます。社会的排除、文化的生活の排除を受けている人たちにとっては、創造的な活動ができるために美術館が「安全な場所」である必要があります。そして安全な場所であると分かれば、すいすいモードになり、創造的活動をはじめて行うことが可能になると熊谷さんは仰っていました。

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執筆:奥村圭二郎(東京藝術大学美術学部特任研究員)

2016.07.02

本年度の建築実践講座がスタートしました。
第1回目の今回は、建築講座の概要とながれを共有し、年間のイメージをつくっていきます。

本題のガイダンスに入る前にまずは「けんちく体操」でアイスブレイク。
この「けんちく体操」とは、建築物の形を自分の身体をつかってマネをするというものです。
身体を動かしながら建築を学べるワークショップとして、「チームけんちく体操」によって、国内や海外のさまざまな場所でも開催されており、こどもでも大人でも気軽に楽しむことができます。
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まずは自分一人で「東京スカイツリー」になりきります。
単純な形のようで、足の組み方や手の上げ方がそれぞれ異なり、どこに着目していたかが個性豊かに現れます。

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次は2人1組でフランスはパリ「凱旋門」。
これも一見シンプルな形ですが、アクロバティックな表現にチャレンジするチームもありました。

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次も同じくパリにある「ポンピドゥー・センター」。こちらは3人組で行います。
現在東京都美術館にて「ポンピドゥー・センター傑作展」が開催されていることもあり、ギザギザと折れ曲がったエスカレータや特徴的な外観を3人で力を合わせて表現します。

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最後は一気に人数を増やし、8人組でここ東京都美術館に挑戦します。
空撮画像をみると、いくつもの箱がひとつの広場を囲むように配置された様子がよくわかります。
ずつずれて並ぶ棟や、エントランスのシンボルの丸い銀色の彫刻になりきったりと、細かなこだわりが各チームの特徴となって現れています。

体で表現するためには、まずはよく建物を見ることをしなくてはなりません。
その建物の特徴や建築家の工夫が、使う人にどう影響を与えているのか。
建築実践講座では、建築と人々との関わりに視野を広げていきながら、建築を通して生まれるコミュニケーションについて考え深めていくことを目標としています。

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ガイダンスでは、講座の目標を共有し、年間のながれを確認しました。

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各回の講座や前後期のグループで取り組む活動を通して、様々な実践の場を1年通して経験していきます。

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続いて、東京都美術館学芸員の河野さんより、東京都美術館の歴史や建築についてのレクチャーです。
1926年に東京府美術館として開館し、1975年に建築家・前川國男が設計した今の茶色い外観印象的な姿となった東京都美術館。
その後35年が経ち、2012年に大規模な改修を経てリニューアルオープンしました。デザインや設計のこだわりはそのままに、使う人を考え時代に合わせた改修が施されています。
まずはこの前川國男が設計した東京都美術館への関心を軸に、建築の魅力や人々との関わりに視野を広げていきます。

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講座の後半は、前期のグループワークのキックオフ。
グループのメンバーで顔合わせを行い、半年の計画を立てました。他館に見学に出かけたり、グループで建築ツアーに取り組むなど、建築を通して生まれるコミュニケーションの場づくりについてチームで学び合い、一緒に考えていきます。

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講座終了後には早速館内のみどこをめぐり、これからの活動のヒントを見つけているようでした。
この講座のワークからどんな活動や発見が生まれていくのでしょうか。
半年後のグループワークの成果発表に期待しています。

(東京藝術大学美術学部特任助手 大谷郁)

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