東京都美術館× 東京藝術大学 「とびらプロジェクト」

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Archive for 1月 15th, 2018

2018.01.15

秋の終わりと冬の始まりが混ざった昼下がり、杉川由希さんの待つ取手校地に向かいました。
事前に見せてもらった作品写真は一言でいうと、「ちょっと怪しい感じ」。

「どんな方が、どのようにして作ったのだろう?」と興味津々で伺った私たち。
実際にお会いした杉川さんは、作品のイメージとは少しギャップがありました。
今回は静かな講義室の一角で、お話を伺うことになりました。

私たちが前もって見てきた写真は、修了制作の前身として7月末に発表したもの。制作のきっかけは、ある「かかし」の写真を見たことだそうです。
その写真とは、麦生田兵吾(写真家)の、京都府宇治市の稲田に「マネキンのかかし」が立っている写真。

 

■あるかかしの写真から

「写真を見たときに、なぜこれを立てたのだろう?と思いました。日本の水田に、西洋の白人女性のマネキンが、ピンクのガウンを着て立っている。日本人の命を守る穀物を見守るかかしなのに・・・。あえてこの服?!しかも薄汚れている。そう思いながら見ていると、これを立てたのは男の人だろう、服は奥さんのもので、そのマネキンはきっと男の人の奥さんの分身のようなものなのか、と想像が広がって。きっとこのかかしは、農家の方の心と繋がった存在なのかもしれない、と。この後、かかしのリサーチをするのですが、まずはその想像をもと、『神格化した亡き妻マリア』というストーリーを考え、作品を作りました。」

■かかし作り
「写真からのイメージを再現するために、パーツを組み合わせて体を作り、セクシーな雰囲気を出したいと、照明の色を組み合わせたりしました。私は、はじめから出来上がりのはっきりした形を考えているというよりは、実際にものを触りながら、手を動かしながら考えるタイプです。このときも、照明の雰囲気を調整するのに何かいいものはないかと探しているときに、装飾用稲が梱包されていた柔らかめの紙が目に止まり、使うことにしました。ならば、そこにマリアへの思いを書こう‥というふうに。」

 

■実際の風景を探しに
「その後、写真で見た風景を求めて実際に宇治に行きました。一面の稲田、かかしが全然立っていない。しばらく探して、やっと一体発見。その時、意外とかかしって短命で、長い間立っていることはできず、またそれがかかしの歴史にあるのでは?と思いました。」

 

■かかしのリサーチ
「かかしのことを調べ始めましたが、あまり資料がなくて。
そんな中で見つけたのがこの『写真集 かかし』(片岡千治、財団法人 農林統計協会、1976)。」

「日本かかし研究会というものがかつてあったそうです。資料によると、かかしはもともと田んぼの神様で、山の神から一時的に降りてきた女性の神様が一時的に宿るものとされています。
古事記に記されている日本の豊穣の女神、大気都比売神(おおげつひめのかみ)。クメール文化のデヴィスリ(稲作の女神)など、繁栄のもとの存在は女。女性が子どもを作るイメージが実際像として作られています。」

 

■かかしは短命
「かかしの機能としては、稲に寄ってくる鳥や虫を排除しなければならない。鳥や虫は一瞬かかしにびっくりするが、賢いので、慣れるとただの風景になってしまう。だから、短いスパンで姿に変化をつけなければならない。故にかかしは短命。それでも作り続ける農家の人の気持ちがいいなあと思うんです。」

■かかしは気持ちの問題
「調べていたら、かつてはまつりごとに使われた道具を、かかしに使用したそう。それも徐々に儀式的な要素は衰廃していき、各家庭で不要なものを使って作られるようになりました。しかし命の米を守るという重要な役目を果たすかかしには、製作者の遊び心も見え、各田んぼにオリジナルの守護神が宿っているようにも感じられます。そうなると、かかしを作って立たせるというのは気持ちの問題、とも捉えられます。」

 

■時代を反映するかかし


「戦後のかかしの中には軍服を着ているものもありました。十字形は基本形で、社会の流れを反映し、そこに動きが加わります。これは政治の流れと重なる部分が多くあるように思えます。女性の社会進出の時代には女かかしが出てくるんですよ。」

 

■人の形のつくりのぎこちなさの魅力


「これは、『カカシバイブル』(ピート小林、東京書籍、2009)から。この写真は人の形の作り方がぎこちなくて。それから、もはや物をぶら下げているだけのかかしもある。私だったら、もっと作りこみたくなるけれども、そうではないんですね。」

 

■今までの作品


「もともとは、お色気みたいな、ちょっとバカバカしいものが好きなんです。
これは自分を見せる装置。自分がマリリンモンローになって送風機を持って登場、コンセントを差して風を送り、終わったらまた持って去る、というパフォーマンスでした。」

「他にも、TVショッピング、落語などを題材として作品やパフォーマンスを作ってきました。」

「この作品で使用したクローゼットの服は、家にある母のものです。開けると中には自分の知らない母の昔の服が入っていました。柄、色の好みの感じなど、今の母と違う服を見て、これを着ていた娘時代の母を、過去に聞いた昔のエピソードを元に書き起こしました。作品のクローゼットの中では、昔の母の服を着てその話を演じる自分の映像が流れています。作っているうちに、母の話と自分の幼少期の記憶が重なってくるようでした。」

「こんなふうに、ものが想起させる記憶を頼りに、人が存在しているということ、またその人間的な魅力をどうやったら発揮できるか、ということをメインに考えています。」

 

■修了制作は?

「私が農家のおじさんになりきり、作っているかかし(5体を予定)の一体一体と対話をします。『人』として認識できる最低限のところってどこだろう?というのを今考えているところです。
自分の家にあるものや、自分の家族のエピソードを題材に、オリジナルのストーリーで、語り・音・動きなどを使って表現していく。人だけでなく、飼っていた魚の話も出てくる予定です。お化け屋敷のようでなくショーパブ的な音楽でハチャメチャな感じを出したい。展示場所は屋外を予定していて、日暮れ時に公演できれば。」

 

ー小さい頃から作るのが好きで、保育園の頃はいつも粘土で何か作っていたという杉川さん。表現したいという気持ちは今にも続き、高校では美術部に所属し、油絵で自画像など描いていたそうです。京都市立芸術大学に入学してから現代美術に出会い、自分は絵を描くよりこっちで表現を模索した方がよいのでは?
ということに気付いたそう。大学院は藝大に進学し、今は様々な表現の方法を知って、その幅が広がっている、と話してくれました。

 

卒業・修了作品展では、どんな時間、空間を見せてくれるのでしょうか。ここに綴りきれない杉川さんの作品の構想のおもしろさ!どんなかかしや杉川さんに会えるのでしょう?今からわくわくしてしまいます。

 

 

執筆:和島千佳子
「今日は何して来たの?お仕事?お勉強?遊び?趣味?」と家族に聞かれ、そのどれでもないようであるような、答えに困惑する不思議で楽しいとびラー生活を送っています。

 

 

 


第66回東京藝術大学 卒業・修了作品展
2018年1月28日(日)- 2月3日(土) ※会期中無休
9:30 – 17:30(入場は 17:00 まで)/ 最終日 9:30 – 12:30(入場は 12:00 まで)
会場:東京都美術館/東京藝術大学美術館/大学構内各所


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「第7期とびラー募集」

2018.01.15

12月上旬のある日、中央棟地下1階にある美術教育研究室のアトリエに大小田さんを訪ねた。笑顔で出迎えてくれた大小田さんは、明るく親しみやすい感じの方だった。

アトリエに入って真っ先に目に飛び込んできたのは、大きな藍染の作品である。幅は約1m、長さは5mを超える藍染の布が、部屋の対角線上に水平に吊られていた。ため息が出るほど繊細で生き生きとした線で描かれたその藍染を眺め、大小田さんの作品世界に惹きつけられながら、私たちはインタビューを始めた。

 

〈物語性のある作品に〉

*わぁ、綺麗ですね。修了展の作品ですか。

「はい、そうです。物語性のある作品にしようと思っています。生きもの、動物とか竜とか、ここら辺には七福神とか、モチーフをたくさん散りばめて、物語性を見出せるような作品を6枚、横にも縦にもお話が広がるように作っています。修了展に向けて今ここに吊るしてある大きさのものを6枚作ります。今、2枚は染め上がっています。型紙はこの布1枚につき5枚使うので、30枚彫り終えています。」

 

〈藍染とはどのようなものか〉

藍染の技法について教えてください。

私がやっているのは、藍の型染という技法です。まず無地で下染をし、彫りが終わった型紙に防染効果のある糊を置いていきます。すると糊が化学変化をし藍が抜けてその部分が白くなります。これを抜染と言います。糊の置き方によって白地の部分の濃淡も変わっていきます。」

*藍は植物なので、藍染は染まり方も一定ではなく、その都度微妙に変わると思いますが、「このような色にしたい」と目指す色はありますか。

「修了作品に使っているのは蓼藍(たであい)ですが、インド藍や琉球藍、ウォードなど、藍にも種類があります。『藍』という植物名の草があるのではなく、インジカンという成分(青色の色素)が多く含まれている植物、またはそれから取れた染料を藍と言います。藍染は浸ける回数によって色が変わってきます。私の場合、濃く染める方がモチーフが引き立つので好みです。濃い色を目指して染めるのですが、布の素材が麻50%綿50%か、麻100%かによっても、色の濃さは異なってきます。最初からこのくらいの色がいいからこうしようというより、素材と対話しながら、様子を見ながら染めていきます。天候によっても変わってきます。

 大学4年の秋くらいに沖縄西表島にいたのですが、工房の藍甕(あいがめ)が外にあり、藍は染めて酸化させるので、太陽が照っていると藍の発色が良くなることを知りました。

 大きな布だと1枚1枚の色の濃さを同じにするのは難しいというのはあります。藍の繊細なところを感じますね。毎回毎回発見があり面白いので、まだ藍に固執して作っているのですが、もうちょっとやり続けたいと思っています。」

 

〈藍染への道〉

*幼い時から絵や美術がお好きでしたか。

「小学生の時から絵が好きで、学校から帰ると毎日5〜6時間くらい、寝るまでノートに絵を描いていました。中学・高校になると部活動もあり、絵を描く時間は減りましたが、『作家になりたいな、美術をやりたいな』と思っていました。」 

 

*絵が好きだったけれど油画や日本画ではなく、染めの道に進みたいと思われたのは、何かきっかけがあったのでしょうか。

「もともとはペンで描くのが好きなんです。自分の描いている絵はイラストみたいだなと思って。筆では描きたくないけどペンで描きたい。そのペンで描くようにカッターで型紙を彫っています。

 大学3年の終わり頃、五美術大学展で染めの作品を見てビビッときたんです。それは藍染ではなくてろうけつ染めだったんですが、Tシャツにカクレクマノミが描いてあって、『このTシャツを着たらカクレクマノミになれるな。わたしもやりたい、これ。』と思いました。

 縁があって、その半年後に沖縄の工房に行くことが出来て、本格的に染めをやりたいなと思ったのがきっかけです。」

 

*染めの中でも藍染を選んだのはどうしてですか。

「一番最初に染めをやりたいと思った時に、植物染めの型染に惹かれ、山崎青樹さんという草木染めの作家さんの作品を見て、綺麗だなあ、やりたいなあと思ったのですが、調べたら素人がやるにはすごく難しいんです。植物を煮出して染料を作り、その温かい染料にもち米などで作った糊を置くのですが、糊が溶けてしまうらしいのです。でも、染めた後に色を抜く藍染の抜染技法なら私でも出来る。自分でも理解が出来て道具もそんなに要らない。今の自分が植物で型染をするならこれだと思いました。

 藍染をずっとやっていきたいと思ったのは、やはり沖縄で藍染を教えてもらったことが大きいです。藍が気候によって色味が違うって、信じられないじゃないですか。現地に行って先生に付いて学んでみて、何となく藍染とはこういうものなのかなと思ったのですが、でも何となくではなく、もっと深く藍染を理解するためにやってみたいと思って。」

 

〈沖縄西表島で得たもの〉

*大学4年の秋からの半年間、沖縄西表島へ行かれたのは、どんなつながりがあったのでしょうか。

「西表島で染織をしている石垣昭子さんという方がいらっしゃるのですが、たまたま私の親とお仕事でご縁があったんです。石垣先生がなさっているのは型染めではないけれど、生活に寄り添った布をコンセプトに作っていらっしゃいました。私は染めのことを知らなくて、まだ染めにつながる関係を自分では築けていなかったので、ちょっとでも関係があるならば絶対自分にとっていいだろうと思って、大学を休学して西表島に行きました。」

 

*石垣昭子さんの出ていらっしゃる映画「地球交響曲(ガイヤシンフォニー)第5番」を観ましたが、海で晒した布を工房の庭で干しているシーンを今でも覚えています。布が風にはためいていて、沖縄の風の中で布が生きている感じがしました。

「映画をご覧になりましたか。そうなんです。海晒しと言って、染めた布を海の中で晒し、染めの時についた余計なものを取ったり、海の成分があって色を定着させるんです。最後にそれをやるのがロマンチックなんです。マングローブのある海に入って。映像としても美しく撮られていましたね。」

 

*染めのことだけでなく、精神性のようなものが濃縮されていくような感じですね。

「はい、そうなんです。西表最古の村に住んでいたので、染めと同じくらい文化やお祭りも勉強させていただきました。お米が取れたから感謝するとか、島では生きていく上で『神様のおかげです』と月に1〜2回はお祭りがあるんです。」

 

*沖縄では自然が人々の暮らしに近いですよね。自然や神に祈り、エネルギーをもらっているようなところがありますね。それが大小田さんの作品にもつながっているように感じます。作品の中に活き活きとした生命を感じます。

*作品のお祭りの絵の中に、自然の恩恵とか逆に怖さとか、敬いつつ怖れつつ一緒に生きていこうという感じの物語が見えてきます。

「そうですか。それは目指しているものなので、嬉しいです。お祭りもテーマになっているので、そう言っていただけると救われます。今後もそういうものをコンセプトに作っていきたいです。」

 

大小田さんの藍染とその作品世界に、西表島での体験が与えた影響は大きいように思われた。

未知なる土地へも思い切って飛び込んで行く彼女の決断力と行動力、そして豊かな感性がいろいろな人やものとの縁を引き寄せ、その繋がりから吸収するものが彼女の芸術性を深めているようである。

 

*大小田さんにとって、とても大きな出会いですね。

「はい、本当につながりをありがたいなあと思います。」

 

〈頭の中に浮かんできたものをそのまま形に〉

約1m四方の型紙を30枚も彫り込んでいく制作過程は、きっとたくさん構想を練り、根を詰めて行われるものなのだろうと私たちは想像していた。ところが大小田さんからは微笑みとともに驚くような答えが返ってきた。

 

*修了展の作品の制作について、どのように構想を立てて進められているのですか。

「物語性とは言っているけれど、こういうお話にするからこういう構図にするというより、私はその時にパッと頭に浮かんだものを型にしていくんです。たとえば、『あっ、竜いいな!』みたいに進めていく。構想はあまり持たないんです。自分の中で大きなコンセプトは変わらないので、小さな計算はしない。頭の中で即興的にひらめいたものを入れて進めていきます。」

*型紙の細かさを見ると、かなり綿密な構想を立ててそれぞれのモチーフを合わせていくのかと思っていましたが、そうではないんですね。その時その時の瞬間の思いを込めて彫っている。だからこんなに線が勢いがあって生き生きとしているんですね。

*重なり合っていくようにドラマが生まれ、それを生かしてまた次のドラマが生まれていくような感じですか。

「そうですね。下から上へと創っていきます。たとえばこの作品の中では、イギリスと中国と日本が1枚の布の中に描かれています。ここにティーポットがあって、お坊さんの頭の上にカップを重ねていく。すると『あっ、倒れそうだ!』って展開があって、そこから落ちちゃう金魚を大きくして…今度は鯛を描いたら、七福神の恵比寿さんが現れるのが縦の系列のストーリーです。横の系列もあってまた繋がっていきます。上の方は高くて見上げるので大きめに描いてあります。」

 

大小田さんは、目をキラキラ輝かせながら、制作時にモチーフが彼女の頭に浮かんでくる様子をそのまま語ってくれた。藍型染作家であると同時に、物語の作者でもある彼女が、創造することを心から楽しみ、喜んでいるのが伝わってきた。

 

〈ペンで描くように彫る〉

*この1枚(1m四方ほどの型紙)は、どのくらいの期間で彫られているんですか。

「これは、10日くらいかかりました。彫るのが好きなんですよ。結構、樹がメインで、私の中で、樹は母なる大地、宇宙の始まりみたいに捉えています。」

 

*どんな道具で彫っているのか見せていただけますか。

「これで彫っています。デザインカッターで1本500円くらい。道具もこだわるといろいろあるんですけど、今はこれ1本で全部やりたい。丸い点を打つ専用の道具もあるんですが、小さい丸も専用の道具だと同じ形になるので、このカッターで絵を描くような感じに彫りたい。ペンで絵を描く感じです。下絵も大雑把でこんな感じです。大体の輪郭だけを描いて、細かいところは彫る時に、ペン入れをするように、描くように彫ります。」

 

*下絵にはないこの繊細な線を、直接デザインカッターで彫っていられるのですか。

「下書きで100%描いてしまうと、彫っていく自分の感覚や気分が制御されてしまうので。下絵をなぞるだけだと、ただの作業になってしまう。彫ること自体は作業ではあるのですけど、彫りながら創造するようにしたいんです。」

 

勢いのある美しい線の生まれる秘密はここにあったのだと合点が行った。下絵をなぞって彫っていたら線は整うかもしれないが、きっと勢いは消え、生き生きした描写ではなくなってしまう。

〈生きものの存在感〉を追求する大小田さんのこだわりがここにも現れていた。彼女にとって彫ることは自分自身にとても近いこと。ペンで描くのと同じような感覚らしい。頭に浮かんだものをそのまま描くように彫れる、それは素晴らしい感性と才能があってこそ可能なことだろう。「彫ることが好きなんです」という言葉が心地よく響いた。

 

〈彫ることは生活の一部みたいな感じです〉

*型染を始めてからどのくらいですか。

「本格的に始めてからは3年くらいです。毎日刃物で紙をサクッと切るのが気持ちいいです。」

 

*作品を作るときに環境作りとして例えば好きな音楽を流したりとか、何かされますか。

「音楽をかけながらとかのルーティーンはないです。彫りに集中出来ない時もあるので、そういう時は携帯でテレビを見ながらやると結構進みます。彫りは生活の一部みたいな感じで、集中して頑張ってやろうとすると、その時は進むんですけど、後で疲れてしまう。次に彫る時にあの苦痛な時間が来るのは嫌だと思いたくないので、自分の中で頑張って彫ったというものにしたくない。だから時間をかけてダラダラしながら彫っています。生活している中で出来上がったものだから続けられます。」

 

〈型紙も芸術作品〉

型紙を広げて見せてもらった。白い板の上に広げるとそれ自体が精密な絵画作品のようである。

天照大御神が岩戸に隠れてしまった話で、神々がその前で宴会をしている様子を表したそうである。生命感あふれる花びらの樹から花びらがキラキラ舞い降りている。こんなに細かい彫りをアウトラインの下絵だけで彫っていることに驚嘆する。

型紙はプラスチックが混ざった紙で、彫ってから型に強度を補強する網状の紗(しゃ)を貼り、カシューという人工漆の接着剤を塗って仕上げる。

*この型紙自体が美しい芸術作品ですね。型紙が展示されないのはもったいないですね。

「たぶん染められた布を見ただけだと、技法がわからなければ『絵なのかな?』と思って、それだけで終わってしまうこともありますね。型紙自体に造形的な美しさがあると思います。たとえば、伝統技法の江戸小紋の型紙などは美術作品だと思います。」

 

〈作品の生まれる背景〉

*作品を絵本にして子供たちに見せてあげたいですね。

「いずれ絵本を作りたいと思っているので、そう言っていただけて本当に嬉しいです。」

 

*小さい頃、絵本は読んでもらっていましたか。

本の読み聞かせは、ずっとしてもらっていました。母が姉に絵本を読み聞かせていたので、私は母のお腹の中にいた頃から聞いていたことになりますね。小学校低学年まではずっと、母が寝るまで読み聞かせてくれていました。『本の世界が身体に染みついているくらい』と自分で言ってしまうほどです。」

 

*その幼い頃の体験が大小田さんのとても貴重な財産になっていますね。作品の中にそれが生きている感じです。

「そうですね。ただ、実際のものに忠実になろうとすると、自分の世界観を100%表現出来ないので、モチーフとして捉えて作品の中に活かしています。」

 

想像の泉の中で誕生するファンタジーの世界。目の前にある藍型染の中にも、大小田さんによって命を吹き込まれた人々や神々、動植物たちの新しい物語が生まれている。

 

〈六角柱の燈籠絵巻〉

*展示はどこにされるのでしょうか。

「大学の美術館のエントランスで6枚の布を六角柱に垂らして展示します。」

 

*6枚のうちの1枚を見せていただきましたが、他の5枚がどのようになるのか続きが楽しみです。展示の時は1枚1枚タイトルをつけるのですか、それとも6枚まとめてつけるのですか。

「タイトルは《藍型染万の葉文様燈籠絵巻》(あいかたぞめよろずのはもんようとうろうえまき)です。『万』には生きとし生けるもののモチーフ、『葉』は言葉を連想させ、たくさんの生きものたちの物語になります。」

*大きさは実際どのくらいですか。

「美術館エントランスの天井が5m80cmなんですが、作品の高さが45cmになるので、ギリギリなんです。制作途中でぶら下げる場所がないので、考えてはいるけど、実際に垂らして見ながら創ることが出来ないのが悩みです。」

 

*鑑賞者は六角柱を周って観る感じでしょうか。

「一番最初に燈籠みたいなものを作ってみたい、そうしたらお話の世界を横から周って見せられるなと思ったんです。作品の存在感を立体的に見せたいという憧れがあったんです。これまでの私には立体的なものを見る目があまり出来ていなくて。でも、そういう作品には圧倒されるので、今回は修了作品なので思い切ってやってみようと思いました。」

*お祭りの大型の山車のようにも見えますね。

*ぐるっと周って見る人が物語を紡いでいき、また始まりに戻って輪廻みたいに繋がっていくようでもありますね。

「講評会では『平面で良くない?もっといい見せ方もあるのでは』とも言われたんですが、私は燈籠にこだわって、その存在感がある六角柱で見せたいんです。」

 

*平面に6枚飾ると順に見ていってそこで終わりますが、六角柱だと命が繋がっていく感じがありますよね。今までにあまりない形で新鮮です。

*四角柱だと隣の面が見えないけど、六角柱だと隣の面が少し見えて緩やかに変化していくので物語が紡いでいけるように思います。

「ああ、そういう考え方もあるんですね。観る人の立場でそういうふうに言っていただけるととても嬉しいです。」

 

*生きとし生けるものを、大切なモチーフにしているのですね。

「はい、私は『古事記』がすごく好きなので、神様も登場します。」

 

 いろいろなものが散りばめられている壮大なファンタジーの世界。観る人がその周りを歩きながら、縦の系列、横の系列からいろいろな物語を紡いで楽しめる。鑑賞者一人一人の物語が生まれそうだ。完成作品を鑑賞する日が待ち遠しい。

 

〈これからのこと〉

*これから先、どんな作家になりたいとお考えですか。

「芹沢銈介さんのように染織が多岐にわたり、生活に根ざしているような、『役に立つもの』を作りたいです。『人の役に立つ』のは大事だと思うので、いずれ作家としてそういうものを作るのが目標ではあります。」

 

*作品の中にある「うちくい」(風呂敷)もその中の1つでしょうか。

「うちくいもその1つですね。本の装丁とかに関わりたい気持ちもあります。」

*この大学院の2年間をとても有意義に過ごされていますね。大学院を出た後はどうされるのですか。

「はい、ずっとこんなにいい環境はないと思っています。博士に進もうと考えています。」

 

〈生命の讃歌が聞こえてきそうな作品〉

最後に、秋の芸祭に展示した、修了展作品の一部の試作となった作品を広げて見せてくれた。

それを見たとびラーたちから、口々に感動の言葉が溢れでる。

*花びらがキラキラしていますね。ファンタジーの世界ですね。
*線に表情があって綺麗ですね。樹のラインがまるで薔薇の花のようです。
*神様たちの話し声が聞こえてきそうです。
*デザインカッター1本でこれを全部彫ったとは到底思えないです。
*ペン画と同じような感覚でこのように彫れるのは素晴らしいですね。
*『古事記』の世界に『ギリシャ神話』の中のような人がいて、東洋と西洋が入り混じったようですね。

「そんなに褒めてもらえることはあまりないので幸せです。オーブリ・ビアズリーとかが大好きなんです。挿絵作家で、絵画作品ではないけれどすごく高い芸術性を持っているじゃないですか。使うものだとか絵本だとか美術作品でないのにすごく芸術性が高いと思えるのは、かっこいいなあと思います。

  *柳宗悦の『用の美』とかに通じますか。

「そうですね。日常のものに芸術性の高さがある、そういうのは共感できます。」

 

*型染は数がたくさん作れるものではないですよね。だからこそ価値もあるのだけれど。でも絵本なら多くの人に見てもらえる、みんなの近くに置けるものですね。子どもはいいものはちゃんと分かると思います。

*小さい時に、心を動かす絵本に出会い、想像力を働かせる経験をすることは、子供の感性を豊かにすると思います。

 

大小田さんが生き方を含め尊敬している先輩について、「リスペクトする理由は、その人独自の世界観があるところ。作品を観たらその人の作品だなと分かる。生き方も全てがかっこいい。」と語っていたが、大小田さんの作品にも「あっ、大小田さんの藍染作品だ。」と分かるような美しさや世界観がある。繊細な描写と勢いのある線の生み出す〈生きものたちの存在感〉。自然の美しさや神秘。神話や伝承、祈りや祭りに込められたパワーやユーモア。よろずのものへの優しいまなざし。想像の泉からこんこんと湧き出る物語。〈生きとし生けるものの生命の讃歌〉が聞こえてきそうな作品世界である。

いつか世界中の人々に大小田万侑子さんの作品が鑑賞され、また、生活の中で役に立つ作品としても愛される日が来ると信じている。まずは、修了展で多くの方にその作品世界を味わっていただきたい。

 

大小田さんのウェブサイト

 

取材:アート・コミュニケータ「とびラー」

インタビュー:鈴木 優子 大川 よしえ ふかや のりこ 原田 清美

執筆:原田 清美

撮影:峰岸優香 (とびらプロジェクト アシスタント)


第66回東京藝術大学 卒業・修了作品展
2018年1月28日(日)- 2月3日(土) ※会期中無休
9:30 – 17:30(入場は 17:00 まで)/ 最終日 9:30 – 12:30(入場は 12:00 まで)
会場:東京都美術館/東京藝術大学美術館/大学構内各所


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