東京都美術館× 東京藝術大学 「とびらプロジェクト」

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2020.11.21

【開催報告】11月の建築ツアー

日時  |2020年11月21日(土) 14時00分~14時45分(ツアー実施)
場所  |東京都美術館
メンバー|参加者(事前申込)14名、とびラー11名、スタッフ5名

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ほのかな日差しのぬくもりが身に染みわたる11月の第三土曜日。本年度3回目となる「とびラーによる建築ツアー」が実施されました。今回もガイド&サポート役のとびラー2名と参加者2、3名の少人数グループに分かれ、東京都美術館(以下、都美)の建築をそれぞれの切り口から味わいます。

 


11月の建築ツアーでは、とびラー7期の井上夏実さんが進行役をつとめるグループにフォーカスします。

 

井上さんが目指すのは、「その場にいる人」が楽しめるツアー。

進行役となるとびラーから参加者へ都美の建築に関する知識を一方的にお伝えするのではなく、グループのメンバー同士で建築を介した双方向的な対話を行うことで、それぞれの眼から建築の魅力を発見していけるような場づくりを心がけているそうです。

 

今回は、井上さんのツアーの要となる「アイスブレイク」と「建築クイズ」のふたつに焦点を当て、実際の様子をお届けします。

 

◆アイスブレイク--その場の人をしる時間

 

はじめに紹介するのは「アイスブレイク」の様子。

 

アイスブレイクとは、はじめて出会った人同士の緊張感を、簡単な自己紹介やゲームによってときほぐすことを指します。建築ツアーでは、プログラム開始直前、グループのメンバーが揃いツアースタートを待っているタイミングで行われることが多いようです。


アイスブレイクの時間は、井上さんのガイドにとって欠かせないものです。

 

このグループの参加者はベビーカーのこどもを含めて4名。まずは、それぞれのお名前とツアーに申し込んだきっかけを伺います。

 

新聞に掲載された記事をみて、応募が始まってすぐ申し込まれた女性。普段から美術館の建物に関心を抱いている女性。建築系の研究者である配偶者かの紹介で参加した女性とベビーカーのお子さん。

 

井上さんいわく、このように状況を細かく把握できたタイミングで「もともと美術館や建築に興味を持っている方々だから、親しみやすい話もしつつ、押さえるところは押さえといたほうがいいのかな」と考え、もともと組み立てていたツアーのコースや話す内容を参加者に合わせて調整した、とのことでした。

 

頭の中に用意した台本をそのまま読み上げるのではなく、そこにいる人に合わせて、細かいところは臨機応変に整えていく。

「その場にいる人」を大切にする井上さんならではの工夫と言えそうです。

 

◆建築クイズ--自分で考えて、みつめる


次に紹介するのは「建築クイズ」の様子。

アイスブレイクを終え、正面エントランス外の中庭まで移動したところで、「ここでクイズです!」と井上さん。

 

グループ全員で見上げているのは、“東京都美術館”という看板の上部から右斜め上に向かってなだらかにのびる曲線。

これはオイルショックの影響を受け、次のセメントが注ぎ足される前に下のセメントが固まってしまった、という着工当時のハプニングの痕跡です。

 

今回クイズになったのは、この線を目にしたときの都美の設計者・前川國男のコメント。井上さんが示した選択肢は3つ。 

「①ケーキの層みたいで美味しそう、②ボクシングの傷のようでカッコイイ、③アルプスの稜線みたいで趣がある。正解はどれでしょう?」

 

井上さんの掛け声に合わせ、参加者が指の本数で示した回答は三者三様。

それぞれの参加者にその答えを選んだ理由を尋ねると、「①…いわれてみれば、たしかにケーキみたいに見える」「②…石を削ることとボクシングに近いものを感じる」「③…建築家の言いそうなことだと思った」など、各々の視点から選択肢が選ばれたことが分かりました。

 

正解は③。しかしながら、このクイズのねらいは必ずしも正解へ辿り着いてもらうことだけではありません。

 

建築をじっくり見て、気づいたことを自分の言葉で表してみる。

そのための手がかりとして、井上さんの「建築クイズ」は機能しているようです。

 

井上さんのツアーでは、はじめの三者択一クイズだけでなく、二者択一式、自由回答式など、ツアーの要所要所でクイズが出題されます。

 

ツアー終盤に盛り込まれた、天井にある四角い装飾の用途(正解は釘隠し!)を尋ねる自由回答クイズのときには、参加者全員がためらうことなく回答するなど、すっかり打ち解けた空気が感じられました。

◆参加者のようす

 

ツアーの後半、参加者は自らの目で建築の魅力を発見しはじめたようです。

 

たとえば、新聞をみて申し込んでくださった参加者の方は、公募棟にいるとき「ここの絨毯とさっき見た柱(=はつりコンクリート)のピンクベージュがつながっているみたい」と、大きな窓越しに見える中庭を指さしながら、その場の人々に気づきを共有してくださいました。

 

また、もともと美術館の建物を見るのが好きな方は、エスプラナードから中央棟へと移動するとき、企画棟との間に見えるイチョウの木と打ち込みタイルの色の対比が気に入ったそうで、井上さんの話しを聞いたあと、少しだけその場に残り、スマートフォンで写真を撮っていました。

今回のグループのメンバーは、親子連れをのぞいて初対面同士。はじめは緊張感もありましたが、45分の建築ツアーの中で、互いの発見に笑顔で耳を傾けあえるアットホームな場となっていました。

 

井上さんによる「その場にいる人」をしっかりと見つめ、その人たちに合わせてツアーのコースと内容を丁寧に調整したからこそ、このようなツアーが生まれたのだとわたしは考えています。

 

次回、今年度ラストの建築ツアーは3月中旬に開催予定。(1月のツアーは新型コロナウイルス感染症拡大防止のため開催中止。)

井上さんをはじめとする7期とびラーにとっては、開扉(とびラー任期三年間の満了)前の最後のツアーとなります。

それぞれの学びが次回のツアーにどう反映されるのか。しっかりと見届けたいと思います。

 

(東京都美術館インターン 久光 真央)

 

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