2019.08.07
2019年8月7日(水)、学校向けプログラム「うえのウェルカムコース」に飯能市立飯能第一中学校 美術部の生徒たちが参加しました。1~3年生の計14名は夏休み中の部活動の一環として来館。東京都美術館で開催中(〜10月9日)の企画展『伊庭靖子展 まなざしのあわい』を鑑賞しました。
東京都美術館のアートスタディルームで生徒たちを迎えるのは8名のアート・コミュニケータ(愛称:とびラー)。今日の活動を共にする冒険のパートナーです。とびラーは親でも先生でもないフラットな立場の大人として、生徒たちと関わり学びあいます。活動全体を通して生徒たちの発見や気づきに耳を傾け、対話を通した作品鑑賞の伴走をします。
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2019.07.31
2019年7月25日(水)私立ドルトン東京学園の中学生21名と教員2名が学校向けプログラム「うえのウェルカムコース」に参加しました。東京都美術館で現在開催中の(〜10月9日)企画展「伊庭靖子展 まなざしのあわい」を鑑賞しました。開館してすぐの美術館の入り口で集合した子どもたちを、7名のアート・コミュニケータ(とびラー)とスタッフで迎えました。
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2019.07.29
アクセス実践講座・第2回
「海外にルーツを持つ子供の現状と課題 言葉、文化、制度、心の壁に囲まれたこどもたち」
日時|2019年7月27日(土)9:30~12:00
場所|東京藝術大学 第3講義室
講師|田中宝紀(YSCグローバルスクール)
全8回で構成されるアクセス実践講座の第2回目を行いました。場所は、東京芸術大学の第3講義室です。第2回目は、YSCグローバルスクールの田中宝紀さんを迎え、海外にルーツを持つ子どもたちの現状と社会的課題についてお話を伺いました。
入管法改正、技能実習生、外国人観光客など、オリンピックイヤーに向けて、外国人についての報道が増加しています。東京都内でも外国人に出会う機会が増えたのを実感として感じるようになりました。
世界規模で国際化の進む中、日本では未だに移民として外国人を受け入れる制度が整わず、日本に住む外国人は「在留外国人」として不安定な状況を強いられている方が多くいます。中でも海外ルーツで多様な背景をもつ子どもたちの中には、言語的な支援がなく十分な教育を受けられないという状況が生まれていることも少なくありません。
YSCグローバルスクールは、NPO法人青少年自立支援センターが運営する、海外にルーツを持つ子どもと若者のための専門的教育支援事業です。2010年度より東京都福生市を拠点として、数十カ国にルーツを持つ子ども・若者たちを年間100名以上受け入れ、日本語教育、学習支援、不就学・不登校、高校進学希望のこどもたちの支援を行っています。
言葉、文化、制度、心の壁
田中さんは現在の状況についてこう説明します。
「入管法の改正により、5年間で35万人の外国人受け入れという報道を聞き、外国人がどんとやってくるイメージを持つ人多いと思います。しかし外国人は2018年にはすでに日本に273万人いて、外国人増加は今に始まったことではありません。
また、外国人と日本人という区別を前提としていると、見えてこない問題があります。日本国籍でも日本語を母語としない子どもや、日本語しか話せなくても日本国籍を持っていない子どももいます。国際化が進む中で「日本人」自体も必然的に多様化しているのです」
田中さんは現場での支援に加えて、インターネット上で海外ルーツの子どもたちの現状や課題を広く伝える記事を執筆するなど課題の社会化にも取り組んでいます。現状と課題をシンプルに書いた記事に対しての反響が大きく、それだけ情報がなかったことを物語っていると感じられたそうです。
知らないということから生まれる誤解や差別。法整備や制度がない整っていないことにより、支援やセーフティネットが行き届かないという、制度や心の壁に幾重にも阻まれているのが、海外ルーツの子どもたちの現状と言えそうです。
遅れる日本語支援
子どもたちへの言語の支援についての現状を田中さんはこう説明します。
「勉強がわからないのではなく、言葉がわからない。言葉の壁のせいで本当はわかることもわからなくなる。けれど、日本語教育の支援が受けられないために、勉強ができず、授業が苦痛になり、友達とのコミュニケーションも取れずに学校での居場所を失って行く。学校に行けなくなることは、子どもたちにとって社会との接点を失うことに繋がります。
日本人の高校進学率は現在ほぼ100%ですが、海外ルーツの子は70%台。高校中退率も高く、日本人の7倍と言われています。
また、低年齢で来日した子どもは、母語の力が伸びないことも問題です。母語の柱が揺らぐと抽象的思考が難しくなり、理科の力や光、xをyに代入するような概念的なことを捉えることが難しくなります。思春期のときに心の悩みを自分の言葉で思考することができず、自分と対話が難しくアイデンティティのゆらぎに繋がることもあります」
言語の獲得は、このように子どもたちの居場所やアイデンティティの形成にも関わる喫緊の課題ですが、その支援は遅れています。
「日本語がわからないこども4万千人のうち1万人以上が学校で無支援となっています。理由は指導者がいないから。こどもを学校に受け入れておきながら支援しないのは人道的問題です。東京周辺は比較的NPOの支援を受けている可能性もありますが、外国人散在地域での支援の空白が課題になっています」
YSCグローバルスクールの日本語支援
「YSCに来る子どもたちは、日本語がわからず勉強についていけない、高校進学したい、いじめなどで学校に行けなくなった、など幅広いニーズがあります。社会に中に居場所がないこどもたちも少なくないです。授業は基本的に日本語。日本語を学んだあとそれぞれに応じた学習支援を受けられます。
数学の授業では計算力をつける前に、日本語で数学を学ぶことに慣れていきます。英語はできるのに、日本語で英語の勉強しなければならず理解できないという本末転倒の状態も生まれているのが現状です。YSCでは、学校や日本社会に適応するためのサポートをします。フリースクールと日本語学校を掛け合わせた感じです。
生徒には6歳から30代くらいまでの人がいて、10代半ばが最も多く年間100~120名くらい集まります。日本語レベルはそれぞれ。神奈川や埼玉、千葉からの受け入れ実績もあり、それだけ日本語を学ぶ場が限られているということの表れだと思います。フィリピン、中国、ネパール、ペルーがルーツの子が多く、これまで750名37カ国以上のこどもたちを支えてきました。
普段の授業はデジタル化を進めています。2016年11月からは中3の進学支援をオンラインで実施し、全国各地の子どもたちに支援を届ける取り組みを始めています」
やさしい日本語
外国人や海外ルーツの子どもたちとのコミュニケーションのために、今注目されているのが「やさしい日本語」です。今回のレクチャーでは、やさしい日本語について理解するためのグループワークを行いました。
田中さんから、練習問題として会話の内容の一文が出題され、日本語があまりわからない方に対して伝わる「やさしい日本語」に書き換えます。
難しい単語や言い回し、婉曲した表現を避け、相手が行動をしやすくなる伝え方を心がけることが大切です。書く体裁も、単語と単語の間を空けたり、イラストや表を使うなど、少し気をつけることで、伝わりやすい日本語にすることができます。
***
質疑応答では、とびラーからたくさんの質問・感想が寄せられました。
現状を全く知らなかったという驚きの声や、貧困問題としての側面に関しての質問、移民政策についての質問などです。
最後にとびラーから寄せられた質問は、「YSCグローバルスクールで実際に子どもたちの指導にあたる専門家の育成をどのように行なっているか」というものでした。それに対する田中さんの答えからとびラーの活動にも通じるものを感じました。
田中さんは言います。
「目の前のこどもを救うことも大事ですが、みんなでひとつの大きなミッションを共有することが大事だと思っています。木を見て森を見ずだと行き詰まってきます。『社会を変えられるかもしれない』というやりがいをみんなと話し合うことを大切にしています」
(東京芸術大学 美術学部 特任助手 越川さくら)
2019.07.20
第1回目に続き、今回は都美のある土地「上野」に視野を広げ、文化発信拠点として育ってきた上野公園の歴史的成り立ち・背景・建築についてを学んでいきます。
ゲスト講師は、建築史家の伊藤毅先生(青山学院大学教授・東京大学名誉教授)です。
上野公園には、様々な文化施設をはじめ、他にも石碑やお寺など、歴史的痕跡も多く残されていいます。今回は、時代ごとの地図も使い、寛永寺を中心とした公園とその周辺地域全体との関係性も俯瞰しながら、私たちの活動のフィールド・上野公園をみていきます。
講座前半は、場所の歴史と建築についてのレクチャーです。
「上野という場所は、話題要素がとても多いところ。簡単にまとめることは難しいが、今日は私の視点で、荒野、墓所、名所と盛り場、戦場と墓碑、公園と博覧会、博物館とし、の6つの段階でお話します。上野の変遷をぜひ皆さんの目で確かめてください。」
・荒野
16世紀の上野の地形の地図が映し出されました。上野は、武蔵野台地で、いくつか海に張り出している半島があるうちの、一番上側に位置しており、そのせり出した上野大地、と本郷台地の間の谷が不忍池と重なっており、長い時間をかけて土地の形が変化していることもわかります。上野大地、本郷台地いずれも、地質の時代区分でいうと280万年前~10000年にあたる「更新世」の時代で、その上に上野が立地しているそうです。
上野の名前の由来についても触れられ、そのキーワードとなったのが「荒野」でした。
現在も周辺には墓地が多く残りますが、かつては雑木が茂り人跡がなくなる場所であったこと、戦争などの歴史の中で荒野に戻ってしまったことなど、今の賑やかな上野公園からは想像もできない姿を想像されられます。
・墓所
続いては「墓所」について。上野公園にもかつてはて円墳群が存在しており、一帯が墓所だったそうです。「擂鉢山古墳」はその中でも削られずに残った唯一の場所で、現在も行くことができます。
現在の博物館・美術館の場所は、多くは古墳があったところで、都美が位置する場所にも古墳がありました。
・名所と盛り場
徳川家康によって江戸の城下町がつくられる際、その「お寺を中心としたまちづくり」を進めた天海という僧にお寺を営む場所として、上野の土地が与えられました。その後、比叡山を模して東叡山という名前がつけられ、風水も取り込まれながら徐々に整備されていきます。なぜ京都を模倣したのかは不明だそうですが、寛永寺の門前町として切り開かれていることが江戸初期の地図を見るとわかります。
そして、「広小路」という地名の由来として、日本で最初の広場的空間であったことがあげられました。こういったところに盛り場が形成されたそうです。
・戦争と墓碑
上野は、戊辰戦争の中で幕府方彰義隊が上野に立て籠もり、新政府軍と激戦した場所としても知られています。彰義隊墓所の位置の背景や、戦争ののち再び「荒野」に戻ったこと、そして、現在顔面部のみが残る「上野大仏」の歴史についても語られました。
・公園と博覧会
戊辰戦争ののち、東京府によって管理されるようになった上野公園には、学校が設立される案があがります。東京大学東校教授をつとめたアントニウス・ボードワンの反対により、公園として利用することが決まり、東京5公園のうちのひとつに指定されます。
明治10年に開催された内国勧業博覧会によって日本で最初の美術館の登場したり、その後は本格的に博物館や図書館など、現在の上野の文化発信拠点に繋がる歴史となっていきます。
・博物館都市
そして最後は、「博物館都市」としての上野をみていきます。東京国立博物館の前身である帝国博物館にはじまり、国立科学博物館や、西洋美術館、東京文化会館、そして前川國男による東京都美術館などが100年ほどの歴史の中で次々と建てられていきます。
レクチャーはここまで。6つの視点から段階的に語られた上野。レクチャーの最後には、戦争や災害によって変化が起こるその性質を「荒地性」や「領域性」、上野台地の地形と時代の先端や入口としての歴史を重ね「岬性」という言葉でまとめられました。
後半は地図を使って土地を読み解くワークです。
現在、明治初期、江戸の3つの時代の上野地域の地図が配られます。
色鉛筆を使い、道、寺社、武家地、町人地、それぞれの色ごとに塗り分けていきます。
読み解き方が何回な地図でも、色分けをし、時代ごとのものを見比べてみると、重なるもの、あるいは変わった部分がよくわかります。
*
地図を片手に、レクチャーを思い返しながら、改めて上野を歩いてみたくなる回となりました。
建築は、都市やまちとの関わりの中で生まれ、その特性や影響が多分に反映されているものです。建物への関心や親しみを、それが立つ土地にも広げ、今後のプログラムや活動などにもつなげて行くことができればと思います。
(東京藝術大学美術学部特任助手 大谷郁)
2019.07.08
鑑賞実践講座・第1回
「アートを誰かと一緒にみる力の幅を広げ、アートや文化の共有の仕方を多面的に考える」
日時|2019年7月8日(月)13:30~16:30
場所|東京都美術館アートスタディルーム
講師|稲庭彩和子さん(東京都美術館学芸員 アート・コミュニケーション係長)
冒頭、稲庭さんから、これからの美術館の役割が語られました。
「多様な文化や価値観が肯定的に扱われ、それを鑑賞する(Appreciate/正しく受け取る)ことができる場としての美術館。そこでは鑑賞するための積極的なコミュニケーションを通して共同的に学び合う場がある。そういう未来を目指していきたいと思っています」
そして、今年の鑑賞実践講座の目標を発表します。
⑴見る力をつける
視覚を使って物事を捉えることの幅を広げるには、ある程度のエクササイズが必要になります。佐伯胖さんという認知心理学者のテキストを紹介し、作品を鑑賞する見方に「Appreciation」と「Evaluation」という方法があると、稲庭さんは説明します。
「Appreciationは主観を大切に見ていく見方、Evaluationは批評的に分析して見ていく見方です。美術館のキャプションはEvaluation的な見方で書かれていることが多いです。どちらもバランスをとって見ていくことで鑑賞が深まっていきます」
読書をする時、読み終わって「面白かった!」と感じるだけでなく、じっくりと分析的に“精読”する方法があるように、作品を見る時にも、深く味わったり、読み解くように見ていくことができます。その方法を一度学ぶと、自分でも作品を深く楽しんでいくことができるようになります。
では、どのように作品を“精読”することが可能なのでしょうか。まずは、作品がどのような“要素”から成り立っているのか、複数の人の目で見て考えるワークを行いました。
<この作品にどんな“要素”があるか、考えてみてください>
ー どんな“要素”があるか…?
聞きなれない質問を問いかけられ、一斉にとびラーの頭の上に「?」が浮かびます。
作品の上に視線が注がれ、次第にみんなの口が開き始めました。
「全体が雲に囲まれているなと思いました」
稲庭さんが、意見を受け取ります。
「はい。雲に囲まれている。ここに描かれている“状況設定”についての意見ですね」
その意見を皮切りに、作品の中で“起こっていること”や、“どんな物に何で描かれた作品か”など、様々な視点・要素が語られました。その意見を稲庭さんが【それは作品のどの要素か】という視点で分類していきます。
<作品の要素>
「たくさんの人が遊んでいてぶつかりそう」→【状況設定】
「羽子板大会」→【テーマ】
「全員着物を着ている」→【描かれている人物の服装】
「何でできているか、描かれているか」→【画材】
「おそらく日本」→【国】
「色あせている感じ。これは屏風?掛け軸?」→【支持体】
「俯瞰した視点で描かれている」【作品が描かれた視点・画角】
「赤いモチーフが多い」→【色彩】
「作者が自分が描きたいと思ったのか、それとも依頼されたものか」→【作品が生み出された背景】
作品の中には、描かれたものやストーリー、画材や構図、作者の意図などの“要素”が幾重にも重層的に含み込まれています。どんな要素に気づくかは人それぞれ違い、その視点のバリエーションが、複数の人で作品を見ることの面白さにもつながります。また、他の人と鑑賞をすることで自分以外の人の視点にきづき、主観と客観を分けて見ていくことができるようになります。
⑵場づくりの基本を知る
目標の2つ目に紹介された「鑑賞」のための場づくりについて、
「安心と集中が大切です」
と稲庭さんは言います。
「作品の中に入っていくということは、気持ちが「開いている」状態でないとできないことです。自分を守りたいという心理状態、「閉じている」状態では、「appreciationの波に乗る」ことができません」
この講座の中でとびラーは、ともに鑑賞する人々が気持ちを開いて集中している状態になれる鑑賞の場づくりについて学びます。
⑶アート・コミュニケータのあり方への理解を深める
この講座では、VTS(Visual Thinking Strategies)の考え方も学びながら「見る力」を身につけることを目指します。どんな人と、どんな場所で共に作品を見るのか。それぞれの鑑賞の「場」を作っていくことも重要です。この二つを学ぶことを通して、「とびらプロジェクト」の考え方やミッション、「こんな方向性でみんなでやっていこう」という哲学やあり方を理解していくことを目指します。
<実際の映像を見て考える>
講座の後半では、子どもたちが作品を鑑賞することを通して、コミュニケーションをしたり、自分の考えを創造していく、実際に行われたプログラムの映像を観て意見交換を行いました。
とびラーからは、
「一緒に鑑賞していく人同士の関係性が大事になってきそう」
「鑑賞とは何か。経験によって精度が上がるように思う」
「今までは作品を“消費”していた。実物を目にすることで満足していた。AppreciationもEvaluationも現時点で自分には足りていないかも」
「子どもたちが、作品に出会いつつも“作品に出会う自分自身”にもう一度出会い直しているということが動画を通してわかった」
などの感想が発表され、稲庭さんとのセッションが行われました。
「作品を鑑賞すること」について考えることで、アート・コミュニケータとしてのあり方を学ぶ1年間の講座。講座の中、そして実践の場を通してとびラーもスタッフも一緒に学んでいければと思います。
(東京藝術大学美術学部 特任助手 越川さくら)
2019.07.07
アクセス実践講座・第1回
日時|2019年7月7日(日)13:30~16:30
場所|東京藝術大学第3講義室
テーマ1:「ミュージアムにおけるダイバーシティと合理的配慮」
講師:稲庭彩和子(東京都美術館 学芸員 アート・コミュニケーション係長)
テーマ2:「経済格差と子どもたちの文化的状況」
講師:松見幸太郎(NPO法人キッズドア 事務局長)
全8回で構成されるアクセス実践講座の第1回目を行いました。場所は、東京藝術大学の第3講義室です。第1回目は、美術館がすべての人に開かれた場となるための講座のコンセプトへの理解と、実際にアクセシビリティの障壁となっている社会的課題について、とびラーみなさんが思考を始める機会となりました。
レクチャー1
稲庭彩和子(東京都美術館 学芸員 アート・コミュニケーション係長)
「ミュージアムにおけるダイバーシティと合理的配慮」
東京都美術館 稲庭さんのレクチャーでは、なぜとびラーが美術館のアクセシビリティについて学び、行動していくことが必要なのか、この講座のコンセプトとも言える内容が語られました。
人々が文化に接続することの価値と権利、文化施設が担う社会包摂的機能への関心の高まり、すべての人に開かれた美術館に必要となる合理的配慮の考え方についてお話を伺い、とびラーがアクセス実践講座を通して考え、実際の活動を作って行く基礎を築く時間となりました。
レクチャー2
松見幸太郎(NPO法人キッズドア 事務局長)
「経済格差と子どもたちの文化的状況」
続くレクチャーでは、NPO法人キッズドアの松見さんからお話を伺いました。講座の目標である「具体的な社会課題に関わる状況、活動を知ることにより、美術館に行くことが難しい人が来館し、利用するために必要な支援を考える」ため、大切な一歩となりました。
キッズドアは、子どもの貧困という社会的課題に対して学習支援という形でアプローチを行なっている団体です。ミュージアムスタートあいうえの「ミュージアム・トリップ」プログラムでこれまでに何度か連携し、子どもたちととびラーが一緒に上野の文化施設での活動を行なっています。(2016年度、2017年度、2018年度)
2015年の厚生労働省の統計で、日本の7人に1人の子どもが貧困状態にあるという数値が示されました。キッズドアは、「すべての子どもが夢と希望を持てる社会」の実現に向けて、学習支援を基幹事業とし、学び直し事業や全国での地方創生事業などを展開しています。2018年度には、のべ1800人の子どもたちに1900人の登録ボランティアが多様なロールモデルとして関わり、学習支援を行なったとのこと。親の経済状況により、子どもが貧困に陥り、学習ができない状況がまた新たな貧困を生む「貧困の連鎖」の輪を断ち切るための取り組みがなされています。
経済的に不利な状況にある子どもたちは、文化的資源の不足や、体験の不足も顕著なため、文化施設で出会う多様な大人「とびラー」との活動「ミュージアム・トリップ」は貴重な機会であるとの嬉しい言葉もいただきました。
ソーシャルセクターの活動団体として、国や行政に頼るのではなく、自分たち一人一人の責任として社会的課題の解決に取り組むこと。そのために、事業や活動の価値の可視化と持続可能な運営をして行くことの重要性も語っていただきました。今新たに、行政や企業とコンソーシアム(共同事業体)を作り、生活困窮者世帯に食品パッケージをアウトリーチ型で届けるというモデル事業を展開しているとのこと。「全国的にどこの自治体でも真似してもらって大丈夫です、というところまで作り上げるのが私達の目標」と語る松見さんの姿に、課題解決に向かう上でより大きなビジョンの元で活動を展開していく力強さを感じたお話でした。
最後に、とびらプロジェクトのマネージャである東京藝大の伊藤達矢さんから、とびラーに向けてのメッセージが伝えられました。
「実践講座は、講座と銘打っていますが、実はこれ、ミーティングだと思うんです。皆さんと我々とそしてゲストに来てくださる方々の。社会にとっては非常に小さなミーティングかもしれないけど、これだけの人数でやることを考えると非常に大きい。自分たちの活動を作っていくための大事なミーティングの場であるというのが本質的なところだと思います。なので、講座を受けるというようなスタンスというよりは、一つ一つの我々の活動を作っていく大事なミーティングで場であるというような認識でこれから1年間実践講座に取り組んでいけたらいいと思います」
これからの1年間、みなさんと共に考え、活動を作っていきたいと思います。
(東京芸術大学 美術学部 特任助手 越川さくら)
2019.06.29
6月29日(土)、本年度1回目の建築実践講座が行われました。
約50名のとびラーとともにスタートを切った本講座、3年のうちで初めて参加する方も多くいます。
初回は、講座の目標を共有するとともに、活動拠点である東京都美術館(以下、都美)の建築と歴史について学んでいきます。
建築講座の目標
「建築空間を通して生まれるコミュニケーションの場づくりについて考え、プランを実践する。」
鑑賞、アクセス、建築の3つの実践講座が、それぞれ鑑賞が作品との出会い、アクセスがそこに来る人々の回路だとすると、建築は作品や人々が集うための空間。建築空間の中で営まれる私たちの活動は、多分にその作用を受けており、そこでの体験づくりを考えていく際に重要な要素です。
年度の初回である今回は、「都美の建築と歴史」を知ることを通して、まずはそれぞれが活動拠点に馴染み、空間を生かした人々の体験を考えていくことに繋げていきます。
前半は、都美学芸員の河野さんによるレクチャーです。
都美の歴史や建築家の人生を辿りながら、建物のデザインの特徴やそれらが生まれる背景をお話いただきます。
●「都美の建築と歴史」
レクチャーは、現在の上野公園の航空地図を見て、上野公園の中での位置関係を把握するところから始まりました。
時代を遡り、美術館が東京”府”美術館だったときの地図と見比べてみると、現在都美が建つ場所ではなく、隣の敷地に建てられていたことがわかります。
大正15年、現在の美術館が建つ隣の敷地に開館した東京府美術館(以下、旧館)。
九州の石炭商、佐藤慶太郎という人物の寄付により、設立が叶います。
佐藤はたまたま出張で東京に来ていた際に新聞の社説を読み、美術館の存在意義を自覚。建設のための予算が十分ではなかった東京府に100万円(現在の約33億円)を寄付しました。
入り口の大階段が印象的な設立当時の建物は、岡田信一郎の設計によるもの。
旧館時代の館内の写真がいくつかプロジェクターで映され、当時の雰囲気を感じ取ることができます。
「これは食堂の写真。壁や椅子、メニューなど、細かいところを見ながら、食事はどんなものだったのか? ウエイターさんはどんな雰囲気だったか?、いろんな想像を巡らせることができますね。」
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幾度かの増築を経ながらも、それを前提としない建物だったため、展覧会を数多く催し大勢の来場者を迎えるには手狭になってしまいます。
そこで、環境の改善も含め、建築家・前川國男の設計による新しい建物が、旧館の隣の敷地に建設されます。
新館には、3つの機能が求められました。
1. 常設・企画機能:企画展示室
2. 新作発表機能:公募展示室
3. 文化活動機能:交流棟
機能ごとに分かれた建物の配置は、前川國男の設計に通底する「敷地の中に小さな街をつくるイメージ」とも繋がります。
前川は「美術館は非日常の場所。少し迷うくらいがよい。」とも考えていたそうです。
建物優位ではなく、場所に対してどう人が過ごす空間を担保できるかを重視して設計していたそうです。
労働力不足や長雨、オイルショックなどで工事が遅れながらも、昭和50年に完成します。
当時の写真を見ると現在とそっくりの外観ですが、正門の前には段差があったりと、2010〜2012年のリニューアル時に改修した部分がわかります。
改修のポイントは「前川デザインの継承しつつも、時代にあった設備にする」ことだったそうです。
・
レクチャーでは、前川國男の人生についても語られました。
生い立ちや思想など、都美をはじめとする彼の作品がいかにして生まれたかを読み解いていきます。
参考資料|とびらプロジェクト オープン・レクチャー アーカイブ
Vol.6「青木淳が語る前川國男―中心のない建築:彼の目指したデザインとは?」
登壇者|青木 淳(建築家/東京藝術大学 建築学科 客員教授)
Vol.2「人間・前川國男を語る」
登壇者|佐藤 由巳子(前川國男 元・秘書/佐藤由巳子プランニングオフィス主宰)
●とびみるタイム
講座の後半は、自分たちそれぞれの目で都美の建物を見にでかける時間です。その名も「とびみるタイム」。
まずは、レクチャーの話を受けて、これまで都美で過ごす中で、気になったところを1つと、そしてその理由をあげてみます。実際に出かけて、色、形、素材、人の動きを観察してみます。
ポイントは「何を思って建築家はこの場所をこういう風にしたのか」考えることです。まずは自分で想像したり、建物、空間のチャームポイントを見つけるように、その場をよく観察してきます。
実際に見て戻ってきたら、気になったところが同じ人同士でグループをつくり、気づきをシェアします。
次に、グループで話したことを聞いていきます。
グループから出たポイントを、マップにも落とし込んでいきます。それぞれどんなものを見てきたのでしょうか。いくつかご紹介します。
・公募棟
静かでいいところ。森の中にいるような感じで過ごせる。メリットとしてある「全て同じ空間であること」が迷いやすさの原因になっているのが面白い。
・おむすび階段
なぜ形が三角形なのか考えてみました。階段を使う人の動きがリズミカルで楽しそうです。非日常を体験できる場所なのかも。
・動線
→展示室に行くまでにぐるっと回って降りて行くアプローチがある。急いでいる時はイライラするかもしれないし、時間があるときはダンジョンのよう。回遊性とアクセシビリティのバランスを考えました。
リニューアル前後で動線がどのように変わったかも気になった。
・動線
→屈折が続くことで人の流れによどみが生まれていて、デッドスペースで休んでいたり、休むことが許される、空間としての落ち着きが生まれていると感じました。曲がってくねくねしていることで留まれる場所が生まれる。迷っている感じがあるのに、気づけば到着している。
作品を見ている自分だけではなく、見られている自分も存在する。空間の中で迷わされている感覚すらあります。
他にも沢山の意見がでました。
マップには、いろいろなところを見て来た視点や気づきが記録されています。
建築や歴史の専門的知識ではなく、まずはその空間を体感する自分の感覚からはじめることを大事にしています。
今後の講座や実践の場も、今回の自分の視点をもって参加してもらいたいと想います。
講座の最後は、プログラム事例の紹介です。「建築ツアー」をはじめ、「視覚障害のある方のための建築ツアー」や、Museum Start あいうえのの「うえの!ふしぎ発見!」など、これまでとびらプロジェクトやMuserum Start あいうえので行われた、建築をテーマとする、あるいは要素として組み込まれたプログラムを、紹介しました。
実践講座がはじまり、これから様々なプログラムや実践の場もスタートしていきます。私たちは日常の多くの時間を建築空間の中で過ごします。まずはその建築に目を向けて、味わってみる。感じたことや発見を大切に、その場の特性を生かしたコミュニケーションの機会や場を作っていく。これが、建築実践講座が目指すことです。
今年もどんな活動に結びついていくのか楽しみです。
(東京藝術大学美術学部特任助手 大谷郁)
2019.06.22
基礎講座の最終回となる第6回のテーマは、「活動の舞台を知る」。
とびラーの活動の舞台である上野公園の文化施設や、社会の中の様々な人と美術館のつながりについて学びます。
講師は、とびらプロジェクトのアドバイザーでもあるアーツカウンシル東京の森司さん。そして、東京藝術大学教授の日比野克彦さんも中継で出演します。
冒頭は、伊藤さんから導入のお話です。
様々な場所で人と作品をつなぐ役割をしている開扉したとびラーの例をあげながら、アート・コミュニケータの役割と活動の場について考えます。
【午前】
午前中は、日比野さんの中継と、森さんから社会におけるアートの役割についてお話です。
日比野さんは、Diversity on the Arts Project (DOOR)のメンバーとともに福島のJヴィレッジからの中継です。
日比野さんの後ろには、色あざやかなマッチフラッグが見えます。
東日本大震災の影響により閉鎖されていたサッカーナショナルトレーニングセンターのJヴィレッジは、今年4月に全面再開を果たしました。
この日は、U-18東南アジア選抜(ASEAN ELEVEN)対 東北選抜の国際親善試合「JapaFunCup(ジャパファンカップ)」が行われ、開幕式にマッチフラッグが登場します。
マッチフラッグは、サッカーの試合を行う国々の国旗イメージを合わせて作るオリジナルの応援フラッグです。
日比野さんは、2010年よりこのプロジェクトを継続実施しています。
震災復興のシンボルとなったこのスタジアムから、日比野さんは「午後のワークで上野公園の各館・各所をめぐるとき、東北の玄関口としての上野・アジアのつながりとしての日本という場所や、自然への畏怖の念を忘れないことなどをキーワードにしてほしい」ととびラーに投げかけました。
続いては、元水戸芸術館の学芸員で、現在はアーツカウンシル東京の事業推進室事業調整課長の森さんから「社会における美術館の新たな役割」についてのお話です。
森さんは自己紹介のあと、建築家の佐藤慎也さんが書かれた美術手帖(電子版)の記事「シリーズ:これからの美術館を考える(7)『第四世代の美術館』の可能性」を映し出しました。
この記事の中で佐藤さんは、建築家の磯崎新さんによる「美術館の3 つの世代論」を引用しています。
磯崎さんの論によると、美術館は
①第一世代:ルーブル美術館のような、王侯貴族の私的コレクションを公開するための装飾ゆたかな空間
②第二世代:白い展示壁面を持った、ホワイトキューブと呼ばれる均質な空間
③第三世代:作品と建築が一体となったサイト・スペシフィックな美術館やリノベーションによる美術館
の3世代に分けられるとしています。
佐藤さんは、この磯崎さんの論をもとに「第四世代の美術館」を考えました。
これまでの美術館はものを展示するための空間でしたが、これからの美術館は「人が含みこまれた作品のための美術館」を意識することで、大きく開かれるのではないかという提案です。
森さんは、佐藤さんが示す「第四世代の美術館」ととびらプロジェクトの活動を重ね合わせ、人を中心に見た文化施設としてのあり方(ヒューマンインターフェース)について考えを促します。
第三世代の次にどのような美術館が現れるかという議論の分岐点は、作品を主語で見るのか、そこの美術館に関わる人で見るのかということによって分かれていくだろう、と森さんは読み解いています。
さらに森さんは「ニューヨーク公立図書館」というドキュメンタリー映画を紹介しました。
この映画は、単に本を読む場所というだけではなく、まだ図書館に出会ったことのない人が豊かな経験をしていくための「開かれた図書館」としての活動や工夫を描いています。
美術館の中におけるとびラーの活動を、よりゆたかに、しなやかにしていくためのヒントになるのではないかと話しました。
次は森さんのお話に稲庭さんが加わり、これからの美術館の可能性についての対談です。
稲庭さんは、森さんの「第四世代の美術館」の話につなげ、とびらプロジェクトの活動がいくつもの美術館に参照され始めていることを示しました。
札幌文化芸術交流センターSCARTSや、これから始まる岐阜県美術館などでは、アート・コミュニケータの活動が始まっています。
また、八戸の新美術館に設置される「ジャイアントルーム」というパブリック・スペースは、多様な活動を行うことができる展示室より広い空間です。
このジャイアントルームの構造には、とびらプロジェクトの活動が大きく影響を与えているそうです。
稲庭さんは、とびラーは従来のボランティアのような作品鑑賞をサポートしてくれる人ではなく、美術館に来たさまざまな人と一緒にカルチャーを作っていく人だといいます。
美術館に訪れる人の体験の質と多様性を保証し、それぞれの特性がある方に、豊かな経験をしてもらうチャンスと場を用意するサポートを行う人、それがとびラーではないかと森さんはいいます。
とびらプロジェクトが大事にしているカルチャーをどのように全国に展開させていくかを考えなければいけないと、森さんと稲庭さんは話しました。
2人の対談に伊藤さんが加わり、全6回の基礎講座を終えたとびラーたちの質問に答える時間です。
とびラーは3人組になり、基礎講座を受けて感じたとびらプロジェクトについての疑問を共有し合います。
全体共有の発表の中では、
①本業と、とびらプロジェクトで得た問題意識を、社会や行政にどのように伝えて行けば良いか?
②本業をとびらプロジェクトの活動に含めていくことは可能か?
③アート・コミュニケータを知るための基礎講座を受けても、一人一人が同じ認識とは限らない。ボランティアという認識があってもよいのでは?
④アートと言えば美術というイメージが強いが、音楽を用いたアートコミュニケーションのあり方を提案したい!
など、様々なバックグラウンドを持つとびラーたちの「とびらプロジェクトと社会をどのようにつなげていくべきか?」という、熱意のこもった質問があがっていました。
これらの質問に対し、森さん・稲庭さん・伊藤さんからは
①どういう言い方をすれば伝わるか、というトライアンドエラーを繰り返す。言葉を尽くし、まわりの人に説明する場と機会を作る。(稲庭)
②とびらプロジェクトはそれぞれの経験値が生きる場。人と人との化学反応でこのプロジェクトは成り立っているので、本業とどんどん結びつけてほしい。(伊藤)
③「この場所を使って自分はどういう活動をしているのか」ということを、自分の言葉で話せるようになってほしい。(森)
④とびラボの第一号はとびら楽団だった。美術や音楽という先入観にとらわれず、みんなで話し合って様々な価値を受け入れた活動をしてほしい。(伊藤)
などの回答がありました。
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【午後】
お昼を挟んで午後からは、上野公園でオススメの宝物を見つけ、それぞれが上野の地域SNSアプリ「PIAZZA(ピアッツァ)」に投稿するというワークを行います。
お題は、「上野公園で見つけた!わたしのオススメの宝物」です。
上野公園に行く前に、5人組を作り、マップを手にそれぞれが気になる場所を確認し合います。
昼食を終えたとびラーは、それぞれオススメの宝物を探しに向かいます。
小雨が降っていましたが、公園内のものの中でお気に入りを探したり、文化施設に入るなど、それぞれ思い思いの場所で写真を撮っていました。
上野公園から帰ってきたとびラーは、PIAZZAに写真一枚と100字以内のコメントを投稿します。
どのような「お気に入りの宝物」が投稿されるのでしょうか・・・?
投稿を終えたとびラーたちは5人組に戻り、見つけたものを紹介し合う「show & tell」を行います。
とびラーは各自、携帯の画像を片手に「オススメの宝物」をグループのメンバーに説明します。
PIAZZAに投稿された画像を介して、「こういうのもあったよね」「へー、すてき」「あー!そういうことか」など、様々なコミュニケーションが生まれています。
画像を共有する場所があることで、他の人が撮った写真も振り返ることができます。
マップを活用し、位置関係を確認しながら紹介するグループもありました。
5人組の共有のあとは、グループ内でどのような「オススメの宝物」があったかを発表します。
「科学博物館で昔の思い出にひたった」「台湾フェスに行きエネルギッシュなパワーを感じてきた」など、文化施設の展示や、アジアと日本のつながりに注目した人もいます。
「同じ時間に同じエリアに行ったのに、全く違うところを見ていたのが面白かった」という意見もありました。
それぞれが撮ってきたものに共通するテーマを発見したグループや、SNSで「映える」写真を撮ったというグループもありました。
PIAZZAの投稿です。
PIAZZAに投稿された内容は、今後何度も見ることができます。
自分以外の人がどのような「オススメの宝物」を見つけたか、たくさんの発見がありました。
また、複数の人のまなざしが共有されることにより、これから実践の場となっていく上野公園をもっとよく知ることができたワークでした。
日比野さんの中継によって上野・日本・アジアのつながりを意識し、森さんや稲庭さんのお話によって人に開かれた美術館のあり方ととびラーの活動を考えました。
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講座の最後に、とびらプロジェクトと連動する「Museum Startあいうえの」の活動紹介がありました。
「Museum Start あいうえの」は、上野公園にある9つの文化施設と連携した、子どもと大人がアートや文化に出会い、楽しむことを応援するプロジェクトです。
とびラーには、2019年度のパンフレットとミュージアム・スタート・パックが配布され、プログラムの理念や具体的な活動内容についての説明がありました。
まず、2014年に行われた「ティーンズ学芸員」の動画を見ます。
ティーンズ学芸員は、上野公園にあるミュージアムをめぐり、学芸員やとびラーと一緒に作品を鑑賞する10回連続のプログラムです。
子どもたちは、オーディオガイドを作ることを通して、人と感想を共有することの面白さや、考えをシェアしていく方法を学んでいきます。
動画の中では、参加者の子どもたちととびラー、芸大生や東大生など様々な世代の人々が作品を通して関わりあう様子が映し出されました。
稲庭さんは、Museum Start あいうえので一番やりたいことは「作品を介して社会とつながること」だと言います。
「誰かが伝えたいと思って残されてきた作品は、すでに社会的な存在。それを見たり、語ったり、注目していくことは、そこに主体的に参画すること。作品を鑑賞し対話することは、作品を介してひとつの大きな文化につながり、わたしたちの世界をどのようにとらえるのかということを考える機会になる。」
Museum Start あいうえのでは、とびラーは一般的な解説員やトーカーではなく、子どもたちの声に耳を傾ける伴走者になります。そして、プログラムを通して大人と子どもが9つの文化施設を舞台に共に学び合います。
東京都美術館を起点にした学びの共同体は、上野公園の様々な場所、そしてそこから同心円的に広がる実社会・日常へと、ソーシャルキャピタル(社会関係資本)を広げていくことができるのではないでしょうか。
今回の講座は、上野公園で発見したものを共有・発信するという活動によって、実践の場としての両プロジェクトを意識できた基礎講座最終回となりました。
(とびらプロジェクト・Museum Startあいうえの アシスタント 原 千夏)
2019.06.08
とびラボなど、とびラーが活動をつくっていく過程で行う「ミーティング」。よいコミュニケーションを育んでいくためには、このミーティング(会議)のあり方が大切です。今回は「会議が変われば社会が変わる」をテーマに、参加者が主体的に関わることができる「よいミーティング」をつくるための手法を学んでいきます。
講師にお迎えするのは、青木将幸さん。
ミーティングファシリテーターとして様々な地域、団体の会議の場で活躍されています。その種類は国際会議から家族会議まで幅広く、あらゆる種類の話し合いの場を研究しながら、進行役として全国を飛び回っていらっしゃいます。
「今日は決め切った進行はしません。みなさんとのやりとりの中で進めていきます。いつでも質問・発言歓迎です。気になったことがあったら言ってください。」
自己紹介とともに、柔らかな進行で講座がスタートします。
<午前>
早速冒頭から質疑応答の時間です。
「これからミーティングについて学んでいくにあたって、今聞いておきたいことは?」
とびラーからいくつかの質問がでてきます。
・青木さんがミーティングファシリテータを志したのはなぜ?
「学生時代の環境問題に関わる活動で経験した様々な話し合いの場は、相手を言い負かせたり、バトルのようなことが多くありました。ですがそれだと仲間が離れていってしまったんです。根本的な間違えがあることに気付き、ミーティングの手法についてを学びにアメリカ行きました。アメリカはプロのファシリーテーターがいるほどその文化が発展していて、よいミーティングのためのやり方や作法があることを知りました。」
・ひとりで会議もできちゃうとおっしゃっていましたが、具体的にはどうやって?
「だれでもこの場にいない人でよいので、好きな人を思い浮かべてください。有名人や歴史上の人物まで召喚できますね、そんなことができたら面白いでしょ? ポイントは、その人だったらなんと言うかなと想像してみることです。その場にいないユーザーの声に耳を傾けること。例えば、子どものための何かを考える時に、その会議には大人しかいない時、人形を置いて、時々その人形に話させてみたり(笑)。会議の場にいない人のことを考えるのは、重要な手法の一つです。」
・参加者から意見や質問が出なかったらどうしたらよい?
「沈黙は進行役にとって不安な時間。ミーティングを勉強する上での僕のお師匠さんが、沈黙のことについてこういう話をしてくれました。クジラをイメージしてみます。クジラは深く潜って餌を捕らえたり、呼吸をするために海面にあらわれたりします。潜っている時間は、海底に美味しいものなのか、宝箱なのか、何かを取りに行って、こんなのあったよっていうのを見せに来てくれるまでの時間です。同じように、沈黙もその人が大事な物を取りに行っている時間と考えてみてください。ファシリテーターは沈黙を待てるように訓練します。待てないのはこっちの気の焦りなんですよね。沈黙を、クジラが宝箱を取りに行っている時間とと考えてみてください。何秒、何分待っても全く問題ないと思います。よいミーティングをやる要素として、待つということも一つの作法です。」
・ファシリテーターにはどんな準備が必要?
「ファシリテーターはあまりその議題にについての情報を持ちすぎない方がよいです。思ってもいない展開がある方がよくて、なるべく白い状態で臨み、その会議に参加している人たちに意見や情報をだしてもらうようにしています。」
・会議と雑談の違いってなんでしょう?
「オフィシャルに議題や時間と場所が決まっているのが会議、その周辺にある合間のコミュニケーションが雑談だと思います。どちらもあって、トータルでコミュニケーションがとれているのがいいですよね。補い合う関係、どちらも大事ですね。」
他にも、板書でのイラストの活用についてなど、たくさんの質問が出ました。
■グッドミーティングの定義を考える
これからのとびラー同士のミーティングを行っていく上で、どんなミーティングが「よい」ミーティングなのか、ファシリテーターだけではなく参加者みなが知っておくのはとても大事なことです。
続いて、「グッドミーティングの定義を考える」ワークの時間にうつります。
「自分が思うよい・わるい会議ってどんな会議?」のイメージを書き出してみます。
用紙の左半分に「グッドミーティング」、もう半分には「バッドミーティング」。
まずはまずは個人で、れぞれの要素を10個ずつ書き出してみます。
書き出したら、今度は3人組でそれぞれが書き出した内容を共有します。互いの思う「よい」はもしかしたら異なるかもしれません。
共有の際には、3人とも合意できるものには印をつけていきます。
様々な意見が出るミーティングにおいて、この合意を確認する作業はその会議の決定事項を明らかにすることにつながります。
今度は、各グループで合意した「よいミーティング」のイメージを青木さんが聞いていきます。
フラットな意見が出し合える、わかりやすいコトバで話す、時間どおりにおわる、目的がはっきりしている、新しいアイディアを認め合える、お菓子・お茶がある…?!など、各グループから全て違う意見が出てきます。よい会議のための要素は、こんなにも多くあることがよくわかりました。
ここからお昼休憩の時間ですが、その前に「グッドミーティングの定義を考える」ためのワークをもうひとつ。
「この中でとびラーのミーティングで大事なのはこれ!というものに投票してみましょう。お一人に4枚赤い丸シールを渡すので、休憩中に自分はこれが大事だと思うもの4つに1枚ずつ投票しておいてください。」
<午後>
シール投票と昼休憩を終え、講座を再開します。シール投票の結果をみてみると、どの要素に票が集まったのかが一目でわかります。
午後はこれを題材にしながら、さらにどうやったらみんなが思うグッドミーティングに近づくことができるのかを考えていきます。
その前に、再び質疑応答の時間です。
・ファシリテーターと司会者はどのように違うのでしょうか?今ここで学んでいるファシリテーターと、社会一般的な司会者の違いはなんなのでしょうか?
「司会というは会を司ると書きますね。会議が始まりから終わりまでの進行を司るわけです。ファシリテーターも同じですが、参加型の要素が強いものがファシリテーターといいます。芸人の話になりますが、長く息をしている芸人というのは、司会者としてとても優れていたりします。お笑いでも、音楽番組でも司会をやってます。自分の芸ではなく、ひな壇にいる芸人たちの面白さを引き出していくから、枯渇しない、そして面白い番組として成立するんですね。優れた司会者であり、ファシリテーターであると思います。」
・今日冒頭にアメリカの話題がありましたが、例えば日本人とアメリカ人くらい文化の違う人が同じ会議に参加している場合に、どういうことに気をつけたらよいのでしょう。
「先ほどあげてもらったグッドミーティングの要素の中に『それぞれの人の意見が尊重される』とありましたが、特に文化や風習の違いがあるときには、その双方を尊重する立場に立つことが大事です。フラットに意見を出し合える立場に立つことが、ファシリテーターのような中間的な位置の人の役割。違えが違うほど、尊重しようというスイッチを深めに入れることを大事にしています。」
●「いいねぇ会議」
シール投票の結果でもっとも票が多かったのがこの2つの要素。
・フラットな意見が出し合える
・新しいアイディアを認め合える
これらを使った、ワークをしていきます。その名も「いいねぇ会議」。
ルールは、他の人が言った意見に対して必ず「いいねぇ」と反応し、加えて、「こんなのもどう?」と自分の提案を足して返します。
どんな突拍子のないこと、自分の関心と違うことも一旦置いておいて、ながれをとめずに「いいねぇ」で会議を続けています。
4人組のグループごとにやってみます。部屋中が一気に盛り上がり、宇宙旅行に行ってしまうところまで…
私たちは日常のコミュニケーションの中で、的外れなものや、実現可能性の低そうな発言があったりすると、つい「でもそれは…」などと、相手を否定する言葉から入ってしまうことがあります。これは会議の中にも多くあるそう。
「ミーティングでの発言の中で、的確・まともな意見というのは最初から出てくるものではありません。最初は植物の苗木・双葉のように弱々しいものだったたとしても、その芽を摘んでしまうのではなく、『いいねぇ』と言ってくれることで、少し成長することができます。それはいつか大木になるアイディアの種かもしれません。できれば、プラスアルファの提案を乗せて、成長の可能性をさらにひらくことができるといいですね。会議の場でちょっと違うなという意見が出た時、ぜひ『いいねぇ』と言ってみてください。状況が変わるはずです。」
この「いいねぇ会議」、ミーティングの前に3分だけでもやってみると、場が柔らかくなり、この場は何かを言っても大丈夫だという安心感が生まれる、いいアイスブレイクになるそうです。
シール投票の結果、次に票が入っていたのがこの2つ。
・納得感、共通認識を持って終える
・成果がなんだったのかがわかる
これらを実現させるために良い方法は
「みんなの意見を書く」ことだそう。みんなの意見を書くと、共通認識が作られやすくなり、成果も見やすい状況になります。
●発言を板書する
板書をする際のポイントは、
・全ての意見をより好みをせずに書く。
・なるべく当人の言葉で書く。
こと。的外れな意見だと思ったとしても、また声の大小に関係なく、全ての意見を平等に扱います。また、なるべく当人の言葉で書くのは、言葉を置き換えてしまうことでニュアンスが変わってしまうことがあるからです。
●個人で書いてから集団で話し合う
また、会議のやり方として、 個人で書いてから集団で話し合う方法があります。今日も前半に「グッドミーティング」「バッドミーティング」のイメージをA4の用紙に書き出してもらいました。議題に対していきなり意見を言うことが難しい時に、例えば、「3分書いてみましょう」と時間をとってみる。
どんなに普段意見を言わない人でも、手元には書いてくれます。書いたものを発表してくださいと言うと、全員が発言できます。会議で発言の強い人や経験値の豊富な人が一番最初に発言してしまい、それに影響を受けてしまうことがあります。その前にまず個人が何を思っているのかを書き出してみるよいです。
■話し合いの練習
個人で書いてから集団で話し合う練習をやってみます。
「今から出す質問に答えてください。マジックで手元の紙に大きく書いてください。」
書けたら、全員で見せ合いながら部屋の中を歩き回り、出会った人とコミュニケーションをとっていきます。
(1)みなさんの好物はなんですか?
続いて2つ目の質問。
(2)実は私〇〇やってました。〇〇が得意です。
同じように部屋を歩き回りながらコミュニケーションをとりますが、今度は「もっと聞きたいな」「同じ特技!」「よくわからなけどきになる」など、気の合う人と4人組をつくります。
今度は4人のグループで、それぞれの特技を生かしたプロジェクトをひとつ作ってみます。
目的のために集まったメンバーではなく、そこに集まった人の特技で、これまでとは違う画期的な新しい商品ができた、そんな事例があったそうです。
「ミーティングで大事なのは、お互いの得意なことを活かし合うことです。用紙に書き出すことで、それぞれが得意なことがチームに見えている状態で話し合いを進めることができます。」
4月に出会ったばかりの、まだ知らないお互いの特技や一面。それぞれの持ち味を活かした面白いプロジェクトが沢山発表され、笑いが飛び交います。このようにミーティングが明るい場であることも大切です。
■会議の構造
ここまでに試した様々な手法をミーティングの中で効果的に使っていくために、その構造をみていきます。
①「共有」
会議のテーマや目的を確認・決める時間です。
②「拡散」
自由にアイディアや意見を数多く出し、拡げる時間です。講座内でも行った「いいねぇ会議」の方法はこの部分にあたります。
③「混沌」
様々に意見が出たアイディアを、「ではどうする?」と議論する段階です。アイディアの分類、選択肢の整理・比較検討などを行い、次の収束の段階につなげていきます。
④「収束」
結論や合意点を確認。実現可能性も考えながら、最後に具体的な行動プランを決めます。
会議を進行する人だけでなく、参加者皆が、「今自分たちはどの段階にいるか」を意識することで、それぞれの段階での工夫を取り込むことができます。
その後、いくつか質問ができました。
・進行をする人もいち参加者だった場合に、発言はしても大丈夫?
「もちろん発言は大丈夫です。しかし、主張の強さに気をつける必要があります。他の参加者と同じように、対等でいるために、イメージとして、4人の参加者だったら4分の一くらいのエネルギーで発言するのがよいですね。」
・「混沌」したまま時間切れになることも多いですが、どうやって「収束」の段階に入ればよいですか?
「それぞれの段階にどのくらいの時間をかけるのか、あらかじめ決めておくとよいです。加えて、タイムキーパーや板書係などの役割があると、進行役は安心して会議を進めることができます。
また、2度に分けるとより豊かにアイディアが出たりします。今日は拡散までにして、結論まで決めなくてよいとすると、気持ちが楽ですね。」
他にも、座ってばかりでなく、立ち上がったり、場所を変えたり、動きを取り入れることも、視点が変わったり広がったりすることに効果的だそうです。
講座も残すことろ30分。最後に、今日の学びを活かして、会議を練習してみます。
「今日いる皆さんとちょっとお話してみたいこと」を全員から募集。
手元の用紙に書き出してみて、ミーティングのテーマとして提案したい人が前に並びます。
・美術館で静かにしなきゃと思って息がつまるのをどうにかしたい!
・よい作品ってなに?
・どうすれば、今日学んだことを実践できるのか
・あと30分で何を学びたいか
・梅雨の楽しみ方
・全員となかなか会えない中で、どうしたら仲良くなれるか?
・やりたいとびラボは?
・これからの博物館について
などのテーマが集まりました。
関心のあるテーマに集まり、会議の練習のスタートです。
役割分担、板書、時間配分など、どのチームも学んだ手法を早速実践しています。
会議が盛り上がってきたところで、今回の講座は終了です。
30分でどの段階まで進めることができたでしょうか。
実際にやってみることで、時間配分や板書の仕方、発言の出し方など、その感覚を少しでも掴めたのではいかと思います。
今後のとびラー同士のミーティングにおいて、今日学んだこと、そして8期のみなさんが思い描いた「グッドミーティング」の実践が、
豊かな活動のベースになっていくことを願っています。
(東京藝術大学美術学部特任助手 大谷郁)
2019.05.25
5月25日(土)、基礎講座第4回は「作品を鑑賞するとは」をテーマに行われました。
本日の講師は、東京都美術館 学芸員 アート・コミュニケーション係長の稲庭彩和子さん。
作品を鑑賞するとはどういうことか、アート・コミュニケータとして、作品を介して鑑賞者と関わる活動の可能性を考えます。
【午前】
午前中は、アートスタディルームで3つの映像を見て話し合いました。
最初の映像は、メトロポリタン美術館元館長のトーマス・P・キャンベル氏によるスピーチ、「美術館の展示室で物語を紡ぐ」。タペストリー研究家のキャンベル氏が、学生時代に先生に教わったことの話から始まります。
本物の作品を目の前にすることは、時空を超えて過去の人々に出会うこと。作品に出会うときは、美術の専門知識はひとまず置いておき、自分の目で見た直感を信じることが肝要なのだそうです。
自身が企画した展覧会を例に挙げながら、キュレーターがつくる美術館の体験は、難解なテーマを観客に分かりやすく示すことなのだともキャンベル氏はいいます。
視聴後、映像を見て印象に残ったことや疑問などをまず1人で振り返りました。
3人組になって気になったことをシェアしたのち、全体で意見を共有するとこういう意見が出てきました。
「作品を鑑賞する行為は、人を知るために耳を傾けていくことに似ている」
「美術館を居心地悪く感じる人たちに対して、とびラーとしてどのように関わっていくことができるのだろう」
学芸員の稲庭さんからは、「キュレーションは作品を鑑賞者と近づけるためのもの」であり、人に出会うのと同じように、作品と出会えたとき、社会が紡いできたものに自分がつながるという感覚が生まれる、というお話がありました。一緒に伴走してくれる人が隣にいることで、作品が「関心をもつべきもの」なのだということがわかり、知らなかった世界を知ることができるといいます。
美術館、そしてアート・コミュニケータ「とびラー」の役割を考えさせられるお話でした。
次に視聴したのは、学校との連携に力を入れているイザベラ・ガードナー・スチュアート美術館の「アートを通して考える(Thinking through art)」。
美術館で行われている対話による鑑賞(Visual Thinking Strategies = VTS)の実践の様子が映されています。
子どもたちが作品を見ながら気づいたことや考えたことを発言し、それをファシリテータがつなぎ、問いを投げかけ続けていきます。
視聴後は、VTSの具体的な手立てについてとびラーから質問が次々と飛び交いました。
稲庭さんはVTSを通した学びについて、学校の国語の授業で文章を精読するように、「絵を細部までよく見ながら考える」ことに慣れていくためのトレーニングなのだと話していました。
最後の映像は、東京都美術館の休室日の展示室を学校のために特別に開室して行われるプログラム、Museum Startあいうえの「スペシャル・マンデー・コース」。
休室日の展示室を学校単位で訪れる子どもたちのために特別に開室し、ゆったりとした環境の中で子どもたちが本物の作品を鑑賞することができます。
映像では、子どもたちの鑑賞をとびラーがサポートしている様子がうかがえ、実践のイメージを膨らませるものとなっていました。
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【午後】
午後からは、作品の鑑賞を実際に体験します。
まずは絵をみるためのエクササイズとして、作品のアートカードを使って「納得!ゲーム」をしました。
価値が多様化し誰もがそれぞれの正解をもっている世の中で、求められるのは“納得解”。1つの正解を求めるのではなく、みんなが納得できる答えを紡いでいくことが大切です。「納得!ゲーム」はそこにつながるようなコミュニケーションゲームです。
1グループ8〜9名程度で、8つのグループに分かれてゲーム開始。
テーブルのカードと色、形、イメージなどで共通点のある一枚を自分の手持ちのカードから探し、2枚のどこが共通しているのかを説明します。
グループ内の半数以上が「納得!」してくれたらOK。
「こことここに女の人が描かれています」
「赤色が使われています」
カードをじっくり見つめながら、メンバーの主張に耳を傾けます。
共通点となるキーワードは一度しか使えないため、テーブル上のカードが増えていくにつれて「うーん、そうかな?」という声が聴こえ始めました。
共通点の根拠を熱弁する姿や、メンバーに助け舟を出されて、言い回しを変えたり他の共通点を見つけたりする場面も見られました。
作品カードを通したゲームで頭をやわらかくして、作品を自分の目でよく見られるようになったら、今度はいよいよ実物の作品を鑑賞するために、展示室へ出発します。
グループごとにファシリテータを務める2・3年目のとびラーに連れられて向かった先は、「第85回記念 旺玄展」。
午前に映像を見たVTSの手法を用いて、1作品につき15分程度で2作品を鑑賞しました。
まずは、しばらくの間、一人で静かに作品を見ます。
そして「この絵の中では何が起こっているでしょうか?」というファシリテータの問いかけから、気づいたことや考えたことを言葉にしていきます。
その際に大切なのは、「絵のどこを見てそう思ったのか」という根拠を示すこと。
美術や美術館に関心のある大人が集まっているからか、序盤から深い解釈の発言が飛び出すグループもありました。
ファシリテータは、参加者から出た発言を言い換えて全員に共有し、考えと考えをつないで整理します。
場が温まってくると、気づいたことや何気なく思ったことが次々と出てくるようになりました。
一人一人の視点やもっている知識によって互いに触発され、作品の見方が広がっていきます。
一つの作品を見終わる頃には、発言が紡ぎ合わされ、グループごとの作品の見方がゆるやかに醸成されていきました。
ふたたびアートスタディルームに戻り、展示室での体験を振り返ります。
「一人一人感じ方が違うため、皆で見ることで異なる視点を共有できるのだと気づいた」
「自分一人では気にもとめない絵が一生忘れられない絵になった」
自分がファシリテータになったら、様々な発言をどのように受け止め、言葉を返すのか。映像や実践を通して気づきや考えが深まります。
鑑賞について考えた1日の終わりに、稲庭さんはこう言います。
どの意見も等価で扱う雰囲気をつくっていくこと。
食わず嫌いをせずに様々な絵を見て、頭の中のビジュアルのデータベースを増やしていくこと。
とびラーの皆さん自身が、自分の目と耳と頭をつかって作品をよく見ることの面白さを味わい、来館者が作品を見る伴走者となるための一歩を踏み出す1日となりました。
(東京都美術館アート・コミュニケーション係 アシスタント 浜岡 聖)