2025.11.02
第5回建築実践講座|オープンレクチャーvol.16/関連プログラム「とびラーとみつけよう!東京都美術館のおすすめポイント」
日時|2025年11月22日(土) 10:00〜16:00
会場|東京都美術館 講堂
講師|松隈洋(神奈川大学 建築学部 教授)
岩井祐介(慶應義塾幼稚舎 教諭)
オープンレクチャーvol.16「みんなのけんちく〜みる・知るからはじめよう〜」では、講師として松隈洋さんと岩井祐介さんをお迎えしました。
松隈さんからは、日本のモダニズム建築を代表する建築家・前川國男と東京都美術館についてお話を伺い、建築の魅力をわかりやすく紹介していただきました。
岩井先生からは、子どもたちが日々使っている校舎を題材に、建築を見て考え、感じたことを共有しながら学んでいく授業の実践についてご紹介いただきました。
オープンレクチャーの様子は、近日中に公開予定です。

午後からは関連プログラム「とびラーとみつけよう!東京都美術館のみどころポイント」を行いました。
とびラー達は、黄色いバンダナをつけてみどころポイントのタイトルを持ち講堂で参加者を待ちます。
参加者が揃ったら、いよいよプログラムのスタートです。
まずは、参加者と一緒に講堂からみどころポイントに移動します。
見るだけでなく、触ってみたり座ってみたり・・・
様々な方法で東京都美術館のみどころポイントを伝えました。
撮影:升谷玲子
参加者ととびラーが一緒に、東京都美術館を楽しむ時間となりました。
(とびらプロジェクト コーディネータ 大東美穂)
2025.10.27
・東京都美術館で開催された「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(会期:2025年9月12日(金)~12月21日(日))にて、展覧会の休室日にあたる10月27日(月)に「障害のある方のための特別鑑賞会」を実施しました。
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・当日は、とびラーとアート・コミュニケータ東京(任期満了したアート・コミュニケータの団体)が連携し、館内のさまざまな場所で来館者お一人お一人が安心して過ごせる環境を整えていきました。
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・今回の特別鑑賞会でも、ミロ展に引き続き、とびラーが「とびラボ」で発案したアイデアが行われました。案内状のデザインや、手元のiPadで拡大画像を明るく見ることができる工夫、また、東京都美術館が制作した触図(しょくず・作品の構図やモチーフを凹凸のある線や点で立体的に表わした図版)を用いた鑑賞サポートも行われました。事前の準備段階から複数のとびラーが関わり、来館者が展覧会に出会うための入口をつくってきました。
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iPadに入れた作品画像を手元で拡大して細部を見やすくサポート
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・触図を用いての鑑賞サポートでは、アート・コミュニケータが来館者と一緒に作品を鑑賞します。アート・コミュニケータは作品に描かれているものを説明したり、作品から受ける印象をお話しします。同時に、来館者の指先を触図にふれさせながら、構図や質感をイメージしてもらいます。
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・触図《種まく人》の前でも、多くの声が交わされました。まず多かったのは、触ることによって作品の全体像が立ち上がる驚きです。
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ロービジョンの参加者からは、
「本物は会場が暗くてよく分からなかったけれど、触図だと木の太さや種をまく男の姿がよく分かる。見やすい」
という声が聞かれました。・
・また、触図を使ったアート・コミュニケータとの会話から、作品の細部に気づいていくことも多くあります。
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「太陽はうすく赤くなっているのですか?色はどういう感じですか」
「青い袖を着ているんですね。種をまく手はどちら?」
「右手ですね。土に向かっている。左手は袋を持っている…あ、持っているのが分かります」
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など、触図を起点に、色・身体の向き・動作が具体的なイメージとして共有され、鑑賞が深まっていきました。
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・鑑賞会後のアンケートには、「安心して、ゆっくり鑑賞できた」「人混みを気にせず美術館に来られた」という声が多く寄せられました。
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・アート・コミュニケータについても、「そっと声をかけてくれた」「一緒に見てくれた」「新しい気づきがあった」といった感想が並び、鑑賞をともにつくる存在として受け取られていたようです。
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・とびラーから寄せられた当日のエピソードの中には、印象的なやりとりがいくつもありました。
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《種まく人》の前を行ったり来たりしている来館者の方がいました。
「見づらいですか」と声をかけると、
「違うのよ。ほら、こっちから見ると絵の具がきらきらして、きれいでしょ。」
そう言って、右側に連れて行って教えてくださいました。
来館者の方の笑顔も、きらきらしていました。・
・説明する側・される側などの関係ではなく、作品の鑑賞を分かち合う時間が、自然とそこに生まれていました。
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・また今回は、慣れない移動や人混み、周囲の視線、音、光等の混在により不安やストレスを感じた際に気持ちを落ち着かせたい方のために、「カームダウンスペース」や「センサリーキバッグ」(イヤーマフやセンサリートイなどが入ったバッグ)を導入しました。また、お声掛けが苦手な方にスタッフやアート・コミュニケータが気がつけるようにするための目印(白紙の名札)も用意しました。
・すべての方に安心して展覧会を楽しんでいただくための模索は続きます。
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・特別鑑賞会は、一度きりの特別な日ではなく、皆さまと美術館との関係の入口となる1日です。
・この日のご来館をきっかけに、今後も皆さまとのご縁が続いていくことを願っています。
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・次回は、2026年2月9日(月)、東京都美術館開館100周年記念 スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやきにて開催を予定しています。
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次の鑑賞会でもみなさまにお会いできるのを、アート・コミュニケータ一同楽しみにしています。
2025.10.20
日時|2025年10月19日(日)13:30〜16:30
場所|東京藝術大学 第一講義室
講師|村田陽次(東京都 生活文化スポーツ局 都民安全推進部 都民安全課)
山藤弘子(地域日本語教育コーディネーター、多文化共生コーディネーター)
とびらプロジェクトの活動の拠点である東京都美術館は台東区にあります。
上野公園には毎日たくさんの観光客が海外から訪れています。また、台東区内は外国にルーツを持つ人が多く住んでいる地域でもあります。
アートコミュニケーションの活動を届ける際にも、そうした外国にルーツがある方、日本語を母語としない人たちへどのように情報を届けるか、来館した際にはどのようにコミュニケーションをとることができるかを考えています。
今回の講座では、東京都の多文化共生の推進に長く尽力されてきた村田陽次(東京都 都民安全総合対策本部)さんと、台東区在住で日本語教育のコーディネーターをしている山藤弘子さんをお迎えして、国・文化が違う人とどのようにコミュニケーションをとり共生していけるかについてお話を聞きしました。東京都の行政の取り組み、台東区での活動とそれぞれの違うお立場から現状と取り組みについて幅広くお話を聞くことができました。
村田さんのパートでは、東京都に住む外国にルーツのある方の状況と行政支援についての紹介や、日本語以外の言語を母語とする人とのコミュニケーションで英語よりも多くの外国人に伝わりやすいとされている「やさしい日本語」の考え方、使う際のコツをわかりやすい映像も交えて伺いました。「やさしい日本語」が必要とされる背景には、阪神・淡路大震災や東日本大震災震災などがあり、災害時の防災アナウンスで難しい言い回しによって伝わらなかった経験から行政やメディアの発信も見直されてきたそうです。
日本語を母語としている人にとって、話し方について普段から考える機会は少なく、改めて日本語の複雑さや、わかりにくい言い回しがあることに気づきます。また、どこの国の方にでも英語で話せば伝わるというわけでもない。ということも重要なポイントでした。
とびラーからも「やさしい日本語については、各自の母語を大切にしつつ、歩み寄るツールとなる可能性を感じた」という振り返りのコメントがありました。
村田さんからは、「やさしい日本語」は万能ではなく、お互いに理解し合えるプラットホームであり、まずはそこからはじまるということ。そこからはその時々に応じて工夫してコミュニケーションをつくる必要がある。ということも添えられました。とびらプロジェクトの活動も長く見守っていただいている村田さんからは、アート・コミュニケータの実際の活動を想定したアドバイスをたくさんいただきました。
山藤さんからは、いま接している子どもたちの状況や地域の状況を教えていただきました。日本語教室を開き、多文化共生の活動を行っている地域での事例を交えてお話ししてくださいました。
教育現場では外国ルーツの児童・生徒の増加による必要なサポートが不足していて、子ども、親、先生、それぞれの立場から困っている点を挙げていただきました。
日本語能力について、日常生活に必要な言語能力は1〜2年で習得できるが、学習するために必要な言語能力は5〜7年かかるそうだ。学校に通う子どもは日常のコミュニケーションは、比較的早く身に付く人が多いけれど、学習に必要な言語能力の習得はさらに時間がかかる。周囲の大人がその習得の違いを理解していないと、「ただ勉強ができない子という誤解や偏見が生まれてしまう」というお話は印象的で、受講するとびラーからも「自分が働く学校現場で、日本に来て数年たち日常会話は問題なく話せる外国にルーツがある子どもたちが、学習でつまづいている様子をうすうす感じていました。今回の講座で理由が初めて分かった気がしました」という振り返りのコメントがありました。
地域の多文化共生では、一過性の交流ではなく、ともに地域で暮らしている人として定期的に関わりをつくっていくことを大切にされていて、具体的な声として、日本で暮らす外国ルーツの人にとって、支援を受ける側というよりも、この先も日本に住む者として地域のコミュニティに参加し貢献したいという方も多いそう。
そうした人たちが一緒に餅つき大会やお祭りなど地域行事に参加するようになってきているというお話がありました。この呼びかけも「やさしい日本語」でチラシを作ることで、外国人住民から「初めて情報が目に入ってきて内容を受け取ることができた」「呼ばれている気がした。」という反応があり参加に繋がったそう。情報を発信する側の工夫で日本語を母語としていない人も歓迎していることが伝わるというお話でした。
これまでも、Museum Start あいうえののプログラムで、とびラーとの活動を一緒につくってきてくれた山藤さんからは、
「美術館は多様な人々が互いを認め合い、つながりを見つける場になる」ということ、「アートコミュニケーションこそ、今の社会の対立を和らげる力となる」というメッセージいただきました。
さまざまな言語を母語とする人がとびラーの中にもいたり、お仕事で外国ルーツの人と出会う機会もある方もいて、講座の最後の村田さんと山藤さんのクロストークと質疑応答の時間では、それぞれの背景からお二人のお話に対する様々な感想が交わされました。
振り返りの中では
「日本に長期滞在することになる外国にルーツを持つ方々に対して、改めて一緒に暮らしていく仲間であるという事実を再認識できた」
「どれほどオープンマインドでいるつもりでも、自分のよく知らない文化に対して「怖い」といったネガティブなバイアスを本当に持たずいられるのか。バイアスなどないと思い込んでいる時ほど、自分を省みることが必要かもしれない。」
「自分自身も、いま住んでいる地域に対するつながりを持てていないので、まずは自分が地域で行われている活動に関心を持つことから始めないと」
外国ルーツの在住者が増加している日本社会の状況で「事実に基づかない決めつけ」によって生まれる誤解や、自分で選んだわけでなくそうした状況にある子どもの状況を知ることで、いま美術館で活動をつくっていく意義について改めて共有する時間となったのではないかと思います。
「Museum Startあいうえの」のダイバーシティプログラムでは「美術館でやさしい日本語プログラム」を毎年行っています。外国ルーツの子どもたちとその保護者だけでなく、日本語話者の親子も一緒に作品を鑑賞して感じたことを身体や音、絵など言語以外の表現も使いながら伝え合います。このプログラムにもとびラーがいることで参加者一人一人の状況を見守り、子ども同士だけでなく、その保護者同士のコミュニケーションも大切にプログラムをつくっています。
今年も山藤さんにプログラムパートナーとして参加いただき、村田さんにもアドバイスを受けて準備を進めています。プログラムに向けて前提となる基礎的知識や最新の状況を知ることができました。また、とびラーの中には帰ってから自分の地域のこと、外国ルーツの方への支援活動を調べてみた人もいて、日常の中で多文化共生や、「やさしい日本語」について意識的になることができたようです。
(とびらプロジェクト マネージャー 小牟田 悠介)
2025.10.13
第5回 鑑賞実践講座|ファシリテーション事前準備
日時|10月13日(月・祝)13:00〜17:00
会場|東京都美術館 アートスタディルーム、スタジオ
講師|三ツ木紀英(NPO法人 芸術資源開発機構(ARDA))
10月13日(月・祝)午後、東京都美術館 アートスタディルームとスタジオを会場に、第5回鑑賞実践講座「ファシリテーション事前準備」を開催しました。講師は三ツ木紀英さん(NPO法人 芸術資源開発機構)です。
第5回は、第4回で学んだ展示室での場づくりをふまえ、鑑賞の実践に向けて、作品の魅力にどのように近づき、どのような準備を行うのかを学ぶ回として位置づけられています。鑑賞の場は、当日のふるまいだけでなく、ファシリテータが事前にどれだけ作品と向き合っているかによって大きく左右されます。この回では、その「事前準備」に焦点を当てました。
講座の前半では、VTSのファシリテーションに向けて行う作品研究の考え方についてレクチャーが行われました。作品研究というと、作者や制作年代などの情報を集めることを想像しがちですが、ここではその前にまず、作品をよく見て、鑑賞者が何を感じ、何を語るのかを想像すること、そしてその発言の裏付けとなる、より客観的な要素を作品の中から丁寧にたどることの大切さが共有されました。
また、鑑賞者が作品を見るときにもつさまざまな視点のバリエーションを想定し、視点を整理・分類しておくことで、作品の全体像や魅力をファシリテータ自身がつかんでおくことの重要性も確認されました。
続いて、グループに分かれて作品研究のワークを行いました。参加者は、作品画像を前にしながら、形や色、構図、モチーフなどに目を向け、気づいたことを言葉にしていきます。個人での観察と、グループでの共有を往復することで、ひとりでは気づかなかった視点や、見方の広がりを体験しました。
後半では、先ほどのグループワークで行った作品研究を、一人で行いました。とびラーからは、グループワークと違い、自分一人で作品をみる際には、視点の広がりや深さを自分自身で生み出す必要があるため、より難しさを感じたという声が聞かれました。VTSのファシリテーションには、ファシリテータ自身の鑑賞体験の豊かさも重要であることが、実感を伴って共有されました。
第5回は、ファシリテーションを「その場でうまく進める技術」として捉えるのではなく、事前にどれだけ作品に近づき、準備を重ねているかが鑑賞の質を支えていることを学ぶ回となりました。
次回の第6回では、ファシリテーションのスキルを高めるために不可欠な、実践のふりかえりに取り組んでいきます。
(とびらプロジェクト コーディネータ 越川さくら)
2025.10.01
日時 |2025年9月20日(土)
場所 |東京都美術館
参加者(事前申込)30名、とびラー16名
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まだまだ暑い日が続き、涼しくなるのが待ち遠しい9月。
そんな中、2025年度 第3回目の「とびラーによる建築ツアー」が実施されました。
東京都美術館を建築した前川國男や歴史についてお話しした後、東京都美術館の特徴や見どころの紹介をしました。
この建築ツアーは、決まったコースはなく、それぞれのとびラーが考えたオリジナルのツアーです。
2025.09.28
第3回建築実践講座|「HAGISO 最小文化施設の取り組みについて」
日時|2025年9月20日(土) 14:00〜16:00
会場|東京都美術館 講堂
講師|宮崎晃吉(株式会社HAGISO 代表取締役)
谷中銀座商店街から路地を入った静かな場所に位置するHAGISOは、築68年の木造アパートを修繕し2013年3月に「最小文化施設」としてオープンしました。
カフェとギャラリーが併設されており、トークイベント、地域交流の場そして、コンサートを行うなど様々な活動をしています。
その活動と地域との繋がりやそこから生まれるコミュニティーについて、宮崎晃吉さんにお話を伺いました。
建築を再生することで、「人が集まり、過ごし、交わっていく場所」としての〈場〉となり、そこには新しいつながりが育まれ、地域にこれまでになかった価値が生まれていきます。
この取り組みは、ただ古い建物を残すのではなく、その土地に眠っていた価値を見つめ直し、人が関わることで未来へつなぐ試みでもあります。
HAGISO は、建物を再生することを通して、「谷中」というまちに新しい息吹と価値を与えてきました。
建築の再生から、人とまち、そしてコミュニティが生まれていく可能性を実感するきっかけとなりました。

こうした取り組みを聞いて、とびラーとして、また3年の任期満了後に自分の地域での活動につながるきっかけを考える時間になったことと思います。
HAGISOのホームページはこちらからご確認いただけます。
(とびらプロジェクト コーディネータ 大東美穂)
2025.09.23
そんな野外彫刻の魅力をもっと多くの人に伝えたいと願うアート・コミュニケータ(とびラー)が集まって、東京都美術館の野外彫刻を楽しむとびラボを立ち上げました。
このブログでは、私たちとびラーが、来館者向けに野外彫刻を楽しむプログラムを企画し、実施するまでの半年間の軌跡を紹介します。
東京都美術館の野外彫刻はこちら:https://www.tobikan.jp/archives/collection.html
これまでにも、とびラーによるプログラムとして、来館者に野外彫刻を楽しんでもらう企画は実施されてきました。そこで、過去のプログラムから学びつつ「私たちは誰にどんな価値を届けたいのか?」を話し合いました。その結果、このとびラボでは2つの価値の実現を目指すことにしました。
①未就学児を含む子どもとその保護者が、安心して親子で美術館を楽しむ場をつくる。
②子どもと大人が対話をしながら作品を見ることと、造形活動を用いて鑑賞のふりかえりをすることを通じて、世代を超えて、感じたことを多面的に伝え合うコミュニケーションの場をつくる。
これらの目標は、次のような思いから生まれました。
・美術館の館内よりも自由に過ごせる野外の環境を活かして、乳幼児や多様な個性を持つ子どもとその保護者など、展覧会に行くのを躊躇しがちな親子にも、もっと気軽に美術館を楽しむ機会を広げたい。
・対話型鑑賞(複数の人が対話しながら作品を鑑賞すること)の場で、感じたことをすぐに言語化するのが難しい子どもでも、工作やお絵描きなど慣れ親しんだ表現を用いることで、みて感じたことをもっと伝えられるのでは?
・野外彫刻をみて、感じたことを工作や絵などで造形的に表現し、その形にしたことをあらためて言語化するというプロセスを辿ることで、大人と子どもが世代を超えて感じたことをもっと伝え合えるのでは?
とびラーによるプログラムメイキング
まずは、とびラー自身が鑑賞して感じたことを造形してみる
はじめに、「造形を用いた鑑賞のふりかえり」によってどんな効果が生まれるのか体験するため、とびラー同士で野外彫刻を鑑賞して、感じたことを造形してみました。
そして、形にすることで「何に心が動いたのか?」を制作物によって視覚化でき、その人が感じた質感や印象がもっとリアルに伝わるという手応えを共有しました。
例えば、
「どっしりとした石の作品が、地中に深く根を張っていると想像した」
「金属の作品をみて、表面のざらざらした質感が心に残った」
「雨の日に、彫刻の窪みに水が溜まっていたり、ナメクジがいたり、生き物の住処になっていると感じた」
など、一人一人の感性が制作物を通して伝わりました。
作品研究
同時に、野外彫刻への理解を深めてより良い鑑賞の場を作るために、各自が興味を持った作品について作品研究を進めました。作品にまつわる情報を調べたり_自分自身でしっかりと作品を鑑賞して発見を書き留めたり、自分が感じる作品の魅力を言語化したりしていきました。また自分で作品研究をするだけでなく、とびラー同士でそれらを共有していきました。
プログラム作り
来館者にむけて、具体的なプログラムを作っていく過程は、手探りの日々でした。
次に、とびラーが野外彫刻作品を介して、大人と子どもが対等な参加者として対話する場を作ることができれば、普段の親子関係とは少し違うお互いの姿を見る機会にもなるのではないか、という理由から、親子一緒に活動するプログラムを作ることにしました。
そして、野外彫刻を鑑賞して感じたことを形にする「造形を用いた鑑賞のふりかえり」を設計するために、「どんなステップで行う?」「どんな声がけをする?」「どんな材料を使う?」「作る時間はどれくらい必要?」「制作物をどのようにお互いに見せ合う時間をつくる?」といった一つ一つの問いについてとびラー同士で議論を重ねました。
とびラー親子対象のトライアル
夏真っ盛りの7月末、プログラムの内容と対象者を検証するために、とびラーとそのご家族19名に協力してもらい、5歳から高校生まで幅広い年齢の子どもとその保護者を対象とするトライアルを実施しました。
トライアルの時間は、1時間半。参加者は3グループに分かれて、彫刻をみる練習をしてから、2つの野外彫刻を鑑賞しました。その後、「みんなで野外彫刻をみて心に残ったこと」を造形的に表現し、各々が表現したことを造形物を見ながら、互いに伝え合いました。
トライアル当日の様子を、写真を交えてお伝えします。
①アートスタディルームに集まってプログラム開始
②複数の親子が混在するグループに分かれて、自己紹介&彫刻をみる練習
③2つの野外彫刻をグループで鑑賞
④「みんなで野外彫刻をみて心に残ったこと」をかたちにしてみる
⑤表現したことを言葉にして伝え合う
⑥他のグループの表現も見てみる
トライアルの実施後には参加者にヒアリングを行い、大人・子ども双方から沢山のご意見をいただきました。
トライアルで検証したこと① 子どもの対象年齢
トライアルに参加いただいた5歳のお子さん2名とも、グループで鑑賞して感じたことを形にできたため、「5歳以上」の子どもと一緒に活動できるという手応えを得ました。
トライアルで検証したこと② グループ構成
5歳から高校生まで年齢差のある子どもとその保護者を混合した、親子一緒のグループで活動してみて、対話による鑑賞や造形を用いた振り返りができるか?参加者はどう感じるか?検証しました。参加者からは「色んな年齢の子どもが一緒にみることで自分にはない視点が面白かった」「大人と子どもの発想の違いを知ることができてよかった」「複数の家族が一緒で色んな意見を聞けてよかった」といった声が聞かれました。異なる年齢の子どもや大人が混ざることで生まれる効果もある、というのは、私たちにとって新たな発見でした。
また親子一緒に活動することについて、子どもからは「家族と一緒で安心感があって話しやすかった」「お母さんが作るものを見られてよかった」、大人からは「親も制作できて楽しめた」「日頃見ない子どもの表情や一面を見られてよかった」といった声が聞かれました。
トライアルで検証したこと③ プログラム内容(特に、造形ワーク)
「造形を用いた鑑賞のふりかえり」では、大人も子どもも、野外彫刻をみて感じたことや、対話から感じたことを、制作物と言葉の両方を使って伝え合っていました。参加者からは「形にすることで、どこにその人の感性が動いたかが伝わる。」「爆発してくる、重いなど、鑑賞中の発言だけでは分からなかった、その人が感じた質量などが、制作物をみると分かった。」「対話から感じたこと、作品そのものの印象など、多様な表現が出てきて面白かった。」といった声が聞かれました。子どもも大人も表現することをとても楽しんでいたことが、印象的でした。
一方で、プログラム全体の時間配分、子どもだけでなく親も遠慮せずに参加者として楽しめる場づくり、「造形を用いた鑑賞ふりかえり」のファシリテーションなど、本番に向けたさまざまな課題も見えてきました。
「親子で楽しむまるごと野外彫刻〜あなたの気持ちはどんなかたち?〜」決定
トライアル後には、ラボメンバーみんなで、このプログラムが届けたい価値を改めて話し合いました。「親子で楽しむ」を大事にしたい、立体作品を360℃いろんな視点から楽しみたい、みて作って作品を「まるごと」味わいたい、「感じた気持ちをかたちに」したい、ということで、プログラム名は「親子で楽しむまるごと野外彫刻〜あなたの気持ちはどんなかたち?〜」に決定。
またトライアル結果を踏まえて、プログラムの導入→彫刻をみる練習→野外での彫刻鑑賞→造形によるふりかえりといった各パートの意義やつながり、全体進行や各グループのファシリテーター・サポートの声掛け、場づくりで大事にしたいことなどを、入念に再検討しました。
秋晴れの青空が広がる9月23日、来館者向けプログラム「親子で楽しむまるごと野外彫刻〜あなたの気持ちはどんなかたち?〜」を開催。午前・午後2回のプログラムを通して、未就学児から高校生までの子ども20名、親23名および同伴のきょうだい児、総勢45名が、親子一緒に彫刻をみて、感じたことをかたちにして、まるごと野外彫刻を楽しみました。
今回、子どもの対象者を「5歳〜高校3年生」と幅広く設定した結果、参加した子どもの内訳は、未就学児5名、小学校低学年8名、小学校高学年4名、中高生3名となりました。また、5歳未満のきょうだい児同伴の親子には、保護者と共にきょうだい児を見守るスタッフを配置して、保護者がプログラムに参加しやすいように配慮しました。
第1回 9月23日 10:15〜12:00
参加者:5歳〜高校2年生とその保護者(同伴のきょうだい児)=24名
とびラー =15名
第2回 9月23日 15:00〜16:45
参加者:6歳〜中学1年生とその保護者(同伴のきょうだい児)=21名
とびラー =15名
本番当日の様子の詳細を、写真を交えてお伝えします。
①アートスタディルームに集まってプログラム開始
今日のプログラム全体の流れや「よくみる」「感じる」「言葉にする」「他の人の言葉をよく聞く」といったみんなで彫刻を楽しむコツをお伝えします。グループ構成は、トライアル結果を踏まえて、複数の親子が混在するグループとしました。
②グループに分かれて、自己紹介&彫刻をみる練習
まず自己紹介をしたら、金属、石、木材など様々な素材や形の小さな立体の中から、好きな立体を2つ選んで組み合わせ、自分で思いついた形を作ってみます。
「金属の球は重くて冷たい」「ざらざらした石、つるつるした石がある」「平たい形の石もある」など、皆さん素材の手触りや形に興味津々。
2つの立体を選んだ理由をお話ししてもらったり、作品タイトルを考えてもらったり、みんなで色んな角度から見たりして、彫刻をみる練習をします。
初めて会った親子同士もだんだん打ち解けて笑顔が見られるようになってきたところで、いよいよ野外へ出発です。
③2つの野外彫刻をグループで鑑賞
離れてみたり近づいてみたり、色んな角度からみたり。野外ならではの光と影、周囲の景色の映り込み、木の葉の揺れる音、生き物の気配なども感じて、対話しながら鑑賞します。
《イロハニホヘトチリヌルヲワカヨタレソツネ・・・・・・ン》(以下、《イロハ》)を色んな角度からみて「文字だけではなくキャラクターみたいな形もある!」と発見するお子さん。
《P 3824 M君までの距離》をみて考えたことを全身で伝えてくれるお子さん。
《メビウスの立方体》をみて感じたことを話す子どもの言葉に、大人も真剣に耳を傾けます。
《三つの立方体 A》の形について考えたことを話すお父さん。子どもも大人もグループの仲間として、みんなでみることを楽しんでいました。
④「みんなで野外彫刻をみて心に残ったこと」をかたちにしてみる
野外彫刻をみて心に残ったことを、自由にかたちにしてみます。粘土で形を作ったり、ダンボールや折り紙で工作したり、絵を描いたり、参加者それぞれの表現が生まれます。
《三つの立方体 A》を鑑賞して印象に残ったエッジを、銀紙で表現してみるお母さん。
《三本の直方体 B》の形を、粘土で再現してみるお子さん。
《P 3824 M君までの距離》を粘土で作ってみるお子さん。大人も子どもも、かたちにすることに没頭していました。
⑤表現したことを言葉にして伝え合う
制作物を見せ合いながら、どんなことを表現したのか、一人ずつ説明します。
「《三つの立方体 A》の線がかっこよかった。」とダンボールで立体模型を作って表現したことを話してくれるお子さん。
《P 3824 M君までの距離》をみて造形したことを話すお子さんと、その言葉に耳を傾ける大人たち。
《イロハ》を一緒にみた子どもたちからは、それぞれの表現が生まれていました。
《イロハ》鑑賞中にお子さんが発見したことを受け止めて、お父さんがかたちにする場面もありました。子どもの感性に触れた親も、自分の視点が伝わった子どもも嬉しそうで、親子で鑑賞する意味を感じた一コマでした。
⑥他のグループの表現もみてみる
歩き回って他のグループの表現も見てみます。この活動によって、今日グループで鑑賞した2作品以外の東京都美術館の野外彫刻にも興味を持ってもらい、他のグループの参加者との交流を促します。各グループの担当とびラーが、鑑賞した野外彫刻の写真パネルを見せながら、制作物がどんなことを表現しているのかを説明しました。
小学生と高校生が、どんなことを表現したのか和やかに会話するなど、制作物を見ながら参加者同士のコミュニケーションも生まれていました。
プログラムの最後に、今日見た2つの作品以外の野外彫刻にも会いに行ってみて下さい、という思いを込めて、子どもたちに東京都美術館野外彫刻ガイドをお渡しました。
参加者の感想(アンケートから抜粋)
大人の参加者
・野外ならでは、太陽の色で、《さ傘(天の点滴をこの盃に)》の色の見え方が変わるところが印象に残った。
・遠くから見る、近くでみる、距離が生み出す見方のギャップが面白かった。
・グループで鑑賞すると自分では気づかなかった意見がたくさん出て楽しかった。
・みたものを自分がどう感じたのか深く考えることや、他人がどう感じるのか知ることができたのが楽しかった。
・同じものを見ていても、人それぞれ受けとるものや感じることが違うと発見があった。
・人によって見え方、感じ方が違って、表現には自由がある。
・自分の感じたことを形にできてよかった。
・自分では思ってもみないことを子ども達が発言することが新しい気づきだった。
・「かたちにしてみる」で、子どもの自由な発想に驚かされた。
・子どもと大人がフラットに作業できたのがよかった。
・子どもが自分の言葉で感じたことを話せていたことが印象に残った。
・言葉にして人前で表現することが苦手な娘が生き生きとしていてうれしかった。
・4歳の面倒を時々見ていただき助かった。
子どもの参加者
・とてもよかった。(5歳)
・彫刻をみるのが楽しかった。(7歳)
・Mくんまでの距離(作ったほう)が心に残った。(8歳)
・(彫刻をみてかたちにして)いろいろ話してもっと分かった。(8歳)
・みんなで色んな形を作るのが楽しかった。(9歳)
・見ることによって感じるだけでなく、聞いたり、肌で感じることができて面白かった。(12歳)
・形の見方を自分で表現できて楽しかった。(12歳)
・他のグループの作品をみて他の彫刻も見てみたいと思った。(16歳)
終わりに
今回のプログラムでは、たくさんの親子が野外彫刻を囲んで賑やかに鑑賞し、感じたことをかたちにすることを楽しんでくれていました。また参加いただいたお子さんの大半が未就学児〜小学生であったので、このラボの狙いの一つ「未就学児を含む子どもとその保護者が安心して美術館を楽しむ場を作る」ことを実現できました。
「対話による鑑賞と造形を用いた鑑賞のふりかえりによって子どもと大人が世代を超えて感じたことを伝え合う」というもう一つの狙いについても、特に大人が子どもの発想から刺激を受ける様子が見られ、親子が共に鑑賞し、造形を用いてふりかえることで、世代を超えた対話の場が生まれていました。
このプログラムをきっかけに、またご家族で東京都美術館の野外彫刻に会いに来てくださることを願ってやみません。最後に野外彫刻をイメージしたポーズで、ありがとうございました!
文章を書いて伝える仕事をしています。趣味は子どもとMuseumめぐり。子どもたちが美術館でワクワクする場づくりをしたくてとびラーになり、親子で美術館を楽しむ一つのカタチをこのラボで模索。とびラー活動で学んだ対話型鑑賞を通して、世界のどこに行っても「ありのままの自分で共に在る」場を開いていきたい。
2025.09.15
日時|2025年9月14日(日)13:30〜16:30
場所|東京都美術館 講堂
講師|柴田光規(川崎西部地域療育センター センター長)
普段、川崎西部地域療育センターで子どもたちの診療に携わる柴田光規さんにご登壇いただきました。
柴田さんは、元とびラーとしても活動し、任期満了後の現在では、川崎を拠点とするアートコミュニケーション事業「こと!こと?かわさき」のことラーとしても活動されています。
アート・コミュニケータの活動についてもよく知っている柴田さんに、発達に特性をもつ子どもへの支援についてご講演いただきました。
自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)などを総称する「神経発達症(いわゆる発達障害)」のそれぞれの症状の特性やそのときの子どもの心理的な状態について、専門的な立場からお聞きすることができました。
とびラーが伴走するMuseum Start あいうえのの学校プログラムでも、特別支援級や発達特性のある子どもたちも来館し一緒に作品鑑賞を行います。発達支援の基本的な考え方をお聞きし、迎える側にできることを知る機会をつくろうということで、今年のアクセス実践講座のテーマの一つとしました。
社会の中で子どもの「困った行動」に出会ったときの私たちの視点として、「困った行動」は実は子ども自身が困っている。対処法がわからなくてとった行動であることが多い。というお話があり、特性を理解することで、どのようなことに困っているのか、子どもの困りごとを想定し、情報の伝え方にあらかじめ工夫ができることがあることを療育センターの現場の具体的な対応を例に紹介がありました。
神経発達症の特性を持つ人たちには脳や神経の特性に由来する 独自の文化があると考える「ニューロダイバーシティ(神経多様性)」についての紹介もありました。
とびラーの振り返りでは
「子どもにとって今どんな状況なのか?という目線で問題行動を見直し、否定しないで肯定的に具体的な指示を出す、視覚情報で再確認できるようにする、というのは、自閉症の子に限らず大切な関わり方だと感じた。」
「自閉症の方には、伝えたい情報に集中してもらうために、それ以外の動きを制御して混乱させないよう気をつける、というのは新たな学びだった。」
講座の後半では、東京都美術館の社会共生担当の工藤さんも登壇し、東京都美術館へ来館する際の展示室までの道のりを見通しを立ててあらかじめ知ることができる「ソーシャルストーリー」についての紹介がありました。制作の意図と大事にしているポイントを解説しつつ、ご尽力いただいた柴田さんにもコメントをもらいながら、ソーシャルストーリーのポイントと使う方の目線で解説しました。
とびラーからは
「自分自身、何の準備もなく初めての場所へ赴く際は、とても緊張しますし、初めての活動では、戸惑っていたことを思い出しました。ソーシャルストーリーをもう一度よく読んで、周りの人たちにも伝えたい」
というコメントがありました。
講座を通して、「発達障害」という子どもの状態を知ることができ、捉え方が変わることで、それぞれがこれからの対応にこれまでより少し視野を広く持って迎えることができるようになったのではないでしょうか。
柴田さんの講座の中での子どもたちの様子を表現するやさしい語り口からも、アートコミュニケータとして子どもたちを迎える際の視点を学べたような気がします。来館する子どもたちのその時の状況に寄り添って想像していくことが大事だともおもいました。
(とびらプロジェクト マネージャー 小牟田 悠介)
2025.09.15
日時|2025年9月14日(日)13:30〜16:30
場所|東京都美術館 講堂
講師|野本潤⽮(台東区立台東病院/老人保健施設千束 作業療法士 )
藤岡勇⼈(東京都美術館 学芸員)
⾦濱陽⼦(東京藝術⼤学 特任助手)
2021年から東京都美術館で始まったCreative Ageing ずっとびでは、超高齢社会に入るこれからの日本社会において、高齢者だけでなく、若い世代も一緒に創造的に年を重ねることを考えていくプロジェクトとして始まりました。
Creative Ageing ずっとびでは、認知症が気になる方とその家族に向けた「ずっとび鑑賞会」を開催しています。
今回の講師には、「ずっとび鑑賞会」でも、ご協力いただいている台東区にある台東病院の作業療法士の野本潤⽮さんにお越しいただき、認知症の理解につながる基本的な知識と、台東病院と併設する老人施設千束について伺いました。
野本さんにはこれまでにもずっとび鑑賞会の開催に向けて院内での参加者のお声がけや当日の展示会場が安全で鑑賞しやすい場づくりとなるようアドバイスをいただいています。当日までにこうした準備を重ねて認知症の方も安心して来館出来る体制をつくることができています。
今年度は、10月に2回の「ずっとび鑑賞会」を開催します。そのうちの1回は野本さんの担当する老人保健施設千束から来てもらうことになっています。今回の講座を受けて、当日のプログラムに向けてスタッフととびラー、それぞれ認知症についてと来館する老人
保健施設の様子を学びます。
認知症とは、「さまざまな病気により、脳の神経細胞の働きが徐々に変化し、認知機能(記憶、判断力など)が低下して、社会生活に支障をきたした状態」
ということで、認知症と軽度認知障害(MCI)を合わせると65歳の3人に1人がいずれかの認知障害があるというデータがあります。
認知症の中のアルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症といったそれぞれの症状の紹介があり、記憶障害などの症状に伴って現れる、抑うつ・不安・幻覚・妄想・徘徊・攻撃性などの様々な精神症状や行動障害=行動・心理症状 (BPSD)について詳しく伺いしました。
そうした認知症の方と接する上での心構えについて丁寧なご説明があり、接する上で前提となるパーソン・センタード・ケアという考え方の紹介がありました。認知症の人を一人の人間として尊重し、その人の人生、性格、価値観、生活歴などを踏まえて「その人らしさ」を大切
にするケアの考え方です。
その人のすべての行動には意味があると考え、「問題だとされている行動」は、身体的不快感や感情的な苦痛の表現ではないだろうかと考えることで、その人のいまの状態をよく見ることにつながります。
鑑賞会の参加者と接する上で覚えておきたい考え方です。
とびラーの振り返りでは
「野本さんがおっしゃっていた「記憶に残らないけれど楽しかったとか嬉しかった感情は残る」という言葉や鑑賞会をきっかけに家族と医療者との関係性が良くなったというお話が印象的でした。」
「とびラーとして認知症の方と関わる上で1番大切なことはその方に関心を寄せることであり、本人の思いを聴き、掘り下げていくことだと思いました。」
「先入観を持たずにフラットな視線を持ち続ける冷静さも大切だと考えました。それが余白を持つということかなと思いました。また人生の大先輩として敬意を持って対応したいと思いました。」
というコメントがありました。
後半には、Creative Ageing ずっとびを担当している藤岡さんと金濱さんからプロジェクトについて、取り組みの最新情報についてとびラーに紹介がありました。藝大美術館での認知症の方に向けた鑑賞会だけでなく、来館しにくい高齢者もオンラインで東京都美術館で開催される展覧会をとびラーと鑑賞できる「おうちで鑑賞会」や、アーティストとも協働したアクティブシニアに向けたプログラムの紹介もありました。
Creative Ageing ずっとびでは秋の鑑賞会に向けて、地域の医療者、社会福祉協議会、包括支援センターとも協働して準備を進めていきます。
(とびらプロジェクト マネージャー 小牟田 悠介)
2025.09.08
日時|2025年9月7日(日)13:30〜16:30
場所|東京都美術館 講堂
講師|冨樫正義(公益財団法人日本ケアフィット共育機構)
小川真美子(点字・触図工房BJ)
峰岸優香(東京都美術館 学芸員)
工藤阿貴(東京都美術館 社会共生担当)
講座の前半では公益財団法人日本ケアフィット共育機構の冨樫正義さんから、視覚障害のある方への理解と接し方の基本を学びました。
視覚障害といっても、全く見えない方だけではありません。
弱視の方、視野が狭い方、色の見え方に特性がある方など、状態はさまざまです。
だからこそ、その人に合わせた声掛けやサポートが必要になります。
講座では、視覚障害のある方への、声掛けの際のポイントを学びました。
声をかけるときは前から名乗ること、触れる前に必ず確認すること、
「こちらです」などのあいまいな表現ではなく、距離や方向を具体的に伝えることなど、具体的なポイントを整理して教えていただきました。
とびラーのふりかえりには、こんなコメントが寄せられました。
「見えない・見えにくいという視覚的な違いには様々な背景があり、当然ながら個人によって感じ方や考え方も異なる。そのため、対応するときには先入観を持たず、丁寧に向き合うことが大切だと改めて感じました。」
「社会は多数派に合わせて形成されているということで、少数派や障がいのある方の困りごとの多くは社会的障壁によるものであることをわかりやすく示してくださいました。タッチパネルが視覚障がいのある方にとっては不便であることに気付かされました。」
「実際の場面を想定してみると、相手の立場に立って理解することの難しさを痛感し、自分が本当に理解できていたのか疑問に思うところばかりでした。だからこそ、手助けとなる行動を躊躇せずに踏み出せるよう、まず「知ること」から始めたいと思います。」

次に、みえない・みえにくい方への情報サポートツールを制作している小川真美子さんにお話しを伺いました。小川さんは点字の表記やデザイン、街の中にある触れる案内図を手掛けるほか、近年では美術館から依頼を受け、手で触れて作品を理解するための触図(しょくず)を専門的に制作しています。
いまの仕事に専念し、独立するまでのお話を聞きながら、制作する時の小川さんの苦労や、大事にしているポイントをお聞きすることができました。
小川さんは東京都美術館で夏に開催された「アート・コミュニケーション事業を体験する 2025 みること、つくること、つながること「Museum Start あいうえの」12年と現在地」(2025年7月31日(木)~8月10日(日)開催) (通称AC展)で展示された作品2点の触図を制作してもらったご縁があり、小川さんの触図を体験したとびラーもいて、親近感を持ってお話を聞きました。
後半は展覧会担当のアート・コミュニケーション係 学芸員の峰岸さんと社会共生担当の工藤さんも登壇し、小川さんや作家と協働した触図の制作について紹介しました。
現代作家の作品の触図ということもあって、実際に作家のアトリエに伺って作品の意図を聞きながら触図を制作した際のエピソードや、そのプロセスを聞くことができました。
触れるからよいということではなく、伴走するアート・コミュニケータがどのように働きかけるかが重要であること、
作品制作者、触図をつくる人、それを伝える人がみえない人とみえる人が展覧会を楽しめるように試行錯誤したことをふりかえりました。
とびラーのふりかえりには、こんなコメントが寄せられました。
「実際に触図を使う方の意見を聞きながら、伝え方、作り方を調整して、相互に作り上げていく工程が、とても大事だということがよく分かった。」
また、実際に視覚に障害のある来館者と小川さんが制作した触図を鑑賞したとびラーも何人かいて、その様子を共有してくれました。
「私たちの目は、見たいものしか見ようとしない。AC展のコミュニケータとして活動した際に、視覚障害がある方と作品を一緒にみる機会がありました。そのことによって、そこにあった作品をきちんと見ていなかった、見過ごしていたことに気づくことができました。視覚障害がある方と作品をみることによって、自分が気づきを得ることができました」
講座の最後には、東京都美術館で定期開催している「障害のある方のための特別鑑賞会」にてアート・コミュニケータが視覚障害のある方に伴走して、展示室や作品について、言葉で伝えながら一緒に鑑賞する取り組みを紹介しました。
東京都美術館では、社会共生の取り組みの一つとして特別展ごとにUV印刷による凸版印刷で作られた触図を用意しています。
その触図を使った鑑賞を深めるとびラボ「触図ラボ」、会場の照明や展示方法により、障害のある方が見えにくい作品をiPadで拡大してみせる「iPadラボ」、そのほか、とびラーによって2023年に開催された 「みえない人とみえる人が一緒に楽しむアート鑑賞みんなでみる美術館」の紹介がありました。
講座終了後には、全盲のとびラーから自分の状況に関して共有するとびラボが開かれました。ご自身のことや、声をかけるときに気をつけてほしいこと、普段の困りごと、挑戦していることなどが話されました。参加したとびラーからも質問が飛び交い、他の皆さんの知り合う場となりました。
触図をつくる環境もできてきて、とびラーの仲間にも当事者の方がいる。みえない、みえにくい人との鑑賞をもっと試行錯誤し、取り組んでいける可能性を感じた講座でした。
(とびらプロジェクト マネージャー 小牟田 悠介)