2019.03.29
2019年3月29日 金曜日の夜、夜間開館の時間を利用して「マインドマップで読み解く『奇想の系譜』」のプログラムを実施しました。
3月に東京都美術館で開催していた「奇想の系譜展」の背景にある書籍 辻惟雄・著『奇想の系譜』を事前に読んだ上で展覧会で作品を鑑賞し、さらに理解を深めるためにマインドマップで情報を整理してみる、というプログラムです。
自分は作品を見て何を感じたのか。どう面白いと思ったのか。
普段美術館を訪れても、面白かった以上のことが言えずに、その経験を人に伝えたり共有することができない事も多いかと思います。
ですが、マインドマップを用いて作品にまつわる情報や自分が抱いた感想などを整理してみことで、別の面白さを深堀したり、誰かに語る語彙が増えたりします。
せっかく展覧会に出かけるのであれば、その醍醐味を味わい尽くさない手はありません。
ところでマインドマップって何?といった方も多いと思います。
マインドマップとは頭の中を可視化する思考ツールで、ビジネスや教育の場で定着しつつあります。
例えば、書籍『奇想の系譜』を読んだ後、内容をマインドマップにするとこんな感じになります。自分が本を読んで印象に残ったことや、考えたことや、知りたくなったことなどを一枚の紙に書き出すことで、頭の中が解放され、全体を俯瞰してみることができます。
当日の参加者は全部で9名。
二週間ほどの受付期間だったにも関わらず、参加条件であった「書籍『奇想の系譜』を読む」「『奇想の系譜展』を鑑賞する」をこなし、申し込んでくださった、みなさん。当然気合いの入った方ばかりでした。
今回は、書籍・展覧会の全体の中でも「伊藤若冲」に焦点をあて、以下のような流れで行いました。
1. マインドマップの書き方を知る (自己紹介と若冲に関する簡単なマインドマップを書いてみる)
2. 作品を鑑賞する
3. 鑑賞を踏まえた上でメインのマインドマップを書く
4. 皆で共有する
1.マインドマップの書き方を知る
はじめに、マインドマップの書き方についての説明がありました。次に、2つのテーマについて簡単なマインドマップを書き、慣れて行きます。
マインドマップ1:自己紹介
①Who:何をしている人?、②Art:美術館との関係、③Why:本日参加した理由の3点をメインとしたマインドマップを作成します。書きやすいので練習にちょうどよく、加えて参加者同士の交流につなげます。
マインドマップ2:若冲について知ってること
本で勉強したこと、以前から知っていたことなど、現在の頭の中を整理します。知ってること、知らないこと、知りたいことなどを見える化し、そこから、今回作品を鑑賞する上でのそれぞれのテーマを決定します。
皆さん「マインドマップを書くのは初めてです」と言いながらも、初めてとは思えないペースとクオリティで書き進めていました。
2.作品を鑑賞する
マインドマップを書いて若冲について思い出し、自分自身の鑑賞のテーマを設定できたら、今度は若冲の作品を鑑賞してみます。
まずはグループごとに鑑賞。その後、各自が設定したテーマを意識しながら一人でみてまわります。
グループでの鑑賞では、参加者同士が作品を前に語らい、自分の視点とは異なる視点を楽しんでいるようでした。複数人で作品をみるのは初めてという方が多く、誰かと一緒に鑑賞するってこんなに面白いんだ、と喜んでいただけました。
3.メインのマインドマップを書く
鑑賞で得た気付きを踏まえて、本日最後のマインドマップを作成します。
時間をかけてじっくりと。
各人が自分の脳内と向き合い書き出して行きます。
参加者の数だけ個性的で面白いマインドマップが出来上がっていきます。
4.共有する
最後に参加者同士でそれぞれのマインドマップを共有します。
他者の視点から物を見ると、新しい発見があります。同じものを見てきたはずなのに違うものが見えている、そんな面白さを感じていただけたのではないでしょうか。
他の人が書いたマップを見合う時間。初対面の皆さんが2時間でここまで距離が縮まりました。
実施後のアンケートでは、マインドマップをもっと書いてみたい、美術館に行く機会が増えそうといった好意的な声を多数いただきました。
面白いコメントとしては、知識がなくても楽しめるという感想の一方で、知識があればもっと楽しめる、と言う意見がありました。マインドマップ鑑賞法は、展覧会の知識の量にかかわらず楽しむことができ、さらに別の人と互いの見方や考え方を一目で共有できる特性は、美術館を更に楽しむ助けになると感じました。
何を見るかと同じくらい、どの様に見るかは大切で、その見方によって、得るものは大きく違うのだな、と実感しました。そして、自分が何を見ているのかって、案外自分自身にも見えていないとも感じました。
この先AIが発展する世界では同じ答えが出ればいい程度の仕事なら機械がやることになります。
人間にとっては人と違うことが唯一にして最高の価値になるかもしれない。もっと、自分の脳と向き合わないと。そんなことを考えながら、今回のプログラムはこれにて終了。自分が自分であることを楽しめるようなプログラムをこれからも模索していきたいと感じました。
執筆:平田賢一(アート・コミュニケータ「とびラー」)
2018.06.17
2018年6月17日 日曜日の午後、事前に申し込みいただいた参加者の方々をお迎えして「マインドマップで味わうアート」を開催しました。
ビジネスや教育の現場で定着しつつある、マインドマップの手法を活用しながら作品の鑑賞を楽しみ、発見して、誰かと語り合おうという、「対話を通した作品鑑賞xビジネスツール」の新しい体験の試みです。
作品と向き合う中で生まれた自分の考えや気づきを、マインドマップを使って整理してみることで、鑑賞で感じたことを少し時間が経っても思い出すことができます。それをさらに言語化して家族や友達に伝えることができれば、鑑賞の体験がより深まるのでは?という期待感をもって準備を重ねていきました。
プログラムは、参加者の皆さんに、都美のアートスタディルームに集まっていただき、マインドマップを描いて自己紹介をすることからスタート!
進行役のとびラーが、自分の自己紹介をしつつ、マインドマップの描き方の基本をお伝えします。
マインドマップを描くのは初めて!という方もいらっしゃいましたが、思い思いのマップには、その方をあらわすキーワードが散りばめられていて、既に、コミュニケーションを後押しているように感じました。
次に「プーシキン美術館展」を鑑賞するための基本情報を、マインドマップを描きながらキーワードやイラストを交えて説明しました。
プーシキン美術館とは?フランス風景画とは?
そして皆さんそれぞれが展覧会で発見したり、感じてみたいこと(マイテーマ)は?
その後、展覧会の各章のテーマとキーワードに紐づけて、15枚の作品がどの章に属するのかを推理して選んでいただくというゲームをしました。
ここでも、作品のどこからそう判断されたのかや、自分はどの作品が気になる、など、自然に参加者の皆さんの間で会話が始まっています。
ゲームの後は、今日じっくりと鑑賞したい1作品を選びます。
次に、今回の参加者の皆さんも楽しみにされていた対話を通した鑑賞を体験していただきます。
今日取り上げた作品は、プーシキン美術館展に出品されているクロード・モネの《草上の昼食》(1866年)です。
「仲がよさそうなグループだけど、右端に一人、輪に入れない男の人がいる。」
「飲み物はワインだけだろうか?」
少人数のグループだったので、皆さん、自由に発言をされていました。
今回の参加者の皆さんは対話を通した鑑賞への関心が高い方も多く、
その説明にも興味をもっていただいたようです。
その後、いよいよ、展示室へと移動します。
まずは2つのグループに分かれて、案内役のとびラーと3フロアから成る展示室を一巡。その間にも、先ほどゲームをした作品を見つけると、参加者の皆さんの足が止まり、大変熱心な様子が伝わります。とびラーが見つけた各章の面白い見所などについても会話が弾みます。
それぞれのグループごとに、時間をとって1作品を鑑賞します。
1グループはルイジ・ロワール《パリ環状鉄道の煙(パリ郊外)》(1885年)、もう片方のグループはピエール・ボナール《夏、ダンス》(1912年)。どちらも見ごたえのある大作です。
その後は、マインドマップを作成するための個人での鑑賞の時間です。
それぞれがもっと見たいと思った作品のもとに向かい、発見や気づきをメモしてきます。
その後、アートスタディルームに戻り、本日の鑑賞をもとにマインドマップを作成します。
約30分、カラーペンを使って思い思いにまとめていきます。
最後に、描き上げたマインドマップを見せながら、今日の鑑賞体験を一人ずつ発表していただきました。
「絵の緑が非常に美しくて印象深かった。」
「私は、展覧会を見て“道“をいう言葉が浮かびました。」
「展覧会を通していろんな“旅”があることが分かった。」
その他にも、キュレーションに関心があるというご意見や、とびラーがこの企画実施にたどり着くまでの過程の“旅”に参加できてよかった、という励ましのメッセージまでいただき、大変感動しました。
プログラムはこれで終了。
実施後のとびラーのふりかえりでは、今回の参加者のみなさんの様子を思い返しながら、時間配分や、描いたマインドマップの共有方法についてを話し合い、マインドマップというツールと対話を通した鑑賞の融合について考える時間を持ちました。
参加者の皆さんが回答してくださったアンケートでは、
「マイテーマを持つことは面白い」
「想像を超えて楽しかったです!マインドマップが思考の整理、記憶の定着、意識の向け方に役立ちそう。」
「会場で少し説明が欲しかった。」
「対話型鑑賞を会場でもう1点できるとよかった。」など、
具体的によかったところや改善の余地がある点があきらかになりました。
今後のプログラムづくりにぜひ活かしていきたいと思います!
執筆:中元千亜樹(アート・コミュニケータ「とびラー」)
大人も子供も作品について語り始める時のキラキラした表情をみるのが、とても好きです。
お気に入りの美術館はTate Modern(英国)Kiasma(フィンランド)。