東京都美術館× 東京藝術大学 「とびらプロジェクト」

活動紹介

【開催報告】トビカン・ヤカン・カイカン・ツアー

2022.12.02

企画展開催中の金曜の夜間開館に合わせて開催される建築ツアー。ライトアップされた空間を散策しながら、東京都美術館の魅力に触れる特別な時間となっています。

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金曜日。暗くなり始めた上野の森で輝きを放つのが、夜間開館の東京都美術館です(以下、『都美術館』と略)。昼間とは違う都美術館の魅力をぜひみなさんに知っていただきたい、そんな思いでこのツアーを開催してきました。

「トビカン・ヤカン・カイカン・ツアー」はとびラーが企画するプログラムの中でも2013年から約10年にわたり続いてきた歴史があります。コロナ禍に一時中断を余儀なくされましたが、2021年の冬に再開、今年度も春の『スコットランド国立美術館 THE GREATS 美の巨匠たち』、夏の『ボストン美術館展 芸術×力』、秋冬の『展覧会 岡本太郎』の3つの企画展開催に合わせて各3回ずつ、5月から12月にかけて計9回にわたり開催され、延べ150名ほどの方にご参加いただきました。

 

【「夜」ならではの魅力を伝えたい~ツアーが出来るまで~】

このツアーの特徴は何と言っても「夜」という特別な時間の都美術館を巡ること。ライトアップがスポットライトのように、都美術館の魅力をよりドラマチックに浮かび上がらせます。『宝石箱』にも例えられる夜の都美術館はまるで発光するようにさまざまな色や光、形が際立って、その美しさに何度見てもハッとさせられます。

この感動をどうしたら参加者のみなさまにも味わっていただけるか、とびラー同士でガイド役・参加者役となり、協力しながら事前にトライアルや練習を重ねてブラッシュアップに努めてきました。

とびラ―によってガイド内容が違うのも、この建築ツアーの魅力のひとつ。「30分間」という限られた時間ではすべてを伝えきることは難しく、どこを削るかは誰もが悩むところです。ガイド担当は建築の専門家ではないとびラーがほとんどなのですが、何度も夜の都美術館を巡ってその魅力を確かめながら、自分のツアーの焦点を考え、感動を軸にルートや周る順番、内容を練り上げていきます。

トライアルと振り返りを繰り返し互いの気付きを共有する

 

今年度は延べ28名のとびラーがさまざまな役割を分担しながらツアーを運営してきました。ガイドやサポートはもちろん、当日の受付や案内、記録撮影など、関わるすべてをとびラーで企画実施します。夜のひとときを気持ちよく楽しく過ごしていただくために、毎回ツアー終了後に振り返りながら、細かな動きまでいろいろな角度から工夫が重ねられています。

 

【30分という手軽さも魅力~参加者のみなさまの反応~】

「19:15ツアースタート」という同じ設定でも、季節によって都美術館の雰囲気は変わります。

春先は心地よい風を感じながら歩き、夏はまだ少し空に明るさの残る中スタートし暮れていく時間をたのしみつつ、寒い季節は澄んだ空気にいっそうきらめくライトアップの中を進みます。

季節によって空の色も違って見える

屋外彫刻もライトアップ

昼間と違う表情を見せる外壁

夜はツアー中の様子が外からもよく見える。普段は夜間に入ることが出来ない公募棟を案内中

思わず写真を撮る参加者も多い

 

参加者のみなさんにとっては、季節や時間帯で全く違う新たな都美術館との出会いを体験していただけるものになっているのではないでしょうか。

ツアースタートが「19:15」と少し遅い時間設定なので、お仕事帰りの方にも多くご参加いただいています。

今年度は、夏休み中のお子様と一緒にご家族で参加いただくケースもありました。

参加者には「夜の都美術館は初めて」という方も多く、30分という短い時間にギュッと魅力が凝縮されたツアーに参加して、帰る時には「美術館がこんなに素敵な場所とは知らなかった」「また来たい」「昼の様子もみてみたくなった」といった声を多く寄せていただいています。

ツアー終了後の参加者アンケートからは展覧会だけではない都美術館の場所や空間の魅力、その豊かさに改めて注目していただく機会となっていることがうかがえます。

ご参加いただいた皆様からの反応は私たちの励みやたのしみとなっていて、とびラーと参加者とで一緒につくる時間を心がけています。

12月2日、今年度最後のツアーはクリスマスの雰囲気を演出。ツアー終了後にこの日の運営とびラーみんなと記念写真


執筆:尾駒京子(アート・コミュニケータ「とびラー」)

9期とびラー。夜間開館が中止されている時に、2、3年目とびラーが撮影した夜の都美術館の画像を見て、その美しさに衝撃を受けました。『いつか必ずこのツアーを再開したい』とその時強く思いました。建物にこめられた設計者やつくり手の想いを参加者と一緒に紐解く、そんな時間がとても楽しかったです。

【開催報告】『おいでよ・ぷらっと・びじゅつかん』

2022.11.12

今日はどんな気分?

「学校がしんどいな」とか

「いつもみんなで行動するのも疲れちゃう」と思ったら、

おいでよ、ぷらっと美術館に

 

秋晴れの11月、土曜日の午後、私たちのこんな呼びかけに応募してくれた

3組の親子が東京都美術館のアートスタディルームに来てくれました。

「おいでよ・ぷらっと・びじゅつかん」は、学校が「しんどい」と感じている小学生・中学生とその保護者を対象としたプログラムで、2021年度から始まり今回が3回目の実施になります。

参加者ととびラーが1対1でペアになり、東京都美術館や展覧会を一緒にお散歩することで、美術館での過ごし方をみつけていく、オーダーメイドのプログラムです。

学校に行っていても、行っていなくても、何かしら「しんどさ」と感じている子供たちに対して、「社会の中には学校と家だけじゃなくていろんな場所があるよ」「美術館は『自分の居場所』のひとつになれるかもしれないよ」ということを伝えたいと思い企画しました。

 


美術館へようこそ!

 

子供たちがゆっくりと来られるように、受付は14:3015:0030分間設けました。美術館に来るのが楽しみで受付開始した直後にきてくれる子もいれば、あまり乗り気そうではなく受付時間ぎりぎりに連れて来られた子も。どんな状況でも来てくれただけで私たちは嬉しくて、少しでも緊張を解きほぐせるよう笑顔でお出迎えしました。

担当とびラーと参加者が席に着いたら、お互いに呼んで欲しい名前を付箋に書いて交換し、このプログラムの特別パスポートをお渡ししました。この特別パスポートは、お散歩の中で見つけた「お気に入り」を記録するために使います。また、参加者は初めての場所や初めて会うとびラーに緊張しているだろうと思い、まずは少しでも安心感を持ってもらえるよう、これからプログラムでやることをフリップを使って説明しました。

 

お互いを知り合う時間

次に、アイスブレイクとして、岡本太郎の作品や東京都美術館の写真を使って、どんなものが気になるかについてお互いに話しました。テーブルに並べたたくさんのカードの中から、まずはとびラーが好きなカードを紹介します。次に子供に興味があるものや見たいと思うものを選んでもらい、どんなところが気になるかを聞きます。名前を書いた付箋を指人形のように使いお話しするペアもあり、カードを通じてお互い興味があることを話すことで、とびラーと子供の距離が少しずつ縮まっていきます。

熱心にお話ししてくれる子もいる一方で、なかなか話そうとしない子もいました。初めて会う人といきなり仲良くなるのは大人でも難しいので、そんな子がいてもおかしくありません。本人のペースで心が開くまで、時間をかけて話しかけていきました。その子もきっと話しかけられる言葉を聞きながら、とびラーがどんな人かを知ろうとしてくれていたのだと思います。一言、二言と少しずつ話してくれるようになり、20分間のアイスブレイクが終わる頃には、最初の頃の緊張は解け、とびラーとお散歩に行く気持ちができているようでした。

 

お散歩へ出発

心の準備ができたら、お散歩へ出発です。ここからは保護者とは離れて、とびラーと子供だけの時間が始まります。みんなしっかりとした足取りで「展覧会 岡本太郎」に向かっていきました。会場に入り岡本太郎のエネルギッシュな作品の数々を見ると、元々楽しみにしていた子はもちろん、最初は興味なさそうだった子も一気に作品の魅力に惹きつけられたようでした。それぞれお気に入りの作品を見つけて、熱心に観察したり写真を撮ったりしながら鑑賞しました。一つの作品をじっくり見る子もいれば、多くの作品に興味が止まらない子もいて、作品の鑑賞の仕方にも一人ひとりの個性が出て、一緒に回るとびラーにも発見のある楽しい時間となりました。はじめは一言だけだった感想も、展覧会の最後には「作品のこんなところがが好き」という話から、普段の好きなものの話までたくさんお話ししてくれるようになっていました

展覧会の後には美術館内を一緒にお散歩しました。東京都美術館には心休まる空間がたくさんあります。とびラーおすすめの場所に案内すると「わぁ」と声を上げ、展覧会とはまた別の表情を見せてくれました。

 

 

今回は、保護者にも美術館が居場所になり得ることを知ってほしいと思い、「参加者」としてとびラーと二人で活動する時間を設けました。なぜ私たちがこのプログラムを作ったのか、それぞれの個人的な思いも含めて伝えることから始め、1対1でじっくりとお話をしました。保護者からも、このプログラムへの応募動機や美術館への関心についてお話ししてもらい、子供と離れ、一人の大人として非日常のリフレッシュする時間を体験してもらいました。

 

 

お気に入りボードとパスポートの作成

 

一組、また一組とお散歩を終えた子供たちが、目を輝かせてとびラーと楽しそうにアートスタディルームに戻ってきました。ちょっと休憩をして、美術館で見つけたそれぞれの「お気に入り」からお気に入りボードを作成する作業に取り掛かります。撮影した写真の中から1枚選んでプリントアウトし、岡本太郎の消しゴムハンコを押したり、絵を描いたりとそれぞれの方法で、「お気に入り」を思いっきり表現してくれました。子供たちはプログラム当初の緊張していた様子とは打って変わり、周りのとびラーにも何が気に入ったのか、何を作っているのかを元気よく話してくれ、部屋全体が賑やかな空気に包まれました。最後に保護者と子供それぞれにアンケートを回答してもらい、全部で90分のプログラムが終了しました。

 

おいでよ・ぷらっと・びじゅつかんに込めた思い

私たちはこの企画を進めるにあたり、どうしたら参加者が「自分の居場所」と感じられるようになるか、何度も何度も話し合いました。その中で出てきたキーワードは、「子供と真剣に向き合い続けること「違いをありのままに受け止め、肯定すること」「正直に向かい合い、取り繕わないこと」でした。子供たちがどんな心の状態で来てくれるのかわかりませんでしたが、どのような状況でもこれらのキーワードを守り、あとは柔軟に対応することに決めていました。

実際に、学校が「しんどい」理由も性格や興味も参加者それぞれ違い、想定していなかった状況も多々ありましたが、参加者にとって安心できる場にすることを何よりも大事にしました。参加者全員が最後に笑顔で帰っていった姿を見て、また、保護者から「新しい場所に行くことを少し躊躇するようになっていたが、初めての美術館がとても楽しい時間となったようです。」「美術館がお気に入りの場所になりそうです。」という声をいただき、私たちの想いを十分に届けることができたと感じています。

 

おいでよ、ぷらっと美術館に。

 

美術館がそんな場所となれることを願い、今後もっと多くの人に私たちの想いを届けていきたいです。


 

執筆:飯田 倫子(アート・コミュニケータ「とびラー」)

とびラー2年目。とびらプロジェクトを通じて色々な人に出会い、日々刺激を受けると共に、美術館が自分にとっても「居場所」になりつつあることを感じています。

 

【開催報告】トビカン・モーニング・ツアー

2022.10.11

トビカン・モーニング・ツアーは、午前中、まだ人もまばらで、のんびりとした空気の中の美術館をまわる30分のツアーです。周りの上野公園の緑も取り込みながら気持ちよく時間が過ぎていき、午後や夜とは少し違った景色を観ることができます。

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10月11日(火)

曇りがちな連休のあとに訪れた 気分の良い秋の朝での開催となりました。

建物の外に出た瞬間の風が気持ち良かったです。

この日は4チーム4つのコースで実施。参加者は7人。

今回は少人数のチームも多く、のんびりとじっくり回ることができたようです。

参加者の皆さんのニコニコな笑顔が印象的な回でした。

「別のツアーも参加したい!」の声も多かったようで、またお会いできることを楽しみにしています。

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トビカン・モーニング・ツアーは、午前中、まだ人もまばらで、のんびりとした空気の中の美術館をまわるツアーです。周りの上野公園の緑も取り込みながら気持ちよく時間が過ぎていきます。このツアーを通して、新しい美術館の魅力を見つけてくださるといいな、と思っています。(滝沢)

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執筆:

池田智雄(アート・コミュニケータ「とびラー」)
とびラー10期。散歩と美術館が好きで、その楽しさを他の人にも一緒に味わってもらうことができるこのとびラボが大好きです。ツアーの時に参加者が自分で見つけた美術館の魅力を言葉にして教えてくれるとガイドとしてとてもうれしくなります。

滝沢智恵子(アート・コミュニケータ「とびラー」)
とびラー9期。トビカン・モーニング・ツアーは、平日の午前中、上野公園全体がなんとなく緩やかに時間が過ぎている時間帯に開催されています。参加された皆さんが、そういう空気を感じながらのんびりとくつろいでいらっしゃる様子をみることがガイドとして、とても幸せです。

【開催報告】聴く 視る 話す 鑑賞を深く味わおう

2022.09.16

2022年9月16日、東京都美術館で開催された『ボストン美術館展 芸術×力』展(会期:2022年7月23日~10月2日)に合わせ「聴く 視る 話す 鑑賞を深く味わおう」を開催いたしました。

 

このプログラムには、ふたつの目指すところがありました。

・普段の鑑賞に「聴く」「視る」「話す」を意識するパートを加えることで「作品を深く味わえた」と実感していただきたい。いつもと違う美術館での過ごし方を体験することで、鑑賞スタイルの幅を広げて欲しい。

 

・参加者やとびラーとの交流を通して、美術館が「作品を鑑賞するだけの場ではない」人々の交流の場となり、新しい価値観を生みだす「心のゆたかさの拠り所」となることを感じていただきたい。

 

それでは、このプログラムが創り上げられていく過程からお伝えしたいと思います。

 


 

▶ワークショップ開催までの流れ

春先にラボを起ち上げ、集まってくれたメンバーで「作品を味わえた」と感じた経験について、共有することから始めました。

その中で、メンバーからはこんな意見が聞かれました。

・グループでの「対話型鑑賞」での体験。他の人の意見から異なる視点を得られた

・全ての作品ではなく、心に残った作品をじっくりと時間をかけて観察。新たな発見や気付きを得ることができた

・鑑賞後、他の人と感想を共有。多様な意見を交わし合うことで、作品への理解が深まった

 

メンバーのそれぞれの体験談から「聴く」「視る」「話す」という、3つの要素を軸にプログラム構成を考えよう、という方向に決まりました。ワークショップの流れと内容は下記の通りです。

 

聴く 『ボストン美術館展 芸術×力』展の作品画像をモニターに画像を映す。少人数のグループに分かれ「対話型鑑賞」を行う。グループで同じ作品を鑑賞しつつ、他の人の発話からいろいろな視点があることを実感してもらう

 

視る 『ボストン美術館展 芸術×力』展の会場に足を運び、本物の作品を観察、鑑賞する。同じ作品でもいろいろな意見がある、もっと自由に作品を鑑賞してもいいんだ、という「聴く」での体験を元に今度はひとりでじっくりと作品を鑑賞する

 

話す 本物の作品を鑑賞しての感想や、気になる作品をグループで共有する。他の人と感じたことを分かち合う楽しみと喜びを味わってもらう

 

 

参加者に、いかに心地良くストレスなくプログラムを楽しんでいただくか?

来場者が少ないことが予想される金曜夜の「夜間開館」の時間帯にプログラムを開催することにしました。

メンバーで何度もミーティングやトライアルを繰り返し、プログラムを練り上げていきました。

 

それでは、当日の様子をお伝えします。

 


 

暑さも少し和らぎ、過ごしやすさも感じる日和となりました。夜間開館の時間帯に展示室へ足を運べるよう、17時に受付開始です。20代~70代までの幅広い14名の方がご参加。参加者4~5名、とびラー3名の3グループに分かれます。

 

▶アートカードを使って自己紹介

 

受付をすませた参加者さんから、ゆるやかに輪になって座っていただきます。「東京都美術館へはよくいらっしゃるんですか?」初めて訪れる場所、初めて出会う人たち。緊張気味な参加者にとびラーがにこやかに話しかけ、リラックスしていただけるよう心掛けます。

参加者の表情が和らいできたところで、自己紹介タイムです。あらかじめ『ボストン美術館展 芸術×力』展の作品の図版が、ホワイトボードに貼りだしてあります。選ばれた作品は絵画のみならず、服飾や工芸品なども含まれる、幅広いラインナップが特徴となっている6点です。本展覧会への期待感を持ってもらうために何度もメンバー同士で話合い、作品を選びました。

 

まずはじめに参加者に「気になる作品」を選んでいただきました。なぜ、この作品が気になるのか?理由を話しながら自己紹介。見知らぬ参加者同士がお互いを知り合う、プログラム冒頭の大切な時間です。自分が選ばなかった作品への視点を知ることで、この後に控えた展示室での鑑賞にも興味が膨らみます。

 

▶モニターに作品を投影し対話型鑑賞

 

 

とびラーのファシリテーションで「対話型鑑賞」を行います。まずは作品をじっくり観察。参加者同士、感じたことや気になることを共有します。対話型鑑賞が初めての参加者がほとんどでしたが、自己紹介の時間ですっかり打ち解けた参加者より次々と発話が続きます。

 

▶展示室で「ボストン美術館展 芸術×力」展を鑑賞

展示への興味が充分高まったところで、いよいよ本物の作品を鑑賞します。

展示室で鑑賞する作品の作品名と、気付いたことをメモするコンパクトなメモ帳をお渡ししました。

 

 

安心して鑑賞に集中できるよう、展示室ではとびラーが見守る事をお伝えしました。皆さん、メモ帳片手に熱心に作品を鑑賞してくださったようです。

 

▶展示室から戻り感想を共有

「お帰りなさい!」60分間、本物の作品と向き合った参加者を笑顔でとびラーが迎えます。戻ってきた参加者の表情より「はやく見つけたこと、感じたことを話したい!」という高揚した気持ちが伝わってきます。

 

 

まずは「対話型鑑賞」を行った作品の共有から始めます。ひとつの作品を10分以上掛けて鑑賞する体験は皆さん初めてだったと思います。描かれている場面や人物から当時の時代背景、権力の構造にまで話が及んだグループもありました。短い時間で『ボストン美術館展 芸術×力』のテーマに迫る視点を共有できたことは、予想外の展開で充実した時間となりました。

 

 

 

場が温まったところで「自己紹介」の時間に選んだ作品について共有します。

隅々までじっくり観察することで、色彩の鮮やかさや構図の奥行き、描かれている絵画の空気感まで感じ取ってくださったようです。「他の人の感想を聞いて、もっと作品が観たくなってきた。また、展示を観に来ます!」という嬉しい言葉も飛び出しました。

 


 

今回は、冒頭の自己紹介から「対話型鑑賞」まで『ボストン美術館展 芸術×力』に展示されている作品を選びました。その流れによって、展示に向けての期待感が高まり展示室で鑑賞する時間もより深く興味を持って、過ごすことができたと思います。

 

皆さん、普段と違う美術館での過ごし方をどのように感じたのでしょうか?アンケートをみてみましょう。

 

・明るく楽しい雰囲気で、感じたことを遠慮なく話せました。皆さんの感想に「おお、なるほど!」となったり別の視点からの見方を知って、よりいっそう鑑賞の楽しみが増しました。

 

・ひとつの作品とじっくり向き合う時間。ひとりであるいは友人と一緒でも、今までこんなに長い時間を掛けて作品を観ることはなかった。いろんな角度で見て感じることで、より一層作品の印象が深くなった。

・スケジュールも細やかに検討されていて、流れるようなあっという間の時間でした。初めてで、不安に思っていましたが安心して参加することができました。

 

約半年にわたって練り上げた鑑賞プログラム「聴く 視る 話す」。無事に開催することができました。

最後にたくさんのアドバイスを下さった「とびらプロジェクト」スタッフの皆さま、一緒にプログラムを創り上げてきた仲間たち。当日参加してくださった皆さま、全ての方に心より御礼を申し上げます。

 


【参加アート・コミュニケータ】
岡田、栗山、小屋迫、長尾、堀内、山中、吉水、遊佐、井上、梅川、隈井、高崎、高橋、宮林、山本

 

 


 

執筆:遊佐 操(アート・コミュニケータ「とびラー」)

とびラー3年目。活動の中で「アートってひとを変えるチカラがあるんだ!」と実感する場面が何度もありました。これからもそんな奇跡のような、喜びに満ちた瞬間に関わり合っていきたいです。

 

 

【開催報告】トビカン・モーニング・ツアー

2022.08.23

トビカン・モーニング・ツアーは、午前中、まだ人もまばらで、のんびりとした空気の中の美術館をまわる30分のツアーです。周りの上野公園の緑も取り込みながら気持ちよく時間が過ぎていき、午後や夜とは少し違った景色を観ることができます。

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8月23日(火)

少し蒸し暑い夏の日。それでも沢山の参加者の皆さんがお越しくださいました。

この日は4チーム4つのコースで実施。参加者は12人。

ご夫婦で参加されたり、参加者同士が同世代で盛り上がったり。

どのチームも皆さんで楽しくお話しながらツアーが進んで行きました。

アートラウンジでは上野の緑に囲まれ、椅子に座って皆さんリラックスされていました。

室内からでも見どころが沢山ある東京都美術館。

暑い夏でも楽しんでいただけます.

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トビカン・モーニング・ツアーは、午前中、まだ人もまばらで、のんびりとした空気の中の美術館をまわるツアーです。周りの上野公園の緑も取り込みながら気持ちよく時間が過ぎていきます。このツアーを通して、新しい美術館の魅力を見つけてくださるといいな、と思っています。(滝沢)

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執筆:

池田智雄(アート・コミュニケータ「とびラー」)
とびラー10期。散歩と美術館が好きで、その楽しさを他の人にも一緒に味わってもらうことができるこのとびラボが大好きです。ツアーの時に参加者が自分で見つけた美術館の魅力を言葉にして教えてくれるとガイドとしてとてもうれしくなります。

滝沢智恵子(アート・コミュニケータ「とびラー」)
とびラー9期。トビカン・モーニング・ツアーは、平日の午前中、上野公園全体がなんとなく緩やかに時間が過ぎている時間帯に開催されています。参加された皆さんが、そういう空気を感じながらのんびりとくつろいでいらっしゃる様子をみることがガイドとして、とても幸せです。

【開催報告】トビカン・モーニング・ツアー

2022.07.05

トビカン・モーニング・ツアーは、午前中、まだ人もまばらで、のんびりとした空気の中の美術館をまわる30分のツアーです。周りの上野公園の緑も取り込みながら気持ちよく時間が過ぎていき、午後や夜とは少し違った景色を観ることができます。

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7月5日(火)

前日まで雨の予報がほぼ晴れで、午前中とはいえ少し暑いくらいでした。

朝の眩しい日差しを浴びた都美の建物は落ち着いた美しさが際立ちます。

 

この日の参加者は12人。

初参加の人はもちろん都美に来るのも初めての人もいれば、都美の建築ツアーに何度も参加されているベテラン参加者まで幅広い方に来ていただきました。

中には岐阜県美術館のアートコミュニケーター「~ながラー」の方もいらっしゃいました。

 

ツアーは4チーム4つのコースで実施。

そのうち2チームはモーニングツアーのガイドデビューとなる二人のとびラーが先導しました。

 

暑さ対策で事前に決めていたコース取りを検討し直す各チーム。

建物の外に出る場合はなるべく日陰の場所を歩くように、または外に出るのを控えて室内中心のコースに切り替えるチームもありました。

 

今回のツアーから、感染症対策で休憩スペースとしての利用が中止されていた中央棟の「佐藤慶太郎記念 アートラウンジ」が利用できるようになり、北欧デザインの椅子やテーブルで過ごす時間を各チームが取り入れました。

 

今年度2回目のモーニングツアー開催とあって、初回と比べると余裕をもった準備ができたことと、天候にも恵まれたことで、明るい日差しの中、参加者の方々には朝のゆったりした時間を過ごしていただけたようです。

 

参加者からは

「これまであまり気にしていなかった美術館の建物に興味を持てた」

「アートラウンジの椅子が座り心地良い。根が生えた(笑)」

「もっと都美や建築のことを知りたい、また来たいと思った」

「野外彫刻がとても気になる」

「他の美術館の建物もよく見てみたい」

「とびラーについて興味がわいた」

などのコメントをいただけました。

 

わたしたちも、参加者が発見する都美の魅力を毎回学べる良い機会です。

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トビカン・モーニング・ツアーは、午前中、まだ人もまばらで、のんびりとした空気の中の美術館をまわるツアーです。周りの上野公園の緑も取り込みながら気持ちよく時間が過ぎていきます。このツアーを通して、新しい美術館の魅力を見つけてくださるといいな、と思っています。(滝沢)

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執筆:

池田智雄(アート・コミュニケータ「とびラー」)
とびラー10期。散歩と美術館が好きで、その楽しさを他の人にも一緒に味わってもらうことができるこのとびラボが大好きです。ツアーの時に参加者が自分で見つけた美術館の魅力を言葉にして教えてくれるとガイドとしてとてもうれしくなります。

滝沢智恵子(アート・コミュニケータ「とびラー」)
とびラー9期。トビカン・モーニング・ツアーは、平日の午前中、上野公園全体がなんとなく緩やかに時間が過ぎている時間帯に開催されています。参加された皆さんが、そういう空気を感じながらのんびりとくつろいでいらっしゃる様子をみることがガイドとして、とても幸せです。

【開催報告】トビカン・モーニング・ツアー

2022.04.19

トビカン・モーニング・ツアーは、午前中、まだ人もまばらで、のんびりとした空気の中の美術館をまわる30分のツアーです。周りの上野公園の緑も取り込みながら気持ちよく時間が過ぎていき、午後や夜とは少し違った景色を観ることができます。

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4月19日(火)

2022年度最初となるモーニングツアー。

今回初めて運営メンバーとして参加するとびラーも多数でしたが、昨年までの経験やノウハウを2〜3年目のとびラーから引き継いで準備万端。

事前に役割を決めたり、とびラーを相手にトライアルをおこなったりしてこの日を迎えました。

この日は4チーム4つのコースで実施。

ガイドとサポートの2名1組で1チームとなり、参加者と一緒に東京都美術館(以下、都美)を巡ります。

他に受付、案内係、記録係15名のとびラーによる運営メンバーでツアーを実施しました。

 

参加者は6人と少なめでしたが、その分、参加者のみなさんと親密な雰囲気になれました。

この日は過ごしやすいお天気とあって、建物の外をゆっくりまわるチームが多く、芝生に咲くたんぽぽや鳥のさえずりに囲まれて都美の落ち着いた空間を味わえました。

春の朝のあたたかい日差しの中、ゆったりした時間を満喫していただけたかと思います。

 

参加者からは

「知らなかったことを親切に教えてもらえた」

「美術館の魅力や楽しみ方を知ることができた」

「あっという間の30分だった」

「都美の建物を設計した前川國男の思いをよく理解できた」

「これからは展示だけでなく美術館の建物も楽しむようにします」

などのご意見をいただきました。

 

実施後は、ふりかえりを皆でおこないました。

初回とあって運営上の反省点もいくつかありましたが、改善策を立てて次回につなげるようにしました。

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トビカン・モーニング・ツアーは、午前中、まだ人もまばらで、のんびりとした空気の中の美術館をまわるツアーです。周りの上野公園の緑も取り込みながら気持ちよく時間が過ぎていきます。このツアーを通して、新しい美術館の魅力を見つけてくださるといいな、と思っています。(滝沢)

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執筆:

池田智雄(アート・コミュニケータ「とびラー」)
とびラー10期。散歩と美術館が好きで、その楽しさを他の人にも一緒に味わってもらうことができるこのとびラボが大好きです。ツアーの時に参加者が自分で見つけた美術館の魅力を言葉にして教えてくれるとガイドとしてとてもうれしくなります。

滝沢智恵子(アート・コミュニケータ「とびラー」)
とびラー9期。トビカン・モーニング・ツアーは、平日の午前中、上野公園全体がなんとなく緩やかに時間が過ぎている時間帯に開催されています。参加された皆さんが、そういう空気を感じながらのんびりとくつろいでいらっしゃる様子をみることがガイドとして、とても幸せです。

【開催報告】車いすで楽しむ都美散歩

2022.04.17

心地よい春の日、「車いすで楽しむ都美散歩」を実施しました。
このプログラムは、アート・コミュニケーター(愛称:とびラー)とのんびりお散歩しながら、東京都美術館(以下、都美)の建物や彫刻の魅力を味わうものです。

 

車いす経験のあるとびラーの「車いすユーザーのみなさんにも、もっと都美の魅力を伝えたい」という想いからスタート。それぞれのお気に入りポイントを持ち寄って散歩コースを考え、トライアルを重ねてチェックすることはもちろん、毎回のミーティングで「プチ勉強会」という学びの場を作っていました。都美のバリアフリーガイドURLや世の中の車いすにまつわる様々な取り組みを題材に車いすのことを考えたり、アプリを使いながら都美のバリアフリー状況を調査してみたり。参加者のみなさんに会えることを楽しみに、準備を重ねていきました。

 

それでは、当日の様子を写真とともにお届けします。

 

2022年4月17日(日)午前の回は11:00、午後の回は14:00からプログラムが始まります。来館方法に合わせて事前にお伝えした場所で待ち合わせ。自己紹介をした後は、参加者ととびラーがペアになって、お話しながら都美を巡ります。

 


▲天気にも恵まれ、正門から広がる屋外広場(エスプラナード)を散策中。

 

▲野外彫刻を目の前に、とびラーとお話しながらじっくり鑑賞しているところ。誰かと一緒に作品を見るのも、様々な発見があって素敵な時間です。

 

▲都美のランドマークにもなっている野外彫刻《my sky hole 85-2 光と影》
建物や自分たちが映り込む姿が楽しい作品です。

 

 


▲館内から野外彫刻を鑑賞できるスポットも。作品を味わいながら、
ゆったり静かな時間を過ごすことができました。

 


▲実は、外壁や館内の壁に見られるこちらのタイルにも秘密が…!
じっくり見ながら、その秘密に迫ります。

 


▲アーチ型の天井と照明がなんとも美しい空間。
特別展が開催されていない期間に実施したことで、普段よりゆっくり眺めることができました。

 

参加者のみなさんからは「良い休日が過ごせました」「建築にフォーカスしたことがなかったのでとても楽しかったです」「ゆっくり見て回れました」「また参加したいです」といった声を寄せて頂きました。ご参加ありがとうございました!

 

私も車いすユーザーの1人です。大好きだった美術館からも足が遠のいてしまい、アートを通して社会とつながれる場を増やせたらいいなと思って、とびラーに仲間入りしました。都美は展示室にとどまらない様々な魅力があるのが素敵なところ。建物や野外彫刻をじっくり味わうのもよし、眺めのよいレストランで食事を楽しむのもよし、アートラウンジで素敵な家具に囲まれてホッと一息休憩するもよし、とびラーが携わるイベントに参加してみるのもよし!ぜひ車いすからあなたの都美のお気に入りに出会ってみませんか。

 


◯とびラーによる建築ツアー :https://www.tobikan.jp/learn/architecturaltour.html

◯障害のある方のための特別鑑賞会:https://www.tobikan.jp/learn/accessprogram.html


 

 


 

並木 彩(とびラー10期)

電動車いすと共に生活しています。
とびラーになって、出会う世界がぐんと広がりました!

【開催報告】Fun!Fan!とび巡り

2022.03.25

2022年3月25日(金)「Fun!Fan!とび巡り」を実施しました。この企画の意図と実施当日の様子、実施までの経緯について、またとびラー活動についてお話させてください。

 

 

 

■■ 美術館の楽しみ方とは? ■■

 

みなさんにとって美術館とはどんなところでしょうか。海外から初来日する有名な絵画作品を観に行く場所でしょうか?美術館が所蔵するお気に入りの作品に会いに行くこともあるでしょう。あるいはご自身やご家族の作品が展示されてのお出かけもあるかもしれませんね。

 

多くの方にとっては、美術館は企画展、常設展、公募展など、展示作品をお目当てに出かける場所だと思います。とびラーになる前は私もそうでした。作品に出会うことも楽しみのひとつですが、作品の鑑賞以外に楽しみ方があるのを知ったのはとびラーになってからでした。

 

 

美術館の成り立ちや歴史、建築を学び、美術館のこれまで、そしてこれからの在り方などを勉強しながら、子どもから大人まで幅広い年齢の方々と活動する中で、美術館にはもっと幅広い多くの魅力があることを実感しました。

 

現在の東京都美術館は、建築家前川國男によって設計されました。上野の杜に溶け込むように建てられた一見地味な建築にも魅力が詰まっています。美術館建物内に2つ、屋外に10個設置された彫刻やレリーフ作品を一つひとつ辿って鑑賞するのも楽しいです。

 

甘味をいただきながらお友達と展示の感想を話し合う、窓からみえる豊かな緑に浸りながら食事するなど、カフェやレストランがあるのも嬉しいですね。美術館の歴史を知る、アートラウンジで心地よい椅子に座って寛ぐ、美術情報室で調べ物をする、行き交う人々を眺める、ただぼーっと空を見る・・まだまだありそうです。

 

 

■■ お気に入りポイントの紹介で都美のファンに!■■

 

「Fun!Fan!とび巡り」は、展示作品をみること以外の様々な楽しみをみなさまにお伝えするプログラムとして企画しました。私たちの大好きな場所、楽しい、美しいと感じるFunポイントを紹介することで、プログラムに参加される方々にもFunポイントを味わっていただき、美術館のファン・Fanになっていただけたらという願いを企画名に込めました。

 

 

私たちのお気に入りのポイントは多岐にわたりました。およそ100年前に建築された東京府美術館旧館とその魅力に焦点をあてたとびラーもいれば、さらに遡って150年前、大銀杏(オオイチョウ)が目撃したかもしれない戊辰戦争時、上野での戦いに想いを馳せてみる、そんな歴史を感じるテーマを選んだとびラーもいました。

 

 

公募棟の特徴である長方形の建物が少しづつずれて連なる雁行配置や、中央広場両脇、地下部分から建物を支える背骨のような列柱が並ぶ空間など、建築の構造に注目したメンバーもいました。

 

インド砂岩を混ぜ入れてピンク色を醸し出したかまぼこ型の天井やそこに連なって吊り下げられた丸いライト、その照明光が天井に映り込むさま、壁に採用された打ち込みタイル工法など、建築物の細部に目を向けるとびラーもいました。

 

 

建物の外から内部を見たタイルやライトの連続性とガラスに反射する美しさに着目したり、屋外に置かれた彫刻作品の形態になりきってみたりと、ラボのメンバーが選んだFunポイントは数え切れないほど。

 

 

それら様々なポイントを巡るツアーで都美の魅力の数々をお伝えしたい!と考え、たくさんの要素を詰め込んだプログラムです。

 

 

 

■■ 人と人との出会いも魅力 ■■

 

東京都美術館には、奇数月に一回ずつ開催する「とびラーによる建築ツアー」があります。他にも、とびラーが自主的に企画する「とびラボ」から都美の建築や野外彫刻を楽しむためのツアーやプログラムが複数生まれています。例えば、ライトアップされ昼間とは違った表情を見せる夜の美術館を楽しむ「トビカン・ヤカン・カイカンツアー」、平日の午前中比較的混雑の少ない館内を散策する「トビカン・モーニングツアー」、野外彫刻を楽しむプログラムなどがあります。

 

「とびラボ」から生まれたプログラムの詳細はこちら:https://tobira-project.info/tobilab/#2021

 

 

「建築ツアー」などのプログラムと違い、「Fun!Fan!とび巡り」は、都美建築の魅力を伝えるとびラーがポイントごとで変わっていくスタイルのプログラムとなっていました。

 

各グループのルート案内役が参加者をポイントまでお連れします。それぞれのお気に入りポイントの魅力をお伝えするのは、各自が選んだ紹介スポットで待ち受けるとびラー達です。視点やテーマはそれぞれ。紹介が終わったら参加者は別のポイントに移動します。

 

 

次はどんなスポットでどんなとびラーさんと出会えるのか、そんな変化も楽しんでもらえる「Fun!Fan!とび巡り」。美術館の魅力を知るだけでなく、各ポイントで様々なとびラーとも出会えるツアーだったのです。

 

 

実施に先立ち、とびラー各々がお気に入りの場所を選び、そこを徹底的に調べることから始めました。選んだポイントが美術館の中でどんな位置づけや意味合いがあるのか、どうしたらみなさんにその魅力をお伝えできるのか工夫を凝らしました。そこにとびラーそれぞれの個性が凝縮されていたのです。

 

 

■■ 見つかった!Fun!Fan!ポイント ■■

 

当日のプログラムの様子を簡単にお伝えします。

 

参加者のみなさんが来館時に迷うことなく集合場所に辿り着けるように、プログラムの看板や赤や緑のバナーを持って正面玄関やエレベーターの入り口でお出迎えしました。

 

 

開会の挨拶の後は、都美の見どころを切り取った写真カードを使い、グループごとにアイスブレイクを兼ねた自己紹介タイム。一人で参加される方々の緊張をほぐし、他の参加者やとびラーと打ち解けられるような時間を設けました。

 

 

その後ツアーに出発!各グループで7ポイントを巡りました。

 

 

ツアーから戻った後は、グループで巡ったポイントを館内マップを使って確認し、ツアーの感想などを共有しました。

 

 

あなたの「Fun!Fan!ポイントは見つかりましたか?」の問いに、多くの参加者が見つかった!と声をあげてくれました。

 

また、参加者からいただいた感想から、「Fun!Fan!とび巡り」が目指したもの以上が実現されたことを実感しました。

 

感想をいくつかご紹介しますと・・

  • いろんなとびラーさんが個性的なガイドをしてくれたのが楽しかった。
  • 今まで気が付かなかった美術館の魅力を知ることができた。都美に来るのがますます楽しくなりそう。
  • お話もそれぞれ工夫されており、60分のツアーがあっという間だった。
  • 鳥になって上から美術館を見る、作品の中に入ってみるなど、想像しながら新鮮な体験が楽しめた。
  • 100年前のことに想いを馳せました。
  • アテンドや各ポイントにいらしたとびラーのにこやかなお顔が印象的。参加者が楽しいのはありますが、スタッフの方も楽しんでいることでリラックスして楽しめました。
  • 人と人のつながり、建物の外の中のつながり、自然と建物のつながり、たくさんのつながりを通して、美術館に近づけた気がする。また来るのが楽しみ。
  • 企画展などを観にくる時は 建物にまで目がむかないが、建物の豆知識を得ることで楽しみが増えた。
  • とても楽しく意義のあるプロジェクト。これからも続けてください。
  • いつかとびラーになりたい。
  • とびラーのみなさんが何より楽しそうだった。みなさんの“都美愛”をひしひしと感じた。共感できます💕 いつかやってみたい。
  • とびラーの皆さんの“都美愛‘‘を感じます。なかなか触れることのできないポイントを重点的にお話していただき、都美を更に身近に感じた。
  • とびラーの皆さんが楽しそう。そのままでいてください。

 

 

コロナ禍にも関わらず参加者のみなさまと一緒に美術館を味わうことが出来て本当に感謝しています。

 

 

 

■■ 受け継がれる想い ■■

 

少し時間を戻して、このプログラムが出来上がるまでをお話させてください。

 

このプログラムは、昨年度に任期を満了した7期のとびラーが始めた「とびラボ」がきっかけとなっています。入念な準備を重ねた企画でしたが、コロナ禍の中で参加者をお招きしての開催が叶いませんでした。種を蒔いてくれたラボのアイデアを実現させたいと思い、“この指とまれ”をしました。

 

前年度のとびラーのアイデアから、どんな芽が飛び出すか、どんな実がなるかは、集まったメンバー次第です。なぜならとびラボが “その場に居合わせる人がすべて”というモットーに基づいているからです。とびラボは発案した人だけのものではなく、そこに参加するすべてのとびラーによって、話し合われ、どんなラボにしたいのか、何を目的に、何を実施したいのかの議論や試行錯誤が続きます。

 

その結果、考えていたものと方向が変わって解散するラボもあれば、まったく違ったコンセプトで実施するラボもあります。ラボのメンバーがお互いに、聞いて、考え、話しあい、また聴く。この繰り返しの中で、改良が加わったり、新たなアイデアが生まれたりしながら、方向性が定まり、実現に向けての調整が続きます。

 

2021年の9月に“このゆびとまれ”をしてから約半年、亀のようにゆっくりゆっくりと進んだラボでした。その過程で、メンバーが自発的に企画の案を出し合いました。自らの出来ること、得意なこと、やれることを差し出し合い、みんなで作り上げたラボでした。

 

各ミーティングの議題、アイデアのたたき台、スケジュール管理、実施当日までの様々な進行など、プロセスだけに留まりません。広報用のビジュアルや、ツアーの目印となる旗、プラバンで作ったバッチ、サコシュと呼ばれる小さな肩掛けバックなど、それぞれが時間を見つけて作りました。

 

 

また実質的なコトやモノだけにとどまらず、常に励ましのメッセージや心遣いが行き交いました。ひとつのラボに関わるとびラーの動機や想いはそれぞれ、実施までに費やせる時間も人それぞれです。そこには関わった人だけの想いがあり、出来る人が出来るときに、出来ることをつないでいきます。

 

 

■■ 想いを現実に ■■

 

都美の魅力は作品だけではないこと、建築を含めた魅力がたくさんあることをお話してきましたが、それに加えて、人と人をつなげ、人と作品をつなげ、人と場所をつなぐ存在であるアート・コミュニケータ(とびラー)自身が大きな魅力になっています。

 

 

とびラ-の魅力とは何でしょう?「アートが好き」が唯一の共通項でしょうか。それ以外はバックグラウンドも、年齢も、仕事も、興味関心も、多様な集まりです。絵を描くことが得意な人もいれば、まったく絵は描けないという人もいます。印象派は好きだけど、現代アートはどう受け止めていいのか分からないから苦手という人もいます。建築?特に近代・現代建築は私もさっぱり・・ちんぷんかんぷんでした。

 

そんなバラバラな集団ですが、私が見出す共通項は「想いをかたちする力」がある人々だと思っています。いろんな状況下で当初描いたプランとは違っても、それぞれの想いを聞き、そこから出来ることを探していく。ひとりでは難しくても、集まれば知恵がでる。お互いの個性がぶつかり合うこともあれば、化学反応が起きて思わぬ方向に話が転がっていくことあります。

 

 

関わりの中から生まれた言葉や想いは、誰かの心の中に種や火種となって残り、そこに新たな水や空気が送り込まれると、芽が出たり、火種がポッと燃え上がったりもします。それは今日かもしれないし、一年後かもしれない。

 

 

誰かの想いと想いがつながって、車いすユーザーの方のための企画になったり、小さいお子さんをもつ親御さんのための時間となったり、視覚・聴覚障害の方が参加できるワークショップになったり、学校で過ごす時間が心地よいものではないお子さんたちがほっとできるスペースになったりしました。

 

個性豊かなとびラーたちの、いろんな想いやアイデアが、生まれ、受け継がれ、ラボとして実現しているのです。様々な試みを可能にしてくれているとびらプロジェクトという場と、そこに集まる人々に、私自身が魅了され続けた3年間でした。

 

 

 

■■ いざ美術館に! ■■

 

話が随分と逸れてしまいましたが、美術館は何かが生まれる場だと思います。作品から、作家から、人との繋がりから、そこで起こる事柄から湧きおこる想い。なんらかのひらめきやアイデアかもしれません。心にそっとともされた朧げな灯かもしれませんし、ある日燃え上がる火種かもしれません。それがモノやコトの実現に繋がっているとしたら・・

 

美術館に存在しているモノ、起こっているコトも、誰かの想いが実現したことに他なりません。作品も、イベントも、建築や、家具も、照明、壁や柱の一本も。

 

美術館は作品が展示されるだけでなく、人との出会いがあり、いろんな過ごし方ができる場所です。イベントや企画も行われています。どうぞ、ホームページから、フェイスブックから、Twitterから検索してみてください。

 

Fun!Fan! ― Funが見つかれば、Fanになる。

そこにあなたの想いが重なると・・・想いの実現の一歩になるかもしれません。

さあ、あなただけの楽しみを見つけに、いざ美術館に!

 

 

■■ Fun!Fan! お気に入りポイントリスト ■■

 

☆ アートラウンジ:100年前の旧館に想いを馳せる  石山敬子(8期)

☆ 列柱空間:地下に隠されたとびカンの背骨  脇坂文栄(8期)

☆ 公募棟・赤色の休憩コーナー:美術館を一望できる特等席  山中みどり(9期)

☆ 公募棟・黄色の休憩コーナー:大銀杏の記憶  黒岩由華(9期)

☆ 打ち込みタイル:チョコレートムース工法 岡田則子(9期)

☆ 天井・ライト:建築家前川國男のこだわり、優しく包む光の輪 向井由紀(9期)

☆ エスプラナード:息抜き、そして立ち話、彫刻のある散歩道 長尾純子(9期)

☆ 《my sky hole 85-2 光と影》:五感で味わう 卯野右子(8期)

☆ 公募棟雁行配置 (アートラウンジより):鳥になって俯瞰し羊羹をいただこう 鹿子木孝子(9期)

☆ リスが登っていきそうな小さな階段:公園から迷い込んだリスも斫り(はつり)工法に感激✨ 豊吉真吾(8期)

☆ ホワイエ:どこまでもどこまでも続く優しいオレンジの光 梨本真由美(9期)

☆ 中庭エレベーター横ガラス扉:開かずの扉は過去から未来へとつながっていた⁉️ 和田奈々子(8期)

☆ 《さ傘(天の点滴をこの盃に)》:屋外彫刻?だれの忘れ物? 井上さと子(10期)

☆ レストラン ミューズ:昼食えば 鐘が鳴るなり FunFanと 中田翔太(8期)

 

 

■■ Special Thanks to: 中田翔太(8期)広報ビジュアル・写真撮影

 

 

Fun!Fan!

 

東京都美術館の館内MAPはこちら:https://www.tobikan.jp/guide/floormap.html

 


卯野右子(8期とびラー)

とびラーの3年間、個性あふれる面々との関わりの中で、いろんな挑戦をさせていただきました。無謀・無茶・無理・無計画・無鉄砲な試みをあたたかく見守り導いてくださったスタッフのみなさまに、最大級の感謝を贈ります。楽しかった~!次のステージでも、想いを重ね合わせて、たくさんのモノやコトをうみだしていけますように!

【開催報告】トビカン・ヤカン・カイカン・ツアー

2021.12.10

開催報告「トビカン・ヤカン・カイカン・ツアー」

2021年11月12・19・26日・12月3・10日の計5回、夜間開館が行われる金曜日に、ライトアップされた東京都美術館を散策するツアー「トビカン・ヤカン・カイカン・ツアー」を行いました。申し込み開始早々に満員になるほど人気で、48名の方に夜の都美術館を味わっていただきました。

 

 

「トビカン・ヤカン・カイカン・ツアー」の始まりはいつ?

過去のとびラーのミーティング記録をさかのぼると、2013年9月13日に第1回が開催されたとの記録がありました。約10年の長い歴史の中で多くの方々に愛されてきたプログラムですが、コロナ禍で美術館の夜間開館が行われず、約1年9か月間は開催をすることができませんでした。そして、今回ついに再開が叶ったのです。

 

 

ツアー当日は、美術館入り口で参加者の皆さんを迎え、とびラー2名・参加者3~4名でグループを組み、3グループが同時に30分間のツアーに出かけます。ツアーの内容は、とびラー 一人ひとりが考えたオリジナルで、冬の透き通った空気の中、美しく輝く都美術館を少人数でのんびりゆったり満喫できる時間となりました。

 

 

■夜ならではのお楽しみ

紅葉が楽しめる11月中は、暗い中でもほんのり輝く大イチョウの木を愛でることができ、12月はサンタ帽をまとったとびラーと共に、まるでクリスマスイルミネーションのような都美術館を散策しました。

 

設計した前川國男も愛した美術館のレストランはまるで宝石箱のよう・・・

でこぼこしたコンクリート壁の陰影が一番美しく浮かび上がる時間・・・

暗闇に映える公募棟の青・黄・緑・赤・・・

野外彫刻に映る都美術館のキラキラした照明・・・

 

とびラーだけが楽しむなんてもったいない、多くの人に知ってもらいたいこの美しさ、そしてまた足を運んでいただきたい、そんな思いを込めて私たちはツアーを行っています。

 

 

■参加者の皆さんからのコメント

・隠された美の発見、創造の美は無限大!

・会社と家以外の空間や時間を味わえました。

・いつもと違う表情の美術館にドキドキしました。一日中楽しめる場所だと感じました。

・普段見過ごしがちな建物の壁や床・照明など1つ1つを堪能できました。

・公募棟の4色が見えたとき、自然と「わぁ~!」と声が出ました。

・これからもこの建物を残していってほしいなぁ。

 

 

■最後に

参加者の皆さんのコメントを読みながら、都美術館の魅力は建物自体の美しさだけでなく、新たな居場所としての空間や未来につながる建築の意味など人々に届けるメッセージの大きさに改めて気づかされました。これからも、そんなメッセージを発信し続けるツアーを大切に育てていきたいです。

 

 

 


 

 

執筆:向井由紀(9期とびラー)

とびラーになる前、このヤカン・ツアーに参加しました。ちょうどクリスマスシーズンで、サンタ姿のとびラーのキラキラした笑顔に、「私もこの仲間に入りたい!」と感じたのがついこの間のようです。今仲間と共に都美の魅力をお話しできることを楽しんでいます。

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