2017.06.10
6月初旬、快晴の土曜日、とびらプロジェクトの6期生を対象に基礎講座の第5回目が開催されました。
今回は普段の活動拠点である東京都美術館から、上野公園の様々なところに出向いてリサーチし、各所で発見した魅力をもとにプログラムを組み立てる、二部構成のワークです。
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◉本日の流れ
10:30-11:00 くじびきでグループわけ、活動についての説明
11:00-12:30 グループワーク①グループごとに上野公園内の各場所をリサーチ
12:30-14:00 グループワーク②上野公園の魅力を活かしたプログラムをつくる
14:00-15:25 成果のプレゼンテーションと講評
15:25-15:30 まとめ
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講座が始まる前に、くじ引きで行き先ごとのグループに分かれ、着席します。
行き先は上野公園内のスポットから9つ。
★東京国立博物館
★恩賜上野動物園
★お寺
★国立西洋美術館
★国立国会図書館国際こども図書館
★東京藝術大学
★桜並木、噴水
★国立科学博物館
★東京都美術館+周辺
ミュージアムや文化施設、その間にある場所が今回のお出かけ先となります。
続いて課題の発表です。
今日のテーマ:《新企画プレゼン大会!ー上野公園内の指定された場所をリサーチし、各所の魅力を活かしたプログラムをつくろうー》
課題:「美術館、博物館、お寺、桜並木など、上野公園には人を惹きつける様々な要素があります。場所・もの・人の動きをよく見てきてください。各自がリサーチしてきた内容を組み合わせて、とびラーの視点ならではのプログラムを提案してください。」
フィールドワークに行く前に、上野の地域性や、この後のリサーチで大切にしてほしい点をレクチャー。今回の講師は森司さんです。
ミュージアムにくわえて、大学や寺社など様々な場所をもつ上野公園。
これまでにも上野公園では、文化施設を中心に様々なイベントが行われてきました。しかし、まだまだ発展できる余地はたくさんあります。
今日のリサーチで特に心がけるのは、流行や常識にとらわれず、「フレッシュな目で様々な場所を横断してみる」こと。その場所で発見したこと、心惹かれること、気になったこと・・・まずは個人の感性を最大限に活かし、その場所を面白さや魅力をキャッチする。そして、それを誰かに伝えたり、共有したりするためのプログラム作りを考えていきます。
たとえば休日に美術館の展覧会を見に来るとして、その体験は決して展示室の内部に止まるものではありません。家を出てから美術館にくるまでの道中や、ご飯やお茶をする場所、寄り道したくなったところ、天気や季節なども含めて、その日のことは記憶に残るものです。これらのアンテナを意識的にはりめぐらせておくことが、体験を包括的に作る目を養うことにもつながります。
リサーチのヒントとなるのは、「MuseumStartあいうえの」で活用している「ビビハドトカダブック」。9つのミュージアムを中心に、その楽しみ方が書かれています。
こちらは国立西洋美術館。建物の前庭では、たくさんの屋外彫刻を楽しむことができます。
展示室の外、建物やその周辺にも注目してフィールドワークをすすめていきます。
こちらは国立科学博物館のチーム。
噴水の周りも、様々な人で賑わっています。
こちらは桜並木の下を歩いていたグループ。
何かを発見?視線の先には騎馬像がありました。いつも通る道でも、視点を変えて見たり、誰かと歩いて見ると、新しい発見があるようです。
紫陽花が咲き始める季節、新緑豊かな公園内を隅々まで歩き回ります。上野には何度も来ているけれど、巡ったのは初めて訪れる場所ばかりだった!なんて人も。
一通りリサーチが終わったら戻って昼食。午後はグループを組み換え、いよいよプログラム作りのワークに突入です。
9つのうち、3つの異なるグループにいた人で、新しいグループを作ります。
まずはそれぞれの場所で見てきたこと、発見したことを共有し、「どんな体験を来る人に味わってもらいたいか」を話し合っていきます。各テーブルで楽しく熱い議論が交わされていました。
今日のフレッシュな体験から、オリジナリティある企画を検討していきます。
最後に、できあがった企画を全員にむけてプレゼンテーション。内容をA3のシートにまとめ、全グループが発表します。
たとえば、「においと音に注目して木陰をあるくツアー」や「当初の目的地とは違う場所の魅力を発見しちゃうツアー」といった、公園を横断的に巡るプラン。上野を新しいビジネスの社交場にする計画や、噴水の周りをパレードする、携帯やスマホのかわりに桜の枝を持ち歩く・・・といったアイデアもありました。
各グループには、森司さんと日比野克彦さんによる講評があります。
楽しそうな思いつきから、すぐに実現できそうなプランまで、バリエーションに富むアイデアが披露されました。
何かを企画する際に、自分たちの周りにあるものや、その面白さを知っていることは一番の強みになります。今回の講座を通して、上野公園という場所の特徴を肌で感じ、新鮮な目でその活用法を考えることができたのではないでしょうか。
今日の着眼点が、これからの活動でどう実践されていくのか楽しみです。
(とびらプロジェクト アシスタント 峰岸優香)
2017.05.13
基礎講座3回目のテーマは「作品を鑑賞する」こと。これからとびラーとして美術館で活動していくうえで、たくさんの作品を鑑賞していくことになるでしょう。その時に、誰と、どんな言葉を紡ぎながら見るのか?展覧会のなかで、鑑賞とはどのような経験なのか?ただ「見る」こととはどう違うのか?「鑑賞」について多角的な視点をもってその体験を考えていきます。
午前中はアートスタディールームで3つの映像を見て話し合い、午後は東京都美術館の展示室で、対話による鑑賞を体験しました。
【午前】
講師は東京都美術館 学芸員 アート・コミュニケーション担当係長の稲庭彩和子さん。
最初に視聴した映像は、メトロポリタン美術館館長であるトーマス・P・キャンベル氏のスピーチより「美術館の展示室で物語をつむぐ」。展覧会を企画するキュレーターのまなざしから、美術館での鑑賞体験について語る内容です。
約16分のスピーチは、キャンベル氏が学芸員の職のなかで経験した「発見の瞬間」、企画した展覧会に基づく「鑑賞体験をデザインすること」、美術館で得る体験の価値について述べた「鑑賞体験がもつパワー」の三部構成で組み立てられています。
映像を見た後に、重要だと思ったところや印象に残った言葉を話し合ってみます。まずは近くの席の人と、そしてグループで話し合ったことを全体に共有して、内容を振り返ります。
「専門用語でなく自分の目で見る」
「体験をデザインする、編集された体験を届ける」
「どの作品もかつては現代美術だった」
「作品をみる視点が豊かであるためには…」
ミュージアムという場所の役割や、作品を感受するときに起きる心理など、
それぞれが気になったキーワードから丁寧に紐解いていきます。
ここでキャンベル氏が語っているのは、展覧会の企画者として、作品がどのように鑑賞者にアプローチする機会をつくっているか、という視点。このまなざしを通して、とびラーがこれから美術館へ来る人のために「どんな体験を届けたいか?」と考える軸を探していきます。
また、展覧会をみるうえで「よい体験とはどのようなものか?」という疑問もありました。キャンベル氏は「見る人を内省的な心理状態にしたい」と述べ、「観客が専門用語をひとまず置いて、自分の直感を信じるようにすること」がキュレーターの仕事であるとスピーチを締めくくっています。また、学芸員の稲庭さんからは「いい展覧会は、作品が多角的に見える。多視点でありながら、全体としての体験が統合的である」とのコメントがありました。これから学ぶ対話型の鑑賞は、鑑賞者ひとりひとりが感受したものを言葉にし、それを他者と共有していく方法。対話をすすめるなかで、他者への共感や差異に気づいていくことが非常に重要なポイントとなります。鑑賞者が感じたことを漠然と受け止めるだけでなく、言語化を試みることが思考の深化につながります。自分の視点に加えて、他者の豊かな視座を得ることもまた、個人の内向的な思考を深める一助となり得るのです。
次に視聴したのはイザベラ・ガードナー・ステュアート美術館の「Thinking Through Arts」。子どもたちが美術館のなかで絵の前に座り、活発に発言しながら鑑賞する様子が映されています。ここで行われているのが、対話による鑑賞(Visual Thinking Strategies = VTS)。子どもたちが発した言葉をもとに、問いを続けながら絵を見ていきます。このとき、要となる人物がファシリテーターです。ファシリテーターは一人一人の言葉を等しく扱い、作品のなかに発生する疑問や考えを全体に投げかけ続けていきます。
最後は、とびらプロジェクトにおける実践の様子。MuseumStartあいうえの「スペシャル・マンデー・コース」の例を参考に、とびラーが担う役割やその意味を学びます。
前回の講座「きく力」では、相手の言葉にどれだけ関心を寄せられるか?ということがポイントとしてありました。鑑賞におけるファシリテーターの存在もまた、鑑賞者のまなざしに寄り添う存在です。作品を見たときの複雑で混沌とした印象を、さまざまな鑑賞者がどのように表現するのか。その受け止め役となるには、話し手への関心に加えて、鑑賞する作品への興味と理解も欠かせません。
作品と鑑賞者の関係についていろいろな角度から考えたところで、午前の講座は終了。午後はいよいよ作品鑑賞です!
【午後】
午後は実際に、対話による鑑賞を体験してみます。
導入となるのが、アートカードを使った「なっとくゲーム」と「ものがたりゲーム」。
「なっとくゲーム」は、絵の共通点を探しながら、作品写真のアートカードを並べていくゲームです。
みんなが「なっとく!」できるキーワードを探す、コミュニケーションがメインワーク。作品のなかに見つけた共通点を、自分の言葉でフレーミングすることで、他者にその視点を共有していきます。
端的な情報をわかりやすく提示する人、独自の観点から感情的に相手を説得していく人、解釈したストーリーをつくってプレゼンテーションする人…など、そのプレイスタイルは様々です。
頭を抱えて考え込んでしまう人もいれば、身を乗り出して机から立ち上がり、熱く語る人も!
「ものがたりゲーム」はランダムに選んだ3枚のアートカードから、紙芝居のように物語を発想するゲームです。「おお〜!」「すごい!」という感嘆の声が何度も起こっていました。大きな拍手と度重なる大笑いが、話し手の解釈の豊かさを物語っていました。
物語の内容はもちろん、語り口によって演出される効果もさまざま。
みなさんの豊かな話しぶりが発揮されたところで、次は展示室へ。今日は日本画を鑑賞します。今回鑑賞したのは「第77回日本画院展」。同時代作家の新作を、1作品につき15分の時間をかけ、約8人のグループで作品を見ていきます。
まずは静かに、じっくり見る時間。
しばらく経った後、ファシリテーターの「この絵のなかで、どんなことが起こっていると思いますか?」という問いを皮切りに、見た人が感じたことを話していきます。ファシリテーターには、一人一人の意見を中立に聞き、発言を整理する役割があります。この存在によって場の平等性が保たれ、多角的な視点に気づきながら作品鑑賞をする手助けとなっていきます。
自分の目と頭を使って考え、他の人の意見も聞きながら、目の前にある絵について話を深めていきます。はじめは「どんな絵だろう?」と頭を悩ませていた人も、次第に自分の経験や感情にひきよせて語っている様子が見られました。
複数人で絵を見たり、話しながらの鑑賞は初めて!という人も、自分とは異なる視点の面白さを感じた人が多かったようです。鑑賞者の視点から、「見れば見るほど発見がある」という実感をもてたのではないでしょうか。
本日の講座は、午前中の講義で美術館体験の全体像を学び、午後に実際の鑑賞からその豊かさを体感する構成となっていました。
誰かに美術館での体験を届ける時に大切なことや、鑑賞をサポートする視点がどのようなものか、そのヒントがたくさん散りばめられていた講座でした。
(とびらプロジェクト アシスタント・峰岸優香)
2017.04.29
4月15日の第1回基礎講座(オリエンテーション)を皮切りに、今年度のとびらプロジェクトが動き始めました。
第2回基礎講座は、西村佳哲さん(とびらプロジェクト アドバイザー)を講師にお迎えして、「きく力」について、ワークショップ形式で考えていきました。
【午前】
講座の冒頭、西村さんからは「とびラーが何をするのかではなく、どう関わっていくのか」という基盤の部分を、講師として担当して頂くことが説明されました。
講座は、ペアワークないしは3人組で話す/きく時間が複数設けられ、その都度、メモ書きされた体験をもとにした振り返りと西村さんからのコメントが挟まれる形式で進んでいきます。
・自分はきける方、きけない方?
まずは、自己紹介も兼ねて、3人組で話してみました。
お題は、「自分は、きける方、きけない方?その詳細、理由は?」
きいてくれる人がいないと話は進まないという意味で、「きく側が力を持っている」と、西村さんはおっしゃっていました。
西村さんの解説を実体験するため、ペアワークが始まります。
きく役、話す役に分かれ、お互いには分からない形で、西村さんから次のような「ふるまい」をすることが求められます。
途中で、きき手と話し手が何をしていたのか、種明かしされます。「きく側が力を持っている」という西村さんの冒頭の言葉が、実感を伴って、少しずつ腑に落ちる瞬間です。
あらためて、3人組を作り、「相手ができるだけ詳しく、気持ちを込めて話すのをより可能にするきき方」を話し合います。
ペアワークでは、「きき手」による、無視、横取り(聞いている風)、否定、先回り(介入)、といった「ふるまい」が意図的に行われました。
私たちは、普段、「人の話」を「自分の話」としてきいていないか。人は何によって話し続けられるのか、西村さんから問いが投げかけられます。関心を寄せられているという実感が、エネルギーとなり、人は話し続けられると、西村さんはおっしゃいます。人間、誰しもが受け入られたい、認められたいという欲求があるのだそうです。
「分かる分かる」といった安易な解決策を口にしてしまいがちですが、他人のことは簡単には分かりません。では、なぜ「分かる」と言ってしまうのか?その理由は、相手のしんどさが自分にとっても、しんどいからだそうです。
午前中の最後に、ここまでのお話を意識して、話し手、きき手、オブザーバーの3人組で、「これから始めて見たいこと、やりたいこと」をテーマに、もう1度「きく」ことに挑戦し、振り返りを行いました。
【午後】
午後は、午前中の最後のワークで振り返った内容を共有するところから始まりました。
西村さんからは、「きく力」とは、「発信能力より受信能力」、「するより、感受することが大切」であり、「きく側が力を持っている」ことの具体例が示されました。
・きく側が力を持っている
インタビューを例にするならば、有名な映画監督がどんなに話したいことがあったとしても、きく姿勢がなければきくことはできません。ライターが情報を持っているのに対して、映画監督はライターについての情報を持っていません。つまり、映画監督は何を書かれるのか分からない立場なのだそうです。
・引き出す?
良いインタビュアーは相手から話を引き出すのがうまいのでしょうか?上手なきき方は話を引き出すことなのでしょうか?という問いかけが、西村さんから投げかけられます。「きく」ために、「引き出す」ことから離れてみることが提案されます。インタビューのようにあらかじめ組み立てたいことがある場合のみ、「引き出す」のです。「話し手」に話したいこと、豊かな感情があれば、話してくれるそうです。「引き出す」のではなく、「溢れ出す」「染み出す」という感覚なのだそうです。
・いい質問をする?
良いきき方とは、いい質問かというと、ちょっと違うそうです。次から次に質問を繰り出すことで、相手の話を切ってしまうことにもなります。きき方を窮屈にすることにもなります。どういうことかというと、次に何をきこうか考えていくと、分からなくなっていくのです。心当たりがあった方も、いらっしゃったかもしれません。質問しなければならないパラダイムから自由になる必要があるのです。
・表現力の前に受信力:ついてゆく「きき方」
インプットがないと、アウトプットはありません。インプットが可能性を広げてくれるそうです。テニスを例に挙げると、ラケットをただ振るのではなく、球筋を見て、ラケットを振るイメージトレーニングが必要になります。つまり、球を打とうと思ったら、(球筋)を見ないといけないということです。
では、「ついてゆく『きき方』」とはどのようなものでしょうか。ついていくので、先回りはしません。New Questionもしません。話し手の話が止まれば、自分も止まります。沈黙を保つということです。あくまでも話さなければいけないのは、話し手です。「話すことは無い」と言われても、「無いんですか」と、ついてゆくのだそうです。
・どこについていくか:相手に関心を持つ
では、「ついていく」とは、どういう「ふるまい」を指すのでしょうか。話の内容を、頭で知的に理解するのではなく、味わってみる、一緒に感じてみようとするのだそうです。西村さんは、“歌詞”と“うた”の違いに着目し、具体例として挙げてくださいました。「ついていく」には、“うた”についていく、つまり、メロディ、抑揚、身ぶり、歌いっぷりについていくことだそうです。
最後に、西村さんからは、基礎講座でなぜ「きく力」を取り上げているのか、これからとびラーとして活動していくにあたって大切なことを話してくださいました。
・なぜ「きく力」という講座をしているのか?
とびらプロジェクトが始まる際に、アートボランティアというやり方はやめよう。決まっているやり方をするのはやめようという話があったそうです。決められたやり方/役割ではなく、「こういうことができる。足りない。こういう催しをしたい。」というようなことを「形にする」関わり方を作っていくことになったのです。「形にする」ためには、良質なコミュニケーションを保障することが求められます。そのために、「きく力」という講座があります。
・とびラーとして活動していくにあたって
とびラーとして求められるのは、プレゼンテーション能力や上手に喋ることではありません。大事なのは、人の話をきける人が数多く揃っていることです。どんなプロジェクトも、誰かにいいねと言われて、広がり、実現しています。きき合えれば、色々なものが成立します。
相手の話を、自分の枠組み(価値観、常識)におさめるのではなく、関心を持ち続けるのです。これから、とびラーとして活動していく際に、来館者と接する場面が出てきます。その時に、「きける」ことが大切です。その人が、どういう人か知覚できれば、適切に動くことができます。ぜひ「きける」者同士でいてください。もし、「きけない」状態になっているようであれば、気がついた人が、「きく」側に回りましょう。
2回目の基礎講座は、まさにとびラーの皆さんが、これから実際の活動を計画したり、動いていくにあたっての「基盤」となる内容でした。講座終了後には、とびラボに関するミーティングが多数開かれていました。講座で実感したこと、学んだことを、具体的な活動に活かしていけるといいですね。
(東京藝術大学美術学部 特任研究員 菅井薫)
2017.04.15
4月15日、本年度第1回目の基礎講座(オリエンテーション)を行いました。
第6期とびラー50人を新たに迎え、総勢132人で本年度の活動がスタートです。
まずはスタッフ紹介から。「とびらプロジェクト」、そして連動する「Museum Start あいうえの」に関わる全スタッフ陣です。
今年で6年目となり、2年目に始動した「Museum Start あいうえの」など、活動の拡がりとともにスタッフの数も少しずつ増えていきました。常勤、アシスタントを含めたこの運営チームが東京都美術館(以下:都美)内のプロジェクト拠点に常駐し、とびラーと一緒に活動しています。
ここからが今回の講座の本題です。年間のはじまりにあたり、プロジェクトについて改めてゼロからみていきます。
まずは「とびらプロジェクト」「Muserum Start あいうえの」のコンセプトムービーを視聴し、次に年間の流れを確認します。春の時点で決まっている講座やプログラム、そしてとびラーのアイディアで動き出していくもの。1年を通したの自身の動き方の予測をたてていきます。
更に、それぞれのプロジェクトのウェブサイトを見ながら、とびラーとしての活用の仕方を学びます。
あいうえののウェブサイトを紹介したのは、スタッフ(プログラムオフィサー)の渡辺さんです。あいうえののコンセプトをより深く知ることももちろんですが、プログラムの参加者である子供たちや家族がどうウェブサイトを活用をしていくのか、また、とびラーの関わり方がどのように紹介されているか、今後あいうえのにも関わっていく上で大切になるポイントを伝えます。
ウェブサイト紹介のあとは、都美、藝大それぞれの歴史や特徴をききます。
都美のお話はアート・コミュニケーション係 学芸員の河野さんから。設立からとびらプロジェクトがリニューアルした2012年までの経緯や、前川国男が設計した建物の建築的な歴史も交えたお話でした。
そして藝大はプロジェクトマネージャの伊藤さんから。歴史はもちろんのこと、なかなか知る機会の無い学部・学科の特徴についてもお話いただきました。
冒頭に視聴したとびらプロジェクトのコンセプトムービーの中には「とびラーは美術館のサポーターではなくプレイヤーとして活動していく」というキーワードが出てきます。とびらプロジェクトでは様々なプログラムや学びの機会が用意されていますが、とびラーはそこに受動的に参加するのではなく、能動的に関わっていくプレイヤーとして活動していきます。とびラーとスタッフ同士、あるいは美術館にやってくる方々や参加者の子供たちと一緒に体験をつくり、一緒に学び合う関係を育み、新しいアイディアもこういった関係性の中から生まれていきます。
都美と東京藝術大学(以下:藝大)との連携ではじまったプロジェクトが、「Muserum Start あいうえの」の上野公園中にある9つのミュージアムとの連携により、とびラーの活動フィールド、そして出会う文化財、人々も広がりをみせている。オリエンテーションの前半部分ではその全体像を把握しました。
オリエンテーションの後半は、新とびラーと2,3年目のとびラーに分かれてガイダンスを行いました。
これから新とびラーのみなさんは6月まで隔週で開催される基礎講座に参加し、徐々にとびラボなどの自主的なの活動などに合流していきます。夏には実践講座やあいうえののプログラムもスタートし、それぞれの関心を中心に動いていくことになります。
今回はとびらプロジェクトに関わる全メンバーの初めての顔合わせということで、夜は懇親会を行いました。
懇親会後の集合写真です。
新とびラーのみなさん、そして4,5期のみなさんも、本年度一年よろしくお願いします!
(東京藝術大学美術学部特任助手 大谷郁)
2016.06.25
2016.05.28
第4回目となる基礎講座のテーマは、プログラムを進めるにあたって、とびらプロジェクトの活動が大事にしている「きく力」です。毎年このテーマでの講座を同じ時期に設けていますが、新とびラーはもちろん、先輩とびラーも講座に加わり何度も反復して「きく力」を身につけていきます。講師は、とびらプロジェクトアドバイザーの西村桂哲さんです。
冒頭に西村さんからご自身の仕事についての紹介がありました。
30歳ぐらいからフリーになり、人へ自分の仕事を伝える事がとても大変になってきた。
31歳で大学で教える機会があり肩書きがついたことで便利になった。
「つくる・書く・教える」と言って来たが、更新しなくてはならない時期に入ったそうです。
現在は、2年程前から四国の神山町へ主たる拠点を写し、東京・四国・出張先の3拠点を巡っていらっしゃいます。去年ぐらいから、まちの仕事を手伝うようになってきているそうです。
川沿いにある昔の中学校の寄宿舎集合住宅にしようというプランがあがっており、開発プロジェクトのとりまとめを西村さんが行われています。
「まちを将来世代につなぐ」ということが大きなテーマ。
昔の日本の家には縁側という機能があった。ふらりと立ち寄れる、作業場など、コミュニケーションが生まれる場であった。アメリカのピクサー社では、トイレのある共有部を中心に、クリエイティブチームと製作・企画チームが2つに分かれている。偶発的なコミュニケーションが生まれやすくなるように配置されている。
1960年代のドイツのセントラルベヒーア社の建物では、中に吹き抜けがあることで、下の階の人たちが働いている様子が分かる。アメリカのヴィレッジホームズでは車道に向かって家が建っていて、家と家の間が正面になって遊歩道や庭がある。なので色々な人が自分たちの庭を抜けて行く。果実が意図的に植わっていて、果物の種類によっても会話が生まれやすくなる。果物でケーキやジャムを作ったり、、面倒くさい。価値があることは面倒くさい。
田舎の待ちは都会化が進んでいて、風景が荒れて行く。そんな待ちには神山の集合住宅はしたくないと西村さんは仰います。今設計していて、2年後に完成予定だそうです。
違うもの同士が集う事で、新しい事が生まれやすい作り方という観点で今日の基礎講座が始まります。
講座の途中には、シェア(3人組になって話す)する時間が多く持たれます。西村さんの話をお互いがどのように聞き、理解をしているか、知る時間です。
西村さんの知り合いのピアニストの方曰く、ピアニストにとって最も重要なことは「聞く力」だそうです。演奏能力は大事だが、それ以前に聞く力が大事。聞く力の解像度が低いと、自分の出している音について簡単になってしまいます。これは絵画にも通じることです。
西村さんが美大で教え始められた頃は、アウトプットの技術ばかりがカリキュラム化されていて、インプットは学生に委ねられいました。
何も食べていないと出ないのと一緒で、その人が世界をどのように世界を感じ取っているか、インプットの解像度高さがアウトプットの質の可能性をつくる、と西村さんは仰います。
ここから発信能力より受信能力、「きく」力の具体的なワークに入っていきます。
基本は2組になり、西村さんから出される約束に基づいて話し合いをします。
――――――――――――――――――――――――――――――
(準備)
2組をつくる
↓
ペア同士で向かい合う。AさんとBさんを決める。
↓
Aさんだけにある指示を出される。Bさんは目を閉じている
(質問)
1-A
あたなたは話し手です。あなたの「最近うれしかったこと」を、できるだけ詳しく、あなたの気持ちを込めて、相手に伝えてください(時間は1分半)
1-B
あなたは、聞き手です。
相手があなたに「最近うれしかったこと」について話しかけてきますが、うわのそらで聞いたり、あるいは一切相手を無視しつづけてください。
1分半ワークをする→終了
↓
自分が感じた事をメモしておく。
(質問)
2-A
あなたは、聞き手です。
相手は話しかけてきますが、あなたは、相手の話しが途中でも、自分の話したいことなどを話して、
相手の話しの腰を折ったり、話しを横取りしてください。
2-B
あなたは、話し手です。
自分が今話し手みたいテーマをひとつ考えてください。そのことについて、できる限り詳しく、あなたの気持ちを込めて、相手に伝えてください(時間は1分半)
自分が感じた事をメモしておく。
↓
2人で振り返る(苦労話にはしない、ポイントは聞き方がどんな作用を及ぼすか)
↓
同じペアでやらないほうが良いので、解散。ペアをつくる。
(質問)
3-A
あたなは、話し手です。
「最近、腹が立ったこと」について、できる限り詳しく、あなたの気持ちを込めて、相手に伝えてください。(時間は1分半)
3-B
あなたは、聞き手です。
相手は「最近、腹が立ったこと」について話しかけてきますが、ここでは、どんな些細なことでもいいので、
相手の話しを否定してください。
メモを取る。
(質問)
4-A
あなたは、聞き手です。
相手が「最近困っていること」について話しかけてきます。あなたは、多少脈絡がなくてもいいので、できるだけたくさんの安易な解決策を相手に示してください。
4-B
あなたは、話し手です。
「最近ちょっと困っていること」について、できる限り詳しく、あなたの気持ちを込めて、相手に伝えてください(時間は1分半)
(終わり)
———―――――――――――――――――――――――――――
話が出来るのは、聞いてくれているからです。
会話がうまく進まない時の原因としては4つのことが挙げられます。
・無視
・横取り
・否定
・先回り(介入)
ここまでのワークでは以下のことについて知って欲しかったと西村さんは仰います。
・聞く側が力を持っている
・話が成長しやすい環境条件がある
・関心が力になる
・考えると、きかなく(きけなく)なる
どんなプロジェクトにも、誰かに小さな気づきや違和感、喜びを話をすることから始まる。
アップルコンピューターもジョブスの話を聞く人がいたから生まれた。
お互いに気づきがあり、話せることはとてもクリエイティブだし、とびらプロジェクトもそんな環境であってほしいと西村さんは続けます。
次のテーマは、西村さんが30歳の時にインタビューの仕事をしたきっかけから生まれたものです。
人は「事柄」には食いつきがいい。しかし、それは話の本体ではありません。
「事柄」に関心を持つと、人に関心を持っている状態ではなくなる。過去の話に関心を持ってる状態になる。
「気持ち」に関心を持つと、必然的に質問が湧いてくる。それは内容、思考である。
インタビューしながら気付いたのは、どんなに面白そうな話でも、つまらなくなっていっていく。
「事柄」として受け止めると、本人との距離が生まれてしまうからです。
西村さんは、自分でやりたいと思ったことよりも人から振られた仕事をすることが多いそうです。一生懸命やると、エポックになる。どんな話をしている時に、笑っているか、力が入っているかは、周りの人の方が知っている。
はなしの「関心」をどこに向けるか?思考に向けるかは知的に理解していく。
「事柄」「気持ち」どちらかに関心を持つかで大きく変化していきます。
次のワークに入ります。
「話し手:とびらプロジェクトと自分について、最近気になっていることを」を話す
「聞き手:話の内容より、そのことに関する相手の気持ちや感覚に関心を持って、意識を向ける」
*ルール
うまく話せなくていい
沈黙を気にしない
自分の「いま」の気持ちを味わいながら
話し終わった後に、振り返りを3人でします。この時に注意するのは話の続きにならないようにすること。
確認したいことは、聞き手は内容ではなく、気持ちや感覚に関心を持ち続けることができたか。
話し手は、自分にとってどうな経験だったか。
聞くということはどういうことか?
漢字にすると、「聞く 聴く 訊く きく 効く 利く」
ここまでのことを受けて次のワークに入ります。
「話し手:とびらプロジェクトについて最近心が動いたことを」
「聞き手:話の内容より、頭で知的に理解するのではなく味わってみる。一緒に感じてみようとする」
話し終わった後に、再度振り返りをします。
どんな体験が生まれたか?何か変化はあったか?に注意しながら、その場の状況を振り返ります。
続いて、コーチングの世界では有名な岸さんという方にPTAの会にお呼びした時の話です。
小さな子供と一緒に住宅地を散歩していた人がいて、ある路地を抜けると市道がありそこは公園まで近道となっている。しかしその近道に大きな犬が道を塞いでいました。とたんに固まってしまた子供。 そんな状況の時にこどもにどんな声をかけるか?
西村さんの答えは「怖い?」と聞くでした。
その理由は、子供はまだ、一言も怖いと言っていないし、子供は固まっただけだからです。
怖がっていると思っているのは、こちらの一歩的な判断だからです。
それだけではコミュニケーションにはなりません。
岸さんの最初の一言は「どうしたの?」ということでした。
子供が「怖い」と言って、岸さんは、「それだけ?」と聞いたそうです。
これは、人間の中に一種類の感情しかないということはない。ということを示しています。
相手の話を自分の枠組みにおさめない、ということ。
「怖くないよ」という人は、相手の枠組みで自分お言葉を話している。
本当に相手に関心を持つのであれば、勝手に想像して話を聞くのでは無い。
ひとの中にある感情は一種類とは限らない、ということを岸さんから知った。
怖い、関心を持ち続けるのであれば持続的に行かなければならない
理解するのを待つ。相手の表現に気づくのが大切だと西村さんは言います。
ここまでの話を受けて、最後のワークです。
「話し手:とびらプロジェクトと自分について、最近気になっていることを」
「きき手:自分の枠組みにおさめず、相手の中にあるものに、最大の関心を持ち続けてみる
今回の講座では、発信能力よりも受信能力に力点を置かれました。
声だけでなく、全身的な経験に気を払い、相手のことを感知し、感じ取ること。
これは美術館の来館者に対しても通ずることです。
とびらプロジェクトにとって共有し、大切にすべきお話を西村さんからしていただきました。
プログラム時でなくても日常から気をつけていきたい内容でした。
(東京藝術大学美術学部特任研究員・奥村圭二郎)
2016.05.14
今回は「作品を鑑賞すること」について考える講座です。午前中にアートスタディールームで3つの映像を見て話し合い考え、午後には実際に東京都美術館の展示室で、対話による鑑賞を体験しました。
講師をつとめるのは、東京都美術館 学芸員 アート・コミュニケーション担当係長の稲庭彩和子さん。
2016.04.30
第二回基礎講座のテーマは「社会装置としてのミュージアムの役割とは何か、そこでのとびラーの役割とは何か」でした。今回の講座は、「Museum Start あいうえの」のミュージアム・スタート・パックを持って上野公園のミュージアムをめぐる午前の部と、文化施設の役割とは何か、アート・コミュニケータの役割と実践とは何かを、講師のトーク・セッションを通じて考える午後の部で構成されました。講師は東京藝術大学教授の日比野克彦さん、アーツカウンシル東京の森司さん、そして、東京都美術館の稲庭彩和子さんです。
講座がはじまるとまず稲庭さんから、「Museum Startあいうえの」のティーンズ学芸員(→活動の様子はこちら)の様子が動画で紹介されました。アート・コミュニケータや学芸員との対話を通じて作品を鑑賞し、感じたこと、考えたことを文字と声に起こして、オーディオガイドで発信するプログラムです。ティーンズの動画から、自分の目で見て考えるとは一体どんなことなのかを学んだら、さっそく東京国立博物館、国立西洋美術館のそれぞれに向かう2つのグループに分かれて、自分のお気に入りの作品を探す冒険へと出発です。
こちらのグループは、国立西洋美術館へと向かいました。
2016.04.16