東京都美術館× 東京藝術大学 「とびらプロジェクト」

活動紹介

建築実践講座①|「都美の建築と歴史」

2019.06.29

6月29日(土)、本年度1回目の建築実践講座が行われました。
約50名のとびラーとともにスタートを切った本講座、3年のうちで初めて参加する方も多くいます。


初回は、講座の目標を共有するとともに、活動拠点である東京都美術館(以下、都美)の建築と歴史について学んでいきます。

建築講座の目標
「建築空間を通して生まれるコミュニケーションの場づくりについて考え、プランを実践する。」

鑑賞、アクセス、建築の3つの実践講座が、それぞれ鑑賞が作品との出会い、アクセスがそこに来る人々の回路だとすると、建築は作品や人々が集うための空間。建築空間の中で営まれる私たちの活動は、多分にその作用を受けており、そこでの体験づくりを考えていく際に重要な要素です。
年度の初回である今回は、「都美の建築と歴史」を知ることを通して、まずはそれぞれが活動拠点に馴染み、空間を生かした人々の体験を考えていくことに繋げていきます。

前半は、都美学芸員の河野さんによるレクチャーです。
都美の歴史や建築家の人生を辿りながら、建物のデザインの特徴やそれらが生まれる背景をお話いただきます。

●「都美の建築と歴史」

レクチャーは、現在の上野公園の航空地図を見て、上野公園の中での位置関係を把握するところから始まりました。
時代を遡り、美術館が東京”府”美術館だったときの地図と見比べてみると、現在都美が建つ場所ではなく、隣の敷地に建てられていたことがわかります。

大正15年、現在の美術館が建つ隣の敷地に開館した東京府美術館(以下、旧館)。
九州の石炭商、佐藤慶太郎という人物の寄付により、設立が叶います。
佐藤はたまたま出張で東京に来ていた際に新聞の社説を読み、美術館の存在意義を自覚。建設のための予算が十分ではなかった東京府に100万円(現在の約33億円)を寄付しました。

入り口の大階段が印象的な設立当時の建物は、岡田信一郎の設計によるもの。

旧館時代の館内の写真がいくつかプロジェクターで映され、当時の雰囲気を感じ取ることができます。

「これは食堂の写真。壁や椅子、メニューなど、細かいところを見ながら、食事はどんなものだったのか? ウエイターさんはどんな雰囲気だったか?、いろんな想像を巡らせることができますね。」

幾度かの増築を経ながらも、それを前提としない建物だったため、展覧会を数多く催し大勢の来場者を迎えるには手狭になってしまいます。
そこで、環境の改善も含め、建築家・前川國男の設計による新しい建物が、旧館の隣の敷地に建設されます。

新館には、3つの機能が求められました。
1. 常設・企画機能:企画展示室
2. 新作発表機能:公募展示室
3. 文化活動機能:交流棟

機能ごとに分かれた建物の配置は、前川國男の設計に通底する「敷地の中に小さな街をつくるイメージ」とも繋がります。
前川は「美術館は非日常の場所。少し迷うくらいがよい。」とも考えていたそうです。
建物優位ではなく、場所に対してどう人が過ごす空間を担保できるかを重視して設計していたそうです。

労働力不足や長雨、オイルショックなどで工事が遅れながらも、昭和50年に完成します。

当時の写真を見ると現在とそっくりの外観ですが、正門の前には段差があったりと、2010〜2012年のリニューアル時に改修した部分がわかります。
改修のポイントは「前川デザインの継承しつつも、時代にあった設備にする」ことだったそうです。

レクチャーでは、前川國男の人生についても語られました。
生い立ちや思想など、都美をはじめとする彼の作品がいかにして生まれたかを読み解いていきます。

参考資料|とびらプロジェクト オープン・レクチャー アーカイブ
Vol.6「青木淳が語る前川國男―中心のない建築:彼の目指したデザインとは?」
登壇者|青木 淳(建築家/東京藝術大学 建築学科 客員教授)

Vol.2「人間・前川國男を語る」
登壇者|佐藤 由巳子(前川國男 元・秘書/佐藤由巳子プランニングオフィス主宰)

 

●とびみるタイム
講座の後半は、自分たちそれぞれの目で都美の建物を見にでかける時間です。その名も「とびみるタイム」。

まずは、レクチャーの話を受けて、これまで都美で過ごす中で、気になったところを1つと、そしてその理由をあげてみます。実際に出かけて、色、形、素材、人の動きを観察してみます。

ポイントは「何を思って建築家はこの場所をこういう風にしたのか」考えることです。まずは自分で想像したり、建物、空間のチャームポイントを見つけるように、その場をよく観察してきます。

実際に見て戻ってきたら、気になったところが同じ人同士でグループをつくり、気づきをシェアします。

次に、グループで話したことを聞いていきます。

グループから出たポイントを、マップにも落とし込んでいきます。それぞれどんなものを見てきたのでしょうか。いくつかご紹介します。

 

・公募棟
静かでいいところ。森の中にいるような感じで過ごせる。メリットとしてある「全て同じ空間であること」が迷いやすさの原因になっているのが面白い。

・おむすび階段
なぜ形が三角形なのか考えてみました。階段を使う人の動きがリズミカルで楽しそうです。非日常を体験できる場所なのかも。

・動線
→展示室に行くまでにぐるっと回って降りて行くアプローチがある。急いでいる時はイライラするかもしれないし、時間があるときはダンジョンのよう。回遊性とアクセシビリティのバランスを考えました。
リニューアル前後で動線がどのように変わったかも気になった。

・動線
→屈折が続くことで人の流れによどみが生まれていて、デッドスペースで休んでいたり、休むことが許される、空間としての落ち着きが生まれていると感じました。曲がってくねくねしていることで留まれる場所が生まれる。迷っている感じがあるのに、気づけば到着している。
作品を見ている自分だけではなく、見られている自分も存在する。空間の中で迷わされている感覚すらあります。

他にも沢山の意見がでました。
マップには、いろいろなところを見て来た視点や気づきが記録されています。

建築や歴史の専門的知識ではなく、まずはその空間を体感する自分の感覚からはじめることを大事にしています。
今後の講座や実践の場も、今回の自分の視点をもって参加してもらいたいと想います。

講座の最後は、プログラム事例の紹介です。「建築ツアー」をはじめ、「視覚障害のある方のための建築ツアー」や、Museum Start あいうえのの「うえの!ふしぎ発見!」など、これまでとびらプロジェクトやMuserum Start あいうえので行われた、建築をテーマとする、あるいは要素として組み込まれたプログラムを、紹介しました。

実践講座がはじまり、これから様々なプログラムや実践の場もスタートしていきます。私たちは日常の多くの時間を建築空間の中で過ごします。まずはその建築に目を向けて、味わってみる。感じたことや発見を大切に、その場の特性を生かしたコミュニケーションの機会や場を作っていく。これが、建築実践講座が目指すことです。

今年もどんな活動に結びついていくのか楽しみです。

(東京藝術大学美術学部特任助手 大谷郁)

建築実践講座⑤|建築を守り、遺すということ

2018.10.13

講師:松隈章 / 株式会社竹中工務店・一般社団法人聴竹居倶楽部代表理事

建築実践講座⑥|前川國男の建築

2018.10.10

建築実践講座④|ツアープランニング2・グループでのツアーづくり

2018.10.06

建築実践講座③|ツアープランニング1・都美建築を紹介する

2018.08.25

建築実践講座②|「建築からはじまるコミュニケーション」

2018.07.08

テーマ:「建築からはじまるコミュニケーション」
ゲスト講師:伊藤香織(東京理科大学教授)

建築実践講座①|「都美の建築と歴史」

2018.06.30

2018年度の建築実践講座がスタートしました。
第1回は、講座の目標や年間の流れを共有し、建築実践講座の主幹となる東京都美術館(以下:都美)の歴史や建築について学んでいきます。

本題に入る前に、まずは「けんちく体操」で体を動かしウォーミング・アップ。
けんちく体操とは、体をつかってその建築の形や特徴を表してみるというもの。
スクリーン映し出された建物の写真をよくみて、その形を真似ていきます。




人数を増やしながら、スカイツリー、前川國男自邸、築地本願寺、東京都美術館、の4つの建物に挑戦しました。

同じ写真でも、建物のどの部分に注目しているかが人によって違うこと、
また、自分の体をつかって表現してみることで、建物の特徴がよく見えてきたりするものです。
わいわいと楽しみながらも、年間の講座をともにするメンバーと自己紹介や会話を交わす機会ともなったようです。

体操で体も場もほぐれたところで、講座の目標と基本概要を共有します。

講座の目標|建築空間を通して生まれるコミュニケーションの場づくりについて考え、プランを実践する。

建築実践講座では、建築の知識を深めていくことではなく、建築空間をはじめ、都市、また建物を利用する・関わる人々についてまで考えをめぐらせことを大事にしています。人々のコミュニケーションと空間・場との関わりを、「建築」という切り口から考えます。

2月まで続く8回の講座とあわせて、建築ツアーをはじめとした実践の場もつくっていきながら、年間を通じて学び合っていきます。


続いては、東京都美術館学芸員の河野さんによるレクチャーです。
大正15年に東京府美術館として開館してから現在に到るまでの変遷、建築の歴史をお話いただきました。

赤茶色の外観が印象的な現在の姿は、前川國男の設計によるもの。1975年に建てられ、さらにそこから30数年が経った2010〜2012年には、古びた部分の改修や、設備なども時代に合わせたものに整備され、リニューアルオープンを果たします。

リニューアル前後の写真を比較すると、前川が設計時にこだわった部分や、建築に対する考え方も大事に引き継がれていることがよくわかります。

レクチャーの内容を踏まえ、次はいよいよ実際に館内をめぐってみます。

6つのチームにわかれ、ガイドの先導のもと「建築ツアー」を体験します。

現在とびラーが奇数月の第3土曜日に定期開催している「建築ツアー」。今回の講座では、普段のツアーより少し短い30分版です。レクチャーで紹介のあった場所をはじめ、グループごとに興味のある場所で立ち止まり会話をしながらめぐっているようでした。

ツアーの後は、ツアーの中でガイドが使用していた写真資料やタイルの現物、素材のサンプルの紹介がありました。他にも、前川や近代建築に関する書籍など、様々な資料から都美の建物についてを知ることができます。

講座の最後は、今日の講座を3人組でふりかえります。今日の内容で気づいたことを三人のメンバーで話し合います。

第1回目では、東京都美術館の建物の歴史や前川國男についてを知り、さらにツアーで自分の目で見て体感・発見することで、活動の拠点・場への視点を深めていきました。

日常で私たちが当たり前に接する建築。見慣れた建築も、その成り立ちや背景を知ることで新たな側面が見えてきたり、またそれが人々の行動にも影響していることを感じることができます。今後、建築ツアーなどのプログラムづくりを通して、東京都美術館をきっかけに、建築空間への積極的な視点を共有していくことができればと思います。

(東京藝術大学美術学部 特任助手 大谷郁)

 

建築実践講座⑤:後期グループワーク始動

2016.11.05

 

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建築実践講座④:前期グループワークの活動発表・ふりかえり

2016.10.29

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建築実践講座③:「藝大 上野キャンパス未今昔」

2016.10.01

10月1日(土)に開催した第3回目建築実践講座のテーマは「藝大 上野キャンパス未今昔」。
ゲストに東京藝術大学キャンパスグランドデザイン室の君塚和香助教をお迎えし、キャンパス内の建物や環境の再整備計画の視点から、藝大の今につながる昔を踏まえ、まだ見ぬ未来をどうしていくべきかについての取り組みを知る機会としました。

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藝大は将来を見据え、現在キャンパスの再構成・構築に取り組んでいます。
100年の歴史が積み重なった結果今この敷地に残る施設、建物を基軸に、社会に向けて開かれた大学を目指してゆるやかに変わっていこうとしているのです。君塚和香助教は自身も建築士として設計の仕事に携わるかたわら、藝大でキャンパスグランドデザインを担っていらっしゃいます。
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今日の講座は屋外からスタート。公園内の旧奏楽堂前に集合し、まずは東京都美術館側から藝大を見てみます。
道を1本隔て東京都美術館のすぐ隣に位置していますが、キャンパスの歴史については初めて耳にするとびラーも多かったのではないでしょうか。

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キャンパスの外周をめぐりながら、まずはそのキャンパスの規模感や立地をみていきます。

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外周をめぐった後は、いよいよキャンパス内に入ります。まずは音楽学部のキャンパスから。この歴史的な面影を纏った洋風の建物は赤レンガ1号館です。藝大の前身「東京美術学校」が開設する前から現存するこの建物は、100年以上の歴史をもち、今も大切に利用・保存されています。
キャンパス内には武蔵野の面影を残す豊かな環境の中、教鞭をとられた先生方の胸像、そして歴史的建造物などが諸所に現存します。

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こちらは美術学部側の様子です。
作品の素材である大きな木材が置いてあったりと、これも美術大学ならではの光景です。
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後半は会場を教室内に移し、これまでの芸大の歴史や今大学が取り組んでいるキャンパスの再構成計画についてのレクチャーでした。

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模型を見ると前半に実際に歩いてまわったキャンパスの様子が一目でわかります。100年の歴史の中で少しずつ構成されてきた現在の藝大キャンパス。使う人のことを考えることはもちろん、これからの大学の変化にも応えることのできるキャンパスの再構築は、こうして歴史を深くリサーチするところから始まります。
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講座の最後には、もう一度屋外に出て植栽をめぐります。建物だけではなく、こういった植栽等の環境も同時に手を入れ、武蔵野の原生林の面影を大切に未来に次いでいこうとしています。

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藝大の今につながる昔に思いを馳せながらまだ見ぬ未来を形作っていく藝大の姿。
都美との連携のもとに進めている「とびらプロジェクト」は、藝大が内にとどまらず社会とつながり、貢献していくひとつの取り組みですが、キャンパスの環境を変化させることで、上野公園、社会にアプローチしていこうとしています。
そのプロセスを藝大の敷地を歩きながら体感できたのではないでしょうか。

(東京藝術大学 美術学部特任助手 大谷郁)

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