とびらプロジェクトマネージャ 伊藤達矢です。
東京都美術館(以下;都美)では、とても魅力的な人々がたくさん働いています。そこで、都美で働く人々の横顔を、このブログで時々紹介して行きたいと思います。「とびの人々」第一弾は、美術情報室で働く、重住優さん(美術情報室チーフ)と、奥田真弓さん(美術情報室サブ・チーフ)です。そして「とびの人々」は、とびラー候補生(以下:とびコー)のインタビューによって進められます。今回の記事をまとめてくれたのは、とびコーさんの阪本裕一さんです。
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<美術情報室>
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都美1階アートラウンジ。佐藤慶太郎の銅像を横目に自動ドアを抜けて、奥の廊下へと進んで行くと、書斎のような小部屋があります。ここは<美術情報室>と呼ばれ、開架図書4500冊・閉架図書35000冊、アーカイブ資料1200点を含めれば、約40000点の資料を保管している都美の“情報センター”です。美術情報室の運営は、図書館流通センター(以下:TRC)が担っており、世界の美術をフィーチャーした書棚の立ち並びがわれわれの目を惹きつけます。
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今回は美術情報室で働く重住優さんと奥田真弓さんのお二人の女性にお話を伺うことができました。インタビューの場所はとびらプロジェクトの拠点、都美交流棟2階の<プロジェクトルーム>。部屋のホワイトボードはイラストと文字でびっしりと埋まり、黒い壁面はメッセージ入りのカラフルな付箋が貼られ、ひろい窓からは上野の森の緑風が吹く、アイディア溢れる一室です。インタビュアーはとびラー候補生の山本明日香と阪本裕一。そしてとびらプロジェクト・マネージャの伊藤達矢さんとコーディネータの近藤美智子さんを交え、和やかな雰囲気で会話ははじまりました。
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< 写真:重住優さん(美術情報室チーフ) >
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──まず、重住さん、奥田さんのお二人が都美の美術情報室で働くきっかけは何だったのですか?
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[重住]TRCは公共の図書館を多く運営していますが、都内の美術館の図書室を運営するのは、ここの都美がじつは初めてなんですね。それで、社内でここの情報室で働く人員募集がありまして。私は3年間新宿の早稲田の公共図書館で勤めていたのですが、美術に興味があったので、「是非!」という志望を出したのがスタートでした。いま、ここの美術情報室は私をふくめて6人のスタッフがいますが、みんな自分から都美の仕事を嘱望してやってきています。
[奥田]はい。私の場合も、もともと専門的な仕事をしたいということを常々社内で相談していたところ、「都美どう?」と声をかけてもらったのがきっかけでした。
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──みなさん自ら望んでこちらへ働きに来られているのですね!ところで、美術情報室は公共図書館とは違った機能をもっていると思いますが、実際働いてみてどんな感想をもっていますか?
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[重住]美術情報室は扱っている対象が美術だということが大きな特徴です。当然、専門知識の勉強や他のミュージアムの情報を学習したり、新たにやるべきことが山程ありました。新しいことを憶えるのは大変ですが、今はやり甲斐を感じています。
[奥田]図書室の機能としては閲覧のみというのが大きな違いですね。公共図書館の場合は予約・貸出・返却の流れがあり、それに延滞というのが普通に加わりますから(笑)
[重住]そういえば、ご年配のお客さまが多いことには正直驚きました。ですから、今までの公共図書館よりも丁寧な対応を心がけていますね。例えば、都美の建物はちょっと複雑なので、一緒にその場所までお連れする場合もありますよ。
[奥田]館内でお客さまをお連れする機会はけっこう多いですね。
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──なるほど。じつはとびラーも美術館と来館者のみなさまをつなぐ存在でありたいという方針をもっています。そのあたりで、マネージャの伊藤さんからは何かご質問はありますか?
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[伊藤]都美には《“コレクション”より“コネクション”》というフレーズがありますね。“コレクション”は都美の収蔵作品数が少ないという現実、一方で“コネクション”は人と人とのつながりから都美で何かを創発させようという美術館の姿勢を、それぞれ意味しています。“コネクション”の考えは、おそらく在来の美術館のもつそれとは異なるものだとおもいます。で、とびラーはその“コネクション”の役割の一端を担っているわけですが、われわれとびらプロジェクトと美術情報室のみなさんで何か“連携”できそうなことはありますか?
[重住]個人的に思いついたことですが、都美のわかりやすいマップなどを作成してくれたら嬉しいかなとおもいます。
[奥田]マップは是非ほしいですね。
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プロジェクトルームの四角いテーブル。「じつはいまとびラー候補生でこんなものを作っているんです」と近藤さんが一枚の紙を二人に差し出しました。それは、現在作成中の“とびラー目線”による都美のマップでした。重住さんと奥田さんは感嘆して、作成途中のマップをじっくり見たあと、さらに熱心に美術情報室の展望を語ってくれました。
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──美術情報室は来館者にどんな“利用”をされていってほしいですか?
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[重住]私たちは美術の情報を発信していきたいとおもっています。いま、私たちが力をいれているのは閉架図書35000冊をお客さまに閲覧していただけるよう『目録』をつくっていることです。『目録』は情報室に置くようにしています。そしてお客さまが『目録』から閲覧したい本をお届けできるような仕組みを整えているところです。
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──『目録』づくりは大変そうな作業ですね。しかし、利用冊数が増えるということは、図書室としての機能は拡大しつつありますね。
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[奥田]そうですね。またアーカイブ資料(館資料など)の利用拡大にも着手しています。今後、美術情報室が図書室の領域を越えていければとおもっています。
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──美術情報室が“情報交換の場”となるといいですね。さて、お二人にとって、とびラーのイメージ、またこれからのとびラーに期待していることがあれば教えてください。
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[重住]とびラーさんは都美と一般の来館者とをつなぐ大切な役目を担う人なんだろうとおもいます。ところで、プロジェクトはすごく盛り上がっていますよね。
[奥田]今までのボランティアとはちょっと違う動きをされているなぁと感じます。
[重住]たとえば“とびラー通信”のような冊子を発行してくれたらぜひ読んでみたいですね。たまに「私もとびラーになりたいのですが・・・」というお客さまがいらっしゃったり、館内の職員でとびらプロジェクトのブログが話題に上ることもありますよ。
<写真:奥田真弓さん(美術情報室サブ・チーフ) >
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重住さんは、学生時分、翻訳の研究に明け暮れ、スランプに陥ったとき駆け込む場所が大学の図書館だったそうです。一方、奥田さんは本のかたちや質感や重さに愛着を持ち続けてきたそうです。そんな書物と縁(ゆかり)のあるお二人に最後の質問として『とびラーにおすすめしたい本は?』とリクエストを出しました。後日、ある一冊の本の紹介がプロジェクトルームに届けられました。
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『立体で見る/美術がわかる本』ロン・ファン・デル・メール&フランク・ウィットフォード著(福音館書店)という仕掛けブックです。手に取ってみると、まさに《アートのとびら》を体現するかのような書物でした。この本のように、とびラーも、“コネクション”の力で、美術館の領域を飛び出してアートの価値を届けられるとよいですね。
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とびラー候補生:筆者:阪本裕一(さかもと ゆういち)
現在、台東区で育児に没頭しながらアート・コミュニケーター活動へ奔走する。とびらプロジェクトを街づくりの一環として認識。0歳と100歳のヒトが同等に遊べるようなミュージアム計画を野望している。趣味は相撲観戦。白鵬、日馬富士と同級生。
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