東京都美術館× 東京藝術大学 「とびらプロジェクト」

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2012.08.12

及部克人先生をお迎えして、「再現!造形講座『谷中極彩過眼図絵』」と題したワークショップが行われました。今回のワークショップを開催するきっかけは、1978年より10年間、東京都美術館(以下:都美)を拠点としたワークショップ「造形講座」が継続的に開催されていた歴史に端を発します。これは当時の美術館の教育普及活動としては非常に先鋭的な試みであったそうです。そして、当時このワークショップを牽引していたのが及部克人先生(現 東京工科大学教授)。週2回を5週間(午後6時から9時まで)、計10日間1セットという密度の濃い講座ながら、定員の60名はすぐに埋まり、抽選となるほどの人気を博した企画であったそうです。
この70年代後半から行われた「造形講座」での活動を、及部克人先生ご本人のファシリテートのもと、参加者が実際に体験してみることで振り返り、コミュニケーションとアート、そして身体と地域性について考察を進めることを目的として、今回のワークショップは展開されました。
今回のワークショップの参加者は、とびラー15人(希望者多数で抽選となりました)と、群馬大学でワークショップの研究されている茂木一司先生、郡司明子先生、それに当時及部先生と一緒に「造形講座」で講師をされていた武蔵美術大学の斎藤啓子先生、加えて各大学の学生さん、それに何と当時「造形講座」を受講されていた一般の方々を含めた15人、合計30人が対象で実施されました。

はじめは「おおきなわ」というワークショップからスタート。まずは、手をつないで輪になります。しかし、及部先生が合図をしたら、今まで触れていたところでない場所で、隣りの相手と繋がらなくてはなりません。

 

繰り返して行くと、徐々におかしな格好になってきます。いろいろな形のポーズが組み合わさると、身体という素材を使った空間表現にも捉えられます。絵や彫刻が主流のアートとして認識されていた時代に、一般の方々を相手にこれをやるのはかなりアバンギャルドだったのではと想像します。

 

繋がることでさまざまな形が生み出されることを体験した後は、「大切な布」をつかったワークショップに移ります。参加者には事前に「大切な布」を持参してお越し下さいとお伝えしてありました。そして、思い出のある「大切な布」を広げて、円陣に座ります。

 

一人ずつ、布に込められている思いを語って頂きました。彼女が手に持っているのは、彼女のおしゃれ感覚に大きな影響を与えた、古着屋で買ったラルフローレンのスカートとのこと。布の紹介が終わったら、みんなで布を隣りから隣りへと手渡しで触れて行きます。お話から得た布の印象と、触ってみた感触が一体となった時、その布に込められた思いを、少しだけ共有できたような気持ちになれます。

 

布に込められている思いを語ったり触ったりした後は、それぞれがその思いを「三行の詩」でまとめます。いろいろな思い出が持ってきて頂いた布に込められています。本当にみなさん「大切な布」を持ってきて頂きました。

 

そしてなんと、みなさんの「大切な布」をクリップや安全ピンで繋ぎ合わせて、オブジェ?のように組上げて行きます。もはや素材が繋がるという域を超えて、そこに込められている記憶が形を紡ぎだすような作業に感じられました。

 

続いて、「三行の詩」は1行ずつビリビリと切り離されます。

 

参加者は自分の詩の中から1行だけ選び、他の参加者のものと順不同に並べます。すると、今度は「大切な布」の記憶の断片を結びつけることで生まれる、一風変わった詩が生まれました。これを「群読」してゆきます。声をそろえて強調して読むところ、反復するところ、一人で読むところなど、相談しながら、詩を読むリズムをつくってゆきます。

 

最後に「大切な布のオブジェ」を舞台として、「群読」に「おおきなわ」でやったような身体表現を加えれば、前衛的な演劇へと集約されて行きます。初対面の参加者同士がわずかな時間で意思の疎通を行い、それぞれの身体や記憶の片鱗から浮かび上がる表現の糸口をコミュニケーションを通してたぐり寄せ、声や形を共有する表現体験へと結実させて行くプロセスは大変魅力的に感じられました。

 

ここで少し、体を動かすワークショップを休憩して、「NPO法人たいとう歴史都市研究会」から椎原晶子さんを講師にお迎えして、東京都美術館と東京藝術大学に隣接するまち「谷中」の歴史についてお話をして頂きました。
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江戸時代、谷中一帯は江戸の鬼門にあたり、今でも寛永寺や大小さまざまなお寺が見受けられます。また、今でも昭和の香りのする古き良き東京の下町を忍ばせ、「まち歩き」のスポットとなっています。

椎原さんのお話で大変興味深かったことを一つ。江戸には”いろはにほへと・・”でグループ分けされた「まち火消し」がいました。谷中一帯は「れ組」の所管であったそうです。明治になり「まち火消し」がなくなると、「れ組」の方々は、美術館の作品展示運搬業に転身していったとのこと。谷中のまちと上野のお山にある美術館とのつながりは意外なところからはじまっているのだなぁ~とびっくりしました。

 

椎原さんから、谷中の歴史と美味しいお店を教えてもらった参加者は、早速まちに繰り出して行きます。谷中を見学しながら、ランチを食べて、グループごとに親睦を深めます。

 

東京藝術大学からほど近いところに、老舗カフェ「カヤバ珈琲」があります。とびらスタッフはここでランチです。

 

店内はそれほど広くはありませんが、昭和の雰囲気と、おしゃれなでボリューミーなメニューが楽しめるお勧めスポットです。稲庭さんはハンバーグランチセット、近藤さんはハヤシライス。どちらも美味しそうです。

 

お腹がいっぱいになった後は、「旧平櫛田中邸」へ。椎原さんから教えていただいた通り、一般公開されていました。

 

平櫛田中は旧東京美術学校の教授だった方で、日本を代表する木彫家でもあります。この旧平櫛田中邸は、平櫛田中がまだ木彫家として世に出ていなかったころ、仲間の日本画家などが寄付を募り、彼の創作活動を支援する目的で、住居件アトリエとして建てられたそうです。

なので、平櫛田中もその気持ちを汲み取り、自分のアトリエとしてだけ利用するのはなく、よく弟子を呼んで指導し、アトリエの壁には天井まで届く大きな本棚を置き、いつでも閲覧できるようにしていたとのこと。
そんな平櫛田中のアトリエは、今では一般に公開され、イベントによっては写真のようにまったりと午後のひと時を過ごすコミュニティスペースとして活用されています。

 

玄関先では丁度、韓国人アーティストのユ・カンホさんのワークショップが開催されていました。丸太をのみで削って、椅子をつくっています。とびらプロジェクトアシスタントの大谷さん、のみ捌きなかなか上手いね。

 

谷中散策を終えて再び都美へ。みなさんランチを食べながら、午前中のワークショップのことや、谷中のことなど色々話合ってきた様子でした。早速、及部先生のワークショップ午後の部再開です。二人組になって向かい合い、床に置かれた白い紙の上に、毛糸を垂らしてお互いの似顔絵を描きます。毛糸は上から垂らすだけ、画面に触れてはいけません。

 

難しい!と思いきや、凄い! 結構似てくることにびっくりしました。

 

続いて、「一筆描き自画像」鏡は使いません。自分の顔の記憶を頼りに一本の線でぐいぐい描いて行きます。

 

上手ですね。良く描けてます。

 

なんか、似てます。(笑)

 

次はまた二人組になり、今度は手元を見ないで、お互いの顔を描きます。一通りできたら、描いてもらった自分の顔について、グループごとに感想を発表して行きました。
しっかり観察して、形をとらえて、丁寧に描いてゆかなければ、思ったようには描けない、わけではない、ということが分かりました。むしろ、感じた印象をストレートに出すことで、ものの本質に近づくことができる様な気持ちに感覚をシフトさせてくれるワークショップでした。
感じた印象をストレートに出すことは簡単な様で、実はすごく難しいことだと思います。ですが、それは出す力がないから難しいのではなく、普段の思い込みや、習慣、知性がそれを阻害しているからなのかもしれません。そこで、それらの機能を一時的に停止状態にさせるプロセスを描くという行程に組み込むことで、感覚をストレートに出し易くする、そうした配慮がこのワークショップには含まれている様に感じました。

 

記憶や印象を形にする感覚が少し身に付いたところで、次のワークショップに移ります。5色の布と毛糸、それに谷中散策の途中でもらったチラシや地図などを使い、谷中散策を形にしてゆきます。

 

これは、三軒間というスペースでお昼を食べようと向かったチームの中の一人の作品。店の前まで行ったのに、営業時間になっておらず、入れないで立ち尽くすグループ一同を表現しているそうです。

 

一人ひとりがそれぞれ感じた谷中のイメージや、散策での出来事などが次々に形になって行きます。そして、グループごとに他のメンバーが何をイメージしてつくったのかを互いに聞き合いながら、テーブル上の作品の配置を考えて行きます。自分のイメージと隣りのイメージの関係を繋ぎあわせることで、谷中散策に抽象的な形が与えられて行きました。
このテーブルの上には、個々の記憶であり表現でもある作品がそれぞれが独立して有りながらも、他の作品との関係性が意識されることによって、共通の体験を表す一つの作品ともみることができます。不特定多数のメンバーで一つの価値観をつくりあげるのではなく、あくまで個人のパーソナリティーを尊重した上で、個々の繋がりから全体像を見いだす重要性と可能性がこのワークショップに内在している様に感じました。また、そうしたことは普段のコミュニケーションの基本であるにも関わらず、日常に於いてそれが成り立つコミュニティーをつくることの難しさに対する言及と一つの提案が、一日かけて行われた一連のワークショップのストーリーであった様にも思われました。
きっと、はじめてこのテーブルの上にある作品を見た人は、それがなんであるかを理解することは難しいでしょう。しかし、今回のワークショップの一連の流れを体験した人たちには、それが単なる表面的な造形美ではなく、参加した個々人の潜在的な感性により引き出された、言語では表すことができないリアリティーを内包した造形物として理解できたのではないかと感じます。
そして僕が及部流ワークショップを体験した最後の感想としては、その極意は恐らく、この一連の体験を一概に分析できない程の多様な切り口と、理解寸前で寸止めさせる絶妙な終わり方にあるのではないかと勝手に思っています。ワークショップの食後感としては、・・・・心地よいもやもやな後味をひく体験って感じでした。
そしてそれこそが「谷中極彩過眼図絵」なのでしょうか? 及部先生〜。

 

ワークショップが終わったあとは、インターンの真砂さんに、「造形講座」について研究発表して頂きました。
みなさんお疲れさまでした!

(とびらプロジェクトマネージャ 伊藤達矢)

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