東京都美術館× 東京藝術大学 「とびらプロジェクト」

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2019.02.18

2019年1月28日から2月3日に開催された、第67回東京藝術大学卒業・修了作品展にて、とびラーのプログラムとして定番になってきた「なりきりアーティスト」を実施しました。実施日時は2月2日(土)午前11時です。

 

「なりきりアーティスト」とは、参加者自身が作家になりきって、制作の動機、作品コンセプト、作品のタイトルなどを語るワークショップです。

今年は日本画(修士)の神谷渡海さんと、彫刻(修士)の稲垣慎さんにご協力いただきました。題材となる作品は、それぞれ藝大美術館の地下2Fに展示された神谷さんの《境》と、3Fに展示された稲垣さんの《鳥顔の竜の群像》です。

 

参加者は7名。他のとびラーが主催するプログラムに参加経験のある方や、小学校6年生の男子など、多彩な顔ぶれです。4名をAグループ、3名をBグループとして迎え、それぞれ《境》と《鳥顔の竜の群像》の「なりきりアーティスト」になっていただきます。

 

[最初の10分間は作品鑑賞と事前準備]

プログラムの最初の10分間、なりきる作品を鑑賞しながら、どんなプレゼンテーションをするか考えていただきます。なかには最初、「ええ何、これどうしよう」と思われた方もいたようです。でも、じっくり作品を見ていくうちに、色々な想像がわいてきます。

 

[《境》の「なりきりアーティスト」たち]

 

さあ、全員で神谷さんの作品の前に集合!

Aグループの方には「本日のアーティスト」のタスキをかけてもらい、一人ずつプレゼンテーションをしてもらいます。Bグループの人は鑑賞者役となり、作家役のプレゼンテーションを聞いて、気になったことを質問します。最初は緊張していた「なりきりアーティスト」の方々も、だんだんと作家のような気分になり、最後は堂々と絵のモチーフや情感を語りだすようになります。なかには、私はダンサーでもあると言って、絵の前でダンスの動きをされる方もいらっしゃいました。

 

最後には、後ろで聞いていた作家さんに出てきていただきます。本物の作家である神谷さんも、「そのタスキを貸して!」と楽しそうに「本日のアーティスト」タスキをつけてくださいました。そして、作品のモチーフや、描かれている彼岸や此岸のイメージなどについて、話をしてくださいました。

作家のことを想像して語った参加者は、さらに本物の作家の話を聞いて、この体験を大変印象深いものと受け止めたようです。「彼岸と此岸の説明に感動」「木の後ろに回ったり、上から垂れてくるものを引っ張ったり、絵の中に入って遊ぶような感覚になった」「葛飾は地元なのに、それが抽象化されて、こんな精神性を感じられるようになるなんてびっくり」「自分の思い出と作品の思いが重なったよう」といったコメントをいただきました。

 

 

次に、エレベーターで3Fまで移動し、Bグループの人に「なりきって」いただきます。

 

[《鳥顔の竜の群像》の「なりきりアーティスト」たち]

今度は稲垣さんの作品です。大きな彫刻作品なので自然に周りの人の輪も大きくなります。

 

ある「なりきりアーティスト」の方は、この作品に「南国と解放」を見出して、鸚鵡を解放して、さらに大きな鸚鵡にする物語を語ります。また別の「なりきりアーティスト」は、彫刻に、自分に入ってくる前のもの、自分の中、自分のものとして消化した後をみて、それを彫り分けたと解説します。同じ作品を見ても、全く異なった語りになるところが、「なりきりアーティスト」の面白さです。小学生の「なりきりアーティスト」は、深い彫りは思いっきり、浅い彫りは優しくと、木を彫る楽しさを話してくれました。そして、バナナが好きだからこのバナナが気に入っているというのにも、納得。

こちらも、最後に稲垣さんに登場してもらい、自らの作品に関してお話していただきました。のみの彫り痕のこと、お賽銭が置かれたこと、タイトルを黒板に書いていることなどが説明され、参加者も興味深く聞いていました。

 

こちらのグループの参加者からは「作品を見てたくさんの想像がわいてきた」「自分の中にあるものを、自然に(作品に)出されている姿に刺激と感動をいただきました」という感想がありました。そして小学生の男の子からは「木彫りの作品は見ていて魅力的に感じました、また木彫りの彫刻を彫って欲しい」とコメントをもらいました。

プログラム終了後、「なりきりアーティスト」に参加した7人の皆さんに書いていただいた感想を、作家さんに伝えました。神谷さん、稲垣さんからは、思わぬ話が聞けて楽しかった、普段の鑑賞者との会話とはちがった面白さがあった、と言っていただきました。

 

展示中の忙しい中、協力していただいた神谷さん、稲垣さん、プログラムに参加していただいた「なりきりアーティスト」の皆さん、おかげで、楽しいプログラムになりました。ありがとうございました。

 


執筆:鈴木重保(アート・コミュニケータ「とびラー」)

一昨年は「なりきりアーティスト」の参加者として、作家になりきってプレゼンテーションを行ないました。今年は「とびラー」として、このプログラムに関われたことを嬉しく思っています。

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