2020.12.29
【活動報告】イサム・ノグチ発見研究所
特別展「イサム・ノグチ 発見の道」の開催を前に、作家研究・作品研究をしたい。そんな思いで、とびラボ『イサム・ノグチ発見研究所』はスタートしました。
もちろん『イサム・ノグチ発見研究所』は架空の研究所です。作家研究・作品研究といっても、単に作家の生い立ちや制作背景を調べるのではなく、対話を通じて研究活動することを目指しました。主体的に学び、発表してもらえるように架空の研究所を設立し、参加とびラーを架空の研究員に設定することで、勉強会のような雰囲気を少しでも柔らかくして、楽しく参加してもらえるように工夫しました。
■対話型作家研究・作品研究
2020年度コロナ禍でのとびらプロジェクトは、zoomを使ったオンライン講座に始まり、とびラボも同様にオンラインでの活動が中心となりました。
『イサム・ノグチ発見研究所』もオンラインでの活動として始まり、2020年6月にキックオフ。イサム・ノグチの生涯を年代で分けて、オンラインミーティングを全四回で実施しました。
2020年6月28日 第一回研究発表会 対象期間 1904~1935年
2020年7月12日 第二回研究発表会 対象期間 1936~1950年
2020年7月19日 第三回研究発表会 対象期間 1951~1967年
2020年8月 9日 第四回研究発表会 対象期間 1968~2005年
研究発表会は、オンラインで一人ひとりに発見したものを発表してもらう中で、自分とは違う発見に耳を傾けること、また同じ発見でも多様な見方や感じ方があることに気づくことで自然と会話が生まれ、一方通行の情報提供に留まらない対話型作家研究・作品研究の場となりました。その中でも一番こだわったところは、全員参加を促すことです。各研究員には、対象期間だけ共有して、その期間の中で、自分が気になったイサム・ノグチのエピソードもしくは作品を一人ひとつオンラインで発表してもらうようにしました。全員に主体的に参加してもらうために、どんなに詳しい人も、全く知らない人も発表は一つのエピソードもしくは作品のみ、時間も5分以内としました。
参加したとびラーには、「イサム・ノグチ大好きです、展覧会もいったことあります」、「イサム・ノグチ庭園美術館に行ったことあります」、「モエレ沼公園行きました」という方もいれば、「名前は聞いたことあるけど正直全然知りません」、「日本とアメリカの間で大変だった人と何となく思っている」といった方まで知識には大きな差がありましたが、それを感じさせない発表の場をつくることができました。
また、それぞれが自分の視点を大事にし、自分の言葉でどこからそう思ったのか、それを知ってどう思ったかを伝えることで、研究に独自性が生まれました。
発表方法も特に指定せずに、一言口頭ででも良いとしていましたが、多くの研究員が好奇心を刺激されたのか、回を増すごとに発表資料も増えていき、オンラインを有効活用して、画像や動画を巧みに共有していくようになりました。
全4回の研究発表を通じて、延べ87名のとびラーに参加していただきましたが、同じエピソードや作品でも感じ方が違ったり、それぞれの視点を交換する中で、また対話が生まれたり、非常に刺激的で豊かな時間を共有することができました。
■ふりかえりを重視する
とびらプロジェクトではもとよりふりかえりが重視されています。オンラインでの開催となったものの、『イサム・ノグチ発見研究所』でも同様にふりかえりを重視しました。
そこで大きな役割を果たしていただいたのが、梨本さんと門田さんというふたりのとびラーです。
ふたりは研究員として参加しながらも、発表会の様子をグラフィックレコーディングという方法で記録し、温かみのあるふりかえり資料を作成してくれました。参加したとびラーだけでなく、参加できなかったとびラーからも非常に好評でした。
また、とびラーは活動の記録をウェブ上のとびラー専用の掲示板「本日のホワイトボード」で共有していますが、全4回総数でホワイトボードへのコメントは245件にもなりました。それぞれの発見のふりかえりや、他の方の発見への意見を書いたコメント欄は、時間内に発表しきれなかったところを伝える場になり、これによって、コミュニティの一体感を醸成することができました。
〈とびラー梨本さんによるグラフィックレコーディング 第1回より〉
〈とびラー門田さんによるグラフィックレコーディング 第2回より〉
■それぞれのイサム・ノグチ像を発見する
全4回の研究発表を終えて、最後に取り組んだのがファイナルレポートです。
当初、3つのテーマを設定し、それぞれに研究成果をファイナルレポートとしてまとめてもらうことを検討していました。
しかし、最終的には研究発表会における発表の独自性、独創性を考慮して、テーマは原則自由で、A4一枚にまとめていただきました。
研究員それぞれに自由に表現してもらったことで、出来上がったレポートも個性的で、多様なものとなりました。結果として、それぞれがこの研究所での活動を通じて発見したイサム・ノグチ像が描かれた作品のようなものになったと思います。
■実際に会うことの意味
当初よりずっとオンラインで開催してきたとびラボでしたが、9月6日にファイナルレポートとしてそれぞれに表現したものを持ち寄って、このとびラボとしては、最初で最後の東京都美術館アートスタディルームでのリアルミーティングを開催しました。
私自身は約7ヶ月ぶりのアートスタディルームでの活動。オンラインでは何度も顔を合わせて来ましたが、今年4月から加わった9期とびラーの中には初めてのアートスタディルームでの活動になる人もいたため、あちらこちらから「はじめまして」の声が聞こえてきました。
東京都美術館の新型コロナウィルス感染症感染拡大防止のガイドラインを遵守しつつ、アートスタディルームも定員25名以内、マスク着用、1テーブル4名以内で着席などしっかり対策を行なうことを前提とした実施となりました。内容的にも当初は全員一言ずつファイナルレポートやこのとびラボの感想などを発表してもらう予定を、テーブルごと代表者による発表にするなど、最大限配慮し、無事開催できました。
これまで画面越しに向き合ってきた仲間と実際に会って活動したのはこの日限りとなりましたが、半年近く離れていたとびラーの活動拠点であるアートスタディルームでの時間は感慨深く、特別なものになったと思います。
また、それぞれのファイナルレポートはホワイトボードに展示し、密にならないよう順番に見てもらうようにしました。
対話型での作家研究・作品研究を通じてたどり着いたそれぞれのイサム・ノグチ像は本当に多彩なものになりました。全く知らないけど参加できますか?といっていた方も回を重ねるごとに専門家のように語るようになったり、イサム・ノグチの交友関係から、ブランクーシやバックミンスター・フラーに傾倒して調べはじめる人がいたり。とびラー自体が様々なバックボーンを持った人たちが集まっているため、その特性を十二分に活かして、様々な視点で観察し、それを共有することで本当に豊かな時間を作ることができたと思います。
この日をもって、イサム・ノグチ発見研究所は解散となりましたが、一人ひとりがそれぞれに研究員バッヂをデザインして、最後の時間を迎えました。
■コロナ禍で出来ること、コロナ禍だから出来たこと
このとびラボを行なっている途中で、新型コロナウィルス感染症の影響により10月に開幕予定であった特別展「イサム・ノグチ 発見の道」の来春への延期が発表されました。参加しているとびラーの中にはショックもあったと思いますが、すぐに中止じゃなく延期でよかったと声を掛け合い、最後までやり遂げられたことは本当によかったです。オンラインを活用し、コロナ禍で出来ることを模索しながら、結果的にコロナ禍だから出来たことにたどり着くことができました。
最後に、一緒に場を作っていただいたとびラーの皆様に心より感謝申し上げます。
本当にありがとうございました。
執筆:中嶋厚樹
とびラー二年目。イサム・ノグチ発見研究所の活動を通じて、年齢もバックボーンも様々なとびラーの多様性を改めて実感しました。とびらプロジェクトのここにしかない魅力を日々体感しています。