東京都美術館× 東京藝術大学 「とびらプロジェクト」

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2021.01.21

寒空の12月11日、コロナ禍で入構が厳しく管理されているキャンパスは、いつもより人もまばらで、少し寂しげです。

待ち合わせ場所は藝大正門から少し奥まった所にある金工棟近く、「ここであってるのかな」と不安げにしていた私達を先に見つけてくれた加藤さんは、両手を頭の上で大きく振って「おーい」と歓迎してくれていました。

彼女の人柄のわかるその全身を使ったおーいは「今日のインタビューはなんだか上手くいきそうだな」と感じさせてくれました。

 

はじけるような笑顔がすてきな加藤さん。インタビュー中も沢山笑ってくれます。

 

■卒業制作について

カン、カン、カン。。鍛金研究室の工房に近づくと金属を叩く大きな音が聞こえてきます。そんな中、加藤さん制作中の作品が出迎えてくれました。

-卒業・修了作品について教えてください。

加藤さんの卒業制作。現在75%くらいの完成度とのこと。

 

ご覧の通り、クマを作っています。頭部と胴体部分で表現を変えていて、胴体はリアルに、頭部はキャラクターっぽい感じで作っています。

コンセプトとしては、人間特有の社会性です。社会を生き抜く上で人は皮をかぶったり、役割を与えられたりして生きていかなければならない。例えば女らしくしなさいとか、お兄ちゃんなんだからしっかりしてとか。これは人間が社会で生きるために獲得した、他の動物では見られない面白い行動だと思っています。

またクマに対して私たちが持つイメージって、リアル系だと強くて大きいとか、人を食べてしまう、という怖いものから、人間社会に流通している多くのクマのキャラクターの様にかわいらしいというものもありますよね。リアルのイメージと人間社会におけるイメージのギャップが激しいのがクマだという点と、多くのクマのキャラクターが生み出されており、上手く人間社会に取り込まれているな、という点からクマを作っています。

-そのテーマに至ったきっかけは何ですか。

実はお笑いが好きで、、、笑 このクマの顔も、とあるお笑い芸人さんをモチーフに作っているんです。芸人さんってとても明るくてみんなに元気をくれるけど、裏ではそんな人間じゃないかもしれない。もしかすると自分を押し殺す、と言ったら変ですが、このクマの様にマスクを被っているかもしれない。命を削って活動しているのが本当に尊いなと思っています。芸人さんは私たちが日頃している皮をかぶる行為のプロフェッショナル版だと思っていて、その尊さを作品にしようと思いました。

 

-鍛金の作品はどのように作るのですか。

 

こういった板状の金属から形を切り出して、それを叩いて形を作っていきます。またそのままだと硬いので、一回火に当ててあげます。「なます」と言うんですが、火で金属の組織をゆるゆるにしてあげて、その状態からかなづちで叩く事で、組織を締めつつ形を変形させていきます。昔は一枚の大きな板から作る技法が主流だったんですが、今は溶接技術が進んでいるので、金属板からパーツを三角とか四角に切り出して、つぎはぎで作っていきます。叩いて形を変えて、また動かなくなったら、なましてゆるめて、と永遠に繰り返していく感じです笑 ずっと火を使うんです。

実際に火の前での作業の様子を見せてくれる加藤さん。

鍛金研究室では火が命なので、工房にふいごの神様を祭っている。(写真上部)

毎年11月にはOG・OBも集まり「ふいご祭り」を開催する伝統があるそう。

 

― 神棚の下にあるかなづちは実際に使われているものですか。

 

はい。持ってみますか?笑 結構重いんですよね。1.5㎏くらいあります。金属によって使い分けていて、銅は冷えても叩けるので小さいかなづちで細かく。鉄は赤いうちに叩かないといけないので一発で決められるように大きなものを使います。鉄は温めて叩けるのは10秒位なんですよね笑 大きいかなづちを使うと一日中手が震えて鉛筆も持てません笑

そしてこちらには炉がありまして、小さい炉や大きい炉、火加減のしやすい炉などいろいろ使い分けています。

これは比較的小さいガス炉。金属の一部だけを温める事が多い。

人によっては自宅に置いてる人もいるとか。

大きめの炉。分銅を押し下げて重い扉を上げる。

コークス炉。緻密な温度調整が必要な際に使われるそう。

 

道具や設備について教えてもらった後、再度作品について伺いました。

― 粘土のクマもあるようでしたがあれはどういう工程ですか。

作品の道しるべとなっているクマの胴体部分の粘土。

作品の方も頭と胴体部分は取り外せる。

 

ひとそれぞれでやり方が違うんですが、私はあまり絵が得意じゃなくて、粘土の方が感覚的にできるので、最初の工程で粘土で小さく形を起こしてそれを見ながら拡大して製作するスタイルですね。

 

― 卒業制作を作り始めてどのくらいになりますか。

コロナで登校禁止期間があったんですが、工芸科は制作に設備が必要なので開けてもらうのが本当に早くて、6月から着手出来ました。夏休みも作業出来ましたね。頻度としては週5で9時-18時で作業します。へとへとになります笑 休憩いっぱい取ってやってます笑

鍛金の私たちは、コロナで制作ができなかった期間は短かったので悪影響は少なくて、むしろその制作が出来ない2か月間の間にコンセプトを練られたり、自分と向き合う事が出来たりしたので良かったですね。あとは早く作りたい、よし作るぞー!という気持ちも強まりました。

― このクマの胴体部分も色は塗るんですか。

はい、薬品を使って化学反応で色を付けます。金属に応じて薬品を使い分けていて、例えば鉄だったら錆液を付けて錆びさせます。 車の内装で、シルバニアファミリーの人形みたいにフワフワにする塗装があって、細かい繊維を吹き付けて毛羽った感じにしています。本来鍛金には日本伝統の着色技法があるので塗装はあまり、、、という感じなんですが、やりたかったので新しい試みですね。

今胴体が虹色に見えているのは酸化膜と言って、なました後にこうなります。綺麗ですよね。

 

― 素材はどのように選んでいますか。

 

扱いやすさ、溶接の相性、出したい表現に適しているか、あとは値段とか笑 結構違うんですよね、さっきお見せした銅板だと8000円とかですが、彫金の人達は金とか銀を使うので、工芸科はみんなずっとバイトしてます。鉄とかは安い方ですね。

 

― お気に入りの素材はなんですか。

 

今回クマの頭部分で初めて触ったんですがアルミですね。溶接する時、通常は接合部分同士を溶かしてくっつけるんですが、アルミの場合はアルミ製の「溶棒」というものを溶かしてさしこみながらくっつけます。それで形を盛り上がらせたりできて、若干粘土っぽい感覚で形が起こせて楽しかったんです。大学院に行ったらアルミで作品をいっぱい作りたいです。

粘土も好きな加藤さん。

 

■美術、藝大、鍛金。それぞれとの出会い

 

― 高校は美術系だったんですか。

美術の授業すらない高校でした。。笑 美術は高校卒業後の美術予備校で1年やって、、という感じですね。でも部活は美術部でした!幽霊部員でしたが。。笑

 

― 美術との出会いやきっかけは何でしたか。

幼稚園の時に、親に言われて通っていた絵画教室ですかね。その時に賞をよく貰えて、成功体験になっていたのがきっかけだったと思います。小学校に入ってからは勉強ばかりで絵は描かなくなったんですが、中学校の時にすごく映画が好きで沢山見るようになりました。その時に俳優の伊勢谷友介さんの映画を見て、ネットで彼の事を調べた時に東京藝大卒というのを知って、そこで初めて藝大の存在を知りました。

 

― 大学で鍛金を選んだ理由はなぜですか。

工芸科の中には6専攻あって、私は鍛金にした訳ですが、受験課題に向けて1年間粘土を触っていたので、陶芸とかが肌に合っていて楽しいな、と元々思っていたんです。でも金属は触っていなかったので親しみが無くて、扱ってみても全然うまくいかない。その時にせっかくなら大学でしか取り組めないことを学びたいと思ったんです。あとはやっぱり鍛金ってかっこいいんですよね。かっこよさに惹かれて続けられてるところもありますね。

 

― この先はどのように考えていますか。

大学院に行きたいと思っています。あと1年間ドイツに交換留学にも行きたいと思っています。ドイツはコロナ前から好きで良く旅行にも行っていたんです。また私が小さい時に犬が大好きで犬の図鑑をよく見ていたんですが、その時に自分の好きだった犬がドイツ産ばかりで、、笑 その頃からドイツには良い印象を持っています笑

 

■加藤さんの作品作りや鍛金の捉え方について

作品のインスピレーションはどこからきますか。

ふとインスピレーションが降りてくる事はあまり無くて、沢山音楽を聴いたり、映画を見たり、本を読んだり、自然を愛でたり、、そうしてインスピレーションを集めておいて、その中でグッと来たものを作る、という感じですかね。常に自分の中でネタがいくつもある状態で、今回はこれを作ろう、と選ぶ感じです。なのでずっとインプットをしているので、経験が沢山欲しいです。

加藤さんが「経験がたくさんほしい」と話してくれている時の、

ストレートなまなざしが印象的でした。彼女の芸術への真摯な姿勢が強く感じられた瞬間。

 

― 最近インスピレーションを受けた事はなんですか。

まだ本当に最近過ぎて深掘りできていないのですが、ヒップホップカルチャーですね。最初はヒップホップの「ダンス」の要素しか知りませんでしたが(ラップ、DJ、ブレイクダンス、グラフィティがヒップホップの4大要素と呼ばれている)、だんだん「あ、グラフィティもヒップホップなんだ」とか「ヒップホップって何かのジャンルだけじゃなくてカルチャー全部なんだ」と気付いていった感じです。

ダンスは、中学から高校3年生まで友人とストリート系のダンスチームを組んでいたんです。高校の美術部で幽霊部員になってしまった原因でもあるのですが笑 そこから大学でサンバ部に入って人生初の打楽器を始めて、そこでリズムの楽しさを知り、、、ヒップホップに関してもそれまでより一段と理解が深まりました。

鍛金も聞いもらえると分かると思うんですが、作業時のリズムがあるので、そことも関連性があったら面白いなと思っています。教授とかの音は凄くリズミカルで、その人独特のリズムがあるんです。誰が叩いてるとか分かりますよ笑

 

そこから加藤さんとのお話は鍛金と音の関連性に広がっていきます。

金属を叩いた時に100%の力で叩けた時の音と、すこし外した時の音は違うんです。なのでその音を聞きながら手元を修正したりします。また、叩く時にリズムが生まれるのにも理由があって、一発で決めようとしてミスをしないように、軽く叩いて場所を確認してから再度叩く、という成功率を上げるやり方なんです。先に触っているような感じですね。

音楽学部の友達に楽器の製作を依頼されたこともあるそう。

鍛金の話をする加藤さんは職人の顔になります。

 

― 鍛金の魅力はなんですか。

うーん、、つまるところ「ロマン」ですね。鍛金は、作業はつらいのですがそれを上回るロマンがあります。金属そのものの光沢や、かなづちという道具で叩いた時の独特の表情。。これらは機械では出せない、と言ったら軽い言葉ですが、手仕事ならではなんです。あとは金属に対する硬そう、冷たそうという印象があるなか、火を当てる事でこんなにも優しく動いてくれるんだ、というギャップにも萌えます。

加工が難しい分、自分が欲しい表情になってくれた時の感動が大きいというのもロマンです。全然形にならない、辞めたい!と思って作業している中であるとき急にパッと良い表情を見せてくれると「天才だ!」となりますね笑

 

最後にサービスで少し作業の様子を見せてくれた加藤さん。

金属を磨くサンダーという機械から飛び散る火花がかっこいい。

鍛金はロマンだという加藤さんの言葉に大いに納得の瞬間。

 

鍛金の難しさや金属を扱う事からうまれるロマン。そして合理性に裏付けられた制作音とリズムとの関係性など、加藤さんへのインタビューを通じて今まで見えていなかった鍛金の魅力をいくつも発見する事が出来た、とても贅沢な時間でした。

 

■ インタビューを終えて

常に制作のインスピレーションを蓄積している加藤さん。まだ作品化されていない彼女の中に眠るアイデア達が今後どんな作品として生み出されるのか、とても待ち遠しいです。まずは皆さんも1月の卒業・修了作品展で、完成した加藤さんのクマに会いに行きませんか。

 

加藤さんの他の作品が見れるインスタグラムはこちら:kiki.kikako

 


 

取材|古林美香、大石麗奈、草島一斗(以上アート・コミュニケータ「とびラー」)

撮影|茂泉芽衣(とびらプロジェクト アシスタント)

執筆|草島一斗

昨年の藝大生インタビューを通じて作り手の皆さんの持つパワーに魅了されました。これからもアートコミュニケーターとして多くの作家さんの魅力を発信していきたいと思います。お話を聞かせて頂ける作家さん募集中です。

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