東京都美術館× 東京藝術大学 「とびらプロジェクト」

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2024.10.26


第6回建築実践講座|「公・共・私・個を意識し,それを越えて新しい関わり方をつくる」

日時|2024年10月26日(土) 14:00〜16:00
会場|東京藝術大学 第1講義室
講師|山田あすか(東京電機大学 教授)


 

人々が集う空間の<公・共・私・個>の段階的変化や、公共の在り方について、東京電機大学 教授の山田先生にお話を伺いました。
山田先生ならではの視点で語られる国内外の場づくりやまちづくりの事例は、とびラーが任期満了後それぞれのコミュニティに戻って活動する際の大きなヒントになったのではないでしょうか。

「場をデザインする」とは、その場所(コミュニティ)を共有したい人は誰なのかを考えてフィルタを想定することというお話は、参加したとびラーの多くが印象に残ったようです。

 

とびラーからのふりかえりの一部をご紹介します。

 

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•活動内容ではなく、その場所ありきでハード面から活動内容を考えることが興味深く、話を聞くことが出来た。来る人に主体性を持たせることで、その場に責任を持つという考え方も納得できた。今までは、みんなに開かれたことが大前提だったが、フィルターを掛けることも場のデザインには必要だと知った。

 

•特に、「みんな」って誰?と言う問いかけは新鮮でした。「誰にでも」とは、少しづつフィルターを掛けて「その場を求めている人誰にでも」ということなんだ、そして「少しづ広げていく」「次」を作ることで、結果的により開かれた場となっていく、というのは腹に落ちますね。「みんな」一人一人に個性やニーズがあり、「共生型コミュニティー」を作るというのは実際にはいろいろと難しい事がある、という当たり前のことが、あらためてよく分かりました。

 

•軸となる場所や事柄は始めから完璧でなくとも関わった人達と緩やかなつながりで変化していってもいい、という考えかたがあることに気がつけました。

 

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(とびらプロジェクト コーディネータ 西見涼香)

 

2024.10.13

 


 

執筆者:藤原裕子

 

はじめに

東京都美術館には「野外彫刻」が10作品展示されています。 東京都美術館の貴重な常設展示ですが、 東京都美術館には何度も来ているのに、こんなに野外彫刻があると気がつかなかった」という声を時々伺います。野外彫刻は、日差しの変化により映り込む色が変わり、 季節の など移り変わる自然を背景に、日々異なる表情を感じることができる魅力的なアートです。また、東京都美術館の野外彫刻は、抽象的な形状だからこそ、鑑賞する人ごとに解釈の幅が広がります。私たちは、このような魅力的な野外彫刻について、自然光の下で風を感じながら鑑賞の発見や楽しみを分かち合いたいという思いで、このとびラボをスタートしました。

 

 

 


 

 

1、工夫したこと

鑑賞会当日まで実に6ヶ月、14回 とびラボを開き、とびラーで議論を重ねて準備してきました。

ミーティングでは、野外彫刻を鑑賞する楽しみをさまざまな来館者と共有していくために必要な工夫について考えました。そして特に以下の4つのポイントを、プログラムに落とし込んでいきました。

 

(1) 散歩を取り入れた鑑賞

野外彫刻は土や木陰、風、天気など周りの環境も含めて作品であると考えました。目の前の作品に向き合うだけではなくて、美術館の屋外空間の全体で楽しんでほしいと考えました。そのため、スタート後すぐに対象の野外彫刻に向かうのではなく、まずは散歩しながら日差しや他の野外彫刻を眺め周りの環境を楽しんで、その後に今回取り上げる野外彫刻の前に立ってじっくり鑑賞するプログラム構成にしました。

 

(2)野外彫刻を対話型鑑賞で楽しむ

おしゃべり鑑賞なのか作品解説なのか。野外彫刻の魅力をより楽しむにはどのような方法がよいか。最も効果的な鑑賞の在り方についても何度も議論しました。東京都美術館の野外彫刻は、抽象的な形状だからこそ、それぞれの解釈の幅が広がります。そこで今回は、彫刻の詳細をガイドがお伝えする形式ではなく、参加者同士で鑑賞を楽しむ対話型鑑賞(VTS)を取り入れることにしました。

(*VTS:Visual Thinking Strategiesの略。複数人の対話を通して作品により深く鑑賞する方法。)

 

(3)アイスブレイクー「小さな立体を作るゲーム」

プログラム当日、スタート時は、参加者の方々はまだ緊張しています。そこで、実際の作品を鑑賞する前に頭と心のウォーミングアップをするため、シンプルな形でさまざまな素材を組み合わせて小さな立体を作るゲームから始めます。完成したら参加者みんなでそれぞれの作品を、360°さまざまな角度から見合います。 ”いろいろな方向から見る”立体作品の楽しみ方を練習するとともに、緊張がほぐれて安心して発言できる場の雰囲気が生まれます。

 

(4)対象者

世代を超えてより幅広い鑑賞となるように“子どもと大人の視点の違いを味わってほしい”という考えから、幅広い年齢層を対象にした場づくりと時間配分を想定しました。そのため小学校低学年の子どもでも参加しやすいプログラムの所要時間を検討し、内容を精査しました。

 


 

 

 

2、実施当日の様子

2日間に分け、小学生以上を対象にそれぞれ約15名の定員で参加者を募集してプログラムを行いました。

 

 

 

(1)実施概要

2024年10月5日(土)、13日(日) 14:00〜15:30

 

 

 

(2)鑑賞会の流れ

⚫︎小さな立体を作るゲーム

まず室内で小さな立体を作るゲームを行います。アートスタディールームでグループに分かれ、それぞれのテーブルに置かれた立体物を3つ選びます。そして木材や石などさまざまな素材でできた立方体、球、円柱などを組み合わせてその人なりの“立体作品”を作ります。参加者の緊張をほぐすために、スタート時には気軽な「ゲーム」として紹介し、それぞれの立体が完成してからそれを「作品」と呼ぶことで、参加者に自然と鑑賞の意識が芽生えるように、細かな言葉使いにも注意しました。最初は緊張していた参加者の方々も、どの素材のどんな立体物を使おうか考えているうちに笑顔が出てきました。楽しみながら素材を選び、絶妙にバランスをとって積み上げようとしたり、横に並べたり、組み上がったものも逆さにしたり裏から見たり。色々な工夫を楽しんでいる様子が見られました。

完成したら、他の参加者のものを鑑賞します。同じ素材を使ったのに個々に異なる“立体作品”ができており、他の人から見た印象と制作者の作った意図が異なることに驚いたり、面白く思ったり。印象が変わったり、影も作品の一部だと気づいたり。「なるほど」「へえ~」「そう見えるんだ」などのつぶやきも出てきました。自ら選んだ素材の理由を説明しながら、自分の意図にあらためて気付いたりして、好奇心いっぱいの笑顔があふれる場となりました。「小さな立体を作るゲーム」を通して、たった3つの立体物を組み合わせるだけで多様な連想がうまれることを楽しみ、また360°さまざまな角度から観ることで新しい発見が生まれることにも気がついたところで、いよいよ野外彫刻の鑑賞へと向かいます。

 

同じ立体を反対方向からみてみると・・・。

 

 

 

 

 

⚫︎野外彫刻の鑑賞

その後、みんなで外に出て、散歩しながら野外彫刻の鑑賞を行います。今回実施した2日間は、あいにくの雨に見舞われた日と晴天の日で、それぞれまったく違う鑑賞体験となりました。散歩のように自然や建物を眺め歩くこと自体を楽しみながら、野外彫刻を観察し、対話を交えた鑑賞に入っていきます。とびラーが厳選した2作品を囲んでじっくり鑑賞しました。雨の日は、野外彫刻の表面に光る水滴や雨音、湿った匂いを楽しむことができました。雨の中で連想した野外彫刻の気持ちなど、様々な発想を共有できました。また、晴れの日には、反射する光のまぶしさや映り込む色の違いなどから、参加者同士の会話が止まらなくなるほど。反射した光が、四方に伸びていくようでありながら途中で角度を変えている様子を見て「人生のようだ」とつぶやく方もいらっしゃいました。彫刻に反射する光を人生の道筋に見立てていらっしゃるようでした。

素材が金属の彫刻は、晴れた日には青空や草花の緑、タイルの茶色が映り込みますが、曇りや雨の日はグレー一色で、見え方が全く異なります。雨の日には、《イロハ》の表面には水が溜まったり、《堰》は雨水の流れる音を見聞きすることもあります。 参加者同士の多様な発想を互いに楽しみながら、笑顔で活発な会話がつづく鑑賞をすることができました。

 

 

《イロハニホヘトチリヌルヲワカヨタレソツネ・・・・・・ン》(最上壽之、1979年)を鑑賞する参加者ととびラーたち。

 

 

《三つの立方体 A》(堀内正和、1978年)を鑑賞する参加者ととびラーたち。

 

《三本の直方体 B》(堀内正和、1978年)

 

 

 

(3)参加者同士の鑑賞体験のふりかえり

鑑賞を終えて、アートスタディルームに戻り、チームごとに鑑賞内容を共有しました。参加者の方々は笑顔いっぱいで、充実した鑑賞時間だったことが伝わってきました。これまではあまり気づかなかった野外彫刻の鑑賞が実はとても楽しいものだったと、新たな発見を嬉しそうに共有してくださる声が多く聞かれました。ご夫婦で参加された方は、お互いの発想が新鮮だったようで、鑑賞後もひとしきり会話がはずんでいらっしゃいました。

雨の日の鑑賞について参加者の方々がどう感じられたのか、とびラーたちは少し心配をしていましたが、「雨の日ならではの鑑賞ができて、楽しかった」「逆に貴重な体験だった」と、ポジティブに楽しんでいただけた様子で、参加者の方々に笑顔をいただけてほっとしました。天候に左右されてしまう屋外での活動ですが、天候の心配を抱えながらも今回の野外彫刻ラボを敢行して良かったと嬉しい気持ちになりました。

 

 

 

 

 

(4) 鑑賞後の参加者の感想 (アンケートから抜粋)

・東京都美術館には何度も来ているのに、こんなに彫刻があると気づかなかった。

・他の人と一緒に鑑賞して、そういう見方もあるのかと知り、面白かった。どんな見方をしてもいいのだと思った。

・自分から出ることのない視点や意見を聞くことができ、新鮮に感じた。

・他の参加者の方、とびラーの方との交流から、凝り固まっていた考えや視点が一気に解放されたような気がした。

・鑑賞とは個人的なものだと思っていたので、他の人の意見を伺うのは新鮮だった。

・“じっくり見る”、“他の人の見方を「きく」”は、対人間にも応用できること。あらゆる立場、年齢の方に参加してもらったら、社会がいい方向へ向かうのではないかと思った。

・「小さな立体を作るゲームは、わずか1分ほどで誰でも選べる素材でも、何かしらの作品としてのストーリー性や達成感が得られた。これは簡単なことではなく、素材選びや形が非常によく考えられていた。

 

【雨の日ならではの感想】

・雨の日に屋外で美術作品を鑑賞できることは滅多にないので、特別感があった。

・天気による(野外彫刻の)素材の変化を見ることができた。

・排水溝に流れる水の音が、水琴窟のようで良い音色だった。

 


 

 

3、まとめ

計画段階で目標としていた、「さまざまな年代の人が参加することにより生まれる視点の違いを楽しむ」「作品だけでなく屋外の環境全体で味わう」、そして「野外彫刻の楽しみ方を体験し、野外彫刻への関心を高める」という狙いは、しっかり達成されたように感じます。

 

(1)とびラーの感想

長きに渡る準備を経てついに迎えた本番当日。美術館の清掃スタッフさんがプログラム実施場所でもある東門付近で、蜘蛛の巣を取り払ったり銀杏の実を掃き集めたり、念入りに清掃してくださっている様子を目にしたメンバーは、感謝と晴れやかな気持ちでスタートを切ることができたといいます。屋外で活動し周りに向ける視野を持つと、この美術鑑賞の場は、作品だけの力だけではなく実にたくさんの人の手で作られ運営されていることに気付かされます。そうやってみると、自然の中、土の上に置かれた作品1つを取っても、見せ方が計算されていて、そしていろいろな方向から時間をかけてじっくり観察する意義を感じられるし、それを多くの人と共有したいと考えた今回の試みは意義深いものなのだと背中を押された気持ちです。とびラーが企画運営するプログラムも、美術館やとびらプロジェクトの関係者、参加してくださる一般の方、そしてとびラーの仲間たち、多くの人との関わり合いの上に成り立っていることを感じ、この時間をより深く学びと味わいのある機会にしたいと感じました。

参加したとびラーからは、「野外彫刻は館内の美術作品とは扱い方も見せ方も見方もまるで違う。自然や天気もそうだが、もっと周りの虫や花や太陽も、空間にあるあらゆるものが作品の一部、鑑賞の対象、心を豊かにする要素なのだと感じることができた。」「自分がモノを見ている位置を変えただけで、見えるものが変わること。自分の世界が広がっていくことに気づいた時のわくわく感。心を広げ視野の解像度が上がっていく満足感を知った。」という感想が聞かれました。

 

(2) 企画、ファシリテーターとしてのふりかえり・改善点

私たちは、野外彫刻を鑑賞するラボが今後も、形を変え発展しながら続いていくといいなと考えています。そのためにも改善点をはっきりさせ、次の「野外彫刻ラボ」をより充実させるべく、参加メンバーでふりかえりのミーティングを開きました。

他の鑑賞者の妨げにならないように、散歩型鑑賞のコース取りや鑑賞時の声かけ、また対話中の声量など引き続き配慮が必要だと感じました。また、秋に入っているとはいえ長時間の屋外活動では、熱中症や害虫対策については、今後も注意が必要です。雨天の活動では傘が登場するため、美術館内には持ち込めない傘を傘立てから出したり入れたりをスムーズに誘導する算段も必要です。

 


 

 

 

 

 

執筆者:13期とびラー 藤原裕子

 

 

 

それまでは全く意識していなかった野外彫刻だったのに、鑑賞体験の日に「目からウロコ」体験をしました。それからは興味関心がむくむくと湧き上がってきて、その味わい深い魅力的な世界を楽しんでいます。関心をもって調べるほど新しい発見が湧き上がってきて、世界がどんどん楽しく豊かになっていきました(進行中)。そんな素敵な体験をひとりでも多くの方と共有できたら嬉しいな。

 

 

 

 

2024.10.12


第5回建築実践講座|「東京藝術大学が考えるキャンパスデザインとは」

日時|2024年10月12日(土) 10:00〜15:00
会場|東京藝術大学 第1講義室
講師|君塚和香(東京藝術大学 特任助教)


 

今回の講座は2部構成で、午前は東京藝術大学 特任助教の君塚和香先生による講義でした。

君塚先生は建築士として設計の仕事に携わるかたわら、東京藝術大学キャンパスグランドデザイン室で藝大キャンパス内の建物や環境の再構成・構築を担っていらっしゃいます。

東京藝術大学と上野公園や周辺地域とのつながり、公共空間とパブリックスペースの考え方や開き方について、過去・現在・未来とお話いただきました。東京藝術大学の住所は「上野公園」であり、上野公園の一部でもあるという視点で語られるお話が印象的でした。

 

 

 

そして午後は、君塚先生が中心となって推進している、藝大と公道との間にある柵を植栽に変えるプロジェクト「藝大Hedge」を体験しました。
とびラーは、藝大上野キャンパスの芸術未来研究場と国際子ども図書館との境界約100mに700本以上(18種類)の苗木を植えました。

 

 

 

午前の講座をふまえて実際に植栽することによって、実感を持って公園の一部であり、大学と外の境界を意識し、公共空間に関わる体験になりました。

市民も参加できる「藝大Hedge」のお世話係に参加するとびラーもいて、君塚先生の主導で藝大生も一緒に植物のお手入れをしています。

 

今回植えた苗木が大きくなる頃には、とびラーは開扉していることでしょう。これからも上野に来て、この周辺環境の変化を見続け、感じてほしいなと思います。

 

(とびらプロジェクト コーディネータ 西見涼香)

 

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