東京都美術館× 東京藝術大学 「とびらプロジェクト」

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【実施報告】「とびラジオ」とびラーが語る5つの浮世絵

「とびラジオ!とびラーが語る5つの浮世絵〜」。軽快な音楽とともに、パーソナリティが語りかけます。

 

 

「とびラジオ」は、2020年9月14日に「The UKIYO-E 2020-日本三大浮世絵コレクション」展で実施された「障害のある方のための特別鑑賞会」にて公開された、とびラー制作によるラジオ番組風音声コンテンツです。お持ち帰りいただいた作品画像掲載の特製チラシとともに、ご自宅でもう一度展覧会を楽しんでいただく趣向です。

(公開された音声はこちらのページでお聞きいただけます)

 

今回の特別鑑賞会は、新型コロナ感染予防のため、来館者ととびラーが直接コミュニケーションを取りづらい状況でした。そのため、「展示室ではお話できなくても、ウエルカムの気持ちを伝えて音声コンテンツを楽しんでいただき、とびラーについても知っていただく」ことを目的に、「とびラジオ」を制作しました。

 

 

5グループに分かれたとびラーが、「The UKIYO-E 2020」展からそれぞれ作品を選択。グループで鑑賞しながらその作品世界に思いを巡らせ、独自のシナリオを作って5つのショートストーリーを収録し、それらを合わせて1つの番組に編集する作業まで、全てオンラインでの作業となりました。

 

 

制作では、とびラー同士の相互チェックはもちろんのこと、とびらプロジェクトスタッフや展覧会担当学芸員の方にもご協力いただき、台本の内容や言葉遣い、演じ方、録音方法など聞きやすさを追求しました。

 


台本を作り演じた各グループからの感想です。

 

◇渓斎英泉《雪中の三美人》(太田記念美術館蔵)は、雪の降る中、着飾った3人の女性が川辺に立つ姿を描いた作品です。まるで3人が立ち止まって話をしているような場面から、女性たちの会話を想像してシナリオを作りました。

「《雪中の三美人》ならぬ四美人とびラーが集まったAグループ。お洒落で楽しげな登場人物に感情移入できるこの作品を、題材にすることに決定しました。

今も昔も変わらない乙女心や女子トークをグループで鑑賞しながら想像することはとても楽しく、時代を超えて、登場人物を身近に生き生きと感じました。

コロナ禍で1度もリアルに会ったことがないメンバーとのオンライン収録。最初は堅さも取れず、何十回とやり直したことも懐かしいです。」

 

◇葛飾北斎《百物語 お岩さん》(日本浮世絵博物館蔵)は、破れた提灯を四谷怪談のお岩の口に見立てた作品。恨めし気な表情の中にも、どことなくユーモラスな雰囲気が伝わってきます。展覧会会場で、異なる国の見知らぬ二人が作品を前に語り合うスタイルでシナリオを考えました。

「インパクトが強く北斎作の馴染み深い画題であることから、多くの人が作品のタイトルだけで作品を思い浮かべることができ、台本が作りやすいと思い選びました。

グループ内に中国からの留学生がいたこともあり、日本人のおばちゃんと中国人の女の子という等身大の設定が生まれ、実際に絵を見ながら話している感覚でアイディアが次々と出てくるのが楽しかったです。

別々に収録した音声を合成したので、間のとり方や臨場感の出し方などに戸惑いがあり、無事終了したときはほっとしました。」

 

◇歌川国芳《蛸の入道五拾三次 品川/川崎》(日本浮世絵博物館蔵)は、街道沿いのお茶屋がある品川の情景と、川崎の乗客でいっぱいの渡し舟を描いた作品です。旅番組の生中継で、それぞれの場所からレポーターがインタビューするシナリオができ上りました。

「タコを擬人化して描いているユニークな作品から、私たちとびラーが感じたことを来館者に聞いていただき、面白がってもらえたらと選びました。

旅番組でレポーターが品川と川崎から中継するスタイルを思いついたところから、タコに名前がつき、生き生きとした会話が生まれていきました。Zoom上でのやり取りがとても楽しかった半面、聞く側の立場になった台本を作ることは難しくもありました。

録音がライブ感のあるものになっていて、嬉しかったです。」

 

◇葛飾北斎《冨嶽三十六景 五百らかん寺さゞゐどう》(太田記念美術館蔵)は、見晴らしの良いお堂から、遠くに望む富士山を眺める人々を描いた作品。描かれた人々が「どんなことを言っているのか」を想像して、1つのショートストーリーにしました。

「候補作品を出し合って検討した結果、さまざまな人がいてセリフが聞こえてくるような、女性1名、男性2名のグループの特徴を活かせるこの作品に決まりました。

セリフを直しながら繰り返し録音するうち、いつのまにか江戸時代にタイムトリップし、絵の中の人になりきる。そんな特別な体験でした。協力し合って、ひとつの作品を作り上げるのが楽しかったです。

演者2人で複数の役を受け持ったので演じ分けが難しく、俳優さん、声優さんの偉大さがよくわかりました。」

 

◇歌川広重《名所江戸百景 深川万年橋》(日本浮世絵博物館蔵)は、まず、手桶の持ち手に紐で吊るされた亀が目を引きます。手桶越しには川を行き交う舟や夕焼けの富士山などが描かれていて、江戸の日常が伝わってくるようです。夕方のんびりと、おじいちゃんと孫が散歩をしている光景を想像して、シナリオを作りました。

「カメがぶら下げられている図が不思議で興味が湧きました。調べると『放生会』という習わしだと分かり、その情景を伝えるためのセリフをグループで考えました。

演者2名の設定になったため、カメのセリフを削らざるを得なかったことが心残りです。

生活音が入らないように違う時間帯で何度も録音にトライするも、救急車のサイレンの音が入ったり、ネットが落ちたり。そんなハプニングすらも大笑いしながら楽しく収録できました。」

 

制作したチラシ

 

 

各グループのコンテンツ作りと並行して、お配りするチラシのデザイン作成、音声編集や配信方法の検討、パーソナリティによる番組全体の台本作りも行われました。

 


 

◇チラシ原案デザイン

「夜な夜なZoom上で眠い頭を絞りながら、掲載文章やレイアウトを考えカタチにしていくアイディアを、色々出していく過程が楽しかったです。

チラシを手に取ってとびラジオを聞いてくださる方を考え、作品がハッキリ見やすい画像の大きさと文章のレイアウトを工夫しました。」

 


 

実はラボには、音声編集や配信に詳しいメンバーがひとりもいませんでした。配信日が迫る中、とびらプロジェクト内の掲示板を使って、音声編集アプリや著作権フリー音源、配信方法などを紹介してくれたとびラーがいます。そのとびラーの感想です。

 

「サンプルの音声を聴いたときに、一気に江戸時代にタイムスリップしたのを覚えています。ちょっとだけBGMの著作権チェックなどをお手伝いさせてもらっただけですが、完成版を聴いて作品の中にダイブする感覚に感激しました。」

 


 

とびラジオパーソナリティは、実際にラジオパーソナリティとして活躍しているラボメンバーが担当。

 

◇パーソナリティ

「 各グループのショートストーリーと音楽、語りが三位一体となって、少しずつ「とびラジオ」が完成していくのを間近で見ることができました。途中でつっかえないように、笑わないように、何回も練習!練習しすぎて本番では声が枯れてしまいました(笑)試行錯誤しながら作ったジングルが土壇場で不採用になったのがちょっと残念です…

印刷されたチラシを手にしたときはとびらプロジェクトスタッフのサポートも実感し、感無量!」

バラバラだった5グループのショートストーリー・パーソナリティの語り・BGMと効果音のすべてを”合体”させた「とびラジオ」が完成したのは、なんと公開2日前。

 

 

◇音声編集

「浮世絵の様々な楽しみ方を伝えるには?を考え、BGMを選び流し方を工夫するのが楽しかったです。実際のラジオを聞いて,ラジオっぽい音楽の入れ方を研究しました。

各グループ収録をZoom上で行ったため音量の差や音声の途切れがありましたが、複数の音源を提出してもらい、途切れ等を編集して聞きやすさを追求しました。」

 


 

「とびラジオ」は、会話がはばかられコミュニケーションがとりにくい展示室内で、「誰かと一緒に鑑賞している気持ちになりたい」という思いで始まった「とびラー音声鑑賞ガイドラボ」から生まれました。

 

「障害のある方のための特別鑑賞会」向けにシフトしたことで、鑑賞後楽しむラジオ形式に変わりましたが、リアルでは難しいコミュニケーションを補うことはできたのではないかと思います。

 

とびラー同士でも同じです。リアルでは一度も会ったことがないとびラーもいる中、協力しながらオンラインで全ての作業を完結させたことで、オンラインでもリアルと同等のコミュニケーションが取れることがわかり可能性の広がりを感じることができました。

 

熱い夏を駆け抜けた「とびラジオ」。お聞きになった方から、「こんな絵の楽しみ方があるのか」「それぞれのストーリーがユニークで面白い」「ラジオ形式の導入も自然にいろいろなシチュエーションが作れて成程と思った」などの感想を頂き、参加とびラー一同感激しております。

 

それでは皆様、次回の「とびラジオ」をお楽しみに!

 


執筆:中嶋弘子、細谷リノ

 

中嶋弘子:とびラー2年目。素敵なとびラーたちとアートを介したコミュニケーションをガチで楽しんでいます。作品との出会いを大切に活動を続けていきたいです。

 

 

 

細谷リノ:とびラー活動を通じて得たモノやコトは数知れず。面白い(興味深い)日々が続いています。ここでのご縁を大事に「アートの楽しみ」をもっと広げていきたいです。

2020.09.14

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