東京都美術館× 東京藝術大学 「とびらプロジェクト」

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「光と自然現象の伝道師」藝大生インタビュー2018 | デザイン 学部4年・渡邉菜⾒⼦さん

12月中旬のある日、寒空のもと藝大を訪れました。
今回お話を伺うデザイン科4年生の渡邉菜見子さんは、屋外で作品を制作中とのこと。
どんな方なのか、どんな作品なのか。期待を膨らませつつ総合工房棟へ向かいます。

 

 

ー作品について教えてください。木でできた小部屋のように見えますが・・・。

 

「インスタレーション作品で、通路のような細長い部屋を通り抜けながら鑑賞してもらいます。タイトルは『PPW』。Phenomenon(現象)PassWay(通路)の頭文字をとっています。」

 

 

 

ーさっそく、作品の中にお邪魔します。

通路の内部は真っ黒に塗られ、外観からは想像もつかない光景が広がっていました。天井に張り巡らされた透明なチューブが白い光に浮かびあがり、幻想的な印象を与えます。クラゲ、深海、水族館・・・。いろいろなイメージがわき、不思議な気分になってきました。

 

「この作品を設置する場所は、構内にある『森の中の通り道』のような場所です。木々の中に真っ白な箱が建っていて、中に入ると真っ暗。そんな異空間的な感じを出せれば、と。」

 

 

ー作品内部に関しては、どんな意味が込められているのですか?

 

「頭上のチューブにはゼリーと泡が詰まっています。それらをランダムに点滅する光で照らし、暗闇の中に浮かびあがらせます。チューブが人の感情だとして、それらが見え隠れする。人間みんな、実は何を考えているのかわからない、そんな不気味な感じを表現できればと思いました。箱の中に入ると、同じ空間内にいる他者が見えたり見えなくなったり、その人の本質が見えたり見えなくなったり、そんなイメージです。作品を見てくれる人には、好きなように色々なことを感じ、想像してもらえればと思います。」

 

 

ー照明にこだわりがあるようですが、音響などはつけないのでしょうか。

 

「音はつけない予定ですね。入った人に自由に想像を膨らませてもらいたいので、あえて無音にしています。」

 

ー制作について伺いたいと思います。この独特なチューブは、どのように制作しているのですか?

 

「ゼラチンを砕いてからお湯でふやかし、チューブに口で吸い込んでいます。チューブの全長は300メートルくらいです。」

 

ーすべて息で吸い込んだら疲れますよね。掃除機などを使うわけにはいかないのでしょうか。

 

「機械は微調整ができないんです。口で吸うと泡の感じがうまく出るので頑張っています。切り口で口内炎だらけになりますが(笑)。室内の気温だとドロドロに溶けて液体状になってしまうので、ゼラチンをふやかしてチューブに吸い込んだらすぐ外に出して冷やしてます。冬の今しかできない展示ですね。」

 

 

ーいつ頃から制作に着手されましたか。

 

「木を買い揃えて実際に作業を始めたのは、2週間前からです。紙で模型を作った後、この1/3サイズの試作を作り始めました。本番では、この試作をバラして現場で再構成する事になっていて、あちらに見える森の中に、全長6mくらいの通路を設置します。セッティングが完了するその日まで、自分でも完成した状態を見られません。」

 

ーそれだけの大きさのものを組み立てるのは大変そうですね。

 

「3日もあれば組み立てられます。むしろ壁などを作る方が、時間がかかりますね。チューブをはめるための穴も、ジャストサイズのものを一つ一つ開けています。」

 

ー当初から、この構想で制作を進めていたのですか。

 

「ベースが通路ということと、透明の素材を使おうという方向性は変わっていません。ただ、具体的な作品内容は当初の予定から5回くらい変遷しています。以前から、樹脂の中にガラスを閉じ込めてそれに光をあてる作品を作っていたので、初めはそれを通路内に展示しようと考えていました。ただ、それでは通路に対してサイズ感が合わず、作品全体としてのスケールも小さくなってしまうなと思って。次に、樹脂で椅子や机を作って通路の中に設置しようと思ったのですが、材料費が300万円くらいかかることが分かってやめました(笑)。そのあと、チューブを買ってみて中にものを入れたら、あ、綺麗、と。これに光を当てたら、泡がキラキラして夜の水中みたいなイメージでになるんじゃないかと思いついて、この展示になりました。たまたま行き着いた感じです。」

 

「アイデアにしても素材にしても、いい方を拾って、そちらに転がっていくように進めていきました。固定してしまうと、発展しないと思っていて。講評が先月末にあったのですが、箱だけその時のものを残して、内容は変わっています。教授にも言わずに勝手にコロコロ変えちゃって。今この作品を制作していることを知っている教授も多分いませんし、この状態から今後さらに変わるかもしれません(笑)。設置場所も、当初とは違うところになりました。」

 

 

ー藝大に入るまでのことを聞かせてください。

 

「中学生の頃は美容師になりたかったんです。でも、美大卒でグラフィック・サイン系の仕事をしている両親からは、中卒で美容師の専門学校に行くのではなく、高校に行きなさいと言われました。」

 

ーご両親がともに芸術の道を歩んでいらっしゃる。渡邉さんはサラブレットだったのですね。

 

「中学までは、反抗心から『絵は好きじゃない!』と言ったりしていたのですが(笑)。両親は、私がこっそり絵を描いたりしていることを知っていたんですね。勉強か美術か選択するように言われた時は、迷わず美術を選びました。そうして美術系の高校に入ってから、知り合いのヘアメイクアップアーティストの方に進路相談をしたところ、美大で引き出しを増やしてからでも遅くないよと言われて。行くならトップを目指そうかなと思い、藝大だけを受験しました。」

 

ー藝大ではどんな作品を制作してこられたのですか?

 

「飽き性というか、いろいろなところに手を出す性質で。デザイン科は自由に色々できると聞いて入ったので、最初からやることを絞らずに制作していましたね。はじめは服飾やテキスタイル、ヘアメイクをやっていました。建築物も好きだったので、木組みで椅子を作ったりしているうちに、次第に空間や光に関心を持つようになって。そこからは、透明の素材を使うことが多かったです。樹脂とか、ゼリーとか、ガラスとか。それらと光を使った作品を制作してきました。現象系と言いますか。」

 

 

ー「透明」「現象」がキーワードですか。詳しく教えてください。

 

「もともと木漏れ日や、水面に光が反射して揺れている様子などの自然現象に関心があり、それを作品化しようとしています。透明だけれど、光をあてるとプリズムになる。そういう想像がつかないような現象が面白いなと思っています。写真を撮ったりして記録するわけではないのですが、ふと思い出してあれ良かったな、と思えば作品にしたり。人工的な輝き、例えばジュエリーなどの作られたキラキラはあんまり好きではないです。自然界の光を再現したいというのに近いかもしれません。卒業制作でも、時間で太陽の落ち方が違うとか、そういう現象を扱った作品を制作したかったのですが、展示期間中に曇ってしまうと困るので、そのアイデアは採用しませんでした。ずっと思っているのは、生活の中で余裕がなければ気づかないような”現象の面白さ”に目を向ける人が増えればいいなということです。今回の作品でも、鑑賞者の方に気付いてもらえれば嬉しいです。」

 

ー作品を通し、普段見過ごしてしまいがちな現象の美しさへと鑑賞者の視点を導くねらいがあるのですね。参考にしているアーティストなどはいますか?

 

「プロダクトデザイナーの倉俣史朗さんは、アクリルの使い方などが好きでよく見ています。
あと、参考にしているという訳ではないのですが、光や透明を扱っているアーティストの吉岡徳仁さんには勝ちたいな、と思ってやっています(笑)。建築では、隈研吾さん。いろいろな素材を使っていて面白いなと思って。基本的に参考にするものは、あまり近いものを見ないようにしています。そちらに引っ張られてしまうので。建築やプロダクトなど、遠めの所から拾ってくることが多いです。」

 

ー他にインスピレーション源やリフレッシュ方法はありますか。

 

「一つのところに居座れなくて、常に動いたり遊んだりしていますね。暇な日も、家にいられないんです。ドライブしたり、銭湯に行ったり。」

 

 

 

ー卒制を制作中の現在はどんな生活を送っていますか?

 

「屋外は寒くなってきたので、大学では7時~8時くらいまで木を組むような大型の作業をしています。その他、チューブ制作などの作業は、三河島にあるアトリエで行っています。アトリエ近くは下町で銭湯もあり楽しいです。」

 

 

ー今後の制作や、卒業後の進路について教えてください。

 

「照明のデザイン事務所に就職が決まっています。最終的にはショーなどの舞台美術を手掛けたいですね。働きながら、作品も作り続けたいです。透明なものへの興味は変わらないと思いますが、いろいろな素材を触っていきたいです。」

 

 

作品を通して、生活の中で見過ごしてしまうような現象のうつくしさを発信する、その姿はまさに「光と自然現象の伝道師」。
様々な方向に興味をひろげ、柔軟にアイデアを発展させてゆく姿勢にも魅力を感じました。現象への飽くなき探究心が生んだこの作品が、最後にはどのように仕上がるのか。卒展当日を楽しみに待ちたいと思います。

 


取材|⽯井萌愛、⻄牟⽥道⼦、萩⽥裕⼆(アート・コミュニケータ「とびラー」)
執筆|⽯井萌愛

 

普段は美学を勉強している大学生です。美術館のアクセシビリティや対話型鑑賞をはじめ、芸術を取りまく物事について、色々な人と語り合えるのが楽しいです。

 


第67回東京藝術大学 卒業・修了作品展 公式サイト
2019年1月28日(月)- 2月3日(日) ※会期中無休
9:30 – 17:30(入場は 17:00 まで)/ 最終日 9:30 – 12:30(入場は 12:00 まで)
会場|東京都美術館/東京藝術大学美術館/大学構内各所


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2018.12.18

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