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「作品の価値なんて、あってないようなもの・・・それがおもしろい」藝大生インタビュー2023 | 絵画科油画専攻 学部4年・北村瞬さん

クリスマスも間近の12月22日、上野公園を抜けて東京藝術大学美術学部の正門で待ち合わせたとびラー4名は、どんな作品に出会えるかという期待を胸に絵画科油画専攻4年生の北村瞬さんを尋ねました。笑顔で迎えてくれた北村さんの制作室には・・・あれ?絵画がありません。あったのは雑然と置かれた材木と工具。不安から始まったインタビューは興味深い内容に満ちていました。

 

 

 

最初に、美術との出会い・きっかけをお話しいただけますか?

 

僕の母は美術に興味があり、美術系の大学に行きたかったそうです。僕が保育園で工作物を作ったらいつも褒めてくれました。その後もずっと美術に興味があって、母が「画家を目指すなら藝大というところがあるよ」と教えてくれて、「じゃ、そこに行くんだろうな」と思い、自然とその流れで藝大に入りました。最も好きな科目はずっと図工・美術でしたし、部活も小学校、中学校とも美術部でした。高校は美術科がある高校(東京都立総合芸術高等学校)です。文化祭では装飾班に入って、学校の門やロータリーを装飾しました。小学校から高校まで美術の先生に恵まれていたので、それも良いきっかけだったと思います。

美術館にもよく行きました。母は美術館が好きな人だったので、よく一緒に行って、本物に触れることができました。母が西洋画や宗教画が好きだったので、比較的古い絵を見ることが多かったと思います。母に連れられて、ただただ日課のように絵を見ていましたね(笑)。母も美術館で楽しそうに見ていたので、それでいいかなと。

 

 

今は卒展に向けて、油画に取り組まれているのですよね?

 

油画は家で描いています。学校は夜8時までしか制作ができないので、学校では木工をやって、家に帰ってから深夜まで描いています。今学校で制作しているのは額に近いイメージの作品で、現在は屋根の部分を作っているところです。この中に描いた絵が入ります。

 

 

屋根にパイプを付けて、そこから絵を吊り下げます。もともと額に興味があって、絵の中身は何でもいいかなと。いろいろな美術館に行って僕が思ったのは、一般の人たちはキャプションをずっと見て、メインの絵はあんまり見ないで終わってしまうのではないか、ということです。どこで作品の価値を判断しているかというと、周りの額やキャプションとかライティングとか、どういう美術館に飾られているのかなどの周りの情報がその人にとっての作品の評価に大きく影響しているのではないかと思いました。そこから、どちらかというと外枠に興味が沸いて、こういう形で作品を作ろうと思い至りました。中に入る絵はモデルさんを頼んで、結構写実的に描いています。それは学内展では皆に見せるのですが、東京都美術館で行われる卒展では絵を麻布で覆って、隠して展示します。

 

せっかく描いた油画作品を隠してしまう意図は何でしょう?

 

絵を描いている時はすごく楽しいのですが、人に見せるとか、いつまでに仕上げるとなると、どうしても人が見やすい様に描いてしまいます。そうすると、展示した瞬間に、自分と自分の描いた作品の間に距離ができてしまうと感じて、それはどうしても嫌だなと。今回、自分が満足できるまで描いた作品を自分の中で完結したいと思ったので、卒展では油画は見えない状態で展示します。絵の中身の評価や価値は作者である自分で決められるので、人に見られてどうこうというのは自分には要らないなと思っていて、だからもう隠してしまおうと思いました。

 

 

では、絵を入れる額は作品として評価してほしいということですか?

 

僕は見せたいものとやりたいことが乖離していて、やりたいことは絵、見せたいものは・・・うーん。実はこの額も実験に近くて。この額や周りのものを来館者が見たときに中身をどうやって評価するのかという、そのちぐはぐさが面白い。今回すごい時間をかけて作った豪華な額を見て、僕の作品を見た人が中身をどうやって判断するかということが知りたくて、こういう作品になりました。学内展では先生達に見ていただいて評価を受けるのですが、そのときには絵が見えています。でも、自分的には絵の内容の評価も大切ですが、先生たちには仕掛けの方を見てもらいたいなと思っています。

 

この額は不思議な形をしていますね。

 

先生達ともいろいろ話しました。僕はこれを額のつもりで作っていたのですが、ある教授には「これは祭壇だね」と言っていただきました。僕は祭壇のつもりはなかったのですが、ただ用途的には仏壇の様に大事なものが中に入っていて、閉じていて、でも人はそれを「中身が重要」ということを理解して、中身が見えない状態でも価値を判断している。例えば、クリスマスツリーの、中身が空のプレゼントボックスのオーナメントがすごく好きで、あれは中身が空なのが分かっているけれど、きれいにプレゼントボックスが包まれている状態にすごく価値を見出されています。今回の作品もそれに近いなとは思っています。チグハグとか、勝手な想像とか。そういう状態が面白い。

 

 

この額自体はどのようなコンセプトや想いで作られて、どのような特徴があるのでしょうか?

 

そもそも家具が好きというところがあって、僕のイメージとしては、額ではあるけれど、服を吊すハンガーラックみたいなものです。また、僕は道具が結構好きです。道具は何かのプロセスで使うもので、目立つことはあまりないのですが、すごく必然的な形をしているし、道具のための道具もあります。この作品の飾り足を作るために、自分で旋盤を作りました。買おうと思えば買えるのですが、仕組みを見たら案外簡単に作れるなと。あと丸鋸やトリマーを使って、テーブルソー(丸鋸盤)を作って、自分で木材を切りました。その後、釘とかネジを使わずに、木組みで制作しています。家具が作られるプロセスは見えず、みんな気づかずに普通に使っている、その感じも好きです。話を戻せば、(作品においても)額とかキャプションとか、場所などから、多分皆さんが無意識のうちにその情報を汲んで「素晴らしい作品が飾られている」と意識すると思うのですが、家具もそういう感じではないでしょうか。いろいろ用途があって、飾りも付けられているし、そういうモールド(装飾)が家具には全て入っていると思います。人は知らず知らずのうちに、そこに「かわいい」などの価値を見いだし、そのような感覚で使っていると思うのですが、そのプロセスが見えないところが僕は好きです。

 

 

では、想像で価値が生まれていることを分かってほしいということですか?

 

そうではありません。僕はこれを作っているのですが、誰かに何かを伝えたいということは全くありません。「大きい家具が展示されている」くらいで、スッと素通りしてもらってよくて、僕がその違和感を楽しんでいるだけです。作品を見てくれる方には失礼かもしれませんが、僕が脇から見て悪戯しているような感じといったらよいでしょうか。僕は作品の価値なんて、あってないようなものだと思っていて、(中身はどうあれ)美術館で飾られているからこれはいいものだよねということは往々にしてある。それがもし、どこかのギャラリーに置かれていたり、ゴミ捨て場に置かれていたりしたら、美術館で見た時と同じように価値を見いだすのかといったら、全然ちがうと思う。作家が誰なのかも重要、だから価値なんてものは当てにならないなと思います。誰もが価値があるものと錯覚していることも面白いと思っているし、それを意図的にどう作っていけるかに自分の関心があるのかなと思っています。

 

大学卒業後はどうされますか?

 

藝大油画の版画の大学院に行こうと思い、大学院試験の準備をしています。今も、版画コースを選択しています。版画コースでは色々な古典技法を学ぶことができます。リトグラフとかシルクとか木版とか。僕は素材にも興味があり、素材に詳しい先生方が多くいらっしゃるのも選択した理由のひとつです。木材や金属、布、石。全て版画の中で使われる素材です。シルクだったら版を作るのに布を使うし、リトグラフは石においたインクを紙に転写する技法ですし、木版があったり銅版があったりとか。版画の先生の中には、教授とは別にテクニカルインストラクターの方が4人いて、技法ごとに詳しい知識をお持ちです。素材の扱い方を聞いたらポンポン返ってきますし、道具をすごく使う方達なので、お話をするのが楽しいです。キャンバスはどうやって織られるのか、膠はどうやって動物から取るのかなど、そういう会話も楽しくて、大学院では版画に行こうと思いました。

 

 

大学受験の時のお話を聞かせてください。

 

受験準備のためにはやはり予備校に行かなければと考え、一浪目は夏から冬まで予備校に通いました。二浪目は宅浪して、三浪目もまた夏から冬まで半期通って、お金は最小限で済ませました。
浪人の時に死ぬまでにやっておきたいことをリストアップしました。浪人中は時間が沢山あるので、アルバイトをして貯めたお金を作ってそれらをやっていこうと思いました。怖くて嫌悪感のあるゴキブリに触ってみるとか、屠殺場を見学してみるとか。屠殺場は結構偏見があって、そこには誹謗中傷のメールや手紙が届くそうです。でも普段みんな肉は食べているし、何がそんなに怖いのかと思いました。いろいろなことに時間を費やすことができたので、浪人したことに後悔はないし、それがあったので今があるかなと思います。大学に入ってからもそのようなことへの興味の流れで献体解剖の現場を見学させていただきました。実際に内臓を触ってみたり、脳みそを持ってみたりしました。恐怖感がありますが、実際に自分で触ってみて、なんてことなかったなという印象を受けました。

 

 

気分転換はどんなことをされるのですか?

 

僕は自然が好きで、たまに夜中の終電で高尾山に行って、考えごとをしながら登って下りて始発で帰ります。歩くことが好きなので、山手線の数駅分を歩いたりします。この前も新宿から日暮里まで歩きました。新宿中央公園の芝生も好きで、そこでたまに読書をします。家の中に籠もっていると気分も沈んでくるし、何もしなかった日の夕方はすごく怖い。一浪目の頃、バイトもせず、予備校も通わず、ずっと家にいました。その時は本当に鬱に近かったです。本当に何もしなかった日の夕方などは、今日も何もできなかったという罪悪感がたまらなく嫌で。それからは、ほとんど毎日外に出るようにしています。

 

卒展に来る人は私達アート・コミュニケータや美術が好きな人、藝大を受けたいという人など、さまざまです。その人たちにメッセージをお願いします。

 

来場される方に特に伝えたいことはありません。むしろそれを横で見ていたいという感じです。
藝大を受ける人、制作する人全般には遠出やドライブなどの「足の趣味」を持つことをおすすめします。絵だけ描いていたら絵が描けるわけじゃなく、絵を描いていない期間に得られた情報や体験がすごく制作に反映されるんじゃないかな。

 

 

インタビューを終えて

 

最初、当惑の中にいた私たちも、北村さんが語るユニークな考え方やこれまでの人生でのさまざまな体験の話が進むとともに、その内容にすっかり引き込まれていました。何が虚構で何が本質なのか、そんなことを改めて考えさせてくれる時間を北村さんと共有できたことに感謝したいと思います。

 

北村さんの絵画作品は、卒展では隠されていて見ることができません。北村さんの作品の一部をInstagramでご覧になって、隠されている作品を想像してください!

https://www.instagram.com/a_shun.18/

 

取材:添田安沙子、飯田倫子、塚越史香、岡浩一郎

執筆:岡浩一郎


 

これまで完成した作品しか見てこなかったので、「いままさに作っている」現場とその作品が出来上がるまでのプロセス、思考の流れに触れることができて、非常に良い経験でした。卒展で展示される作品を自分がどう見て、どう思うのか楽しみです。貴重なお時間ありがとうございました。(添田安沙子)

 

素材や道具といった具体的な「作る」ことと、キャプションや額装で与える「情報」。どちらに対してもとても真っ直ぐに向き合っている北村さんの考え方や制作者としての姿勢が新鮮で、とても楽しいインタビューでした。完成作品を見るのが楽しみです。 (飯田倫子)

 

作品を見ていると、無意識のうちに意味を見出だしたり、作者の意図を考えたりすることがあります。北村さんのお話を伺って、私も自然とそういう見方をしていたなとハッとさせられました。興味を持ったことはなんでもやってみる姿勢が印象的でした。完成した作品を見るのが楽しみです。(塚越史香)

 

これまで音楽関係のインタビューは何回か経験しましたが、美術関係のインタビューは初めてでした。再現芸術の担い手としての演奏家と常に創造を求められるアーティストの発想の違いを感じた刺激的な楽しい時間でした。 (岡浩一郎)

 

 

 

2024.01.27

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