
第1回鑑賞実践講座|「とびらプロジェクトで大切にしている鑑賞体験とは?」
日時|2025年6月30日(月)14:30〜17:00
会場|東京都美術館 アートスタディルーム、スタジオ
講師|熊谷 香寿美(東京都美術館 学芸員 アート・コミュニケーション係長 )
6月30日(月)、東京都美術館 アートスタディルームとスタジオを会場に、第1回鑑賞実践講座「とびらプロジェクトで大切にしている鑑賞体験とは?」を開催しました。講師は熊谷香寿美(東京都美術館学芸員 アート・コミュニケーション係長)さんです。

この講座は、さまざまな人が自分の感じ方を大切にしながら作品をよくみるためのコミュニケーションの場づくりができるようになること、そして作品を媒介にして、複数の人が共同的かつクリティカルに思考する場をデザインできるようになることを目標に、1年間を通して学びと実践を重ねていく鑑賞実践講座の初回にあたります。
講座の前半では、熊谷さんによる「みること」を掘り下げるレクチャーのあと、参加者が持ち寄った「手のひらサイズの見がいのあるもの」を使ったよく見て、その良さを伝えあう活動を行いました。3人組でそれぞれの持ち寄ったものをよく見て、感じたことや気づいたことを言葉にして共有します。
このワークでは、作品鑑賞に入る前段として、複数の人と一緒に実際のものを観察することの面白さや、感じ方の違いが思考を広げていくプロセスを体験的に理解することができます。
例年、鑑賞実践講座の初回では、2〜3年目のとびラーのファシリテーションによるVisual Thinking Strategies(ビジュアルシンキングストラテジーズ:複数の人で対話をしながら作品を鑑賞する手法。以下、VTS)を体験することが多くありましたが、今年度の第1回では、あえてVTSの実践は行いませんでした。
その代わりに、VTSの概要をレクチャーで紹介し、実際の鑑賞プログラムの映像を視聴しながら、ファシリテーターの役割や、鑑賞の場がどのようにデザインされているかを考える構成としました。
その背景には、今年度新しくとびらプロジェクトに参加している14期とびラーに、きこえない・きこえにくい方を4名迎えたことが理由としてあります。今年度の鑑賞実践講座には、その4名の中から、きこえにくい方1名が参加しています。これまでの実践を通して、参加者の聞こえの状態やコミュニケーションの特性によって、情報の伝わり方や、対話への入りやすさに差が生まれることをふまえ、初回ではまず鑑賞体験の全体像や、とびらプロジェクトが目指している鑑賞のあり方を共有することを重視しました。具体的な方法としては、レクチャーや映像で情報を伝える→小さなグループ(3人組)で、共有するという流れでいくつかのワークを進めていきました。
後半のグループワークでは、「VTSを使って、どんな鑑賞の場を実現したいか」をテーマに話し合いました。映像で見た実践や、これまでの自分自身の経験をもとに、鑑賞を方法ではなく場として捉え直す時間となりました。
この第1回は、ここから始まる鑑賞実践講座全体の土台となる回です。次回以降、VTSの実践や分析、事前準備、場づくり、作品選びへと進んでいくための共通認識を、参加したとびラー全体でつくることを目指した第1回目となりました。
(とびらプロジェクト コーディネータ 越川さくら)
2025.06.30