執筆者:藤牧功太郎
「とびら575句会ラボ」はとびラー同士が集まり俳句・川柳を詠むとびラボです。2022年の秋から4回句会を開催してきました。「美術館と俳句や川柳?」と思われるでしょう。その意外な関係をご紹介します。

オンラインを交えた句会の様子
「とびら575句会ラボ」はオンラインで参加できます。参加者は顔を出さずに、俳号(芭蕉や一茶のような俳句のペンネーム)で登場するので、参加者の正体は本人にしか分かりません。
コロナ渦で直接対面してとびラー活動をすることができなかったとき、何か作品をつくったり鑑賞したりする機会を生み出せないか、そしてとびラー同士のつながりを保ち続けたいという思いから、このラボは生まれました。
句会では、持ち寄った句の選評を語り合います。句を詠んだ当時の涙ぐましいエピソードを聞いて思わずもらい泣きしたり、ユーモラスな句や意外な解釈の選評にみんなで笑い合ったり、コロナ渦にあってもオンラインを駆使して心温まるときを共にすることができました。
575(俳句・川柳)と美術館の関係とは、なんでしょうか。
とびら575の句会に参加したメンバーから、日常のさまざま場面で情景や物事をよく観察するようになったという感想が聞かれました。自然と指を折り、575を数えていたりして、ささいなことへの感性が向くようになったと言うのです。ほかにも、メールの結びに一句付け加えたり、SNSの写真に一句を添えたりなど、ちょっとした心の贈り物を楽しむようになったそうです。
思慮深く言葉を選び精査し発信する、そのプロセスは、アートを創ることにも通じるのではないでしょうか。自分が感じたことを、限られた字数の小気味良いリズムにまとめ表現できた時は、痛快な心地よさが味わえます。
ものを観察したり考え感じたりしたことを言葉にする、その言葉を誰かに贈る、そして人からまた贈られる。この言葉の贈り合いは、美術鑑賞で人と対話するときにも、作品や人を思って言葉を紡ぐことに似ているのでしょう。
このとびラボの活動の流れは、まず東京都美術館や企画展、季節などにちなんだ兼題(俳句のテーマ)を用意します。事前に投句し、選句・選評され句会を迎えます。句会では投句作品と選評が披露されます。
たとえば、兼題「東京都美術館にて」では、
「灯る色宝石の如し夜時雨」(ともるいろほうせきのごとしよるしぐれ)
という作品が詠まれました。

作品で詠まれた情景
この作品に対する選評には、「雨に濡れて、より一層きらめく夜の公募棟の風景が浮かんできて、とても素敵な句だと感じました」とありました。公募棟の4つに分かれたカラフルな色が、エスプラナードの地面のタイルに照り映えます。これは、夜間開館の時だけ、さらに雨の夜だけ見られる特別な光景です。他にも、「ヤカンツアー*で体験したことがあるので共感しました。雨も素敵です!」、「雨に映り込む公募棟の色の鮮やかさや濡れた質感まで、句から感じられました」、「雨をマイナスに受け止めていない。かえって魅力を増した情景を感じられる句」と絶賛の声が聞かれました。作者の弾Deanさんは、「夜時雨」という季語に惹かれてこの句を発想したそうです。
*ヤカンツアーとは?
夜間開館日にライトアップされた東京都美術館の美しさや建築の魅力をともに味わう、とびラボ発のプログラム。参考:トビカン・ヤカン・カイカン・ツアー2023

選句の様子
句会は、句を楽しむだけでなく、グループの一つのコミュニケーションツールとしても楽しむことができます。それは美術鑑賞にも通じることでしょう。美術館の作品鑑賞も、複数人で対話しながら行うと、一人では気づくことができなかったモノの見方を知ることができたり、自らの意見を肯定される喜びを感じる機会になったり、新たな発見や感動が生まれます。自然の風景や日常の一コマ、そして美術作品に触れながら、自分の感じたことを575で表す活動を、皆さんもぜひ試してみてはいかがでしょうか。
執筆者:10期とびラー 藤牧功太郎
マシンガン・ホワイトボード・ライターを目指しています。Artを語るにも、言葉のセンスって大事だなと思います。句会や吟行は、人と人、人と作品、人と場所をつなげる、一生ものの、とても素敵なツールだと思います。
2023.08.19