この日は今年から始まる《ミュージアム・トリップ》で対象となるこどもたち(①養護施設のこどもたち、②貧困など経済的困難を抱えるこどもたち、③カルチャー・ギャップなどの困難を抱える海外にルーツのあるこどもたち)について、3名の専門家をお招きして、レクチャーをしていただきました。
講師:
1 渡辺由美子氏(NPO法人キッズドア)
http://www.kidsdoor.net/otona/mission/message.html
2 高取しづか氏(NPO法人JAMネットワーク代表)
http://www.takatori-shizuka.com/profile
3 小山紳一郎氏
https://www.meiji.ac.jp/ggjs/professor/koyama_shinichiro.html
http://www.clair.or.jp/tabunka/portal/column/col-koyama.html
今回のレクチャー、まず初めにNPO法人キッズドアの渡辺由美子さんからのお話を伺います。
キッズドアは生活保護や一人親家庭の支援をしている団体で、2007年に立ち上げ、今年でもう7期目になります。
大学時代に工業デザインを学んでいた渡辺さんですが、キッズドアの活動を初めるきっかけとなったのは、
旦那さんのお仕事の関係で1年間滞在したイギリスでの生活が大きな動機となっているそうです。
当時のブレア政権は教育に対して手厚く予算をつけていたこと、また、美術館などの文化施設は全て無料で、日本とイギリスの差に大きく衝撃を受けられたそうです。格差で言えば、格差で言えばイギリスの方が日本より格差が大きいが、子供にはその影響を感じさせない施作が取られているとのことです。
日本は親が教育にとてもお金がかかる国です。親の収入が少ないと、教育を受けづらい事実があります。
親の収入が低い→子供に十分な教育を受けさせられない→子供はやる気を無くしてしまう、という貧困の連鎖に繋がっています。これをもう少し広い視野で見ると、階層の固着化になっていると渡辺さんは指摘します。
日本の子供の貧困は見えづらいく、服装だけじゃ見分けられないということも仰っていました。
*日本の貧困率:16.3%→6人に1人。年間122万円以下で暮らす人。
こうした日本の子ども達の貧困化は非常に新しい出来事だと渡辺さんは仰います。
これまでは一億総中流社会だったから貧困の子供はいないと思われていて、リーマンショック以降、顕在化してきた。正社員だった人たちがホームレスになる、無保険の子ども達。
こうした社会背景を元に、2009年には厚労省が日本の子供の貧困率を出しました。新しい課題として認知され、なんの手立てを取ってこなかったことが明らかになりました。
もう一つの大きな特徴はひとり親家庭が多く、OECDの中でも一番だそうです。
ではなぜひとり親家庭の子供の貧困が高いのか?
日本は養育費の支払い率が低く、正社員だったが子供を産んだ女性の収入が低い、なかなか正社員になれないという状況があります。
Wワーク、トリプルワークをしている親が多く、その状態が続くと体を壊してしまう。
母子家庭で、親が働いていないのは、働けない状況です。
なぜ教育はうまくいっていないのでしょうか?
端的に言うと、国が教育にお金を支出していないからだそうです。
教育費を税金で賄っている部分が少なく、そのほかは私費から出ている。
このため親の経済力が教育に直結している構図が生まれてしまいます。
高度経済成長を終えた今の日本では、安定していて高収入の職種は、高学歴でないとなれない。
どんなに優秀な子でも、家にお金がなければ医者や弁護士になれない。
高い教育を得るにはお金が必要、お金を得るには高い教育が必要。
そのループから一度出てしまうと、なかなか上がれない構造があります。
なぜ低所得の子供の学力が低下してしまうのでしょうか?
生活環境が悪く。勉強部屋、机がない。
家で勉強していて、わからなくなればそこで止まってしまう状況があります。
こうした子ども達の状況に対して、キッズドアでは様々な取り組みを行っています。
「学習支援事業・ガクラボ」「低所得世帯の中学生向け無料高校受験支援」です。
これらの事業の成果として、子ども達が世界を知る機会になっていることが挙げられます。
コミュニケーション能力が低く、まともに話したことがあるのは親ぐらい、という子ども達にとっては、
将来の仕事感が備わりません。成人するまでに、仕事に対するやる気が芽生えていなければ、その後の就業につながらず、負のループに陥ってしまうと渡辺さんは仰います。こうした子ども達を生み出す構図は、日本の社会全
体にとっても大きな課題です。
他にも、子供を通じた家庭への支援(食品提供)や奨学金の情報提供など、
「教育支援が窓口となり生活支援他の貧困の世代間連鎖を断ち切る支援を繋げる」ための事業をキッズドアでは取り組まれています。またそれ以外にも、現在来てくれているボランテイア学生をどう支えていくか、ということも課題とのことでした。
続いて、NPO法人JAMネットワーク代表の高取さんから「児童養護施設に入所するこどもたち」の状況についてお話を伺います。
<話の進行>
(楽しいアクティビティ)
3 こどばキャンプの様子
1 ことばキャンプとは?
JAMネットワークが行う「ことばキャンプ」はゲームを通じたワークショップです。
アメリカのオーラルコミュニケーションがベースにあり、自分も相手も大切にしながら人と関わる7つの力を養います。2002年から活動を続けています。
アメリカではことばを使って伝え合うオーラルコミュニケーション教育が盛んです。
JAMネットワークの活動を始められる前に、米国ミシガン州へ視察をした時、に練習すれば上達し、
大人顔負けでプレゼン、理由も含めて意見を言えるようになっている事に感動を覚えたと高取さんは仰います。
JAMネットワークでは、これまで26冊著書を出されていて、活動に対してのオファーが全国からあるそうです。
これまでに約72施設に訪れたそうです。
2 社会的養護のこどもたち
◯社会的養護の子どもの現状
対象児童は、約46,000人(H25.3)
• 日本では施設に入る子どもたちが多い。
• 国としては里親の受入数を増やそうとしている
◯社会的養護 施設の現状
• 乳児院
• 児童養護施設
• 情緒障害児短期治療
• 児童自立支援支援
• 母子生活視線施設
• 自立援助ホーム
◯過去30年間における子どもの施設入所理由
• 近年は「親の虐待」が増えている
• 虐待によって精神のバランスを崩す
◯児童虐待相談件数の推移と障害児比率の推移
• 年々相談件数が増加
• 具体的な症状や課題
>衝動のコントロールが出来ない、年齢相応の生活習慣を獲得していない
◯過酷な環境を生き抜く仲で身に付いてしまったもの
• 虐待開扉型の非行
• 「解離」という精神の防衛機能
• 暴力・性的行動に対する高い親和性
児童養護施設の子どもたちは、一見素直でかわいい子どもたちです。
ただ、時として色々な問題が抱えています。成育歴の中で、気持ちを伝える言葉がけをしてもらった経験が乏しいと、心とは裏腹の行動をとってしまうことが多いと高取さんは話します。
◯児童養護施設で活動する際のポイント
1 個人情報の保護に十分注意する、施設名・子どもの名前は絶対出さない。SNSは厳禁。フルネームはあまり聞かない。
2 暴言や逸脱した行動があった場合は、常識の範囲内で大人として対応する。
3 不適切な質問をしない。家族、過去のことなど。
4 気になることはJAMネットワークのスタッフに何でも相談する。
5 施設職員、親御さんを尊重する、否定しない。
ことばキャンプの目的は、ドラえもんに出てくるしずかちゃんのコミュニケーションに例えられます。
じゃいあんは人に意見を押し付ける、のび太はドラえもんにしか意見を言えない。しかし、しずかちゃんは自分も相手も大切にしながら上手に伝えるコミュニケーション=「自尊他尊」の気持ちがあります。
続いて、児童養護施設で高取さん達が行なっている具体的な活動「ことばキャンプ」のワークを紹介していただきました。
◯ことばキャンプ
「どっちにす~る?」 (論理力のトレーニング)
「好きですか?嫌いですか?」(10人いたら意見が違うことを知る)
「ババチョップ」(応答力のトレーニング)
「聞くトレーニング」(聞くことを覚える)
最後は、明治大学の小山紳一郎さんより「多文化共生」についてのレクチャーです。
小山さんはこれまで、神奈川県立地球市民かながわプラザで、
1学校・NGO向けの国際理解教育講座
2外国人支援試策に関する調査研究
3外国人のこどもの教育に関する相談
を実践されてきました。
◯はじめに
まずは2年前に調査で訪れた韓国多文化家族支援センターのお話です。
・国際結婚した母子をサポートするセンター
・韓国内で現在、政策課題が深刻化してきている
・2010年1年間:10組に1組が国際結婚という統計データ
韓国では2008年に多文化家族支援法を制定。
この背景には、韓国内の外国人人口が増加傾向にあることがあります。
2006年53万人→2015年174万人(全人口で3.4%)この25年で非常に増えてきているそうです。
これに対して、日本はどうなのか比較してみます。
(在留外国人(短期滞在含む)のデータ)
・右肩上がりに増加。2015年:223万人(全人口で1.76%)
・日本の人口の推移 2012年:1億2773万人より減少していく一方
・外国人比率は上がっていく予想(厚労省データ)
これを受けて「選択する未来」委員会(内閣府作成)が発足され、
今後の人口減少・少子化に向けた検討会が開かれるようになりました。
都人口と外国人人口の推移としては、2年前から外国人の人口が再び上がってきていて、2020オリンピックに向けて定住外国人が増えていくのではないか予想されています。
また、中国、韓国・朝鮮、フィリピン・ベトナム・ネパール等、アジアからの移住者多いことが特徴として挙げられます。
日本での国際結婚の状況にも変化があります。
最新のデータでは、28組に1組が該当し、外国人女性と日本人男性のカップルが圧倒的に多いそうです。
公立学校に在籍している外国人児童生徒数は3万人まで増えてきており、日本語指導が必要になっていると、小山さんは仰います。
基本的なことを学び、ここで一旦グループワークに入ります。
◯グループワーク
・グループごとに自己紹介(アート以外で興味のある分野)
・外国にルーツを持つ子どもが学校で起こる課題を想像する
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・ジェスチャーが違う
・食文化の違い
・漢字テストで悪い、英語テストで良い>個人のせいではなくルーツのせいにされる
・クラスメイトと笑いのポイントが違う
・文化の違い、学習内容(歴史、道徳)に困る
・保護者の方にも日本語が読めない>学校からのお便りが読めない
(持ち物・宿題が持って来れない)
・進路相談で困る(親が日本の現状を知らない)
・言葉がわからない
・宗教に関する習慣(ラマダンのとき、どうしているのか)
・異性との関わり方
・宿題を家で教えてもらえない
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小山さんのまとめ
・日本語の壁(学習思考言語の習得)
・異文化適応
・いじめ
・友人ができない
・アイデンティティのゆらぎ(自分がベトナム人なのか、日本人なのか。思春期の悩み)
・高校進学率の低さ(学力遅滞)
・高校中退率の高さ(不十分なサポート)
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小山さんが仰るにはこどもだけでなく、親御さんの悩み(通知や連絡が理解しにくい等)もたくさんあるそうです。
外国にルーツを持つ子どもを取り巻く状況に対して、行政の取り組みについてへと話は続いていきます。
◯外国人児童生徒支援の現状
人員:日本語学級担当教員の増員→23区内11区。中学校には23区内5区。
予算:モデル事業に予算投じる
○都教育庁(教育委員会)の取り組み
・都立高校の外国人特別募集枠など
・教材作成、情報提供、相談
行政施策だけでは十分に対応できていないと、小山さんは仰います。
これらの対策例としては、第三セクター(件・市区国際交流委員会)による日本語教室が挙げられます。
例)多文化共生センター(荒川区)みんなのおうち(新宿区)レガートおおた(大田区)
IWC国際市民の会(品川区)、CCS(全域)
また、認定NPO法人多文化共生センターでは、以下の取り組みを行なっています。
・教育相談
・多言語による高校進学ガイダンス
・放課後学習支援
・親子日本語クラス
・実態調査
・講師派遣
ここで、新宿アートプロジェクトの海老原周子さんから、ご自身の活動についてご紹介いただきます。
新宿アートプロジェクトは7月より「一般社団法人kuriya」になります。
これまで15年間、多文化共生に関する活動を行い、外国ルーツを持つ子どもたちの人材育成を行なっています。
2009年〜2013年までは、新宿を中心に、アーティストを呼んで地域の子どもたちと、外国にルーツを持つ子どもたちをつなぐ「第3の居場所」としてのアートワークショップを年間30回開催してきました。
2014年からは、居場所を用意するのではなく、自分たちで作っていく人材育成事業を手がけられています。
「なんで、外国にルーツを持つ子ども達がミュージアムに来ないんだろう?」と考えたりすることで、新しいニーズにつながるのではないか、と海老原さんは仰います。社会問題ではなくポテンシャルである、と捉えていると良いそうです。
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この日は長時間に渡り、私たちの社会で様々な状況にある子どもたちのことについて学びました。
最後に行った質疑応答も活発で、個人の中で疑問が多くの残ったことはポジティブな結果だと言えます。
今年は「ミュージアムトリップ」の活動がこれから本格的に始まります。ここで得た知識や施設に伺う際の注意点を実践の場で役立たせて行こうと思います。
執筆:奥村圭二郎(東京藝術大学美術学部特任研究員)
2016.07.17