2017.10.29
7月から始まった実践講座もいよいよ後半戦。第6回目となるアクセス講座では、前回の舘野さんによるレクチャー「ワークショップデザイン入門:体験をを通して学びを深める場作りとは?」をさっそく活かした実践編です。前回のレクチャーで学んだワークショップの構造や設計のポイントを意識しながら、実際にワークショップを計画してみます。テーマは「上野公園内の文化財や文化資源を介してできること」。ミュージアムや上野公園を活用するとびラーの視点から、その体験を他者に伝えるためのワークを考えていきます。
講座の序盤に、まず伊藤さんによるレクチャー。前回の舘野さんの講座を振り返り、実際にワークショップを組み立てるポイントをおさえます。
「遊び」と「ずらし」を学びではさむ、目的はワークショップのなかで繰り返し伝える、1人で考える時間とグループで話す時間はコントロールする、など、常にワークショップの全体像と目的を意識してすすめていくのがポイントです。
今日のワークでは、ランダムな5〜6人のグループで、テーマに添ったワークショップを考えていきます。できた企画はワールドカフェ形式で他のグループのメンバーに紹介し、課題点などを指摘し合います。後半ではその指摘をもとに修正し、最後は1枚のポスターにまとめます。
考えていくためのツールは、ワークショップの内容を具体的に伝えるための「企画書」のベースになるものです。今回は5つのトピックにつき1枚ずつワークシートがあり、設計のポイントとなる問いが記載されています。
話し合う時間は1時間ほど。各グループで話し合い、最近気になっていることや楽しそうだと思う活動など、それぞれの経験からアイデアを持ち寄ります。話し合いの段階として「共有→拡散→混沌→収束」というプロセスがある…と基礎講座にて青木さんが仰っていましたが(参考:基礎講座番外編「GoodMeeting」)、よいミーティングの時間をもつことができたでしょうか?
やってみたい企画にわくわくしたり、アイデアに行き詰まったりしながら、あっという間の1時間が終了。次は、ワールドカフェ形式で他グループと意見交換します。
各グループのうち1人(ホスト役)が机に残り、他のメンバーは他のグループの内容を聞きに行きます。ホスト役は自分たちのグループのプレゼンテーションをしてワークの内容を伝え、聞きに来た人は内容に関する意見を付箋に記します。この企画の「いいね!」と思った点、「なぜ?」このような設計になっているのか疑問に思った点、「こうしたら?」もっとよくなるのでは…という視点を基軸に、三色の付箋にコメントを書きます。
まだまだ足りないところ、改善の余地があるところ、ここは活かさないともったいない!というところ。客観的な視点が入ることで、より様々な意見を得ることができ、企画のブラッシュアップ(精査)につながります。ホスト役は「自分がこの企画の面白さを伝えなければ」と考え、また他グループの内容を聞く人も、同じフォーマットを持った上で違う方法や内容が積み上がる過程の違いに気づくことができたのではないでしょうか。
さて、ここからが企画の大詰め。それぞれ自分のグループに戻って、もらったコメントをもとに計画を修正していきます。この練り直しが今日のワークで一番重要なところでもあります。
他人に伝えるためには、より意味のある体験をしてもらうには、どのような工夫が必要か?ラストスパートに向けて、全員で身を乗り出して考えます!
そして今日のまとめとして、ワークショップの内容を伝えるポスターを、A3用紙1枚にまとめます。
最後に、今日制作した企画書とともにテーブルに並べてポスターセッション。
自由に移動したり話したりしながら、各グループのコンセプトやワークの内容、修正されたところを学び合います。また、オレンジ色の付箋に感想を書いて残しました。
みなさん一つ一つのグループが作成した資料を、じっくり読み込んでいました。なかには今すぐやってみたい!というアイデアも。
とびらプロジェクトにかぎらず、学校や仕事などの日常生活でも、チームを組んで課題に取り組み、さまざまな話し合いを経て物事をすすめていくのは非常に重要な局面ですね。今日のワークもまたトライ&エラーのひとつであり、ワークショップの計画を実践することで、実際に発見できた課題もたくさんあるでしょう。まだ見ぬ人に自分たちで考えた企画を開くとき、そのヒントや工夫を、身をもって学ぶ講座となりました。
(とびらプロジェクト アシスタント 峰岸優香)
2017.10.29
今回のアクセス講座では、立教大学の舘野泰一さんをお迎えして、ワークショップメイキングにおける基本的な構造や方法、伝え方に関するレクチャーをしていただきました。
舘野さんの講座は昨年に続いて2回目。昨年のレクチャーで舘野さんからご教授いただいたワークショップの手立ては、とびラーによる「とびラボ」などのプログラムを組み立てる際に、重要な基盤を担ってきました。今回は昨年の内容を踏まえて、より実践的な課題にフォーカスしていきます。
【午前】
まずは舘野さんの自己紹介から講座がスタート。舘野さんの専門分野は大学での教育や、企業のなかの教育の在り方についてです。単なる情報や知識の伝達に限らず、どうしても体験を経た学習が必要なときに、有効な方法のひとつが「ワークショップ」。インタラクティブに学ぶことの意味や、そのために必要な設計の工夫について研究されています。
本日の講座の目的は、大きく2つ。まず、「ワークショップデザインの基礎を学ぶ」こと。ワークショップの基本構造や考え方、そして実際に設計するプロセスについて学びます。次に、「ワークショップの伝え方」。実際に企画を実施するにあたって、他者に自分たちのワークショップを伝える意味と方法を考えて行きます。
■導入のワーク【4項目で自己紹介】、『遊び』と『学び』のブレンド
まずはA4用紙を4つに折り、以下の項目を書き込みます。
・名前と普段の活動
・今日どんなことを学んでみたいか
・『遊ぶ』という言葉からどんな言葉を連想しますか?
・『学ぶ』という言葉からどんなことを連想しますか?
4つの観点から、まずは自分の関心について語り、今日のワークをともに進めるグループで共有します。
後半2つの質問がワークショップに必要な要素、つまり設計のポイントとなるキーワード。たとえば参加していたとびラーからは、『遊ぶ』・・・「非日常」「楽しい」「面白い」「知る」「没入する」「やりたくなる」、『学ぶ』・・・「知る」「ためになる」「自分の殻を破る」「生きる力になる」などの言葉がでてきました。考えていくと、その間に重なったりつながったりする部分があることにも気づきます。『遊び』と『学び』の要素を上手に統合する工夫が、ワークショップの醍醐味であるともいえます。
考案したワークショップには「楽しさ」があるか?自分でもやってみたくなるか?参加した人はその体験の後どのように変化するか?ねらいを引き起こす設計をし、チームで共有しているか?・・・といったように、『遊び』と『学び』の視点に立ち返りながら問い続けていくことがデザインのチェックポイントになっていきます。また、自分が偏りがちな思考を知っておいたり、チームを編成するメンバーの考え方、バランスを事前に知ることもキーポイントとなります。
■ワークショップの基本構造とは?
今日の講座にのぞむにあたり、とびラーには事前に2つの課題が出ていました。課題の1つ目は、舘野さんの著書「アクティブ・トランジション」のなかで紹介されているワークショップのうち一つから、内容を読み込んで他者に伝えること。
ワークショップの基本構造を自ら読み解き、分析して考えるための課題です。既にある内容を自分のなかに落とし込み、他者に伝えるワークを通して理解を深めていきます。
次に、紹介しあった3つのワークショップについて、基本構造や流れの共通点を発見しながら、それぞれのワークを横断的にみていきます。設計の際に気をつけるべきポイントを模造紙にまとめ、ワークショップを組み立てる際の統合的な視点について、グループごとに整理しました。
一連のワークを通して頭を使ったあとで、舘野さんからのミニレクチャー。新しい物事にアプローチする際、自分で「考える」→レクチャーを「聞く」という流れによって、より深い理解や知識の定着が得られます。
人の思考とは、白紙のように無意志なものではなく、素朴な気づきや、それまでの経験によって構成されているもの。学ぼうとする知識と、すでに持っている考えを関係づけることから、学びの体得へとつながります。さらに、自分の考えたことを他者に教え伝えるような、双方向性のある状況は学習者に「考える」ことを促します。
■ワークショップの設計
舘野さんが考案したワークショップには共通する5つのステップがあります。
ここでは舘野さんからそれぞれのステップにおいて大切なことを解説していただきました。『遊び』と「ずらし」による楽しいメインワークを、活動の目的や意味である『学び』でサンドイッチするのがポイント。参加した人が、体験を価値づけられるような設計意図が大切なんですね。
また、ワークショップの進行役にとって重要なのは『OARR(オール)を握る』こと。
活動の内容と目的を結びつけ、さらには日常生活に活かせるような態度をめざすことが、ワークショップを企画・運営するにあたって非常に重要なポイントとなります。体験したことを振り返り、その具体的な経験や反省的観察から、普段の生活でも使えるような知識の体得につなげていきます。
【午後】
■実際にワークショップの体験と、進行のポイント
まず、舘野さんの考案したワークショップ「カード de トーク いるかもこんな社会人?」を、グループごとに実際に体験してみます。
様々な社会人のキャラクターが描かれたカードは11枚。
一緒に働きたい人は?あるいは、この人と仕事するのはちょっと…なんて人は?まずは1人で考える時間をもったあとに、他人の意見と比較して、違いや共通点を発見します。
一通りカードゲームを体験した後に、舘野さんからワークショップの構造について解説。このワークでは、普段は抽象化して話す機会をなかなか持つことがない、「仕事観」を語る設計がなされています。また、ファシリテーションで重要となるのが、話し合いを設計するときの「1人で考える時間」と「グループで話し合う時間」のタイムマネジメント。個人の考えを明確にし、それぞれの立場をもって比較することはディスカッション・ワークの肝でもあります。また、1人で考える時間をしっかりもつことで、自分なりの学びを作る時間にもなるのです。そして、進行のなかで常に、参加者に目的を伝え続けること。なんども企画の意図をリマインドすることで、持ち帰ってもらいたいメッセージや、知識・態度が参加者のなかに形成されていきます。
■課題の共有
午後は、2つ目の事前課題を使ったワーク。課題のテーマは「あなたがもしワークショップをデザインするとしたら、どのようなものを作りたいと思いますか?」今日学んだことを活かし、それぞれのプランがどう発展できるか?一人ひとりが持ち寄ったアイデアについてプレゼンし、グループごとに検討します。
誰にどんな学びを得て欲しいのか。学習者に「考え方」「ものの見方」を変えるきっかけを提供するには、どんな工夫が必要か。ワークショップで伝えるのは「聞けばわかる」情報ではありません。「体験を通さなければ得られない」「モノの見方の変化」「多様な人との出会い(越境)」など、態度や価値観の問題を扱うことができるのです。
ここで有効なのが「似た構造」の体験をすること、そして「対話に仕掛け」を取り入れること。短い時間で体験できる楽しい活動と、体験してもらいたい学びが、関連づけれらるようなメインワークを考えてみる。あるいは、抽象的な思考や、今まで考えたことのなかったトピックを表現しやすくするために、カードなどのツールで導入を工夫したり。自然と多様性がでてくるような演出を設計するのが重要です。
ここで、午前中にとびラーが紹介しあった3つのワークショップについて、舘野さんから設計のポイントに関する解説。大学生に知ってもらいたい社会人や仕事の状況と、ワークショップのなかでの具体的な活動が、どう結びついていたかについて紐解いてもらいました。
ここでもう一度、ワークショップの基本構造について気づいたことを話し合いつつ、持ってきた課題のワークショップについて、再度検討してみます。何人かのとびラーに発表もしてもらいました。
■まとめ
講座の終盤には、今日のレクチャーの振り返りとまとめ、さらに補足のポイントや、実際にワークショップを実施するときにぶつかる課題などについてお話していただきました。
ワークショップのポイントは、メインワークをアイスブレイクと振り返りで挟むこと。そして学びのプロセスを楽しめる仕掛けを随所に散りばめておくことです。そして、場を進行していくファシリテーターには、参加者が十分な遊びと学びを体験するために、以下のポイントが重要です。
ワークショップを作る際は、とにかく実験してみること。最初から完璧を目指すのではなく、気づいた点を随時バージョンアップさせていく。そのために、プレ実践時の様子は記録撮影しておくと良いとのことでした。
また、ワークショップを「伝える」ことも実施にあたっては重要な課題です。企画書の書き方や広報の手段、受け入れ団体にとってのメリットを考慮して設計する等、学校の授業や講義とは異なる特性を理解してすすめることが、実現に近づく鍵となります。
最後に舘野さんから「学びの場づくりをしようと思うと、日常の過ごし方がちょっと変わります」という言葉がありました。つい夢中になって『遊んで』しまうもの、深く『学べた』と思う瞬間、そこにはどんな体験の構造があるのでしょうか。『遊び』も『学び』も、受動的な態度に収まることなく、心から楽しい・知りたいと思うと、自然とのめりこんでしまうものですよね。そんな我を忘れてしまうような豊かな体験を、学習理論の構築とともに学べる講座だったかと思います。レクチャーの最後、舘野さんが「よき学習者であってください」という言葉で締めくくられたように、よく遊び、よく学ぶ姿勢が、これからのアート・コミュニケータの活動にいかされていくことでしょう。
(とびらプロジェクト アシスタント 峰岸優香)
2017.10.24
2017年10月21日、「ミュージアム・トリップ」が行われました。
「ミュージアム・トリップ」とは、さまざまな状況にあるこどもたちをミュージアムへ招待するインクルーシヴ・プログラム。経済的に困難な家庭のこどもの支援団体や、児童養護施設、都内にある児童養護施設など、各専門機関と連携して実施しています。今回は海外にルーツをもちカルチャー・ギャップなどの困難を抱えるこどもを支援する、NPO法人音まち計画と連携し、当日は中国やフィリピンにルーツをもつこどもを含む8名を、アート・コミュニケータ(とびラー)6名が迎えました。
プログラムの様子はこちら→
(「Museum Start あいうえの」ブログに移動します。)
2017.10.14
夏につづき、今年度二回目となる「あいうえのスペシャル(旧ホームカミングデイ)」が、10月8日(日)に開催されました。「あいうえのスペシャル」は、これまでの「あいうえの」のプログラムに参加し、ミュージアム・デビューを果たしたこどもたちとそのファミリーが、ふたたび上野での冒険を楽しむ特別な一日です。
この日、みんなの冒険の拠点として解放された東京都美術館のアートスタディルームとスタジオには、ミュージアムでの冒険を応援するさまざまなコーナーが用意され、115名のこどもと大人が活動を楽しみました。
プログラムの様子はこちら→
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2017.10.06
7月から10月にかけて開催された「ボストン美術館の至宝展 – 東西の名品、珠玉のコレクション」にて、「とびからポストん!Tokyo⇄Boston」を実施しました。
このワークショップは、普段はあまり美術館に足を運ばない大学生を対象に、展覧会を通したとびラーとの鑑賞体験や、ボストンに住む学生との交流を通じて、より作品鑑賞を多様に楽しんでもらうことを目的とした企画です。ボストンに留学経験のある大学生とびラーを中心に企画し、実施に至りました。
参加した4名の大学生からは、「美術の知識がなくても楽しめた」「ひとつの作品をじっくり鑑賞したり、いろんな見方をすることができた」などのうれしい声を頂きました。
ここでは開催した当日の様子を報告します。
10月6日(金)、小雨が降っており、すこし肌寒い日でした。金曜日の夜間開館の時間を利用し、展覧会をゆったりと楽しめる夕方に会場へと向かいます。まずはロビーで、とびラーが参加する大学生をお出迎えします。
到着した学生はASR(アートスタディールーム、とびラーの活動拠点)に移動し、到着を心待ちにしていたとびラーたちと「はじめまして」のご挨拶。今回はとびラーの知人から参加者を募り、異なる大学から4名の学生に参加して頂きました。全員が集合したところでいよいよ開始。
とびラーの挨拶から始まり、「とびからポストん!」の目的や今日の流れの説明。そして今回の展覧会出展作品が所蔵されている「ボストン美術館」の紹介動画を見ます。
日本の美術館と比べると、建物の大きさも、展示室の広さも、天井の高さも全く異なります。ボストン美術館の広大さを感じて、学生もとびラーも驚きをかくせません。作品たちは、ここから遥々東京にやってきてくれたのですね。
今回はAとBの2グループに分かれて活動します。各グループの構成は大学生2名ととびラー3名。まずはグループごとに軽く自己紹介をし、オリジナルの「ポストんカードゲーム」で交流を深めます。
各グループの机には、トークテーマカードと「ボストン美術館の至宝展」出品作品が印刷されたアートカードがあります。トークテーマカードには簡単なお題が書いてあり、それに合う作品を、アートカードのなかから自分なりに選んで発表し合うというゲームです。
「友達に似ている作品は?」という問いに対して涅槃図を選び、「古着が好きな友達なので、こういう細かい刺繍のほどこされたロングスカートを着ていそう。」と語ってくれる人も。カードゲームを通して、少しづつお互いのことを知ることができました。
ゲームで盛り上がりつつも、そろそろ展示室へ移動する準備に取り掛かります。学生は机上にある6枚のアートカードの中から、展示室でじっくり見たい作品をひとつ選びます。学生それぞれが、版画や絵画作品から1点を選んだところで、いよいよグループごとに展示室へ移動。
まずはグループ全員で、事前にとびラーが選んでいたおすすめの作品をひとつ鑑賞します。
Aグループは日本美術の中から水墨画を、Bグループはフランス美術の中から油画の作品を鑑賞。各自で作品を好きな位置からじっくりと見て、どのように見えたかを共有し合います。参加学生たちは、色使いや輪郭のぼやけ方について技法を考察したり、作品に描かれている人の目線の先には何があるのか、どんな気持ちなのかなど、絵の中のストーリーを想像したり、様々なところに着目して鑑賞していました。次に、学生ととびラーで2人組になり、先ほどASRで選んだ作品をじっくりと鑑賞します。「近くで見ると何が描かれているか分かりにくい作品は、5mくらい離れて見るとよくわかる」という発見があったり、「この絵は自分をどのような気持ちにさせてくれるのか」をとびラーと語り合ったり、学生ひとりひとりが自分のペースで作品と向き合います。
ASRに戻り、ひと休み。お茶とお菓子を味わいながら、展示室でのそれぞれの体験を共有します。
そしていよいよ、ボストンの学生との交流にうつります。まずはボストンの学生が送ってくれたメッセージビデオを鑑賞。ボストン美術館にある作品の中から、お気に入りの1点を選び、ポストカードを使いながら紹介してくれています。
映像の後には、ボストンの学生から実際に届いたポストカードが登場。映像の中で紹介していた作品の裏に、自己紹介やその作品を好きな理由について書いてもらっています。思いのこもったポストカードを、参加学生たちも真剣に読みます。
さて次は、私たちがボストンの学生に向けてポストカードを届ける番です!先ほど鑑賞した作品から好きな作品を1つ選び、そのポストカードにメッセージを書きます。
どのように言葉にしようか悩みつつ、作品への思いを英語で綴りました。
そしてボストンの学生と同様、ポストカードを持ってビデオメッセージを撮影。緊張しつつも、自分がこの作品をどのように見たのか、作品についてどう思ったのかなどを、素直に言葉にしてくれていました。
参加学生が書いたポストカードと撮影したビデオメッセージは、後日ボストンの学生たちに宛てて送られました。とびラー企画としては初の、海外交流を交えたワークショップでした。参加学生が今後も自分な発想で、作品鑑賞を楽しんでもらえると嬉しいです。また展覧会で日本に来ている作品たちがボストン美術館に戻ったとき、ボストンの学生たちが私たちからのメッセージを思い出しながら、その作品を鑑賞してくれることを願います。参加してくれた学生のみなさん、そしてご協力頂いたボストンの学生のみなさん、ありがとうございました!
執筆:宮﨑有里(アート・コミュニケータ「とびラー」)
駅伝の強い大学に通う運動不足の学生、通称ゆりえる。好きな画家はルネ・マグリット。アートプロジェクト等を勉強中です!
2017.09.26
9月11日と25日に学校向けプログラム「スペシャル・マンデー・コース」が行われました。
2日間にわたって参加してくれたのは、足立区や江東区の小学校1年生から5・6年生のみなさん、聾話学校の中学生のみなさんに、手話を使う学校の年長さんから小学6年生まで、総勢282名のこどもたちが来館しました。
「スペシャル・マンデー・コース」とは、休室日(月曜日)に学校のために特別に開室し、ゆったりとした環境の中でこどもたちが本物の作品と出会い、アート・コミュニケータと共に対話をしながら鑑賞するプログラムです。
それぞれ、どのような時間を過ごしたのでしょうか。
9/11のプログラムの様子はこちら→
9/25のプログラムの様子はこちら→
(「Museum Start あいうえの」ブログに移動します。)
2017.09.24
「ボストン美術館の至宝展」の会期中である2017年9月24日(日)、「ボストン美術館展で世界の作品を集めよう!トレジャーコレクティング」を午前の部と午後の部、2回実施しました。
このプログラムは、とびラーによるオリジナルゲームをしながら世界中の作品を集め、美術館開館を目指すという内容です。世界中の作品をコレクションしているボストン美術館の百科事典的な魅力、参加者同士の好きな作品を共有することによって、人それぞれの視点の違いに気づいて頂くことを目的としました。ゲームを行うことによって、身近になった作品を、改めて展示室で見る面白さに気づくだけではなく、作品についてはもちろんのこと、美術館やコレクションへの興味を深めて頂きたいという思いから、企画しました。
ゲームは、「ボストン美術館の至宝展」に展示されている作品を使ったとびラーによるオリジナルゲームです。参加者が2チームにわかれ、アートカードを使って好きな作品について話をした後、オリジナルゲームで世界の作品を集めて自分たちだけの美術館の設立を目指します。
総合司会のとびラーから、本日の説明が行われます。
2017.09.17
「人と人を考える」をテーマに、多様な人々が芸術につながれる「回路」をデザインしていくこの講座、2017年度の「アクセス実践講座」もいよいよ3回目となりました。今回のキーワードは「身体と障害」。講座前半には、東京大学先端科学技術研究センター准教授 熊谷晋一郎さんのレクチャー(昨年度のアクセス講座)をVTRで視聴し、後半には、視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップより林建太さん・木下路徳さんを迎え、美術鑑賞と障害について考えていきました。
【前半】
「当事者研究:障害者と文化的活動」熊谷晋一郎(東京大学先端科学技術研究センター准教授)
(*写真は昨年度の様子)
車いすにのった男の子が階段の前で立ち止まっています。障害はどこに宿っているように考えられるでしょうか? 優等生は階段を指さします。街に段差があることが障害だ。車いすを指さす人もいます。段差を超えられる機能がないのがいけない。あるいは、もしかすると、まわりに手助けしてくれる人がいない環境が悪いのかもしれない。熊谷さんによれば、これらすべてが正解です。障害が人々を取り巻く社会の側に宿っているとするこのような立場は、専門用語では「社会モデル」と呼ばれるそうですが、もちろん視点をずらせば違った考え方もできます。近頃は発言すると「悪者」になりかねない「男の子の足に障害があるからいけない!」という考え方がそれ。障害が当事者の身体の側に宿っているとする立場「医学モデル」です。「近頃は」と記しましたが、社会モデルが台頭するようになったのは最近の話であり、少し前の時代までは、医学モデルが当たり前だったとのこと。例えば、熊谷さんが生まれつきもっている脳性麻も1970年代頃までは治療・リハビリ次第で治るものだと考えられており、健常者に近づくべく障害者に努力が求められていたこのことからも、医学モデルの優位が窺えます。障害の所在に対する人々の考え方が大きく変化したのが1980年代。その背景には「自立」に対する考え方の変化、「自立生活運動」がありました。
「自立」というのはどういう意味でしょうか? 難しい言葉ではあるものの、反対語は比較的容易に浮かびそうです。子どもたちに聞くと真っ先に返ってくるというのが「依存」。納得の行きそうな言葉ではあるものの、熊谷さんはこの「自立生活運動」においては特に、「自立」の反対語に「依存」を置くことを強く否定しています。熊谷さんは東日本大震災時、建物の5階から避難するにあたって、自分が依存できる逃げ道が作動しなくなったエレベーターに限れていることに気づき、助からない可能性に頭が真っ白になったと言います。梯子や階段、ロープ等、健常者には複数見つけられる依存先が、障害者である自分には限られている。健常者は複数の依存先を有しているために、それぞれへの依存度は低くなるものの、障害者はその逆。数限られた依存先へ依存の度合いも集中します。複数の逃げ道に向かって細く伸びる数多くの矢印と、エレベーターに向かって太く伸びるただ一つの矢印、この差を埋めること、すなわち「細いベクトルを数多く」持てるようになることこそが「自立」なのではないか。地震体験を通して「依存」と「自立」の逆説的な関係性を実感したそうです。
(*写真は昨年度の様子)
依存先を複数有しておく必要性は、何も災害時の逃げ道に限ったことではありません。日常的な生活環境、対人関係についても同様のことが言えます。熊谷さんによれば、「自立生活運動」が支持されるようになる1980年代まで、障害者が頼れる相手は、実家の年老いた両親か人里離れた施設の職員に限られていたとのこと。昼食に何を食べるか、いつ食べるか、日常的な行為のすべても介助者の顔色を伺いながらであり、障害者本人の主体性が軽視されていたことも指摘します。もちろん顔を合わせる人間の少なさは、「細いベクトルを数多く」持つこととは相容れません。介助者に対する障害者の依存度の拡大は、必然的に代替の効かない関係性を作り出し、逃げ場のない環境は暴力発生のリスクを高めます。障害者の自立支援において大切なのは、対人においても彼らの「依存先」の複数化に努めること。介助においては一対一の関係を避け、常にチームでアプローチすることの重要性を熊谷さんは強調します。
チームでのアプローチは、美術館でのプロジェクトの実施にも結びつきます。熊谷さんは、美術館に来場された障害者の方への対応を例に挙げますが、同様の考え方は、何も障害の有無に限ることなく、すべての人に共通しうるようには言えないでしょうか。美術館の来場者に向けて、多人数でアプローチすることにより、できる限り数多くの「依存先」を提供すること。「多様性」を「多様性」で迎えることは、人々の芸術への回路を検討する上での大きなヒントになるようにも考えられます。今回とびラーたちが視聴したVTRは、昨年度のアクセス実践講座にて、熊谷さんが講演された際のものです。その時の様子がこちら。レクチャーの詳しい内容をあわせてご覧ください。
【後半】
「視覚障害者とつくる鑑賞プログラム」林建太・木下路徳(視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ)
2012年の発足以来、北は宮城県から南は沖縄県まで、全国の美術館や学校にて百回を超えるワークショップを行っている団体「視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ」。彼らは団体名にあるように「障害者」との「美術鑑賞」を実践していますが、重要視していることとして「障害者」と「美術鑑賞」を結びつける「とつくる」の部分を掲げています。これはどういうことなのでしょうか?
同団体が美術館等と連携しながら毎月数回ずつ開催しているワークショップは、進行の都合上、定員に縛りは設けるものの、「見えている人」「見えていない人」の別は問わず、誰もが参加できるようにしています。ワークショップの内容は、参加者全員で作品を鑑賞し、対話を深めるというシンプルなもの。ひとつの作品に30分程度の時間をかけじっくりと向き合いますが、ここでも「見えている人」「見えていない人」の別は問われません。これを可能にしているのが、「見えることと見えないことを言葉にしてください」というファシリテーターの言葉。色や形といった「見えること」、印象や思い出といった「見えないこと」、双方について自由に意見を交わすことが、実際に作品が目に映っているかを問わず、全員が同じように参加可能なプログラムを成り立たせていると言います。
「視覚障害者とつくる美術鑑賞ワークショップ」について、プロジェクト発足の直接のきっかけは2007年にまで遡れるとのこと。視覚障害者である友人の美術館訪問に、林さんが作品説明のサポート役として同行したことが契機となったと話します。しかしながら、これが大変難しく、早々に挫折することになったそう。目に映った美術作品を客観的に説明することなんて出来ないのではないか。客観的とはそもそもなんだ? そこで開き直って今度は主観的に、作品に対する意見を言ってみたところ、それは説明になってはいないものの、自分と友人との間でなにかが共有されたことを実感できた。説明役である「サポートする側」と説明を受ける「サポートされる側」の壁を取り去ることで、「見えること」への責任を負うことなしに相互に影響し合える。林さんは一方通行ではない「相互のやりとり」が持つ可能性を強調します。
それでは参加者たちは具体的に、どんなことを共有されるのでしょうか。林さんは東京都現代美術館での事例を話しました。ある時、舟越桂の彫刻作品を前にした二つの感想、「寂しそうな感じ」と「安心している感じ」に、見えていない人は戸惑ったそうです。視覚障害を持つファシリテーターの「どうしてそう思ったの?」の問いかけに、前者は他作品からの距離感に、後者は作品にあたる陽光に、寂しさと安心感の原因をいわば「後づけ」で求めましたが、ここから分かるのは、見えている人同士では「どうして」が省略されることが多いということ。目の見えている者同士であっても、作品の映り方や感じられ方はそれぞれ異なる。言葉の介在によって見えていなかったものが立ち現れる瞬間がある。「見る」ことを取り巻く差異を実感するなかで面白さが共有されたことを指摘しました。
対する木下さんは、見えていない人の立場から面白さを話します。例えば「かっこいい」という作品の形容ひとつを考えても、「かっこよさ」の原因は多数見つけられる。そういった多数の情報を自分の経験に紐づけた結果、頭の中にイメージが浮かび上がるわけで、他者の言葉と自分の記憶が結びついて完成する作品像の魅力と、そこから得られる達成感を木下さんは強調します。加えて、浮かび上がったそのイメージをもとに、見えている人と同じ話を共有できるという楽しさや喜びについても指摘。確かに見えている人と全く同じ経験はできないけれど、他者の目を介して経験を得ることはできる。見えている人の作品に向かう姿勢を俯瞰することによって、「見る」という経験を知ることができる。東京都写真美術館にて鑑賞した佐内正史の作品を例に挙げて話します。
自分たちもワークショップを企画する立場にあるとびラーたちにとってとりわけ気になるのが「主催者側」の視点です。プロジェクトを展開させる際に、多様性を広く受け入れるための特別な工夫はあるのでしょうか。林さんが一例として取り挙げたのが、サポートにいらっしゃった介助者にも一参加者として発言を促すということ。講座前半の話と結びつけるならば、作品に関する情報の発信主の複数化、すなわち「依存先の複数化」を目指すチームでのアプローチがここでも採用されているわけです。林さんの言葉を借りるならば、説明が細かくなりすぎて止まらない「説明ループ現象」、無言が続く「誰も何も言えなくなっちゃう現象」、面白い発言を求めて作品からどんどん離れてしまう「大喜利現象」等、ワークショップを数重ねれば重ねるだけ、解決すべき多様な課題も見つかるそうですが、なによりも大切なのは、「見る」という多様な経験を互い考え互いに共有すべく常に立ち返るということ。一人ではなく複数の人間が、互いにコミュニケーションを取り合うという意味で、障害者と美術鑑賞をつなぐ「とつくる」の部分の重要性を、林さんと木下さんは指摘しています。
(東京都美術館・インターン 角田かるあ)
2017.09.14
9月3日(日)に、あいうえのファミリー向けプログラム「うえの!ふしぎ発見 アート&アニマル部」が実施され、小中学生とその保護者計36名と、アート・コミュニケータ(とびラー)19名が、恩賜上野動物園と東京都美術館を舞台に活動をしました。
「うえの!ふしぎ発見」は、上野公園の文化施設が有機的に連動し、アートからサイエンスまで、バラエティ豊かなテーマにそってミュージアムをめぐり、モノを丁寧に観察・鑑賞するプログラムです。
そんな「うえの!ふしぎ発見」シリーズの第2弾となる、「アート&アニマル部」では、恩賜上野動物園の鳥の羽の色を「観察」、東京都美術館の作品の色を「鑑賞」し、色をめぐるワークショップを行いました。
プログラムの様子はこちら→
(「Museum Start あいうえの」ブログに移動します。)
2017.09.09
東京藝術大学にて開催された「藝祭2017」。その中日にあたる9月9日(土)、とびラーによる「藝祭さんぽ」を開催しました。
とびラーと来場者で藝祭を巡り、作品や作者に親しむ「藝祭さんぽ」。さんぽのような気軽な感覚で、ゆったり楽しく会場をめぐり、人や作品との出逢いを楽しむ1時間です。
今年はテーマ別に6つのコースをご用意し、各チームのとびラーがおすすめの場所をツアー形式でめぐります。それぞれ異なった視点から藝祭の魅力に触れる、バラエティに富んださんぽとなりました!
6コースのタイトルはこちら。
ここから各チームの様子を、少しずつ紹介します。
◉A.はじっこすみっこ先端ツアー
とびラーに加えて、先端芸術表現科の在学生・ロウ ジェリンさんがナビゲーターとして登場。
「先端ツアー」と称して、さまざまな表現方法の作品をみていきます。途中でロウさんの作品や活動を紹介する時間もありました。
◉B.食べ歩き!食い倒れ?ツアー
藝祭は展示や公演だけでなく、模擬店もとってもハイクオリティ!
まるで吉祥寺にあるカフェのようなおしゃれな屋台、
アイルランドのビールと音楽の生演奏が楽しめる即席アイリッシュパブ、
ゲルの中で前衛的な音楽パフォーマンスが行われるライブハウス・・・
今年も個性豊かな模擬店がたくさん立ち並びました。
このコースではその魅力と裏側に迫ります。
参加者のみなさんは好きなものを選んで買うだけでなく、
メニューの考案や屋台のデザインといった開店に至るまでの準備、
模擬店メンバーの普段の学生生活についてなど、
藝大生たちのお話に興味深く聞き入っていました。
◉C.ゆったり、まったり、のんびりツアー
一つひとつの作品をじっくり見つめるコースです。
彫刻作品を色々な角度から味わい、制作した藝大生にそのお話をうかがいました。
◉D.藝祭わっしょいツアー
藝祭名物となっている、各科の一年生が制作する「神輿」。
その迫力に圧倒されながら、完成にいたる秘話や苦労話を制作チームから聞き、その魅力を存分に味わうコースです。
◉E.とびラー特選☆おすすめツアー
まず金工棟の展示「うるしっ子」へ。ひとりずつ好きな作品を選び、感じたことを話し合ってみます。さらに、制作した藝大生とのお話しを通して、一気に作品を身近に感じられるようになりました。
彫刻と工芸の2人展「ここのね」では、彼らの作品に共通する優しさを感じとった人も多かったようです。また、独創的なパフォーマンス「おく」に観客として立会い、その作品に込められた思いの深さに触れました。
◉F.ふれる感じる思考ツアー
国際芸術創造研究科(GA)にてキュレーションを学ぶ学生がナビゲートに加わるコースです。総合工房棟の素材置き場(!)を見るところからスタート。
学生たちの普段の課題の様子や、今回の藝祭で展示している作品についてなど、様々な切り口からお話しを聞いてみます。こちらでは建築科と声楽科の学生が一緒に展示していました。音楽の学生が美術校地で作品展示をするのはめったにない事例だとか!
藝祭は、普段は取手や横浜で制作している学生たちと、上野で会える貴重な機会でもあります。身近な素材や題材をテーマにした作品から、インタラクティブに関われる映像作品など、バリエーションに富んだ濃い時間を駆け抜けました!
どのコースも、「さんぽ」の終わりには、出会った藝大生たちへのメッセージを書いてもらいます。
参加者のみなさんによってつづられた、あたたかいメッセージは、とびラーを介して藝大生のもとに届きます。
今回のさんぽに参加していただいた方からは、「一見何をあらわしているのか、全くわからないと感じた作品でも、作者と話してみると、自分も同じような体験をしていたり、『その気持ちわかるなぁ』と共感できることもありました!」というコメントを頂きました。同じ時間、同じ空間を共有できるからこそ、作品をきっかけに知り合えるのは素敵なことですね。今回の「藝祭さんぽ」でも、そんな些細だけれど、豊かな体験がみなさんに訪れていたらいいなと思います。
ご参加いただいたみなさま、ありがとうございました!
執筆:服部美香、東濃誠(アート・コミュニケータ「とびラー」)
撮影:原田清美(アート・コミュニケータ「とびラー」)
編集:峰岸優香(とびらプロジェクト アシスタント)