2015.07.27
2015年7月27日(月)、初回講座から1週間後。いよいよ鑑賞実践講座の「実践的」な学びが始まります。
今日のテーマは「対話を通した鑑賞法 VTS(ヴィジュアル・シンキング・ストラテジー)を学ぶ」です。
講師をお願いしているのはARDA(NPO法人芸術資源開発機構)の三ツ木紀英さん。
何年も前から、対話型鑑賞プログラムを開発してきており、それを伝える研修も行ってきていらっしゃいます。とびらプロジェクトにおいても、今年で4年目のお付き合いになります。
本日、4期生のみなさんとは初めまして。
ご挨拶代わりにさっそく。みんなでこの作品を鑑賞してみましょう!
鑑賞者と観察者の2グループにわかれ、三ツ木さんファシリテーションのもと、その場で何が起こっているか?を体験・観察しました。
次に鑑賞者と観察者と場所を交代して、2作品目を鑑賞。
3度目は、全員が鑑賞者となりさらにもう一作品を鑑賞しました。
あっというまに感じられましたが、三枚の画像を鑑賞し終わると1時間15分も時間がたっていました!
短い休憩をはさんだのち、3人組になって「ファシリテーターはどんなことをしていたか?それによって何が起こっていたか?」という問いを中心にをふりかえります。
三ツ木さんのファシリテーションから、VTSファシリテーターが行う3質問&7要素を読み解きます。
「この作品の中で何が起こっていますか?」
「作品のどこからそう思いましたか?」
「他にもっと発見はありますか?」
3つの問いを挟みながら、鑑賞者の一人ひとり、あるいは全員と向き合って、開かれた鑑賞の場をつくることを目指します。問いかけだけではなく、実は体の動きやファシリテーターの視線、指の差す方(ポインティング)によっても、対話の場に影響を与えることも気づきが得られました。
さらに、「VTSを体験してどんなことが起こったか?」を考えると、ファシリテーターが発言者の話をしっかり聞いているという態度を示すことによって「話してもいいんだ」という安心感が生まれ個々のコミュニケーション能力が高まったり、
「まずは作品をじっくり見ること」や「根拠を述べること」を促されることによって観察力や思考力が高まったり、「発言に対して中立性を保つこと」つまり「正解がある・ないということで判断しないこと」によって答えのない問いに対して考え続ける力・作品を見続けてしまう、などのことが挙げられました。
対話をしていくうえで大切なのは雰囲気づくりや姿勢、さらにVTSが鑑賞者にもたらす効果を確認したところで前半は終了です。
〜〜〜
午後の講座ではいよいよ4人組になって実際にVTSファシリテーターに実践してみます。
10分のVTS+5分のグループ振り返り+全体への共有、のワークを4回繰り返して、全員がファシリテーションを経験しました。
実際にファシリテートしてみて気づいたこと、ファシリテーターの良かった点や改善点、その場で具体的にどう感じたか、参加して疑問に思った事を共有していきます。
4ラウンドが終了したところで、最後にVTSが開発された根本にある、鑑賞者の美的発達段階について知識を深めて、本日の講座は終わりました。
6時間という長丁場でしたが、密度の濃い内容を体験してみなさん最後は興奮気味な様子でした。
これから学ぶVTSとは、知識に頼らずに作品をよく見ることからはじめ、「これは何だろう?」と一人ひとりに考えることをうながし、様々な意見を引き出しながら、作品の見方を深めていく鑑賞方法です。とびらプロジェクトではVTSを鑑賞の基軸に設定し、鑑賞の場をつくることを推奨しています。
いよいよVTSの基礎の基礎を学んだところで、ぜひその新鮮な驚きや最初に感じた違和感も大切にしながら、VTSの考え方を体得していってほしいと思います!
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東京藝術大学 美術学部特任助手
鈴木智香子
2015.06.27
今年の実践講座は、建築からスタート!
第1回目の建築実践講座は、アイスブレイクの『けんちく体操』からはじまりました。
『けんちく体操』とは、建築物を身体で表現するというもの。
身体を動かしながら建築を学べるワークショップとして、「チームけんちく体操」によって、国内だけでなく海外のさまざまな場所でも開催されています。
最初のお題は、「スカイツリー」。
両手を上に挙げてぴんと尖らせている人が多いようですが、よく見るとそれぞれに個性が見えます。足を少し拡げて裾が広がっている様子を表現した人、片腕だけ上げて細さを強調した人もいました。
次のお題は、「東京都庁」。
今度は2人組になって、それぞれ思い思いのポーズをとります。
先端を少し曲げて、てっぺんが平らになっていることを表している、というグループも。
身体を向き合って、対になっていることを強調するグループもありました。
そして次は、「雷門」。今度は3人組で挑戦します。
門の表現は、グループによってさまざま。身体を張って雷門の大提灯を表現するところもありました。
最後は、9人組で「東京都美術館」に挑戦!
全体的に体勢を低くするところが多いなか、立ったまま両手を伸ばしているグループも。
4つの公募棟が並んだ様子や、中央棟、交流棟、企画棟の繋がりが見えるように表現しているところが多く見られました。
中央に見えるのは、もちろん都美のシンボル『my sky hole 85-2 光と影』です。
後半は、学芸員の河野さんによる東京都美術館の建築についてのレクチャー。
東京都美術館は、1926年に東京府美術館として開館しました。
しかし、当時の金額で予算が20万円ほどしかなかったため、100万円(今の金額で32〜3億円)を寄付したというのが、実業家の佐藤慶太郎です。今でも、東京都美術館1階の佐藤慶太郎記念アートラウンジには、彼の胸像が設置され、その功績が讃えられています。
このとき最初に建てられたのは、建築家・岡田信一郎による旧館。
彼は、黒田記念館や現在の東京藝術大学陳列館など、上野公園内にある他の建築の設計も手がけています。旧館のときに使用されていた木製の陳列ケースは今も残されていて、2015年7月18日(土)からはじまる『キュッパのびじゅつかん』展でも使用されています。
そして、1975年に建築家・前川國男の設計によって新館の建物が竣工、2010年から2012年にかけて行われた大規模な改修工事を経て、今の東京都美術館の姿に至っています。
前川國男は、あくまで主体は公園であり、その中に美術館が入っていくのだという考えから、外部環境の疎外をできる限り避けることを意識していたといいます。実際に、現在の東京都美術館はそのほとんどが地下空間にあるにも関わらず、建物の中からも周辺の上野公園の緑をたくさん目にすることができます。
東京都美術館に残された当時の資料や図面などもスライドで見ながら、4期とびラーも少しずつ慣れてきた東京都美術館の建物を見つめる機会として、じっくりお話を聞いていました。
そして最後に、今年の建築実践講座で初めて導入された「わかちあう 伝える」ワークについて、特任助手の大谷さんから説明がありました。
前期は5人組のリサーチグループをつくり、他館の見学や建築ツアーのプランつくりなど、1年目の人と2年目・3年目の人が一緒になって、学び合いの場を深めていきます。そして、10月10日の実践講座で各グループの成果を発表してもらうことになりました。
また、後期は3人組でプランニンググループをつくり、建築ツアーの計画・実践を行っていきます。この講座を通して学ぶことを、どうアウトプットしていけるのか、グループごとに話し合いながら、より多くのアイディアを実践していく機会になりそうです。
グループ編成ができると、早速話し合いがスタート。
今日のレクチャーで聞いた話なども交えながら、コミュニケーションが盛んに行われていました。
今年はこうしたグループを中心にして、建築実践講座も複数人で協力して活動を進めていきます。
「そこにいる人が全て式」で、偶然できたこのグループのコミュニケーションがどのように広がっていくのか、これからの活動が楽しみです。
基礎講座を終え、いよいよ実践的な場への入口が開いてきました。
4期生のとびラーにも積極的なとびラボへの参加が見られるなか、ここでのワークがその後の活動にも繋がっていくかもしれません。
何気ない日常生活の中でも、具体的に何ができるかを考えたり、それを話したりするような場のデザイン、アートコミュニケータとしての活動がより深まることを期待しています。
(とびらプロジェクトアシスタント ニカモトハンナ)
2015.06.20
2015.06.13
平成27年6月13日(土)、「ヨリミチビジュツカン」を開催しました。
「大英博物館展-100のモノが語る世界の歴史-」にて、ヨリミチビジュツカン史上初の土曜日開催!
今回は、どんな展開が待っているのでしょうか?
■ヨリミチビジュツカンってなに?
まず、ヨリミチビジュツカンについて簡単に御紹介。
ヨリミチビジュツカンは、「作品や人と出会い、鑑賞を通したコミュニケーションを楽しんでほしい」
というとびラーの思いからスタートした企画です。
「鑑賞」と「Café Time」の2つの要素で構成されています。
■ヨリミチカード
「大英博物館展」のテーマに合わせて、とびラーが「ヨリミチカード」をつくりました。
本日の「鑑賞テーマ」が書いてあるミッションカードです。優しい水色に癒されますね。
■鑑賞・ひとりで見る時間
展示されている100のモノから、「自分の部屋に置きたいモノ」を選びます。
たくさんの展示物の中から自分だけの「お気に入り」を見つける旅へ、いざスタート!
■鑑賞・みんなで見る時間
思い思いの作品を胸に、これからは「みんなで見る時間」。参加者が2人にとびラーがファシリテーター役で入り、
3人1組で鑑賞していきます。実はこのチーム分けにはちょっとした秘密が・・・
○鑑賞チームの秘密
「ヨリミチカード」を開くと、そこには下記のいずれかのイラストが描かれています。
同じイラストの人とチームを組み、「みんなで見る時間」を過ごします。
「みんなで見る時間」は、みんなで一つの家(場所)に住むことになったら、
そこに「どの展示作品を置きたいか」がテーマです。
それぞれ「一軒家」、「ひみつきち」、「宮殿」、「宇宙ステーション」と
異なる空間で時間を共有する仲間として「みんなの部屋に置きたいモノ」について考え、鑑賞します。
皆さんどんなモノを選ぶのでしょうか?
○アイスブレイク
各グループに分かれたら、ファシリテーターと簡単にアイスブレイク!
とびらーがファシリテーター役で入り、3人1組で「ひとりで見る時間」で思ったことや、
自分のお気に入りを共有します。
また、来場者の多い大英博物館展、他の来場者の皆さまに配慮しながら鑑賞することや、
「たくさん話をして、話を聞いて、楽しい時間にしよう」といったチームでの約束ごと・
ミッションを確認しました。
各チーム準備が整ったら鑑賞スタートです!
「みんなの部屋に置きたいモノ」かどうか、じっくり吟味します。
次はどれを見にいくのでしょうか?
上の写真は「ひみつきち」チーム。「ひみつきち」チームが選ぶモノはいったい・・・?
上の写真は、「宇宙ステーション」チーム。
「仏像どこに置こうか?」「宇宙だから・・・浮かせて、天井でもいいかも!」なんて奇想天外(?)
な対話がでてくるのも、ヨリミチビジュツカンならではです。
■Café Time
「みんなで見る時間」のあとは、お楽しみの「Café Time」です!
今回は展覧会に合わせて、「世界」にまつわるお菓子を用意して、とびラーがおもてなし。
「Café Time」からは、サポートに入っていたとびラーも一緒にみんなでおしゃべり。
それぞれのチームが選んだモノについて聞いたり、展示室内で伝えきれなかったことを気さくに話し合います。
だんだん話に夢中になり、場が自然と笑顔で溢れます。
○感想
・普段、ひとりで見るときとは、まったく違う発想で見れて楽しかった
・「自分の部屋に置きたいモノ」と目的をもって作品を見ることで作品への興味が広がった
・様々な設定のおかげで、美術品が日用品に見えて面白かった
・グループで見ることで、自分が通り過ぎた作品に注目したり、思いつかなかった意見が聞けてよかった
上記以外にも様々な感想をいただきました。「ひとりで見る時間」、「みんなで見る時間」と、
それぞれ「テーマ」をもって鑑賞していただいたことで、参加者の皆さまにとって、普段とは違う
「視点」や「発見」があったようです。「Café Time」では、そうした気付きや感想を、
参加者の皆さまから聞くことができました。
○おわりに
「楽しい時間はいつも早い!」「まだまだ話し足りない!」という思いもありますが、今回はこれにておひらきです。
鑑賞や、参加者ととびラーの対話から、たくさんの新たなコミュニケーションが生まれました。
新たな気付きや発見がある。そんな楽しい時間を一緒に過ごしてみませんか?
次回もお楽しみに!
アート・コミュニケータ(とびラー) 日野 南
とびラー3期。普段は自治体職員としてはたらく傍ら、多種多様なひとびとが集まるとびラーに魅力を感じ、アートコミュニケータとして活動中!
2015.05.23
今年度の第4回基礎講座のテーマは、<上野公園とミュージアム&大学>。
「とびらプロジェクト」と連動する「Museum Start あいうえの」の基礎的な知識を学びながら、上野公園という自分たちの活動の場に改めて目を向け、考える時間でした。
2015.05.23
5月16日、今年度最初の建築ツアーが開催されました。
今年度から入ったとびラー4期生も参加し、みんなで正面エントランスで呼び込みを行います。
この日は、上限いっぱいの30名の参加で、大盛況の建築ツアーでした!
建築ツアーは3つのコースに分かれていて、ガイド役のとびラーによって、その視点も少しずつ異なります。
過去にツアーに参加したことがある方も、違うコースだとまた新たな発見をすることができるかもしれません。
岸川さんの「建築のひみつ、彫刻のなぞ」コースでは、屋外の彫刻作品から、建築との関係性・おもしろさを見つけていきます。
都美の門を入ってすぐ、大きな銀の玉の作品『my sky hole 85-2 光と影』。資料を片手にお話しています。
窓ガラス越しに見つけたのは、傘をモチーフにした彫刻作品。
普段は何気なく通りすぎてしまうような彫刻作品に意識を向けてみると、そこから意外な建物のつくりに出会うこともあります。
山﨑さんの「たてもののリズムを感じてみよう」コースは、建築のデザインや構造の中に隠れたリズムを発見していく、
というもの。屋外で、身体を使って建物のしくみについてお話しています。
みんなで見上げているこの階段。一体何が隠れているのでしょうか…?
この日、ガイドデビューの大山さんは、「都美のこだわり発見ツアー」コース。
初めてのガイドとは思えない丁寧な説明で、お客さんにクイズを出しながら建物をめぐっていきます。
たくさんの方に参加していただき、充実した建築ツアーでした。
次回の建築ツアーは、少し間があいて、9月19日(土)の開催です!
夜間開館日に開催する、トビカン・ヤカン・カイカン・ツアーも不定期で開催しています。
詳細はHPでのお知らせをご確認ください!
・建築ツアー
・トビカン・ヤカン・カイカン・ツアー
コチラから⇒
2015.05.18
4月26日。この日、東京都美術館では12人の大人たちが楽しそうに美術館内を歩き回り、
時には真剣なまなざしで屋外彫刻を見つめる、そんな光景が見られました。この方たちは「Museum Quest〜ある建築家が遺したもう一つの扉を探せ〜」の参加者のみなさんです。
このプログラムは、美術館に興味はあるけれど、ハードルの高さを感じてなかなか一歩踏み出せない人たちに向けて、私たち、とびラーが企画したものです。
鑑賞以外の目的でも美術館に足を運んでほしい、そしてもっと美術館を身近に感じてもらえたら。そういう思いから生まれた企画です。
プログラムの内容は、この日初めて会った人同士3人1組のチームに分かれて、東京都美術館の屋外彫刻や建築に関する謎を解くものです。
謎解きを通じて、チーム内のメンバー同士やとびラーとのコミュニケーションを楽しんで頂くことも、この企画の目指すところです。
さぁ、謎を解くための調査員として集められた参加者のみなさんは、新しい出会いを見つけ、そして美術館に遺されたもう一つの扉を見つけることはできたのでしょうか。
謎解きの前にアイスブレイク。見知らぬ人同士のチームなので、まずは自己紹介から始めます。今回は謎解き好きの方が多く集まったので、謎解きの話題ですぐに打ち解けていたようでした。
新たな出会いの始まりです。
アイスブレイクで少し打ち解けたところで、謎解きの開始です。東京都美術館の敷地内を舞台に、屋外彫刻や建築に関する謎を解いていきます。1つの都市をイメージして設計されたというこの美術館は、構造が少し複雑で、場所によって様々な表情を見せてくれます。美術館全体に散りばめられた謎を探して、調査員のみなさんは歩き回ります。
みなさん無事に謎を解き終えて、制限時間内に元の部屋に戻ってくることができました。部屋に戻るとラストミッションが待っています。
ここでも、みなさん協力して、すぐに謎を解いてしまいました。写真はとびラー側のミスで、答えが先に出てしまったときの様子。少しくらいのハプニングは、楽しみの一つと思って頂けたようです(笑)。
謎解きが全て終了したら、カフェタイムでより一層コミュニケーションを深めます。お茶を飲んだり、お菓子を食べたりしながら、参加者同士や参加者ととびラーとのコミュニケーションをゆったりと楽しんでいただきました。参加者のみなさんは、普段から謎解きのイベントに参加しているとのことで、今回の謎は少し簡単だったようです。でも、美術館という非日常的な空間での謎解きがとても楽しかったと語ってくれました。
また、謎解きが好きな人同士だったことで、コミュニケーションの輪が謎解きを通じて広がっていくのがわかりました。
今回はその要素として美術館や彫刻があったので、謎解きの思考だけでなく、あの彫刻はおもしろいよねとか、美術館ってどんな時にくるかなとか、いつもの謎解きとは少し違う会話が生まれていたようでした。
ある参加者の方のお話では、謎を解くという行為は、何か分からないことを、主体的に解明して答えを見つけることだとおっしゃっていました。
作品の鑑賞という行為は、自身の内省を促したり、他者との対話を誘発したりすることに加え、作者はどんな人か、どんな思いでつくったのかということに思いを巡らせたり、調べたりして解釈していくこともあると思います。謎解きの思考と鑑賞の思考を行き来する様子から、参加者のみなさんがこれまで経験したことのない体験をしていることが伺えました。
今回Museum Questへ参加して頂いたことで、これまで美術館に足を運ぶことが少なかった方々に、作品を通じた謎解きという擬似的な鑑賞体験を感じてもらえたのではないでしょうか。
参加者のみなさんが、今回の体験をきっかけにアートの世界にも興味を持って頂けたらうれしいです。
いかがでしたでしょうか?あなたも東京都美術館を舞台とした謎解きで、新しいミュージアム体験をしてみませんか?次はどんな出会いが待っているか、私たちも楽しみです!
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【筆者】アート・コミュニケータ 上神田健太(カミカンダケンタ)