東京都美術館× 東京藝術大学 「とびらプロジェクト」

活動紹介

名刺をつくろう:活動中間報告

2012.08.30

とびらプロジェクトマネージャの伊藤達矢です。
とびラー候補生(以下:とびコー)による、自分たちの名刺づくりプロジェクトが進められています。
ここではその活動の中間報告を紹介します。記述は、とびコーの中川さん、新倉さん、松澤さんです。
 
◇◆◇◆◇◆◇◆◇*◇◆◇◆◇◆◇◆◇*◇◆◇◆◇◆◇◆◇*

とびラー候補生は基礎講座を受け、基本的な知識を身につけます。その基礎講座の中で、自分のアイディアを形にする方法を教えてもらいました。教えてもらった裏ワザを一つご紹介したいと思います。
★良いアイディアを思いついたら、少なくとも3人の仲間を集めるべし。
同じような事を考えていたり、やってみようよ!という意欲的な仲間と3人グループを組みます。企画の立ち上げ時は3人という人数が多すぎず、少なすぎず、絶妙に理にかなっているのです。

基礎講座では、実際に3人で何か企画を考えてみましょうという実習を行いました。そこで出たのがこの「名刺欲しくない?」という案でした。私もとびコーとして、未熟ではありますが、もっともっと皆様のお役に立ちたいな~と日々考えています。そのためには、名刺を作ってとびラーをどんどんアピールしていかなきゃ!というわけで、名刺づくりの案にとびつきました。
そんなこんなで、名刺を作ろう!!企画を小人数の3人でスタートしました。そして、呼びかけたところ、同じ事を考えていた方が沢山いらっしゃいました。
(文責:中川)

「名刺をつくりたい!」という呼びかけにのっかった1号です。共感したメンバーと打ち合わせを重ね、私はデザインを担当することに。3人組を中心にそれぞれが意見を述べたり、役割を分担して楽しい打ち合わせになりました。とびコーには様々な職種や世代の人がいるのでついつい違う話に脱線も・・・(笑)
とびらプロジェクトの楽しさや活動が伝わえる名刺になったので、今まで美術館と縁がなかった人にも届いてくれると嬉しいです。
(文責:新倉)
 ^
同じデザインの名刺を持つことでとびラー候補生の一体感もUP。これからまた様々なアイデアが生まれ、沢山の出会いがあることでしょう。「とびらプロジェクトって何?」「とびラーって何してるの?」ーそんなとき、名刺がサポートします。
名刺を渡して会話が弾み、新しいコミュニケーションのきっかけになれば嬉しいと思います。
(文責:松澤)

とびかんバトンプロジェクト:準備中

2012.08.29

とびらプロジェクトマネージャ伊藤達矢です
とびラー候補生(以下:とびコー)によってまた新しいプロジェクトが生まれようとしています。準備中の様子をご紹介します。記述はとびコーの成島さんです。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇*◇◆◇◆◇◆◇◆◇*◇◆◇◆◇◆◇◆◇*

来館者の方々がつながっていくイベントとして、「とびかんバトン」プロジェクトの準備をしています。2012年7月15日~9月30日まで「東京都美術館ものがたり」展が開催されていますが、その中で2日間限定でこのイベントを開催するべく、企画・準備の真っ最中です。

 

「とびかんバドン」プロジェクトは、簡単に言うと、美術館で栞を作って、他の人に渡し、他の人からもらうイベントです。来館者の方が「東京都美術館ものがたり」展に来たら、まず以前に来ていた来館者の方が絵や言葉を書いて作った栞をもらい、展示を見終わったあとに、今度は自分が栞を作って、次の来館者の方にバトンしていく、という企画です。

 

「東京都美術館ものがたり」展 は、初めてお越しになる方も十分楽しめますが、特に常連の来館者の方々は、懐かしい展示などにいろいろな思いが溢れることと思います。その思いを栞に託して、表現する、そしてそれをバトンすることによって誰かにつながっていく、という、「観て」、「体験して」、「家(日常)に持って帰る」、という楽しさを感じていただけたらな、と思っています。

とびコー:成島、林、古澤

「障害のある方のための特別鑑賞会」:マウリッツハイス美術館展

2012.08.27

東京都美術館(以下:都美)では、特別展ごとに休室日を利用して「障がいのある方のための特別鑑賞会」を実施しています。今回はマウリッツハイス美術館展が会場となりました。これまでとびラー候補生(以下:とびコー)が綿密に準備した成果を活かす日がいよいよやってきました。10時のオープンに合わせて、早朝からとびコーさんが集まり、打ち合わせや会場内の案内掲示などの準備を行いました。

 

美術館の入り口にとびコーさんがスタンバイして、車椅子でご来館される障がい者の方のサポートにあたります。
^
「障がいのある方のための特別鑑賞会」の現場対応のほとんどがとびコーさんによって行われます。もちろん学芸員やとびらスタッフも対応にあたっておりますが、決して逐一指示を出すわけではありません。一度現場に立ってしまえば、みんな一緒のスタッフとして動きます。

エレベータ前にもスタンバイしています。スムーズに展示室まで行ける様にご案内します。

 

受付でもとびコーさんが、ご来館館下さった皆様お一人おひとりの対応をさせて頂いています。

 

いつもは、長蛇の列を成し、入場するまでに1時間以上かかってしまうマウリッツハイス美術館展ですが、この日は落ち着いた展示室の中でゆっくりと作品を鑑賞して頂くことが出来ました。

 

普段の人ごみでは車椅子に乗っての鑑賞は容易なことではありません。こうした機会に充実した時間を過ごして頂ければ何よりです。

 

会場では、とびコーさんが作品鑑賞のサポートしています。少しだけ絵の前でお話をさせて頂いたり、知っている範囲で質問にお答えしたりします。作品解説員ではなくアートコミュニケータ(とびコー)がいるところが都美の「障がいのある方の為の特別鑑賞会」の魅力でもあります。展示室の中でも外でも、ご来場された方々をご案内するのは、アートコミュニケータ(とびコー)の皆さんです。作品の解説ではなく、作品を通して人と人が出会える素晴らしい美術館体験ができるひと時をご提供できればと思います。

(とびらプロジェクトマネージャ 伊藤達矢)

「とびの人々」vol.3:店づくりは”まち”づくり~レストラン統括マネージャ 田中俊一さん~

2012.08.26

とびらプロジェクトマネージャ 伊藤達矢です。
東京都美術館(以下:都美)では、とても魅力的な人々がたくさん働いています。そこで、都美で働く人々の横顔を、このブログで時々紹介して行きたいと思います。「とびの人々」3回目は、都美にある3店舗のレストランをまとめる統括マネージャ 田中俊一さんです。そして「とびの人々」は、とびラー候補生(以下:とびコー)のインタビューによって進められます。今回の記事を執筆してくれたのは、とびコーの久保田有寿さんです。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇*◇◆◇◆◇◆◇◆◇*◇◆◇◆◇◆◇◆◇*

リニューアルした都美には、3つのカフェ・レストラン―1階カフェ「M cafe」、1階レストラン「IVORY」、2階レストラン「MUSEUM TERRACE」―があります。

今回は、3店舗の統括マネージャである田中俊一さんから貴重なお話を聞かせて頂きました。
(*表記は●→とびラー候補生、○→とびらプロジェクトマネージャ 伊藤。)

●まず、田中さんのご所属と、お仕事の内容を教えてください。
[田中]僕達は、株式会社zetton(ゼットン)という飲食店の企業から、今回都美のリニューアルに際して3店の飲食店を展開しています。僕は店長として主に「MUSEUM TERRACE」で働いています。同時に全3店舗の統括マネージャーを兼任しているので、他の2店舗の店長とやり取りをし、お客様の声を拾い上げて、様々な問題の改善に努めています。また、美術財団のパーティーやレセプションも請け負います。お客様からご相談を受けて、今までにないようなレセプションや場所の使い方を日々模索しています。

●田中さんは都美に来る以前から飲食のお仕事をなさっていたのですか?
[田中]そうですね。ぼくは学生を卒業してからずっと飲食で働いていて、もともと銀座・日本橋エリアを担当していました。zettonは六本木や渋谷など東京全域にお店がありますが、僕は足立区出身ということもあり、最近は地元から近い東エリアを担当しています。今回の都美での店舗展開のお話も、上野なら是非やりたいと自ら手を上げました。

●田中さんは、働く以前にも都美を訪れたことはありましたか?
[田中]いや、ないと思います。ただ、もともと学生の時に遊びに来る最初の街は上野だったので、上野公園にはよく遊びに来ていました。記憶にはありませんが、小さい時に課外授業などで都美に訪れていたと思います。今回のお話を頂いてから、都美のリニューアルのことも初めて知りました。お恥ずかしい話ですが(笑)。

●都美でレストランを営業して、オープンからすでに5ヶ月が経ちましたが、現段階でどのような印象をお持ちですか?
[田中] 一番強く感じたのは「もともと歴史がある」ということです。通常お店を出す時は、「ゼロから始まる」という感覚ですが、都美の場合は、長い間美術館があり、レストランや食堂などの飲食店も、またその長い歴史の中にありました。昔の都美を知り、今でも通っていらっしゃるお客様がすごく多いんですよ。なので、お客様とのコミュニケーションの中から「以前のレストランはこうだったよ」と歴史が垣間見えたり、「これを復活して欲しい」といった要望もあったりと、実際現場に立ってみて、都美でお店を「出させていただく」という意識をさらに強く感じています。都美の歴史の「新たな一ページ」として参加させていただいている、という感覚です。

 

(2階レストラン「MUSEUM TERRACE」)

^

●zettonとしては、美術館というある種特殊な空間での飲食展開は初めてですか?
[田中]いえ、もともと公共施設の中に飲食店を展開する「パブリック・イノベーション」という事業があります。一昔前だと、立地が良く、色々な人が集まる素敵な場所であるにも関わらず、公共施設のレストランの料理のクオリティは正直高いとは言えませんでした。対して、僕達は街場のカフェやレストランで培ってきたノウハウを生かすことで、そうした場所のブランド力をあげ、訪れたお客様の思い出をグレード・アップさせることを目指しています。zettonはこうしたプロジェクトに5年ほど携わっているため、その実績から、今回の都美でのお話を頂けたのかと思っています。前例で言えば、僕は以前三井記念美術館のミュージアム・カフェで働いていました。

●美術館のレストランに来るお客様はどんな方が多いですか?
[田中]とても上品な方が多いです。上品な振る舞い方やおしゃれから、普段の生活の中でも、美術館に行くということがやはり特別な行為の一つである、というような印象を受けます。お客様の年齢層は比較的高く、僕の親くらいの年代かそれ以上の方が多いですね。そのようなお客様方が、美術鑑賞を終えてレストランへ来られる時、僕達が思う以上に、ハイセンスでスペシャルな空間や時間を求められているのだと感じます。
(1階カフェ「M cafe」)
^
●鑑賞という目的の前後に訪れる方が多い都美のレストランと、お客様の目的がそのお店に行くことである通常のレストランとは時間軸が異なりますよね。お店の回転や料理の提供スピードなど、美術館のレストランならではの違いはありますか?
[田中]バランスが難しいですよね、お客様によってニーズが違うので。鑑賞前に来られる方はすぐに食事を済ませたい一方、鑑賞後にたまたまレストランに入った方はゆっくり過ごしたいでしょうし。そうしたニーズの違いを事前に考慮していたからこそ、都美では3つの飲食店を展開しています。お客様がシチュエーションによってカフェやレストランを選べ、また、次に来る楽しさにも繋がるので、これはとても良かったなと実感しています。色々な提案がある、というのが僕達の店の特徴です。
●展覧会に合わせた、今はマウリッツハイス展に関連したメニューを提案されていますが、そうしたコンセプトもお店で考えているのですか?
[田中]そうですね、やらないわけにはいかない、生まれるべくして生まれた、といった感じです。実際の作品を前にして安っぽいものは出せないですし、とはいえ金額が高くてとっつきにくいものも出せないので、またこれもバランスが難しいですね。今回はシェフがよく勉強してくれで、オランダという場所の郷土料理に結び付け、なかなか目にしたり口にしたりできない「オランダ料理」を紹介するという形が取れました。今回のコース料理は「IVORY」だけで提供していますが、それ以外の店舗でも、オランダ発のショコラや、オランダの紅茶専門店の紅茶を出したりもしています。

(1階レストラン「IVORY」)

^

●「IVORY」のコースに対するお客様の反応はどうですか?
[田中]いいですね。コースの値段はランチでも3800円と比較的高いのですが、思った以上に選ばれています。「IVORY」は予約もできますし、味も雰囲気もトータルでゆっくり味わって頂ければと思っています。
●現時点で全体的なレストランの混雑具合はどうですか?
[田中]忙しいですね。嬉しい悲鳴ではありますが。席数には限りがあるので、どうしても待たせすぎてしまう形にはなってしまっています。通常の2倍3倍の数のお客様が並ぶ場合もあります。お昼の時間は待てる限界もあると思うので、できるだけ明確に待ち時間をお知らせするようにしています。ただ、周りに他のお店がないんですけどね…
○都美のお客様にはよかったら東京藝術大学(以下:藝大)の学食を使っていただいていいですよ(笑)。今回、お仕事以外にも、田中さん自身のことも少し知りたいと思っています。休日はどのように過ごされていますか?(笑)
[田中]僕ですか(笑)。ゆっくり起きて、外に行って100%外食しますね。飲食店で働く人間は、実は一番飲食店のことを知りません。OLの方がいいお店を知っていると思います。仕事について勉強するには、他のいいレストランで、料理、サービス、内装などを実際に見ないと、頑張っても引き出しが広がらないじゃないですか。けれど、どうしても365日開けているような商売ですし、自分が飲食で働いていると、基本的にそうした時間がありません。それがこの業界の良くないところですが。だから僕は、勉強、というか好きなので、仕事だと思わず、昼間から気になるお店によく行っていますね。

 

●好きな食べ物は何ですか。
[田中]納豆です(笑)。納豆が家の冷蔵庫にないと気分が悪いです。おかめ納豆じゃないとダメで、小粒が好きですが、たまに大粒に浮気したりもします(笑)。
僕はそんなにグルメではないんですよ。もともと食べることが好きというか、酒場の雰囲気が好きでした。お店があることで、スタッフやその店の雰囲気で自然と人が集まってきて、そこで新しいコミュニケーションや繋がりが生まれていきます。飲み屋の飲んだくれの絡みでも、例えばパリのカフェ文化でも同じことが言えて、そこには常に飲食店があります。zettonには「店づくりは”まち”づくり」という理念があるのですが、僕の考え方はそれにリンクしました。
○それはとびラーと非常に近いものがありますね!!いいお話が聞けて良かったです。実は都美を設計した建築家の前川國男はすごくグルメで、「美術館に来ておいしいご飯が食べられないのはありえない」と、一番正面の一番良い、目立つ場所にレストランを設計したそうです。今の話を聞くと、前川國男の考えていた「ミュージアムの中のレストラン」という建築的な理念と、田中さんの考えていることが非常にマッチしていると感じました!
[田中]それは知らなかったです!
○おいしいものを提供するだけではない、そうした考えが、働いている人の中に息づいているというのは素敵ですね。建物も重要だし、働いている人達の気持ちも重要だし、そうした二つのコンテクストがないと上手く体現できない中、その二つがちゃんと揃っているのは、なかなかない出会いだと思います。
●とびらプロジェクトとのコラボレーション企画として、今後、とびラーとカフェやレストランが連携して新しいプロジェクトを提案することに対してどう思われますか?
[田中]僕としては良いと思います。ただ、お客様にどのように伝わるかがポイントですね。レストランの自己満足にならず、ベクトルがお客様に向いていて、利用したお客様に評価してもらえることが大切です。お客様を選ばず、出来るだけ多くの方に価値を感じてもらえて、都美がいい場所だな!と、ダイレクトに伝わる企画なら良いと思います。また、レストランで働いている人のモチベーションや意識が上がればいいですね。オープンしたての今は、外までしっかりと目を向けられていませんが、お客様にとっては、僕達のレストランはzettonではなく、あくまで「都美の一部」でしょうから、そうした意味では、都美との一体感が取れる企画があれば。僕達のレストランが、都美におけるコミュニケーションのエンジンになるようならいつでも協力したいですね。
田中さんはとても気さくな方で、笑いも交えて楽しい時間となりました。また総括マネージャーとしての確固たるビジョンと情熱がひしひしと伝わるインタビューでした。伊藤さんが、1月の藝大の卒業修了制作展の機会に、とびラーと藝大の学生や教員が一緒になったミュージアム・レストランとの連携を提案されていました!さて、どうなることやら。他にもこれから、様々な形でミュージアム・レストランと関わっていけるといいですね。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇*◇◆◇◆◇◆◇◆◇*◇◆◇◆◇◆◇◆◇*
とびラー候補生:筆者:久保田有寿(くぼた あず)
美術史学を研究する大学院生。専門はピカソとモダン・アート。下町情緒とアートが交差する上野・谷根千エリアをこよなく愛し、生まれ育ったこの街を、今日も自転車で疾走中。趣味ダンス。Jazz, Soul, Funkの音楽がかかれば、体がビートを刻まずにはいられない。

松隈洋の建築ツアー:建築ツアー実践講座

2012.08.25

建築ツアー4回目はいよいよお客様をご案内する実践の場。しかし、とびラー候補生(以下:とびコー)はまだ修行中の身なのでサポートにまわります。ツアーの案内をするのは松隈洋先生(京都工芸繊維大学教授・建築史家)です。2年前に実施された「おやすみ都美館建築ツアー」でもツアーの案内人をされた東京都美術館(以下:都美)の建築(前川國男設計)を知り尽くすベテラン案内人。リニューアルオープン後第一回目となる今回の建築ツアーには24名の方にご参加頂きました。早速ツアースタート、地下1階のロビー階から中庭へ移動します。改修前と改修後にどのような変化があったのかなど、詳しく教えて頂きながら歩いて行きます。

続いて地上1階の正門付近へと移動します。この場所からは都美の外観を一望することができます。都美の改修工事でもっとも難しかったことの一つは、一見レンガづくりに見える都美外壁の再現だったそうです。実はこれ、レンガではなくタイルなのです。「打ち込みタイル工法」という技法を用いており、これも前川國男建築の特徴の一つでもあります。

 

どの辺りが大変だったのか、松隈先生が解説を行おうとされたとき、実際に改修を担当された方がツアーのお客さまの中にいらっしゃいました。松隈先生のサプライズにより、直接お話を伺うことができました。
都美が建設された1970年代初頭はオイルショックで、大量の打ち込みタイルを作ろうにも、タイルを焼く窯が燃料不足になり易く、火力が安定しなかったため、タイルの色が謀らずしもまちまちになってしまったそうです。結果的にそれが外壁の風合いを醸し出すことになりました。しかし、今の窯でタイルを焼くと、素晴らしく精度の高い奇麗に整ったタイルが出来てしまうそうです。それでは改修前に都美が持っていた雰囲気を再現することはできません。
^
そこで、色合いの調査やタイルの焼き方に工夫を重ねて、ようやく完成させたのが、今の都美のタイルだそうです。改修前のタイルが残っている棟もありますが、ほとんど見分けがつかない程そっくりです。

 

改修前と改修後では大きく違うところもあります。都美はバリアフリー化を積極的に進め、改修前にはなかったエレベーターとエスカレーターが設置されました。

 

館内には大正時代に都美創設に大きく貢献した九州の炭鉱王佐藤慶太郎を記念するラウンジが設けられています。

 

このあと、企画展示室で開催中の「生きるための家展」を鑑賞しながら、新しくなった展示室を見学しました。

 

続いて北口へ。一番下のLB階にはミュージアムショップ、一つ上が地上1階で佐藤慶太郎記念アートラウンジ、その上2階がレストランを臨めます。この2階レストラン部分も今回の改修工事で新たに増設された部分です。

 

実践講座の最後は松隈先生の建築ツアーを全員で振り返りながら、勉強会を開きました。建築ツアー実践講座担当講師(学芸員)の河野さんの適切なフォローのもと、とびコーのみなさんのレベルもどんどん上がっています。頼もしい限りです。
(とびらプロジェクトマネージャ 伊藤達矢)

対話による鑑賞について:「スクールマンデー」実践講座2回目

2012.08.20

「スクールマンデー(対話を通した作品鑑賞)」の実践講座の2回目が行われました。講師はNPO法人芸術資源開発機構のアートプランナーである三ツ木紀英さん。前回に引き続き、対話による鑑賞方であるVTS(ビジュアル・シンキング・ストラテジー)の体得を目指した実践講座が開かれました。まずはよりVTSを理解するために、鑑賞者グループ(VTS体験)、観察者グループ1(鑑賞者を観察)、観察者グループ2(ファシリテータを観察)の3つのグループに別れ、それぞれローテーションで全員が体験して行きます。そうすることで、VTSで起こるさまざまな変化や出来事をつぶさに観察することが出来ます。

 

ファシリテータは三ツ木さん。早速VTSがスタートします。1点の作品に凡そ20分程度の時間をかけます。

 

みなさん、それそれのグループの立場で、VTSを観察しています。

 

2点目、3点目とグループの役割を交換しながら、VTSが進められて行きました。

 

1時間以上にも及ぶ深い鑑賞体験はかなりの集中力を必要とします。またそれ以上に、立て続けに3回連続でファシリテータをされた三ツ木さんにも脱帽です。

 

少し休憩をとってから少人数のグループに分かれて、VTSの観察体験について意見交換を行いました。自分の感じたこと気付いたことをシェアすることによって、よりVTSについて理解が深まったのではないでしょうか。

 

最後に「VTSの美的発達段階と適切な作品選び」と題してレクチャーをして頂きました。アメリカのMoMAで開発されたVTSの背景(前回のブログ参照)や、レフ・ヴィゴツキー「発達の最近接領域」、ジャン・ピアジュ「認知発達の4つの段階」、アビゲイル・ハウゼン「美的発達段階」などかなり専門的な内容にも触れて頂きました。また、VTSを行う上で適切な作品の選び方などもご指導頂きました。

^
少しずつではありますが、みなさんVTSの本質が掴めてきたのではないかと思います。とびラー候補生がVTSのファシリテータになる日も近いでしょう。
(とびらプロジェクトマネージャ 伊藤達矢)

とびラーによる完全オリジナル脚本「都美子のタイムトラベル」(マウリッツハイス美術館展記念)の紙芝居!

2012.08.19

__私は上野(うえの)都美子(とみこ)。都美子という名前は、都美館が大好きな母が付けたの。友達からは“とび子”って呼ばれてます__
^

東京都美術館(以下、都美)の1階、アートラウンジの一角で、とびラー候補生(以下、とびコー)が紙芝居を上演しました。とびコーたちは、物語にも登場するフェルメール作「真珠の耳飾りの少女」風の青いターバンを身につけています。来館者の方に向けて紙芝居を披露するのは実はこの日が初めてで、とびコーたちも内心ドキドキといった表情。紙芝居の前に、とびラーについての紹介。その前座を務めるのは、この“紙芝居プロジェクト”の立案者でもある山中さんです(写真、右から2番目)。
^
そもそも、美術館で紙芝居とはこれいかに。
山中さんにプロジェクト発足の経緯について、簡単に説明していただきました。
^
山中「この紙芝居プロジェクトは、都美に来られたお客様に、展覧会をより親しみやすく、楽しく鑑賞してもらいたい、という願いから生まれた取り組みです。記念すべき第1作目は、現在開催中のマウリッツハイス美術館展を題材にした物語となっています。紙芝居で楽しみながら作品の背景を学ぶことによって、美術の面白さを子どもから大人まで実感していただけるといいなと思っています。」
^
こうして立案者に賛同するメンバーが集い、度重なるミーティングを経て、紙芝居が実現しました。冒頭にも挙げた通り、「上野都美子」と名乗る主人公が繰り広げる完全オリジナルストーリー。脚本は6、7回に渡って練り直され、何度も推敲を重ねるという気合の入った一作。 物語の舞台でもある17世紀オランダに関する豆知識も盛り込まれ、大人も楽しめるよう工夫がなされています。 紙芝居の絵は、とびコーの中でも若手の学生コンビが、学業の合間を縫って1枚1枚丁寧に描きあげました。
^
山中「紙芝居っていうと、どうしても大人の方は“子どもが見るもの”っていう先入観があるみたいで、今回も『これって大人も見られますか?』って聞かれてる方がいたんですね。でも、私たちが最初にイメージしてた紙芝居は、あくまで大人向けの内容でして、物語はわかりやすくシンプルな構成なんですけど、美術ツウの人にも楽しんでもらえるように、豆知識の内容もふんだんに取り入れています。・・・子どもたちには、ちょっと難しかったかな?」

この日の上演は、14時と15時の2回。上演前は紙芝居の宣伝のため、館内のお客さんたちに声を掛けて回りました。手作りの青いターバン、宣伝用のポスターと人形たちが人目を引きます。リカちゃん人形のお洋服は、なんと!とびコーのお手製です!

 

1回目の客数は…少し寂しい結果となってしまいましたが、2回目の上演では、企画展の出口に絞って呼び込みをする宣伝の効果もあってか、20名以上の方が足を運んで下さいました。

 

ベビーカーを押すご夫婦や親子連れだけでなく、大人たちの姿もありました。上演前から立ち見で待機している人、たまたま通りかかった人、もともとアートラウンジに座っていてその場から覗き込んでいる人__鑑賞スタイルは各々異なりますが、紙芝居に見入る子どもたちの後ろで、大人の方たちも楽しんでいるような表情をみせていました。
^
紙芝居の「おしまい」の後に、ちょっとした小話を披露。「真珠の耳飾りの少女」のターバンの色を色々な色に変えてご覧にいれました。私の傍で鑑賞していたご婦人が「う~~ん・・・、やっぱり青よねぇ。」と唸っていました。読み手のリアルな息づかいと、紙芝居を挟んで向こう側の、観客の確かな反応。それらが同時に存在して、この紙芝居の空間を創っている__ アートコミュニティ(※)を築く、まずは大切な一歩__ 私はそんな風に感じることが出来ました。(※『とびらプロジェクトとは?』の頁参照)
^
山中「今後の“野望”は、出張紙芝居です!他の美術館や小学校、図書館なんかで上演できたらいいですね。あとは、全国の図書館で私たちが作った紙芝居を置いてもらいたい!!と企んでいます。とても大きな夢ですけどね(笑)」
^
美術を楽しもう、そんな想いが詰まった紙芝居プロジェクトの活動は始まったばかり。
今後の活動にご期待ください!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇*◇◆◇◆◇◆◇◆◇*◇◆◇◆◇◆◇◆◇*
とびラー候補生:筆者:佐藤史(さとうふみ)
生粋の千葉県民。人の生き方に積極的に関わる仕事がしたいと、現職は訪問看護師。都美の展覧会でムリーリョ作『無原罪の御宿り』に出会い、宗教絵画と教会建築への興味が開花。他に好きなこと、歌、写真、三度の飯よりアイスクリーム。

 

 

シルバーデーだ!とびらプロジェクト!

2012.08.15

8月15日、この日の東京都美術館(以下:都美)は「シルバーデー」。65歳以上の方は無料となりました。マウリッツハイス美術館展を鑑賞するために午前中から沢山のお客様が来館され、敷地の外に出てしまう程の行列が出来ていました。

 

そこに現れたのが「真珠の耳飾りの少女」とお揃いの青いターバンを巻いたびラー候補生(以下:とびコー)の皆さん。8月5日に3つの企画をお客様の前でお披露目し都美デビューを果たしたとびコーの皆さんですが、もっと多くのお客様に楽しさとワクワクをお届けしたい!という思いから、「シルバーデー」であるこの日も出動しました。

 

長蛇の列に容赦なく照り付ける夏の太陽。猛暑の中ご来館されたお客様へ配布期限の過ぎた展覧会チラシを再利用した「ウチワ」をプレゼント。このウチワ、とびコーさんが一つひとつチラシを折ってつくっています。

 

数百枚のウチワをお一人おひとりのお客様に手渡しで、配らせて頂きました。

 

正門を入ってすぐ、入場待ちの方とお帰りの方が行き交うスペースで、おなじみの”とびら楽団”が楽しげな演奏をしています。

 

とびら楽団が隊列を組んで練り歩いたりと、暑さにも負けないパフォーマンスを披露。新曲の「カントリーロード」も初めて皆さんの前で演奏することができました。

 

そしてこちらはフェルメールの「真珠の耳飾りの少女」になって記念撮影が出来る「あたなも真珠の耳飾りの少女プロジェクト」。前回の8月5日同様大盛況で、沢山の方が「真珠の耳飾りの少女」になって下さいました。

 

「あたなも真珠の耳飾りの少女プロジェクト」の額縁の裏側を少しだけご紹介。都美限定名画誕生の裏では、その名の通り名画を支える人々がいます。このようにして都美での記念すべき1ショットができあがります。ご参加頂いたお客様には夏の思い出としてお持ち帰り頂けたのではないでしょうか。
^

軽快な音楽とウチワのプレゼント、なんといっても黄色と青色のターバンがお客様の視線を引きつけ、今回も沢山の方から「次回はいつでしょうか?」というお声を掛けて頂きました。「マウリッツハイス美術館展」の会期終了も迫り、とびコーの皆さんによる関連企画のお披露目をご覧頂けるチャンスもあとわずか。次回実施は9月9日を予定しています。その翌週9月16日が会期中お会い出来る最後の機会となります。
^
暑い中の待ち時間、美術館からの帰り道、都美にいらっしゃる皆さんの気持ちを少しだけ盛り上げるべく、今日もとびコーの皆さんは様々な企画に取り組んでいます。
^
最後に、本日の「真珠の耳飾りの少女」をご紹介しま〜す。
(とびらプロジェクトアシスタント 大谷郁)

 

 

とびランチ:東京都美術館 IVORY

2012.08.13

とびラー候補生(以下:とびコー)がさまざまなちまたのランチをリサーチする「とびランチ」がスタートしました。記念すべき第一回目は、我らが東京都美術館1階にあるIVORYです。今回はとびらスタッフも同行しました!(毎回行く可能性もあります。)

通常のコースメニュー数種に加え、マウリッツハイス美術館展にちなんだスペシャルメニューも用意されています。どれにするか相当迷います。結局、ブランチコースとマウリッツハイス美術館展スペシャルメニューを手分けして注文することになりました。ちなみに、マウリッツハイス美術館展スペシャルメニューは、オランダ・フランドルの郷土料理を洗練された技法で仕上げた、展覧会期間だけの特別コースです。

 

マウリッツハイス美術館スペシャルメニューの前菜は”ベネルクス風 ニシンマリネ アンディーブサラダ添え”。素朴な風合いながら、後味のすっきりとした一品です。

 

IVORYのコースメニューの顔と言えば何と言ってもローストビーフ。シェフが丁寧にナイフを入れてくれます。
(マウリッツハイス美術館展スペシャルメニューにはローストビーフはありません。)

 

食べてみて下さいとしか言いようがありません。相当美味しいです!

 

こちらは、マウリッツハイス美術館展スペシャルメニューのメインディッシュ ”オランダビールで仕上げた牛肉のカルボナート フランドル風”濃厚かつトロッとしたお肉が素晴らしい!

 

ともて幸せなひと時です。

 

マウリッツハイス美術館展スペシャルメニューのデザートを紹介。青いターバンを巻いた「真珠の耳飾りの少女」をイメージした”パンプリンのミルクアイス添え 真珠とラピスラズリと共に”。
マウリッツハイス美術館展スペシャルメニューは9月17日まで。まだの方は是非ご賞味ください。
ごちそうさまでした。
(とびらプロジェクトマネージャ 伊藤達矢)

及部克人ワークショップ:再現!造形講座「谷中極彩過眼図絵」

2012.08.12

及部克人先生をお迎えして、「再現!造形講座『谷中極彩過眼図絵』」と題したワークショップが行われました。今回のワークショップを開催するきっかけは、1978年より10年間、東京都美術館(以下:都美)を拠点としたワークショップ「造形講座」が継続的に開催されていた歴史に端を発します。これは当時の美術館の教育普及活動としては非常に先鋭的な試みであったそうです。そして、当時このワークショップを牽引していたのが及部克人先生(現 東京工科大学教授)。週2回を5週間(午後6時から9時まで)、計10日間1セットという密度の濃い講座ながら、定員の60名はすぐに埋まり、抽選となるほどの人気を博した企画であったそうです。
この70年代後半から行われた「造形講座」での活動を、及部克人先生ご本人のファシリテートのもと、参加者が実際に体験してみることで振り返り、コミュニケーションとアート、そして身体と地域性について考察を進めることを目的として、今回のワークショップは展開されました。
今回のワークショップの参加者は、とびラー15人(希望者多数で抽選となりました)と、群馬大学でワークショップの研究されている茂木一司先生、郡司明子先生、それに当時及部先生と一緒に「造形講座」で講師をされていた武蔵美術大学の斎藤啓子先生、加えて各大学の学生さん、それに何と当時「造形講座」を受講されていた一般の方々を含めた15人、合計30人が対象で実施されました。

はじめは「おおきなわ」というワークショップからスタート。まずは、手をつないで輪になります。しかし、及部先生が合図をしたら、今まで触れていたところでない場所で、隣りの相手と繋がらなくてはなりません。

 

繰り返して行くと、徐々におかしな格好になってきます。いろいろな形のポーズが組み合わさると、身体という素材を使った空間表現にも捉えられます。絵や彫刻が主流のアートとして認識されていた時代に、一般の方々を相手にこれをやるのはかなりアバンギャルドだったのではと想像します。

 

繋がることでさまざまな形が生み出されることを体験した後は、「大切な布」をつかったワークショップに移ります。参加者には事前に「大切な布」を持参してお越し下さいとお伝えしてありました。そして、思い出のある「大切な布」を広げて、円陣に座ります。

 

一人ずつ、布に込められている思いを語って頂きました。彼女が手に持っているのは、彼女のおしゃれ感覚に大きな影響を与えた、古着屋で買ったラルフローレンのスカートとのこと。布の紹介が終わったら、みんなで布を隣りから隣りへと手渡しで触れて行きます。お話から得た布の印象と、触ってみた感触が一体となった時、その布に込められた思いを、少しだけ共有できたような気持ちになれます。

 

布に込められている思いを語ったり触ったりした後は、それぞれがその思いを「三行の詩」でまとめます。いろいろな思い出が持ってきて頂いた布に込められています。本当にみなさん「大切な布」を持ってきて頂きました。

 

そしてなんと、みなさんの「大切な布」をクリップや安全ピンで繋ぎ合わせて、オブジェ?のように組上げて行きます。もはや素材が繋がるという域を超えて、そこに込められている記憶が形を紡ぎだすような作業に感じられました。

 

続いて、「三行の詩」は1行ずつビリビリと切り離されます。

 

参加者は自分の詩の中から1行だけ選び、他の参加者のものと順不同に並べます。すると、今度は「大切な布」の記憶の断片を結びつけることで生まれる、一風変わった詩が生まれました。これを「群読」してゆきます。声をそろえて強調して読むところ、反復するところ、一人で読むところなど、相談しながら、詩を読むリズムをつくってゆきます。

 

最後に「大切な布のオブジェ」を舞台として、「群読」に「おおきなわ」でやったような身体表現を加えれば、前衛的な演劇へと集約されて行きます。初対面の参加者同士がわずかな時間で意思の疎通を行い、それぞれの身体や記憶の片鱗から浮かび上がる表現の糸口をコミュニケーションを通してたぐり寄せ、声や形を共有する表現体験へと結実させて行くプロセスは大変魅力的に感じられました。

 

ここで少し、体を動かすワークショップを休憩して、「NPO法人たいとう歴史都市研究会」から椎原晶子さんを講師にお迎えして、東京都美術館と東京藝術大学に隣接するまち「谷中」の歴史についてお話をして頂きました。
^
江戸時代、谷中一帯は江戸の鬼門にあたり、今でも寛永寺や大小さまざまなお寺が見受けられます。また、今でも昭和の香りのする古き良き東京の下町を忍ばせ、「まち歩き」のスポットとなっています。

椎原さんのお話で大変興味深かったことを一つ。江戸には”いろはにほへと・・”でグループ分けされた「まち火消し」がいました。谷中一帯は「れ組」の所管であったそうです。明治になり「まち火消し」がなくなると、「れ組」の方々は、美術館の作品展示運搬業に転身していったとのこと。谷中のまちと上野のお山にある美術館とのつながりは意外なところからはじまっているのだなぁ~とびっくりしました。

 

椎原さんから、谷中の歴史と美味しいお店を教えてもらった参加者は、早速まちに繰り出して行きます。谷中を見学しながら、ランチを食べて、グループごとに親睦を深めます。

 

東京藝術大学からほど近いところに、老舗カフェ「カヤバ珈琲」があります。とびらスタッフはここでランチです。

 

店内はそれほど広くはありませんが、昭和の雰囲気と、おしゃれなでボリューミーなメニューが楽しめるお勧めスポットです。稲庭さんはハンバーグランチセット、近藤さんはハヤシライス。どちらも美味しそうです。

 

お腹がいっぱいになった後は、「旧平櫛田中邸」へ。椎原さんから教えていただいた通り、一般公開されていました。

 

平櫛田中は旧東京美術学校の教授だった方で、日本を代表する木彫家でもあります。この旧平櫛田中邸は、平櫛田中がまだ木彫家として世に出ていなかったころ、仲間の日本画家などが寄付を募り、彼の創作活動を支援する目的で、住居件アトリエとして建てられたそうです。

なので、平櫛田中もその気持ちを汲み取り、自分のアトリエとしてだけ利用するのはなく、よく弟子を呼んで指導し、アトリエの壁には天井まで届く大きな本棚を置き、いつでも閲覧できるようにしていたとのこと。
そんな平櫛田中のアトリエは、今では一般に公開され、イベントによっては写真のようにまったりと午後のひと時を過ごすコミュニティスペースとして活用されています。

 

玄関先では丁度、韓国人アーティストのユ・カンホさんのワークショップが開催されていました。丸太をのみで削って、椅子をつくっています。とびらプロジェクトアシスタントの大谷さん、のみ捌きなかなか上手いね。

 

谷中散策を終えて再び都美へ。みなさんランチを食べながら、午前中のワークショップのことや、谷中のことなど色々話合ってきた様子でした。早速、及部先生のワークショップ午後の部再開です。二人組になって向かい合い、床に置かれた白い紙の上に、毛糸を垂らしてお互いの似顔絵を描きます。毛糸は上から垂らすだけ、画面に触れてはいけません。

 

難しい!と思いきや、凄い! 結構似てくることにびっくりしました。

 

続いて、「一筆描き自画像」鏡は使いません。自分の顔の記憶を頼りに一本の線でぐいぐい描いて行きます。

 

上手ですね。良く描けてます。

 

なんか、似てます。(笑)

 

次はまた二人組になり、今度は手元を見ないで、お互いの顔を描きます。一通りできたら、描いてもらった自分の顔について、グループごとに感想を発表して行きました。
しっかり観察して、形をとらえて、丁寧に描いてゆかなければ、思ったようには描けない、わけではない、ということが分かりました。むしろ、感じた印象をストレートに出すことで、ものの本質に近づくことができる様な気持ちに感覚をシフトさせてくれるワークショップでした。
感じた印象をストレートに出すことは簡単な様で、実はすごく難しいことだと思います。ですが、それは出す力がないから難しいのではなく、普段の思い込みや、習慣、知性がそれを阻害しているからなのかもしれません。そこで、それらの機能を一時的に停止状態にさせるプロセスを描くという行程に組み込むことで、感覚をストレートに出し易くする、そうした配慮がこのワークショップには含まれている様に感じました。

 

記憶や印象を形にする感覚が少し身に付いたところで、次のワークショップに移ります。5色の布と毛糸、それに谷中散策の途中でもらったチラシや地図などを使い、谷中散策を形にしてゆきます。

 

これは、三軒間というスペースでお昼を食べようと向かったチームの中の一人の作品。店の前まで行ったのに、営業時間になっておらず、入れないで立ち尽くすグループ一同を表現しているそうです。

 

一人ひとりがそれぞれ感じた谷中のイメージや、散策での出来事などが次々に形になって行きます。そして、グループごとに他のメンバーが何をイメージしてつくったのかを互いに聞き合いながら、テーブル上の作品の配置を考えて行きます。自分のイメージと隣りのイメージの関係を繋ぎあわせることで、谷中散策に抽象的な形が与えられて行きました。
このテーブルの上には、個々の記憶であり表現でもある作品がそれぞれが独立して有りながらも、他の作品との関係性が意識されることによって、共通の体験を表す一つの作品ともみることができます。不特定多数のメンバーで一つの価値観をつくりあげるのではなく、あくまで個人のパーソナリティーを尊重した上で、個々の繋がりから全体像を見いだす重要性と可能性がこのワークショップに内在している様に感じました。また、そうしたことは普段のコミュニケーションの基本であるにも関わらず、日常に於いてそれが成り立つコミュニティーをつくることの難しさに対する言及と一つの提案が、一日かけて行われた一連のワークショップのストーリーであった様にも思われました。
きっと、はじめてこのテーブルの上にある作品を見た人は、それがなんであるかを理解することは難しいでしょう。しかし、今回のワークショップの一連の流れを体験した人たちには、それが単なる表面的な造形美ではなく、参加した個々人の潜在的な感性により引き出された、言語では表すことができないリアリティーを内包した造形物として理解できたのではないかと感じます。
そして僕が及部流ワークショップを体験した最後の感想としては、その極意は恐らく、この一連の体験を一概に分析できない程の多様な切り口と、理解寸前で寸止めさせる絶妙な終わり方にあるのではないかと勝手に思っています。ワークショップの食後感としては、・・・・心地よいもやもやな後味をひく体験って感じでした。
そしてそれこそが「谷中極彩過眼図絵」なのでしょうか? 及部先生〜。

 

ワークショップが終わったあとは、インターンの真砂さんに、「造形講座」について研究発表して頂きました。
みなさんお疲れさまでした!

(とびらプロジェクトマネージャ 伊藤達矢)

カレンダー

2025年4月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930  

アーカイブ

カテゴリー