東京都美術館× 東京藝術大学 「とびらプロジェクト」

活動紹介

ついに都美デビュー!はじめまして、とびラーです!

2012.08.05

「マウリッツハイス美術館展」の作品が展示されている企画棟の1 階、2階には、見晴らしの良いラウンジがあります。作品を観たあとに、カラフルな椅子に腰を下ろしてひと息ついたり、買ったばかりのカタログをさっそく広げる人も。大きなガラス面からは、東京都美術館(以下、都美)の正門から入口に向かう人の波も見えます。
「なんだ、あれ?」
「青いターバンがいっぱい…コスプレ?」
おや、正門周辺の様子がいつもと違うようです…早速、見に行ってみましょう!!

正門から、にぎやかな旋律が聞こえてきます。どこかで聴いたことがある懐かしいメロディ。演奏しているのは、とびラー候補生(以下、とびコー)有志で編成された「とびら楽団」です。団員はフェルメールの「真珠の耳飾りの少女」と同じ青いターバンを巻いています。美術館入口で青ターバンがライブ演奏という予想外の出迎えに、暑さの中、足を運んでくさったお客様の顔も思わずほころびます。

演奏曲は、NHK「みんなのうた」でおなじみの「メトロポリタン美術館」。この曲はもともとニューヨークのメトロポリタン美術館を舞台とした物語をモチーフにしていますが、都美もTokyo Metropolitan Art Museum であり、秋にはニューヨークのメトロポリタン美術館展が開催される縁もあって、最初のレパートリーに決定したのでした。

楽団結成は5月末。演奏が好きな人、歌なら歌えるという人…経験不問、やりたい人全員ウェルカム!カスタネット、サックスから旅先で買った打楽器まで、楽器はすべて持ち寄りでスタートしました。8月まで2ヶ月あったとはいえ、平日は学校や仕事があるメンバーが多いため、自主練習と数回の合同練習で当日を迎えましたが、その演奏は、お客様を笑顔にするには十分なものでした。

楽団を横目に歩みを進めると、今度は楽団とは別の青いターバンの集団がいます。
「顔の向きはそのまま!視線をこっちに!」
「そうそう!はいっ、撮ります!」
撮るって…いったい何を???見ると、お客様が青いターバンを着けて大きな額縁から顔を出してにこやかにカメラに収まっていました。旅先で、歴史上の人物の等身大看板の顔がくりぬかれたところから顔を出して写真を撮ったこと、ありますよね?仮にそれを「顔出し」と呼ぶとします。その顔出しを更に進化させ、マウリッツハイス美術館展の目玉作品、フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」でやってみよう!というとびコー発案企画「あなたも『真珠の耳飾りの少女』プロジェクト」だったのです。

ターバンをつけて撮影なんて、本当はやりたくても人前では恥ずかしいかもしれない。誰かがサクラで並ぼうか、という声もありましたが、始めてみると「やってみたい」というお客様があっという間に列を作りました。写真映えする手作りの衣装、リアルな額縁、フェルメールに扮した企画発案者(とびコー)・小野寺伸二さんの目線指導付きの撮影に、有料サービスかと思い込み「おいくらですか?」と聞く人もいたほどです。もちろん、全て無料です。とびらプロジェクトはプライスレスな活動です。

このプロジェクトも当初は、額縁はどうする?衣装はどうする?…と「どうする?」だらけでしたが、とびコーがそれぞれの特技を生かして、ひとつひとつクリアしていきました。見てすぐに「フェルメール!」とわかる色と質感のターバンを何枚も縫った時田薫さん、額を原寸大で下書きから描き、模様をグルーガン(スティック状の樹脂を溶かして接着させるもの)で立体的に作った山近優さんをはじめ、多くのとびコーの手と汗が、オリジナルの「真珠の耳飾りの少女」を観た人もがっかりさせない“ホンモノらしさ”を作りあげたのです。

鑑賞を終え、涼しい会場から出た途端に吹き出す汗。そうだ、外はこんなに暑かった…そんな時、思わず手が出るプレゼントも用意されていました。展覧会のチラシを再利用したエコな「うちわ」です。美術館にあるチラシは色やデザインが美しいものが多く、「次はこれを観に行こう」と持ち帰ったり、印象に残った展覧会のチラシはいつまでもカタログに挟んでとっておくことがあります。そんなチラシも、残念ながら、配布期限が過ぎれば配ることはできません。とても残念です。「カワイイデザインのチラシなのに、無駄にしたくない」、そんな想いから「チラシ de うちわ」プロジェクトがスタートしました。

何度も試作を繰り返し、形を決めるまでに長い時間をかけました。とびコーの手で1 枚1 枚心をこめて仕上げたうちわ。嬉しいことに、用意した100 枚は次々にとびコーからお客様の手に渡りました。実は、うちわをゴミにしないように回収ボックスも用意していましたが、その箱に戻されたうちわはわずか数枚でした。残暑が厳しい今年の夏、今日もどこかで小さな風を送っていることでしょう。

 

とびコーのアートコミュニケータ研修が始まってからおよそ4ヶ月。この日初めて、研修の合間を縫って取り組んできた企画を来館者に向けて発信しました。1時間という短い時間でしたが、お客様の「作品を鑑賞する」という当初の目的に、ささやかなサプライズとなったのではないでしょうか。お客様の笑顔や、「次回はいつやりますか?」という声に、手ごたえを感じたとびコーも多いことでしょう。うちわの配布は規模を拡大して8 月15 日のシルバーデーでも実施。別のプロジェクトの準備も進んでおり、とびコーの都美デビューはこれからも続きます。

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最後に、本日の「真珠の耳飾りの少女」です!

ご来場、ご参加ありがとうございました。

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とびラー候補生:筆者:山本明日香(やまもと あすか)
千駄木で夫と2人暮らし。15 年勤めた民放テレビ局を数年前に退職。会社の仕事にかまけて出来なかったことに少しずつ挑戦中。美術以外で気になるテーマは、うつわ、テキスタイル、リフォーム、ニュージーランド、そして食。食べて鍛える「舌の筋トレ」歴10 年。
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「とびの人々」vol.2:すべてのお客様が何かと出会える場所に ~ミュージアムショップ店長 永田愛さん~

2012.08.03

とびらプロジェクトマネージャ 伊藤達矢です。
東京都美術館(以下:都美)では、とても魅力的な人々がたくさん働いています。そこで、都美で働く人々の横顔を、このブログで時々紹介して行きたいと思います。「とびの人々」2回目は、ミュージアムショップ店長の永田愛さんです。そして「とびの人々」は、とびラー候補生(以下:とびコー)のインタビューによって進められます。今回の記事をまとめてくれたのは、とびコーさんの山本明日香さんです。
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「マウリッツハイス美術館展」の来場者は既に40 万人を越え、猛暑の中、入場待ちの都美の敷地外まで伸びる日もある。クーラーの効いたロビーに入ると、まず目に入るのが、明るい光が差し込むミュージアムショップ。ここでも、フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」のポストカードを手にした人の列が出来ていた。定番のポストカードはもちろん、アクセサリーや、江戸切子を始めとする日本の伝統工芸品、上野の街にちなんだグッズまで、目移りしてしまう。
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都美のリニューアルオープン以来最も忙しい時期を迎えたミュージアムショップを率いるのは、店長の永田愛さん。永田さんは、ショップを単純に「買ってもらう場所」ではなく、「いるだけで楽しい場所」にしたいと話す。
[永田]「お客様が欲しいものは何だろう」。スタッフと一生懸命考えて商品を選びます。ただ、「欲しいだろうな」と予想出来るものだけでは、平凡なラインナップになってしまう。たとえ売れなくても「都美のショップにこんなものが売っていたよ!」と誰かに伝えたくなるような、「魅せる」、「楽しませる」品物も意識して選ぶようにしています。
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永田さんは京都の美大で染色を学び、自身も作品を制作していたが、たまたま人に頼まれて販売の手伝いをした時、「品物を仕入れて販売する」という仕事に大きな充実感を得る。故郷の熊本の現代美術館のミュージアムショップから販売の仕事をスタートし、住まいを東京に移してからも、ここ都美で店頭に立つ。地方の美術館と都美では何か違いはあるのだろうか。
[永田]この美術館は、特別展だけではなく、ほぼ1週間単位で公募展が開催されるという他にはない特徴があります。このため、来場者の数が本当に多く、年齢層もとても幅広いと感じます。書道の公募展がある時期は、書道関連の品物を、絵画作品が多い時期は、絵画関連の書籍を増やすなどの工夫もしています。
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常設の作品が無く、週単位で展示内容が変わる美術館。売る側からすれば、さぞかし販売戦略を練りづらいだろうと想像するが、永田さんは「それもお店の個性」と考えている。
[永田]もちろん、中心は年齢層の高いお客様ですが、その方だけに受ける品物にはしません。逆に、都美のリニューアルを機に、若い人だけが手に取る品物を並べたら、以前から通ってくださっているお客様が楽しめません。特定の人だけではなく、都美に来るすべてのお客様が、ひとつでも「おもしろい!」と思えるモノと出会えるよう、幅広い品揃えを心がけています。お客様にはお店で「自分には関係ないモノばかり」と“疎外感”を感じてもらいたくないのです。
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改装後の店舗には新しい試みの場所も作った。都美のある上野にちなんだオリジナル上野グッズの販売や、特別展に関連した書籍を集めて「ライブラリー」として紹介するなど、期間限定のイベントスペースだ。
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[永田]小さい規模でもワークショップなど、お客様が参加できるイベントもやってみたいです。学芸員や、とびラーのおすすめ商品なども紹介できたら楽しいですね。
疎外感なく、アートを身近に感じてもらうために何を提供するか。発信するか。販売という方法は持っていないものの、私達ととびコーも永田さんと同じテーマで春から活動を始めた。「自分達スタッフだけではなく、美術館に関わるさまざまな人たちと一緒にアートの魅力を発信してゆきたい」という永田さん。これからのとびコーの活動の力強いパートナーになってくれるはずだ。
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とびラー候補生:筆者:山本明日香(やまもと あすか)
千駄木で夫と2人暮らし。15 年勤めた民放テレビ局を数年前に退職。会社の仕事にかまけて出来なかったことに少しずつ挑戦中。美術以外で気になるテーマは、うつわ、テキスタイル、リフォーム、ニュージーランド、そして食。食べて鍛える「舌の筋トレ」歴10 年。
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あいまいな記憶と証言でたどる:「あなたも真珠の耳飾りの少女プロジェクト」活動報告前編

2012.08.02

とびらプロジェクトマネージャ伊藤達矢です
とびらプロジェクトで活動開始前から既に伝説かと噂される「あなたも真珠の耳飾りの少女プロジェクト」から中間報告が入りました。
記述はとびラー候補生(以下:とびコー)の小野寺伸二さんです。
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東京都美術館の来場者に笑顔を、小さな思い出を持って帰ってもらう。そんなプロジェクトをやりたいと思ったのが「青タープロジェクト」の始まりです。そして直近の企画展である「マウリッツハイス美術館」展のチラシを見ていて思いついたのが“顔出し看板”でした。よく観光地やテーマパークなどに置いてある、人物の絵の顔の部分だけがくり抜いてあり後ろから顔を出せる立て看板みたいなアレ。穴から顔を出しただけで、その人物に早変わり、というアレです。看板の絵にしたいのはもちろん、ヨハネス・フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」。展覧会の目玉作品です。
 企画としては決して目新しいものではありません。でも、ちょっと新鮮で魅力的な“顔出し看板”にできるのではないかと思いました。元の作品そのものがとても魅力的なのはもちろんですが、昨今の「フェルメールブーム」のような状況の中、肖像画としては、いまやダ・ヴィンチの「モナリザ」に次ぐくらいの知名度になっている作品であること。そして、振り返った瞬間の表情を作ることが、多くの“顔出し看板”が真正面向きの中、異色の存在であること。この2点からです。看板は額縁の部分まで作り、来場者は持参のカメラやケータイでそれを撮れば来場者にとってもらえば記念になるし、その様子を周囲で見ている人にも楽しいと考えました。
 幸いなことに大作ではないので真似して作りやすそうです。そして、公開が夏休み中になることもよいタイミングだと思いました。あまり準備期間はないけれど、この世にこれ以上“顔出し看板”にぴったりの作品もタイミングもないようにさえ思えました(笑)。これはもうやるしかないと、とびらプロジェクトの掲示板に参加募集をアップしました。題して「青タープロジェクト参加者熱烈募集!!!!」。「青ター」とは「真珠の耳飾りの少女」の別名「青いターバンの少女」の略である。その段階で、単に“顔出し看板”をやるのではなく、とびら楽団を交えて、衣装も作り、賑やかなものにしようと提案しました。5月31日のことです。
 とにかくミーティングをやろうということになり、初めてのミーティングが行われたのが6月2日。どんな感じかとザックリ考えてみるような段階。衣装に関してとびコ−の越川さんが、テルテル坊主のようなスタイルで、足は男女とも黒タイツ姿、みたいなことを提案するので、私はとびらプロジェクトマネージャーの伊藤さんと顔を見合わせ、背中に冷や汗を感じたのでした。

■ミーティングに参加したとびコー越川の証言■

「そうですね。衣装というのは、青タースタッフと、青ターを周りで盛り上げるとびら楽団のコスチュ—ムのことです。確かにテルテル坊主の様な上からかぶるマントとタイツを提案しました。マウリッツハイス展が始まる6月30日までもう1ヶ月切っていると言う状況と、コスチュームなんて作れる人材がいるのか?という心配がその理由です。マント型なら、フリーサイズだし、縫うのも簡単でなんとかなりそうだと思いました。タイツはただの私の趣味です。」

 

 続く6月3日、私は出席できませんでしたが、この日もミーティングがあり、ここで衣装はターバンだけにしてはどうかとなったようです。
 6月15日、この日、とびコ−の時田さんが衣装用のターバンを作ってきてくれたことで大きく流れが変わりました。ターバンが面白い。着けてみると、女性は誰でも意外なほど似合ってきれいなんです。男性はどことなくカレーショップの店員風なのが、情けなくも楽しい。穴から顔を出すのではなく、来場者にターバンを着けてもらったら、額縁の中で写真を撮ってもらう。それでいいのではないかという意見が出ました。確かにターバンは魅力的。それを来場者に体験してもらうのも楽しそう。でも、実際にターバンの装着をしたり、管理をするようになったら、壁穴方式に比べてさまざまな負担が増えるのではないか。それを予感して、私自身は多数決にも参加できないほど迷いましたが、結果はターバン方式に決まりました。ただ、ターバンそのものの形式は、管理や装着の手間を考えて、実際に布を巻くのではなくヘアバンド形式にしました。
■ミーティングに参加したとびコー田中の証言■
「僕はこの日、とびラボで何をしているのか全く知らぬまま、アートスタディルームに向かいました。ドアを開けて中に入るや否や、真っ青な布を頭にクルクルと巻かれてしまい…。あれが生まれて初めての女装経験でした。青ターに参加したのは、後にも先にもその1回ぽっきりでしたが、一生忘れられない良い思い出です。」
 7月15日、とにかく8月5日にそれらのチェックを含めて、通し練習のようなことを行い、流れ次第では本番実施に入ってしまおうということが決まりました。わかりやすく言うと「ぶっつけ本番」だと思います。ちっとも練習ではありません。ちなみに、この時点で肝心の額縁はまったく出来上がっていませんでした。
 8月の1日・2日で額縁を作ることになりました。材料はスチレンボードとホットボンド。実は額縁をなるべくきっちり作るというのは当初から重要なポイントだと考えていました。しかし、もはや時間がありません。そこで、額縁の設計として、平面状の作るのに簡単なものと、作るのにちょっと手間がかかる立体感が出るものの2種類を提案したのですが、その場にいた人たちは、よりによって作るのが面倒なほうを、当然のような顔をして選ぶのでした。額の模様は本物そっくりとはいかないけれど、かなり複雑なものにしました。しかも、私の希望で、額縁の模様の中には「フェルメール」と「ローストビーフ」の文字をこっそり入れておくことになっているのです。しかし、とびコ−の山近さんの職人的な技と「秘密工作部隊」の活躍で、かなり複雑な模様を実現することができました。多くの人の協力を得て、ついに額縁完成へと至ったのです。初「青ター」実施3日前のことでした。
■額縁作りに参加したとびコー長井の証言■
「初めは文化祭準備のノリで賑やかにスチレンボードを切り出していましたが、模様をトレースするあたりから、皆、寡黙になってきました。「間に合うのか?」額縁を見ると今もホットボンドの溶ける臭いがよみがえります。熾烈を極めたのは、金色スプレー塗布作業で、新装都美を汚してはならぬと屋外退去を命じられました。屋外作業では、蚊の大群に襲われ、足に10匹位黒い蚊が止まっているのを見た時は卒倒しそうでした。よくぞ完成、感無量です。」
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今回の執筆にあたっては以下の3名のとびコーさんたちに協力してもらいました。越川さくら・田中進・長井靖子。
 
【もっと面白い(はずの)後半に続く】
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とびラー候補生:筆者:小野寺伸二(おのでら しんじ)
児童書用になぞなぞの問題を作ったり、クロスワードパズルを作ったりしている。企画は好きだが、実施は苦手。

 

「とびの人々」vol.1:アートの書物を届けるひと(美術情報室:重住優さんと、奥田真弓さん)

2012.08.01

とびらプロジェクトマネージャ 伊藤達矢です。
東京都美術館(以下;都美)では、とても魅力的な人々がたくさん働いています。そこで、都美で働く人々の横顔を、このブログで時々紹介して行きたいと思います。「とびの人々」第一弾は、美術情報室で働く、重住優さん(美術情報室チーフ)と、奥田真弓さん(美術情報室サブ・チーフ)です。そして「とびの人々」は、とびラー候補生(以下:とびコー)のインタビューによって進められます。今回の記事をまとめてくれたのは、とびコーさんの阪本裕一さんです。

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<美術情報室>

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都美1階アートラウンジ。佐藤慶太郎の銅像を横目に自動ドアを抜けて、奥の廊下へと進んで行くと、書斎のような小部屋があります。ここは<美術情報室>と呼ばれ、開架図書4500冊・閉架図書35000冊、アーカイブ資料1200点を含めれば、約40000点の資料を保管している都美の“情報センター”です。美術情報室の運営は、図書館流通センター(以下:TRC)が担っており、世界の美術をフィーチャーした書棚の立ち並びがわれわれの目を惹きつけます。
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今回は美術情報室で働く重住優さんと奥田真弓さんのお二人の女性にお話を伺うことができました。
インタビューの場所はとびらプロジェクトの拠点、都美交流棟2階の<プロジェクトルーム>。部屋のホワイトボードはイラストと文字でびっしりと埋まり、黒い壁面はメッセージ入りのカラフルな付箋が貼られ、ひろい窓からは上野の森の緑風が吹く、アイディア溢れる一室です。インタビュアーはとびラー候補生の山本明日香と阪本裕一。そしてとびらプロジェクト・マネージャの伊藤達矢さんとコーディネータの近藤美智子さんを交え、和やかな雰囲気で会話ははじまりました。
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< 写真:重住優さん(美術情報室チーフ) >
──まず、重住さん、奥田さんのお二人が都美の美術情報室で働くきっかけは何だったのですか?
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[重住]TRCは公共の図書館を多く運営していますが、都内の美術館の図書室を運営するのは、ここの都美がじつは初めてなんですね。それで、社内でここの情報室で働く人員募集がありまして。私は3年間新宿の早稲田の公共図書館で勤めていたのですが、美術に興味があったので、「是非!」という志望を出したのがスタートでした。いま、ここの美術情報室は私をふくめて6人のスタッフがいますが、みんな自分から都美の仕事を嘱望してやってきています。
[奥田]はい。私の場合も、もともと専門的な仕事をしたいということを常々社内で相談していたところ、「都美どう?」と声をかけてもらったのがきっかけでした。
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──みなさん自ら望んでこちらへ働きに来られているのですね!ところで、美術情報室は公共図書館とは違った機能をもっていると思いますが、実際働いてみてどんな感想をもっていますか?
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[重住]美術情報室は扱っている対象が美術だということが大きな特徴です。当然、専門知識の勉強や他のミュージアムの情報を学習したり、新たにやるべきことが山程ありました。新しいことを憶えるのは大変ですが、今はやり甲斐を感じています。
[奥田]図書室の機能としては閲覧のみというのが大きな違いですね。公共図書館の場合は予約・貸出・返却の流れがあり、それに延滞というのが普通に加わりますから(笑)
[重住]そういえば、ご年配のお客さまが多いことには正直驚きました。ですから、今までの公共図書館よりも丁寧な対応を心がけていますね。例えば、都美の建物はちょっと複雑なので、一緒にその場所までお連れする場合もありますよ。
[奥田]館内でお客さまをお連れする機会はけっこう多いですね。
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──なるほど。じつはとびラーも美術館と来館者のみなさまをつなぐ存在でありたいという方針をもっています。そのあたりで、マネージャの伊藤さんからは何かご質問はありますか?
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[伊藤]都美には《“コレクション”より“コネクション”》というフレーズがありますね。“コレクション”は都美の収蔵作品数が少ないという現実、一方で“コネクション”は人と人とのつながりから都美で何かを創発させようという美術館の姿勢を、それぞれ意味しています。“コネクション”の考えは、おそらく在来の美術館のもつそれとは異なるものだとおもいます。で、とびラーはその“コネクション”の役割の一端を担っているわけですが、われわれとびらプロジェクトと美術情報室のみなさんで何か“連携”できそうなことはありますか?
[重住]個人的に思いついたことですが、都美のわかりやすいマップなどを作成してくれたら嬉しいかなとおもいます。
[奥田]マップは是非ほしいですね。
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プロジェクトルームの四角いテーブル。「じつはいまとびラー候補生でこんなものを作っているんです」と近藤さんが一枚の紙を二人に差し出しました。それは、現在作成中の“とびラー目線”による都美のマップでした。重住さんと奥田さんは感嘆して、作成途中のマップをじっくり見たあと、さらに熱心に美術情報室の展望を語ってくれました。
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──美術情報室は来館者にどんな“利用”をされていってほしいですか?
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[重住]私たちは美術の情報を発信していきたいとおもっています。いま、私たちが力をいれているのは閉架図書35000冊
をお客さまに閲覧していただけるよう『目録』をつくっていることです。『目録』は情報室に置くようにしています。そしてお客さまが『目録』から閲覧したい本をお届けできるような仕組みを整えているところです。
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──『目録』づくりは大変そうな作業ですね。しかし、利用冊数が増えるということは、図書室としての機能は拡大しつつありますね。
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[奥田]そうですね。またアーカイブ資料(館資料など)の利用拡大にも着手しています。今後、美術情報室が図書室の領域を越えていければとおもっています。
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──美術情報室が“情報交換の場”となるといいですね。さて、お二人にとって、とびラーのイメージ、またこれからのとびラーに期待していることがあれば教えてください。
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[重住]とびラーさんは都美と一般の来館者とをつなぐ大切な役目を担う人なんだろうとおもいます。ところで、プロジェクトはすごく盛り上がっていますよね。
[奥田]今までのボランティアとはちょっと違う動きをされているなぁと感じます。
[重住]たとえば“とびラー通信”のような冊子を発行してくれたらぜひ読んでみたいですね。たまに「私もとびラーになりたいのですが・・・」というお客さまがいらっしゃったり、館内の職員でとびらプロジェクトのブログが話題に上ることもありますよ。

 

 <写真:奥田真弓さん(美術情報室サブ・チーフ) >
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重住さんは、学生時分、翻訳の研究に明け暮れ、スランプに陥ったとき駆け込む場所が大学の図書館だったそうです。一方、奥田さんは本のかたちや質感や重さに愛着を持ち続けてきたそうです。そんな書物と縁(ゆかり)のあるお二人に最後の質問として『とびラーにおすすめしたい本は?』とリクエストを出しました。後日、ある一冊の本の紹介がプロジェクトルームに届けられました。
『立体で見る/美術がわかる本』ロン・ファン・デル・メール&フランク・ウィットフォード著(福音館書店)という仕掛けブックです。手に取ってみると、まさに《アートのとびら》を体現するかのような書物でした。この本のように、とびラーも、“コネクション”の力で、美術館の領域を飛び出してアートの価値を届けられるとよいですね。

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とびラー候補生:筆者:阪本裕一(さかもと ゆういち)

現在、台東区で育児に没頭しながらアート・コミュニケーター活動へ奔走する。とびらプロジェクトを街づくりの一環として認識。0歳と100歳のヒトが同等に遊べるようなミュージアム計画を野望している。趣味は相撲観戦。白鵬、日馬富士と同級生。

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障がい理解と特別鑑賞会会場確認:アクセスプログラム実践講座3回目

2012.07.30

3回目のアクセスプログラム(障がいのある方の為の特別鑑賞会)の実践講座も2回目同様に、白梅学園大学准教授の杉山貴洋先生を講師にお招きして、「障がい理解と特別鑑賞会会場確認」をテーマに行われました。

 

杉山先生から本日の流れが説明されたあとに、早速折り紙が配られ、1分間で、好きな形に紙を折るように指示が出されました。器用なとびラー候補生(以下:とびコー)はささっと鶴!まで折り上げます。そのあと、3枚重ねの軍手が配られました。分厚い軍手をはめて、先ほどの1分間の折り紙と同じ形に折ってゆきます。しかし、全く思う様に折ることができません。これは、障がい理解のための体験などでよく使われる手法とのことでしたが、出来るはずと思っていた紙を折るイメージと、動かない手のギャップは想像以上の様子。更に杉山先生からは、身体の不自由に対する理解やサポートを考えるだけでなく、障がいのある方の心的なストレスにも同時に配慮をすべきとのお話を頂きました。例えば、入口から展示室までの誘導や、エレベータの案内表示など、視覚提示できるものを使いながら、予め来館者に行動の見通しを示すことも、安心して鑑賞できる会場とするには、かかすことのできない配慮とのことでした。

 

「安心で安全な鑑賞環境」を提供するには、とびコーさん自身の目で会場を一つひとつ確認する必要があります。そこで、杉山先生から配られた、会場チェックシートを持って、グループごとに会場確認に出発しました。この会場チェックシートは、「あそこがダメ」「ここがダメ」というご意見集めではなく、「ここをもっとこうしよう」と、とびコーさん自らの行動で対応可能なサポートに変換して行くための作業です。
まずは、正門から確認して行きます。展示室の入口はB1にあるため、一度、エレベータ、エスカレータ、階段のいずれかの方法で、B1まで降りなければなりません。正門からスムーズに展示室入口まで誘導するには、どういった人の配置やサインが必要なのかをみんなで確認しました。

 

次は北口玄関前です。北口はリニューアルにともなって出来た新しい入口なので、ご存知が無い方も多いかと思います。場所は搬入口の並びとなっており、タクシーでご来館頂く場合などは、一番利便性のよい玄関です。特別鑑賞会では、車椅子での来館者が多くなることが予想されます。どの様に対応したらよいか、講師が手取り足取り教えてくれるわけではありません。とびコーさんが自らか考え、最善の対応を一つひとつ確認して行きます。自らが考え、共有して、行動するのがとびらプロジェクト流です。

 

そして展示室の中。前回の実践講座でも車椅子に乗って鑑賞体験を行うなどの研修を実施しましたが、展示室には何度も足を運んで、会場の雰囲気や人の流れのイメージを体で覚えることはとても大事なことです。この日は休室日で他の来館者はいません。グループごとにとびコーさん同士で相談をしながら、展示室の確認をしていました。

 

最後はグループごとに「ここをもっとこうしよう」について発表し合いました。「色々なサインも大切だけど不用意な掲示は美観を損なう」ならば「適材適所に人がいることが大事なのではないか」という意見や、「展示室の中の椅子の数が少ないので、もっと休憩場所をつくろう」などさまざまな対応案が出されました。「障がいのある方の為の特別鑑賞会」に向けて、とびコーさんの準備は着実に進められています。
(とびらプロジェクトマネージャ 伊藤達矢)

建築ツアー実践講座3回目:「ツアーコースについて考える①」

2012.07.28

建築ツアー実践講座の3回目が行われました。とびラー候補生(以下:とびコー)のみなさんには、前回の講座の宿題であった「ツアーコースをつくる」で、各自考えたツアーコース案を事前に担当学芸員の河野さんへ提出していました。今回は、提出されたコース案の中から河野さんが3案を選び、実際に3人のとびコーさんが模擬ツアーを行いました。これまで学んだツアーの組み立て方や方法、都美の歴史や建物の特徴等を踏まえ、自分なりに都美を伝えていきます。

口頭の説明だけでなく、スケッチブックを利用してわかりやすく示したり、前年度までの改修工事で出た外壁の破片の実物を見せてくれたり、それぞれのツアーには工夫が凝らされており、なるほどと思わせる場面もありました。

 

内容は都美の特徴である赤レンガのようなタイルの外壁についてはもちろん、館内のつくりにまで及んでいます。

 

実際にツアーコンダクターのお話を聞きながら建物の中を回ると、都美の色々な場所の雰囲気を肌で感じられ、参加者自らが発見したり気づくこともあります。

 

模擬ツアーの後は全員で今回のツアーの良かった点、改善点などについて話し合いました。今後は、各自が考えたツアーや実際に模擬ツアーを行っての反省などを活かし、建築ツアー実践に向けてコースや内容を練り上げていきます。

さて、どんなツアーが出来上がるのでしょうか、ご期待ください。

(とびらプロジェクトアシスタント 大谷郁)

「対話による作品鑑賞」:「スクールマンデー」実践講座第1回目

2012.07.23

「スクールマンデー(対話を通して作品を鑑賞)」の実践講座がスタートしました。この講座では、NPO法人芸術資源開発機構のアートプランナーである三ツ木紀英さんを講師としてお招きし、実践的な取り組みを交えながら「作品を共に味わう『鑑賞』」について学んでいきます。

まず、「スクールマンデー」担当学芸員の稲庭さんから、この実践講座の概要や小中学校における美術鑑賞教育の現状についてのお話がありました。

 

スクールマンデーとは、東京都美術館(以下「都美」)が、この平成24年4月のリニューアルを機に始められた学校の先生やこどもたちのためのプログラムで、普段は来館者も多いためなかなか行うことが難しい学校での鑑賞を、休室日に特別に開室し実践します。また、このプログラムはこどもたちとの対話を軸に、自由な意見や考えを持って周りと共有しながら、こどもたちが主体となって鑑賞できるようにサポートします。

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近年、小中学校の学習指導要領が改訂され、小学校の図画工作、中学校の美術の授業で、美術館などと連携を図りながら鑑賞活動を行う事が以前にくらべて明確に示されるようになりました。そのため美術館側でも、よりよい鑑賞の機会を学校と連携しながら生み出していきたいと考えているのです。その具体的なプログラムの一つが「対話」を通した鑑賞の授業です。対話を通した鑑賞は、生徒が10名ぐらいずつグループになり対話をしていくため、生徒の数に合わせた、対話を助けるファシリテータが必要になります。このファシリテータ役を近い将来とびラーがすることをめざし、現在とびラー候補生(以下「とびコー」)は今年度14回の実践研修を積み重ねるのです。

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そしていよいよこの講座の実践的な内容へ。講師の三ツ木さんより、対話を通した作品鑑賞の中心となるVTS(ヴィジュアル・シンキング・ストラテジー)についての簡単な概要説明がありました。

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このVTS(ヴィジュアル・シンキング・ストラテジー)とは、美術史の知識に頼らず、作品をよく見ることからはじめ、「これは何だろう?」と一人ひとりに考えることを促し、様々な意見を引き出しながら作品の見方を深めていく方法です。鑑賞者の「観察力」「批判的思考力」「コミュニケーション力」を育成する効果があり、ニューヨークの近代美術館(MoMA)の教育部長であったフィリップ・ヤノウィン氏と認知心理学者のアビゲイル・ハウゼン氏が開発し、広めたものです。日本へは90年代から、この元となっている対話を通した鑑賞スタイルが紹介されてきました。誰かと話をしながら作品を見ていくことは、私たちも日常からしている自然なことのようですが、それを単なる「会話」ではなく、意見が積み重なっていく「対話」にしていくところがこの手法のポイントと言えます。

 

概要説明の後は、実際にVTSを体験。スクリーンに映された絵画や彫刻作品をじっくり見て、気づいたことや発見したことを進行役の三ツ木さんのもと自由に発言していきます。描かれているモチーフについてや作品から受ける印象など、様々な意見が飛び交いました。

 

3つ目に鑑賞した作品は、現在都美にて開催している「東京都美術館ものがたり」にも出品されている岡本太郎の「森の掟」でした。スクリーンでの鑑賞の後は、実際に展示室へ移動し本物を鑑賞。スクリーンとは違った発見も多くあったようで、鑑賞後の意見共有でも様々な意見が出ました。

アメリカで開発されたVTSですが、アメリカは国土が広く、なかなか美術館に行くことが出来ないという人も多くいます。そのような状況の中で生まれた作品鑑賞が、今回行ったようにスクリーンへの投影やスライド等を利用する方法です。スライドで出来ることも沢山あるが、実物を前にするとより深く鑑賞出来るということを実感しました。

VTSを体験した後は、具体的な方法等について等、より詳しい概要の説明がありました。

 

このVTSを行うにあたって要となるのが、鑑賞の進行役であるファシリテーターです。ファシリテーターは鑑賞者に問いかけをしながら、上手くその場の流れをつくり意見の共有を促していきます。例えば、鑑賞者が子供である場合、言葉がまだ拙く意図が伝わらないとこもあります。発言の真意を汲み取り言い換えたりすることで、他の人との意見の共有がされやすくなります。また、ファシリテーターが行う大事なことの一つとして「中立性を保つこと」があります。VTSはひとつの「正解」ではなく「思考する」ことを学ぶプロセスを重視しています。あがった意見を断定するのではなくひとつの可能性として扱うのです。大事なのは自分の意見をまず言う事で、作品について考えることを個々の中で育つようにします。そしてまた、鑑賞の最後は意見をまとめたり要約するという事はしません。もやもや感が生まれそうですが、ファシリテーターの進行のもと、自分の意見を客観的に言葉にすることで認識し、他の人の意見も受け止めると、さらに自ら今目にしているものの意味を生成したい!つまり自ら「知りたい」「わかりたい」という内発的な思いが鑑賞者の内側に育っていくようになります。さらには、その内発的な思いが強まれば、もやもやとした疑問を他人に答えを求める形で投げ出さないで自分の中に持ち続ける「自ら考え続ける力」も育まれていくのです。

アートは言葉にするには難しい分野でもありますが、他の人の考えを聞く事、また、自分の感じたことを言葉にして誰かと共有できたという充足感は、考え学び続ける力や観察すること、またコミュニケーション能力を育んでいきます。講座の最後には3人一組になって今回の体験や意見を共有しました。

 

とびコーのみなさんは14回の講座の後に、こどもたちと対話をする実践の場に立ちます。美術館に来るのは初めてという生徒も大勢いるでしょう。とびラーさんが対話による鑑賞のファシリテータとして活躍し、こどもたちと一緒に充実した時間を過ごす、その日が今から楽しみです。

(とびらプロジェクト アシスタント 大谷郁)

チームワークとアクセシビリティー:アクセスプログラム実践講座2回目

2012.07.13

2回目のアクセスプログラム(障がいのある方の為の特別鑑賞会サポート)実践講座は、白梅学園大学准教授の杉山貴洋先生を講師に迎えて「チームワークとアクセシビリティー」というテーマで行われました。

 

はじめはグループ編成からスタート。ただしワークショップ形式で編成が行われます。スタッフがとびラー候補生(以下:とびコー)の背中に7色のシールのいずれかの色を貼ってゆきます。とびコーさんは自分の背中に貼ってあるシールの色は知りません。全員の背中にシールが貼られたら、とびコーさんたちは声を出さずに、相手の反応を伺いながら、また、周囲のとびコーさんにジェスチャーで合図を出しながら、同じ色同士のグループにまとまるように動きます。グループが出来たら一列になって着席。この何気ないワークショップの効果で、グループが編成されたきには既に意気投合できる雰囲気も出来上がっていました。ちょっとした工夫でチームワークをつくる導入となるのだなと関心しました。

 

続いて、「早並びゲーム」。編成されたグループ対抗で行います。最初は「手の小さい順」にとびコーさんが整列し直します。早くできたら順から全員揃って着席。その後「名前の五十音順」「自宅から東京都美術館までの時間順」と続きます。実はこのワークショップ、ゲーム感覚で自己紹介を自然にする為の手法とのこと。

 

予め配られていた(個別の顔写真付き)シートに、各自のゲームでの答えを記入してゆくと、自己紹介カードが出来上がります。チームワークをつくるワークショップの手法を体験することはとても楽しく、こうした経験はこれから小学校との連携などで役立ててゆけそうですね。

 

続いては「クイズ東京都美術館」。早速ですが問題です。「プロジェクションされた4つの写真はいずれも東京都美術館の玄関です。A、B、C、Dの玄関を北口、東口、正面、搬入口 の順に並びかえなさい。」できた人から手をあげて解答します。2問目はかなりの難問。何も展示されていない4つの展示室の写真を入り口から出口の順に並び替えるもの。3問目は現在マウリッツハイス美術館展で展示されている絵画を入口から出口の順に並び替える問題でした。いずれの知識も、障がいのある方の為の特別鑑賞会サポートには必要な知識でしたが、こうした手法で覚えると学習意欲もあがります。解答結果はというと、さすが都美に精通しているとびコーさん、迅速に正解を導きだしていました。
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後半は杉山先生に「障がいのある方の為の特別鑑賞会」を実施するあたり、「アクセシビリティー」をキーワードに具体的な注意事項などを含めたレクチャーをして頂きました。
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この「アクセシビリティー」とは、基本的には「バリアフリー」や「ユニバーサルデザイン」とほぼ変わらない「利便性」を指す言葉だそうです。しかし、「バリアフリー」や「ユニバーサルデザイン」が建物に付帯するのに対して、「アクセシビリティー」はアクセスする側に主体性があるとのこと。東京都美術館はバリアフリーとなってはいますが、それで全ての利便性が補われる訳ではく、そこに見守る人の目があることが何よりも大事。そこで、次回の「障がいのある方の為の特別鑑賞会」でとびコーさんが担うべきことは、ご来館頂くみなさまに「安心で安全な鑑賞環境を提供すること」が第一であり、その上でより有意義な時間を過ごしてもらう工夫が必要とのお話を頂きました。また、何かしてあげなくてはという気持ちから、「サポート」が「おせっかい」にならないように注意し、特に、障がいの名前ではなく、その場の困っている状況に寄り添うことが大事とのことでした。
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次回の「障がいのある方の為の特別鑑賞会」の組み立て方については、僕も杉山先生と事前にいろいろとお話をさせて頂きました。少人数のとびらスタッフで大勢の障がいのある方のサポートを行う場合、残念ながらケア出来る範囲にも限界が出てきます。なので、ご来場頂く方々が介助者の方と共に主体的に鑑賞して頂くことを基本とした上で、我々は「より何をすべきか」を考え、よりよい鑑賞体験を提供できる様に、とびコーさん一同と共に工夫をこらして行きたいと思っています。
(とびらプロジェクトマネージャ 伊藤達矢)

アクセスプログラム(障がいのある方の為の特別鑑賞会サポート):実践講座1回目

2012.07.05

アクセスプログラム(障がいのある方の為の特別鑑賞会サポート)の実践講座がはじまりました。初回、「マウリッツハイス美術館展」特別鑑賞会は8月27日(月)に予定されています。今回の講師は学芸員の大橋さん。「マウリッツハイス美術館展」の担当学芸員でもあります。はじめに、大橋さんから展示室内でのマナーや、これからはじまるアクセスプログラムの実践講座の概要について説明がありました。

 

本日は休館日(月曜日)。誰もいない展示室で、実践講座が進められました。まずは導線の確認をしながら、大橋さんに作品の解説をして頂きました。

 

展示室内にある長いエスカレーター。普段は1時間~2時間待ちで大混雑している館内ですが、今日はひっそりしています。

 

歩いて一通り導線を確認した後は、二人一組になって、車椅子で作品の鑑賞をして頂きました。車椅子で展示会場を移動するにはどうすれば良いか、またどのくらい離れれば作品がよく見えるかなどを直接体験して頂きました。車椅子が何台も展示室にあるときは、普段よりも展示室が狭く感じます。目の不自由なお客様もいらっしゃると思うので、空間の把握は大事です。
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当日は相当大勢の障がい者の方が来館される見通しです。色々工夫を重ねることで、アスセスプログラムが育って行ければと思います。
(プロジェクトマネージャ:伊藤達矢)

壁プロジェクト推進中

2012.07.01

とびらプロジェクトマネージャ伊藤達矢です。
現在とびラー候補生(以下:とびコー)によって「壁プロジェクト」が進められています。壁のある場所はとびらプロジェクトの拠点、東京都美術館交流棟2階プロジェクトルームです。どんなプロジェクトなのか、担当とびコーの大政さんがレポートしてくれました。
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壁プロジェクトは、アートプロジェクトルームの壁を使って、共通の話題にコメントを足していくとびコーやとびらスタッフ同士のコミュニケーションの場としてスタートしました。 8月までに、質問として「とびラ―としてやりたいこと、考えたいこと」「どうしてもやめられないこと」と、3分以内に絵を描く「壁美術館」として「自転車」「夏と言えば思いつくもの」というテーマがあげられました。壁プロジェクトが起こっている場所であるプロジェクトルームは、スタッフのみならずとびらプロジェクトに関心のある外部の方が打ち合わせ等で出入りする場です。活動の動きやとびコーの気持ちが、目に見える形で伝えることができる場にしようと日々模索中です。

 

ただ言葉を集めるのではなく、生まれてきた活動の動きやつながりが見える「マインドマップ」にしたり、個が集まると全体が見える仕掛けを作ったり・・・・・・というように様々なアイデアが生まれてきています。まだまだこれからのプロジェクトですが、将来的にはとびラー同士に加え一般の来館者とつながる場としての「壁」が生まれることを期待しております。
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とびラー候補生:筆者:大政愛(おおまさあい)

筑波大学芸術専門学群美術科洋画コース所属。「アートの力で病院の空気をおいしく」をモットーに筑波大学附属病院などで活動中の「アスパラガス」プロジェクトに所属。「アートワークショップ」「コトづくり・場づくり」「つながること」に興味関心を持って、たくさんのことを吸収・模索中。また、どこか人の気配を感じるシロクマなどもふもふした動物を描くことを好み、ささやかな展示活動などを行って いる。

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