12月初日の晴れた上野・東京藝術大学彫刻棟。天井の高いアトリエから木を彫る音が響き、関楓矢さんが木の香り漂う制作現場で迎えてくれました。
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1.卒業制作について
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– この作品はどのようなものですか?
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卒業制作は、男女の立像と獣(けもの)がいて、三体の一部がつながっている木彫を作っており、それぞれのパーツが組み替えられる作品を制作しています。頭、腕、足、胴体、尻尾が組み替えられるので、とても数えきれないほど、沢山の組み合わせがあります。獣の体に人物の頭を組み合わせたり、尻尾の部分に腕が付いていたりしても面白いかなと思います。
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– 組み替え可能な構造はどのようにして着想されたのですか?
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昨年2024年の冬、唐招提寺の千手観音が修理のためにいくつものパーツに分解されている写真を見る機会があり、構造が露わになっている姿に衝撃を受けました。同時に、もし仮に数本の手の位置が入れ替わっていたり、または欠損していても観る側にはわからないのではないかとも思いました。実際、本来は1000本あったと考えられている手も、現存するのは953本だそうです。像と参拝者あるいは鑑賞者との関係性を考えると、みかけが変わっていても、ある意味成立してしまうのではないかと思い、その感覚を作品に取り入れました。
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関さんが感銘を受けた分解された千手観音の写真
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– 何通りにも見せられるということですか?
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はい。ひとつの彫刻の中に様々な実像のあり方があり、いろいろなパーツを組み替えることで見え方が変わるということを表したいと思いました。また、大学生活の中で、生活環境や内面の変化を抱えながら生活しているのですが、周りから見たらそれは見えない。外から見たら内面とは違う自分が見えているというギャップを表すことも考えにありました。形を変えることで感じることが変わってくる、だけどそれが正しいかは分からない。そういう部分を観せられたら良いなと思っています。
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– この作品があることで空間に緊張感がありますね。
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嬉しいです。組み変えるということは形態の変化にとどまらず、そのたびに周囲の空間にも影響します。いわば、多層的な空間表現を目指しているというところです。それは、彫刻表現を通じて並立する世界線を示唆するようなものだとも思っています。その作用のあり方を、常に考えています。
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– 素材はクスノキなのですね。
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クスノキは彫刻材としてはオーソドックスな木です。卒業制作にあたり、様々な木を試しましたが、試行錯誤でクスノキに戻ってきました。
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– 卒業・修了作品展(以下、卒展)では展示期間中にパーツの組み換えなどするのでしょうか?
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パフォーマンスとして組み替えているさまを見せるという手段や、写真作品を展示することで組み替えができる構造や状況を表すアイデアもあります。パフォーマンスや組み替えについては各所と交渉中です。結果次第では、また違う観せ方を検討します。ある程度彫り終えたら、着彩もしようと思っているので、印象がかなり変わるかもしれません。タイトルもいろいろ案があるのですが、まだ決まっていません。楽しみにしていてください。
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2. 原点と出会いについて
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– 彫刻を始めたきっかけは何ですか?
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美術系の高校に通っていたことがきっかけです。はじめは直感的でしたが、学び進めていく中で次第に没頭していきました。木彫に触れる機会もあり、靴を彫ったのを覚えています。
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– 素材が木ということで、うっかり必要なところを落としてしまうなど、制作中の苦労はありますか?
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パーツの結合部位が特に繊細で、破損させてしまったこともあり「やってしまった」という感じにはなりますが、比較的それを前向きに捉えているので、あまりストレスに考えたことはないですね。作品について再考する機会が生まれると思っています。
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– 制作中の喜びはどんなときに感じますか?
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像が立ち上がった時の喜びは大きいです。制作が進むにつれて作品に対してどんどん実感が湧いてきます。最初は平面のドローイングだったのが行程が進むごとに、自分のイメージが空間にでき、実態となっていき、そこで初対面というか「こんにちは」と作品と出会うのが一番の喜びです。
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– 今までの制作作品の中にも今回の作品に通じるものがあるのですか?
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一貫して、虎あるいは獣のようなモチーフを引用して制作をしてきましたが、分解ができるスタイルの作品は学部2年生(2023年)の11月くらいからです。この時はスカジャンに縫われた顔虎(ガントラ)と呼ばれる刺繍に着想を得て、阿吽の構成となっている作品を制作しました。昨年2024年には今回の形式と少し通ずるような、分解できて組み換えできる木彫作品を制作して今に至ります。
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2024年の分解組み換えできる作品
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3. 制作の過程について
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– どのようなものを作品の糧としてインプットされていますか?
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今、すぐに思い浮かぶものとしては、スマホの待ち受けにしている新宿御苑の木が一本あります。桜が満開の時期に見たのですが、この木は、葉も花もないのにイキイキとしている気がしました。すでに朽ち始めているようにも見える、名前もわからない小柄な木でしたが、とにかくかっこいいなと思い、忘れられない印象を持ちました。
僕はいろんなものからインスピレーションを得て、アイデアがとっちらかってしまうところがあるのです。いろいろなものからあれもいい、これもいいなと思ってしまう。それをいかに集約して作品としてどうみせるかを意識しています。時に、彫刻は多義的な恒久性を併せ持つ側面があるかと思いますが、この分解できる作品は、そのこととの抗いの表現で生まれたとも思っています。
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スマホの待ち受け画像の新宿御苑の木をみせてもらう
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– 卒展を意識したのはいつ頃からですか?
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千手観音の手が展開されている写真を見たのが去年学部3年生の時で、その頃から意識しました。今のプランになったのは今年の3月くらいです。それ以前はこんな姿になるとは思ってもいなかったし、自分の制作技法が木彫になるとも思っていませんでした。木彫以外の制作もやっていましたが、主題を反映する際に何が素材として最適か考えた時に木彫だと徐々に決まっていきました。
頭に浮かんだ瞬間は、これだ!と思いましたが、リサーチを重ねるごとに違うなと思うことも何度もあり、制作が始まってからもプランは変わっていきました。
最初のプランのエスキース(下絵)では男女が居て、獣が居て首輪でつながっている感じでした。身体を隠すようなわからなさを全面に出していましたが、構想が進むごとにビジュアルを変え、首輪をなくし、足元も最初はつながっていませんでしたが、全体が繋がっている方がいいなとなり形は変化していきました。
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最初のプランでは男女の身体が隠され獣は首輪で繋がっていた(スケッチブック右ページ)
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構想が進んでからの男女の下絵は足の形があらわになる
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– 下絵から立体にする過程では、粘土などで模型を作っているのですか?
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固まらない油粘土で形を探りながらマケット(模型)を作ります。完成サイズを大体想定して縮小率も考えています。この段階はなるべく自分がイメージできる範囲内の手のひらサイズのものを作ります。その後は、乾くとある程度固くなる水粘土で形が変えられないものをスケールを大きくして作ります。
マケットを作っている時に、身体が完全に全部くっついていたプランから気持ちが変わっていって、どんどん分解できる箇所を増やし、全部取り外して組み替えたいと思うようになりました。
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「ボロボロですが」と言いながら油粘土の模型を見せてくれました
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– 使うクスノキはもともと大きな丸太だったのですね。
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そうです。使ったのは大きいもので直径1mほど、長さは2m10cmくらいだったと思います。およそ5本の木から使うパーツごとに切り出しました。男女、獣もすべて交換できるパーツ間ごとに、腕は腕、頭は頭の木から、といった感じで使用する丸太を統一して作り上げています。
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– 木目も意識して切り出しているのですか?
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ある程度予測は立てられますが、実際に木目がどう出てくるかは彫ってみないとわかりません。虫喰いや節などもそうです。人物の膝のところにちょうど木の節が出てしまったのですが、それもいいなと思ってそこに獣のしっぽの先を持っていこうと思いました。
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人物の足に現れた木の節の色の濃い部分と獣のしっぽの先が合うようになっている
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– 道具のノミがピカピカに研がれていますがどのように手入れをしていますか?
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大学1年生の時に木彫実習があり、研ぎや道具の手入れを習いましたが、自分のモノになるのはまだまだです。研ぎのタイミングは彫られたノミの跡に現れる木の様子を見て決めています。切れ味が良いとノミ跡もささくれなくきれいに出ます。今は30本くらいのノミや彫刻刀を使っていて、家にあるものを合わせると100本弱持っています。手入れをきちんとすれば一生ものだと思っています。
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アトリエ内の関さんのノミ
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4. 将来のことなどについて
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– どんな子ども時代でしたか?
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家族がスポーツ一家で僕もバスケットボールをやっていました。その傍らで絵を描くことも好きで漫画やアニメの模写、風景など何でも描いていました。年末年始に親戚で集まる時も絵を描いていました。また、蜜蝋粘土で遊ぶのが好きで、レゴブロックでの遊びも盛んにやっていました。生まれ持った病で、定期的に通院や入退院をしていた頃もかなり長くありましたが、全てが支えになっていましたね。
5歳くらいの時にお絵描き教室も通っていたのですが、机の足を遠近法を使って描くように言われたことに反抗して「僕はそういうふうには描きたくない」と、足を全部開いた形で描いていたのを覚えています。あまり長続きしませんでしたけど、良い思い出です。
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– 趣味は何ですか?
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いろいろあります。継続してバスケットボールをやっています。最近では、料理や野球観戦を楽しんでいます。料理は、青椒肉絲が得意でその流れでおいしいものを食べるのも好きですし、いろいろなところに散歩に出かけることもよくあります。
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– 将来のことはどのように考えていますか?
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直近では大学院への進学を考えています。将来的には表現活動を続けていきたいと思っていて、おそらく彫刻は自分の礎になると思います。彫刻領域から美術を考えた時に指針となるものをより確かにしたいと思っています。
遠い将来のことはあまり考えておらず、正直なところまだ決まっていないので、試行錯誤しながら、その時の自分の中の衝動を大事にして生きていきたいと思っています。
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取材/執筆:杉山佳世、村上剛英、寺岡久美子(アート・コミュニケータ「とびラー」)
撮影:神道朝子
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通称《ドラ妃》。この“ドラ”は大好きなドラゴン、トラ、ドラ猫の略。とびラーの活動以外にも、神奈川県立音楽堂建築ガイド、横浜美術館でのボランティアとしても活動中。横浜・イギリス館「朗読、チェロ・ピアノの会」開催。関さん自身・作品から無限の世界を感じ柔軟性を学びました(杉山佳世)
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年だけは取っているのですが、まだまだ知らないことばかり。世の中に興味の種は尽きません。歴史、妖怪、アニメ好き。関さんの作品を一目見て、「バンパイヤ」や「人狼」の変身シーンがありありと浮かんできました(村上剛英)
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普段は情報通信系の企業で働いています。美術館へ行くのが好きですが、とびラー活動でアートに関わる機会が増えてワクワクしています。組み替えられる関さんの彫刻は、見ている側に多様な想像力を湧き起こさせ、様々な可能性を感じました(寺岡久美子)
2026.01.21