東京都美術館× 東京藝術大学 「とびらプロジェクト」

活動紹介

【開催報告】野外彫刻を楽しむ

2023.10.07

東京都美術館の正門から美術館内に向かう広場に野外彫刻があるのをご存じですか。「あの銀色の大きな球?」そうです。それだけではありません。東京都美術館には、いつでも会える10点の野外彫刻があります。私たち、東京都美術館のアートコミュニケータ、通称「とびラー」は、日々の活動の中で「野外彫刻っておもしろいかも?」と、その魅力に気がつき始めていました。

東京都美術館の数少ない常設展示である野外彫刻を、多くの人と対話を通して鑑賞し、新たなコミュニケーションの場を作りたい。野外彫刻に関心を持っていただき、発見や楽しみを分かち合いたい。そんな思いでこの企画を始めました。

 

 

 

  1. 準備

・・

(1)徹底的に楽しむ

2023年4月のラボの立ち上げから約半年にわたる活動では、まず、自分たちが野外彫刻の魅力を徹底的に楽しむことから始めました。雨の日には、水に濡れて変わる素材の石の色や水滴の魅力、晴れの日には、光の反射、ひなたと日陰のコントラスト。新緑の背景、聞こえてくる鳥の声。季節や時間が違うことで様々な彫刻の顔が見えます。野外彫刻の足元に咲いている小さな花や、建物の色が彫刻に映る美しさも新たな発見です。近づいてみたり、離れてみたり。みんなでわいわいと話しながら、「よく見る」「感じる」「話す」「仲間の意見をよく聞く」のステップを踏むことで、一人では気がつかなかった多くの発見を共有していきました。その過程の中で、野外彫刻がどんどん愛おしく感じられて、「魅力を伝える」モチベーションが高まっていきました。

 

 

(2)作品研究

次のステップでは、それぞれの作品研究を行いました。担当を決めて、作者の人となりや、エピソード、作品の背景や素材、他にはどんな作品があるのかなど、様々な角度から参考資料を当たり、手作りのスライドなどを使って発表会を行いました。メンバーの声で印象的だったのは、「事前にみんなで自由に作品を楽しんでいたから、作者の意図や背景がすっと胸に落ちた気がする。最初に調べて、頭でっかちになって作品を鑑賞しても、この面白さは味わえなかったのではないか。」という言葉でした。仲間と自分自身が調べた情報を共有することで、作品への愛着が深まっていきました。

 

 

(3)プログラムの検討

野外彫刻への高まる愛を胸に、この面白さをどう参加者に伝えることができるか、その方法の検討が始まりました。鑑賞する作品、グループの人数、スタッフの役割分担、タイムスケジュールなど多くのことを具体的に決めていきました。

こだわり①

私たちのプログラムでは、「自分が気になる作品を担当する」ことを大事にして、ファシリテータを務めるとびラーが希望する作品を自ら案内することにしました。どの作品も魅力的ですが、とびラーそれぞれの思い入れがある作品を案内する時の熱意は、必ず参加者に伝わって、いい結果を生むのではないかという考えでした。

こだわり②

楽しい鑑賞を行うためには、参加者が安全に安心して過ごしていただくことが不可欠です。実施を予定した9月は初秋とはいえ、暑い屋外で過ごすため、熱中症予防に鑑賞の合間に空調の効いた建物で一度休むコース設定や、水分補給の声かけを行いました。また、鑑賞するふたつの作品がある東門のエリアは、大きな木に囲まれて、館内にいながらにして自然を感じられる場所なのですが、なんと蚊が多い。そのため虫よけスプレーをサポート役が携帯し、必要に応じて使えるよう準備しました。

(4)トライアルとアイスブレイク開発

プログラムの骨組みが決まると、とびラー仲間から参加者を募集して、本番さながらにトライアルを行いました。そこで寄せられた意見も反映しながらリハーサルを重ねて、安心・安全かつ、みんなで楽しめるプログラムへとブラッシュアップしていきました。

あわせて検討したのは、作品鑑賞に入る前のアイスブレイクの時間をどう過ごして、頭と心のウォーミングアップを行ったらいいだろうかということでした。ここで誕生したのが「小さな立体を作るゲーム」です。

まず、立方体、球体、円筒など、用意した様々な形の木材と石から、各自が3つ程度のパーツを選び、それらを組み合わせて立体作品を作ります。

次に、全員椅子から立ち上がり、机の周りをまわって、360度からそれぞれの作品をよく見て鑑賞しあいます。その後、気になった作品が「どのように見えるか」、そして作った本人が「どういうイメージで作ったか」を語り合うゲームは、仲間の言葉から、自分では意図していなかったことへの気づきと共感があり、トライアルでも期待以上に盛り上がりました。

作品を三次元でよく見ることの大切さ、鑑賞は自由であること、遠慮をせずに意見を声に出すことなどを体験し、グループで鑑賞するためのウォーミングアップになるという手ごたえを感じるものとなりました。

 

 

 

2.プログラムの実施

さて、いよいよ本番です。事前にホームページでお知らせし、一般応募いただいた方をお迎えして、同じ内容で2回行いました。

 

開始前に気合を入れるメンバー


野外彫刻を楽しむ

開催概要

■開催日時: 2023年9月30日(土)と10月7日(土) 14時~16時

■参加人数: (9/30) 一般参加者 13名 とびラー:13名

・・(10/7)一般参加者 14名 とびラー:17名

 

■会場:東京都美術館屋外エスプラナード及び東門、アートスタディルーム

 

■プログラム概要:参加者が4〜5名のグループに分かれ、アイスブレイクを経て、野外彫刻3作品を鑑賞する。室内に戻りグループごとのふりかえり、その後全体で鑑賞したなかでの発見や気づきを共有する。


(1)開会~アイスブレイク

冒頭ではアートスタディルームでスライドを使い、プロジェクトとプログラムの概要を説明し、みんなで野外彫刻を鑑賞するコツ「よく見る・感じる・言葉にする・よく聞く」で、自由に楽しみましょうとお伝えして、グループごとにプログラムがスタートしました。

 

まずはお互いのことを知り、発言しやすい場をつくるために自己紹介。アイスブレイク「小さな立体を作るゲーム」では、ひとつの作品をいろんな角度から鑑賞し、少し体を動かしたことで緊張もほぐれ、それぞれの自由な発想に「なるほど!」とうなずくうちに、自然と和やかな雰囲気になりました。さぁ、野外彫刻の鑑賞にわくわくしながら出発です。

アイスブレイク「小さな立体を作るゲーム」

 

(2)作品鑑賞

屋外には、正門から建物中央棟に向かう広場「エスプラナード」に大きな金属の球体や、直方体や立方体を組み合わせたもの、東口の入口近くの空間には文字が刻まれた巨石などの彫刻が展示されています。

今回は全体で7点の作品を、3つ、グループ毎に選んで順番に鑑賞していきました。大きな作品を囲んで最初は自由に、周りをぐるぐる回りながら360度から見たり、離れてみたり、近づいたりしながら自由に鑑賞します。最初は遠慮しながら発言していた参加者たちも、ファシリテータの声かけで、ひとことずつ、つぶやくように気づいたことをシェアしていきました。そのうちに改めて作品を見直しながら「本当だ!」「確かにそうですね。」「こっちから見ると面白いよ。」と、どんどん発言が活発になり、グループのなかでの気づきが増えていきました。そして、2作品目、3作品目と鑑賞を重ねるうちに、すっかり打ち解けて、自然に言葉が交わされるようになり、鑑賞が深まっていく様子がはっきりと伝わってきました。

 

鑑賞の様子

 

作品と作品の間の移動では、みんなでおしゃべりをしながら歩くのも楽しい時間でした。途中、にわか雨に降られて室内から作品を眺めたり、暑さを避けてアートラウンジで涼んだり。東口の手前にある大きなイチョウの木からは、たくさんのギンナンが落ちていて、踏まないようにそうっとつま先立ちで歩くのも、ちょっとした冒険気分でした。(2回目の開催時には、美術館の清掃の方にプログラムに合わせてギンナンをお掃除していただき、一同感激しました。)

(3)ふりかえり~閉会

約1時間の鑑賞を終えて、アートスタディルームに戻ります。参加者のみなさんの笑顔からは、充実した時間が伝わってきて、このプログラムの最大の目的であった「野外彫刻を楽しむ」ことは実現できたかなと胸が熱くなりました。

アイスブレイクと同じ、グループごとのふりかえりでは、野外彫刻の鑑賞体験で気づいたことの話に花が咲きます。特に「美術館には何度も来ていたけれど、今まで通り過ぎていた野外彫刻がこんなに面白いものと気づくことができた。」「みんなで観ることで、自分ひとりでは気づかなかったことや、考え方を知ることができて楽しかった。」などの感想は、どのグループからも聞こえてきました。

最後にとびラーから、それぞれのグループでどんな感想が出たかを発表して、全員で分かち合いました。みんなで観ること、言葉にすること、そしてそれを聞くことで得られる多くの喜びや、気づいたおもしろい疑問からは、今まで見えなかった世界の扉が開かれる機会となったことがうかがい知れました。

 

ふりかえりの様子

 

4.参加者の感想

プログラム終了後にご記入いただいたアンケートから、参加者の声を一部ご紹介します。2回で計27名の参加者全員から「大変満足」の評価をいただいた結果に驚くとともに、改めて野外彫刻には多くの人を惹きつける魅力があることを確信しました。

(アンケートから抜粋)

・いつもきちんと見てあげていなかった作品たちを正面から横から後ろから見て、常設作品だからこそ数々の楽しみ方があるんだと気づくことができました。

・他の人の意見を聞くことで、自分だけでは考えられなかった視点を得ることができた。

・長い時間の予定でしたので心配でしたが、すぐに時間がたってしまって、とても楽しかったです。

・導入の作品づくりが楽しく、作品鑑賞の助けになりました。

・とてもゆったりしたタイムスケジュールで、みなさんとの鑑賞をたっぷり楽しむことができました。

・これからは街とかにあるオブジェにも心を向けてみようかなって思いました。

・彫刻作品と認識すらしていなかったものが、とてもおもしろいものに変化するという貴重な体験をさせていただきました。

・自由に意見を言える環境だったのがとても良かった。心理的安全性がとても大切だと再認識した。

・ファシリの方が導入してくださったことが、自然でじっくりたのしめた。

・季節が美しく、彫刻が一緒にすごしてくれてる感じ、又たのしんでみたいです。

 

5.最後に

参加者のみなさんのすてきな笑顔に、改めてこんなに魅力的な彫刻たちにいつでも会えることの喜びをかみしめる場になりました。長い期間にわたって、それぞれの仲間が得意技を活かし、意見を重ねて作り上げた野外彫刻を楽しむプログラム。参加してくださったみなさんに心から感謝し、今回の一歩が、野外彫刻の魅力を知る喜びをさらに広げていくことを願っています。

どうぞみなさん、次に東京都美術館にお越しの際は、ちょっと野外彫刻の前で立ち止まってご覧ください!そこにはきっと、新しい扉があります。

(東京都美術館の野外彫刻 https://www.tobikan.jp/archives/collection.html

 

ありがとうございました!

 

 


 

執筆:11期とびラー 曽我千文

好きな野鳥のガイドをしています。対話型鑑賞には感動を分かち合う喜びのヒントがあると思い、とびラーになりました。生きとし輝けるもの全てに、それらを介した人とのつながりが生まれることを確信し、楽しくてしかたがないとびラーライフです。

 

〈申込終了〉【参加者募集!事前申込】野外彫刻を楽しむ(9/30、10/7)

2023.09.15

東京都美術館にある野外彫刻をご覧になったことがありますか。

美術館の庭を探検し、見つけた彫刻たちについて感じたこと、気づいたことをみんなで自由に話しながら、彫刻の魅力を味わう、楽しいひとときを過ごしましょう。

美術の知識や、彫刻の見かたは知らなくても大丈夫。彫刻ってこんなにおもしろいの?きっと発見がありますよ。

2時間のワークショップの中で、とびラー(アート・コミュニケータ)と一緒に作品を見ていきます。お気軽にご参加ください。


日時|

①2023年9月30日(土)14:00〜16:00 (13:45受付開始)  

②2023年10月7日(土)14:00〜16:00 (13:45受付開始) 

※①と②は同じ内容です。重複してのお申し込みはできません。

場所|東京都美術館

集合場所|東京都美術館交流棟2階アートスタディルーム

対象|16歳以上の方

定員|15名(先着順・定員に達し次第受付終了)

参加費|無料

参加方法|事前申込制。以下の専用フォームよりお申し込みください。

※特別に配慮が必要な方はお知らせください。
※小雨決行

 

①2023年9月30日(土)14:00〜16:00 (13:45受付開始)



②2023年10月7日(土)14:00〜16:00 (13:45受付開始)


※本フォームでのお申し込みが完了すると、「返信先Eメールアドレス」宛にメールが届きます。必ずご確認ください。

※お申込み前に「迷惑メール」などの設定を確認し、「@tobikan.jp」からの申込受付メールを受信できるようにしてください。申込完了の自動返信メールが届かない場合は、お申込みされたお名前と電話番号を明記のうえ、p-tobira@tobira-project.info(とびらプロジェクト)宛にメールをお送りください。

※広報や記録用に撮影・録音を行います。ご了承ください。

※定員に達し次第、申し込み受付を終了します。

【活動報告】とびラボ「荒木珠奈研究会」

2023.09.03

 

2023年春〜夏、とびラボ・荒木珠奈研究会を全4回で行いました。

 

荒木珠奈研究会とは?
とびラー対象の荒木珠奈展の事前勉強会後、「荒木珠奈展、とっても面白そう、みんなで荒木珠奈さんや作品について研究してみたら絶対楽しい!」と意気投合した3人が研究仲間を募集してスタートしたラボです。初回でラボの目的を「荒木珠奈さんのことや作品について研究することで、展覧会の鑑賞をより楽しめるようになりたい」と共有し、毎回色々な方法で荒木珠奈さんや作品に迫っていきました。


『うえののそこから「はじまり、はじまり」荒木珠奈』 会期:2023年7月22日(土)~10月9日(月・祝)  :https://www.tobikan.jp/hajimarihajimari/


 

研究方法の一つは、ラボ参加者=研究員、が各々で集めた資料を持ち寄り、シェアをすること。絵本やチラシ、過去の展覧会の図録や紹介動画、関連の論文(!)など、たくさん集まりました。研究員それぞれの関心やコメントが多様で、興味深く聞きあい、コメントを交わしながら、みんなで理解を深めていきます。

 

 

また、研究員の一人に銅版画を学んでいた方がいてお話をきくことができた回も。凹版画の基礎、技法の解説、版画のエディションまで話が及び、貴重なお話の数々にみんな興味津々でした。ガスマスクをつけて銅板を腐食する方法もあるという話では、他の研究員から驚きの声が!

 

さらにある回では、荒木さんと縁が深く作品のモチーフにも多く登場するメキシコに焦点をあて、メキシコ留学経験のあるとびラーからお話を聞きました。お話から鮮やかに想像される、メキシコの風土や文化、住んでいる人の人柄…。荒木さんはメキシコをどのように体験し、それがどんな風に作品に反映されているのだろう?ますます興味が深まります。

 

 

 

研究会が3回を終えた頃、荒木珠奈展がスタートしました。ラボでの体験と実際の作品たちへの溢れんばかりの期待を抱えて、研究員それぞれの鑑賞体験とファシリテーターの実践が始まりました。

 

そして、一か月ほどの期間を空けて再び研究員が集合し、それぞれの荒木珠奈展体験をシェアしました。
気になった作品はあった?から話し出すと、研究員それぞれの話が止まりません。自然と始まるVTS(対話型鑑賞)。荒木さんの作品は見れば見るほど、面白い!とみんなで興奮気味にコメントを交わしました。
ラボを振り返ってみると…。ラボで知ったことや感じたことが、深くみることに繋がった。ファシリテーターへの自信に繋がった。などの声が。それぞれの研究員がラボでの研究と実際の展覧会での鑑賞、ファシリテーターの実践が繋がった感覚を持ち、展覧会を楽しんでいることをシェア出来ました。
ここで一旦、荒木珠奈研究会は解散。ですが、ラボ解散後も展覧会の会期は残っていました。みんなで話したことをファシリテーターに活かそう、研究員同士で盛り上がったこの作品を誰かと見てみよう、そんな、「これから」に繋がる話がたくさん聞かれた最終回でした。

 

ラボ内で共有された資料は、研究員のみに留まらず、“荒木珠奈展ファシリテーター⇒ケエジン”の皆さんも閲覧できるようになったりと思いがけない展開もありました。この作品、この展覧会が好きだな、気になるな…そんな小さな芽が誰かと共有されたことから始まったラボ。みんなで調べ、みんなで見て、話す。たくさんの人の視点や経験を分け合うことで、それぞれの見方が広がり、作品との出会いが豊かになる。そしてそれがまた別の誰かの豊かな体験にも繋がっていく。そんなことが実感できたラボでした。

 


執筆:足立恵美子(11期とびラー)

アートや美術館の持つ力と人の持つ力が掛け合わされると、なんだかすごいことが起こる!その可能性にワクワクしながらとびラーをしています。

 

【開催報告】凹版ワークショップ「はじまり展のキャラクター ケエジンたちをプレス機で刷ってみよう!」

2023.07.31

日時|2023年7月31日(月)

・・・午前の部 ①10:30 ②10:50 ③11:10

・・・午後の部 ④13:00 ⑤13:20 ⑥13:40 ⑦15:00 ⑧15:20

場所|東京都美術館 アートスタディルーム

対象|18歳以下の方とその保護者

 

7月22日(土)から始まった『うえののそこから「はじまり、はじまり!」荒木珠奈 展』(以下、「はじまり展」)内で開催された「キッズ+U18デー」に合わせて、凹版ワークショップを開催しました。

 

 

「はじまり展」には「ケエジン※」という、不思議なキャラクターが潜んでいます。

このワークショップは、厚紙やプラスチックの板にニードルなどでケエジンを描き(製版)、描いた溝にインクを詰めて表面の余分なインクを拭き取り、プレス機で刷る、という凹版(おうはん)の手法を体験してもらうものです。

 

 

※荒木珠奈さんが同展覧会のために作られた《記憶のそこ》から生まれた精霊(キャラクター)。展覧会を案内する精霊として、展覧会場でのサインやポスターにちりばめられていました。

 

 

「はじまり展」には荒木さんの銅版画も多く展示されていました。銅版画というのは凹版の一種ですが、まずその仕組みを口で説明するのがなかなか難しく、一般の方が体験する機会もそれほど多くはありません。

 

理解してもらうには体験してもらうのが一番。とにかく体験してもらいたい! その体験を通して、キャラクターや展覧会に親しみを感じてもらえたり、作品への見方が深まったりするかもしれない、というのが企画をはじめた頃に考えていたことのひとつでした。

 

凹版についてのお話からスタート

 

ニードルを使って描きます

 

ゴムベラでインクをのせて、寒冷紗で拭き取ります

 

プレス機を回して…刷れた!

 

版と刷り上がった作品を台紙に貼って、完成!

 

 

「描く」「インクを詰めて拭き取る」「プレス機で刷る」という3つの工程を順に進み、最後はラッピングをして完成です。

 

参加された方の多くが、最初は緊張していた表情も、出来上がる頃にはすっかり笑顔になって「たのしかった!」と会場を後にしていく姿に、こちらがギフトをいただいたようなうれしい気持ちになりました。

 

海外から旅行中の方も参加されて、英語と中国語の翻訳にUDトーク(音声認識/自動翻訳アプリ)を活用する場面もありました。

 

 

終了後のアンケートコーナーでは、付箋に感想を書いてホワイトボードに貼ってもらうことにしました。たのしんで体験してもらえたことや、ケエジンを好きになってくれたことなどが伺えました。

 

 

当日は開始直前まで、お客さん来るかな? たのしんでもらえるかな? とドキドキしていた私たちとびラーでしたが、全8回、全ての回がほぼ満席となり、総勢64名以上の方が参加してくださいました。

 

LB階のエントランスで参加券を配布しました

 


 

今回使用した銅版用プレス機は、かつて荒木さんがワークショップで使っていたものです。十数年前に私が荒木さんから譲り受けたプレス機を持っていたことをきっかけに、15名のとびラーが集まってこの企画がスタートしました。前例のないワークショップでしたが、ひとりひとりが力を合わせ、手探りで試行錯誤を重ねて実現することができました。

 

同時期に開催していた「アート・コミュニケーション事業を体験する  2023展」 (7月29日(土)〜8月11日(金))の会場にも、このプレス機は展示されていました。

 

 

最後に

私がとびラーになった2021年は、コロナの真っ最中でした。出かけたり、人に会ったりすることにまだ制限がかかる日々でした。とびラー最後の3年目、ようやくたくさんの人に向けたプログラムが躊躇なくできるようになり、今回のワークショップを開催できたことは、とても幸運な巡り合わせだったなあ、とふりかえって感じました。

 

今回参加されたお子さんやご家族にとって、このワークショップが美術館でのたのしい思い出になっていたら、とてもうれしいです。

そしてまたいつか、どこかで版画に出会った時に、そういえば美術館であんな体験したなあ、と思い出してもらえる日が来ることを願っています。

 

 


執筆:

野口真弓(10期とびラー)

版画家。作品をつくりながら、「こどもとアート」をテーマに活動しています。自分一人でできることは限られているけれど、仲間と一緒だとこんなこともできちゃう。というのを体感したとびラー3年間でした。

 

 

【活動報告】とびラボ「さんぽdeアート」

2023.06.04

美術館でアートを鑑賞するのではなく、美術館でおさんぽして発見したことを自分たちなりのアート作品として表現してみよう、というラボを6月4日(日)におこないました。

 

目的は、美術館の魅力を伝えること。とびラーが市民の一人として東京都美術館の中で自分が良い(好き)と思うモノを見つけて作品で伝えようというものです。伝える相手は同じとびラー。まずはとびラーが美術館の魅力を知ることで、他の機会に来館者にも伝えるきっかけになればと考えました。

 

初回のミーティングで、どんなラボにしたいかをみんなで話し合いました。そこで共有したことは、目的をあえて意識しすぎないで気ままな「おさんぽ」感を大事にすること。なるべく気楽にフラットな視線で歩くことで、新たな魅力の発見と表現という結果につながるのでは?という仮説を立てました。

 

 

実施日はお天気にも恵まれて意気揚々とおさんぽに出発。東京都美術館の敷地内を3人グループに分かれておしゃべりしながら歩きました。そこで各々が見つけたことを声に出したり他の人の声もよく聴いたりして発見を共有しました。「土色の床タイルにそそぐ温かな木漏れ日」「建物の間からのぞく広い空」「休憩室の静かな時間」「美術館で働く人の姿」など、ゆったりおさんぽだから見つかったコトやモノがたくさんありました。

 

 

次に制作。交流棟2階にあるアートスタディルームに戻って、おさんぽで発見したことをそれぞれ造形活動を通して表現することに。材料はみんなで持ち寄った段ボールや折り紙・粘土・毛糸・布などなどを手に取って素材とも対話しながら発想を広げてみました。

 

 

そうして出来上がったのは多種多様なテーマと表現方法で作られた名作ぞろい。都美の風景を描いた油絵や水彩画もあれば、俳句と写真の組み合わせ、布で立体的に作った電話機や休憩室のリアルミニチュアなど、どれも個性的な作品ばかりでした。中には手で動かすアニメーションや動画作品もあって、まるで現代アートの祭典のようでした。

 

そうしてみんなで鑑賞会。作品を観たり触ったり動かしたり撮影したり。作者がさんぽで見つけた都美の魅力やそれをどうやって表現したかを聞くのも楽しくて、ワイワイ盛り上がって鑑賞しました。

 

 

そのあとみんなでラボ全体を振り返り。実施してみて気がついたことは、さんぽをしながら美術館を「見る」ことで、ゆるく自由な視点でこれまで気づかなかったモノやコトに気づくことができたこと。しかも3人で一緒にさんぽすることで、互いの視点の違いに驚き、影響し合って発見がふくらみました。

 

また、見つけたことを造形的に表現することで、対象についてより深く考えることにつながったというとびラーもいました。

 

さらに出来上がった作品をみんなで鑑賞することで、いろんな視点でも見ることができたり、作者自身が考えていなかった見方やおもしろいことを他の人が言ってくれて気がついたりしたことがとても刺激的で楽しかったです。

 

 

今回「さんぽ」と「アート」を組み合わせることで、いろんな美術館の魅力を発見することができました。参加したとびラーの中には、発見したことを都美の建築ツアーで参加者に伝えたよ、という人もいました。このラボがきっかけで一般の方にも伝えることができて良かったです。この経験を他の美術館や博物館、図書館などいろんな文化施設でも活かせたら良いなと思いました。

 


 

10期とびラー 池田智雄
美術館・博物館・郷土資料館や音楽ホールなど、人が文化の楽しさを求めて集まる場所が好き。そこがもっと楽しくて親しみやすい場所になるようなことを自分たちでできたらうれしいです。

【とびラボ報告】トビカン・スポット・ムービーらぼ

2023.05.07

12期とびラーウェルカムパフォーマンスを、4月15日(土)に行いました!
東京都美術館の見どころを映像にしてみようというアイデアで1月末に「この指とまれ」をしたこの「とびラボ」。話し合いの中で「誰に?何のために?何を伝えるの?」と考えて、12期とびラー向けにとびラー生活に役立つ情報を紹介することになりました。
「で、どうやって伝えるのがいいんだろう?」
「ラップはどう!?」「エーッ!」
「でも面白そう」「案外いいかも」
 構成やカット割り、ラップのセリフも考えて、
「全体のストーリーは?」
「シーンの順番どうしようか?」
「ラップの選曲は?」「著作権あるからね」
「このセリフちょっと長くない?」
「撮影は許可がいるよね。」
「編集できる人いる?」などなど…。
10回のミーティングを重ねて完成に漕ぎつけました。
当日は、ラッパーになりきったラボメンバーが次々に登場し、個性あふれるラップに手拍子や掛け声もかかって、会場は熱気に包まれました。
5月7日(日)に振り返りミーティングを行い、「トビカン・スポット・ムービーらぼ」を解散しました。
          FIN!
・・・・
10期とびラー:藤牧功太郎
・・・・

【開催報告】誰かとおしゃべりミュージアム in「上野アーティストプロジェクト2023 いのちをうつす ―菌類、植物、動物、人間」展

2023.02.20

「美術館でおしゃべりしましょう」「作品を誰かといっしょにみるって楽しい」そんな体験をお届けするプログラムを考えました。カジュアルで遊び心があって、自由で楽しい、素敵なひとときになるといいな。そうやって、はじめましての誰かと3人組になっての「おしゃべり鑑賞」という、新しい鑑賞のかたちが生まれました。

今井壽恵《柵を越えて》にて


【目的としたこと】
その日に偶然出会った人とおしゃべりしながら鑑賞する出会いの体験や、一人で鑑賞するときとは違った他者の視点も味わって楽しんでもらうこと。さらに参加した方は、今度は誰かを誘って対話しながらの鑑賞を楽しむようになることを目的にしました。

【プログラムの内容】
その日出会った人(参加者)2名+とびラー1名が、3人1組になり、おしゃべりを楽しみながら作品を鑑賞します。参加者はプログラム前にくじにより分かれます。プログラムの時間は35分間です。

鑑賞する展覧会は、「上野アーティストプロジェクト2023 いのちをうつす ―菌類、植物、動物、人間」展(会期:2023年11月16日(木)~2024年1月8日(月・祝) 会場:ギャラリーA・C)。

実施日は、11月24日(金)18時半~、12月15日(金)・20日(水)14時~、計3回を設定しました。

【とびラーのファシリテーション】


初対面の方とおしゃべりしながら作品を楽しく鑑賞するにあたって、次のような工夫をしました。


・ファシリテータとなるとびラーは、参加者同士が安心して話せる場と対話できるようにきっかけを提供します。
・作品選びは、とびラー自身がビビッときた作品、話のきっかけがたくさんある作品を、何回か展示室に足を運んで数点を選びます。
・当日の出会いは、なごやかなおしゃべりから始めて、感じたこと、気がついたことを安心して話せるような雰囲気を心掛けます。一人一人の話をじっくり聞き、参加者同士がコミュニケーションを楽しめるような場を作るのがとびラーの役目です。


例えば、「今回参加したきっかけ」や「普段のアートとの関わり」など、参加者同士の身近な話題からおしゃべりをしました。場の雰囲気が和むことによって互いにコミュニケーションを取りやすくなり、作品鑑賞での会話もスムーズにできるようになります。

作品を見ることから出発して、おしゃべりの広がりを楽しみながらも、参加者のみんながそのポイントの鑑賞体験を共有できるように、いつも作品を見ることに戻る、そんな工夫も心がけました。

その一例として、作品を見た感想の言葉から「どこからそう思いました?」と問いかけて、作品の中のそのポイントをみんなで確認することで他の人にもその気づきを伝えます。そして「ここから何を感じますか?」と問いかけることで、同じところを見ても違う感じ方があることを発見します。

また、「他にはいかがですか?」と他の発言を促したり、話題を変えたりすることで、参加者がより作品に近づき会話がはずむように工夫しました。


【初日:11月24日(金)18時半~、参加者12名】

9月のキックオフから、メンバーのアイデアを結集しながらミーティング&トライアルを経てようやく形になったプログラム。待望の第1回を6チームで実施しました。参加者は最初にくじを引きます。偶然の出会いの演出にドキドキワクワクのひと時も、次第に打ち解けます。

展示室のあちこちで、さまざまな楽しいおしゃべりが生まれました。

作家・山春雄氏のバードカービング(野鳥彫刻)の作品をよく見て、羽毛のやわらかな質感をイメージしたあと、同氏のタッチカービング(触れる野鳥彫刻)に触ってみると、想像と違って「固い!」ということに驚いて「彫刻だから当然ですよね」と3人で大笑い。そのことがきっかけで作品にグッと近づくことができたチーム。

内山春雄《タッチカービング》にて

 

馬を被写体とした写真を撮影する今井壽恵氏のコーナーでは、人気の競走馬の《オグリキャップ黄色い光の中で》などの写真に足が止まる方が多く、予定していなかった作品の前でもおしゃべりが弾みました。

 

今井壽恵《暮れ方の水辺》にて

 

参加者が作品の背景の描き方に興味を持っていることがわかると、作家・阿部知暁氏のゴリラが描かれた絵画のコーナーに移動して、特徴的な背景の話題に花を咲かせるチームもありました。

みなさん、とてもリラックスして鑑賞しました。

 

阿部知暁《シャバーニ》にて

 

今井壽恵《水しぶきをあげて》にて

 


【中日:12月15日(金)14時~、参加者10名】

12月15日(金)第2回を5チームで実施しました。

この日はキャンセルの方がいたため、当日参加の呼び込みをしました。チームが決まるまでの間にもとびラーからの展示についての問いかけから、参加者同士ので話が盛り上がり終始なごやな会話か進みました。

 

作家・富田美穂氏のコーナーでは、実物大の牛の細密な絵に、「ゴツゴツしている」「生を感じる」と近寄ってみての驚きで盛り上がるチーム。

富田美穂《全身図》にて

 

バードカービングを鑑賞して、「ヤイロチョウの巣はどこにあるの?」「どうして巣をつくるの?」と巣の話題で盛り上がるチーム。

「ヤンバルクイナって鳥なのに飛べないの?」「淡い首筋の色が不思議」と食い入るように作品に迫るチームなど、それぞれのチームで話に花が咲き、プログラム終了後に参加者同士でさらに鑑賞を続ける様子が見受けられました。

内山春雄《ヤイロチョウ》にて

 

内山春雄《ヤンバルクイナ》にて

 


【千秋楽:12月20日(水)14時~、参加12名】

ついに千秋楽、最終回の第3回を5チームで実施しました。

この日は、東京都美術館年内最後の開館日であったので、公募棟の展示は全て14時で終了。館内展示室内も静かでゆったりとした空間で、参加者の皆さんと作品を囲んで楽しくお話しできました。

 

今回もいろんなエピソードが生まれました。

最初は緊張していた参加者も鑑賞前の会話に時間をかけると、作品を前にしたときにワクワク感が発露して、参加者同士での会話がとても深まりました。

会話が弾むのは、生き物の多彩なリアルな表現に触れたときです。写真にはありませんが、作家・辻永氏の花の写生のコーナーや作家・小林路子氏によるきのこを描いた作品のコーナーも、おしゃべりが弾みました。

 

阿部知暁《スノーフレーク》にて

3歳のお孫さんを連れて来られた参加者は、お孫さんを中心におしゃべり鑑賞をしたところ、大人では気づかないような様々な視点から意見を教えてくれました。また内山春雄氏のタッチカービング(触れる野鳥彫刻)のコーナーでは鳥の鳴き声を全部聞いて回りました。高周波の鳥の鳴き声は、お孫さんだけが聞き取れて、みんなでびっくりしました。


【参加した方々の感想など】

〜参加者アンケート(11月24日・12月15日・12月20日実施、回答数33名)の結果から〜

自由記述欄に参加された方の全員が感想を書いてくださり、たくさんの前向きな感想がありました。それらの一部を紹介します。

  • がっちりした鑑賞会ではなく、ただ作品とおしゃべりする時間、あたたかくてとても良かったです。ありがとうございました。
  • とても楽しくあっという間でした。一人では気づけないことに気づけて、新しい鑑賞ができたと思います。
  • もう少しお話ししたかったです!楽しくて!子どもを連れてくれば良かったなーと思いました。
  • 「なぜそう思ったか?」が他の方の言葉で確認できる感じがおもしろかったです。
  • キノコの描写、バードカービングの楽しさ、ゴリラの表情、すべて印象に残りました。楽しいおしゃべりのおかげだと思います。
  • 自分が見ていない視点で、ここはどうですか?などを質問してくださるので新鮮に考えを巡らせることができて楽しかったです。
  • 自分と違った見方の話を聞いて、もう一度作品を鑑賞すると、新しい発見があり、見方が変わるのがおもしろかったです。

そして、アンケートの結果では、「プログラムの満足度」、「初対面の方とのおしゃべり鑑賞」、「プログラムで鑑賞した作品」の項目で「とても良かった」「良かった」の回答が9割を越えて、総じて好評価を得られました。

上野アーティストプロジェクト2023「いのちをうつすー菌類、植物、動物、人間ー」展は、身近な題材で老若男女誰でも親しむことができ、多様な表現が鑑賞できる展覧会であり、このプログラムとの相性がとても良いと企画段階から想定していました。

ファシリテータは、プログラム前に何回も会場に足を運んで鑑賞する作品を選びました。また、選んだ作品を徹底的にして観察して、鑑賞の話題づくりなどの準備を行いました。

プログラムの設計としては、特に「初対面の人」とおしゃべりしながら鑑賞する、というコンセプトも功を奏したと言えるでしょう。知らない人同士だからこそ率直に言葉にすることができるのかもしれません。

作品の前で語り合っていると、そこにあたたかい空間が生まれ、作品も生き生きとして見えてきます。人も作品も美術館も「いきている」「いのち」を感じる、そんなプログラムだったのではないでしょうか。


【実施までをふりかえって】

コロナ禍が一定程度収束して、複数でおしゃべりしながら鑑賞することができるようになりました。とびらプロジェクトでも、鑑賞実践講座の「鑑賞ピクニック」という複数人で美術館をたずねる課題や、夏には「ダイアローグ・ナイト with とびラー」という複数人で対話しながら鑑賞するプログラムが実施されました。こうした楽しさをぜひ多くの方に味わっていただきたいし自分たちも楽しみたい、との思いで2023年8月29日(火)に「このゆびとまれ」と呼びかけました。呼びかけに23人が集まってスタートしました。

 

 

秋は、とびラボが目白押しで、複数のとびラボにそれぞれ関わっているとびラーの予定を調整し、ミーティングやリハーサル、さらには本番の日程を決めるのに一苦労でした。企画内容もオンラインのミーティングツールを使うなど集まれる人で検討を進めました。その甲斐もあって、いたってシンプルでわかりやすい企画になったと思います。ミーティングは6回、リハーサルは2回、そして本番へ。ふりかえりの会は、12月20日(金)プログラム最終回の後に行いました。

このラボは、良い意味での「いいかげん」さがあって、メンバー各自の裁量に委ねる部分が多く、自由でおおらかに進みました。その分、当日の急なキャンセルにも呼び込みをしたり、コースを柔軟に変更したりなど臨機応変に動くことができました。ラボメンバーの皆さんからはやって良かった、とても楽しかったとの声が寄せられました。

プログラムにご参加いただいた方々、いっしょに駆け抜けてくださったスタッフの皆さま、そしてラボメンバーみんなに感謝します。

解散! また、お会いできる日を!

 


執筆:

藤牧功太郎(とびラー10期)

新しいこと、楽しいことが大好き。ARTの自由さを愛しています。「つながり」を「つなげる」ことに興味あり。社会教育の仕事にも活かしたいです。

【開催報告】こどもとおとなのはじめのいっぽ!美術館へようこそ♪

2022.12.25

 お子さんとのお出かけ先の一つとして美術館はいかがですか?このプログラムの募集はそんな誘い文句からはじまります。

【こどもとおとなのはじめのいっぽ!美術館へようこそ♫】は、家族で一緒に安心して美術館を楽しむためのプログラムです。

とびラー(アート・コミュニケータ)と作品の楽しみ方などを体験して、じっくり鑑賞します。お子さんと美術館に行くのは、初めてという方にピッタリな内容になりました。

 

上野アーティストプロジェクト2022「美をつむぐ源氏物語―めぐり逢ひける えには深しな―」と、コレクション展「源氏物語と江戸文化」は、源氏物語から着想したさまざまなアーティストの作品が集まった展覧会です。いろいろなアーティストの織りなす世界を味わい、美術館での楽しみ方を知り、とびラーと一緒に鑑賞体験をしました。

実施日がクリスマスということで、メンバーが折り紙でクリスマスツリーを作って温かな気持ちでお出迎えしました。

「はじめまして」の二組の家族が出会い、自己紹介とおしゃべりの準備体操。アートカードを使って、共通点探しゲームをしました。色や形、雰囲気が様々な作品の中から探して、どこが共通なのかおしゃべりします。

子どもたちの発言に思わず、「あー!」「へぇー!」と声が出てしまうほど。大人よりも柔軟な発想で展開されるゲームは、とても盛り上がりました。


次に、展覧会の作品のカードから自分の好きな作品を探します。

なぜ選んだのか、どんなところが好きなのかを紹介し合いました。

カードの作品を観察し、実物の作品がどんな風なのかと想像が膨らみます。展示室へ行くのがわくわくと楽しみになりました。

 

準備体操もバッチリ。いざ展示室へ

自分が選んだ作品やお友だちが選んだ作品。これ、お母さんが良いって言ってたよね。」展示室で作品を見つけると、足早に作品へ足を運びます。

カードでみるよりもとても大きな作品やとても緻密に書かれた作品。本だと思った作品はガラスで出来ていました。先にカードでお気に入りの作品を選んでいたので、実物の作品をじっくり観察することができました。

そしてみんなで見ると自分では気づかなかった発見もあり、家族の会話も弾みました。

たくさんの作品を通して、家族の会話が増えていきます。

子どもと同じ目線で作品を観ると、大人には見えなかったものに気づかされ、自分の興味が湧かなかった作品でさえ、相手が選んだ作品だと自然と興味が湧いてきます。一人で見るよりも視野がどんどんと広がって面白い発見に出会うことができ、楽しい鑑賞体験となりました。

 

一時間ほど子どもたちも大人たちもじっくり集中して鑑賞しました。

そろそろとびラーともお別れです。その後はカフェで休憩したり、まだまだ見足りないともう一度家族で回ったりと、それぞれが思い思いの時間を過ごしていました。

アンケートによると、「絵の味わい方を知り、自分にない視点を得るなど、子どもと一緒に美術館を楽しみたい。」「子どもに色々なものに触れ、美術館を回るきっかけにしてほしい」と思っていらっしゃる保護者の方の期待があったようです。

 

感想は、とても満足という回答がほとんどでした。

とびラーが一緒に鑑賞したことで心強く、今日は子どもたちと話しながら回れて新しい見方ができたと感じた、導入のカードゲームで興味を持って観ることができたという感想もありました。

 

子どもからの感想には嬉しいコメントが多く、実施して良かったと思いました。

カードゲームで絵を見たけど、本当に見てみるといろいろな発見があった。実物は迫力がぜんぜん違って面白いと思いましたなどのじっくり観察したからこそ感じる体感があったようです。

 

子どもたちの感想から感じるのは、カードで見る作品よりも本物の作品の繊細さや素晴らしさに気づくことができたようでした。カードで観察した視点を実際の作品で見ることで大きな発見があったようです。わくわくしながら鑑賞している子どもたちを見ていると、こちらもご一緒できて嬉しくなりました。

 

作品を介して、子どもの豊かな発想に大人が関心を持ち、同じ視線でおしゃべりをする。お互いを認め合い共感し、豊かな楽しい時間を共有する。そんなアート鑑賞の時間は、とても豊かで穏やかな “こどもとおとなのはじめのいっぽ!”となるのではないでしょうか。

 

とびラボを立ち上げたとき、2022年6月に実施した、「ベビーとゆったり美術館をもう一度開催してみようと思っていました。だけど、指とましたメンバーのほとんどが腰を据えて取り組める余暇がなかったのです。子育てのフェーズはその時その時の環境で変わっていきます。夫や子ども、家族、自分の体調など、その時その時の関わり方の濃淡があるのがママという役割なのかもなぁと思います。

 

そんな時に、とびラー三年目の私は、開扉(任期満了)まで数か月でした。最後の指とまなら自分の原点へ立ち戻り、あの時感じた自分の不安に寄り添えるプログラムを考えたいと思いました。

子どもと作品を介して対話することへの喜びをみなさんにも伝えたい。とびラーになったことで安心して小1の息子を連れて美術館へ来れるようになったこと。息子が作品に対して観察し発見し、それを共有する喜びを感じて育っていることを実感していたからかもしれません。

 

タイトルの“こどもとおとなのはじめのいっぽ!”には、このプログラムによって、美術館に安心して次また行ってみようと思ってもらえるように、初めて美術館を訪れる家族の不安を軽減し、安心や楽しさに変える場を作りたい、そしてはじめのいっぽ!を踏み出すきっかけづくりにしてほしいという思いが込められています。

 

とびラボが動き出し、仲間とミーティングにミーティングを重ね、コミュニケーションも楽しく、いざ実施へ向けてという時に私の家族に不幸がありコロナ禍もあり、私が全く動けなくなってしまいました。そんな中、メンバーの一人ひとりが自分にできることや自分がやりたいと思ったことを実行し、遂行して行ってくれたのです。

甘えかもしれませんが頼れる甘えられる仲間がそこにいてくれる安心感。とびらプロジェクトというコミュニティの凄さかもしれません。どうにも心身ともに動けなくなった私は、メンバーを信用し信頼して、お任せすることができました。

 

そんな仲間に支えられ、このプログラムを実施しました。

 

東京都美術館は私たち親子の大好きな場所の一つです。子どもと安心して楽しんで行ける美術館。みなさんもお出かけ先の一つとして、足を運んでみませんか。そこには温かく豊かな時間があるかもしれません。


 

 

新谷慶子:アート・コミュニケータ(とびラー9期)
“私らしく”全てのことに面白がって取り組むことを楽しみながら活動しています。

【開催報告】トビカン・モーニング・ツアー

2022.12.06

トビカン・モーニング・ツアーは、午前中、まだ人もまばらで、のんびりとした空気の中の美術館をまわる30分のツアーです。周りの上野公園の緑も取り込みながら気持ちよく時間が過ぎていき、午後や夜とは少し違った景色を観ることができます。

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12月6日

今年度最後のトビカン・モーニング・ツアーでした。

お天気は少々残念な小雨の降るちょっと寒い1日だったのですが、

8名の参加者の皆さんと、とてもあたたかい時間を過ごせたようです。

建築に詳しい参加者の方からは私たちが貴重なお話を伺えたり、

歴史のあるご実家を処分された方からは建物の大切さを教えていただいたり、

今回は美術館の建築の枠を超えて、沢山のお話を伺うことができました。

そして、雨の中の東京都美術館は、雨に反射した建物の写り込みなど、

とても美しい場所が沢山ありますので、是非、雨でもいらしてくださいね。

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トビカン・モーニング・ツアーは、午前中、まだ人もまばらで、のんびりとした空気の中の美術館をまわるツアーです。周りの上野公園の緑も取り込みながら気持ちよく時間が過ぎていきます。このツアーを通して、新しい美術館の魅力を見つけてくださるといいな、と思っています。(滝沢)

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執筆:

池田智雄(アート・コミュニケータ「とびラー」)
とびラー10期。散歩と美術館が好きで、その楽しさを他の人にも一緒に味わってもらうことができるこのとびラボが大好きです。ツアーの時に参加者が自分で見つけた美術館の魅力を言葉にして教えてくれるとガイドとしてとてもうれしくなります。

滝沢智恵子(アート・コミュニケータ「とびラー」)
とびラー9期。トビカン・モーニング・ツアーは、平日の午前中、上野公園全体がなんとなく緩やかに時間が過ぎている時間帯に開催されています。参加された皆さんが、そういう空気を感じながらのんびりとくつろいでいらっしゃる様子をみることがガイドとして、とても幸せです。

【開催報告】トビカン・ヤカン・カイカン・ツアー

2022.12.02

企画展開催中の金曜の夜間開館に合わせて開催される建築ツアー。ライトアップされた空間を散策しながら、東京都美術館の魅力に触れる特別な時間となっています。

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金曜日。暗くなり始めた上野の森で輝きを放つのが、夜間開館の東京都美術館です(以下、『都美術館』と略)。昼間とは違う都美術館の魅力をぜひみなさんに知っていただきたい、そんな思いでこのツアーを開催してきました。

「トビカン・ヤカン・カイカン・ツアー」はとびラーが企画するプログラムの中でも2013年から約10年にわたり続いてきた歴史があります。コロナ禍に一時中断を余儀なくされましたが、2021年の冬に再開、今年度も春の『スコットランド国立美術館 THE GREATS 美の巨匠たち』、夏の『ボストン美術館展 芸術×力』、秋冬の『展覧会 岡本太郎』の3つの企画展開催に合わせて各3回ずつ、5月から12月にかけて計9回にわたり開催され、延べ150名ほどの方にご参加いただきました。

 

【「夜」ならではの魅力を伝えたい~ツアーが出来るまで~】

このツアーの特徴は何と言っても「夜」という特別な時間の都美術館を巡ること。ライトアップがスポットライトのように、都美術館の魅力をよりドラマチックに浮かび上がらせます。『宝石箱』にも例えられる夜の都美術館はまるで発光するようにさまざまな色や光、形が際立って、その美しさに何度見てもハッとさせられます。

この感動をどうしたら参加者のみなさまにも味わっていただけるか、とびラー同士でガイド役・参加者役となり、協力しながら事前にトライアルや練習を重ねてブラッシュアップに努めてきました。

とびラ―によってガイド内容が違うのも、この建築ツアーの魅力のひとつ。「30分間」という限られた時間ではすべてを伝えきることは難しく、どこを削るかは誰もが悩むところです。ガイド担当は建築の専門家ではないとびラーがほとんどなのですが、何度も夜の都美術館を巡ってその魅力を確かめながら、自分のツアーの焦点を考え、感動を軸にルートや周る順番、内容を練り上げていきます。

トライアルと振り返りを繰り返し互いの気付きを共有する

 

今年度は延べ28名のとびラーがさまざまな役割を分担しながらツアーを運営してきました。ガイドやサポートはもちろん、当日の受付や案内、記録撮影など、関わるすべてをとびラーで企画実施します。夜のひとときを気持ちよく楽しく過ごしていただくために、毎回ツアー終了後に振り返りながら、細かな動きまでいろいろな角度から工夫が重ねられています。

 

【30分という手軽さも魅力~参加者のみなさまの反応~】

「19:15ツアースタート」という同じ設定でも、季節によって都美術館の雰囲気は変わります。

春先は心地よい風を感じながら歩き、夏はまだ少し空に明るさの残る中スタートし暮れていく時間をたのしみつつ、寒い季節は澄んだ空気にいっそうきらめくライトアップの中を進みます。

季節によって空の色も違って見える

屋外彫刻もライトアップ

昼間と違う表情を見せる外壁

夜はツアー中の様子が外からもよく見える。普段は夜間に入ることが出来ない公募棟を案内中

思わず写真を撮る参加者も多い

 

参加者のみなさんにとっては、季節や時間帯で全く違う新たな都美術館との出会いを体験していただけるものになっているのではないでしょうか。

ツアースタートが「19:15」と少し遅い時間設定なので、お仕事帰りの方にも多くご参加いただいています。

今年度は、夏休み中のお子様と一緒にご家族で参加いただくケースもありました。

参加者には「夜の都美術館は初めて」という方も多く、30分という短い時間にギュッと魅力が凝縮されたツアーに参加して、帰る時には「美術館がこんなに素敵な場所とは知らなかった」「また来たい」「昼の様子もみてみたくなった」といった声を多く寄せていただいています。

ツアー終了後の参加者アンケートからは展覧会だけではない都美術館の場所や空間の魅力、その豊かさに改めて注目していただく機会となっていることがうかがえます。

ご参加いただいた皆様からの反応は私たちの励みやたのしみとなっていて、とびラーと参加者とで一緒につくる時間を心がけています。

12月2日、今年度最後のツアーはクリスマスの雰囲気を演出。ツアー終了後にこの日の運営とびラーみんなと記念写真


執筆:尾駒京子(アート・コミュニケータ「とびラー」)

9期とびラー。夜間開館が中止されている時に、2、3年目とびラーが撮影した夜の都美術館の画像を見て、その美しさに衝撃を受けました。『いつか必ずこのツアーを再開したい』とその時強く思いました。建物にこめられた設計者やつくり手の想いを参加者と一緒に紐解く、そんな時間がとても楽しかったです。

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