2020.02.01
2020年1月28日から2月2日に開催された第68回東京藝術大学卒業・修了作品展にて、2月1日(土)「なりきりアーティスト」が実施されました。卒修展では定番になっているというとびラボ「なりきりアーティスト」ですが、「なりきりアーティスト」って何だろう?どんな風に? とびラー1年目で疑問をたくさん抱えた私も興味津々で参加しました。
「なりきりアーティスト」とは、藝大生が制作した作品を参加者自らが作ったと仮定し、作家になりきり制作の動機や作品のコンセプトなどを語るワークショップです。参加者がアーティストになりきって作品を語ることで、参加者はより深くその作品を鑑賞できます。また、鑑賞を通して参加者と藝大生、そしてとびラーとの交流が生まれる楽しいプログラムにもなっています。藝大生にとっても、自分の作品への印象や感想を参加者から直接聞くことができる貴重な機会となります。
当日は9名の参加があり3グループに分かれて1作品ずつ鑑賞しました。この日協力くださった作家の方は、デザイン・学部4年生の武藤琴音さん、彫刻・修士2年生の瀬戸優さん、日本画・修士2年生の大山菜々子さんです。作品名は、武藤さん《α》、瀬戸さん《水月 -シロサイ-》、大山さん《百物語》です。
風が少し強い日でしたが真っ青な空から太陽光が燦燦と差し込む大学美術館1階で参加者を出迎えました。次々と到着する参加者らとの歓談が始まります。私が担当したAグループには、甥御さんが藝大生という男性と、とびラーの活動に興味があるという男性が参加。プログラムの趣旨が説明され、武藤琴音さんの作品が展示されている総合工房棟へ参加者と共に向かいました。
部屋に入ってしばらく作品をゆっくりみる時間がありました。この時、参加者は初めて作品と出会います。参加者には、”ヒントシート”なるものが配られ「どうしてこの作品を作ったの?」「みんなに見てほしいポイントは?」「もしあなたがタイトルをつけるとしたら?」という3つの質問をとっかかりにして、作品をじっくり鑑賞しながらトークの内容を考えていました。
武藤さんの作品は、部屋の壁や床に設置された円と楕円、そして直線のレールの上を3つの丸い形の発光体が動いたり止まったりする展示です。光が動いていくことで、壁や棚、カーテンに当たる光の角度が変化し、レースや水を通して光が揺らぎます。水を入れたガラスの容器がきらきらと輝いたり、植物の影が移ろったりする様子は見ていて飽きません。部屋全体の空気感も刻々と変わる作品、素敵な空間が広がっていました。
さあ、いよいよ「なりきりアーティスト」の登場!作家になりきるためのグッズとして、ベレー帽に眼鏡、マイク、そして「本日のアーティスト」と大きく書かれたたすきなど、なりきるための小物が用意されていました。これを着けてもらうようにトップバッターにお願すると快く受けてくださいました。
参加者は堂々と作家になりかわって作品を説明してくださいました。丸い形の光から星を連想した方、初日の出を拝んだ経験を語り、日の出、日の入りを連想した参加者、丸い球体の光源がかすかなモーター音を響かせて動く様子から電気掃除機のルンバから着想を得たと語った「なりきりアーティスト」。「光と陰」、「太陽」、「軌道」、「風」、「ゆらぎ」、「星」そんなワードが聞かれました。
「なりきりアーティスト」のトーク中に鑑賞に訪れた方々も、熱心にトークに耳を傾け全員のお話が終わるまで残ってくださった方もいました。空間を巻き込んで刻々と変わる部屋の様子をどの参加者も楽しんでいることが伺えました。
「なりきりアーティスト」全員のトークが終わった後、本物の作家さん武藤さんの登場です。打ち合わせではそんなに話せないかもとおっしゃっていましたが、「なりきりアーティスト」のトークに感激されて嬉しそうに話してくださいました。第一声が「私の作品に込めた想いは届いていた」という喜びだったのです。
「かつて窓のない部屋で一日の大半を過ごした経験から、蛍光灯の下で過ごしていると時間の変化が感じられなかった。光にとても関心があり、光が空間に対してもつ影響力について考えてきた。太陽は登ったり傾いたり沈んだりして空気感が変わっていく。部屋のライトでも変化を作れないかと試してみた。太陽が動いていく様子、沈んだ時、光の移ろいや雲のかげりなど、移り変わる光と空間を作りたかった。電気のなかった時代に比べて、現代は季節の変わり目さへも気づきにくくなっているのではないか。」などお話くださいました。
本物の作家さんを囲んで、制作費についてや、製品プロダクトにするつもりはあるのか、誰にこの作品を届けたいかという質問も飛び出していました。応答からは、制作に何か月もの時間をかけモータやプログラミングにも試行錯誤を重ねたことが分かりました。また、好きな光を使ったデザインでそこにいる人々が心地よく過ごせる空間を作ろうとしたこと、その空間で過ごす人々の心の豊かさや幸せを願いながら作成にあたったことなどが語られ、作家さんのあたたかい想いが伝わってきました。
プログラム終了後、「なりきりアーティスト」に参加した皆さんに感想をカードに書いていただき、武藤さんに手渡しました。「光の空間で癒されました」「移ろいゆく変化が素敵です」「作品への思いの裏にしっかりした考えがあり感心しました」「照明の新しい形に感動しました」「照明プロダクトとしても完成度が高いと思います」などの感想が寄せられていました。
Aグループの現場にしか立ち会えませんでしたが、Bグループ、Cグループでも楽しいトークが繰り広げられたようです。展示中の忙しい中、協力していただいた作家のみなさん、プログラムに参加していただいた「なりきりアーティスト」の皆さん、ありがとうございました。
武藤さんご自身「プログラム参加して、本当に良かった。こうした意見をじっくり聴けることは、私自身にとって非常に良いことでした」とコメントされていました。他人が作った作品を自分はどう見たのかを語るプログラム「なりきりアーティスト」は、「作家」と「鑑賞者」そして「作品」の距離をぐんと近づけるワークショップ。様々なコミュニケーションが生まれ、様々な気づきが生まれた豊かな時間でした。
今回の「なりきりアーティスト」の企画をしたとびラーの中には、このプログラムへの参加がきっかけでとびラーになった人もいました。今回の参加者の中からも未来のとびラーが生まれるかもしれませんね!
執筆:卯野右子(アート・コミュニケータ「とびラー」)
初めて参加した「藝大卒展さんぽ」と「なりきりアーティスト」。私自身が一番楽しんでいたかもしれません。来年度はどんな作品や作家さんに出会えるでしょうか。今からわくわくしています。
2019.02.18
2019年1月28日から2月3日に開催された、第67回東京藝術大学卒業・修了作品展にて、とびラーのプログラムとして定番になってきた「なりきりアーティスト」を実施しました。実施日時は2月2日(土)午前11時です。
「なりきりアーティスト」とは、参加者自身が作家になりきって、制作の動機、作品コンセプト、作品のタイトルなどを語るワークショップです。
今年は日本画(修士)の神谷渡海さんと、彫刻(修士)の稲垣慎さんにご協力いただきました。題材となる作品は、それぞれ藝大美術館の地下2Fに展示された神谷さんの《境》と、3Fに展示された稲垣さんの《鳥顔の竜の群像》です。
参加者は7名。他のとびラーが主催するプログラムに参加経験のある方や、小学校6年生の男子など、多彩な顔ぶれです。4名をAグループ、3名をBグループとして迎え、それぞれ《境》と《鳥顔の竜の群像》の「なりきりアーティスト」になっていただきます。
[最初の10分間は作品鑑賞と事前準備]
プログラムの最初の10分間、なりきる作品を鑑賞しながら、どんなプレゼンテーションをするか考えていただきます。なかには最初、「ええ何、これどうしよう」と思われた方もいたようです。でも、じっくり作品を見ていくうちに、色々な想像がわいてきます。
[《境》の「なりきりアーティスト」たち]
さあ、全員で神谷さんの作品の前に集合!
Aグループの方には「本日のアーティスト」のタスキをかけてもらい、一人ずつプレゼンテーションをしてもらいます。Bグループの人は鑑賞者役となり、作家役のプレゼンテーションを聞いて、気になったことを質問します。最初は緊張していた「なりきりアーティスト」の方々も、だんだんと作家のような気分になり、最後は堂々と絵のモチーフや情感を語りだすようになります。なかには、私はダンサーでもあると言って、絵の前でダンスの動きをされる方もいらっしゃいました。
最後には、後ろで聞いていた作家さんに出てきていただきます。本物の作家である神谷さんも、「そのタスキを貸して!」と楽しそうに「本日のアーティスト」タスキをつけてくださいました。そして、作品のモチーフや、描かれている彼岸や此岸のイメージなどについて、話をしてくださいました。
作家のことを想像して語った参加者は、さらに本物の作家の話を聞いて、この体験を大変印象深いものと受け止めたようです。「彼岸と此岸の説明に感動」「木の後ろに回ったり、上から垂れてくるものを引っ張ったり、絵の中に入って遊ぶような感覚になった」「葛飾は地元なのに、それが抽象化されて、こんな精神性を感じられるようになるなんてびっくり」「自分の思い出と作品の思いが重なったよう」といったコメントをいただきました。
次に、エレベーターで3Fまで移動し、Bグループの人に「なりきって」いただきます。
[《鳥顔の竜の群像》の「なりきりアーティスト」たち]
今度は稲垣さんの作品です。大きな彫刻作品なので自然に周りの人の輪も大きくなります。
ある「なりきりアーティスト」の方は、この作品に「南国と解放」を見出して、鸚鵡を解放して、さらに大きな鸚鵡にする物語を語ります。また別の「なりきりアーティスト」は、彫刻に、自分に入ってくる前のもの、自分の中、自分のものとして消化した後をみて、それを彫り分けたと解説します。同じ作品を見ても、全く異なった語りになるところが、「なりきりアーティスト」の面白さです。小学生の「なりきりアーティスト」は、深い彫りは思いっきり、浅い彫りは優しくと、木を彫る楽しさを話してくれました。そして、バナナが好きだからこのバナナが気に入っているというのにも、納得。
こちらも、最後に稲垣さんに登場してもらい、自らの作品に関してお話していただきました。のみの彫り痕のこと、お賽銭が置かれたこと、タイトルを黒板に書いていることなどが説明され、参加者も興味深く聞いていました。
こちらのグループの参加者からは「作品を見てたくさんの想像がわいてきた」「自分の中にあるものを、自然に(作品に)出されている姿に刺激と感動をいただきました」という感想がありました。そして小学生の男の子からは「木彫りの作品は見ていて魅力的に感じました、また木彫りの彫刻を彫って欲しい」とコメントをもらいました。
プログラム終了後、「なりきりアーティスト」に参加した7人の皆さんに書いていただいた感想を、作家さんに伝えました。神谷さん、稲垣さんからは、思わぬ話が聞けて楽しかった、普段の鑑賞者との会話とはちがった面白さがあった、と言っていただきました。
展示中の忙しい中、協力していただいた神谷さん、稲垣さん、プログラムに参加していただいた「なりきりアーティスト」の皆さん、おかげで、楽しいプログラムになりました。ありがとうございました。
執筆:鈴木重保(アート・コミュニケータ「とびラー」)
一昨年は「なりきりアーティスト」の参加者として、作家になりきってプレゼンテーションを行ないました。今年は「とびラー」として、このプログラムに関われたことを嬉しく思っています。
2018.02.03
2018年2月3日土曜日、東京藝術大学卒業・修了作品展において、「なりきりアーティスト」を開催しました。
「なりきりアーティスト」とは、藝大生が制作した作品をワークショップ参加者が作ったと想定して、参加者の皆さんに作者になりきってコンセプトや作品タイトルなどを語ってもらうワークショップです。例年につづき今回で3回目の開催となり、6名の様々な”なりきりアーティスト”さんに参加していただきました。
開催日である2月3日は節分の日、明日は立春という天気の良い春めく日でした。そして第66回目にあたる東京藝術大学卒業・修了作品展の最終日。東京都美術館や大学構内は学生の集大成である作品を観に来る人々で大賑わい、そしてエネルギー溢れる作品たちを感動した面持ちで鑑賞していました。
そんな中、応募してくださった皆さんを大学美術館前にて待つとびラー。
ポカポカ暖かくて、これから楽しいワークショップが始まるワクワク感が増します。さて、今年の「なりきりアーティスト」はちょっとした「仕掛け」をご用意しました。受付にてグループ分けされた参加者の方々に、なりきっていただくための小道具をお配りしています。ベレー帽やアーティスト風メガネなど、お好きなアイテムを選んで身に付けていただきました。みなさん、喜んで身につけるあたりにさすがのやる気を感じます。「なりきろう!」と応募されてきただけあって、楽しもうという姿勢が圧巻です。
みなさん集合されたところで、これからのワークショップの流れを説明。
今回は、1グループ3名の参加者に対して、3名のとびラーが付き添います。
2つのグループに分かれて、それぞれ1つの作品を鑑賞します。その後、鑑賞した作品の作者に一人一人がなりきって語り、お互いの発表を聞きあいます。
はじめに2グループに分かれて自己紹介とアイスブレイクです。
もうこのあたりから、参加者の皆さんのわくわくした面持ちが伺えます。
グループごとに大学美術館の地下へ降りていきます。
まずはグループごとに、自分が作者に「なりきる」作品を鑑賞します。鑑賞のポイントは以下の3点に絞って考えます。
1. どうしてこの作品を作ったの?
2. みんなに見て欲しいポイントは?
3. もしあなたがタイトルをつけるとしたら?
上の3点が書かれた「ヒントシート」にメモをしながら鑑賞していきます。
こちらは「おさるチーム」の様子。
こちらは「ぶどうチーム」。
大きな絵画の前でじっくりと作品を鑑賞しています。
ゆっくりと鑑賞し終えたら「なりきり」発表です。まずは絵画作品の「ぶどうチーム」から。発表をしてもらう方には「なりきりマイク」と「なりきりタスキ」をかけていただきました。
みなさん堂々と自分が描いたのかのように作品について語ってくれました。
お話ししてくださったのは、こんなこと。
どれもこれも、とてもユニークな「なりきり」発想に、会場には笑いが絶えません。
他の参加者からの質疑応答はインタビュー形式で行います。活発に質問が飛び交い、その質問にも作者になりきって答えていただきました。
そこへ、その様子を見ていた本物の作者が登場!みなさんの想像の豊かさに驚き、頷き、真剣に見入っていらっしゃいました。そしてとても楽しかった様子です。
まずはみなさんのなりきりに関しての感想、そして”本当の”コンセプトや絵に対する想い、また、絵を描いている時に考えていることなどを語っていただき、その後みなさんからの質問にも丁寧に答えていただきました。
次に全員で「おさるチーム」の作品の場所へ移動します。こちらは立体の作品です。
複数体の猿をモチーフに作られたこちらの作品では、キャラクター同士の関係性を想像する人も多かった様子。みなさんがつけた作品のタイトルにも注目が集まりました。
・人間関係のストレスから退職した人が、そのエネルギーをものづくりへと変換した作品「どこ見てんだよ」
どの方も堂々とアーティストに「なりきって」、独自の視点と発想で、見て感じたことを語っていました。
こちらの作品でも、最後に本物の作者が登場。発表中は横の方で、自分の作品がどう語られるのか、興味津々で見守っていらっしゃいました。
こちらもみなさんの「なりきり」の感想から始まり、作品が語るストーリーや、制作過程での秘話、技法についてなど詳しくお話ししていただきました。
本物の作者のお話に、みなさん真剣に聞き入り、質問をしたりと、自分自身が作者に「なりきる」からこそ深く考えたやりとりが続きます。
最後に会場の外にて、グループごとにワークショップの感想を共有し、本物の作者の方々へ応援のメッセージを書いていただきました。
これにて「なりきりアーティスト」は終了。終始和やかに楽しく、和気藹々とした雰囲気でした。
今回参加してくれた藝大生の作家のお二人からのメッセージの一部抜粋をご紹介します。
じっくり作品と向き合った参加者みなさんの視点によって、作者の方も、また私たちとびラーも、いろいろな解釈に驚き、納得し、楽しめたことは言うまでもありません。とても素晴らしい「なりきりアーティスト」さん達でした。また、そんな参加者の言葉を真摯に受け止めていただいた藝大生のお二人にも感謝いたします。
美術作品を観るときに、「もし自分だったら、なぜこの作品を作るのだろう?もし自分が作ったとしたら、どこを一番観て欲しいのか」などと考えながら観ることは、その作品を深く鑑賞することに繋がるのではないかと思っています。また作者にとっても、卒業・修了制作にあたる作品で鑑賞者にそのように観てもらい、どんな風に感じてもらえるのかを知ることは希少な体験で、これからの作品制作や美術とともに歩んでいく過程のなかでプラスになることもあるのではないかな、と考えています。
そんなことを思いつつ、その日、その時初めて出会った方々と、作品を通して感じる心の違いを尊び楽しめたらいいなと思っています。とびラーにとっても、みなさんの素晴らしい感性に触れて寄り添わせていただけることは貴重な体験で、新たな価値の創造に繋がっていると思えるのです。
あなたもぜひ「なりきりアーティスト」の体験をしてみませんか?
そして、またいつか「なりきりアーティスト」でお会いしましょう。
ごきげんよう。
アートとコミュニケーションが大好きで、そこを繋げることに興味を抱きとびラーに。あっという間の2年が過ぎ、最後の3年目。人とコミュニケーションしながら鑑賞する、その深さを追求していきたい。そして世界に笑いを!
2018.01.19
東京藝術大学卒業・修了作品展の会場で、参加者自身がアーティストになりきって作品を語るワークショップです。自由に想像して、藝大生の作品をあなたが作った作品!?だと思ってギャラリートークしてください。藝大生とアート・コミュニケータ(とびラー)がサポートします。
2016.01.29
2016年1月29日に第64回東京藝術大学卒業・修了作品展で、「なりきりアーティスト」を開催しました。
「なりきりアーティスト」とは、藝大生が制作した作品を、ワークショップ参加者が作ったと仮定し、コンセプトや作品タイトルを語ってもらうワークショップです。今回がはじめての実施となりましたが、最年少は幼稚園の年長さん(!)から大人、日本語学習中の外国籍の方まで、8名のさまざまな“なりきりアーティスト”の皆さんに参加していただきました!
この日、外は冷たい風が吹いていましたが、都美術館内は藝大生や来館者の皆さんの熱気が充満していました。作品から発せられるエネルギーが溢れ出ています!
さて、開催告知を見て応募してくださった参加者の皆さん。とびラーとの自己紹介が済んだら、それぞれの作品のもとへ出発です。そうです、作品のもとへ行くまでは、自分の担当作品がわかりません。さらに、担当作品は公正にクジ引きで決められるので、私たちとびラーも、誰がどの作品を担当するのかはわからないのです。
ひとつの作品に対して、一人か二人のなりきりアーティストさんと、案内とびラー、そして作品を作った張本人である藝大生がいます。藝大生と案内とびラーが鑑賞のサポートに入り、寄り添っていきます。この時間は、作品のコンセプトやタイトルを考える時間です。
1.どうしてこの作品をつくったのですか?
2.みんなに見てもらいたいポイントはなんですか?
3.作品のタイトルは?
この3つの質問に沿いながら鑑賞し、深く作品に入っていきます。
ひとりでじっくりと深い鑑賞に入っていく方や、
とびラーとのお話の中で見出していく方。それぞれの方法でじっくりと、深く鑑賞します。
お子さんたちもじっと作品を見つめていきます。
藝大生の皆さんもその様子をじっと見つめています。
20分の鑑賞時間があっという間に終わり、いよいよ作品発表の時間です。
なりきりアーティストの皆さんは、もう一度全員集合し、みんなで最初の作品、油画科の展示室に移動します。
最初の作品は、壁一面に作者のモチーフが広がっているような作品。
少し緊張されながらも、“自分の”作品コンセプトを、なりきりアーティストさんがお話しします。
様々なモチーフから、ご自分の記憶や母の思い出の断片を辿っていくなりきりアーティストさん。とびラーや藝大生の大人さんもその発表を聞き入ります。
小学生のなりきりアーティストさんも、自分が発見したモチーフを中心に発表しました!
続いては、日本画科の部屋へ移動し、お二人の発表です。
”ご自分の”作品の出来栄えに大満足されたようで、自信に満ち溢れた発表です。
発表を聞いている皆さんに、作品に近づいてもらったり、離れて観たり。作品の見方にもこだわりがあります。
作品に漂う悲しみや、登場人物への想いを語るなりきりアーティストさん。優しく紡いでいくストーリーに、みんな真剣に聞き入る。
“自分のコンセプトに似てる”と語る藝大生の竹内さん。
続いては、先端芸術表現科へ。
発表の冒頭、藝大生を”お兄ちゃん”と呼び、新たな展開を呼び起こしたなりきりアーティストさん。
急遽“なりきりお兄ちゃん”になった藝大生の田中さん。
ユニークな発表で、和やかな空気が流れました。
そして最後は、彫刻科の展示室へ移動。
最年少のなりきりアーティストさん。“ヒーローが変身する瞬間みたい”と語りました。おお、カッコイイ!
“歯で成形されたような手“を独特な表現で語るなりきりアーティストさん。
“肉体は滅んでも、歯は残る”、”手で触り、歯で味わう”など印象深い言葉がたくさん飛び出しました。
メモをとりながら聞き入る藝大生の中本さん。
*
8名のなりきりアーティストさんの発表は、これにて終了。皆さん、素晴らしい発表でした!藝大生もとびラーも、参加者の皆さんのなりきりっぷりに圧倒されました。自慢げに作品を発表される様子は、”ほんものアーティスト”のようで、展示室を通りがかった方が藝大生と見間違えるほどです。
作品とじっくり対峙した皆さんの言葉や解釈は、偽りもなく本物ですから、間違いでも見当違いでもありません。
皆さん、素晴らしいアーティストでした。そして、発表をしっかりと受け止めてくれた藝大生の皆さん、ありがとうございました。
また、いつか、「なりきりアーティスト」でお会いしましょう!
執筆:アート・コミュニケータ(とびラー) 太田 代輔
アートを介したコミュニケーションに惹かれ、実践の場を求めてとびラーになる。
多彩な人々やアートとの出会いが楽しい3年目。とびラー卒業後もアート・コミュニケーションします!