2012.11.05
今回の「スークールマンデー(対話を通した作品鑑賞)」実践講座のテーマは「対話による鑑賞の実践と記録について VTS実践」です。ついにVTS(ビジュアル・シンキング・ストラテジー)の実践に入ります。今日は午前・午後と通しての実践講座、気合いが入ります。講師はNPO法人芸術資源開発機構のアートプランナーである三ツ木紀英さんです。
はじめに、VTSを再度おさらいする意味も込めてDVD「Thinking through Art 」(イザベラ・スチュアート・ガードナー美術館)を鑑賞しました。
続いて講師の三ツ木さんから、VTSを行なう上で必要な「3質問&7要素」についてお話を頂きました。ここで午前の部終了。
午後は二組に別れてVTSの実践に入りました。とびラー候補生(以下:とびコー)のみなさんは、これまで何度となくVTSを見てきましたが、ファシリテータとして実践するのは今回がはじめてとなります。ちなみに、VTSの実践では、たんにファシリテータの練習を行なうだけでなく、1)ファシリテータ役、2)講師役、3)記録役と、必ず1回のVTSに3つの役割を分担することになっています。VTSが終了したあと、2)の講師役は、
2012.09.24
5分が経過したら、講師の三ツ木さんからストップの合図があります。会話は上手く進んでいたのか、いなかったのか、もしも上手く進まなかったのらなば、どこに問題があったなのかなど、少しだけ振り返りの時間を持ちます。こうした時、3人目の見守る人の存在が効果を発揮するのです。1ラウンド目が終了したあとは、2ラウンド目に移ります。テーマは「あなたがとびラーをやって見ようと思った理由」です。
そして3ラウンド目は「あなたが大切だと思うこと」です。みなさん少しずつ慣れて来た様でした。
「スクールマンデー(対話を通した作品鑑賞)」では、必ずしもVTSの手法を用いた鑑賞プログラムを実施するわけではありませんが、VTSの手法を学ぶことを通して、作品鑑賞について理解を深めることを期待しています。また、これは僕個人の感想なのですが、普段のミーティングを行う上でも、このVTSの実践講習を通して身に付けることのできる能力はのとても有効であると感じました。アートプロジェクトの現場などではよく、年齢も職業も違う人たちが集まり、喧々諤々と議論したりしますが、その場合、場を取りまとめる役の者は、都度言葉と議論の積み重なりを整理して、建設的な話し合いになるように、舵取りを行わなくてはなりません。同じことを言っていても、対立している様な話し合いや、全く違うことを言っていても、同意が起こったりなど、いまいち噛み合ないミーティングは意外と多いものです。そうした時、この言葉のパラフレーズ的手法が非常に効果的で、僕もそれとは知らず使っていた様に思います。鑑賞教育の実践だけでなく、日常のとびコーさんのミーティング能力の向上にも期待を寄せている次第です。
2012.09.10
午前中の多田小学校の皆さんを見送った後、続けて午後には足立区立青井中学校1年生のみなさん66名が来館されました。
美術館での滞在時間が1時間少ししかないという非常に短いスケジュールではありましたが、学芸員やとびラー候補生(以下:とびコー)のみなさんが一丸となり、出来る限り充実した鑑賞体験をしてもらう為に工夫をこらして対応させて頂きました。展示室の入口から出口まで、まずは一通りザッと案内をさせて頂きました。これで、生徒のみなさんもこの展覧会がどのくらいの規模なのかを掴むことができます。つぎは、グループ鑑賞へと移ります。絵の前に座って気持ちを落ち着かせてから鑑賞に移ります。
4グループに分かれて、それぞれのファシリテータ(稲庭、武内、河野、三ツ木)のもとでじっくりと作品を鑑賞して行きます。絵の中で起こっていることをそれぞれ言葉にしながら、感じたこと、思ったことを共有して行きます。今回も生徒のみなさんには、つぶやきをメモしておくことの出来るシートを渡してあります。
グループでの鑑賞が終わった後は、個々人での鑑賞に移ります。絵の前に座り込んで、じっくり見ることは、混雑する平日では到底できませんが、休室日を利用したスクールマンデーなら、こうした鑑賞体験が可能なのです。小中学生のみなさんが、絵と対峙し、ゆっくりとその世界観へ入って行くには、静かな環境と少しのサポートが必要なのではないかと思います。東京都美術館は小中学校の先生とともに充実した鑑賞教育の場をつくりあげて行きたいと考えています。
2012.09.10
東京都美術館(以下:都美)がリニューアルオープンしてはじめて学校単位での鑑賞授業が行われました。スクールマンデー<対話を通した作品鑑賞>は都美のアートコミュニケーション事業の一貫である「先生とこどものためのプログラム」の一企画として実施されており、普段は来館者が多く学校単位での鑑賞が難しい特別展を休室日に特別開室し、鑑賞教育の実践の場としています。学芸員やアートコミュニケータとして都美で活動をするとびラー(現段階ではとびラー候補生:以下とびコー)が中心となり、こどもたちとの対話を中心に、自由な発想を引き出しながら、主体的に鑑賞できるようなお手伝いをします。本日お越し頂いたのは、中野区立多田小学校(以下:多田小)の6年生のみなさん48人です。はじめに担当学芸員の稲庭さんから展示室内でのルールやマナーについてお話がありました。
展示室に入るとまずは1フロアずつ自由に作品を鑑賞して行きます。実は多田小のみなさん、都美に来る前に、どんな作品が展示されているのかを予習して来ています。予習と言ってもお勉強ではなく、「どんな作品に出会えるのかな?」「本物の作品ってどんなだろう」と、美術館に来る前にワクワク感を持ってもらう為の心の準備です。遠足にしても、お祭りにしてもそうですが、本番よりも本番を迎えるまでの心の中の時間が充実していればしているほど、素晴らしい体験につながる可能性が大きくなります。そのため、多田小のみなさんに都美へお越し頂くまでには、何度も担任の先生と学芸員とで連絡を取り合いながら、事前の準備をさせて頂きました。その甲斐あってみなさん、予め自分が凄く見たいと思っていた作品の前に立って「あったあった!」と嬉しそうにお話をしていました。もちろんこの日は休室日、他のお客さまはいません。作品の前で自由に感想を語り合っても大丈夫です。
まずは、個々人でじっくり鑑賞しますが、こどもたちには「つぶやきシート」というプリントを配布してあります。気になっていた作品の前で、気付いたことをメモしてゆきます。少し思ったことを言葉にすることで、自分が思っていたことを再確認することができるからです。これは、こともたちが絵の世界にゆっくりと入って行くためのきっかけとしての「つぶやき」でもあります。「絵画を鑑賞する」ような行為、つまり、動きもない、音も無いモノを前に、見つめることを切り口としながら、自分の心の中に入って行く体験は、こどもたちの日常の生活の中ではなかなかありません。絵を鑑賞することは、絵を通して自分と対話することでもあります。そして、鑑賞すること(鑑賞を通した教育とは)は、「素晴らしい絵を拝見すること」「絵の意味を正しく理解すること」に治まる体験ではありません。鑑賞教育とは、絵の素晴らしさを教える教育ではなく、目の前のモノに素晴らしさ(価値)を感じとれる心を育てる教育を意味しているのだと思います。「素晴らしい絵」があるから人の心に感動があるのではなく、感動する心があるからこそ、「素晴らしい絵」が残されるのだと考えます。つまり、その絵を素晴らしいと思う心の素晴らしさを育む機会が、いつもとは少し違った自分たちだけの美術館での体験なのです。
グループ鑑賞では、こどもたちが絵の中で起こっている出来事を一つひとつ言葉にして紡ぎだして行きました。思わず立って説明をするくらい夢中になる子もいました。ちょっとお話することが苦手な子は、他の同級生の意見を聞いて、自分のつぶやきをメモするなど、それぞれのやり方で参加をしている様子でした。見る→発見する→共有する→個々人の感想として心に蓄える→(見る)、グループでの鑑賞ではこうしたサイクルによって一人で鑑賞するのとは違った深まりを体験することが出来ます。
グループでの鑑賞が終わると、もう一度個々人での鑑賞に移ります。
こどもたちは、もう一度美術館へ来る前から出会うことを楽しみにしていた絵の前に立ちます。最初のぎこちなく「つぶやいた」言葉とは違った思いが自然に心の中に湧いてきて、それをさりげなく隣りの先生につぶやいている様な様子が伺えました。真珠の耳飾りの少女との会話はどんなだったのでしょうか。
展示室での鑑賞を終えて、アートスタディルームへ。今日の体験を振り返ります。
2012.08.20
「スクールマンデー(対話を通した作品鑑賞)」の実践講座の2回目が行われました。講師はNPO法人芸術資源開発機構のアートプランナーである三ツ木紀英さん。前回に引き続き、対話による鑑賞方であるVTS(ビジュアル・シンキング・ストラテジー)の体得を目指した実践講座が開かれました。まずはよりVTSを理解するために、鑑賞者グループ(VTS体験)、観察者グループ1(鑑賞者を観察)、観察者グループ2(ファシリテータを観察)の3つのグループに別れ、それぞれローテーションで全員が体験して行きます。そうすることで、VTSで起こるさまざまな変化や出来事をつぶさに観察することが出来ます。
ファシリテータは三ツ木さん。早速VTSがスタートします。1点の作品に凡そ20分程度の時間をかけます。
みなさん、それそれのグループの立場で、VTSを観察しています。
2点目、3点目とグループの役割を交換しながら、VTSが進められて行きました。
1時間以上にも及ぶ深い鑑賞体験はかなりの集中力を必要とします。またそれ以上に、立て続けに3回連続でファシリテータをされた三ツ木さんにも脱帽です。
少し休憩をとってから少人数のグループに分かれて、VTSの観察体験について意見交換を行いました。自分の感じたこと気付いたことをシェアすることによって、よりVTSについて理解が深まったのではないでしょうか。
最後に「VTSの美的発達段階と適切な作品選び」と題してレクチャーをして頂きました。アメリカのMoMAで開発されたVTSの背景(前回のブログ参照)や、レフ・ヴィゴツキー「発達の最近接領域」、ジャン・ピアジュ「認知発達の4つの段階」、アビゲイル・ハウゼン「美的発達段階」などかなり専門的な内容にも触れて頂きました。また、VTSを行う上で適切な作品の選び方などもご指導頂きました。
2012.07.23
「スクールマンデー(対話を通して作品を鑑賞)」の実践講座がスタートしました。この講座では、NPO法人芸術資源開発機構のアートプランナーである三ツ木紀英さんを講師としてお招きし、実践的な取り組みを交えながら「作品を共に味わう『鑑賞』」について学んでいきます。
まず、「スクールマンデー」担当学芸員の稲庭さんから、この実践講座の概要や小中学校における美術鑑賞教育の現状についてのお話がありました。
スクールマンデーとは、東京都美術館(以下「都美」)が、この平成24年4月のリニューアルを機に始められた学校の先生やこどもたちのためのプログラムで、普段は来館者も多いためなかなか行うことが難しい学校での鑑賞を、休室日に特別に開室し実践します。また、このプログラムはこどもたちとの対話を軸に、自由な意見や考えを持って周りと共有しながら、こどもたちが主体となって鑑賞できるようにサポートします。
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近年、小中学校の学習指導要領が改訂され、小学校の図画工作、中学校の美術の授業で、美術館などと連携を図りながら鑑賞活動を行う事が以前にくらべて明確に示されるようになりました。そのため美術館側でも、よりよい鑑賞の機会を学校と連携しながら生み出していきたいと考えているのです。その具体的なプログラムの一つが「対話」を通した鑑賞の授業です。対話を通した鑑賞は、生徒が10名ぐらいずつグループになり対話をしていくため、生徒の数に合わせた、対話を助けるファシリテータが必要になります。このファシリテータ役を近い将来とびラーがすることをめざし、現在とびラー候補生(以下「とびコー」)は今年度14回の実践研修を積み重ねるのです。
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そしていよいよこの講座の実践的な内容へ。講師の三ツ木さんより、対話を通した作品鑑賞の中心となるVTS(ヴィジュアル・シンキング・ストラテジー)についての簡単な概要説明がありました。
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このVTS(ヴィジュアル・シンキング・ストラテジー)とは、美術史の知識に頼らず、作品をよく見ることからはじめ、「これは何だろう?」と一人ひとりに考えることを促し、様々な意見を引き出しながら作品の見方を深めていく方法です。鑑賞者の「観察力」「批判的思考力」「コミュニケーション力」を育成する効果があり、ニューヨークの近代美術館(MoMA)の教育部長であったフィリップ・ヤノウィン氏と認知心理学者のアビゲイル・ハウゼン氏が開発し、広めたものです。日本へは90年代から、この元となっている対話を通した鑑賞スタイルが紹介されてきました。誰かと話をしながら作品を見ていくことは、私たちも日常からしている自然なことのようですが、それを単なる「会話」ではなく、意見が積み重なっていく「対話」にしていくところがこの手法のポイントと言えます。
概要説明の後は、実際にVTSを体験。スクリーンに映された絵画や彫刻作品をじっくり見て、気づいたことや発見したことを進行役の三ツ木さんのもと自由に発言していきます。描かれているモチーフについてや作品から受ける印象など、様々な意見が飛び交いました。
3つ目に鑑賞した作品は、現在都美にて開催している「東京都美術館ものがたり」にも出品されている岡本太郎の「森の掟」でした。スクリーンでの鑑賞の後は、実際に展示室へ移動し本物を鑑賞。スクリーンとは違った発見も多くあったようで、鑑賞後の意見共有でも様々な意見が出ました。
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アメリカで開発されたVTSですが、アメリカは国土が広く、なかなか美術館に行くことが出来ないという人も多くいます。そのような状況の中で生まれた作品鑑賞が、今回行ったようにスクリーンへの投影やスライド等を利用する方法です。スライドで出来ることも沢山あるが、実物を前にするとより深く鑑賞出来るということを実感しました。
VTSを体験した後は、具体的な方法等について等、より詳しい概要の説明がありました。
このVTSを行うにあたって要となるのが、鑑賞の進行役であるファシリテーターです。ファシリテーターは鑑賞者に問いかけをしながら、上手くその場の流れをつくり意見の共有を促していきます。例えば、鑑賞者が子供である場合、言葉がまだ拙く意図が伝わらないとこもあります。発言の真意を汲み取り言い換えたりすることで、他の人との意見の共有がされやすくなります。また、ファシリテーターが行う大事なことの一つとして「中立性を保つこと」があります。VTSはひとつの「正解」ではなく「思考する」ことを学ぶプロセスを重視しています。あがった意見を断定するのではなくひとつの可能性として扱うのです。大事なのは自分の意見をまず言う事で、作品について考えることを個々の中で育つようにします。そしてまた、鑑賞の最後は意見をまとめたり要約するという事はしません。もやもや感が生まれそうですが、ファシリテーターの進行のもと、自分の意見を客観的に言葉にすることで認識し、他の人の意見も受け止めると、さらに自ら今目にしているものの意味を生成したい!つまり自ら「知りたい」「わかりたい」という内発的な思いが鑑賞者の内側に育っていくようになります。さらには、その内発的な思いが強まれば、もやもやとした疑問を他人に答えを求める形で投げ出さないで自分の中に持ち続ける「自ら考え続ける力」も育まれていくのです。
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アートは言葉にするには難しい分野でもありますが、他の人の考えを聞く事、また、自分の感じたことを言葉にして誰かと共有できたという充足感は、考え学び続ける力や観察すること、またコミュニケーション能力を育んでいきます。講座の最後には3人一組になって今回の体験や意見を共有しました。
とびコーのみなさんは14回の講座の後に、こどもたちと対話をする実践の場に立ちます。美術館に来るのは初めてという生徒も大勢いるでしょう。とびラーさんが対話による鑑賞のファシリテータとして活躍し、こどもたちと一緒に充実した時間を過ごす、その日が今から楽しみです。
(とびらプロジェクト アシスタント 大谷郁)