2026.06.06
【第5回基礎講座 ミュージアムとウェルビーイング】
日時|2026年6月6日(土)10時〜15時
場所|東京都美術館アートスタディルーム
講師|中原淳行(東京都美術館学芸員 学芸担当課長)
小牟田悠介(東京藝術大学 芸術未来研究場 ケア&コミュニケーション領域 特任准教授)
熊谷香寿美(東京都美術館 学芸員 アート・コミュニケーション係長)
内容|ミュージアムとウェルビーイングについて考えます。また、とびラーの活動拠点である東京都美術館のミッションとその背景について学芸員から話を聞きます。
・ウェルビーイングとは何か?
・ミュージアムってどんなところ?
・東京都美術館のミッションができるまでの背景とは?
ミュージアムとウェルビーイング
午前中は、熊谷さんから「ミュージアムとウェルビーイング」というテーマでお話がありました。
昨今よく耳にする「ウェルビーイング」とはなんでしょうか?
世界保健機関(WHO)は健康を単に「病気ではない」ことではなく、「肉体的にも、精神的にも、社会的にもすべてが満たされた状態にあること」と定義しています。肉体や精神が良好な状態であることはもちろん、社会的に良好な状態であることも重要といえます。
ウェルビーイングは個人の中だけでなく、他者やコミュニティとの関係性の中で達成されるもので、何に対してウェルビーイングを感じるかは文化や人によってそれぞれ異なります。
自分の目標を達成してウェルビーイングを感じることもあれば、他者を助けることでウェルビーイングを感じることもあるでしょう。
そんななか、とびらプロジェクトでは「わたしだけでもなく、あなただけでもなく、わたしも、あなたも、わたしたちがミュージアムでウェルビーイングを育む」ことを大切にしたいと熊谷さんからお話がありました。
では、ミュージアムではどのようなウェルビーイングが育まれるのでしょうか?
また、ウェルビーイングを育むためにアート・コミュニケータはどのような関わりができるのでしょうか?
これらの問いについて考えるために、3つの事例が紹介されました。
1つ目は「Museum Start あいうえの」のプログラム「みるラボ:つながりをつなげる」(2025年8月〜9月実施)です。
「みるラボ:つながりをつなげる」は、ろう者、難聴者、聴者が美術館で専門家と出会い、一緒に作品を鑑賞し、思考し、実践する4日間のアート・コミュニケーションプログラムです。
ろう者、難聴者、聴者を含む参加者たちが、背景の異なる人たちと一緒に美術館を楽しむためのアイデアを自分たちで考え、最終日にプログラムとして実践してみる過程が映像で紹介されました。
映像視聴後のシェアタイムでは、
「色々なきこえの人がいるから『できない』じゃなくて、『じゃあ、どうしよう?』って考えることが大事なんだなって思いました」
「私もこういうプログラムに関わってみたい」
などの意見が出ていました。
参加者であるティーンズたちが、アイデアを考え、展覧会にきた人たちを巻き込んで実現させていく様子に勇気づけられた人も多かったのではないでしょうか。
2つ目の事例は、「Creative Ageing ずっとび」のプログラム「美術館で絵を楽しもう!ずっとび鑑賞会」(2023年10月実施)です。
「美術館で絵を楽しもう!ずっとび鑑賞会」は認知症が気になる65歳以上の方を対象としたプログラムです。
とびラーと参加者が貸切の展示室をゆっくり巡ったり、作品鑑賞をしながら対話を楽しむ様子が映像で紹介されました。
映像をみる前に、熊谷さんから「とびラーがどのような関わりをしているのか注目してみてください」と呼びかけがありました。
映像視聴中、医療スタッフや参加者の方々の言葉にうんうんとうなずいたり、微笑みながらみているとびラーも多く、映像をみているこちらにも幸せが広がっているようでした。
映像視聴後のシェアタイムでは、
「参加者の人たちがすごく話しやすそうだった」
「安心感がある」
などの意見が多くでていました。
とびラーの関わりによって参加者の気持ちがほぐれ、話がはずむ様子が印象に残った人が多かったようです。
3つ目の事例は、東京都美術館の「障害のある方のための特別鑑賞会」です。
「障害のある方のための特別鑑賞会」は障害のある方がより安心して鑑賞できるように、特別展の休室日に開催する鑑賞会です。
とびラーは受付や展示室などさまざまな場所で来館者のサポートを行っています。
アート・コミュニケータとしてとびラーは、「ただその場にいるだけではなく、そこにいる人と関わっていくことが大事」というお話が熊谷さんからありました。
午前中最後のシェアタイムでは、ここまでの内容を振り返って印象に残ったことを共有しました。
人によってウェルビーイングはさまざまであることに気がついた人、それぞれの事例が印象に残った人、基礎講座第2回で学んだ「きく力」の重要性に改めて気がついた人など、一人ひとりが自分なりに内容を受け止めている様子が印象的でした。
近年、ミュージアムの役割は世界的に大きく変化してきています。
作品の収集・保存・展示・調査研究にとどまらず、包摂的で多様性と持続可能性を育む場であることが求められています。また、コミュニティの参加も期待されています。
こうした流れの中で、とびらプロジェクトでもとびラーのみなさんと一緒に、ウェルビーイングが育まれるミュージアムについて考え、実現していきたいと思います。
東京都美術館のきのう・今日・あした
午後は、ミッションの策定に携わった学芸員の中原淳行さんから、言葉に込めた想いや、ミッション策定の裏にあったミュージアム体験について、また東京都美術館100周年記念の企画展についてもお話を伺いました。
きき役はとびらプロジェクト プロジェクトマネジャーの小牟田さんです。
東京都美術館は2012年のリニューアルオープンに合わせて新たなミッションを掲げ、そのミッションに基づいて様々な事業を展開してきました。
東京都美術館の使命(ミッション)
東京都美術館は、展覧会を鑑賞する、子供たちが訪れる、芸術家の卵が初めて出品する、障害のある方がなんのためらいもなく来館できる、すべての人に開かれた「アートへの入口」となることを目指します。
新しい価値観に触れ、自己を見つめ、世界との絆が深まる「創造と共生の場=アート・コミュニティ」を築き、「生きる糧としてのアート」と出会う場とします。そして、人びとの「心のゆたかさの拠り所」となることを目指して活動していきます。
東京都美術館のミッション(使命)について深く考えたことがある人は少なかったかもしれません。
ミッションにある「新しい価値観に触れ、自己を見つめ、世界との絆が深まる『創造と共生の場=アート・コミュニティ』」とはどういった場なのでしょうか。
このミッションを実現するためには、どういった取り組みが考えられるのでしょうか。
中原さんの丁寧で想いのこもったお話に全員が惹き込まれていくようでした。
お話を聞いた後は、3人組に分かれて感想のシェアタイム。
「言葉にならない想いを汲みとれるのがとびラーなのかな」
「コミュニケーションは受け取ってくれる人がいないと成り立たない」
「鑑賞って作者から鑑賞者への一方通行な体験じゃなくて、鑑賞者からもはたらきかけているんだ」
「ミッションの解釈がどんどん広がっていった」
中原さんの原体験となるようなミュージアム体験をきいて、自分の忘れられないミュージアム体験を語る人もいました。
東京都美術館のミッションはとびラーとして活動する上で大きな支えになるのではないでしょうか。
最後に、小牟田さんからは「ミッションをもとにどういう場をつくっていきたいのかをとびラーの皆さんと一緒に考えていきたい」
中原さんからは「ゆっくりと焦らず皆さんのペースで」と呼びかけがありました。
今回の講座は、「とびラーとしてこれからどういう場をつくっていきたいか」を考え、共有する時間となりました。これからも皆さんと考え続けていきたいと思います。
基礎講座も残すところあと1回。
次回の講座では、「この指とまれ/そこにいる人が全て式/解散設定」に込められた意味について、考えていきます。
(とびらプロジェクト アシスタント 三原凜子)
2026.05.23
日時|2026年5月23日(土)10時~15時
場所|東京都美術館 交流棟2階 アートスタディルーム
講師|青木将幸
内容|とびラーの自主的な活動には、直接コミュニケーションをとるミーティングの場のあり方がとても重要です。ひとりひとりが主体的に関わるミーティングの場をつくるために、ミーティングの理想的なスタイルや具体的な手法を、レクチャーやワークショップを通して学んでいきます。
とびらプロジェクトには、とびラー同士が自発的に開催するミーティング「とびラボ」があります。世代も職業も異なる人たちが集まり、アイデアを持ち寄りながら対話を重ねるとびらプロジェクトにとって、ミーティングは活動の土台ともいえる存在です。
とはいえ、「会議が好き」という人はそう多くないかもしれません。資料が配られ、スライドが映し出される。「何か意見はありますか?」と聞かれても、なかなか発言しづらく、気が付けば一部の人だけで話が進んでいる――そんな経験は、多くの人に覚えがあるのではないでしょうか。
今回の基礎講座では、「グッドミーティング(良い会議)」をテーマに、ファシリテーターの青木将幸さんを講師に迎えました。家族会議から国際会議まで、年間100本以上の会議進行を手がける青木さんから、会議をより豊かなものにするヒントを学びました。
青木さんがまず取り組んだのは、場をほぐすことでした。
最初に紹介されたのは、会議前の「1分間のお祈り」です。直前まで仕事や家事をしていた人が、気持ちを会議へ切り替えるための時間。実際に会場でも1分間静かに目を閉じると、鳥のさえずりが聞こえるほどの静けさに包まれ、その後の場の空気がふっと柔らかくなったのが印象的でした。
続いて行われたのは、「親指ゲージ」によるコンディションチェック。親指を上に向ければ元気、横なら普通、下なら少し不調というシンプルな方法です。
「仕事が忙しくて疲れています」
「今日の講座が楽しみで少し寝不足です」
高い人もいれば、低い人もいる。それを表明できること自体が、すでにグッドミーティングの土台になっています。
さらに、グループごとにひとり一つづつ、ストレッチを紹介し合う体験もしました。
「心の緊張と体の緊張はつながっています」
青木さんの言葉どおり、体を動かすことで場の雰囲気もほぐれていきました。
その後のテーマは、「会議をよくするものを持ち寄る」。
参加者は事前に「これがあるとグッドミーティングになると思うもの」を持参していました。飴やクッキー、かるた、あやとり、カリンバ(アフリカ発祥の楽器)、ぬいぐるみなど、個性豊かなアイテムが並びます。
そこで紹介されたのが、青木さんが大切にしている言葉です。
「Anyone can contribute(ここにいる誰もが貢献できる)」
アートに詳しい人もそうでない人も、大人も子どもも、それぞれの経験や視点を持っています。誰もがこの場にいてよく、何かを持ち寄ることができる。その安心感こそが、グッドミーティングの出発点なのだと語られました。
後半では、「グッドミーティングポスター」づくりにも挑戦しました。まずは一人ひとりが「良い会議」と「悪い会議」のイメージを書き出し、その後グループで共有します。
「みんなが発言できる」「目的がわかる」「話しやすい雰囲気がある」などさまざまな意見が飛び交います。
そのような意見をもとに、各グループがより良いの会議像の合意点を探り、個性あふれるポスターが並びました。
講座の最後は、参加者自身がテーマを持ち寄って話し合う実践ミーティングです。
「若者の成長意欲は本当に下がっているのか?」
「障害のある人と“一緒に”アートを楽しむには?」
「子どもにAIを使わせていいのか?」など
それぞれのテーブルでは、今日学んだ手法を取り入れながら活発な対話が行われました。
第4回目の今回は、ミーティングの楽しさや意義を再発見したり、理論が分かっても実践することの難しさを感じたりと、会議の奥深さを知る機会にもなりました。
基礎講座もいよいよ後半戦。今後の「とびラボ」でも、今回学んだグッドミーティングの実践がさまざまな場で生まれていくことでしょう。
(とびらプロジェクト アシスタント 久保田夢加)
2026.05.17
日時|2026年5月16日(土)
場所|東京都美術館
参加者(事前申込)|33名、とびラー20名
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爽やかな初夏の陽気の中、2026年度 第1回目の「とびラーによる建築ツアー」が実施されました。
新緑が美しいこの季節、心地よい風とやわらかな陽光に包まれながら、参加者の皆さんは館内のさまざまな場所を巡り、ツアーを楽しまれている様子が印象的でした。
今回は、ガイドとして初めて参加するとびラーも加わり、それぞれの視点や個性を生かしたツアーが行われました。
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この建築ツアーは、決まったコースはなく、それぞれのとびラーが考えたオリジナルのツアーです。
2026.05.09
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日時|2026年5月9日(土)10時~15時
場所|東京都美術館 交流棟2階 アートスタディルーム
講師|熊谷香寿美(東京都美術館 学芸員 アート・コミュニケーション係 係長)
内容|美術館で作品を鑑賞するということを、あらためてとらえ直します。とびらプロジェクトの活動の基礎になる、アートを「みる」とはどういうことか、ほかの人と「みる」ことで何が生まれるのかを、実感とともに学ぶことを目指します。
作品をみることや、作品を介したコミュニケーションは、全とびラー共通の活動の基盤です。
第3回基礎講座はその「作品を鑑賞する」ということについて考えました。
東京都美術館のアート・コミュニケータになってから1ヶ月が経ったとびラーたち。多様な属性、バックグラウンドをもつみなさんも、初対面の緊張がほぐれ、朝から和気あいあいと交流を深めていました。和やかな空気のなかで講座がスタートします。
美術館での鑑賞体験は、自分のなかの枠組みを広げ、思考を深める契機です。
また鑑賞は作品との間で、その人なりの意味・価値を生み出す場となります。学校の図工や美術の時間が好きではなかった人も、美術館では誰もが創造的になることができるのです。
講師からレクチャーを受けた15期とびラーたち。次に、館内で開催中の「第92回東光展」会場に出向き、鑑賞を深める実践を体験しました。まずは一人で会場のたくさんの作品の中からひとつの作品を選び、「自分がその作品のどこを気に入ったのか」を考えながらゆっくり鑑賞します。
続いて、3人グループで各々の気づきを共有します。
「誰もいない廊下、放課後の学校の静けさを感じる」
「面談の前かも?」
「そう聞くと印象ががらっと変わるね」
畑の土を描いた作品を見ていたとびラーたちは、「地面を描いているけど、くもり空の色が写っているな」と話していました。
「話しながらだと、ずっと見ていられるね」
「みんなでみると面白い」
それぞれが選んだ作品を3人で話しながらみたあとは、もう一度自分が選んだ作品をじっくりと鑑賞しました。手元のシートに気づきを書き留めながら、自身と作品との対話を重ねていました。
ランチタイムで一息ついたあとは、グループで松本竣介の《立てる像》(神奈川県立近代美術館蔵)の作品図版をみながら、「じっくりみて、発見したこと、感じたこと」、「人物はどんな表情をしている?」、「人物の左手/右手はどうなっている?」など、テーマごとに意見を交換しました。
最後に、その《立てる像》を題材に中学生を対象として行われたワークショップの記録映像が紹介されました。ワークショップでは、中学生たちが《立てる像》について意見を交わし、実際に自分たちでポートレート撮影を行うことで、作品や自己について理解を深めていました。とびラーたちは、この事例を通して、重層的な背景をもつ美術作品を媒介に、自分たちの内面や感覚を表現することの可能性について、考えを深めました。
<講座参加後のとびラーの振り返りより>
最後の中学生の映像をみながら、学びの本質をみたような気がした。 アートを介することで、普段自分では気付けない自分に気付いたり、他者と関わることができたり、思いを自由に表現できたりしている子供達をみて、自然と涙が出てきた。 ああ、私のやりたいことはこれなんだと改めて熱い思いが込み上げて来た。
ものとの対話、人との対話を行き来することで、作品との関係、人とのかかわりは車の両輪のように豊かになっていきます。
鑑賞の実践をこれからも繰り返していくとびラーたちが、ここ上野でどのような活動を展開するのか、目の当たりにするのが今から楽しみです。
(とびらプロジェクト アシスタント 平林壮太)
2026.05.02
日時|2026年4月25日(土)10時〜15時
場所|東京都美術館アートスタディールーム
講師|西村佳哲
内容|コミュニケーションの基本は、話している相手に本当に関心を持って「きく」ことから始まります。この回では、話を「きく力」について考えます。
・「きく」ことは「相手が“自分を表現できる”時間を一緒につくる」こと
・そのためには?
この春からとびらプロジェクトに加わったとびラー15期に向けて、第2回基礎講座が開催されました。
西村佳哲さんによる「きく力」の講座は、とびらプロジェクト発足時から基礎講座に編成されており、とびラーのコミュニケーションの基礎として、ここでの学びを大切にしています。
とびらプロジェクトは、美術館という場所や機能を生かして、市民同士が新しい活動をつくっていくための、拠点となる存在です。とびラー同士はもちろん、美術館来館者も含め、違う年齢、違う社会的役割を担ってきた人々が、一緒に活動をしていきます。
様々な背景を持つ人々が、どうやったらみんなでうまく対話をすることができるのでしょうか。
今回の講座では、3人組のグループワークを中心に、「きく」とは何かを考えていきました。ワークを通して「きく力の7ポイント」を、とびラー各々が発見していきました。
グループワークでは「話し手、きき手、観察者」のそれぞれに役割分担をして、きき手が話し手に与える影響について、実践を通して考えていきました。ワークを積み重ねながら、少しずつ手順をふんで、対話の違いをそれぞれが体感していきます。
グループをつくったら、まずは自己紹介をします。15期のみなさんは笑顔が多く、コミュニケーションに花が咲いてました。
話し手ときき手は、それぞれ西村さんの指示にしたがって対話を行っていきました。観察者はグループでの対話を客観的に観察しながら、会話を分析していきます。対話の時間が終了したら、それぞれメモをしたり、グループで感想をシェアする時間がありました。
「話し手の軸を尊重したきき方ってなんだろう」
「話している内容ではなく、相手に関心を持ちながらきくためには、どうする?」
適宜、西村さんからの問いが差し込まれながら、3人組での対話を繰り返し行っていきました。ワークを重ねる中で、ただ相手の話を「聞く」だけではなく、「きき手」として感じたことを、表情や身振り手振りなどのあらゆる手段で「話し手」へ表現をしていくとびラーの姿が印象的でした。
またこのように、実践を通じて分析をし、グループで意見をシェアして考えていくというサイクルは、とびらプロジェクトでこれから15期とびラーが行っていく活動のウォーミングアップのようでした。
ワークの途中には「きく力の7ポイント」を考えるためのヒントとして、「言葉」にまつわるいくつかのトピックが紹介されました。
とびラーがこれから活動を行っていくなかで、言葉は重要な表現媒体となります。言語はコミュニケーションツールとして優れた性格をもつ反面、特有な取扱いの困難さがあることを、西村さんの経験をもとにお話ししていただきました。言葉は単語ひとつとってみても、そこに張りついている経験や意味は人によって異なったり、伝えたい事柄と同時に言葉ならざる「気持ち」が含まれていたりと、実は非常に抽象的で認識の齟齬が生まれやすいものです。そうした「ズレ」を意識して言葉を扱うことによって、「きく人」の姿勢はきっと変化するはずです。
とびラーたちも自身の経験と照らし合わせながらうなずきつつ、熱心にメモを取りながら、聞いていました。
人にとって話すとはどのような行為なのでしょうか。少なくとも「個人で完結するような単純な動作」とは違った側面が、レクチャーから伺えました。西村さんは「人が話す」ということについて、「話しながら垂直方向に起立していく」「植物みたいに育っていく」イメージを提示していました。
「話す人がいる」ということは、そこに「きく人」がいるということです。良い「きき手」がいることによって、話す人は、考えていることを言葉にしながら整理して、より思考を深めていくことができるのでしょう。
「きく人」がいて、より豊かなコミュニケーションが育まれてこそ、とびらプロジェクトという大樹にたくさんの新芽が芽吹きます。これからも「きく」ことを大切にしながら、とびラー、スタッフともに、素敵なプロジェクトをつくっていきたいと思います。
(とびらプロジェクト アシスタント 廣木花ノ子)
2026.04.16

【第1回基礎講座 オリエンテーション】
日時|2026年4月11日(土)10時〜15時
場所|東京都美術館 講堂
東京都美術館100周年の今年、とびらプロジェクトの15年目がスタートしました!
15期とびラー47名が、東京都美術館の講堂に集まり、とびらプロジェクトのスタッフ紹介や活動する上で必要な情報のガイダンスをした後、活動2・3年目のとびラーの案内で、活動の拠点である東京都美術館を巡るツアーを行いました。
最初は、緊張していた15期のメンバーも、次第に笑顔になり、グループで会話を楽しんでいる様子が各所で見られました。
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午後は、13期・14期・15期のとびラー全員が集まり、今年度のキックオフが行われました。
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2年目・3年目を迎えたとびラー達もそれぞれの活動を振り返ってたり、今年はどんな一年にしようかなと楽しそうに話している姿が見られ、今年も始まったなと実感する時間になりました。
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これから、活動を共にする約140名のとびラー中には、見えない・見えにくい人、聞こえない・聞こえにくい人がいます。全員が集まったこの機会に、お互いのコミュニケーションについて考え、お互いに知り合う時間を作りました。
多様な背景や年齢のとびラーが協働するとびらプロジェクトにおいて、今年度は「マイクロアグレッション」について考えていきたい思っています。
マイクロアグレッションとは、人種、ジェンダー、性的指向、障害など、特定の属性に対して無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)に基づき、日常的に発せられる差別的な言動や態度のことを指します。悪意がない場合でも、受け手にとってはストレスや疎外感の蓄積につながることが課題とされています。
あらゆる人が主体的に参加できる場を、全員で作っていくことを改めて確認しました。
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その後、とびラー同士が知り合う時間として、「自己紹介+どうしてここに?」をテーマに3人組でのシェアタイムを行いました。
とびラーを志望したきっかけや今日のファッション、美術館との関わり方など、お互いの言葉に耳を傾けながら語り合いました。・
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今年度のとびラーたちから、どのようなアート・コミュニケーションが生まれるのでしょうか。
13期・14期・15期のみなさん、1年間どうぞよろしくお願いします。
(とびらプロジェクトコーディネータ 大東美穂)
2026.03.28
<藝大の森との出会い>
2024年8月、私は、Museum Start あいうえの ファミリー&ティーンズ・プログラム「あいうえのmeet ①大地とつくる 東京都美術館×東京藝術大学」にとびラーとして参加し、活動の場となった東京藝術大学(以下:藝大)の保存林の成り立ちを知ることになりました。台東区在住の私は、コロナ禍前、この森の周りに飲食屋台がにぎやかに並ぶ「藝祭」へ連日訪れ、人々が楽しそうに行き交う様子をみながら気ままに過ごし、構内の大樹・木々に心地よさを感じたことを思い出し、人の手、思いがきちんと入っていたのだと納得しました。
「あいうえのmeet ①大地とつくる」の活動で、
藝大の保存林の中で大クスノキに出会う。
藝大の保存林入口。樹齢300年とも400年ともいわれる大クスノキ。
そして私たちは、プログラムを担当した東京藝術大学 キャンパスグランドデザイン推進室 君塚和香先生が指導する「藝大の森」プロジェクトにて、藝大ヘッジのお世話をするボランティア活動に参加しました。
「藝大ヘッジ」とは:
藝大ヘッジとは、2016年から大学の外周の柵に代わり、植栽による「やわらかな境界線」をつくる取り組みです。近隣住民や藝大生のみなさんなどの有志で、生垣を剪定し定期的に世話をしています。藝大ヘッジの活動が生み出す「やわらかな境界線」は、物理的に見通しがよくなることで、親しみを持ちやすくなるだけでなく、心理的にもコミュニケーションを生みやすくする効果があります。

藝大正門脇の生垣「藝大ヘッジ」。
武蔵野在来種の落葉樹と常緑樹をとりまぜ植樹。腰高に刈り込みをしている。
四季折々の花が楽しめます。お茶の木に白い花が。
さらにこの年の10月、とびらプロジェクトの建築実践講座(以下:講座)に講師としていらした君塚先生から、藝大と上野公園や周辺地域とのつながり、公共空間の考え方や開き方について学ぶ回がありました。また、その講座の中で、実際の藝大ヘッジに苗を植樹することができました。
私は、とびラーに在籍した3年間、毎年建築実践講座を受講し、東京都美術館(以下:都美)の建築ツアーのガイドを四季を通して経験しました。その中で、5月から夏にかけて都美敷地内の樹々と上野公園の樹々が互いに生い茂り、都美が森に沈む風景が素敵だと感じました。都美から、樹々がつくる緑の境界線を越えツアーが外へにじみ出ていくことを想像しました。敷地が隣である藝大は、藝大ヘッジがあることで、よりやわらかな境界線として景色が交わっていきます。公園の森、藝大ヘッジの生垣、その間に立つ歴史的建造物との共存をツアーとして紹介していきたいという思いを起点に、「上野の森と建築を考えるラボ」と命名し、2025年3月に“とびラボ”を立ち上げました
上野公園の噴水広場と都美の間の道。5月は樹々で右手にある美術館が覆われる。
2月はレンガ色のタイルがよく見えます。
東京都美術館裏手の門から見える藝大ヘッジ
「上野の森と建築を考えるラボ」がスタートしました。
このとびラボは、講座で植樹を経験したとびラーの共感を集め、多数のとびラーが集まりました。ミーティングでは、まず、上野の土地の記憶を紐解く勉強会をすることから始めました。武蔵野台地の端に位置し、寛永寺の土地だった上野公園の歴史。また、藝大の敷地にある、赤レンガ1号館や、藝大の敷地に隣接する黒田記念館など、建築ごとのデータ収集を行いました。そして、藝大の保存林や「藝大ヘッジ」についても、とびラー同士で情報を共有していきました。
また、現場へ何度も足を運び、みんなでみて感じることを実践。そして、一般参加者を募集するツアープログラムを目標に掲げ、基本となるツアーコースを1つ作ることにしました。

藝大への通り道「芸術の散歩道」から、
都美の大きな窓越しにその先にある木々をみる。
ツアーコースは、大銀杏がある都美東門をスタート地点にして、北側の「芸術の散歩道」の林を抜け、旧博物館動物園駅をはじめ、4つの歴史的建造物がたつ交差点「アートクロス」の風景を紹介します。そして「藝大ヘッジ」の前を通り、藝大の赤レンガ1号館、保存林へと…上野の森の木々の中に点在する建築を巡る!というコース案を作成しました。
これをブラッシュアップしながらテストツアーを重ねましたが、とびラボの中では、予定の1時間に収めることができず、2025年内の一般参加者を募るとびラボ発のプログラムの開催には至りませんでした。
基本コースの組み立て
その後、とびラー向けのツアー開催へと目標を変更。都美の建築ツアーガイドをしているとびラーを中心に、今回のとびラー向けツアーのチームを編成しました。しかし都美の建築ツアーより紹介範囲が広く、一人で全ツアーをガイドするほどの知識を開催日までに覚えられません。それを打開するためのアイデアとして、1つのコースを、4人のガイドがリレー式で案内しました。この方法によってツアーガイドを初めて経験できたメンバーもいました。
また、とくに試行錯誤したのは、アート・コミュニケータであるとびラーが案内するのにふさわしい建築鑑賞ツアーとはどういうものか、という視点でした。参加者に、建築と景色をどのように鑑賞してもらうか。建築のデータや見どころを紹介する知識教授型の案内だけではなく、樹齢数百年の木と建築が長い時間をかけて作り出した素晴らしい景色を、参加者自らが、自分の感性を主体として、味わってもらうにはどのようなアプローチが必要かという点について、丁寧に話し合いました。
そして、参加者それぞれが素敵だと感じた景色、場所をスマートフォンで写真撮影し、参加者同士で見せ合いながら、その理由をシェアすることで、お互いの「推し」の景色を味わってもらうやり方を考えました。
また、藝大ヘッジの”やわらかな境界線”の伝え方にも苦心しました。鉄の柵が赤レンガ館の前にあった当時の写真をみてもらい、生垣になった現在の景色と比較することで、その違いを感じてもらうことにしました。
そして、とびラーに向けたツアーでは、3つのコースでツアーを実施することができました。1つのツアーにつき、4〜5人のとびラーが参加者になりました。
全てのコースで、上野公園の歴史の変遷を紹介することから始め、以下のようなコースを行いました。
・「アートクロス」にある建築の囲い=鉄柵と藝大ヘッジの違い、生垣効果による建築の見え方をメインにしたコース
・都美スタートで木々を抜け藝大へ向かうという上野の森の中の建築散策を意識したコース
旧東京府美術館の跡地でありし日の姿に思いを馳せ、
点在する歴史的建造物をめぐる。
藝大の建築物で一番古い築145年の赤レンガ1号館と、6年後に建てられた赤レンガ2号館。このレトロな建築と樹々の風景鑑賞がツアーのハイライトとなりました。

参加者は「ステキ!気になるな?」と思った場所を撮影し、
全員で見せ合い感想をシェアします。
赤い実とレンガ色が絵になる1枚。丸い窓がキャンディに見える!
(ツアーに参加したとびラーの撮影)
敷地にある樹齢不明のカヤノキ。幹周りは大人が2人向かい合い両手を回して、手を繋げないくらいの大きさです。直径1mの成長が300年かかるといわれ、ゆっくりと成長するカヤノキ。参加者には、明治時代の「東京音楽学校予想復元図」(写真下)を見てもらい、ある程度の大きさで描かれている木をみて、ここが寛永寺の敷地だった頃へ想像を巡らせました。建物より先にたっていた大樹、時間がつくりだした風景をゆったりと味わいました。

赤レンガ2号館の脇に2本の木がある。
(明治43〜44時頃の東京美術学校・東京音楽学校予想復元図 ©︎君塚和香)

樹齢は不明のカヤノキ。
葉のにおいをかぐと柑橘のかおりがします。

藝大ヘッジ越しにみた藝大美術館は「生垣の波に浮かぶ大きな船のように見える!
鉄柵ではこの景色は味わえない」という声が。
2026年1月、とびラーの任期を満了した後の活動の準備をするため「これからゼミ」として活動を開始しました。そして、プロジェクトスタッフのアドバイスにより4月以降に、藝大構内を拠点にツアーガイドの活動を準備することになりました。とびラボとしては、目標の一般の方向けのツアー開催には間に合いませんでしたが、そこまでのプロセスを見てもらえていたことがとてもうれしく、とびラボ活動は結果ではなくプロセスが大切だとしみじみ感じました。
それから藝大構内に点在する建築や保存林についての勉強会として藝大構内を巡るツアーを、今後もアドバイザーとしてお世話になる君塚先生に実施してもらいました。ツアーに参加してもらいたい関心層の絞り込みや、どんな内容のコースにするかを検討していきます。
君塚先生による藝大の構内ガイドツアー、勉強会の様子
構内ツアー中に藝大美術館前の「大シイノキ」のメンテナンスに遭遇。
樹齢は600~800歳であろうと定説を上回る説明を担当者から受ける。
私は、とびラーに応募したときに、自分を表すキーワードとして「木・建築」と書きました。私の2人の祖父が木工屋、木材屋で工場がとなり合わせの住環境で育ったせいか、樹木や建てものが自然と好きになり私の興味の中心になっていました。自分の「好き」や「知りたい」が思いもよらない形で今回の活動につながっていったことに、自分自身驚きましたが、運命を感じざるを得ない気持ちです。そして、とびラー任期満了後に、おもいのある場所を活動の拠り所にできることは、立ち上げから1年間で31回のミーティングを重ねた “とびラボ”で一緒に考え寄りそってくれた仲間たち、見守ってくれたプロジェクトスタッフ、君塚先生はじめ「藝大の森」お世話隊ボランティアのみなさん、すべての方の気持ちがつながりみちびかれていったと思います。
上野の森を見続けてきた約600歳の大樹、木々の中に佇む歴史的建造物の風景…それを守ってきた先人の想いをつなぎ、人々に届ける私たちの活動は、これからもつづきます。
染谷 都(12期とびラー)
ラジオ番組制作ディレクター。藝大の森お世話隊ボランティアで活動中。好きなことは散歩と旅と打楽器。とびラーになって美術館によく行くようになり、作品<空間=「場」に興味があることを再認識。その場が実在しなくても誰もが参加できるラジオ番組のようなココチいい場づくりをリアルで模索中。
2026.03.27
<美術館の来館者の声をとどけるラジオ>
2023年7月からメンバー、形を変えながらとびラボとして活動している「とびdeラヂオぶ〜☆」。今年度は、『アート・コミュニケーション事業を体験する 2025 みること、つくること、つながること 「Museum Startあいうえの」12年と現在地』(以下:AC展)の展示室の一角に即席ラジオブースを構えて、来館者にインタビューを実施しました。収録の様子はこちらからご覧いただけます。「みること、つくること、つながることラジオ」(収録編)。美術館にあまり来ない人にも美術館の良さを知ってもらいたい!来館者のアートにまつわる素敵なエピソードをシェアしたい!という想いからスタートしました。
<試聴&編集の日々>
2日間にわたっておこなった収録もあっという間に終わりいよいよ編集作業です。
まずは、録音した19組のインタビューを手分けして試聴しました。その中から7つのインタビューをセレクト。編集作業を分担する中で、メンバーの1人が音声編集の経験がありiMovieでの編集が簡単にできるとのことで、編集レクチャー会を開催。その後、各自編集したものをみんなで聴いて、さらに細かい編集を重ね、インタビューの間に入れるナレーションを考えていきました。
*編集のレクチャー中。
*いらない言葉をカットします。
<初めての音声編集>
ラボメンバーによる編集講座を受けた後、まずは練習を兼ねて使用したい素材を切り出すことからはじめました。AC展のテーマ「みること」「つくること」「つながること」に沿った素敵な言葉をピックアップするのはもちろんのこと、「えーっと」「あのー」などのフィラー(つなぎ言葉)もカットし、リスナーが心地よく聞くことができるように整えていきます。
次は、7本のインタビューの制作担当を決め、収録した音声を番組になるよう編集します。ナレーションが入ることを意識して内容ごとに区切っていきます。各自、仕事ととびラー活動をしながら編集作業をしていたので、なかなか個人での作業が進まない時期もありましたが(笑)、そんな時には、とびラボで集まり、みんなで作業を進めました。
*各自パソコンで編集中。
<編集素材を聞いてナレーション制作&録音の日々>
編集がひと通り終わった後は各番組のナレーション担当を決めて、内容に相応しいナレーションの文章を考える工程に入ります。
インタビューの概要を伝える前枠、前半と後半に分かれる場合はそれを繋ぐための中枠、内容を総括する後枠をそれぞれ考えました。
自分が素材の編集を担当したものに関しては、思い入れが強すぎて内容に比して世界観が強すぎる概要文が出来上がったこともありました(笑)
ラボメンバーからの「力みすぎだ!」というツッコミのおかげで、硬くなり過ぎずフラットなナレーションになったのではないかと思います。そのほかの素材についても、メンバー全員で、ああでもないこうでもないと言いながら相応しい文章になるように推敲を重ねました。
ナレーションの文章が完成した後は録音します。ただ読み上げるだけだと、たかを括って録音を始めたのですが、家で何回も噛んでは読み返し、噛んでは読み返しを繰り返す羽目に。最終的にはイントネーションが訛っていたこともあり、アートスタディルームで再録し、やっとナレーションの録音が完了しました。
(噛まずに当たり前に話すテレビの中のアナウンサーってすごいんだなぁと改めて感じました。やっぱりプロはさすがですね)
*編集をするたびに何度も同じインタビュー素材を聴いて確認します。
<完成した番組の紹介テキストを考える>
編集済みのインタビュー素材に、ジングル、BGMとナレーションが入ると、それまで、幾度となく聞いてきたインタビューの音源が、一気に「番組」の風格を漂わせるので、皆でニンマリ。こうして完成した7つの番組の「タイトル」をつけるべく、それぞれにふさわしい言葉出しをしていきます。
アイディアを出し合うことで、ピタッとハマる瞬間に出会うことができます。それぞれが担当した番組の紹介文を作成し、ハッシュタグをつけました。それをラボメンバーで確認し、違和感ないように調整します。
*2025年版のジングルを制作したメンバーと試聴会。
*とびラボで賑やかな中、スマホで流すインタビュー素材をへばりつき聴く。
<番組制作をしてみて>
完成した番組には、ラボメンバーの想いがぎゅうぎゅうにつまっています!なので、これを読んだ方にもぜひ聞いていただきたいです。ただし、番組はラジオ部の活動のほんの「一部」にすぎないということをここではあえてお伝えしたいです。番組のテーマ/ジングルのギター演奏でのオリジナル音源制作、公開収録のポップの作成、インタビュー承諾書の英文作成etc…など、制作段階にたどりつくまでの縁の下の力もちもたくさんいました!
制作の過程において、各自の担当があるとはいえ、メンバー同士、たくさん語り合い、助け合って、考え抜いて番組を作り上げてきました。その過程こそがこのラボの宝であり、最大の魅力でもあるのです。
<とびdeラヂオぶ〜☆をやってみて…>ラジオ番組制作が仕事のメンバーが立ち上げたとびラボでしたが、集まった全員が制作初心者からのスタート。届けたい気持ちと、みんなのチャレンジ精神がとびラボとして3年間続けていく原動力でした。美術館でのあたたかいコミュニケーションの場から生まれた様々な背景の人の声をきいて、「美術館おもしろそう!」「行ってみようかな?」とアートコミュニケーションの裾野が広がるきっかけの1つになっていくことを願います。
▼番組はコチラから聞くことができます
執筆:矢吹美樹(12期とびラー)
日々の暮らしや学びのなかで、ふとした瞬間のきらめきや、「ことば」がもつ力に惹かれています。 一人ひとりの「ちいさな発見」や「その人らしさ」が自然にあらわれるような、温かな場づくりを大切にしていきたいです。
執筆:藤井孝弘
とびラー14期。普段はIT企業に勤務。仕事の傍らで、ジェネラティブ・アートを楽しむ日曜芸術家。人と人とがそれぞれの「違い」を尊重し補い合いながら、一人ひとりが生きる喜びを実感できる社会の実現に、微力ながら貢献できればいいなぁという想いを胸に活動中。
執筆/構成:染谷 都(12期とびラー)
ラジオ番組制作ディレクター。旅と音楽と建築好き。藝大の森お世話隊でボランティア活動中。これからゼミ「上野の森と建築を考える」「『アートコミュニケータの建築鑑賞まちあるき』を考える」を実践中。その場が実在しなくても誰もが参加できるラジオ番組のようなココチいい場づくりをリアルで模索中。
2026.03.21
とびラーは、東京都美術館の特別展や企画展に何回も足を運びます。それは、自分たち自身が展覧会をじっくりと鑑賞し、作品と出会うことを大切にしながら、プログラムの準備をしたり、とびラボの検討をするためです。一方で、公募展に訪れるのはつい自分の好みの展覧会に偏りがちなのではないかという思いがありました。「とびラーである私たち、いろいろな分野の扉を開けてみよう!」という思いのもとに始まったとびラボです。
そもそも公募棟で開催される展覧会には、どんな展覧会があるのでしょう。毎回、このとびラボに集まったとびラーで鑑賞に行く前には、「公募展カレンダー」を確認します。公募展とは、作品を広く一般から募集し、応募された作品や、審査を経た入選作品を展示する展覧会のことです。東京都美術館では、1年間に200を超える団体が公募展を開催します。東京都美術館が1926年に開館した頃から活動している歴史の古い団体から、新たに活動を始めたばかりの団体もあります。全国規模の大きな団体や小規模の市民団体の展覧会もあります。学校や教育団体の展覧会や美術大学・芸術大学の卒業製作展もあります。分野も、絵画だけでなく、工芸、書、手芸、写真、盆栽、生け花など多岐にわたります。
しかし、とびラーの中でも、「一人で入るには勇気がいる」「知らない表現分野の展示が多いので、展示を見に行くきっかけが欲しい」という声もありました。そこで、とびラボとしてみんなで鑑賞しに行きましょう!というのがレッツ!コウ!ボトーです。2025年4月から2026年3月までの1年間活動を行いました。多くのとびラーが参加できるように、1か月の中で平日1回、土日1回の2度の活動日を設け、毎回5、6人で鑑賞をしてきました。
初めてみんなで訪れたのは、モダンアートを作品のテーマにしている展覧会でした。展示室には大きな作品が並んでいました。その次に訪れたパステル画の展覧会会場では、小さめの作品が並んでいました。2つの公募展に行ったことで、展覧会によって作品の大きさにも違いがあることに気付くことが出来ました。
公募展に出品される作品の多くには、詳細な解説文などはありません。その為、「これは油彩なのかパステル画なのか」など素材を考えたり、「この作品から作者は何を伝えたいのだろうか」など想像したり、作品をじっくりと鑑賞するとびラーの姿がありました。
何回か活動していると想定外の嬉しい出来事が起きてきました。それは、作家さんとの出会いです。展示室内では作品を鑑賞するだけでなく、作家さんから作品についてお話を伺う時があるのです。とても興味深い時間です。
書の公募展を鑑賞しているときのことでした。その日参加したとびラーには書道の経験者が居なかったため、鑑賞のポイントが分かりません。展示室には、作家の方が在室していることがあるのですが、たまたまそこにいらした方が、私たちの為に書について詳しく解説をしてくださったのです。墨の濃淡の意味や、題材の選び方、筆運びの難しさなど、お聞きする話は初めて聞くことばかりなので、みんなとても感心していました。
また、和紙絵画展で出会った作家の方は、お弟子さんとの活動の楽しさをお話してくださいました。和紙をどのように重ねるか、遠近感の表現が難しいことを教えてくださいました。
漆の公募展では、漆工芸歴60年という作家の方からレクチャーを受けました。
いずれも、とにかく作家の皆さんのお話がとても興味深く、参加したとびラーは濃厚な鑑賞時間を持つことが出来ました。公募展に行ってみることには、作品との出会いがあるだけではないのです。人とも出会える魅力を持っています。
もうひとつ、作品以外に私たちが感心したことに、活動内で出会った作家の方に80代半ばの方が何人もいらしたことです。姿勢も良く、外見ではそれほど高齢とは思えません。お話もしっかりされとても健康的でした。遠方のご自宅から東京都美術館までいらして、一日展示室で過ごし、仲間と話し、半年先の次回の展覧会の予定も決まっていて制作意欲も持たれています。そのお姿に、私たちはアートの力を感じたのです。
とびラボ活動をした際には、活動内容をとびラーのみんなに報告をします。すると、嬉しいコメントが入るようになりました。それは、「活動報告を読んでその公募展に行ってみました!」といった内容のものでした。また「一人でも公募展に入りやすくなった」「面白かったから次の機会にも行ってみようと思います」という話も聞きました。
公募展に行くことは、新しい分野の作品に出会い、その後の鑑賞活動の幅を広げる効果もあるようです。
レッツ!コウ!ボトー 皆さん一緒に レッツ GO!公募棟!
都内小学校の情緒固定特別支援学級講師。アート鑑賞では、みんなで作品を見ながら語り合う時間を楽しんでいます。また、街歩きでは素敵な建築にときめき、その土地の地形や歴史にも興味が尽きません。
2026.03.15

集大成ともいえる団体作品は、レオナルド・ダ・ヴィンチ《最後の晩餐》より
みなさんは、「コスプレ」と聞くと、どんなイメージを思い浮かべるでしょうか?わたしたちが取り組んでいる「アートコスプレラボ」では、絵画や彫刻などの作品を、自分たちの身体を使って、再現することをめざしています。再現にあたっては、作品に登場する人物のあり方や気配まで含めて表現しようとします。
多様な来館者と様々な作品を鑑賞する経験を重ねてきたとびラー(アート・コミュニケータ)が、その視点を活かし作品を鑑賞し、制作します。
ここからは、コスプレラボの過程をご紹介します。
①作品選び
②どんな風にコスプレするか熟考する
③制作
④撮影
①作品選び
まず、どの作品をアートコスプレするかについては、各とびラーの感性で自由に選択します。多くの人が目にしたであろう「名画」シリーズにこだわるとびラーや、東京都美術館で開催された展覧会の作品にこだわるとびラーなどそれぞれが、なぜその作品を選んだのかをミーティングで他のとびラーに話します。また、各自で選ぶ作品とは別に、複数のとびラーで一つの作品をつくることも考えていきます。
②研究
作品に向き合い、作品をじっくり見ます。色や形、質感や感触、時代、季節や気温、光や風の強弱、匂い、作家や登場する人物の気持ち、前後のストーリーまで推測します。図録やwebなどで作品の背景も研究します。自分たちなりの解釈に正解はなく、自分たちがその作品をどうキャッチしたかを大事にします。鑑賞する際の自分の受け止め方によって、その人らしいアートコスプレの表現につながっていくのです。
③制作
鑑賞してキャッチしたものをカタチにしていきます。最も楽しく、悩ましい過程です。制作に使う素材選びでは、100円ショップや布屋や古着屋などに何度も通います。制作にあたっては、どのようにカタチにしたらよいか迷いながら作っていきます。撮影までの間、とびラボで中間発表をしたり、お互いにお悩みを相談します。とびラボに参加するとびラーの発想力で、お互いの自宅に眠っている材料も使って制作をしていきます。。
クイズ:この素材は何でしょうか?
正解は、「羊毛フェルト」!完成度の高さにとびラーもびっくり!
④撮影
撮影は、制作したものを着用してすぐに写真を撮るわけではありません。この段階でもまた、作品をじっくりと見るのです。たとえば、作品の中の人物の上半身と下半身のプロポーションが現実ではありえないようなバランスだったり、頭を傾けるにも左右の角度だけでなく前後の角度も大事で、さらに捻りが入っていたりします。
これは、「作品をじっくりみる」だけでは気づけないことで、実際に身体をつかってみることで、はじめてわかるバランスや違和感があります。コスプレしている本人だけでなく、周囲のとびラーが「もっと左をむいて」「からだは正面だけど顔は右に!もっとうつむいて!」など的確な指示をだすことによって、より作品に近づけます。撮影の場では、とびラーのものすごいエネルギーが流れていて、みんな汗だくに!実際に演じてみてこそわかる不自然ともいえる体勢での撮影翌日には、筋肉痛になること間違いなしです!(笑)
たくさんの視点により入念にチェック。
撮影が長引くと、背景も持つ腕もプルプル・・・
【アートコスプレギャラリー(抜粋)】
実際に身体を使って再現してみると、作品を見ているだけでは気づかなかったことが次々に現れてきます。作家が何を表現したかったのか、どんな気持ちだったのか、じっくりみることで思いを馳せ、ひとりでつくる。そして、とびラー同士の別の角度からの視点と熱量があわさって、みんなでよりよくするための意見を出し合い、撮影して完成させる。コスプレーヤーとディレクターの相互作用で「アートコスプレ」となるのです。
アートコスプレは、カラダをつかった「模写」とも言えるかもしれません。
アートコスプレラボを実施する場に満ちている充実感や達成感は、内省的な創作活動だけでなく、とびラー同士の共同創作の成果だと思います。
ひとりでつくる楽しさもありますが、みんなでつくりあげる過程を楽しみたい、そう思えるとびラボでした。また、アートコスプレという方法を通して、新しい鑑賞のとびらが開かれたように感じています。

飛び入り参加のとびラーも加わり、いろんな個性が集合したひまわり。
そこに居る人が、「来て良かった、ここにいていいんだ。」と感じられる場づくりをしたいです。
日々の暮らしや学びのなかで、ふとした瞬間のきらめきや、「ことば」がもつ力に惹かれています。一人ひとりの「ちいさな発見」や「その人らしさ」が自然にあらわれるような、温かな場づくりを大切にしていきたいです。