2020.12.05
今年の新しいファミリープログラム「上野でGO!」は、Web会議サービスZoomを使った作品鑑賞と、実際にミュージアムで作品に出会うことを組み合わせた、2ステップのプログラムです。
オンラインとリアルの両方の良いところを組み合わせた「ブレンディッド・ラーニング」という新しい学びの形をデザインしています。
12月5日(土)は「上野へGO! リアル」と「上野へGO!オンライン」が東京都美術館で同日開催されました。
ここでは、「上野へGO! リアル」の様子をお伝えします。
12月5日(土)の午前、8月・11月のオンライン・プログラムに参加したファミリーが東京都美術館のアートスタディルーム(以下、ASR)に集合しました。
各回8組ずつの参加者です。ASRでのガイダンス、ノートづくりのワークショップに加え、今回は「展示室探検」が加わりました。
進行はMuseum Start あいうえの プログラム・オフィサーの渡邊祐子。ガイダンスでは、これまでのリアルの回と同じように、ミュージアムスタートパックの使い方、上野公園の楽しみ方に加え、「あいうえのからの指令」が伝えられました。
今回の「指令」は、「あかを探せ」です。
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(「Museum Start あいうえの」ブログに移動します。)
2020.11.23
近年ミュージアムの活動は、人々の幸福な状態=ウェルビーイング(Wellbeing)を支え推進する活動である、という視点が大切にされるようになってきています。ミュージアムは多様な人々をつなぐ場であり、私たちの世界にある多様な価値を対等に分かち合う場としての役割を担っています。Museum Start あいうえのは、それぞれの人の文化が尊重されるより良い社会の実現に向けて「ダイバーシティ・プログラム」に取り組んでいます。プログラムが始まり5年目を迎える今年の活動テーマは、『うつくしい文字ってどんなかたち?』”What Makes Letters Beautiful?“。当日の活動風景を伝えます。
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2020.11.14
第6回建築実践講座|「教えない授業から考える」共同構築的な学び
日時|11月14日(土) 13:30〜15:30
場所|zoom(オンライン)
講師|山本崇雄(新渡戸文化学園中学 英語教諭)
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吹く風が冷たく身にしみるようになってきた11月14日の昼下がり。本年度6回目の建築実践講座が開催されました。今回は『「教えない授業」の始め方』の著者であり、現役の中学校の英語教諭である、山本崇雄先生をゲストにお迎えし、教える/教えられるという関係ではない「共同構築的な」学びについて考えました。
今回の講座では折り紙を用いた2つのワークがおこなわれました。はじめに取り組んだのは「今の自分を見つけるワーク」。手元の折り紙の色や形によって、アートコミュニケーターとして生かしたい自分の強みをカタチにしてみます。
もうひとつのワークへと移る前に、山本先生が取り組まれている「教えない授業」について、様々な事例を交えながらお話いただきました。そして満を持して取りかかった「なりたい自分を見つけるワーク」。これからアートコミュニケーターとしてどうありたいか、今度は目指したい自分を色や形で表現しました。そして最後に、山本先生と稲庭さんのディスカッションや質疑応答を通じ、自主的な学びについてさらに深く考えていきました。
〇今の自分を見つけるワーク|オンラインツール「My Padlet」にアップロードされた参加者の折り紙をみていく山本先生。参加者は自分の作った折り紙を4人組のブレイクアウトルームで紹介し合います。その後、それぞれで折り紙の写真を撮影してMy Padletに投稿することで、参加者全体に共有されました。
〇BORで意見交換|「教えない授業」について、山本先生から共有いただいた記事。この記事を読んで疑問に思ったことがあれば、チャットに書き込んでいきます。それぞれの質問には、山本先生ご自身からお答えいただきました。
参考:東洋経済オンライン「子どもの主体性を高める「教えない授業」の今」
〇講義「教えない授業」の実際|山本先生が所属する私立中学校の時間割。平日の7限目には、それぞれの生徒が興味関心に合わせて自由に学習できる「セルフペースドラーニング」が導入されています。
〇なりたい自分を見つけるワーク|折り紙で作った「なりたい自分」を紹介するとびラー。こちらの方は「緑に囲まれた上野公園で、角のとれた状態で様々な人とつながる姿」を切り絵で表現したそうです。
〇ディスカッション&質疑応答|日本の学校の現状と今後の展望について言葉を交わす山本先生と稲庭さん。
山本先生は、教える/教えられるという今までの授業の在り方を否定しているわけではありません。そうではなく、現代の状況に即して「教えない」という「選択肢を増やす」ことで、明治維新からの形式を保ったままの教育機関と急速に変化していくリアルな社会との間にある大きな隔たりを埋めていきたいのだと言います。
ここで今年度最初の建築実践講座をふりかえってみます。はじまりのガイダンスで伊藤達矢さん(東京藝術大学)は、講座全体の重要なテーマとして「自分の感覚を手がかりに建築を味わう」ことを掲げました。ただ都美の建築に関する知識を学ぶだけでなく、それぞれが自ら建築を楽しむ目をもち、その場にいる人同士で建築の魅力を共有していけるように。この目標は、教える/教えられるという知識提供型の教育から誰かに依存することのない双方向的な対話を目指す山本先生のお話やワークに少なからず通じるものがあるのではないでしょうか。
次回の講座では、外部向けのプログラムとしての提供を視野に入れたうえで、こども向けの建築プログラムメイキングに取り組みます。今回の講座で新たに出会った共同構築的な学びの在り方が、次回のグループワークにどう活かされていくのか。それぞれのとびラーの思考のプロセスやワークへの取り組み方に注目していきたいと思います。
(東京都美術館 インターン 久光真央)
2020.11.09
気持ちの良い秋晴れのもと、11月9日(月)に、足立区立高野小学校5年生のみなさんが
東京都美術館に来館しました!
来館のきっかけは、一本の電話でした。
コロナ禍において美術館の展覧会もお休みとなってしまった状況の中、
夏休みに入る前に、学校より来館希望の相談がありました。
そこで高野小学校と一緒に考えたのが、「美術館探検」プログラムです。
学校が立地するエリアには美術館や博物館などの文化施設がないので、
美術館を訪れる児童が少ないとのこと。
今回のプログラムがきっかけで、美術館の空間に親しんでもらうことをねらいとしました。
活動内容は、「建物探検」と「彫刻作品の鑑賞」です。
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2020.11.08
オンライン上で作品を鑑賞できるファミリー向けのプログラム「上野へGO!オンライン」が、11/8に開催されました。
8月にひきつづき、今回で2回目の開催です。
これは、オンライン上で世界中どこからでも「ミュージアム・デビュー」の第一歩を踏み出すことができる、学べて楽しいデジタルネイティブ世代のためのプログラムです。
時間になると、次々と参加者がオンライン上に集合してきました。
プログラムが始まるまでの時間は、進行役が集合してきた参加者一人ひとりに声をかけ、プログラムにスムーズに参加できるよう、zoomの簡単な操作方法を一緒に練習します。
プログラムが始まると、進行役から今日の流れや絵を見るときの大切なポイントと、今日みんなと一緒に活動をする仲間「とびラー」の紹介がありました。
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2020.10.24
第5回建築実践講座「コミュニケーションを生む場作りとは」
日時|10月24日(土) 13:00〜15:00
場所|zoom(オンライン)
講師|宇田川裕喜(株式会社バウム (BAUM LTD.)代表)
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さわやかな秋晴れに恵まれた10月24日のお昼過ぎ。今年度5回目となる建築実践講座が開催されました。今回のテーマは「コミュニケーションを生む場作り」。ゲスト講師としてコンセプトデザイナーの宇田川裕喜さんにお越しいただきました。
○街も一行の文章も「場」|講師の宇田川さんは、書き手と読み手がいるということから、「一行の文章」も最小単位での「場」と捉えています。
講座の前半は宇田川さんがこれまで手がけてこられた事業を、コミュニケーションという視点でご紹介いただきました。京都市京セラ美術館のミュージアムカフェ「ENFUSE」のコンペや丸の内仲通り「Urban Terrace(アーバンテラス)」などの事例を通じ、人の集う「場」を生み出し継続するためのプロセスについてお話しいただきました。後半にはコンセプトを考えるワークに取り組みました。ここでは3、4名ほどの少人数グループに分かれ、「良い街」と「悪い街」について思い浮かぶ要素を挙げていき、それぞれの考える「悪い街」をプロデュースするための企画を練りましたワークの終了後、宇多川さんから場をデザインするとき意識すべきポイントをレクチャーいただきました。また、本講座の中間と最後に設けられた質疑応答の時間には、とびラーから事業内容やキーワードに関連する質問や感想などが多く寄せられました。
〇コミュニケーションを生む場作り①:|京都市京セラ美術館の構想図。宇多川さんは採用された案が「建物のみで完結せず、街との連続性のあるもの」であったことに注目。「ピクニックセットをレンタルできる」カフェを設計し、晴れた日には美術館のある岡崎公園でお弁当を食べられる場をデザインしました。
〇コミュニケーションを生む場作り②:コンセプトを考えるワーク|東京都美術館のアートスタディールームから参加したとびラー数名によるワークの様子。
ここで練られた企画は「活気のない商店街」という悪い街のイメージをプロディースする方法として、「シャッターを地域の有志でペイントすることで人の集まる場をつくりあげる」というものでした。
〇質疑応答の時間|とびラーから寄せられた質問に答えていく宇田川さん。ここでは企画において人々を引き寄せる要素を指す言葉「磁石(マグネット)」についての質問に、具体的な事例を交えながら解説してくださいました。
ワークのまとめとして、宇田川さんはブランディングデザインを手がけるにあたって大切にしているポイントをいくつかお話くださいました。なかでもとくに強くお話されていたのが、「調査を丁寧に行う」こと。どのような場を作るにせよ、そこにはターゲットとなる、すなわち企画を届けたい対象の存在が必要不可欠です。その人たちにとって魅力的な提案となるよう、企画のモチベーションとなる要素(=マグネット)の力を把握し、対象者にとって足りないものや不便なこと(=ペイン)を理解しようと努める。このプロセスでの取り組みが丁寧であればあるほど、場のデザインの質が上がっていくのだといいます。
こうした考えは、とびラーが講座の中で考えてきた、東京都美術館の建築を軸に考える企画づくりにも当てはまることではないでしょうか。たとえば美術館に立ち寄った人全員が対象となる「とびラーによる建築ツアー(*)」とMuseum Start あいうえのの子ども向けプログラムとして開催された「うえの!ふしぎ発見:けんちく部」では、フィールドは重なっているものの対象者の層が異なるために、それぞれのプロセスのもとで別個のコミュニケーションの場が生み出されたといえます。さらに定期的に開催されている前者のプログラムに限っても、などの変化によりその場にいる人が変わることから、まったく同じ場が形成されることはないといえるでしょう。
(*)今年度は新型コロナウイルス感染拡大の影響から、事前申込制で実施中。
これまでのプログラムは、とびラーが建築という箱だけでなく、そこに集う人々もしっかりと観察することで入念に作り上げられてきたものです。今回の講座は、建築プログラムの組み立てのプロセスだけでなく、場に集う参加者についてもあらためて考えてみる機会となったのではないでしょうか。
(東京都美術館 インターン 久光真央)
2020.10.12
第5回鑑賞実践講座
「作品選びのグループワーク」
日時|2020年10月12日(月)13:00-17:00
場所|zoom(オンライン)
講師|三ツ木紀英(NPO法人 芸術資源開発機構/ARDA)
10月12日、第5回鑑賞実践講座を行いました。講師は引き続き、三ツ木紀英さん(NPO法人 芸術資源開発機構/ARDA)です。第5回では、どんな鑑賞者と、どんな作品を鑑賞するかを考える「作品選びのグループワーク」を行いました。
2020.09.26
第4回建築実践講座「美術館建築の歴史的変遷と公共性」
日時|9月26日(土) 13:30〜15:30
場所|zoom(オンライン)
講師|佐藤慎也(建築家/日本大学理工学部建築学科教授)
登壇|伊藤達矢(東京藝術大学)、稲庭彩和子(東京都美術館)
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またたく間に夏が過ぎ去り、はやくも冬の息吹すら感じられた9月26日の昼下がり。第4回目となる建築実践講座が開催されました。今回のテーマは「美術館建築の歴史と公共性」。ゲスト講師として建築家の佐藤慎也さんにお越しいただきました。美術館建築の公共的な役割にあらためて目を向け、これからの美術館の在り方、そして、より心地の良い空間をつくるため自分たちにできる働きかけを考える機会となりました。
講座の前半は佐藤さんによる講義。「美術館建築の公共性」について、1960年代以降に国内で設計された美術館建築の内部写真や図面を通して、いかにして美術館建築に人が主体となるワークショップのための空間が形作られてきたのかを概観しました。
そして後半はとびらプロジェクトの伊藤達矢さんと稲庭彩和子さんも登壇し、3名によるディスカッションです。
佐藤さんが現在計画に携わっている八戸市新美術館(仮称/以下、八戸市新美術館)の事例を中心に、「新たな美術館立ち上げのプロセスや背景」について、同館の基本構想に美術館を運営する立場から参与している伊藤さん、おなじく館を運営する立場としてさまざまな新美術館設立のための委員会に関わってきた稲庭さんが言葉を交わします。その直後の質疑応答では、先の対談でも触れられた美術館建築が成立するのに不可欠な土壌としての様々な人々(行政、委員会、運営、市民など)の在り方への理解を深めるための質問がとびラーから多数寄せられました。
〇講義:「美術館建築の公共性」|ここで佐藤さんが示しているのは、2021年開館予定の八戸市新美術館の設計図。共用スペースとして幅広い用途で使える「ジャイアントルーム」の規模が展示室にあたる「ホワイトキューブ」よりも大きいのが特色です。
〇対談:「新たな美術館立ち上げのプロセスや背景」|今回、対談と質疑応答の進行も務めてくださった伊藤さん。八戸市新美術館の基本構想を実現するために経た過程や「ジャイアントルーム」の運用方法などについて、佐藤さん、稲庭さんとお話しいただきました。
〇質疑応答の時間|とびラーから寄せられた質問に回答する稲庭さん。新しい美術館の構想に携わってきたお三方から「舞台裏」について伺える絶好の機会ということで、なかには先の対談からさらに踏み込んだ質問も。
ゲスト講師の佐藤さんは、昨年度11月に都美の講堂で開催されたオープンレクチャーで、これまでの国内外の美術館建築の歴史的変遷(「第一世代」から「第三世代」まで)と、それに連なる「劇場」としての機能を有する「第四世代美術館の可能性」についてお話しくださいました。本講座はその流れを汲むものです。今回の講義と対談の要となった八戸市新美術館は、展示室よりも広い共用空間が中心部に設けられ、アート・コミュニケータら市民の活動が基本構想の段階から盛り込まれているという意味において、佐藤さんの提案する「第四世代美術館」の在り方にもっとも近い事例たりうるのかもしれません。
それではあらためて、都美を拠点として活動する市民であるとびラーが、より心地の良い空間をつくるためにできることはなんでしょう?佐藤さんは、とびらプロジェクトの活動を「日常的な集団活動の場」に該当すると捉え、「第四世代美術館」の一例として紹介なさっていました。また、都美の公募展示室を「快適な滞在のための場」として取り上げています。
これまでの実践講座や建築ツアーなどのプログラムを介して都美建築を味わってきたとびラーの皆さんなら、公募展示室のみならず都美のいたるところを「快適な滞在のための場」にできる可能性があるのではないか。これまでの講座や活動を振り返り、そのように考えます。
国内での美術館建築の文脈における都美の立ち位置をあらためて把握するのみならず、建築と人とのかかわりがますます重要になっていくことを学ぶことができた本講座。プレイヤーとしてのとびラーの活動を今後とも見守っていきたいと思います。
(東京都美術館 インターン 久光真央)
2020.09.14
「とびラジオ!とびラーが語る5つの浮世絵〜」。軽快な音楽とともに、パーソナリティが語りかけます。
「とびラジオ」は、2020年9月14日に「The UKIYO-E 2020-日本三大浮世絵コレクション」展で実施された「障害のある方のための特別鑑賞会」にて公開された、とびラー制作によるラジオ番組風音声コンテンツです。お持ち帰りいただいた作品画像掲載の特製チラシとともに、ご自宅でもう一度展覧会を楽しんでいただく趣向です。
(公開された音声はこちらのページでお聞きいただけます)
今回の特別鑑賞会は、新型コロナ感染予防のため、来館者ととびラーが直接コミュニケーションを取りづらい状況でした。そのため、「展示室ではお話できなくても、ウエルカムの気持ちを伝えて音声コンテンツを楽しんでいただき、とびラーについても知っていただく」ことを目的に、「とびラジオ」を制作しました。
5グループに分かれたとびラーが、「The UKIYO-E 2020」展からそれぞれ作品を選択。グループで鑑賞しながらその作品世界に思いを巡らせ、独自のシナリオを作って5つのショートストーリーを収録し、それらを合わせて1つの番組に編集する作業まで、全てオンラインでの作業となりました。
制作では、とびラー同士の相互チェックはもちろんのこと、とびらプロジェクトスタッフや展覧会担当学芸員の方にもご協力いただき、台本の内容や言葉遣い、演じ方、録音方法など聞きやすさを追求しました。
台本を作り演じた各グループからの感想です。
◇渓斎英泉《雪中の三美人》(太田記念美術館蔵)は、雪の降る中、着飾った3人の女性が川辺に立つ姿を描いた作品です。まるで3人が立ち止まって話をしているような場面から、女性たちの会話を想像してシナリオを作りました。
「《雪中の三美人》ならぬ四美人とびラーが集まったAグループ。お洒落で楽しげな登場人物に感情移入できるこの作品を、題材にすることに決定しました。
今も昔も変わらない乙女心や女子トークをグループで鑑賞しながら想像することはとても楽しく、時代を超えて、登場人物を身近に生き生きと感じました。
コロナ禍で1度もリアルに会ったことがないメンバーとのオンライン収録。最初は堅さも取れず、何十回とやり直したことも懐かしいです。」
◇葛飾北斎《百物語 お岩さん》(日本浮世絵博物館蔵)は、破れた提灯を四谷怪談のお岩の口に見立てた作品。恨めし気な表情の中にも、どことなくユーモラスな雰囲気が伝わってきます。展覧会会場で、異なる国の見知らぬ二人が作品を前に語り合うスタイルでシナリオを考えました。
「インパクトが強く北斎作の馴染み深い画題であることから、多くの人が作品のタイトルだけで作品を思い浮かべることができ、台本が作りやすいと思い選びました。
グループ内に中国からの留学生がいたこともあり、日本人のおばちゃんと中国人の女の子という等身大の設定が生まれ、実際に絵を見ながら話している感覚でアイディアが次々と出てくるのが楽しかったです。
別々に収録した音声を合成したので、間のとり方や臨場感の出し方などに戸惑いがあり、無事終了したときはほっとしました。」
◇歌川国芳《蛸の入道五拾三次 品川/川崎》(日本浮世絵博物館蔵)は、街道沿いのお茶屋がある品川の情景と、川崎の乗客でいっぱいの渡し舟を描いた作品です。旅番組の生中継で、それぞれの場所からレポーターがインタビューするシナリオができ上りました。
「タコを擬人化して描いているユニークな作品から、私たちとびラーが感じたことを来館者に聞いていただき、面白がってもらえたらと選びました。
旅番組でレポーターが品川と川崎から中継するスタイルを思いついたところから、タコに名前がつき、生き生きとした会話が生まれていきました。Zoom上でのやり取りがとても楽しかった半面、聞く側の立場になった台本を作ることは難しくもありました。
録音がライブ感のあるものになっていて、嬉しかったです。」
◇葛飾北斎《冨嶽三十六景 五百らかん寺さゞゐどう》(太田記念美術館蔵)は、見晴らしの良いお堂から、遠くに望む富士山を眺める人々を描いた作品。描かれた人々が「どんなことを言っているのか」を想像して、1つのショートストーリーにしました。
「候補作品を出し合って検討した結果、さまざまな人がいてセリフが聞こえてくるような、女性1名、男性2名のグループの特徴を活かせるこの作品に決まりました。
セリフを直しながら繰り返し録音するうち、いつのまにか江戸時代にタイムトリップし、絵の中の人になりきる。そんな特別な体験でした。協力し合って、ひとつの作品を作り上げるのが楽しかったです。
演者2人で複数の役を受け持ったので演じ分けが難しく、俳優さん、声優さんの偉大さがよくわかりました。」
◇歌川広重《名所江戸百景 深川万年橋》(日本浮世絵博物館蔵)は、まず、手桶の持ち手に紐で吊るされた亀が目を引きます。手桶越しには川を行き交う舟や夕焼けの富士山などが描かれていて、江戸の日常が伝わってくるようです。夕方のんびりと、おじいちゃんと孫が散歩をしている光景を想像して、シナリオを作りました。
「カメがぶら下げられている図が不思議で興味が湧きました。調べると『放生会』という習わしだと分かり、その情景を伝えるためのセリフをグループで考えました。
演者2名の設定になったため、カメのセリフを削らざるを得なかったことが心残りです。
生活音が入らないように違う時間帯で何度も録音にトライするも、救急車のサイレンの音が入ったり、ネットが落ちたり。そんなハプニングすらも大笑いしながら楽しく収録できました。」
各グループのコンテンツ作りと並行して、お配りするチラシのデザイン作成、音声編集や配信方法の検討、パーソナリティによる番組全体の台本作りも行われました。
◇チラシ原案デザイン
「夜な夜なZoom上で眠い頭を絞りながら、掲載文章やレイアウトを考えカタチにしていくアイディアを、色々出していく過程が楽しかったです。
チラシを手に取ってとびラジオを聞いてくださる方を考え、作品がハッキリ見やすい画像の大きさと文章のレイアウトを工夫しました。」
実はラボには、音声編集や配信に詳しいメンバーがひとりもいませんでした。配信日が迫る中、とびらプロジェクト内の掲示板を使って、音声編集アプリや著作権フリー音源、配信方法などを紹介してくれたとびラーがいます。そのとびラーの感想です。
「サンプルの音声を聴いたときに、一気に江戸時代にタイムスリップしたのを覚えています。ちょっとだけBGMの著作権チェックなどをお手伝いさせてもらっただけですが、完成版を聴いて作品の中にダイブする感覚に感激しました。」
とびラジオパーソナリティは、実際にラジオパーソナリティとして活躍しているラボメンバーが担当。
◇パーソナリティ
「 各グループのショートストーリーと音楽、語りが三位一体となって、少しずつ「とびラジオ」が完成していくのを間近で見ることができました。途中でつっかえないように、笑わないように、何回も練習!練習しすぎて本番では声が枯れてしまいました(笑)試行錯誤しながら作ったジングルが土壇場で不採用になったのがちょっと残念です…
印刷されたチラシを手にしたときはとびらプロジェクトスタッフのサポートも実感し、感無量!」
バラバラだった5グループのショートストーリー・パーソナリティの語り・BGMと効果音のすべてを”合体”させた「とびラジオ」が完成したのは、なんと公開2日前。
◇音声編集
「浮世絵の様々な楽しみ方を伝えるには?を考え、BGMを選び流し方を工夫するのが楽しかったです。実際のラジオを聞いて,ラジオっぽい音楽の入れ方を研究しました。
各グループ収録をZoom上で行ったため音量の差や音声の途切れがありましたが、複数の音源を提出してもらい、途切れ等を編集して聞きやすさを追求しました。」
「とびラジオ」は、会話がはばかられコミュニケーションがとりにくい展示室内で、「誰かと一緒に鑑賞している気持ちになりたい」という思いで始まった「とびラー音声鑑賞ガイドラボ」から生まれました。
「障害のある方のための特別鑑賞会」向けにシフトしたことで、鑑賞後楽しむラジオ形式に変わりましたが、リアルでは難しいコミュニケーションを補うことはできたのではないかと思います。
とびラー同士でも同じです。リアルでは一度も会ったことがないとびラーもいる中、協力しながらオンラインで全ての作業を完結させたことで、オンラインでもリアルと同等のコミュニケーションが取れることがわかり可能性の広がりを感じることができました。
熱い夏を駆け抜けた「とびラジオ」。お聞きになった方から、「こんな絵の楽しみ方があるのか」「それぞれのストーリーがユニークで面白い」「ラジオ形式の導入も自然にいろいろなシチュエーションが作れて成程と思った」などの感想を頂き、参加とびラー一同感激しております。
それでは皆様、次回の「とびラジオ」をお楽しみに!
執筆:中嶋弘子、細谷リノ
中嶋弘子:とびラー2年目。素敵なとびラーたちとアートを介したコミュニケーションをガチで楽しんでいます。作品との出会いを大切に活動を続けていきたいです。
細谷リノ:とびラー活動を通じて得たモノやコトは数知れず。面白い(興味深い)日々が続いています。ここでのご縁を大事に「アートの楽しみ」をもっと広げていきたいです。
2020.09.13
今年の新しいファミリープログラム「上野でGO!」は、Web会議サービスZoomを使った作品鑑賞と、実際にミュージアムで作品に出会うことを組み合わせた、2ステップのプログラムです。
オンラインとリアルの両方の良いところを組み合わせた「ブレンディット・ラーニング」という新しい学びの形をデザインしています。
9月13日日曜日、午前10時。8月1・2日に実施されたステップ1から約1ヶ月が経ち、いよいよ実際に上野公園にこどもたちが訪れる日がやってきました。集合場所は東京都美術館のアートスタディルーム。出迎えたのはあいうえのスタッフの渡邊祐子さんです。
プログラムの様子はこちら→
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