2024.05.11
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【第3回基礎講座 作品を鑑賞するとは】
日時|2024年5月11日(土)10時~15時
場所|東京藝術大学美術学部 中央棟2階 第3講義室、東京藝術大学大学美術館
講師|熊谷香寿美(東京都美術館 学芸員 アート・コミュニケーション係 係長)
内容|作品の鑑賞について理解を深めます。作品が存在することによって起こる体験とは、私たちにとってどのように意義があるのか、それらを鑑賞することの意味についても考えてみます。
・美術館体験とは何か?
・鑑賞とは何か?
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とびらプロジェクトの鑑賞を体験する・知る
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作品を鑑賞することは、美術館を拠点にアートを介してコミュニティを育むとびらプロジェクトの基盤となる活動です。基礎講座3回目では、「作品を鑑賞すること」を考えるレクチャーとともに、 美術館で実際の展覧会の作品を鑑賞しながら講座を行いました。
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午前の体験
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午前中は、とびらプロジェクトマネージャの熊谷さんからレクチャーを聞いた後、昨年の鑑賞実践講座に参加していたとびラーのファシリテーションで複数の人がともに作品を鑑賞する体験をしました。鑑賞するのは、講座当日に東京藝術大学 大学美術館で開催されていた「大吉原展」(会期:2024年3月26日(火)~5月19日(日))です。
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実際の展示室に行く前に、まずは作品図版をじっくりと観察し、気づいたことをグループ話し合いました。
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そのあと展覧会場に移動し、本物の作品を鑑賞しました。
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午後の内容
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午前の体験も交え、作品を鑑賞することを、単なる「受容」ではなく、その人なりの「意味・価値の創造が行われる時間」であるということを、映像やテキストも丁寧に見ながら理解していきました。
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また、とびらプロジェクトの特徴でもあるお互いに話をききあうことのできるコミュニティでの「共同的な学び」が、複数の人で作品を鑑賞する上でも重要になることについて考えました。
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今年度のとびらプロジェクトには、全盲の方が1名、13期とびラーとして参加しています。視覚情報のない方と一緒に講座の中で映像・画像・作品を見ることについて考えることで、関わる人みんなにより伝わりやすく講座の内容がブラッシュアップされていきます。
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基礎講座は折り返し地点となりました。
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後半あと3回の講座では、アートを介したコミュニティのあり方・活動の作り方についてみなさんと考えていきたいと思います。
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(とびらプロジェクト コーディネータ 越川さくら)
2024.04.27
【第2回基礎講座 「きく力」を身につける】
日時|2024年4月27日(土)10時~15時
場所|東京都美術館 交流棟2階 アートスタディルーム
講師|西村佳哲
内容|コミュニケーションの基本は、上手な話し方をするのではなく、話している相手に、本当に関心を持って「きく」ことから始まります。この回では、人の話を「きく力」について考えます。
・話を〈きかない〉とはどういうことか?
・話を〈きく〉とは? また、それによって生まれるものとは?
基礎講座の第2回は「きく力」がテーマでした。
この「きく力」はとびらプロジェクトが大切にしていることのひとつで、毎年1年目とびラーは西村さんのこの講座に参加します。
西村さんの挨拶や講座の進め方の話が終わると、早速「隣の人と2人組になって自己紹介してみましょう」「次は別の人と3人組になって自己紹介を!」と進み、13期とびラーたちの緊張がとけていく様子が伺えました。
いよいよ本題です。
まず西村さんから「きく力は、なぜ大事?」いう問いかけがあり、はなし手・きき手・観察の役割をローテーションしながら、いくつかのワークをグループでおこない、それぞれのきき方が相手に与えていた影響について語り合いました。
これらをふまえて、西村さんから「「きく」には【話の内容】に関心をある場合と【その人】に関心をもつ場合がある」という話がありました。
自分は普段どんなきき方をしているかを考えるきっかけになったとびラーも多かったようです。
午後は、午前のワークや話を、別の角度から捉えた話からスタートしました。
「事柄を正確に理解するのがひとの話をきくことだと思っている人が多いが、これは「きく」の一部。はなし手にとって言葉(概念)になっていないこと・気持ちもたっぷりある。そこに関心を向けることが、その人に関心を向け続けるということなのではないだろうか」と西村さんは語ります。
一文字も逃すまいとメモをとる人、うなずく人、西村さんの顔を見つめる人。とびラーそれぞれが西村さんの話に聞き入っていました。
さらに進んで「言葉の抽象性」について。
その言葉を使わないで説明するというワークを通して、同じ言葉でもそれぞれイメージしていること・ものが異なることを体験し、「意味や経験はひとりひとり違う」の理解を深めました。
最後に、とびらプロジェクト マネジャーの熊谷さんから、「とびらプロジェクトでは、お互いに関心を持ち合える関係性、ききあえる・はなしあえる関係性が大事だと思っています。それによって思ってもみてなかったようなアイディアが出てくる。そういうことを実践していくコミュニティにしていければと考えています」との話がありました。
この講座を受けたからといって、すぐにきく力がグーンッと高まったり、なぜきく力が大事か明確になったりすることはないかもしれません。
しかし何かしら「きく」について考えたのではないでしょうか。
13期とびラーには、ゆっくりじっくり自分のペースで、きく力を身につけていってもらえたらと思います。
(とびらプロジェクト コーディネータ 西見涼香)
2024.04.13
【第1回基礎講座 オリエンテーション】
日時|2024年4月13日(土)10時〜15時
場所|東京都美術館 交流棟2階 アートスタディルーム、東京藝術大学 美術学部 中央棟2階 第3・4講義室
51名の新しいとびラーを迎え、13年目のとびらプロジェクトがスタートしました。
基礎講座初回の午前は、とびラーの活動の拠点である東京都美術館アートスタディルームに13期のメンバーが集まり、活動に必要な情報のオリエンテーションや、2~3年目とびラーによる館内ツアーを行いました。
午後は東京藝大の講義室に11~13期とびラーと、東京藝大・東京都美術館のスタッフ全員が集合し、今年度のキックオフを行いました。
今年度も美術館を拠点にアートを介したコミュニティの輪を広げていきたいと思います。
13期とびラーのみなさん、これから3年間よろしくお願いします!
(とびらプロジェクトコーディネータ 越川さくら)
2024.03.28
『とびdeラヂオぶ~☆』はとびラボです。
活動期間:2023年7月~2024年3月
頻度 :月に1~2回
■「とびLOVE#1」のゲスト・スタッフ越川さんととびラーで試聴する様子
■趣旨 美術館に興味のない人や足を運んだことのない人のきっかけをつくりたい。
( “すべての人に開かれた「アートへの入口」”に足をかけてほしい!)
■ラジオをツールとしたのはなぜ?
このとびラボは、「とびラーのなかでラジオをきく人が思っていたよりたくさんいたので、『ラジオとアートコミュニケーションをテーマに話してみたい』」というラジオの仕事に携わっているとびラーの思いがきっかけとなり始まりました。話していくなかで、ラジオは話し手と聞き手が1対1でつながるメディアであること。その強みを生かしラジオを通して 「東京都美術館の魅力を知ってもらいたい!」「東京都美術館に関わる様々な人の話や推しポイントを我々メンバーがききたい!知りたい!」ということになりました。
■これまでのラボの流れ
▼なりきり期…集まったメンバーで自身がラジオDJになったつもりで、好きな音楽を選曲し自己紹介。
また、ある日のラボでは「マティス展」が開催中だったので、マティスの作品をイメージして各々音楽を選曲してみました。そのようにしてみたことで、音楽とアートという組み合わせでできることについて話が膨らみました。
▼迷走期…ラジオを介してしたいこととは?となったとき「東京都美術館のミッションに立ち返ろう」「興味のある人は自ら情報を取得するけど、そうでもない人たちにも知ってもらうきっかけをつくりたい」「中高生の放送部と一緒になにかできないか?」など、思いばかりがどんどん膨らみ迷走してしまったのでスタッフに相談したところ、結局わたしたちは「ラジオ番組が作りたいんだ!」という明快な答えにたどり着きました。とはいえ、ラジオ番組を制作したことがないメンバーがほとんどだったので、どのような形で実現できるのか、録音や進行も試しながら、まずはとびラー同士で聞けるような番組を制作してみようということになりました。今回の企画の内容は①美術館に関わる様々な人(警備員さん、ショップ店員さん、来館者など)の話を聞きたい。②とびラー内コミュニケーションの活性に役立てたい。この点に関しては、約130人のとびラーそれぞれが様々な活動に取り組んでいるため、お互いが知り合うきっかけが意外と少ないと感じました。そこで、ラジオというメディアを通してとびラー同士がお互いを理解する機会を作りたい。そうすることで、とびラー同士のコミュニケーションがより活性化し、活動の幅が広がるのではないかと考えたのです。この思いを形にするべく始動しました。スタッフにも相談し、まずは身近なスタッフやとびラーに美術館についての話を聞くという、インタビュー番組の制作が決定しました。
▼制作実践期
方向性が決まり、さっそく「とびLOVE」というタイトルの番組制作にとりかかりました。この番組タイトルには、愛してやまない東京都美術館への思いを語ってほしい・聞きたいという意図をこめました。番組の長さは10分程度で、移動中やすきま時間に気軽に聞けるよう、また内容は、話してくれる人の人柄が少しでも伝わるものにしようと決めました。
制作過程…基本的にインタビュアーが話してみたい人に自ら依頼するところからスタートします。収録はハンドサイズのレコーダーを使用しました。ヘッドホンをつけて、音声がうまく録れているか音のバランスを確認しながらの作業です。初めての収録の時はドキドキでした。収録場所はとびラーの主な活動場所であるアートスタディルーム。初めのうちは部屋の静かな場所を選んでいましたが、進めていくにつれて同じ部屋でミーティングしている他のとびラーの声も番組のエッセンスとして収録するようになりました。
編集作業も、とびラーが担当。番組にはオープニングテーマやエンディングテーマもつけ、場面転換に使用する番組のタイトルを乗せた「ジングル」は、ギターを弾けるラボメンバーが作りました。また、番組タイトルをラボメンバーの子どもや、ゲスト出演者に言ってもらい、その声を乗せたバージョンのジングルも制作。様々な声が番組にいろどりを添えることになりました。出来上がった番組はラボメンバーで試聴し、カットしてもいい部分について話したりして最終的な番組の形に仕上げます。そして、とびラーには聞こえない・聞こえにくい仲間がいるので、文字でも番組の内容が楽しめる「文字版」を制作することにしました。番組の最終版が出来たところで文字起こしを行いそれをもとに文字版を制作します。文字版もラボメンバーで最終チェックをして完成です。完成した番組はダウンロードで聴取できるようデータをアップし、とびラー全員が聞けるようにお知らせをしました。
番組について…第2回目からはゲストにインタビューする人と、番組のオープニングとエンディングの案内役(ナビゲーター)を分けることにしました。そうすることでインタビュアーが変わっても番組の始まりと終わりをいつも同じ声でおとどけできるので番組自体の統一感がでました。また、全5回を通して共通していることはゲストの人となりが分かるインタビューだということです。いつも接しているスタッフがアートと関わることとなったきっかけや、とびラーがなぜとびらプロジェクトに応募しようと思ったのかについて触れることで、距離が縮まった感じがしたり、普通に接していただけでは触れられなかったかもしれない考えや思いを知ることができたりと毎回“驚きや感嘆、新しい発見”があるこのインタビューはとても個性豊かです。インタビュアー×ゲストの化学反応はもちろんですが、インタビュアーによって雰囲気が変わるのです。そして、録音に際しては、他のラボも開催中の部屋で協力してもらいながら実施。番組内でBGMのように様々な声が聞こえてくるのもとびラーの日常が感じられます。
文字版について…聞こえない・聞こえにくいとびラーとも番組の雰囲気や出演してくれたゲストについて共有したいという思いから、目でも楽しんでもらえるようにするため、ただの文字起こしではなく、収録時の様子を書き足したりしています。そうすることよって、聞こえるメンバーにも音だけでは伝わらない部分を伝える手段にもなりました。
番組を聴いたとびラーからの感想…番組ナビゲーターを担当したとびラーの口調のファンという人、「みんなの好きなことが集結してできている感じがいい」「(ゲストの)活動の様子や思いがきけてよかった」「文字版は、音だけでは伝わらなかったところまで知ることができる」などの声が寄せられています。聴いた・見た感想をきけるのもラボメンバー以外のとびラーが関心を寄せて支えてくれているからで、励みになっています。このやりとりがとびラー同士のコミュニケーションにもなっているはずです。
■『とびdeラヂオぶ~☆』は数多く存在するとびラボのなかのひとつのラボです。
我々とびラーが愛してやまないラブの対象・東京都美術館に来てみてほしい。そのきっかけになるようなことを発信したい!と思いつくままに意見を出し合い、膨らませ、想像してきました。たどり着いたのは、まずは身近な気になる仲間の美術館への思いを聞いてみようということでした。このラボを通してゲストの話をきけばきくほど、もっと他の人の話もききたい!という、ききたい欲が湧いてきました。
ラボメンバーからは「妄想から始まってだんだん具体的になって、これからどう発展するか楽しみ」「スタッフやとびラーの人となりをラジオを通してとびラー内に発信できたことで、親しみがわき接するときの心持ちが変化した」「番組を聴いて寄せられた感想を通して、出演してくれたとびラーだけでなく感想をくれたとびラーの人柄もわかった」「寄せてもらったメッセージからどんな思いで聴いてくれているのか想像をかきたてられ励みになった」という声があがっています。また、文字版については「全く予想していなかったが、その場の雰囲気まで伝えられるものになった」「聞こえない・聞こえにくいとびラーにも届けたいと考えて出来た文字版が、聞こえるとびラーにも音で伝わる以外の部分を感じてもらえることにつながった」「文字というのは形も音に通じるものがあると思う」「それぞれの人の持っている個性にあった文字があるように、番組らしいカラフルな文字版があると視覚的によりうまく伝わるのではないか」などの見解もでました。
番組も文字版もまだまだ可能性を秘めているとメンバー全員が感じているところですが、10期のとびラボメンバーが開扉するのを機にいったん解散。
スタッフ、とびラー仲間はもとより、その輪を広げて美術館に関わっている様々な人々に話をききたい。そして、知りたい、知らせたい。このラボを通して美術館と人とをつなげたい思いは広がっています。
・とびラブはつづく・・・。乞うご期待!!
執筆:
柴田 麻記(12期とびラー)
染谷 都(12期とびラー)
2024.03.27
【ラボ実施の経緯】
とびラー11期の菊地と、とびラー10期の金城。
11期と10期で期が異なる私たち。
複数のとびラボで一緒に取り組む過程を経て、個性が違う私たちで一緒にラボを行ってみようという話になりました。
ラボを行うなら自分達も楽しく取り組みたいという想いから、「アートと自分達が好きなもの・得意なことを掛け合わせてラボを行ってみよう」と2人で話し合いました。
金城は化粧が好き。
菊地は歴史が好き。
化粧の歴史から見るアートの世界は、今までの自分達の見方とは異なる視点から、アート鑑賞に膨らみと広がりを与えるきっかけになるかもしれない。
そんな想いから、「化粧史×化粧師」ラボを企画・実施しました。
化粧史×化粧師ラボは、2部構成で進めました。
①化粧史:化粧とアートの歴史を参加者が調べてきて発表する時間。
②化粧師:化粧品業界でお勤めの方がおり、眉毛カットを体験する時間。
💄化粧史:アートと化粧の歴史を学ぶ💄
2回にわけて開催しました。
1回目は、菊地が、化粧とアートの歴史について参加者への講義を行いました。
1回目の集合写真
1回目はZOOMを併用し、遠隔でもラボに参加できる設計にしました。
2回目は、参加メンバーが各々「化粧とアートの歴史」について資料を作成。作成した資料を元に発表し合いました。
自分が興味を持った「化粧が印象に残るアート作品」について、参加者には歴史を背景として資料を作成してもらいました。
発表は1人あたりの持ち時間を決め、順番に行いました。
参加メンバーで2回目実施の際に作成した資料の一部を紹介します。
日本の化粧とアートの歴史から、世界の化粧とアートの歴史まで、幅広く見ていきました。
「化粧の歴史」に触れた後、歌川国貞の《今風化粧鏡》と、ロバート・フレデリック・ブルームの《化粧する芸者》の2作品を見てみました。
江戸時代は、首筋をたしなむという表現があったほど、うなじの色気に重きを置いていた印象。
絵師は斜め後ろから描き、鏡を通じて対象者を描く構図が多い。
歴史を知りアートを見ることで、その時代に定義された美しさに着目して鑑賞する新たな視点を得られました。
💄化粧師:性別を問わず、化粧に触れてみよう体験💄
化粧関係の仕事に携わっているアート・コミュニケータがいたので、性別問わず化粧に触れられる眉毛カットと眉毛プロポーションのレクチャーを行っていただきました。
男性も女性も、眉が整うと印象が変わりますね。
眉毛を整えてもらった後の方が、表情が明るくなった印象です。
化粧史×化粧師ラボを実施し、アートと別ジャンルの掛け合わせの可能性を感じました。
男性の参加者も数名おり、このラボ実施まで化粧の観点からアートを見たことがなかったとのこと。
性別によらないアートの見方を1つ体得したという感想もありました。
眉毛カットでは、第三者を通して装うことを楽しみました。
装うことは人の視線を意識する行為の意味合いもあり、眉毛カットの様子を見守られることは、まるで自分が作品となり鑑賞者から見られているようだ、との声もありました。
アートと自分が興味・関心のあることを掛け合わせると、新しいアートの見方と出会える。
日常で接するものとアートを掛け合わせると、新しい世界が芽吹くかもしれません。
このラボを実施し、化粧の歴史は深く、西洋と東洋で化粧への異なるアプローチの仕方が絵画に反映されていることに気づきました。
古代エジプトでは、瞼に塗る顔料は日差しから目を守る効果もあったとのこと。
「綺麗に装う」だけではなく、「その時代の実用性も兼ねる」という観点から化粧を見ると、歴史を知る、アートを見る楽しさが広がりました。
発表の場を設け、共有したからこそ発見できた楽しさでした。
自分が楽しいと思ったことを、発信していく。
やりたいと思ったことに対し、誰かが興味関心をよせてくれる場がとびらプロジェクトであると感じたラボでした。
2回目の集合写真
眉毛を整える企画があったため、全員活動場所に集合しました。
執筆:
とびらプロジェクトに参加して、美術館は作品を見るだけではなく、アートを通してつながるコミュニティスペースであることを知りました。より多くの方に、アートとつながりを楽しんでもらいたいです。
個人的に美術を楽しんできましたが、とびラーになり、皆で作品を見る楽しさに目覚めました。その楽しさを十分堪能するには、人の話を「じっくり聞く」ということが大切だということも教えてもらいました。(会社の会議に参加するたびに、全員、鑑賞実践講座で鍛える必要があるな、強く感じる日々です。)
2024.02.25
日時|2月25日(日)13:30〜16:00
場所|東京都美術館 ASR・スタジオ
講師|小牟田 悠介
テーマ|「1年間のふりかえり」
これまでの講座の内容と、その講座を受けたとびラーからのふりかえりを紹介し、グループでシェアしました。
講座の内容についてふりかえった後は、講座で扱ったテーマ以外で
「ミュージアムにアクセスすることが難しい人たちって?」をテーマに話し合いました。
とびラーからのふりかえりを抜粋します。
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・この一年間受講してみていかに自分は狭い視野だったんだろう、社会知らずだったのだろうと打ちのめされました。無自覚な接し方を少しでも減らしてアートを楽しんでもらえるようとびラー活動に活かしたいです。
・障害への差別意識はないと思い込んでいたが、それよりもどんな困り事があるのかを「知ること」のほうが大事だと感じた。 これまでも漠然と思っていたが、この講座で具体的な足掛かりができ、自分ができることから関わっていきたいと思うようになった。
・大変気づきの多い時間となりました。また、これらの問題解決のために様々な支援を行っている方の活動も知ることができました。現状を受け止めて常に意識していかないと何も変わっていきません。これから何に取り組もうか、目指す方向性が見つかったことも大きな収穫となりました。
・毎回受講する毎にアクセシビリティに関する現状を知り、驚きでした。時間の経過とともにそれも薄れていく中で、1年をふりかえる時間は貴重でした。頭の片隅にでもアクセシビリティを意識していないと、情報を見逃したり、忘れてしまいがちだと思います。
・知的障がいを持つ方たちと街に出るとき、私はとても周囲に気を使います。一般社会への気配りは裏を返せば、一般社会側が「障がい者」を受け入れていないと感じているためだと思います。しかし今回、教室の一番後ろの席から1年間の振り返りを聞いていた時、「少なくとも私の前に座っている人たちは、もし私たちが外に出て困っていたら手を差し伸べたり、温かく見守ってくれる人たちなんだ」と思ったと瞬間、とてつもない安心感と喜びが沸き上がりました。こんなに沢山の「味方」がいるんだと思いました。 こんなにたくさんの「味方」を目の当たりにできたこと、本当にうれしく思っています。
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1年間、お疲れ様でした!
(とびらプロジェクト コーディネータ 工藤 阿貴)
2024.02.17
第7回建築実践講座|「ふりかえり」
日時|2024年2月17日(土)14:00〜17:00
会場|ASR・スタジオ
いよいよ最終回。
まず、初回から前回までの講座の内容をふりかえり、
次に、年間課題である「建築を、みる、楽しむ、伝える」を実践した内容を、グループ内でシェアしました。
課題は、
<目的>「誰かとみる」を楽しむ
<内容>東京都美術館以外の建築ツアーに参加する、
建築関連のイベントに参加するなど、 誰かと建築を楽しもう。楽しんだ後はホワイトボードで他のとびラ ーにも体験をシェアしよう。
というもの。とびラー同士で誘い合いながら、またはそれぞれ旅先で、または友人を誘うなど、様々な方法で誰かと建築を楽しみました。
各々スマートフォン・タブレットで撮った写真や現地でもらったパンフレットなどの資料を見せながら、見学した建物や参加したツアーについて熱く語りあいました。
その後、東京都美術館の「とびラーによる建築ツアー」で、すでにガイドを務めているとびラー10名によるツアーを行いました。
この「とびラーによる建築ツアー」は年間6回、各回定員30名で実施されており、大変好評をいただいているツアーです。
とびラーになる前に参加した人もいますが、多くはこのツアーを体験していません。
実際にどのように行われているのか、何を感じるのか、とびラーならではの場づくりはどのようなものなのかをそれぞれが意識しながら参加し、
ツアー終了後はふりかえりを行いました。
今年度の締めくくりに3人組でシェアしたのは、「これからアート・コミュニケータとして人々をつなぐ場をデザインするために、これからどのような行動をおこしたいか」です。
とびラーからのふりかえりを抜粋します。
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・1年間の講座に共通して感じたことは、建築はその建物だけでは成り立たないということ。そこには必ず人が存在しているということ。鑑賞する際には、その建物の設立された背景や使っている人の営みの積み重ねがあり、現在の姿があることを意識したいと思った。
・建築をよく見て考えてシェアするには、他の人と安心して過ごしつつ集中できる場作りが必要で、そのためにとびラーの役割があると改めて感じた。
・東京都美術館の資源を活用して、同じ経験がここでも生まれていて「自分の感覚を手掛かりにすること」、今まさにこの場所に繋がっている。 建物を楽しい、と、思った「発見」を大切に、同じように参加者の方、鑑賞者の方へ伝えたい思いが更に増している。
・建築講座を一年受講してみて、とても愛に満ちた講座だなと思いました。色んな方の愛の形を見せてもらった気がします。
・今年の建築講座の仕立ては、みんなで建物を見る楽しさを体感する機会の創出、その経験の中で自分は何を推したいのかが徐々に明確になっていくプロセスが良かったと思います。知識の引き出しに関しても、先生方の講座で十分すぎるくらいにご提供いただけました。そもそも、知らないものは推せないし、知りたくなった時に取りにいけるので。
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例えば、東京都美術館のひとつひとつのディテールが、誰に、どんな思いで使って欲しいかを考えられてそこにあるのかがわかると、愛着がどんどん増します。
その良さや感動を自分だけのものにするのではなくて、誰かに共有することで、大切に思ってくれる人が増え、その建築がこれからも使われ続けることにつながります。
建築を物理的・構造的に見るだけではなく、そこに人がどう関わるのかをデザインした人がいて、利用する人がいて、今も大切にされているということ。
そこにとびラー(アート・コミュニケータ)がいることでさらに何かが生まれること。
とびラーには、開扉した後もそれぞれの場所で建築を介したコミュニケーションの場を作っていって欲しいと願っています。
1年間、お疲れ様でした!
(とびらプロジェクト コーディネータ 工藤阿貴)
2024.02.13
消しゴムはんこラボ。
消しゴムを彫ってはんこを作るラボ、と思われるかもしれませんがそれは活動の一部です。
作品を鑑賞してそれをモチーフにはんこを彫り、「障害のある方のための特別鑑賞会」の参加証送付用封筒に押し、参加証を封入し、特別鑑賞会でその封筒を展示して、来館者の方々に見て頂き、感想を聞くラボです。長いですね。
「障害のある方のための特別鑑賞会」とは障害のある方がより安心して鑑賞できるように、東京都美術館の特別展の休室日に開催する鑑賞会です。申込んだ人には参加証をお送りしていますが、よりウェルカムの気持ちをお伝えしたいと思い、特別展に関連するはんこを作成し、送付用の封筒に押して送付しています。
今年度は「マティス展」、「永遠の都ローマ展」、「印象派 モネからアメリカへ ウスター美術館所蔵」で実施しました。
「マティス展」の特別鑑賞会の様子はコチラ
「永遠の都ローマ展」の特別鑑賞会の様子はコチラ
まずははんこのモチーフとなる作品を選びます。
展覧会で作品を鑑賞しながら、またはチラシや公式ホームページから彫りやすそうな、いえ、彫りたいと心が動く作品を選びます。
作品を選んだらどの部分を彫るのかデザインを決めます。
封筒に押すサイズは9×7cmです。これに収まるように縮小したり、一部分を切り取ったりします。
同じ作品でも切り取り箇所や表現に個性が現れます。
例えばチラシにも使われたこちらの作品。
同じ作品を元にしたのに、彫ったモチーフはこんなに違います。
このようにバリエーション豊かなはんこが出来ました。
そしてメインの彫り押し作業です。
初めて消しゴムはんこを彫る人も多かったですが、道具は100均でも揃えられ、
中学時代の彫刻刀を数十年ぶりに取り出す人もいました。
また道具を一度に揃えられない場合は、ラボのメンバーに借りて仕上げたりもしました。
線を彫るのか残すのか、どの線を生かすのか、おのおの作品と対話をしながら、黙々と彫り進めます。カニでも食べているのかと思うほどの無言の時間が流れます。彫っているところの写真はいつも頭頂部しか映りません。
彫り方はとびラー同士で教え合います。何期も前のとびラーから受け継がれている技もあります。事前にYouTubeの動画を観て勉強してくる人もいました。
彫れたらいよいよ封筒に押します。
図案を反転して彫っているので、押して初めてどんな作品かわかります。
また、インクの色や押し方でもイメージが変わります。
こうしてはんこの押された参加証送付用の封筒が完成しました。
様々なはんこができました。
並べると壮観です。
線そのものを彫る、線の周りを彫る、の違いや、一色で表したり、浮世絵のように色を重ねたり、同じモチーフでもこんなに違ったはんこになります。
違いを楽しむのも、消しゴムはんこの面白さです。
完成した封筒に参加証を入れる封入作業もスタッフと一緒に行っています。どんな方のお手元に届くのか、喜んでもらえるのか、どきどきしながら作業をします。
また、今年度から特別鑑賞会当日に消しゴムはんこを押した封筒の展示を行いました。
今まで参加証の封筒を受け取られた方から、押されたはんこについて「これは誰が彫っているの?」「みんな同じ絵柄なの?」「他にどんな絵柄があるの?」というお声を頂いたので、来館者の方々に消しゴムはんこを紹介しようとなったのです。
先ずは机上で展示のレイアウトを考えます。
その後、車椅子の方にも見やすいよう、目線を考慮して位置を調整していきます。
そして特別鑑賞会当日。
全ての封筒を展示したボードをアンケートコーナーに設置して、来館者を迎えました。
特別鑑賞会の申し込み方法は、Webフォームと、メール、はがきの3種類です。
メールとはがきで申し込んだ方には、参加証を封筒でお送りしますが、Webフォームで申し込んだ方は、参加証がメールで届くので、はんこが押された封筒の存在を知りません。8割以上の方がWebフォームからの申し込みなので、はんこが押された封筒をここで初めて見る方が大多数です。
また、封筒をお持ちの方も、他にどんな絵柄があるのか興味深げに見てくださいました。
封筒の絵柄や、モデルの実物の作品の感想を語ってくださったり、同じ作品でも彫る人によって表現の違いがあることに気付いてくださったり、多くの方が足を止めてくださいました。
今まで届いた封筒を全部取っておいている方、届いた封筒のはんこをイラストに描いてくれた方もいらっしゃって嬉しい驚きでした。
中には封筒が欲しいから次回はWebフォームではなく、はがきで申し込むと言う方もいらっしゃいました。嬉しい反面、時代に逆行して頂くのも気が引けるので、Webフォームで申し込んだ方には、封筒の代わりにはがきサイズの紙に押したはんこをランダムで1枚お土産として持って帰って頂きました。
裏返しにした紙を1枚引きます。どんな絵柄かは引いた後に表を見てからのお楽しみです。絵柄を見た方からは楽しげな歓声があがっていました。
消しゴムはんこラボは長く続いているラボですが、その時々で形を変えながら活動をしています。封筒の展示はコロナが明けた今年度から始めたことでしたが、今まで聞けなかった来館者の方たちの感想やお話を伺える貴重な機会となりました。
消しゴムなんて初めて彫るというとびラーも大勢参加してくれました。また、彫らなくてもボードの作成や封入作業に参加してくれたり、鑑賞会で来館者にボードの案内をしてくれるメンバーもいて、展示を盛り上げてくれました。
印刷かと見紛うほどの繊細なはんこを彫る人も、味がある太い線のはんこを彫る人も、彫らない人も、はんこを通じて作品と鑑賞者に向き合う。それが消しゴムはんこラボです。
美術館で作品を観た感動を何かに残したいと思ったそこのあなた、文章、模写の他に消しゴムはんこも一つの選択肢にぜひ加えてみてください。
執筆: 篠田綾子(10期とびラー)
超絶技を繰り出す人もいる消しゴムはんこラボで、初めての人も気後れせずに参加できるような大雑把なはんこを彫っています。上手くなくても楽しければいいんです。
2024.02.13
日時|2024年2月13日(火)10時〜16時
展覧会|印象派 モネからアメリカへ ウスター美術館所蔵(会期:2024年1月27日(土)~4月7日(日))
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・東京都美術館で開催された「印象派 モネからアメリカへ ウスター美術館所蔵」展にて、「障害のある方のための特別鑑賞会」を実施しました。この鑑賞会は、障害のある方がより安心して鑑賞できるよう、特別展の休室日に事前申込制で開催しているものです。
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・当日は、障害のある方やその介助者770名以上が東京都美術館を訪れ、これまで日本で紹介される機会の少なかったアメリカ印象派の魅力に触れていました。
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・来場者を迎えるのは、アート・コミュニケータです。とびらプロジェクトで活動中のとびラーや、3年の任期を満了したアート・コミュニケータも数多く参加し、受付や展示室内など、館内の様々な場所で来場者のサポートをしました。
・
・
・
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・普段は混雑することもある展示室。
・この日は、事前申込・定員制のため、移動や混雑した状況に不安のある方にも、より安全にゆったりと展覧会をご覧いただくことができます。
・
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・来場者は、同行した介助者やアート・コミュニケータとのお話を楽しみながら、展示室でゆったりとした時間を過ごしていました。
・
・・
・とびラーの発案で、作品が見えにくい方のために、作品画像を拡大して見られるタブレットも用意されました。
・拡大してさらに作品の良さが見えてくることで、来場者とアート・コミュニケータの会話にもぐんと熱が入ります。気がつくと、一緒にタブレットを覗き込んでいた人同士のコミュニケーションも生まれていました。
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・とびラーが毎回の特別鑑賞会用にデザインしている案内状封筒の展示も行いました。今回のウスター美術館展でも、ウスター美術館展の作品を題材にしたさまざまな消しゴムハンコ作品が封筒を彩りました。
・実際に消しゴムはんこを彫ったとびラーと、封筒を受け取った来場者も、話に花を咲かせていました。
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・アート・コミュニケータは、車でお越しの方の待ち時間や、エレベータやエスカレータに乗り降りする場面など、美術館の様々な場所で来場者を見守ります。
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・来場者の美術館での時間がより思い出深いものになるように、ちいさなコミュニケーションを大切にしながら館内のあらゆる場所でサポートしました。
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・次の鑑賞会でもみなさまにお会いできるのを、アート・コミュニケータ一同楽しみにしています。
2024.01.27
クリスマスも間近の12月22日、上野公園を抜けて東京藝術大学美術学部の正門で待ち合わせたとびラー4名は、どんな作品に出会えるかという期待を胸に絵画科油画専攻4年生の北村瞬さんを尋ねました。笑顔で迎えてくれた北村さんの制作室には・・・あれ?絵画がありません。あったのは雑然と置かれた材木と工具。不安から始まったインタビューは興味深い内容に満ちていました。
最初に、美術との出会い・きっかけをお話しいただけますか?
僕の母は美術に興味があり、美術系の大学に行きたかったそうです。僕が保育園で工作物を作ったらいつも褒めてくれました。その後もずっと美術に興味があって、母が「画家を目指すなら藝大というところがあるよ」と教えてくれて、「じゃ、そこに行くんだろうな」と思い、自然とその流れで藝大に入りました。最も好きな科目はずっと図工・美術でしたし、部活も小学校、中学校とも美術部でした。高校は美術科がある高校(東京都立総合芸術高等学校)です。文化祭では装飾班に入って、学校の門やロータリーを装飾しました。小学校から高校まで美術の先生に恵まれていたので、それも良いきっかけだったと思います。
美術館にもよく行きました。母は美術館が好きな人だったので、よく一緒に行って、本物に触れることができました。母が西洋画や宗教画が好きだったので、比較的古い絵を見ることが多かったと思います。母に連れられて、ただただ日課のように絵を見ていましたね(笑)。母も美術館で楽しそうに見ていたので、それでいいかなと。
今は卒展に向けて、油画に取り組まれているのですよね?
油画は家で描いています。学校は夜8時までしか制作ができないので、学校では木工をやって、家に帰ってから深夜まで描いています。今学校で制作しているのは額に近いイメージの作品で、現在は屋根の部分を作っているところです。この中に描いた絵が入ります。
屋根にパイプを付けて、そこから絵を吊り下げます。もともと額に興味があって、絵の中身は何でもいいかなと。いろいろな美術館に行って僕が思ったのは、一般の人たちはキャプションをずっと見て、メインの絵はあんまり見ないで終わってしまうのではないか、ということです。どこで作品の価値を判断しているかというと、周りの額やキャプションとかライティングとか、どういう美術館に飾られているのかなどの周りの情報がその人にとっての作品の評価に大きく影響しているのではないかと思いました。そこから、どちらかというと外枠に興味が沸いて、こういう形で作品を作ろうと思い至りました。中に入る絵はモデルさんを頼んで、結構写実的に描いています。それは学内展では皆に見せるのですが、東京都美術館で行われる卒展では絵を麻布で覆って、隠して展示します。
せっかく描いた油画作品を隠してしまう意図は何でしょう?
絵を描いている時はすごく楽しいのですが、人に見せるとか、いつまでに仕上げるとなると、どうしても人が見やすい様に描いてしまいます。そうすると、展示した瞬間に、自分と自分の描いた作品の間に距離ができてしまうと感じて、それはどうしても嫌だなと。今回、自分が満足できるまで描いた作品を自分の中で完結したいと思ったので、卒展では油画は見えない状態で展示します。絵の中身の評価や価値は作者である自分で決められるので、人に見られてどうこうというのは自分には要らないなと思っていて、だからもう隠してしまおうと思いました。
では、絵を入れる額は作品として評価してほしいということですか?
僕は見せたいものとやりたいことが乖離していて、やりたいことは絵、見せたいものは・・・うーん。実はこの額も実験に近くて。この額や周りのものを来館者が見たときに中身をどうやって評価するのかという、そのちぐはぐさが面白い。今回すごい時間をかけて作った豪華な額を見て、僕の作品を見た人が中身をどうやって判断するかということが知りたくて、こういう作品になりました。学内展では先生達に見ていただいて評価を受けるのですが、そのときには絵が見えています。でも、自分的には絵の内容の評価も大切ですが、先生たちには仕掛けの方を見てもらいたいなと思っています。
この額は不思議な形をしていますね。
先生達ともいろいろ話しました。僕はこれを額のつもりで作っていたのですが、ある教授には「これは祭壇だね」と言っていただきました。僕は祭壇のつもりはなかったのですが、ただ用途的には仏壇の様に大事なものが中に入っていて、閉じていて、でも人はそれを「中身が重要」ということを理解して、中身が見えない状態でも価値を判断している。例えば、クリスマスツリーの、中身が空のプレゼントボックスのオーナメントがすごく好きで、あれは中身が空なのが分かっているけれど、きれいにプレゼントボックスが包まれている状態にすごく価値を見出されています。今回の作品もそれに近いなとは思っています。チグハグとか、勝手な想像とか。そういう状態が面白い。
この額自体はどのようなコンセプトや想いで作られて、どのような特徴があるのでしょうか?
そもそも家具が好きというところがあって、僕のイメージとしては、額ではあるけれど、服を吊すハンガーラックみたいなものです。また、僕は道具が結構好きです。道具は何かのプロセスで使うもので、目立つことはあまりないのですが、すごく必然的な形をしているし、道具のための道具もあります。この作品の飾り足を作るために、自分で旋盤を作りました。買おうと思えば買えるのですが、仕組みを見たら案外簡単に作れるなと。あと丸鋸やトリマーを使って、テーブルソー(丸鋸盤)を作って、自分で木材を切りました。その後、釘とかネジを使わずに、木組みで制作しています。家具が作られるプロセスは見えず、みんな気づかずに普通に使っている、その感じも好きです。話を戻せば、(作品においても)額とかキャプションとか、場所などから、多分皆さんが無意識のうちにその情報を汲んで「素晴らしい作品が飾られている」と意識すると思うのですが、家具もそういう感じではないでしょうか。いろいろ用途があって、飾りも付けられているし、そういうモールド(装飾)が家具には全て入っていると思います。人は知らず知らずのうちに、そこに「かわいい」などの価値を見いだし、そのような感覚で使っていると思うのですが、そのプロセスが見えないところが僕は好きです。
では、想像で価値が生まれていることを分かってほしいということですか?
そうではありません。僕はこれを作っているのですが、誰かに何かを伝えたいということは全くありません。「大きい家具が展示されている」くらいで、スッと素通りしてもらってよくて、僕がその違和感を楽しんでいるだけです。作品を見てくれる方には失礼かもしれませんが、僕が脇から見て悪戯しているような感じといったらよいでしょうか。僕は作品の価値なんて、あってないようなものだと思っていて、(中身はどうあれ)美術館で飾られているからこれはいいものだよねということは往々にしてある。それがもし、どこかのギャラリーに置かれていたり、ゴミ捨て場に置かれていたりしたら、美術館で見た時と同じように価値を見いだすのかといったら、全然ちがうと思う。作家が誰なのかも重要、だから価値なんてものは当てにならないなと思います。誰もが価値があるものと錯覚していることも面白いと思っているし、それを意図的にどう作っていけるかに自分の関心があるのかなと思っています。
大学卒業後はどうされますか?
藝大油画の版画の大学院に行こうと思い、大学院試験の準備をしています。今も、版画コースを選択しています。版画コースでは色々な古典技法を学ぶことができます。リトグラフとかシルクとか木版とか。僕は素材にも興味があり、素材に詳しい先生方が多くいらっしゃるのも選択した理由のひとつです。木材や金属、布、石。全て版画の中で使われる素材です。シルクだったら版を作るのに布を使うし、リトグラフは石においたインクを紙に転写する技法ですし、木版があったり銅版があったりとか。版画の先生の中には、教授とは別にテクニカルインストラクターの方が4人いて、技法ごとに詳しい知識をお持ちです。素材の扱い方を聞いたらポンポン返ってきますし、道具をすごく使う方達なので、お話をするのが楽しいです。キャンバスはどうやって織られるのか、膠はどうやって動物から取るのかなど、そういう会話も楽しくて、大学院では版画に行こうと思いました。
大学受験の時のお話を聞かせてください。
受験準備のためにはやはり予備校に行かなければと考え、一浪目は夏から冬まで予備校に通いました。二浪目は宅浪して、三浪目もまた夏から冬まで半期通って、お金は最小限で済ませました。
浪人の時に死ぬまでにやっておきたいことをリストアップしました。浪人中は時間が沢山あるので、アルバイトをして貯めたお金を作ってそれらをやっていこうと思いました。怖くて嫌悪感のあるゴキブリに触ってみるとか、屠殺場を見学してみるとか。屠殺場は結構偏見があって、そこには誹謗中傷のメールや手紙が届くそうです。でも普段みんな肉は食べているし、何がそんなに怖いのかと思いました。いろいろなことに時間を費やすことができたので、浪人したことに後悔はないし、それがあったので今があるかなと思います。大学に入ってからもそのようなことへの興味の流れで献体解剖の現場を見学させていただきました。実際に内臓を触ってみたり、脳みそを持ってみたりしました。恐怖感がありますが、実際に自分で触ってみて、なんてことなかったなという印象を受けました。
気分転換はどんなことをされるのですか?
僕は自然が好きで、たまに夜中の終電で高尾山に行って、考えごとをしながら登って下りて始発で帰ります。歩くことが好きなので、山手線の数駅分を歩いたりします。この前も新宿から日暮里まで歩きました。新宿中央公園の芝生も好きで、そこでたまに読書をします。家の中に籠もっていると気分も沈んでくるし、何もしなかった日の夕方はすごく怖い。一浪目の頃、バイトもせず、予備校も通わず、ずっと家にいました。その時は本当に鬱に近かったです。本当に何もしなかった日の夕方などは、今日も何もできなかったという罪悪感がたまらなく嫌で。それからは、ほとんど毎日外に出るようにしています。
卒展に来る人は私達アート・コミュニケータや美術が好きな人、藝大を受けたいという人など、さまざまです。その人たちにメッセージをお願いします。
来場される方に特に伝えたいことはありません。むしろそれを横で見ていたいという感じです。
藝大を受ける人、制作する人全般には遠出やドライブなどの「足の趣味」を持つことをおすすめします。絵だけ描いていたら絵が描けるわけじゃなく、絵を描いていない期間に得られた情報や体験がすごく制作に反映されるんじゃないかな。
インタビューを終えて
最初、当惑の中にいた私たちも、北村さんが語るユニークな考え方やこれまでの人生でのさまざまな体験の話が進むとともに、その内容にすっかり引き込まれていました。何が虚構で何が本質なのか、そんなことを改めて考えさせてくれる時間を北村さんと共有できたことに感謝したいと思います。
北村さんの絵画作品は、卒展では隠されていて見ることができません。北村さんの作品の一部をInstagramでご覧になって、隠されている作品を想像してください!
https://www.instagram.com/a_shun.18/
取材:添田安沙子、飯田倫子、塚越史香、岡浩一郎
執筆:岡浩一郎
これまで完成した作品しか見てこなかったので、「いままさに作っている」現場とその作品が出来上がるまでのプロセス、思考の流れに触れることができて、非常に良い経験でした。卒展で展示される作品を自分がどう見て、どう思うのか楽しみです。貴重なお時間ありがとうございました。(添田安沙子)
素材や道具といった具体的な「作る」ことと、キャプションや額装で与える「情報」。どちらに対してもとても真っ直ぐに向き合っている北村さんの考え方や制作者としての姿勢が新鮮で、とても楽しいインタビューでした。完成作品を見るのが楽しみです。 (飯田倫子)
作品を見ていると、無意識のうちに意味を見出だしたり、作者の意図を考えたりすることがあります。北村さんのお話を伺って、私も自然とそういう見方をしていたなとハッとさせられました。興味を持ったことはなんでもやってみる姿勢が印象的でした。完成した作品を見るのが楽しみです。(塚越史香)
これまで音楽関係のインタビューは何回か経験しましたが、美術関係のインタビューは初めてでした。再現芸術の担い手としての演奏家と常に創造を求められるアーティストの発想の違いを感じた刺激的な楽しい時間でした。 (岡浩一郎)