2025.12.16
第7回 鑑賞実践講座|作品えらび・作品のシークエンス
日時|12月16日(火)10:00〜15:00
会場|東京都美術館 アートスタディルーム、スタジオ
講師|三ツ木紀英(NPO法人 芸術資源開発機構(ARDA))
12月16日(火)、東京都美術館 アートスタディルームとスタジオにて、第7回鑑賞実践講座「作品えらび・作品のシークエンス」を開催しました。講師は三ツ木紀英さん(NPO法人 芸術資源開発機構)です。
これまでの鑑賞実践講座では、VTSの考え方やファシリテーションの基礎、展示室での場づくり、事前準備、そして実践をふりかえる方法について学んできました。第7回は、それらをふまえたうえで、鑑賞プログラムの質を大きく左右する「作品えらび」と「作品のシークエンス」について考える回として位置づけられました。
とびラーがファシリテータとして関わる鑑賞プログラムでは、プログラム参加者と鑑賞する作品をとびラーが自由に作品を選べる場面ばかりではありません。展示室内での人数の偏りを防ぐため、プログラム担当者からあらかじめ2作品程度のシークエンスが指定されることが多くあります。とびラーには、その与えられた作品の組み合わせをどのように読み解き、対象となる鑑賞者にとって意味のある鑑賞体験として立ち上がらせていくかが、ファシリテーションの技量として求められます。
講座の前半では、三ツ木さんから、美的発達段階の考え方と、それを作品理解や鑑賞プログラムの設計にどう生かすかについてレクチャーがありました。鑑賞者は年齢や経験、背景によって、作品のどこに注目し、どのような言葉を紡ぎやすいかが異なります。作品えらびとは、「良い作品」を選ぶことではなく、鑑賞者の状態や文脈に応じて、どのような出会いをつくるかを考える行為であることが共有されました。
続いて、2作品のシークエンスを題材にしたワークに取り組みました。とびラーは、指定された2作品について、それぞれの特徴だけでなく、「なぜこの順番なのか」「この組み合わせによって、どのような見方の変化や思考の広がりが生まれうるのか」を読み解いていきます。作品単体ではなく、作品と作品のあいだに生まれる関係性に目を向けることで、展覧会全体の表す鑑賞のストーリーをも構想する視点を養いました。
ワークの中では、対象者を具体的に想定することで、どのような問いから対話を始めるのが有効かについても考えることができました。作品のシークエンスを読み解くことは、鑑賞者の背景や美的発達段階を想像し、鑑賞の場全体をデザインすることにつながっていきます。
後半では、鑑賞者を迎えるファシリテータとして、与えられたシークエンスの中で自分がどのように場をひらいていくかを具体的に考えました。第4回・第5回で学んだ展示室での場づくりや事前準備、第6回で共有したふりかえりの視点とも結びつけながら、実践につながるイメージを膨らませていきました。
第7回は、「作品を選ぶこと」また、「与えられた作品やシークエンスをどう読み解き、鑑賞の場として立ち上げるか」を考える回となりました。とびラー1人1人が、作品と鑑賞者、そして場の関係をつなぎ直しながら、鑑賞体験をデザインしていくための重要なステップとなりました。
次回はいよいよ1年間の学びをふりかえる回となります。これまで積み重ねてきた講座・実践・ふりかえりをあらためて見つめ直し、とびラーとしてのこれからの鑑賞のあり方を考えていきます。
(とびらプロジェクト コーディネータ 越川さくら)
2025.12.05
東京都美術館ではとびラーによる建築ツアーがおこなわれています。一方で、昼間とは異なる夜ならではの魅力もお伝えしたいという思いがあり、「この指とまれ」で集まったとびラーで夜間開館時のツアーに取り組むことにしました。
今回は「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」会期中の夜間開館時に開催することを想定し準備を進めていきました。
夜間開館時に行う建築ツアーは過去にもおこなわれています。しかし、私たちが目指すツアーはどんな内容がよいのだろうか、と話し合いをスタートしました。
まず、ツアーのネーミングについて考えました。日没後、館内の照明が輝きだします。公募棟休憩室の赤・緑・黄・青の4色の壁が見事に照らし出され、かまぼこ天井の照明も昼間とは違い、より一層暖かく感じます。そのような館内を巡るツアーを私たちは「トビカン☆ナイトクルーズ」と名付けました。
今回のツアーでは、事前の参加申し込み受付はおこなわず、インスタグラムなどの事前告知と、当日に館内で呼び込みをして、参加者を募りました。また、申し込み受付は、当日におこないました。整理券配布時間前から参加希望のお客様が集まり、とびラーも嬉しさと共に、より良いツアーにしようと気持ちが引き締まりました。
とびラー15名が自分の担当場所に位置し、4チームに分かれて、21名のお客様をお迎えしました。それぞれのチームが日没後の館内を巡り始めます。暗さの中で際立つ柱のはつりの陰影をガイドが指さすと参加者の方も顔を寄せて覗き込みます。南口から公募棟休憩室をふりかえり見た時には「わぁーキレイ!」と感嘆の声が聞こえました。ツアー当日は、2025年最後の満月「コールドムーン」が見事に輝いていました。休憩室の大きな窓から全員でちょっとしたお月見気分。金曜日の夜、とても優雅な時間が流れていました。
ツアーをおこなうにあたって、計画を練ることも大切ですが、とびラボではどんなツアーであったか、ふりかえりをおこなうことも大切にしています。しかし、ツアー中はガイド担当やサポート担当のとびラー、写真担当のとびラーなど、全員がツアーに集中してしまう為、シンプルに良かった点悪かった点に話がなりがちです。そこで、ツアーチームごとに、どんなことを目指していきたいかを事前に検討し、チーム内で相互理解をする時間を設けることにしました。ガイドデビューするとびラーを応援しながら、みんなが当事者となりチーム一丸となったことは、トビカン☆ナイトクルーズラボ全体にも強いつながりをもたらすことが出来たと思います。
ツアーも無事に終わり、それぞれのチームでどのような時間を持つことが出来たかふりかえりました。トライアル時には想定していなかった状況に、ガイドの難しさを実感したとびラーもいました。また、運営方法についても改良点があげられました。
ツアー後にお客様から寄せられたアンケートには「ライトが窓ガラスに反射されるように配置されていて、とても芸術的で素敵でした」という感想や「美術館の建物に注目する新たな視点を知りました」という感想もいただきました。私たちがこのとびラボで、お客様にお伝えしたかった夜のトビカンの魅力をしっかり伝えることが出来きて嬉しかったです。準備から試行錯誤を重ねた私たちとびラーは、今後もこの夜間開館時のツアーを続けて行きたいという思いを改めて持ちました。
12期とびラー 猪狩麻里子
都内小学校の情緒固定特別支援学級講師。アート鑑賞では、みんなで作品を見ながら語り合う時間を楽しんでいます。また、街歩きでは素敵な建築にときめき、その土地の地形や歴史にも興味が尽きません。
2025.12.04
とびラー12期・柴田麻記です。私は社会人として働く時間を経て、今は高校生と小学生を育てる親として日々過ごしています。自身の役割や視点が変わる中で美術館との距離感も変化しました。また、とびラーとしての時間を送ることで物事の捉え方が広がりました。
そんな私が参加したとびラボ『とびラーとあそんだり、みたり』は、昆虫が成長するように、形態を変えながら続いてきたラボです。
このとびラボの前身となったのは、『とびラーと◯◯(仮)』というとびラボでした。
当初は、「とびラーが“ただいる”だけで、来館者の心が少し軽くなるといいな」という思いを持ち寄ったとびラーが集まったことが始まりです。
そのとびラボのミーティングでは、
・東京都美術館にとびラーが存在する意味とは何か
・美術館に気兼ねなく来てもらうとはどういうことか
・とびラーができることは何か?
といった問いを、話し合いを通して考えていきました。
とびラボ名を「〇〇(仮)」としたことで、来館する対象を限定することなく、様々な人を想定しながら考えることができました。
たとえば、
・学校に足が向かない子どもを、美術館に誘ってみようかなと思ったとき、誰かいてくれるといいな
・『障害のある方のための特別鑑賞会』の日ではないけど、とびラーと一緒に触図(しょくず・作品の構図やモチーフを凹凸のある線や点で立体的に表わした図版)を触りながら作品を見られたらいいな」
といった場面で、とびラーが“ただいる”ことはできないか、という想定が挙げられました。
とびラーが常駐することは難しくても、『とびラーWeek』のような期間を設けられたらいいのでは、というアイデアも生まれました。
さらに話し合いを進める中で、子どもにとって親でも教師でもない「とびラー」という第三者の存在が、親子で美術館に来る際のハードルを下げるのではないか、という視点が浮かび上がりました。
親子で美術館に行くと、親は子どもを気にかけるあまり落ち着かなかったり、子どもは興味のままに動いたことで注意されてしまい、結果としてどちらも楽しめない…。
そんな経験を持つとびラー自身の問題意識も、このとびラボの背景にありました。
そこで、『とびラーと◯◯(仮)』を一度解散し、「あそんだり、みたり」という言葉を〇〇の部分に据えて『とびラーとあそんだり、みたり』として新たにスタートしました。
『とびラーとあそんだり、みたり』は、とびラーが間に立つことで場の空気が少しゆるみ、親も子もそれぞれのペースで美術館を楽しむ時間を作りたい、という思いから始まりました。
親子で美術館に来ることに敷居の高さを感じている人に、作品鑑賞だけでない美術館の楽しさを知ってもらい、「もう一度美術館へ来てみようかな」という気持ちををそっと後押しする。
その方向性が少しずつかたちづくられていきました。
検討を進める中で、とびらプロジェクトと連動するプロジェクト「Museum Start あいうえの」のファミリープログラムや、学校プログラムと、私たちが検討しているアイデアの違いは何か、という問いも持ち上がりました。
子どもたちのミュージアムスタートを応援する、「Museum Start あいうえの」のプログラムで美術館デビューする子どもたちは確かに増えています。その参加者のうち、再訪している子どもや親子はどれくらいいるのだろうか。
このラボの取り組みで再訪につなげられるといいな…。
また、「親子で美術館に来ることの敷居の高さ」を和らげるプログラムとは、どんな内容がふさわしいのだろうか。
また反対に、「Museum Start あいうえの」ホームページを見て関心は持つけれど、プログラムへの参加までには至らない人たちに、どうすれば「美術館は気軽に楽しめる場所だ」というメッセージや情報を届けられるのか。
これらの問いは、現時点では明確な答えに至っておらず、ラボが問い続けている課題です。
このラボでは「あそぶ」という言葉についても時間をかけて考えました。
何をするか決める前に、そもそも「美術館であそぶ」とはどういう状態なのか。「あそぶ」「あそび」という言葉から、それぞれのとびラーが思い浮かべる感覚や経験を出し合いました。
一見すると掘り下げる必要がなさそうなことも、あらためて見つめ直し言葉にしていきました。そうすることで美術館で何をして、どう過ごしてほしいのかが見えてきました。
自分の気に入った野外彫刻を写真に撮る。
館内を探検する。
あるいは、ゆっくりお茶を飲んで過ごす。
美術館は、自分のペースで関われ、意味づけを急がず、ただそこにいられる場所。
このとびラボでいう「あそぶ」とは、そうした過ごし方の状態をひらくための言葉として、ラボに参加するとびラーの間で共有されていきました。
もう一方の「みる」については、せっかく美術館に来たのだから、展示室の作品とも出会ってほしい、という思いがとびラーに共通してありました。
とびラーと一緒のときだけでなく、プログラム参加後に親子だけで、再び美術館を訪れた際にも活かせる「展示室での過ごし方」を考えたい。
そこで、とびラー自身が子どもと美術館に行く際にしてきた工夫を出し合ったり、「あいうえの」の学校プログラムやファミリープログラムを振り返ったりしました。
話し合いの中で見えてきたのは、「展示の全部を全力で見なくても、作品は楽しめる」という考え方でした。そのような時間のあり方を、私たちなりの“みかた”と位置づけました。
親子でのお出かけ先として、敷居が高く感じられがちな美術館。
展示を見ることに限定しない過ごし方を提示し、親子それぞれが安心して「みる」時間をもてるようにしたい。
願わくば、それが次の親子での来館につながってほしい。そんな、少し欲張りなラボとなりました。
話し合いの結果、学校プログラムに参加した子どもが、次は親子で美術館に再訪して楽しむという流れを想定したプログラムを企画しました。
しかし、対象者へのアプローチ方法を検討する過程で行き詰まり、今年度中にプログラムの実施には至りませんでした。
一般の方に参加してもらうプログラムを立案し、実施するまでには十分な時間が必要であること。特に、対象とする参加者をどう見つけ、どう案内するかの難しさを、とびラボとして実感しました。
また、同じような関心を持って集まりながら「あそび」ひとつ取り上げても、とびラーそれぞれの考え方や想定の違いがありました。その違いに気づき合い、実現に向けて考えられたことは、このとびラボでの収穫となりました。
プログラム実施には至りませんでしたが、スタッフも加わりながら話し合いを重ねる中で、とびラボはさらに形を変えています。
『とびラーとあそんだり、みたり』は解散し、現在は、『とびラーが考える美術館を楽しむためのガイドづくり(仮)』というとびラボを新しく立ち上げました。
・展示室以外の美術館の過ごし方
・作品を見るためのヒント
をまとめたガイドブックをつくるラボです。
昆虫が脱皮を繰り返しながら姿を変えるように、私たちのアイデアも、いくつものとびラボを通して成長し続けています。
執筆:柴田麻記(12期とびラー)
以前は、テレビ番組を制作していました。現在は、愉快な高校生と小学生と過ごす主婦。私のいちばん身近なコミュニティは家族です。とびラーで得た視点を日々の暮らしの中でこっそり試す実験中。実験範囲をじわりと広げているところです。
2025.12.01
日時 |2025年11月15日(土)
場所 |東京都美術館
参加者(事前申込)35名、とびラー16名
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澄んだ青空が広がる秋晴れの中、2025年度 第4回目の「とびラーによる建築ツアー」が実施されました。
参加者と会話をしながら、一緒に東京都美術館の魅力を共有して楽しんでいる姿が印象的でした。
この建築ツアーは、決まったコースはなく、それぞれのとびラーが考えたオリジナルのツアーです。
2025.11.24
第6回 鑑賞実践講座|ファシリテーションのふりかえり
日時|11月24日(月・休)13:00〜17:00
会場|東京都美術館 アートスタディルーム、スタジオ
講師|越川さくら(東京藝術大学 芸術未来研究場 ケア&コミュニケーション領域 特任助手、とびらプロジェクトコーディネータ)
鑑賞実践講座では、講座で学ぶこと、実践の場に立つこと、そしてそれを振り返ることを循環させることで、とびラーのファシリテーション力が育っていきます。
とびラーがファシリテータを担当する現場は多岐にわたります。東京都美術館で開催される毎回テーマの変わる特別展や企画展、東京藝術大学大学美術館の作品や展覧会でのプログラム。また、対象者も「Museum Start あいうえの」に参加する子どもたちから、「Creative Ageing ずっとび」に参加する高齢者まで、非常に幅広い層にわたっています。
第6回は、こうしたさまざまな現場で実践を行ってきたとびラーが、どの実践に参加していても、自分自身でふりかえりを行い、スキルアップを目指していける方法を共有する回として位置づけられました。
*
10月13日(月・祝)、東京都美術館 アートスタディルームとスタジオを会場に、第6回鑑賞実践講座「ファシリテーションのふりかえり」を開催しました。講師は、鑑賞実践講座担当コーディネータの越川さくらです。
とびらプロジェクトでは、講座に参加しているすべてのとびラーが、同じ実践の場に立てるわけではありません。スペシャル・マンデーをはじめ、さまざまな鑑賞プログラムがあるなかで、とびラーはそれぞれ異なる実践の場に関わっています。だからこそ、第6回では「どの実践に出ていても使えるふりかえりの方法」を身につけることを大切にしました。
講座の冒頭では、「とびラーのファシリテーション力は、講座・実践・ふりかえりを行き来しながら育っていく」という考え方を、あらためて共有しました。特に、ふりかえりを客観的な視点で行うことが、ファシリテーション力の向上に欠かせない要素であることを、とびラーといっしょに確認しました。
客観的な視点に立って自分のファシリテーションをふりかえる具体的な方法として、「録音して、きく」という手法に取り組みました。とびラーは4人組になり、小さな作品画像を用いてVTSを行い、ファシリテータ役になった際のやり取りを録音し、実施後すぐに聞き返します。
録音を聞き返す際には、いくつかの視点を示しました。鑑賞者の言葉を丁寧に聞き、作品のどこに、どのように注目して話しているのかを捉えること。次に、ファシリテータとしての自分の言葉を聞き、鑑賞者の意図に沿って聞けていたかを確認すること。さらに、実際には行わなかった別のはたらきかけの可能性についても考えました。講座2・3年目で実践経験が多いとびラーには、対話全体の流れや、事前の作品研究との関係性まで含めて分析する視点も意識してもらいました。
その後、グループでのシェアを行い、録音を聞いて気づいたことを付箋に書き出し、共有しました。
第6回は、「どの実践でも、とびラー自身が成長していくためのふりかえりの方法」を共有する回となりました。録音を使って客観的にふりかえることで、自分のファシリテーションを見つめ直し、次の実践につなげていくことができます。12月のスペシャル・マンデーでは、各自がこの方法を使ってふりかえりを行い、講師やコーチによる見取りやフィードバックも予定されています。
講座・実践・ふりかえりを行き来しながら、とびラー、スタッフみんなで、とびラーのファシリテーション力を育てていきたいと思います。
(とびらプロジェクト コーディネータ 越川さくら)
2025.11.03
日時|2025年11月2日(日)13:30〜16:30
場所|東京藝術大学 第一講義室
講師|松見幸太郎(認定NPO法⼈キッズドア、執行役員NPO法⼈キッズドア基金 代表理事)
認定NPO法人キッズドアの松見幸太郎さんをお招きして、貧困家庭にある子供の経済状況とその影響についてお話しを伺いしました。認定NPO法人キッズドアは「すべての子どもが夢と希望をもてる社会へ」と2007年に設立された団体で、貧困に苦しむ日本の子どもたちの社会へのドアを開けるべく、多くの大学生・社会人ボランティアと共に、子どもの教育支援に特化した活動を展開しています。

とびラーの実践の中には、すべての子どもたちのミュージアムデビューを応援する「Museum Start あいうえの」ダイバーシティプログラムで、これまでにも認定NPO法人キッズドアさんと連携して東京藝術大学の卒業修了制作展を鑑賞するプログラムを複数年開催してきました。学習会に参加する子供達の中には楽しみにしてくれている人もいるようです。プログラム参加者の中には美術大学への受験を考え進学する人も出てきています。今年もどんな子ども達が参加し、藝大生とのコミュニケーションが生まれるのか楽しみです。
講座の中では、活動の理念からはじまり、昨今の物価高騰による影響も直接受けている状況を伺いました。
食費が嵩むことで必然的にそのほかにかけるお金は少なくなります。日本では、子どもの9人に1人が相対的貧困状態にあるとのこと。現場での子どもたちの状況や、学習支援の活動で将来につながった子どもたちのエピソードも合わせてご紹介がありました。
キッズドアの活動には子どもとその家族への支援活動だけでなく、貧困の社会的な状況を独自に調査し、数値やグラフで社会的に必要な理解を伝える活動もしており、実際の現場と客観的に外部へ伝える姿勢が大変参考になりました。データをとおして政策への提言も行い官民両方に対して支援の輪を広げる取り組みにも力を入れています。
お話を受けて、とびラーの講座後の振り返りでは
「親の貧困から子どもの貧困への連鎖を断ち切るための方法として学習支援を挙げられていたが、小さなことでもそれ以外で自分にできることは何があるかと考えさせられた。」
「子どもたちの学力につながる文化的資本については、美術館やとびラーにできることがそれなりにあると勇気づけられました。気軽に子どもたちが利用できるプログラムができないかなということも考えてみたいです。」という声がありました。
講座の後半では、4月から2回開催された「障害のある方のための特別鑑賞会」について考える時間をもちました。東京都美術館で開催される特別展の休室日に開催されるこの取り組みにとびラーはアートコミュニケータとして来館者を迎えています。とびラーにとって実践の場となっています。今年は5月と10月に2会開催されているため、3〜5名のグループになってそれぞれのこれまで「障害のある方のための特別鑑賞会」での経験を共有する時間をとりました。
「サポートが必要な部分はサポートするけど、する・されるの関係ではなく会話や鑑賞の時間はフラットな関係であることで、お互い心地よい時間を過ごせるのだなと思いました。その為には、設備や建物、展示のことを普段からよく観察して知っておくこと、自分がいっぱいいっぱいにならないような準備をして余白を作っておくことが必要そうだなと思いました。」
という鑑賞会にむけた準備についての話や、「5人で話し合いましたが、3人が参加しておりそれぞれの場所での活動を報告し合いました。まだ参加していなかった方からも次が楽しみ、という言葉がありました。
というとびラーからのコメントもあり、次回2月の障害のある方のための特別鑑賞会に向けて、まだ参加していないとびラーにとっても情報交換の機会となりました。
(とびらプロジェクト マネージャー 小牟田 悠介)
2025.11.02
第4回建築実践講座|「とびラーと見つけよう!東京都美術館のみどころポイント」の準備
日時|2025年11月1日(土) 14:00〜17:00
会場|東京都美術館 ASR
オープンレクチャーvol.16「みんなのけんちく〜みる・知るからはじめよう〜」で行う、関連プログラムの「とびラーと見つけよう!東京都美術館のみどころポイント」の準備を行いました。
このプログラムでは、とびラーが3人1組になり東京都美術館のみどころポイントを参加者に紹介します。
今回のオープンレクチャーでは、東京都美術館の建築家である前川國男や建物の特徴について知ることや、建物を主体的に学び鑑賞することを目的としています。
登壇者や関連プログラムの目的である、建築を楽しく見て話すことについてお話したら、いよいよプログラムの準備を始めます。

東京都美術館の打ち込みタイルや野外彫刻など様々な「みどころポイント」をどのように説明するかグループごとに相談して決めていきます。
実際に足を運んで、打ち込みタイルを触ってみたり天井を見上げてみたり・・・。
説明する内容が決まったら、とびラー同士でお互いに紹介しあいフィードバックをします。
当日に向けて、グループごとに準備をして参加者を迎える準備をします。
東京都美術館をよく見て、知る時間になりました。
(とびらプロジェクト コーディネータ 大東美穂)
2025.11.02
第5回建築実践講座|オープンレクチャーvol.16/関連プログラム「とびラーとみつけよう!東京都美術館のおすすめポイント」
日時|2025年11月22日(土) 10:00〜16:00
会場|東京都美術館 講堂
講師|松隈洋(神奈川大学 建築学部 教授)
岩井祐介(慶應義塾幼稚舎 教諭)
オープンレクチャーvol.16「みんなのけんちく〜みる・知るからはじめよう〜」では、講師として松隈洋さんと岩井祐介さんをお迎えしました。
松隈さんからは、日本のモダニズム建築を代表する建築家・前川國男と東京都美術館についてお話を伺い、建築の魅力をわかりやすく紹介していただきました。
岩井先生からは、子どもたちが日々使っている校舎を題材に、建築を見て考え、感じたことを共有しながら学んでいく授業の実践についてご紹介いただきました。
オープンレクチャーの様子は、近日中に公開予定です。

午後からは関連プログラム「とびラーとみつけよう!東京都美術館のみどころポイント」を行いました。
とびラー達は、黄色いバンダナをつけてみどころポイントのタイトルを持ち講堂で参加者を待ちます。
参加者が揃ったら、いよいよプログラムのスタートです。
まずは、参加者と一緒に講堂からみどころポイントに移動します。
見るだけでなく、触ってみたり座ってみたり・・・
様々な方法で東京都美術館のみどころポイントを伝えました。
撮影:升谷玲子
参加者ととびラーが一緒に、東京都美術館を楽しむ時間となりました。
(とびらプロジェクト コーディネータ 大東美穂)
2025.10.27
・東京都美術館で開催された「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(会期:2025年9月12日(金)~12月21日(日))にて、展覧会の休室日にあたる10月27日(月)に「障害のある方のための特別鑑賞会」を実施しました。
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・当日は、とびラーとアート・コミュニケータ東京(任期満了したアート・コミュニケータの団体)が連携し、館内のさまざまな場所で来館者お一人お一人が安心して過ごせる環境を整えていきました。
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・今回の特別鑑賞会でも、ミロ展に引き続き、とびラーが「とびラボ」で発案したアイデアが行われました。案内状のデザインや、手元のiPadで拡大画像を明るく見ることができる工夫、また、東京都美術館が制作した触図(しょくず・作品の構図やモチーフを凹凸のある線や点で立体的に表わした図版)を用いた鑑賞サポートも行われました。事前の準備段階から複数のとびラーが関わり、来館者が展覧会に出会うための入口をつくってきました。
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iPadに入れた作品画像を手元で拡大して細部を見やすくサポート
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・触図を用いての鑑賞サポートでは、アート・コミュニケータが来館者と一緒に作品を鑑賞します。アート・コミュニケータは作品に描かれているものを説明したり、作品から受ける印象をお話しします。同時に、来館者の指先を触図にふれさせながら、構図や質感をイメージしてもらいます。
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・触図《種まく人》の前でも、多くの声が交わされました。まず多かったのは、触ることによって作品の全体像が立ち上がる驚きです。
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ロービジョンの参加者からは、
「本物は会場が暗くてよく分からなかったけれど、触図だと木の太さや種をまく男の姿がよく分かる。見やすい」
という声が聞かれました。・
・また、触図を使ったアート・コミュニケータとの会話から、作品の細部に気づいていくことも多くあります。
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「太陽はうすく赤くなっているのですか?色はどういう感じですか」
「青い袖を着ているんですね。種をまく手はどちら?」
「右手ですね。土に向かっている。左手は袋を持っている…あ、持っているのが分かります」
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など、触図を起点に、色・身体の向き・動作が具体的なイメージとして共有され、鑑賞が深まっていきました。
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・鑑賞会後のアンケートには、「安心して、ゆっくり鑑賞できた」「人混みを気にせず美術館に来られた」という声が多く寄せられました。
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・アート・コミュニケータについても、「そっと声をかけてくれた」「一緒に見てくれた」「新しい気づきがあった」といった感想が並び、鑑賞をともにつくる存在として受け取られていたようです。
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・とびラーから寄せられた当日のエピソードの中には、印象的なやりとりがいくつもありました。
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《種まく人》の前を行ったり来たりしている来館者の方がいました。
「見づらいですか」と声をかけると、
「違うのよ。ほら、こっちから見ると絵の具がきらきらして、きれいでしょ。」
そう言って、右側に連れて行って教えてくださいました。
来館者の方の笑顔も、きらきらしていました。・
・説明する側・される側などの関係ではなく、作品の鑑賞を分かち合う時間が、自然とそこに生まれていました。
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・また今回は、慣れない移動や人混み、周囲の視線、音、光等の混在により不安やストレスを感じた際に気持ちを落ち着かせたい方のために、「カームダウンスペース」や「センサリーキバッグ」(イヤーマフやセンサリートイなどが入ったバッグ)を導入しました。また、お声掛けが苦手な方にスタッフやアート・コミュニケータが気がつけるようにするための目印(白紙の名札)も用意しました。
・すべての方に安心して展覧会を楽しんでいただくための模索は続きます。
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・特別鑑賞会は、一度きりの特別な日ではなく、皆さまと美術館との関係の入口となる1日です。
・この日のご来館をきっかけに、今後も皆さまとのご縁が続いていくことを願っています。
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・次回は、2026年2月9日(月)、東京都美術館開館100周年記念 スウェーデン絵画 北欧の光、日常のかがやきにて開催を予定しています。
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次の鑑賞会でもみなさまにお会いできるのを、アート・コミュニケータ一同楽しみにしています。
2025.10.20
日時|2025年10月19日(日)13:30〜16:30
場所|東京藝術大学 第一講義室
講師|村田陽次(東京都 生活文化スポーツ局 都民安全推進部 都民安全課)
山藤弘子(地域日本語教育コーディネーター、多文化共生コーディネーター)
とびらプロジェクトの活動の拠点である東京都美術館は台東区にあります。
上野公園には毎日たくさんの観光客が海外から訪れています。また、台東区内は外国にルーツを持つ人が多く住んでいる地域でもあります。
アートコミュニケーションの活動を届ける際にも、そうした外国にルーツがある方、日本語を母語としない人たちへどのように情報を届けるか、来館した際にはどのようにコミュニケーションをとることができるかを考えています。
今回の講座では、東京都の多文化共生の推進に長く尽力されてきた村田陽次(東京都 都民安全総合対策本部)さんと、台東区在住で日本語教育のコーディネーターをしている山藤弘子さんをお迎えして、国・文化が違う人とどのようにコミュニケーションをとり共生していけるかについてお話を聞きしました。東京都の行政の取り組み、台東区での活動とそれぞれの違うお立場から現状と取り組みについて幅広くお話を聞くことができました。
村田さんのパートでは、東京都に住む外国にルーツのある方の状況と行政支援についての紹介や、日本語以外の言語を母語とする人とのコミュニケーションで英語よりも多くの外国人に伝わりやすいとされている「やさしい日本語」の考え方、使う際のコツをわかりやすい映像も交えて伺いました。「やさしい日本語」が必要とされる背景には、阪神・淡路大震災や東日本大震災震災などがあり、災害時の防災アナウンスで難しい言い回しによって伝わらなかった経験から行政やメディアの発信も見直されてきたそうです。
日本語を母語としている人にとって、話し方について普段から考える機会は少なく、改めて日本語の複雑さや、わかりにくい言い回しがあることに気づきます。また、どこの国の方にでも英語で話せば伝わるというわけでもない。ということも重要なポイントでした。
とびラーからも「やさしい日本語については、各自の母語を大切にしつつ、歩み寄るツールとなる可能性を感じた」という振り返りのコメントがありました。
村田さんからは、「やさしい日本語」は万能ではなく、お互いに理解し合えるプラットホームであり、まずはそこからはじまるということ。そこからはその時々に応じて工夫してコミュニケーションをつくる必要がある。ということも添えられました。とびらプロジェクトの活動も長く見守っていただいている村田さんからは、アート・コミュニケータの実際の活動を想定したアドバイスをたくさんいただきました。
山藤さんからは、いま接している子どもたちの状況や地域の状況を教えていただきました。日本語教室を開き、多文化共生の活動を行っている地域での事例を交えてお話ししてくださいました。
教育現場では外国ルーツの児童・生徒の増加による必要なサポートが不足していて、子ども、親、先生、それぞれの立場から困っている点を挙げていただきました。
日本語能力について、日常生活に必要な言語能力は1〜2年で習得できるが、学習するために必要な言語能力は5〜7年かかるそうだ。学校に通う子どもは日常のコミュニケーションは、比較的早く身に付く人が多いけれど、学習に必要な言語能力の習得はさらに時間がかかる。周囲の大人がその習得の違いを理解していないと、「ただ勉強ができない子という誤解や偏見が生まれてしまう」というお話は印象的で、受講するとびラーからも「自分が働く学校現場で、日本に来て数年たち日常会話は問題なく話せる外国にルーツがある子どもたちが、学習でつまづいている様子をうすうす感じていました。今回の講座で理由が初めて分かった気がしました」という振り返りのコメントがありました。
地域の多文化共生では、一過性の交流ではなく、ともに地域で暮らしている人として定期的に関わりをつくっていくことを大切にされていて、具体的な声として、日本で暮らす外国ルーツの人にとって、支援を受ける側というよりも、この先も日本に住む者として地域のコミュニティに参加し貢献したいという方も多いそう。
そうした人たちが一緒に餅つき大会やお祭りなど地域行事に参加するようになってきているというお話がありました。この呼びかけも「やさしい日本語」でチラシを作ることで、外国人住民から「初めて情報が目に入ってきて内容を受け取ることができた」「呼ばれている気がした。」という反応があり参加に繋がったそう。情報を発信する側の工夫で日本語を母語としていない人も歓迎していることが伝わるというお話でした。
これまでも、Museum Start あいうえののプログラムで、とびラーとの活動を一緒につくってきてくれた山藤さんからは、
「美術館は多様な人々が互いを認め合い、つながりを見つける場になる」ということ、「アートコミュニケーションこそ、今の社会の対立を和らげる力となる」というメッセージいただきました。
さまざまな言語を母語とする人がとびラーの中にもいたり、お仕事で外国ルーツの人と出会う機会もある方もいて、講座の最後の村田さんと山藤さんのクロストークと質疑応答の時間では、それぞれの背景からお二人のお話に対する様々な感想が交わされました。
振り返りの中では
「日本に長期滞在することになる外国にルーツを持つ方々に対して、改めて一緒に暮らしていく仲間であるという事実を再認識できた」
「どれほどオープンマインドでいるつもりでも、自分のよく知らない文化に対して「怖い」といったネガティブなバイアスを本当に持たずいられるのか。バイアスなどないと思い込んでいる時ほど、自分を省みることが必要かもしれない。」
「自分自身も、いま住んでいる地域に対するつながりを持てていないので、まずは自分が地域で行われている活動に関心を持つことから始めないと」
外国ルーツの在住者が増加している日本社会の状況で「事実に基づかない決めつけ」によって生まれる誤解や、自分で選んだわけでなくそうした状況にある子どもの状況を知ることで、いま美術館で活動をつくっていく意義について改めて共有する時間となったのではないかと思います。
「Museum Startあいうえの」のダイバーシティプログラムでは「美術館でやさしい日本語プログラム」を毎年行っています。外国ルーツの子どもたちとその保護者だけでなく、日本語話者の親子も一緒に作品を鑑賞して感じたことを身体や音、絵など言語以外の表現も使いながら伝え合います。このプログラムにもとびラーがいることで参加者一人一人の状況を見守り、子ども同士だけでなく、その保護者同士のコミュニケーションも大切にプログラムをつくっています。
今年も山藤さんにプログラムパートナーとして参加いただき、村田さんにもアドバイスを受けて準備を進めています。プログラムに向けて前提となる基礎的知識や最新の状況を知ることができました。また、とびラーの中には帰ってから自分の地域のこと、外国ルーツの方への支援活動を調べてみた人もいて、日常の中で多文化共生や、「やさしい日本語」について意識的になることができたようです。
(とびらプロジェクト マネージャー 小牟田 悠介)