2025.10.13
第5回 鑑賞実践講座|ファシリテーション事前準備
日時|10月13日(月・祝)13:00〜17:00
会場|東京都美術館 アートスタディルーム、スタジオ
講師|三ツ木紀英(NPO法人 芸術資源開発機構(ARDA))
10月13日(月・祝)午後、東京都美術館 アートスタディルームとスタジオを会場に、第5回鑑賞実践講座「ファシリテーション事前準備」を開催しました。講師は三ツ木紀英さん(NPO法人 芸術資源開発機構)です。
第5回は、第4回で学んだ展示室での場づくりをふまえ、鑑賞の実践に向けて、作品の魅力にどのように近づき、どのような準備を行うのかを学ぶ回として位置づけられています。鑑賞の場は、当日のふるまいだけでなく、ファシリテータが事前にどれだけ作品と向き合っているかによって大きく左右されます。この回では、その「事前準備」に焦点を当てました。
講座の前半では、VTSのファシリテーションに向けて行う作品研究の考え方についてレクチャーが行われました。作品研究というと、作者や制作年代などの情報を集めることを想像しがちですが、ここではその前にまず、作品をよく見て、鑑賞者が何を感じ、何を語るのかを想像すること、そしてその発言の裏付けとなる、より客観的な要素を作品の中から丁寧にたどることの大切さが共有されました。
また、鑑賞者が作品を見るときにもつさまざまな視点のバリエーションを想定し、視点を整理・分類しておくことで、作品の全体像や魅力をファシリテータ自身がつかんでおくことの重要性も確認されました。
続いて、グループに分かれて作品研究のワークを行いました。参加者は、作品画像を前にしながら、形や色、構図、モチーフなどに目を向け、気づいたことを言葉にしていきます。個人での観察と、グループでの共有を往復することで、ひとりでは気づかなかった視点や、見方の広がりを体験しました。
後半では、先ほどのグループワークで行った作品研究を、一人で行いました。とびラーからは、グループワークと違い、自分一人で作品をみる際には、視点の広がりや深さを自分自身で生み出す必要があるため、より難しさを感じたという声が聞かれました。VTSのファシリテーションには、ファシリテータ自身の鑑賞体験の豊かさも重要であることが、実感を伴って共有されました。
第5回は、ファシリテーションを「その場でうまく進める技術」として捉えるのではなく、事前にどれだけ作品に近づき、準備を重ねているかが鑑賞の質を支えていることを学ぶ回となりました。
次回の第6回では、ファシリテーションのスキルを高めるために不可欠な、実践のふりかえりに取り組んでいきます。
(とびらプロジェクト コーディネータ 越川さくら)
2025.10.01
日時 |2025年9月20日(土)
場所 |東京都美術館
参加者(事前申込)30名、とびラー16名
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まだまだ暑い日が続き、涼しくなるのが待ち遠しい9月。
そんな中、2025年度 第3回目の「とびラーによる建築ツアー」が実施されました。
東京都美術館を建築した前川國男や歴史についてお話しした後、東京都美術館の特徴や見どころの紹介をしました。
この建築ツアーは、決まったコースはなく、それぞれのとびラーが考えたオリジナルのツアーです。
2025.09.28
第3回建築実践講座|「HAGISO 最小文化施設の取り組みについて」
日時|2025年9月20日(土) 14:00〜16:00
会場|東京都美術館 講堂
講師|宮崎晃吉(株式会社HAGISO 代表取締役)
谷中銀座商店街から路地を入った静かな場所に位置するHAGISOは、築68年の木造アパートを修繕し2013年3月に「最小文化施設」としてオープンしました。
カフェとギャラリーが併設されており、トークイベント、地域交流の場そして、コンサートを行うなど様々な活動をしています。
その活動と地域との繋がりやそこから生まれるコミュニティーについて、宮崎晃吉さんにお話を伺いました。
建築を再生することで、「人が集まり、過ごし、交わっていく場所」としての〈場〉となり、そこには新しいつながりが育まれ、地域にこれまでになかった価値が生まれていきます。
この取り組みは、ただ古い建物を残すのではなく、その土地に眠っていた価値を見つめ直し、人が関わることで未来へつなぐ試みでもあります。
HAGISO は、建物を再生することを通して、「谷中」というまちに新しい息吹と価値を与えてきました。
建築の再生から、人とまち、そしてコミュニティが生まれていく可能性を実感するきっかけとなりました。

こうした取り組みを聞いて、とびラーとして、また3年の任期満了後に自分の地域での活動につながるきっかけを考える時間になったことと思います。
HAGISOのホームページはこちらからご確認いただけます。
(とびらプロジェクト コーディネータ 大東美穂)
2025.09.23
そんな野外彫刻の魅力をもっと多くの人に伝えたいと願うアート・コミュニケータ(とびラー)が集まって、東京都美術館の野外彫刻を楽しむとびラボを立ち上げました。
このブログでは、私たちとびラーが、来館者向けに野外彫刻を楽しむプログラムを企画し、実施するまでの半年間の軌跡を紹介します。
東京都美術館の野外彫刻はこちら:https://www.tobikan.jp/archives/collection.html
これまでにも、とびラーによるプログラムとして、来館者に野外彫刻を楽しんでもらう企画は実施されてきました。そこで、過去のプログラムから学びつつ「私たちは誰にどんな価値を届けたいのか?」を話し合いました。その結果、このとびラボでは2つの価値の実現を目指すことにしました。
①未就学児を含む子どもとその保護者が、安心して親子で美術館を楽しむ場をつくる。
②子どもと大人が対話をしながら作品を見ることと、造形活動を用いて鑑賞のふりかえりをすることを通じて、世代を超えて、感じたことを多面的に伝え合うコミュニケーションの場をつくる。
これらの目標は、次のような思いから生まれました。
・美術館の館内よりも自由に過ごせる野外の環境を活かして、乳幼児や多様な個性を持つ子どもとその保護者など、展覧会に行くのを躊躇しがちな親子にも、もっと気軽に美術館を楽しむ機会を広げたい。
・対話型鑑賞(複数の人が対話しながら作品を鑑賞すること)の場で、感じたことをすぐに言語化するのが難しい子どもでも、工作やお絵描きなど慣れ親しんだ表現を用いることで、みて感じたことをもっと伝えられるのでは?
・野外彫刻をみて、感じたことを工作や絵などで造形的に表現し、その形にしたことをあらためて言語化するというプロセスを辿ることで、大人と子どもが世代を超えて感じたことをもっと伝え合えるのでは?
とびラーによるプログラムメイキング
まずは、とびラー自身が鑑賞して感じたことを造形してみる
はじめに、「造形を用いた鑑賞のふりかえり」によってどんな効果が生まれるのか体験するため、とびラー同士で野外彫刻を鑑賞して、感じたことを造形してみました。
そして、形にすることで「何に心が動いたのか?」を制作物によって視覚化でき、その人が感じた質感や印象がもっとリアルに伝わるという手応えを共有しました。
例えば、
「どっしりとした石の作品が、地中に深く根を張っていると想像した」
「金属の作品をみて、表面のざらざらした質感が心に残った」
「雨の日に、彫刻の窪みに水が溜まっていたり、ナメクジがいたり、生き物の住処になっていると感じた」
など、一人一人の感性が制作物を通して伝わりました。
作品研究
同時に、野外彫刻への理解を深めてより良い鑑賞の場を作るために、各自が興味を持った作品について作品研究を進めました。作品にまつわる情報を調べたり_自分自身でしっかりと作品を鑑賞して発見を書き留めたり、自分が感じる作品の魅力を言語化したりしていきました。また自分で作品研究をするだけでなく、とびラー同士でそれらを共有していきました。
プログラム作り
来館者にむけて、具体的なプログラムを作っていく過程は、手探りの日々でした。
次に、とびラーが野外彫刻作品を介して、大人と子どもが対等な参加者として対話する場を作ることができれば、普段の親子関係とは少し違うお互いの姿を見る機会にもなるのではないか、という理由から、親子一緒に活動するプログラムを作ることにしました。
そして、野外彫刻を鑑賞して感じたことを形にする「造形を用いた鑑賞のふりかえり」を設計するために、「どんなステップで行う?」「どんな声がけをする?」「どんな材料を使う?」「作る時間はどれくらい必要?」「制作物をどのようにお互いに見せ合う時間をつくる?」といった一つ一つの問いについてとびラー同士で議論を重ねました。
とびラー親子対象のトライアル
夏真っ盛りの7月末、プログラムの内容と対象者を検証するために、とびラーとそのご家族19名に協力してもらい、5歳から高校生まで幅広い年齢の子どもとその保護者を対象とするトライアルを実施しました。
トライアルの時間は、1時間半。参加者は3グループに分かれて、彫刻をみる練習をしてから、2つの野外彫刻を鑑賞しました。その後、「みんなで野外彫刻をみて心に残ったこと」を造形的に表現し、各々が表現したことを造形物を見ながら、互いに伝え合いました。
トライアル当日の様子を、写真を交えてお伝えします。
①アートスタディルームに集まってプログラム開始
②複数の親子が混在するグループに分かれて、自己紹介&彫刻をみる練習
③2つの野外彫刻をグループで鑑賞
④「みんなで野外彫刻をみて心に残ったこと」をかたちにしてみる
⑤表現したことを言葉にして伝え合う
⑥他のグループの表現も見てみる
トライアルの実施後には参加者にヒアリングを行い、大人・子ども双方から沢山のご意見をいただきました。
トライアルで検証したこと① 子どもの対象年齢
トライアルに参加いただいた5歳のお子さん2名とも、グループで鑑賞して感じたことを形にできたため、「5歳以上」の子どもと一緒に活動できるという手応えを得ました。
トライアルで検証したこと② グループ構成
5歳から高校生まで年齢差のある子どもとその保護者を混合した、親子一緒のグループで活動してみて、対話による鑑賞や造形を用いた振り返りができるか?参加者はどう感じるか?検証しました。参加者からは「色んな年齢の子どもが一緒にみることで自分にはない視点が面白かった」「大人と子どもの発想の違いを知ることができてよかった」「複数の家族が一緒で色んな意見を聞けてよかった」といった声が聞かれました。異なる年齢の子どもや大人が混ざることで生まれる効果もある、というのは、私たちにとって新たな発見でした。
また親子一緒に活動することについて、子どもからは「家族と一緒で安心感があって話しやすかった」「お母さんが作るものを見られてよかった」、大人からは「親も制作できて楽しめた」「日頃見ない子どもの表情や一面を見られてよかった」といった声が聞かれました。
トライアルで検証したこと③ プログラム内容(特に、造形ワーク)
「造形を用いた鑑賞のふりかえり」では、大人も子どもも、野外彫刻をみて感じたことや、対話から感じたことを、制作物と言葉の両方を使って伝え合っていました。参加者からは「形にすることで、どこにその人の感性が動いたかが伝わる。」「爆発してくる、重いなど、鑑賞中の発言だけでは分からなかった、その人が感じた質量などが、制作物をみると分かった。」「対話から感じたこと、作品そのものの印象など、多様な表現が出てきて面白かった。」といった声が聞かれました。子どもも大人も表現することをとても楽しんでいたことが、印象的でした。
一方で、プログラム全体の時間配分、子どもだけでなく親も遠慮せずに参加者として楽しめる場づくり、「造形を用いた鑑賞ふりかえり」のファシリテーションなど、本番に向けたさまざまな課題も見えてきました。
「親子で楽しむまるごと野外彫刻〜あなたの気持ちはどんなかたち?〜」決定
トライアル後には、ラボメンバーみんなで、このプログラムが届けたい価値を改めて話し合いました。「親子で楽しむ」を大事にしたい、立体作品を360℃いろんな視点から楽しみたい、みて作って作品を「まるごと」味わいたい、「感じた気持ちをかたちに」したい、ということで、プログラム名は「親子で楽しむまるごと野外彫刻〜あなたの気持ちはどんなかたち?〜」に決定。
またトライアル結果を踏まえて、プログラムの導入→彫刻をみる練習→野外での彫刻鑑賞→造形によるふりかえりといった各パートの意義やつながり、全体進行や各グループのファシリテーター・サポートの声掛け、場づくりで大事にしたいことなどを、入念に再検討しました。
秋晴れの青空が広がる9月23日、来館者向けプログラム「親子で楽しむまるごと野外彫刻〜あなたの気持ちはどんなかたち?〜」を開催。午前・午後2回のプログラムを通して、未就学児から高校生までの子ども20名、親23名および同伴のきょうだい児、総勢45名が、親子一緒に彫刻をみて、感じたことをかたちにして、まるごと野外彫刻を楽しみました。
今回、子どもの対象者を「5歳〜高校3年生」と幅広く設定した結果、参加した子どもの内訳は、未就学児5名、小学校低学年8名、小学校高学年4名、中高生3名となりました。また、5歳未満のきょうだい児同伴の親子には、保護者と共にきょうだい児を見守るスタッフを配置して、保護者がプログラムに参加しやすいように配慮しました。
第1回 9月23日 10:15〜12:00
参加者:5歳〜高校2年生とその保護者(同伴のきょうだい児)=24名
とびラー =15名
第2回 9月23日 15:00〜16:45
参加者:6歳〜中学1年生とその保護者(同伴のきょうだい児)=21名
とびラー =15名
本番当日の様子の詳細を、写真を交えてお伝えします。
①アートスタディルームに集まってプログラム開始
今日のプログラム全体の流れや「よくみる」「感じる」「言葉にする」「他の人の言葉をよく聞く」といったみんなで彫刻を楽しむコツをお伝えします。グループ構成は、トライアル結果を踏まえて、複数の親子が混在するグループとしました。
②グループに分かれて、自己紹介&彫刻をみる練習
まず自己紹介をしたら、金属、石、木材など様々な素材や形の小さな立体の中から、好きな立体を2つ選んで組み合わせ、自分で思いついた形を作ってみます。
「金属の球は重くて冷たい」「ざらざらした石、つるつるした石がある」「平たい形の石もある」など、皆さん素材の手触りや形に興味津々。
2つの立体を選んだ理由をお話ししてもらったり、作品タイトルを考えてもらったり、みんなで色んな角度から見たりして、彫刻をみる練習をします。
初めて会った親子同士もだんだん打ち解けて笑顔が見られるようになってきたところで、いよいよ野外へ出発です。
③2つの野外彫刻をグループで鑑賞
離れてみたり近づいてみたり、色んな角度からみたり。野外ならではの光と影、周囲の景色の映り込み、木の葉の揺れる音、生き物の気配なども感じて、対話しながら鑑賞します。
《イロハニホヘトチリヌルヲワカヨタレソツネ・・・・・・ン》(以下、《イロハ》)を色んな角度からみて「文字だけではなくキャラクターみたいな形もある!」と発見するお子さん。
《P 3824 M君までの距離》をみて考えたことを全身で伝えてくれるお子さん。
《メビウスの立方体》をみて感じたことを話す子どもの言葉に、大人も真剣に耳を傾けます。
《三つの立方体 A》の形について考えたことを話すお父さん。子どもも大人もグループの仲間として、みんなでみることを楽しんでいました。
④「みんなで野外彫刻をみて心に残ったこと」をかたちにしてみる
野外彫刻をみて心に残ったことを、自由にかたちにしてみます。粘土で形を作ったり、ダンボールや折り紙で工作したり、絵を描いたり、参加者それぞれの表現が生まれます。
《三つの立方体 A》を鑑賞して印象に残ったエッジを、銀紙で表現してみるお母さん。
《三本の直方体 B》の形を、粘土で再現してみるお子さん。
《P 3824 M君までの距離》を粘土で作ってみるお子さん。大人も子どもも、かたちにすることに没頭していました。
⑤表現したことを言葉にして伝え合う
制作物を見せ合いながら、どんなことを表現したのか、一人ずつ説明します。
「《三つの立方体 A》の線がかっこよかった。」とダンボールで立体模型を作って表現したことを話してくれるお子さん。
《P 3824 M君までの距離》をみて造形したことを話すお子さんと、その言葉に耳を傾ける大人たち。
《イロハ》を一緒にみた子どもたちからは、それぞれの表現が生まれていました。
《イロハ》鑑賞中にお子さんが発見したことを受け止めて、お父さんがかたちにする場面もありました。子どもの感性に触れた親も、自分の視点が伝わった子どもも嬉しそうで、親子で鑑賞する意味を感じた一コマでした。
⑥他のグループの表現もみてみる
歩き回って他のグループの表現も見てみます。この活動によって、今日グループで鑑賞した2作品以外の東京都美術館の野外彫刻にも興味を持ってもらい、他のグループの参加者との交流を促します。各グループの担当とびラーが、鑑賞した野外彫刻の写真パネルを見せながら、制作物がどんなことを表現しているのかを説明しました。
小学生と高校生が、どんなことを表現したのか和やかに会話するなど、制作物を見ながら参加者同士のコミュニケーションも生まれていました。
プログラムの最後に、今日見た2つの作品以外の野外彫刻にも会いに行ってみて下さい、という思いを込めて、子どもたちに東京都美術館野外彫刻ガイドをお渡しました。
参加者の感想(アンケートから抜粋)
大人の参加者
・野外ならでは、太陽の色で、《さ傘(天の点滴をこの盃に)》の色の見え方が変わるところが印象に残った。
・遠くから見る、近くでみる、距離が生み出す見方のギャップが面白かった。
・グループで鑑賞すると自分では気づかなかった意見がたくさん出て楽しかった。
・みたものを自分がどう感じたのか深く考えることや、他人がどう感じるのか知ることができたのが楽しかった。
・同じものを見ていても、人それぞれ受けとるものや感じることが違うと発見があった。
・人によって見え方、感じ方が違って、表現には自由がある。
・自分の感じたことを形にできてよかった。
・自分では思ってもみないことを子ども達が発言することが新しい気づきだった。
・「かたちにしてみる」で、子どもの自由な発想に驚かされた。
・子どもと大人がフラットに作業できたのがよかった。
・子どもが自分の言葉で感じたことを話せていたことが印象に残った。
・言葉にして人前で表現することが苦手な娘が生き生きとしていてうれしかった。
・4歳の面倒を時々見ていただき助かった。
子どもの参加者
・とてもよかった。(5歳)
・彫刻をみるのが楽しかった。(7歳)
・Mくんまでの距離(作ったほう)が心に残った。(8歳)
・(彫刻をみてかたちにして)いろいろ話してもっと分かった。(8歳)
・みんなで色んな形を作るのが楽しかった。(9歳)
・見ることによって感じるだけでなく、聞いたり、肌で感じることができて面白かった。(12歳)
・形の見方を自分で表現できて楽しかった。(12歳)
・他のグループの作品をみて他の彫刻も見てみたいと思った。(16歳)
終わりに
今回のプログラムでは、たくさんの親子が野外彫刻を囲んで賑やかに鑑賞し、感じたことをかたちにすることを楽しんでくれていました。また参加いただいたお子さんの大半が未就学児〜小学生であったので、このラボの狙いの一つ「未就学児を含む子どもとその保護者が安心して美術館を楽しむ場を作る」ことを実現できました。
「対話による鑑賞と造形を用いた鑑賞のふりかえりによって子どもと大人が世代を超えて感じたことを伝え合う」というもう一つの狙いについても、特に大人が子どもの発想から刺激を受ける様子が見られ、親子が共に鑑賞し、造形を用いてふりかえることで、世代を超えた対話の場が生まれていました。
このプログラムをきっかけに、またご家族で東京都美術館の野外彫刻に会いに来てくださることを願ってやみません。最後に野外彫刻をイメージしたポーズで、ありがとうございました!
文章を書いて伝える仕事をしています。趣味は子どもとMuseumめぐり。子どもたちが美術館でワクワクする場づくりをしたくてとびラーになり、親子で美術館を楽しむ一つのカタチをこのラボで模索。とびラー活動で学んだ対話型鑑賞を通して、世界のどこに行っても「ありのままの自分で共に在る」場を開いていきたい。
2025.09.15
日時|2025年9月14日(日)13:30〜16:30
場所|東京都美術館 講堂
講師|柴田光規(川崎西部地域療育センター センター長)
普段、川崎西部地域療育センターで子どもたちの診療に携わる柴田光規さんにご登壇いただきました。
柴田さんは、元とびラーとしても活動し、任期満了後の現在では、川崎を拠点とするアートコミュニケーション事業「こと!こと?かわさき」のことラーとしても活動されています。
アート・コミュニケータの活動についてもよく知っている柴田さんに、発達に特性をもつ子どもへの支援についてご講演いただきました。
自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)などを総称する「神経発達症(いわゆる発達障害)」のそれぞれの症状の特性やそのときの子どもの心理的な状態について、専門的な立場からお聞きすることができました。
とびラーが伴走するMuseum Start あいうえのの学校プログラムでも、特別支援級や発達特性のある子どもたちも来館し一緒に作品鑑賞を行います。発達支援の基本的な考え方をお聞きし、迎える側にできることを知る機会をつくろうということで、今年のアクセス実践講座のテーマの一つとしました。
社会の中で子どもの「困った行動」に出会ったときの私たちの視点として、「困った行動」は実は子ども自身が困っている。対処法がわからなくてとった行動であることが多い。というお話があり、特性を理解することで、どのようなことに困っているのか、子どもの困りごとを想定し、情報の伝え方にあらかじめ工夫ができることがあることを療育センターの現場の具体的な対応を例に紹介がありました。
神経発達症の特性を持つ人たちには脳や神経の特性に由来する 独自の文化があると考える「ニューロダイバーシティ(神経多様性)」についての紹介もありました。
とびラーの振り返りでは
「子どもにとって今どんな状況なのか?という目線で問題行動を見直し、否定しないで肯定的に具体的な指示を出す、視覚情報で再確認できるようにする、というのは、自閉症の子に限らず大切な関わり方だと感じた。」
「自閉症の方には、伝えたい情報に集中してもらうために、それ以外の動きを制御して混乱させないよう気をつける、というのは新たな学びだった。」
講座の後半では、東京都美術館の社会共生担当の工藤さんも登壇し、東京都美術館へ来館する際の展示室までの道のりを見通しを立ててあらかじめ知ることができる「ソーシャルストーリー」についての紹介がありました。制作の意図と大事にしているポイントを解説しつつ、ご尽力いただいた柴田さんにもコメントをもらいながら、ソーシャルストーリーのポイントと使う方の目線で解説しました。
とびラーからは
「自分自身、何の準備もなく初めての場所へ赴く際は、とても緊張しますし、初めての活動では、戸惑っていたことを思い出しました。ソーシャルストーリーをもう一度よく読んで、周りの人たちにも伝えたい」
というコメントがありました。
講座を通して、「発達障害」という子どもの状態を知ることができ、捉え方が変わることで、それぞれがこれからの対応にこれまでより少し視野を広く持って迎えることができるようになったのではないでしょうか。
柴田さんの講座の中での子どもたちの様子を表現するやさしい語り口からも、アートコミュニケータとして子どもたちを迎える際の視点を学べたような気がします。来館する子どもたちのその時の状況に寄り添って想像していくことが大事だともおもいました。
(とびらプロジェクト マネージャー 小牟田 悠介)
2025.09.15
日時|2025年9月14日(日)13:30〜16:30
場所|東京都美術館 講堂
講師|野本潤⽮(台東区立台東病院/老人保健施設千束 作業療法士 )
藤岡勇⼈(東京都美術館 学芸員)
⾦濱陽⼦(東京藝術⼤学 特任助手)
2021年から東京都美術館で始まったCreative Ageing ずっとびでは、超高齢社会に入るこれからの日本社会において、高齢者だけでなく、若い世代も一緒に創造的に年を重ねることを考えていくプロジェクトとして始まりました。
Creative Ageing ずっとびでは、認知症が気になる方とその家族に向けた「ずっとび鑑賞会」を開催しています。
今回の講師には、「ずっとび鑑賞会」でも、ご協力いただいている台東区にある台東病院の作業療法士の野本潤⽮さんにお越しいただき、認知症の理解につながる基本的な知識と、台東病院と併設する老人施設千束について伺いました。
野本さんにはこれまでにもずっとび鑑賞会の開催に向けて院内での参加者のお声がけや当日の展示会場が安全で鑑賞しやすい場づくりとなるようアドバイスをいただいています。当日までにこうした準備を重ねて認知症の方も安心して来館出来る体制をつくることができています。
今年度は、10月に2回の「ずっとび鑑賞会」を開催します。そのうちの1回は野本さんの担当する老人保健施設千束から来てもらうことになっています。今回の講座を受けて、当日のプログラムに向けてスタッフととびラー、それぞれ認知症についてと来館する老人
保健施設の様子を学びます。
認知症とは、「さまざまな病気により、脳の神経細胞の働きが徐々に変化し、認知機能(記憶、判断力など)が低下して、社会生活に支障をきたした状態」
ということで、認知症と軽度認知障害(MCI)を合わせると65歳の3人に1人がいずれかの認知障害があるというデータがあります。
認知症の中のアルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症といったそれぞれの症状の紹介があり、記憶障害などの症状に伴って現れる、抑うつ・不安・幻覚・妄想・徘徊・攻撃性などの様々な精神症状や行動障害=行動・心理症状 (BPSD)について詳しく伺いしました。
そうした認知症の方と接する上での心構えについて丁寧なご説明があり、接する上で前提となるパーソン・センタード・ケアという考え方の紹介がありました。認知症の人を一人の人間として尊重し、その人の人生、性格、価値観、生活歴などを踏まえて「その人らしさ」を大切
にするケアの考え方です。
その人のすべての行動には意味があると考え、「問題だとされている行動」は、身体的不快感や感情的な苦痛の表現ではないだろうかと考えることで、その人のいまの状態をよく見ることにつながります。
鑑賞会の参加者と接する上で覚えておきたい考え方です。
とびラーの振り返りでは
「野本さんがおっしゃっていた「記憶に残らないけれど楽しかったとか嬉しかった感情は残る」という言葉や鑑賞会をきっかけに家族と医療者との関係性が良くなったというお話が印象的でした。」
「とびラーとして認知症の方と関わる上で1番大切なことはその方に関心を寄せることであり、本人の思いを聴き、掘り下げていくことだと思いました。」
「先入観を持たずにフラットな視線を持ち続ける冷静さも大切だと考えました。それが余白を持つということかなと思いました。また人生の大先輩として敬意を持って対応したいと思いました。」
というコメントがありました。
後半には、Creative Ageing ずっとびを担当している藤岡さんと金濱さんからプロジェクトについて、取り組みの最新情報についてとびラーに紹介がありました。藝大美術館での認知症の方に向けた鑑賞会だけでなく、来館しにくい高齢者もオンラインで東京都美術館で開催される展覧会をとびラーと鑑賞できる「おうちで鑑賞会」や、アーティストとも協働したアクティブシニアに向けたプログラムの紹介もありました。
Creative Ageing ずっとびでは秋の鑑賞会に向けて、地域の医療者、社会福祉協議会、包括支援センターとも協働して準備を進めていきます。
(とびらプロジェクト マネージャー 小牟田 悠介)
2025.09.08
日時|2025年9月7日(日)13:30〜16:30
場所|東京都美術館 講堂
講師|冨樫正義(公益財団法人日本ケアフィット共育機構)
小川真美子(点字・触図工房BJ)
峰岸優香(東京都美術館 学芸員)
工藤阿貴(東京都美術館 社会共生担当)
講座の前半では公益財団法人日本ケアフィット共育機構の冨樫正義さんから、視覚障害のある方への理解と接し方の基本を学びました。
視覚障害といっても、全く見えない方だけではありません。
弱視の方、視野が狭い方、色の見え方に特性がある方など、状態はさまざまです。
だからこそ、その人に合わせた声掛けやサポートが必要になります。
講座では、視覚障害のある方への、声掛けの際のポイントを学びました。
声をかけるときは前から名乗ること、触れる前に必ず確認すること、
「こちらです」などのあいまいな表現ではなく、距離や方向を具体的に伝えることなど、具体的なポイントを整理して教えていただきました。
とびラーのふりかえりには、こんなコメントが寄せられました。
「見えない・見えにくいという視覚的な違いには様々な背景があり、当然ながら個人によって感じ方や考え方も異なる。そのため、対応するときには先入観を持たず、丁寧に向き合うことが大切だと改めて感じました。」
「社会は多数派に合わせて形成されているということで、少数派や障がいのある方の困りごとの多くは社会的障壁によるものであることをわかりやすく示してくださいました。タッチパネルが視覚障がいのある方にとっては不便であることに気付かされました。」
「実際の場面を想定してみると、相手の立場に立って理解することの難しさを痛感し、自分が本当に理解できていたのか疑問に思うところばかりでした。だからこそ、手助けとなる行動を躊躇せずに踏み出せるよう、まず「知ること」から始めたいと思います。」

次に、みえない・みえにくい方への情報サポートツールを制作している小川真美子さんにお話しを伺いました。小川さんは点字の表記やデザイン、街の中にある触れる案内図を手掛けるほか、近年では美術館から依頼を受け、手で触れて作品を理解するための触図(しょくず)を専門的に制作しています。
いまの仕事に専念し、独立するまでのお話を聞きながら、制作する時の小川さんの苦労や、大事にしているポイントをお聞きすることができました。
小川さんは東京都美術館で夏に開催された「アート・コミュニケーション事業を体験する 2025 みること、つくること、つながること「Museum Start あいうえの」12年と現在地」(2025年7月31日(木)~8月10日(日)開催) (通称AC展)で展示された作品2点の触図を制作してもらったご縁があり、小川さんの触図を体験したとびラーもいて、親近感を持ってお話を聞きました。
後半は展覧会担当のアート・コミュニケーション係 学芸員の峰岸さんと社会共生担当の工藤さんも登壇し、小川さんや作家と協働した触図の制作について紹介しました。
現代作家の作品の触図ということもあって、実際に作家のアトリエに伺って作品の意図を聞きながら触図を制作した際のエピソードや、そのプロセスを聞くことができました。
触れるからよいということではなく、伴走するアート・コミュニケータがどのように働きかけるかが重要であること、
作品制作者、触図をつくる人、それを伝える人がみえない人とみえる人が展覧会を楽しめるように試行錯誤したことをふりかえりました。
とびラーのふりかえりには、こんなコメントが寄せられました。
「実際に触図を使う方の意見を聞きながら、伝え方、作り方を調整して、相互に作り上げていく工程が、とても大事だということがよく分かった。」
また、実際に視覚に障害のある来館者と小川さんが制作した触図を鑑賞したとびラーも何人かいて、その様子を共有してくれました。
「私たちの目は、見たいものしか見ようとしない。AC展のコミュニケータとして活動した際に、視覚障害がある方と作品を一緒にみる機会がありました。そのことによって、そこにあった作品をきちんと見ていなかった、見過ごしていたことに気づくことができました。視覚障害がある方と作品をみることによって、自分が気づきを得ることができました」
講座の最後には、東京都美術館で定期開催している「障害のある方のための特別鑑賞会」にてアート・コミュニケータが視覚障害のある方に伴走して、展示室や作品について、言葉で伝えながら一緒に鑑賞する取り組みを紹介しました。
東京都美術館では、社会共生の取り組みの一つとして特別展ごとにUV印刷による凸版印刷で作られた触図を用意しています。
その触図を使った鑑賞を深めるとびラボ「触図ラボ」、会場の照明や展示方法により、障害のある方が見えにくい作品をiPadで拡大してみせる「iPadラボ」、そのほか、とびラーによって2023年に開催された 「みえない人とみえる人が一緒に楽しむアート鑑賞みんなでみる美術館」の紹介がありました。
講座終了後には、全盲のとびラーから自分の状況に関して共有するとびラボが開かれました。ご自身のことや、声をかけるときに気をつけてほしいこと、普段の困りごと、挑戦していることなどが話されました。参加したとびラーからも質問が飛び交い、他の皆さんの知り合う場となりました。
触図をつくる環境もできてきて、とびラーの仲間にも当事者の方がいる。みえない、みえにくい人との鑑賞をもっと試行錯誤し、取り組んでいける可能性を感じた講座でした。
(とびらプロジェクト マネージャー 小牟田 悠介)
2025.09.08
第4回 鑑賞実践講座|展示室で学ぶ場づくり〜スペシャル・マンデーを例に〜
日時|9月8日(月)14:30〜17:30
会場|東京都美術館 アートスタディルーム、スタジオ、ギャラリーA/C
講師|手代木理沙(東京藝術大学 芸術未来研究場 ケア&コミュニケーション領域 特任助手、Museum Start あいうえのプログラムオフィサー)
・・・新留璃子(東京都美術館専門家委託、Museum Start あいうえのプログラムオフィサー)
・・・越川さくら(東京藝術大学 芸術未来研究場 ケア&コミュニケーション領域 特任助手、とびらプロジェクトコーディネータ)
9月8日(月)、東京都美術館 アートスタディルーム、スタジオ、展示室を会場に、第4回鑑賞実践講座「展示室で学ぶ場づくり」を開催しました。講師は、Museum Start あいうえののプログラムオフィサーの手代木理沙さん、新留璃子さん、また、とびらプロジェクトコーディネーターの越川さくらが務めました。
第4回は、これまでに学んできたVTSやファシリテーションの考え方を、実際の展示室という現場に引き寄せて考える回として位置づけられています。学校単位で、小学生から高校生までが来館する、あいうえのの鑑賞プログラム「スペシャル・マンデー」を具体的な想定として、鑑賞の場をどのように準備し、どのように立ち上げていくのかを学びました。
講座の前半では、学校プログラムにおける事前準備から当日、事後までの流れを確認しました。子どもたちが美術館を訪れる際に、どのような情報や環境が必要か、鑑賞の時間や動線について、実際のプログラムをもとに共有しました。
続いて、現在開催中の展覧会「つくるよろこび 生きるためのDIY」(会期:2025年7月24日(木)〜10月8日(水))の展示室で、「スペシャル・マンデー」のプログラムの基本的な流れを実際に体験しました。展示室では、作品そのものだけでなく、空間の広がりや明るさ、音、人の動きといった要素が鑑賞体験に大きく影響します。これまでの講座から一歩進んで、展示室環境のなかで、来館者がどのような鑑賞体験を紡いでいくのかを、実際にプログラムの流れを体験することが目的です。
鑑賞体験の後には、チームで振り返るためのワークシートを使い、グループごとに振り返りを行いました。鑑賞の中で起きていたことを整理しながら、ファシリテータの声かけや立ち位置、参加者同士の関係性が、鑑賞の深まりにどのように影響していたのかを言語化していきます。ひとつの正解を探すのではなく、場で起きていた出来事を丁寧に振り返ることを重視しました。
後半では、自分がファシリテーションを行うことを想定し、自分ならどのような声かけや場づくりを行うかを具体的にイメージしながら、ワークシートに書き込んでいきました。鑑賞者一人ひとりが安心して作品と向き合えるようにするために、ファシリテータとしてどのように立つのか、声のトーンや動き、参加者との距離感など、細かな要素について考えました。その後、とびラー同士でお互いのシートを共有し、意見を交わしました。
第4回は、鑑賞やファシリテーションを「方法」として学ぶだけでなく、展示室という場の中で実際に起こる出来事をもとに、鑑賞の場をどう支えるのかを具体的に考える回となりました。9月には、実際の「スペシャル・マンデー」で、とびラーが学校の子どもたちを迎えます。プログラムに向けて準備を進め、当日の子どもたちの鑑賞を、より豊かな時間にしていきたいと思います。
次の第5回鑑賞実践講座は、9月末の「スペシャル・マンデー」や10月の「名品リミックス!を対話で楽しもう!(ブログリンク)」などの実践を経て、10月に行います。実践後のとびラーのみなさんの成長が楽しみです。このあとの講座は、鑑賞の事前準備や、スキルアップのためのふりかえり方法について考える回へと進んでいきます。
(とびらプロジェクト コーディネータ 越川さくら)
2025.08.24
第2回建築実践講座|「建築ツアーをやってみよう」
日時|2025年8月23日(土) 14:00〜17:00
会場|東京都美術館 ASR・スタジオ
第2回 建築実践講座では、とびラーがそれぞれ「建築ツアーを考えて、やってみる」をテーマに行いました。
第1回の建築実践講座内容(都美の建物と歴史)をふりかえり、建築ツアーの写真を用いて参加者ととびラーの間でどのような会話をしているのか、どのように来館者をお迎えしているかについて一緒に考えました。

その後は「15分間のMY建築ツアーをつくろう!」ということで、とびラーそれぞれがツアープランを考えました。
東京都美術館パンフレットやトビカンみどころMAP、館内にある資料から読み解くだけではなく、実際に館内を巡り、一人ひとりが感じる「ここが好き!」「気になる!」をみつけてツアーを組み立てていきました。
それぞれがツアーを考えたあとは、3人組になって交代でツアーを実施しました。
ツアー後はやってみた感想や思ったことをシェアし、ツアーの構成や伝えたいことが伝わったのかについて考えました。
「とびラーによる建築ツアー」は決まったコースはなく、ガイド役のとびラーによって紹介するスポットはさまざまです。
ガイドによって内容が変わり、参加するたびに新たな発見があるツアーです。
今回の講座の学びが建築ツアーに活かされたらいいなと思います。
(とびらプロジェクト コーディネータ 大東美穂)
2025.08.10
<美術館ラジオをやりたい!>
2023年7月からメンバー、形を変えながらとびラボとして活動している「とびdeラヂオぶ〜☆」(以下:ラヂオぶ)。このネーミングは、東京都美術館(以下:都美)のラジオ部!として音声コンテンツを届けたい!という気持ちと、Museum Startあいうえのでお馴染みの、上野公園の9つの文化施設の頭文字を合わせた呪文「ビビハドトカダブ」をちょっとだけもじったというもの!1年目はとびらプロジェクトのスタッフやとびラーのインタビュー番組を作り、自分たちのコミュニケーションを活発にするツールとして楽しみました。
*お決まりポーズ、ラヂオぶの「ラ!」
やりたいことの1つだったのがTV番組「病院ラジオ」の美術館版、来館者の声を届ける「美術館ラヂオ」でした。それに近いことができたのが2024年度に制作した番組「ずっとアートと生きていくラヂオ」。
そして今年度は、『アート・コミュニケーション事業を体験する 2025 みること、つくること、つながること 「Museum Start あいうえの」12年と現在地』(以下:AC展)の展示室の一角に、即席ラジオブースを構えて、来館者のインタビュー収録をして制作した「みること、つくること、つながることラヂオ」。我々が軸にしてきた「美術館にあまりこない人にも美術館の良さを知ってもらいたい!来館者のアートにまつわる素敵なエピソードをシェアしたい!」という想いから、より拡散可能なポッドキャストへの音声公開をイメージしながらスタートしました。
*収録テスト中。奥にいる3人はわざと会話したりノイズを出したり。
<待望のマイクがきた!>
前回はボイスレコーダーをテーブルに置いて収録しましたが、周囲の音が入ってしまい聞き取りづらい部分があったことが課題でした。そこで、今回は新しいマイクを使って、参加者の声がしっかりと収録できるようにしました。事前の動作チェックでは、マイクの指向性を変えながら周囲の音がどれだけ入って来るのか確認しました。ちょっとレトロなフォルムのマイクにワクワクしながらのテスト収録でした。
<AC展の会場でインタビュー>
AC展では、3組の作家(森友紀恵、三輪途道、がかのか族(幸田千依と加茂昂とその息子)の作品が展示されており、後半のスペースには、私たちが参加するアート・コミュニケーション事業「とびらプロジェクト」や「Museum Start あいうえの」の歩みを知ることができる資料や映像も公開されていました。
8月9日・10日の2日間で展覧会の出口付近の机に、マイクとPOPを設置したブースをつくりインタビューを実施しました。
帰り際に興味を持ってくれた方や、作品や資料を鑑賞中に声がけをして、承諾してくれた方々の生の声を、ラヂオぶのブースにて収録しました。
インタビューの収録は基本的に、メインインタビュアー1人とメモ係1人の2人体制で臨みました。話が白熱して、テーブルのそばで聞いていた人から過去の展示内容について質問が飛んでくることもあり、スタッフがその場に加わって話してくれることもありました。
インタビューでは友人や、親子、一人で訪れた方やITや教育関連のお仕事をされている方、リタイア世代の方など様々な背景の人と出会いました。
父親と来ていた5歳のこどもは、がかのか族の展示室の一角で描いた絵の話をしてくれました。描いた絵を美術館に展示することができたのに持って帰ることを選んだそうです。「どうして?」と聞くと「ママがまだ見てないから持って帰る〜」と、アートでつながる家族の様子をうかがうことができました。
<インタビューを行ってみた感想(藤井)>
よく上野公園に散歩に来るという中国人留学生のインタビューが印象的でした。物腰が柔らかい方でした。
聞くところによると前日にも都美に足を運んでいたそうです。
自分は繊細で友人があまり多くないが人と話すこと自体は好きで、美術館に来ると自分と同じ世界の人がいっぱいいる、と語ってくれました。
その後、別の日に偶然彼と都美であいさつを交わす機会がありました。日本という異国の地で自分が心地いい居場所、つながることを見つけたのかもしれないと感じました。
改めて、美術館という場所がもたらす効果・多種多様な人々を受け入れる裾野の広さについて考えることができました。
<インタビューを行ってみた感想(柴田)>
中途失明の方へのインタビューでは、これからもアート・コミュニケータとして活動していくうえで大切にしておきたいことに気づかされました。会場内でガイドさんととても熱心に会話を交わしながら作品をみている様子を見て、私たちは「話しかけないほうがいいのではないか」と、自分たちなりの判断をしてしまったのです。ところが感想を伺うと、男性は「何人かの話を聞くことで作品の解像度が上がるので、いろいろな人の話を聞いてから、みたかった」と話してくれました。アート・コミュニケータとして会場にいるからこそ、まずは声をかけ、コミュニケーションを始めてみること。その大切さを、あらためて教えてもらった出来事でした。
<インタビューをふりかえって(藤井)>
ラヂオぶの活動を通して、美術館に足を運ぶ人の多種多様さを肌で感じることができました。
こうして「多種多様」と言葉にするだけでは、こぼれ落ちてしまう個人個人の美術館への想いや過ごし方。そして、これまでの人生。そんな個別具体の生に対峙できたことが、何より貴重でやりがいに溢れる経験だったなと、ブログを書き振り返りながら、改めて思いました。
自分と同じ世界の仲間たちを見つけ足しげく美術館に通う人。記憶を辿りながら、ものを作ることが生きる力になると語る人。暮らしの中でスケッチすることが好きな人。娘を初めての美術館に連れて来たことを喜ぶ人。エンジニアにはアーティスト的な発想が必要だと力説する人。名前も知らない者同士が、ゆるやかにつながれる居場所づくりに取り組む人。など
あえて大袈裟にいうならば、
ラジオは、個々人の生き様や心の機微をこぼすことなくすくい上げ、映し出すことのできる、最も適したメディアの一つなのではないか、と感じました。
大きなメディアでは取り上げられにくく、またSNS上では声の大きな人の意見が先行しがちななかで、そうした声はなかなか見えてきません。
私たちが制作した音源も、そのような市民の「声」を届けるラジオ番組の一つとなれていることを、切に願っています。!
<まとめ>
メンバーや形態を変えながら積み重ねてきたからこそたどり着いた「とびdeラヂオぶ〜☆@AC展2025」。実は、昨年から変化したことで、インタビューコーナーによい影響を与えたものがあります。冒頭でも紹介したように、新しく置き型のマイクを導入したことです。
これは質の良い音声を収録するためでしたが、マイクがあることで、2024年のAC展に比べて私たちが何をしているのかが伝わりやすくなり、来場者の方々も思いをより丁寧に話してくれたように感じます。
展示室の最後の一角に現れる“かたり場”は、ときに、たまたま居合わせた者同士が感想やアートへの思いを共有する場となり、ときに、自分の考えをアウトプットしたり整理したりする場にもなりました。また、一緒に来た人がどのように感じ、何を考えているのかを知るきっかけにもなっていました。
あるメンバーからは「収録をしなくても、こんな場が展示室の一角にあるっていいね」という声もあがりました。
AC展はラヂオぶにとって、来館した人たちととびラーが会場で直接コミュニケーションを交わすことができる場です。その中で生まれた思いや対話を“ラジオ”という音声コンテンツにのせて、来館したくてもできない・できなかった人や、アートには興味があっても美術館はハードルが高いと感じている人に向けて、会場の様子や訪れた人たちの感じ方を発信するのにぴったりな舞台となりました。
ぜひ「とびdeラヂオぶ〜☆@AC展2025」後編(ラジオ制作編)のブログもお楽しみください
執筆:藤井孝弘(とびラー14期)
普段はIT企業に勤務。仕事の傍らで、ジェネラティブ・アートを楽しむ日曜芸術家。
人と人とがそれぞれの「違い」を尊重し補い合いながら、一人ひとりが生きる喜びを実感できる社会の実現に、微力ながら貢献できればいいなぁという想いを胸に活動中。
執筆:柴田麻記(12期とびラー)
以前は、テレビ番組を制作していました。現在は、愉快な高校生と小学生と過ごす主婦。私のいちばん身近なコミュニティは家族です。とびラーで得た視点を日々の暮らしの中でこっそり使いながら実験中。実験範囲をじわりと広げているところです。
執筆/構成:染谷 都(12期とびラー)
ラヂオ番組制作ディレクター。旅と音楽と建築好き。藝大の森お世話隊でボランティア活動中。これからゼミ「上野の森と建築を考える」「『アートコミュニケータの建築鑑賞まちあるき』を考える」を実践中。その場が実在しなくても誰もが参加できるラジオ番組のようなココチいい場づくりをリアルで模索中。