東京都美術館× 東京藝術大学 「とびらプロジェクト」

活動紹介

【開催報告】Fun!Fan!とび巡り

2022.03.25

2022年3月25日(金)「Fun!Fan!とび巡り」を実施しました。この企画の意図と実施当日の様子、実施までの経緯について、またとびラー活動についてお話させてください。

 

 

 

■■ 美術館の楽しみ方とは? ■■

 

みなさんにとって美術館とはどんなところでしょうか。海外から初来日する有名な絵画作品を観に行く場所でしょうか?美術館が所蔵するお気に入りの作品に会いに行くこともあるでしょう。あるいはご自身やご家族の作品が展示されてのお出かけもあるかもしれませんね。

 

多くの方にとっては、美術館は企画展、常設展、公募展など、展示作品をお目当てに出かける場所だと思います。とびラーになる前は私もそうでした。作品に出会うことも楽しみのひとつですが、作品の鑑賞以外に楽しみ方があるのを知ったのはとびラーになってからでした。

 

 

美術館の成り立ちや歴史、建築を学び、美術館のこれまで、そしてこれからの在り方などを勉強しながら、子どもから大人まで幅広い年齢の方々と活動する中で、美術館にはもっと幅広い多くの魅力があることを実感しました。

 

現在の東京都美術館は、建築家前川國男によって設計されました。上野の杜に溶け込むように建てられた一見地味な建築にも魅力が詰まっています。美術館建物内に2つ、屋外に10個設置された彫刻やレリーフ作品を一つひとつ辿って鑑賞するのも楽しいです。

 

甘味をいただきながらお友達と展示の感想を話し合う、窓からみえる豊かな緑に浸りながら食事するなど、カフェやレストランがあるのも嬉しいですね。美術館の歴史を知る、アートラウンジで心地よい椅子に座って寛ぐ、美術情報室で調べ物をする、行き交う人々を眺める、ただぼーっと空を見る・・まだまだありそうです。

 

 

■■ お気に入りポイントの紹介で都美のファンに!■■

 

「Fun!Fan!とび巡り」は、展示作品をみること以外の様々な楽しみをみなさまにお伝えするプログラムとして企画しました。私たちの大好きな場所、楽しい、美しいと感じるFunポイントを紹介することで、プログラムに参加される方々にもFunポイントを味わっていただき、美術館のファン・Fanになっていただけたらという願いを企画名に込めました。

 

 

私たちのお気に入りのポイントは多岐にわたりました。およそ100年前に建築された東京府美術館旧館とその魅力に焦点をあてたとびラーもいれば、さらに遡って150年前、大銀杏(オオイチョウ)が目撃したかもしれない戊辰戦争時、上野での戦いに想いを馳せてみる、そんな歴史を感じるテーマを選んだとびラーもいました。

 

 

公募棟の特徴である長方形の建物が少しづつずれて連なる雁行配置や、中央広場両脇、地下部分から建物を支える背骨のような列柱が並ぶ空間など、建築の構造に注目したメンバーもいました。

 

インド砂岩を混ぜ入れてピンク色を醸し出したかまぼこ型の天井やそこに連なって吊り下げられた丸いライト、その照明光が天井に映り込むさま、壁に採用された打ち込みタイル工法など、建築物の細部に目を向けるとびラーもいました。

 

 

建物の外から内部を見たタイルやライトの連続性とガラスに反射する美しさに着目したり、屋外に置かれた彫刻作品の形態になりきってみたりと、ラボのメンバーが選んだFunポイントは数え切れないほど。

 

 

それら様々なポイントを巡るツアーで都美の魅力の数々をお伝えしたい!と考え、たくさんの要素を詰め込んだプログラムです。

 

 

 

■■ 人と人との出会いも魅力 ■■

 

東京都美術館には、奇数月に一回ずつ開催する「とびラーによる建築ツアー」があります。他にも、とびラーが自主的に企画する「とびラボ」から都美の建築や野外彫刻を楽しむためのツアーやプログラムが複数生まれています。例えば、ライトアップされ昼間とは違った表情を見せる夜の美術館を楽しむ「トビカン・ヤカン・カイカンツアー」、平日の午前中比較的混雑の少ない館内を散策する「トビカン・モーニングツアー」、野外彫刻を楽しむプログラムなどがあります。

 

「とびラボ」から生まれたプログラムの詳細はこちら:https://tobira-project.info/tobilab/#2021

 

 

「建築ツアー」などのプログラムと違い、「Fun!Fan!とび巡り」は、都美建築の魅力を伝えるとびラーがポイントごとで変わっていくスタイルのプログラムとなっていました。

 

各グループのルート案内役が参加者をポイントまでお連れします。それぞれのお気に入りポイントの魅力をお伝えするのは、各自が選んだ紹介スポットで待ち受けるとびラー達です。視点やテーマはそれぞれ。紹介が終わったら参加者は別のポイントに移動します。

 

 

次はどんなスポットでどんなとびラーさんと出会えるのか、そんな変化も楽しんでもらえる「Fun!Fan!とび巡り」。美術館の魅力を知るだけでなく、各ポイントで様々なとびラーとも出会えるツアーだったのです。

 

 

実施に先立ち、とびラー各々がお気に入りの場所を選び、そこを徹底的に調べることから始めました。選んだポイントが美術館の中でどんな位置づけや意味合いがあるのか、どうしたらみなさんにその魅力をお伝えできるのか工夫を凝らしました。そこにとびラーそれぞれの個性が凝縮されていたのです。

 

 

■■ 見つかった!Fun!Fan!ポイント ■■

 

当日のプログラムの様子を簡単にお伝えします。

 

参加者のみなさんが来館時に迷うことなく集合場所に辿り着けるように、プログラムの看板や赤や緑のバナーを持って正面玄関やエレベーターの入り口でお出迎えしました。

 

 

開会の挨拶の後は、都美の見どころを切り取った写真カードを使い、グループごとにアイスブレイクを兼ねた自己紹介タイム。一人で参加される方々の緊張をほぐし、他の参加者やとびラーと打ち解けられるような時間を設けました。

 

 

その後ツアーに出発!各グループで7ポイントを巡りました。

 

 

ツアーから戻った後は、グループで巡ったポイントを館内マップを使って確認し、ツアーの感想などを共有しました。

 

 

あなたの「Fun!Fan!ポイントは見つかりましたか?」の問いに、多くの参加者が見つかった!と声をあげてくれました。

 

また、参加者からいただいた感想から、「Fun!Fan!とび巡り」が目指したもの以上が実現されたことを実感しました。

 

感想をいくつかご紹介しますと・・

  • いろんなとびラーさんが個性的なガイドをしてくれたのが楽しかった。
  • 今まで気が付かなかった美術館の魅力を知ることができた。都美に来るのがますます楽しくなりそう。
  • お話もそれぞれ工夫されており、60分のツアーがあっという間だった。
  • 鳥になって上から美術館を見る、作品の中に入ってみるなど、想像しながら新鮮な体験が楽しめた。
  • 100年前のことに想いを馳せました。
  • アテンドや各ポイントにいらしたとびラーのにこやかなお顔が印象的。参加者が楽しいのはありますが、スタッフの方も楽しんでいることでリラックスして楽しめました。
  • 人と人のつながり、建物の外の中のつながり、自然と建物のつながり、たくさんのつながりを通して、美術館に近づけた気がする。また来るのが楽しみ。
  • 企画展などを観にくる時は 建物にまで目がむかないが、建物の豆知識を得ることで楽しみが増えた。
  • とても楽しく意義のあるプロジェクト。これからも続けてください。
  • いつかとびラーになりたい。
  • とびラーのみなさんが何より楽しそうだった。みなさんの“都美愛”をひしひしと感じた。共感できます💕 いつかやってみたい。
  • とびラーの皆さんの“都美愛‘‘を感じます。なかなか触れることのできないポイントを重点的にお話していただき、都美を更に身近に感じた。
  • とびラーの皆さんが楽しそう。そのままでいてください。

 

 

コロナ禍にも関わらず参加者のみなさまと一緒に美術館を味わうことが出来て本当に感謝しています。

 

 

 

■■ 受け継がれる想い ■■

 

少し時間を戻して、このプログラムが出来上がるまでをお話させてください。

 

このプログラムは、昨年度に任期を満了した7期のとびラーが始めた「とびラボ」がきっかけとなっています。入念な準備を重ねた企画でしたが、コロナ禍の中で参加者をお招きしての開催が叶いませんでした。種を蒔いてくれたラボのアイデアを実現させたいと思い、“この指とまれ”をしました。

 

前年度のとびラーのアイデアから、どんな芽が飛び出すか、どんな実がなるかは、集まったメンバー次第です。なぜならとびラボが “その場に居合わせる人がすべて”というモットーに基づいているからです。とびラボは発案した人だけのものではなく、そこに参加するすべてのとびラーによって、話し合われ、どんなラボにしたいのか、何を目的に、何を実施したいのかの議論や試行錯誤が続きます。

 

その結果、考えていたものと方向が変わって解散するラボもあれば、まったく違ったコンセプトで実施するラボもあります。ラボのメンバーがお互いに、聞いて、考え、話しあい、また聴く。この繰り返しの中で、改良が加わったり、新たなアイデアが生まれたりしながら、方向性が定まり、実現に向けての調整が続きます。

 

2021年の9月に“このゆびとまれ”をしてから約半年、亀のようにゆっくりゆっくりと進んだラボでした。その過程で、メンバーが自発的に企画の案を出し合いました。自らの出来ること、得意なこと、やれることを差し出し合い、みんなで作り上げたラボでした。

 

各ミーティングの議題、アイデアのたたき台、スケジュール管理、実施当日までの様々な進行など、プロセスだけに留まりません。広報用のビジュアルや、ツアーの目印となる旗、プラバンで作ったバッチ、サコシュと呼ばれる小さな肩掛けバックなど、それぞれが時間を見つけて作りました。

 

 

また実質的なコトやモノだけにとどまらず、常に励ましのメッセージや心遣いが行き交いました。ひとつのラボに関わるとびラーの動機や想いはそれぞれ、実施までに費やせる時間も人それぞれです。そこには関わった人だけの想いがあり、出来る人が出来るときに、出来ることをつないでいきます。

 

 

■■ 想いを現実に ■■

 

都美の魅力は作品だけではないこと、建築を含めた魅力がたくさんあることをお話してきましたが、それに加えて、人と人をつなげ、人と作品をつなげ、人と場所をつなぐ存在であるアート・コミュニケータ(とびラー)自身が大きな魅力になっています。

 

 

とびラ-の魅力とは何でしょう?「アートが好き」が唯一の共通項でしょうか。それ以外はバックグラウンドも、年齢も、仕事も、興味関心も、多様な集まりです。絵を描くことが得意な人もいれば、まったく絵は描けないという人もいます。印象派は好きだけど、現代アートはどう受け止めていいのか分からないから苦手という人もいます。建築?特に近代・現代建築は私もさっぱり・・ちんぷんかんぷんでした。

 

そんなバラバラな集団ですが、私が見出す共通項は「想いをかたちする力」がある人々だと思っています。いろんな状況下で当初描いたプランとは違っても、それぞれの想いを聞き、そこから出来ることを探していく。ひとりでは難しくても、集まれば知恵がでる。お互いの個性がぶつかり合うこともあれば、化学反応が起きて思わぬ方向に話が転がっていくことあります。

 

 

関わりの中から生まれた言葉や想いは、誰かの心の中に種や火種となって残り、そこに新たな水や空気が送り込まれると、芽が出たり、火種がポッと燃え上がったりもします。それは今日かもしれないし、一年後かもしれない。

 

 

誰かの想いと想いがつながって、車いすユーザーの方のための企画になったり、小さいお子さんをもつ親御さんのための時間となったり、視覚・聴覚障害の方が参加できるワークショップになったり、学校で過ごす時間が心地よいものではないお子さんたちがほっとできるスペースになったりしました。

 

個性豊かなとびラーたちの、いろんな想いやアイデアが、生まれ、受け継がれ、ラボとして実現しているのです。様々な試みを可能にしてくれているとびらプロジェクトという場と、そこに集まる人々に、私自身が魅了され続けた3年間でした。

 

 

 

■■ いざ美術館に! ■■

 

話が随分と逸れてしまいましたが、美術館は何かが生まれる場だと思います。作品から、作家から、人との繋がりから、そこで起こる事柄から湧きおこる想い。なんらかのひらめきやアイデアかもしれません。心にそっとともされた朧げな灯かもしれませんし、ある日燃え上がる火種かもしれません。それがモノやコトの実現に繋がっているとしたら・・

 

美術館に存在しているモノ、起こっているコトも、誰かの想いが実現したことに他なりません。作品も、イベントも、建築や、家具も、照明、壁や柱の一本も。

 

美術館は作品が展示されるだけでなく、人との出会いがあり、いろんな過ごし方ができる場所です。イベントや企画も行われています。どうぞ、ホームページから、フェイスブックから、Twitterから検索してみてください。

 

Fun!Fan! ― Funが見つかれば、Fanになる。

そこにあなたの想いが重なると・・・想いの実現の一歩になるかもしれません。

さあ、あなただけの楽しみを見つけに、いざ美術館に!

 

 

■■ Fun!Fan! お気に入りポイントリスト ■■

 

☆ アートラウンジ:100年前の旧館に想いを馳せる  石山敬子(8期)

☆ 列柱空間:地下に隠されたとびカンの背骨  脇坂文栄(8期)

☆ 公募棟・赤色の休憩コーナー:美術館を一望できる特等席  山中みどり(9期)

☆ 公募棟・黄色の休憩コーナー:大銀杏の記憶  黒岩由華(9期)

☆ 打ち込みタイル:チョコレートムース工法 岡田則子(9期)

☆ 天井・ライト:建築家前川國男のこだわり、優しく包む光の輪 向井由紀(9期)

☆ エスプラナード:息抜き、そして立ち話、彫刻のある散歩道 長尾純子(9期)

☆ 《my sky hole 85-2 光と影》:五感で味わう 卯野右子(8期)

☆ 公募棟雁行配置 (アートラウンジより):鳥になって俯瞰し羊羹をいただこう 鹿子木孝子(9期)

☆ リスが登っていきそうな小さな階段:公園から迷い込んだリスも斫り(はつり)工法に感激✨ 豊吉真吾(8期)

☆ ホワイエ:どこまでもどこまでも続く優しいオレンジの光 梨本真由美(9期)

☆ 中庭エレベーター横ガラス扉:開かずの扉は過去から未来へとつながっていた⁉️ 和田奈々子(8期)

☆ 《さ傘(天の点滴をこの盃に)》:屋外彫刻?だれの忘れ物? 井上さと子(10期)

☆ レストラン ミューズ:昼食えば 鐘が鳴るなり FunFanと 中田翔太(8期)

 

 

■■ Special Thanks to: 中田翔太(8期)広報ビジュアル・写真撮影

 

 

Fun!Fan!

 

東京都美術館の館内MAPはこちら:https://www.tobikan.jp/guide/floormap.html

 


卯野右子(8期とびラー)

とびラーの3年間、個性あふれる面々との関わりの中で、いろんな挑戦をさせていただきました。無謀・無茶・無理・無計画・無鉄砲な試みをあたたかく見守り導いてくださったスタッフのみなさまに、最大級の感謝を贈ります。楽しかった~!次のステージでも、想いを重ね合わせて、たくさんのモノやコトをうみだしていけますように!

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