東京都美術館× 東京藝術大学 「とびらプロジェクト」

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「金継ぎを通して作品が伝えるストーリーの一部になる」藝大生インタビュー2020|グローバルアートプラクティス専攻 修士2年・Nuttall Clementine Sarahさん

花瓶をたたき割るシーンから始まるショートフィルム『UNBROKEN』。【金継ぎ】をテーマにした、このショートフィルムのプロデューサーでもあり出演者でもある、クレメンタイン・ナットールさん。彼女にお話をうかがうため12月4日、東京藝術大学取手キャンパスに、黄星・内田淳子・石毛正修・安藤淳4名のとびラーで向かいました。ショートフィルムの中では終始、厳しい表情だったクレメンタインさんでしたが、寒い中、私たちを笑顔で出迎えてくれました。

 

―はじめまして

「今日は、よろしくお願いします。クレメンタイン・ナットールです。私は英国の出身で、国費外国人留学生として日本にはもう4年近く住んでいます。日本に来る前は、英国で彫刻、建築の保存修復の勉強をしていました」

 

 

―保存修復に興味を持ったきっかけは?

「高校を卒業したとき、自分が何をやりたいか? まだはっきりと分かりませんでした。なので、18歳で高校を卒業した後、そのまま大学に進学するのではなく、1年間旅に出たんです。世界中を旅して、興味を惹かれるものをたくさん見ました。その中で、私に多くのことを語りかけてきたのは建物やその装飾でした。そして、旅の途中で保存修復作業をしている人たちに出会い、モンゴルでは壁造りのプロジェクトを手伝いました。ドライストンウォーリング、壁造りですね。歴史的に重要な壁の保存修復を手伝いました。その時、『ロンドンに戻ったら修復の勉強をしよう』と思ったのです。初めは石彫、それから木彫を勉強。その後しばらく建築物の保存修復を勉強して、建築の保存修復の修士号を取得しました」

 

 

―日本に興味を持たれたのは?

「マーガレット・ベロディ先生がきっかけです。彼女は、英国の大学で修士課程にいたときの日本美術の先生でした。先生が退職される最後の年に先生の授業をとりました。当時先生は80代でしたが、人生を通じて日本の漆をとても愛している方でした。このベロディ先生のご家族の奨学金で2007年、初めて日本に来ました。日本を紹介してくれたのは先生ですし、日本に対する先生の愛や情熱を私が引き継いだのだと思っています。残念ながら、数年前に亡くなってしまいましたが、西洋で漆に携わっている人なら誰でも先生の名前を知っています」

 

 

―【金継ぎ】もその時に?

「そうですね。【金継ぎ】の発祥の地は日本です。ただ【金継ぎ】という保存修復の考え方は、西洋の保存修復の考え方とかなり違います。【金継ぎ】では、作品の歴史がよく見えるように保存修復し、保存修復作業をしている人は、隠れているというより作品が伝えるストーリーの一部になる。日本には長い歴史を持つ素晴らしい漆という伝統があり、それは【金継ぎ】という芸術の発展にとって非常に重要です。でもそれだけではなく、【金継ぎ】は景観との文化的つながりという点でさらに深い意味があると思います。動き変わり続ける景観の中で生活することから、くるものだと。私は日本に来て初めて地震を経験しました。自分が立っている地面が動く、という経験は本当にショッキングなものでした。でもそれは、日本の文化の一部でしょうから、日本人と大地や景観との関係は、英国人との関係とは異なる、はるかに多くの要素が絡み合ったものになるはずで、日本人は大地に対して大きな敬意を抱いているのだと思います」

 

 

―【金継ぎ】のように目に見える形で修復・修理するという考え方は、英国では馴染みがないものですか?

「英国では、修正箇所を隠そうとしてきました。でも、最近は変わってきているようです。東西のコミュニケーションが増えたためかもしれません。目に見える形、判読しやすい修理に対する関心が高まっています。英国の保存修復の方法では、何が起きたかを理解できることが重要です。でも【金継ぎ】では、修復家は何が起きたかを理解できるだけでなく、修復家も作品に貢献する。そこが、英国と少し違う点です。英国では保存修復する人はオリジナルの作品に対してものすごく敬意を払おうとします。時間をさかのぼって作品が作られた日付について熟考し、その瞬間に敬意を払います。【金継ぎ】では、修復家が自分の意図や表現を加えることができるのです」

 

―そのお話をうかがった上で、クレメンタインさんの破壊から始まるショートフィルム『UNBROKEN』は、やはり衝撃的でした。

「私は穏やかな人間なので、あの暴力的な瞬間は、とても不安に感じました。でも同時にあのショートフィルムは、あの瞬間があるからこそ存在できるということもわかっていました。何かものが作られて修復される、というサイクルの中では常に変化の瞬間があります。そしてショートフィルムの中で、それは壊れた瞬間なのです。修復作業で非常に大事なことは過去に戻って、その瞬間をさまざまな角度から調べることです。過去に戻ってその瞬間を調べなおし、前に進む手段として理解するために、さまざまな視点から作品を見て考えるのです」

 

―「過去に戻って」というお話で、2009年に手がけられたウィンザー城の聖ジョージ礼拝堂の彫刻プロジェクトは、いかがでしたか?

「ウィンザー城のプロジェクトは非常に珍しいものでした。なぜなら、交換されたグロテスク(中世ヨーロッパの教会建築の装飾に見られる奇怪な生物の彫刻をグロテスクと呼ぶ)の状態が悪くなっていたので。おそらく、オリジナルを交換したビクトリア時代の人たちが、選ぶ石を間違えてしまったのです。なので、もともと、どんな石が使われていたか全くわかりませんでした。でも、芸術家として参加するのにワクワクするプロジェクトでした。新たなグロテスクを自由にデザインできたのです。でも、そこにものすごく大きな違いがあるとは思いません。『保存修復』と『芸術』との間の橋渡しをするときにやるべきことは、いつだって、深く考えることですから。『そこに何があったのか』『次に何がくる可能性があるのか』をよく考えること。ウィンザー城の場合は、デザインを考えついたのは私ですが、15人のメンバーで構成される委員会が、そのデザインが適切かどうか決定しました。作品を大事に思っている関係者と、その場所や作品の歴史との間にコミュニケーションがあるという点で共通しているんじゃないかなと思います」

 

Phoenix Grotesque (Windsor Castle)

 

―クレメンタインさんのこれまでを、うかがってきましたが、クレメンタインさんの今、そして次は?

「今いる東京藝術大学のグローバルアートプラクティスという専攻では、自由に私自身の興味と願望に従って、作品に取り組むことができています。興味をひかれ、魂に話しかけてくることだけを作品にするという、大きな自由。でもその自由は、私がこれまでやってきた、いろんなことの中から生まれるものです。修了制作は【金継ぎ】のことを考えて、始めました。【金継ぎ】について考える必要もなかったのですが『私はまだ【金継ぎ】について考えたいだろうか?』と自問したら、『【金継ぎ】でなければできないことがあるなら、そうしなさい』という答えが返ってきたのです」

 

 

―修了制作のタイトルは、もう考えてらっしゃいますか?

「『熊野』になると思います。日本の自然は、どこに行っても、ほんとに素晴らしいですよね。私は山がほとんどない国から来たので、子供のころ山を見たことがありませんでした。山に囲まれて暮らすことは、日本での暮らしの素晴らしいことのひとつです。こういう作品の割れ目を見ていると、山と人々との信仰によって作られた古代の道を思い出すんです。どちらかが欠けても存在しません。

日本に滞在できる時間は限られているので、これから何をしたいか考えました。そして、歩きたいと。具体的には、熊野古道を歩きたいと考えています。熊野古道は伊勢神宮へ、つながっていますよね。伊勢神宮は、保存修復の考え方や【金継ぎ】に対しても多くの貢献をしてきました。それと海。アワビとウニも作品の一部になります。それと私たちが漆の作品に多く使う貝を求めて海に潜る海女さん。そういう様々なこと・ものが、全部作品に集まると思っています」

 

 

―どんな修了制作となるのか、今から楽しみです。長時間、ありがとうございました。

「こちらこそ、ありがとうございました。アーティストとして、こういう風に誰かが訪ねてきてくれるのは、とても嬉しいです。だってアーティストとしての9割は一人で机に向かっているのですから。なので、こういった会話ができる時間がとても特別です。なぜ自分が作品を作っているのかを思い出すことができます。本当に貴重な時間でした」

 

 

―インタビューを終えて

まだ実家にいた頃、父親が使っていた抹茶碗に【金継ぎ】が施されていました。「なんで、目立つ金色?」と幼いながら思いつつ「大切なものを、次の世代に引き継ぎ、長く使い続けるためのもの」という理解をしていました。今回、クレメンタインさんのお話をうかがって、【金継ぎ】は「修理」「修復」の側面はありつつ、(オリジナルの作り手に想いをはせた)修復家の「表現」や「感情」が加わることを知ることができました(【金継ぎ】だからといって、金ではなく、黒でも赤でも!)。

「日本のアートは、もっと学ぶことがある」と話されていたクレメンタインさん。「旅は始まったばかり」という彼女のこれからを追い続けたいと思います。

 

(インタビュー・文/とびラー)


取材:黄星、内田淳子、石毛正修、安藤淳(アート・コミュニケータ「とびラー」)

執筆:安藤淳

 

時代劇と落語と焼き物が大好きな、7期とびラーです。来館される皆さんと、とびラーの仲間と、一緒に感じて一緒に楽しむ「とびらプロジェクト」の活動に、無限の広がりを日々感じています。

 

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