2014.10.28
「楽園としての芸術」展開催期間中の9月19日に、とびラボから生まれた恒例企画、「ヨリミチビジュツカン」を開催しました。
ヨリミチビジュツカンとは、金曜日の夜間開館時間をつかって、美術館に寄り道してもらおう!そこで作品や人との新たな出会いや交流を楽しみ、美術館をもっと好きになってもらいたいという「とびラー」の思いからスタートした企画です。 今までの事前予約制から、当日参加型に変えて臨んだ今回。11名の方にご参加いただき実施しました。
19:30
まず、受付を済ませた方から順にグループに分かれて、自己紹介とファシリテーター役のとびラーからプログラムについての説明を受けます。
先ほど知り合ったばかりの人同士が、アートを通して互いにコミュニケーションをとることができる。なんか少し不思議ですよね。
同じ作品を鑑賞していても、見方や感じ方は人それぞれ。互いに言葉を交わしながら、そんな違いを認めることができるのも、この企画の魅力です。
どのグループの方も言葉につまることなく、自然と意見を述べていた姿がとても印象的でした。
気付いたらグループ同士の交流も!
鑑賞が進むに連れて、だんだんトークも盛り上がり、参加者の皆さまからは自然と笑顔が増えていきました。肩の力が抜けてリラックスして鑑賞する様子が、写真からも伝わりますね。
鑑賞後はカフェタイム!場所は、普段なかなか入る機会のないアートスタディルームです。
20:10
カラフルな椅子や、とびラー持ち寄りのお菓子を配したテーブルを見て参加者の方からは思わず「楽しそう!」という声も。
そんなわくわく空間を、今回は特別にカフェスペースにアレンジして、参加者の皆さまをとびラーがおもてなし。各自好きなドリンクを選び、先ほど鑑賞したグループごとにテーブルへ移動します!
お茶を飲んでリラックスしながら、鑑賞を通して感じたことや気付いたこと等をグループ内で共有します。
各自配布された付箋を使用して、思ったことを次々と書き込んでいきます。そして、書き込んだ付箋を見せ合い、お互いの思いを共有していきます。
展覧会の図録を見ながら、さらに話は盛り上がっていきます。どのグループの方も身振り手振りで思いを表現する姿がとても印象的でした。
みんな表情がいきいきしていますね。付箋に書き込んだことについて、お互いに質問したり、気になったことを話したりと対話も段々と熱が入ります。
21:00
ただ、楽しい時間ほど早く過ぎてしまいますね。あっという間に閉館時間の21時を迎えてしまいました。
プログラムの終了を名残惜しみながら、参加者の皆さまをとびラーがお見送りします。
参加者の皆さま、19時半からの長丁場お付き合いいただきありがとうございました!
参加者の皆さまが、それぞれ作品を通して受け取ったものは、形を変えてたくさんの意見や感想として集まりました。ヨリミチビジュツカンに参加したからこそ出会えたもの、人々の新たなつながりやコミュニケーションがあります。
金曜日の夜、仕事終わりの時間を利用して、ふらっと美術館に立ち寄ってみませんか。そして、そこで生まれる新たなコミュニケーションを、次回はあなたも体験してみませんか?
著者:アート・コミュニケータ(とびラー) 日野 南
普段は自治体職員としてはたらく傍ら、多種多様なひとびとが集まるとびラーに魅力
を感じ、アートコミュニケータとして活動中!
2014.10.22
2012年のとびらプロジェクト始動以来、藝大の様々な科を訪れてきたが、デザイン科は今
回が初めてとなる。
取材を受けてくれたのは、4年生の木下真彩さん。
木下さんに案内され制作室に足を踏み入れる。夏休み中ということもあって他に人の姿は
なく、ところどころに置かれた制作机、大きな絵画、衣服をまとったトルソー、オブジェ
のような物が部屋のいたる所に置かれている。
“デザイン”という言葉はとても幅広く感じられる。デザイン科に身を置く彼女達にして
も、それは同じようだ。高校3年生まではバスケ一筋だったという木下さん。
「漠然と美大に行きたいとは考えていたんです。ポスターやグラフィックが好きだったの
で、グラフィックならデザイン科かな?と。1・2年生の頃は共通の基礎課題を全員がやり
ます。これからどこに行こう?って私もみんなも迷っていましたね」
デザイン科は全体的に課題の数も少なく、内容も解釈の幅を持たせた大きなテーマが多い
という。もしかすると、制作物そのものというより“発想”そして“アウトプットに至る
道筋”に重きが置かれているのかもしれない。
デザインとアートの違いを尋ねると、
「デザインはコミュニケーション、アートは自己表現とよく言われますね。ただ、説明す
るならそう言えば簡単だけれど、実際すごく難しいなって思うようになってきました」
言葉を探しながらそう答えてくれた。
そんな木下さんが取り組んでいる卒業制作のテーマは“タイポグラフィー”だという。
「街中の看板の文字を採集して、その書体の持つ表情やキャラクター性を読み取ろうと思
っているんです」
都内を中心に、自分の足で街を歩き回り、お店などの看板の文字を写真に撮り、スケッチ
に起こしたものを集めていく。単語でも文章でもなく、ひとつひとつの文字そのものを。
「卒展に向けて、まだまだ量を増やしていきます。最終的な形はまだ決まっていないけど、
色の出し方や並べ方を工夫して、標本として。入口は研究ですが、アウトプットは制作に
なりますね」
タイポグラフィーに興味を持ったきっかけを尋ねると、PC の画面を開いてポスターのデー
タを見せてくれた。一見、普通のカタカナが並んでいるようだが、よく見ると、その文字
ひとつひとつが建物の形をしている。
「去年、古美術研究の授業で“伝統とデザイン”っていう課題が出て、その時に日本建築
を題材にとったんです。それで日本伝統の文化とか色々と調べていくうちに文字にも興味
が出てきて、洛中洛外図をモチーフに、文字を乗せてポスターを作りました。洛中洛外図
って、パースのない、無限に広がっていく俯瞰図ですよね。それが文字の特徴と似ている
なと思ってリンクさせてみました」
研究対象へのアプローチの仕方もユニークだ。
「文字を掘り下げていくうちに“水”っていうテーマが出てきて。大河の一滴、一滴の水
から広がって川の流れになっていく。文字も、ひとつひとつが集まって語になって文章に
なって意味を持っていく。それを実感するために、去年の秋、京都へ行って鴨川の上流か
ら下流まで30km を1 日かけて歩きました」
朝から日暮れまで数多くの写真に収められたのは、ほとんど真横から切り取られた、少し
ずつ表情を変えていく川と景色の姿。
「やっぱり時間の流れとか空気感とか、実際に行ってみなくちゃ分からないなって思いま
した。街並みとか、歩いて何かをするということが好きになったのは、それがきっかけだ
ったかもしれません」
木下さんの取り組みには、現代社会における様々な現象を調査し、その在りようをつ
まびらかにしていく「考現学」の面がうかがえる。それは、自分の生きる世界や時
代に、深い興味と愛着を持っているからこそできるのだろう。
今後について尋ねると
「大学院への進学を希望しています。もっと勉強して、自分はこれができるっていう芯を
しっかり養ってから社会に出たい。その後どうなるかはまだ分からないけれど、建築が好
きなので、グラフィックを通して建築方面の人と関わったり、本の装丁を作ったりできた
らいいなと思います。時期的には、ちょうど東京オリンピックの頃になるので、それにつ
いても考えますね。2回目の東京オリンピックであることや、その10年・20年先のことも
考えたデザインって何だろうと。実現できるかは分からないけど、考えていることは色々
あって、クラスの子たちともよく話をします」
東京オリンピックの頃には、現在の「いま」が「6年前の記録」になる。木下さんが集めて
いる「いま」の集積は、それ自体がひとつの完成形でありながら、同時に未来への種まき
でもある。6年後、あるいは10年後20年後、どんな花を咲かせてくれるのか楽しみだ。
(2014.9.19)
執筆:角田結香(アート・コミュニケータ とびラー)