2019.05.30
クリムトの“かたち”わたしの“かたち”
クリムトの描く“かたち”に触れてみませんか
作品に描かれている文様や・装飾的な形に注目し、ステンシルやスタンピングなどの技法を使って共同で大きな1枚の布に作品を描きます。
自分にとっての新しい“かたち”が見つかるかも!
手を動かして何かを作ることから遠ざかっている方におすすめです
日時|2019年6月16日(日)13:00 – 15:30(12:45 受付開始)
会場|東京都美術館 交流棟2階 アートスタディルーム
集合場所|東京都美術館 交流棟2階 アートスタディルーム
対象|18歳以上
定員|10名(先着順・定員に達し次第受付終了)
参加費|無料
申込方法|以下の専用フォームからお一人ずつお申し込みください。
たくさんのご応募ありがとうございました。
※参加には事前申込が必要です。
※先着順・定員に達し次第受付終了します。
※プログラムには「クリムト展 」展示室での鑑賞は含まれておりませんので、ワークショップの前後の時間でぜひ展覧会をご鑑賞ください。
※広報や記録用に撮影を行います。ご了承ください。
2019.05.30
展覧会だけではなく美術館の建物も楽しんでほしい!そんな思いからはじまったツアー。前川國男が設計した東京都美術館を散策しながら、その魅力をご紹介します。
日時|2019年7月20日(土) 14:00-14:45頃(45分間程度)
集合場所|東京都美術館 LB階(ロビー階)ミュージアムショップ前
参加費|無料
定員|30名(当日先着順)
参加方法|当日13:45頃より、東京都美術館ロビー階ミュージアムショップ前にて受付を行います。直接お越し下さい。
ライトアップされた東京都美術館を散策するツアーです。夜ならではの建物のみどころをご紹介します。
日時|2019年6月14日(金)、7月5日(金)、26日(金) 19:15 – 19:45頃(30分間程度)
8月23日(金)、30日(金) 20:15 – 20:45(30分間程度)
集合場所|東京都美術館 LB階(ロビー階)ミュージアムショップ前
参加費|無料
定員|15名(当日先着順)
参加方法|当日はツアー開始15分前より東京都美術館ロビー階ミュージアムショップ前にて受付を行います。直接お越し下さい。
※受付開始後、定員になり次第受付を終了します。
※記録用の撮影や取材等が入ることがあります。
2019.05.25
5月25日(土)、基礎講座第4回は「作品を鑑賞するとは」をテーマに行われました。
本日の講師は、東京都美術館 学芸員 アート・コミュニケーション係長の稲庭彩和子さん。
作品を鑑賞するとはどういうことか、アート・コミュニケータとして、作品を介して鑑賞者と関わる活動の可能性を考えます。
【午前】
午前中は、アートスタディルームで3つの映像を見て話し合いました。
最初の映像は、メトロポリタン美術館元館長のトーマス・P・キャンベル氏によるスピーチ、「美術館の展示室で物語を紡ぐ」。タペストリー研究家のキャンベル氏が、学生時代に先生に教わったことの話から始まります。
本物の作品を目の前にすることは、時空を超えて過去の人々に出会うこと。作品に出会うときは、美術の専門知識はひとまず置いておき、自分の目で見た直感を信じることが肝要なのだそうです。
自身が企画した展覧会を例に挙げながら、キュレーターがつくる美術館の体験は、難解なテーマを観客に分かりやすく示すことなのだともキャンベル氏はいいます。
視聴後、映像を見て印象に残ったことや疑問などをまず1人で振り返りました。
3人組になって気になったことをシェアしたのち、全体で意見を共有するとこういう意見が出てきました。
「作品を鑑賞する行為は、人を知るために耳を傾けていくことに似ている」
「美術館を居心地悪く感じる人たちに対して、とびラーとしてどのように関わっていくことができるのだろう」
学芸員の稲庭さんからは、「キュレーションは作品を鑑賞者と近づけるためのもの」であり、人に出会うのと同じように、作品と出会えたとき、社会が紡いできたものに自分がつながるという感覚が生まれる、というお話がありました。一緒に伴走してくれる人が隣にいることで、作品が「関心をもつべきもの」なのだということがわかり、知らなかった世界を知ることができるといいます。
美術館、そしてアート・コミュニケータ「とびラー」の役割を考えさせられるお話でした。
次に視聴したのは、学校との連携に力を入れているイザベラ・ガードナー・スチュアート美術館の「アートを通して考える(Thinking through art)」。
美術館で行われている対話による鑑賞(Visual Thinking Strategies = VTS)の実践の様子が映されています。
子どもたちが作品を見ながら気づいたことや考えたことを発言し、それをファシリテータがつなぎ、問いを投げかけ続けていきます。
視聴後は、VTSの具体的な手立てについてとびラーから質問が次々と飛び交いました。
稲庭さんはVTSを通した学びについて、学校の国語の授業で文章を精読するように、「絵を細部までよく見ながら考える」ことに慣れていくためのトレーニングなのだと話していました。
最後の映像は、東京都美術館の休室日の展示室を学校のために特別に開室して行われるプログラム、Museum Startあいうえの「スペシャル・マンデー・コース」。
休室日の展示室を学校単位で訪れる子どもたちのために特別に開室し、ゆったりとした環境の中で子どもたちが本物の作品を鑑賞することができます。
映像では、子どもたちの鑑賞をとびラーがサポートしている様子がうかがえ、実践のイメージを膨らませるものとなっていました。
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【午後】
午後からは、作品の鑑賞を実際に体験します。
まずは絵をみるためのエクササイズとして、作品のアートカードを使って「納得!ゲーム」をしました。
価値が多様化し誰もがそれぞれの正解をもっている世の中で、求められるのは“納得解”。1つの正解を求めるのではなく、みんなが納得できる答えを紡いでいくことが大切です。「納得!ゲーム」はそこにつながるようなコミュニケーションゲームです。
1グループ8〜9名程度で、8つのグループに分かれてゲーム開始。
テーブルのカードと色、形、イメージなどで共通点のある一枚を自分の手持ちのカードから探し、2枚のどこが共通しているのかを説明します。
グループ内の半数以上が「納得!」してくれたらOK。
「こことここに女の人が描かれています」
「赤色が使われています」
カードをじっくり見つめながら、メンバーの主張に耳を傾けます。
共通点となるキーワードは一度しか使えないため、テーブル上のカードが増えていくにつれて「うーん、そうかな?」という声が聴こえ始めました。
共通点の根拠を熱弁する姿や、メンバーに助け舟を出されて、言い回しを変えたり他の共通点を見つけたりする場面も見られました。
作品カードを通したゲームで頭をやわらかくして、作品を自分の目でよく見られるようになったら、今度はいよいよ実物の作品を鑑賞するために、展示室へ出発します。
グループごとにファシリテータを務める2・3年目のとびラーに連れられて向かった先は、「第85回記念 旺玄展」。
午前に映像を見たVTSの手法を用いて、1作品につき15分程度で2作品を鑑賞しました。
まずは、しばらくの間、一人で静かに作品を見ます。
そして「この絵の中では何が起こっているでしょうか?」というファシリテータの問いかけから、気づいたことや考えたことを言葉にしていきます。
その際に大切なのは、「絵のどこを見てそう思ったのか」という根拠を示すこと。
美術や美術館に関心のある大人が集まっているからか、序盤から深い解釈の発言が飛び出すグループもありました。
ファシリテータは、参加者から出た発言を言い換えて全員に共有し、考えと考えをつないで整理します。
場が温まってくると、気づいたことや何気なく思ったことが次々と出てくるようになりました。
一人一人の視点やもっている知識によって互いに触発され、作品の見方が広がっていきます。
一つの作品を見終わる頃には、発言が紡ぎ合わされ、グループごとの作品の見方がゆるやかに醸成されていきました。
ふたたびアートスタディルームに戻り、展示室での体験を振り返ります。
「一人一人感じ方が違うため、皆で見ることで異なる視点を共有できるのだと気づいた」
「自分一人では気にもとめない絵が一生忘れられない絵になった」
自分がファシリテータになったら、様々な発言をどのように受け止め、言葉を返すのか。映像や実践を通して気づきや考えが深まります。
鑑賞について考えた1日の終わりに、稲庭さんはこう言います。
どの意見も等価で扱う雰囲気をつくっていくこと。
食わず嫌いをせずに様々な絵を見て、頭の中のビジュアルのデータベースを増やしていくこと。
とびラーの皆さん自身が、自分の目と耳と頭をつかって作品をよく見ることの面白さを味わい、来館者が作品を見る伴走者となるための一歩を踏み出す1日となりました。
(東京都美術館アート・コミュニケーション係 アシスタント 浜岡 聖)
2019.05.11
5月11日(土)、基礎講座第3回目が開催されました。講師は第2回目に引き続き、とびらプロジェクト・アドバイザーの西村佳哲さんです。
とびラーが自主的に活動していくためには、自分たちでチームをつくり、アイディアを共有し、お互いの力を上手に出し合って、成果を求めなくてはなりません。今回は小さなチームのつくり方や、そこに集まった人たち全員の力を活かした活動のつくり方について学びます。また、活動のはじめ方だけではなく、終わり方のデザインについても理解を深めます。
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まずは“キャンティレバー・ワークショップ”からはじまります。スパゲッティをテープや糸でつなげて横に長く伸ばしていき、その長さを競うというもの。固定可能な部分は机の天板だけで、机からせり出た部分の長さを測ります。制限時間は30分、とびラーが3人組にわかれてスタートです。
チームによって動き出しはさまざま。とりあえず手を動かしてみるチームや、話し合いからはじまるチームも。スパゲッティが床につかないように、なるべく長くつなげていきます。いかに床と平行に伸ばすかがコツ。
30分後、それぞれのチームのキャンティレバーが完成。一番長いチームは117cmでした!
スパゲッティを長くつなげるスキルがとびラーの今後の活動に活かされる…というわけではもちろんありません。「ここから何を獲得したかですよね」と西村さんは問いかけます。スタンフォード大学工学部で開発されたこのワークショップには、ものつくりやプロジェクト、共同作業の重要なエッセンスがたっぷり含まれているのです。
◆「今の経験の中から他のことにもあてはまるなっていうことを持ち帰れる人は、次にいろんなことができるようになっていく」
プロジェクトやミーティングをやりっぱなしにしていると、なかなか先に進むことはできません。何か具体的な経験をやったあとはふりかえりを行うことが大切です。しかしいざふりかえりの時間を持ってみると、つい反省会になってしまいがち。「私がもっとこうしていれば…」「これが悪かった、できなかった」という個別的な内容に気を取られていると、次のステップには進めません。どのようなプロセスによって何が起こったのかに着目し、よかったところや改善できるところをふりかえります。個別の経験を抽象的なエッセンスに昇華させることで、別の事象への応用が可能になります。
◆「当たり前だけど、ちゃんと明示的で良好なコミュニケーションが大事」
キャンティレバー・ワークショップを通して見えたいろいろな気づき。チームで活動していくうえで大事なのは適切なコミュニケーションだということは、どのチームでも実感できたのではないかと思います。ひとことに“コミュニケーション”と言ってもその方法はさまざま。まず思いつくのは“言葉”でのコミュニケーションですが、「言葉というのはすごく抽象度が高いもの。だから使いやすいんですよ」と西村さんは話します。だからこそ、具体的に伝える努力をする重要性が出てきます。言葉だけでなく、手元にあるものでやってみせたり、絵に描いてみたり。そのようなコミュニケーションが繰り返されることで、そのアイディアや計画に他人が参加可能になっていきます。
“気づきの共有”をすることも大切です。誰かの小さな気づき、違和感や小さな喜びなどの積み重ねでプロセスは進んでいきます。「こうしたらいいんじゃないか」「これちょっと違うよね」と思ったことを自分の中にとどめておくのではなく、その気づきを発話することによって、チーム内で蓄積することができます。
◆「物事を進展させていく方法は、早めに試して失敗するしかない」
つまりはトライ&エラー。ちょっとやってみるとわかる、それならこうしようというステップを踏んで、らせん階段を昇っていくように成果を積み重ねていきます。この考え方が、スタンフォード大学で一番重視されていたものだそうです。
スキーの練習をして上達していくプロセスを想像してみましょう。はじめはうまく滑ることができず失敗を繰り返しますが、急斜面を何回も転びながらもだんだんと“感じ”をつかんでいきます。滑る感覚をつかんできたら、あとは滑り方の精度を上げていく方向にシフトしていきます。物事をはじめる時は「失敗するかも」「もっといい案があるかも」という考えでなかなか動き出せないことがあるかもしれません。しかし、まず手を動かしてみたことによる失敗は、今後の資産になります。
◆「とびらプロジェクトには“やってみる”文化が根づいて育っていくといいなと思っています」
チーム内での役割分担や時間配分についても、その重要性を西村さんは話します。手持ち無沙汰になったメンバーはいなかったか。「あと10分で終了です」の呼びかけで初めて時計を見たチームはなかったか…。チーム内の動きや自分の立ち回りを思い起こしながら、自分たちのプロセスをふりかえります。
西村さんのお話に納得し、次の活動に向けての意識が整ったとびラーのみなさん。これまでのお話を踏まえて、キャンティレバー・ワークショップに再挑戦します。スパゲッティを長くつなげていくのは変わりませんが、次は横方向ではなく縦の方向に伸ばしていきます。制限時間は15分。心機一転、新しい3人組で挑みます。
コミュニケーションとトライ&エラーを意識して作業に取り組むとびラーのみなさんの表情は、先程と比べてとても生き生きとしているように見えます。
◆「関わった全員がこんなとこまで来ちゃったねっていう感じになれるのはすごくいい」
ひとりで考えるだけではなく、複数人でのコミュニケーションが重ねられたことによって自然と高い到達点に至った、というプロセス。チームで活動するときの理想だなと感じます。ワークショップの実践からはじまった今回の西村さんのお話は、とびラーの活動のひとつとびラボで活かされるのではないでしょうか。
とびラボとはとびラー同士が自発的に開催するミーティングであり、新しいプロジェクトの検討と発信が行われる場です。とびラボの基本は以下の3点。今回の基礎講座のタイトルにもなっています。
①この指とまれ
とびラーは新しい活動のアイディアがひらめいたら、「この指とまれ」のひとことで他のとびラーを集めます。3人以上のメンバーが集まったらチーム成立。
②そこにいる人が全て式
ミッションの達成に向けてチームを組み目標に向かうのではなく、その場に居合わせた人が集まってできることをやっていこうという方式。この方式の元になったのは、デザイン事務所grafの立ち上げメンバーである豊嶋秀樹さんの考え方です。居合わせた人たちが必要なことは何か、みんなで力を出せることは何かを考えてそれに向かっていく。普段は目標やミッションに向かって仕事に取り組んでいるので新鮮な視点だった、というとびラーの声もありました。
③解散設定
前向きに辞める、クリエイティブに閉じていくことについて考える機会は、日常の中では少ないかもしれません。離れられるタイミングを一度つくることの重要性は、これまでのお話ともリンクします。解散するときにはふりかえりをします。反省会ではなく、そこで何が起こっていたのかを見つめ直すことで次に活かす。メンバーが入れ替わるタイミングをつくることで、チームの健全さや風通しを担保することにもつながります。
◆「“面白い”を大事にしてほしいなと思います」
西村さんが担当する基礎講座は今回で終了です。講座の終わりに、とびらプロジェクトでの活動について西村さんからこんなひとことがありました。正しさ、正義ではなく“面白さ”で動いていくことの大切さ。当たり前のように見えて、実は忘れがちな視点であることに気づかされます。
“この指とまれ”で集まったとびラーが“そこにいる人が全て式”で考え、定期的に“解散”することで常にフレッシュな気持ちで活動する。そのようなプロセスが繰り返される中で、とびラーのみなさんがそれぞれの考える“面白さ”を創造していくことができたら嬉しいです。
(とびらプロジェクト アシスタント 石倉愛美)
2019.05.06
2019.05.05
2019年5月5日(日)、令和元年のスタートにふさわしい、清々しい五月晴れに恵まれた日曜日の昼下がり、上野公園では、9名の参加者のみなさんととびラーが笑顔あふれる和やかなひとときを過ごしていました。
「五感で歩こう!春の上野公園」
美術館で行いますが、作品の鑑賞や、展覧会に出かけることはしません。上野公園で「心地よい」場所・こと・もの・・・を「五感」で感じてもらう、というワークショップです。一風変わった?このプログラム、そもそもどんなきっかけで生まれたのでしょうか。
アイディア誕生のきっかけとなった出来事。それは2年前の基礎講座にさかのぼります。
その日のテーマは「新企画プレゼン大会!-上野公園内の指定された場所をリサーチし、各所の魅力を活かしたプログラムをつくろう-」
課題:「美術館、博物館、お寺、桜並木など、上野公園には人を惹きつける様々な要素があります。場所・もの・人の動きをよく見てきてください。各自がリサーチしてきた内容を組み合わせて、とびラーの視点ならではのプログラムを提案してください。」
「まずは、上野公園を歩いている人をよく見てくるように!」
講師の日比野克彦さんからのアドバイスを聞いた後、グループに分かれて上野公園の様々なところにリサーチに出かけました。
上野公園を歩いている人を改めて観察してみると、表情はみな穏やかで、歩くスピードも心なしかゆったり。日常とは少し違った時間が流れている・・・そんな感覚を覚えました。
上野公園でのリサーチでは、
《古墳や川を発見したり、歴史的建造物にふれたり、ユニークな像を見つけたり、木々の緑や植え込みの花の美しさに癒されたり、幼い頃の原風景が蘇ったり・・・》
いつも歩いている通りも、視点を変えてみることで、次々に新しい発見へと繋がり、その面白さに夢中になりました。
「上野公園ってこんなに魅力に溢れるところなんだ!今まで全然気づかなかった!」
リサーチ後は、いよいよプログラム作りです。
メンバーが、それぞれの場所での発見や気づきを共有してから、「どんな体験を来る人に味わってもらいたいか」を話し合いました。
知らなかったものやこと、新しい発見、面白い出来事、穴場情報などを意見交換しているうちに、「今まで私たちが周囲のことに気づかなかったのはなぜなんだろうね?」という話になりました。
「上野に来ても、美術館や博物館とか目的地に向かうだけだからじゃない?」
「歩きスマホしたり、ナビに頼ったりするのも原因かもね。」
「じゃあ、普段は気づかないことやものに触れてもらうために、思い切ってスマホや携帯、カメラはお預かりして、自分の五感だけを頼りに上野公園を体感(体験)してもらうプログラムはどうかな?」
「普段意識していない五感を開くと、周囲のことがフレッシュに感じられるかもね?」
このような流れで、「五感で歩こう!春の上野公園」の原案となるオリジナルプログラム「心のタイムスリップ 感じて上野」が誕生しました。
(講座当日、プレゼンテーション用に作ったシート。「五感」「携帯は預けて」とありますね。)
講座後も、この原案をもとにして、”一般の方を対象にしたワークショップをやってみたい”という気持ちを持ち続けること約2年!
「スマホ・携帯は置いて、上野公園の五感歩きを体験してもらいたい。」
「五感を磨くことで、美術館や博物館での作品の見方も変わるはず。」
この2つのコンセプトを大事にしながら、より良い内容にするための度重なるミーティングやトライアルを実施し、とびラーの試行錯誤は続きました。
そうした経緯で、ついに実施の日を迎えたというわけです。
では、当日の様子をご報告させていただきます。
まずは準備からスタート。テーブルには公園に出かける際に使うツールをセットして並べます。
(参加者お一人ずつに用意したツール。バッグも含め、ほとんどがとびラーの手作りによるものです)
[13時15分 受付開始]
参加者の方をお迎えして、2つのグループに分かれて座っていただきます。
[13時30分 プログラム開始]
オープニングのごあいさつと、ワークショップの内容説明から始まります。
「今日は美術館に集まっていただきましたが、これから上野公園に出かけていきます。不思議に思われる方もいらっしゃるかもしれませんね。今日はみなさんに、五感を使って上野公園で”心地いいなぁ”と感じる何かを体験してほしいと思っています。」
テーブルの上に置かれた上野にまつわる句を紹介します。芭蕉が詠んだものです。
「花の雲 鐘は上野か浅草か」
「みなさん、どんな風景が見えてきますか?音は聞こえますか?想像を膨らませてみてくださいね。」
ここからはグループごとの活動です。
まずはみなさんに、上野公園とのエピソードを交えながら自己紹介をしていただきます。
テーブルに並べた五感シートを利用して、改めて「五感」についてみんなで考えながらイメージを膨らませます。
「みる」「きく」「さわる」「かぐ」「あじわう」
「上野公園では五感を使ってどんな体験ができると思いますか?」
「あなたはどれが気になりますか?今日は上野公園でどれを使って歩いてみたいですか?」
そして、五感ツールの説明をします。
「小さな紙製フレーム、紙コップの集音器、特製メモ帳、付箋、採取用のビン、えんぴつ、そして、携帯封印用の封筒とシールです。」
それでは、スマホや携帯は封筒に入れて封印してくださいね!
[14時10分 上野公園に出発]
五感ツールはバッグに入れて各自持っていきます。プログラムのキーポイントとなるアイテム「ヨガマット」はとびラーが持っていきます。
都美の壁面に映る木の影をみんなで鑑賞。特製メモ帳の表紙写真と比べてみてくださいね。
ここで深呼吸しましょうか!
さあ、ヨガマットをひいて、みんなで寝っころがりましょう!どんな景色が広がっていますか?どんな匂いがしますか?
上野公園で寝っ転がってみるという、「全身で感じる」体験をきっかけに、みなさんの五感スイッチが入ったようです。一人じゃ躊躇してしまうことも、みんなとだったらトライできる!未体験のことって、大人でもなんだかワクワクしますよね。
リラックスした状態で、普段の視点を変えてみることで、日常と見えるものが違うことに気づきます。
・・・新緑の鮮やかな色合い、木々の枝の不思議な形、きらきら輝く木漏れ日、
ラッキーなことに、虹が見えた方も!
また、地面に顔を近づけたことで、自然の匂いに気づきます。
・・・土、木々や葉っぱの匂い。ハッとするほど香りが立っている!
どんな匂いがしますか?
何が聞こえてきますか?
おや?なにか不思議な形のものを発見!
落ち葉がいっぱいで地面がふわっふわ!こんな感覚初めて!なんて心地いいんだろう!
大きな切り株で、特製メモ帳にフロッタージュする方も
グループで五感体験をしたあとは、いよいよひとりの時間です。思い思いに、自由に上野公園で「心地よい何か」を感じてきてくださいね。いってらっしゃい!
[15時10分 アートスタディールームに再集合]
10分間のティーブレイク後、プログラムの後半は全体の共有時間です。
テーブルに広げた大きな上野公園の地図を囲んで、それぞれが体験してきた上野公園の「心地よい場所、こと、もの・・・」を、カードに記入してもらいます。書き終わったカードは地図の上に立てていきます。採取してきたものは瓶にいれたまま、あるいはそのまま置いてもらいます。
一人ずつ上野公園での「心地よい」体験や発見を話していただき、全員で共有します。
「へ~そうなんだ!」「え、どこどこ?」「わあ、今度行ってみよう!」和やかに、そして大いに盛り上がりました。
共有することで、それぞれの「心地よい」が、みんなの「心地よい」になったのかもしれませんね。
みなさんに書いていただいたカードです。
共有したあとは、今日の体験についての感想をみなさんから一言ずついただきました。
◎楽しいひとときだった。土に寝ることは普段ないけれども、気持ちよかった。
◎上野公園でこんな楽しみ方があるのか、という発見ができた。
◎五感が研ぎ澄まされた。このあと作品鑑賞したらどうなのか、と気になった。
◎最初に「五感」について話があったので、意識を集中できた。
◎「五感ツール」が良かった。
◎五感を使ったワークショップとはどんなもの?と思っていたが、自由にどうぞ、というのが良かった。
◎いつもは目的を持って歩いてしまうが、今日はゆっくりと過ごせた。
◎寝転がってみて、上野公園の匂いを感じた。
◎上野は仕事の場で、慣れたところだと思っていたが、普段気づかない五感を使った体験で新しい公園に出会えた感じがした。
◎とりあえずゆっくりどうぞ、の感覚が良かった。
最後に、今日上野公園で五感を使った感覚をもったまま、アート作品も楽しんでいただけるように、東京都美術館をはじめ上野公園の各ミュージアムで開催中の展覧会や作品、魅力的な建物など、とびラーのおすすめを紹介しました。
[16時 プログラム終了]
スマホや携帯の封印を解いて、解散です。楽しい時間をありがとうございました。
今回の参加者は、台湾からの方、障害はあるけれど歩くのが好きな方、五感を使ったプログラム自体に興味がある方、作品を使わないワークショップってどんなものなのか関心があった方、普段から携帯を持たない方、など様々でしたが、アートや自然に興味をお持ちであるというところは共通していました。そんなみなさんがそれぞれ思い思いに上野公園を五感で体感し、「こんな楽しみ方があったのか、いい時間だった。」と言っていただけたことがとても嬉しく、また、私たちも一緒に心地よい時間を過ごすことができたことに感謝の気持ちでいっぱいです。
美術館を飛び出して「上野公園」がフィールド、そして「五感」という感覚をテーマにしたワークショップを作り上げることは容易ではありませんでしたが、とびラーらしい視点でその形を模索し、「美術館と上野公園、そして人をつなぐ」という新たなコミュニケーションの場を創造できたことは、これからの活動の幅を広げていくための原動力になります。
五感を開いて全身で感じてみること、そうして研ぎ澄まされた感性やそこで育まれた感情は、美術館や博物館で作品と向き合う際にもきっとプラスになることと信じています。
とびラー3年目!一つひとつ、ていねいに積み重ねて考え続けることの大切さを学んだことで、自分の想いをかたちにできるミラクルに出会えました。アートとともに、楽しく居心地のよいコミュニケーションの場づくりをこれからも追い求めていきたいです。