2022.12.24
2022年12月24日、「ミュージアムは好きだけど、もっと楽しみ方を知りたいなあ」という方におすすめのワークショップを開催しました。
クリスマスといえば、贈り物をおくったり、温かな気持ちになるシーズン…
アート・コミュニケータ「とびラー」として、参加した人がアートを介して温かな気持ちを感じられる場を作れないだろうか?
というコンセプトのもと、企画しました。
当日は、2つの展覧会*を舞台に…
・グループで作品をみて、気づいたこと・感じたことを語り合う
・とびラーと一緒に「本物との出会い」を楽しむ
ということを行いました。
鑑賞した展覧会:
・上野アーティストプロジェクト2022 「美をつむぐ源氏物語―めぐり逢ひける えには深しな―」
■ワークショップが生まれるまで 〜どんな場になってほしいかを、考える〜
準備を始めたのは、10月末…
「クリスマスってあったかい気持ちになるよね〜。」
「プレゼント交換とか、いいよね。」
「美術館でクリスマスイブを過ごしませんか?っていう企画、どうかな。」
「いい!」
「美術館でもあったかい気持ちになれるって知って欲しいね。」
まず、コンセプトの核となる思いをすり合わせた私たち……
「どうしたら参加してくださる方々に美術館で過ごす温かい気持ちと時間を届けられるだろう?」「その想いを実現するためには、どうしたらいいだろう?」と、何度も何度もメンバーで話し合いを重ねました。
そこで最終的に決定したのが、「アートを介した対話をしながらの鑑賞」です。
これは、とびらプロジェクトが大切にしている、複数人で対話をすることで様々な視点を共有できる鑑賞法の一つです。アートを介した対話によってそれぞれの視点や思いを伝えあい、許容しあう。アートが参加者同士をつなぎ、温かな時間を生み出すことを期待して、これをワークショップのメインコンテンツとします。コロナ禍であり、展示室で実際の作品をみながら話すことはかないませんでしたが、モニターを使って鑑賞することとしました。
対話をしながらの鑑賞後は、「本物との出会い」の場を作ります。
実際の作品に出逢い、新たな発見をする時間にしたい!というのも、メンバーの一致した想いでした。ちなみに、当日鑑賞した展覧会2つは、いずれもテーマが「源氏物語」!当日がクリスマスイブということで、少し違和感があるかもしれません。
ですが、「源氏物語」はたくさんの『愛』が語られる作品。クリスマスの温かな雰囲気に合うのではないか?と考え、この展覧会での作品を参加者と鑑賞することに決定しました。
■プログラム構成を考える 〜想いを生かす設計とは?〜
コンセプトをかなえるために設計したプログラム構成は、このようなものです。
まずモニターで展覧会の作品を全員で対話しながら鑑賞します。じっくり見ることができるように、作品を2点選びました。
その後、各自で展覧会へ。本物の作品を鑑賞したのちに、また全員で集まり、感じたことを語り合います。
前半は作品をじっくり見るために対話する時間。後半は感じたことを伝えるための対話の時間。
「初めて会う人達が、スムーズに対話ができるような時間にするには、どうしたらいいだろうか?」と、さらに話し合いを続けます。
そこで生まれたのが、源氏物語に則った名札を用意するというアイディア!
美術館という日常から少し離れた空間で過ごすこの日は、普段の自分と少し離れる仕掛けがあることで、感じたことを口にしやすくなのでは?と考えたからです。そこで参加者もとびラーも「源氏物語」の世界に浸ってもらおうと、当日の呼び名を「源氏物語」の帖名(じょうめい)から取る事にしました。そして各帖名と対応する、源氏香(げんじこう)の図を配した名札を用意しました。
進行役や会場のセッティングも決まり、進行時間などを確認するためトライアルも行いました。
さあ、これで準備は整いました。
後は当日を参加者の皆さんと一緒に楽しむだけです。
■ワークショップの様子 〜アートでつながるミュージアム〜
ここからは、当日の様子をお伝えします。
受付開始。
とびラーはバンダナをつけてお出迎え。
続々と参加者の皆さんが集まってきます。
当日は10代から60代の8名の方が参加してくださいました。
プログラムが始まります。
今日の時間をどんなふうに過ごしていただくか、ご案内しています。
まずはみんなで対話をしながらモニターに投影した作品を鑑賞します。
こちらは1作品目。
歌川豊国(三代)作・《源氏四季ノ内 冬》という浮世絵の作品を鑑賞しました。隅々までよくみて、気づきや感じたことをシェアします。
じっくりと時間をかけて見ることで、作品の登場人物や場所など…様々な意見が出てきました。どんどん皆さんが作品に集中していくのがわかりました。他の人の意見を聞いて、新たな発見に気づくといったシーンもありました。
2作品目は、渡邊裕公作・《千年之恋~源氏物語~》。先ほどの作品とは打って変わって、現代の作家さんの作品です。
すると、ある方がこんなことを言いました。
「これ、やってみたいです!」
えっ?!
どういうことですか?と聞いてみたところ…
「この女性のように、作品を広げた上に横になってみたいです。自分の好きな絵の上に横になる……いいじゃないですか!」
おお〜!そういうことですか。
皆さんも思わず笑顔になります。
他にも作品の登場人物を静止画だと思っていたはず、なのに…。
タイムマシンに乗って時空を超えているのかも!という動きを感じる意見も飛び出します。
そんなふうに色々な発言を受けて、皆さんの姿勢がだんだんと前のめりになっていきます。
皆さんの意見は、後からふりかえることができるように、ホワイトボードに書き残していました。
みんなで鑑賞した後は、他の人の視点も胸に、
さあ!実際の展示室へ本物の作品と出逢いに行きます!!
ここからはひっそりと、作品と自分……一対一の時間を味わいました。
それぞれ気になる作品を鑑賞しています。
とびラーは時に寄り添い、参加者の「本物との出会い」の時間を温かく見守ります。
短い時間ではありますが、展示室での鑑賞を終え、もう一度みんなで、実際の作品をみて感じたこと、改めて発見したことなどを話しました。
「本物の作品」と出会った参加者の皆さんは、表情がさらにキラキラに!どんどん対話が盛り上がり、お互い興味深そうに他の参加者の話を聞いていました。
私たちとびラーも、参加者の皆さんの眼差しを分けてもらい、たくさんの目で鑑賞してきたような気持ちに!みんなでみると、ひとりでみるよりも、さらにたっぷりと作品の魅力を味わえるなあと、改めて感動してしまいました。
最後は参加者の皆さんと、とびラー全員で記念撮影!みなさん、いい笑顔ですね。
当日の名札は、ささやかなプレゼントとしてお渡ししました。
〜参加者アンケートより〜
●普段あまり見ることのない日本美術について、皆さんの意見を聞きながら楽しむことができた。
●源氏物語はあまり知らなかったが、調べてみようかと思いました。
●皆さんから多角的な気づきをシェアする時間が面白い。自分からはみない作品もじっくり見れた。
●初めて会った方達だけれども共通なところがあったのがおもしろかったです。
●思ったより個人感があった。
●自由に話しながら絵を見るのって楽しいな!と思いました。
●ニックネーム方式で話しやすくて良かったです。
●やっぱり対話が大事。対話があれば美術館はもっと面白くなることが実感できた。
●さらっと通り過ぎるのではなく、この絵はどういう感じなんだろう?と考える視点をもらった。
初めて会った方々が、同じ作品をみて対話をするプログラムーー
普通に生活していく中で、おそらくこのプログラムに参加しなければ出会うことのなかった人々が、対話を紡いでいける。
それはそこに「作品」があるからこそ。
まさに『アートでつながるミュージアム』を、私たちも体感できた幸せな時間となりました。
執筆者:梅川久惠(とびラー 10期)
とびラー2年目にしてやっと活動が本格化した気がします。残り1年となりましたが、もっと楽しみたい!という思いがむくむくと湧いています。