東京都美術館× 東京藝術大学 「とびらプロジェクト」

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2022.12.11

 

家庭や仕事で忙しい社会人を対象に、日常を離れて美術館で「ミチクサ」する2日間のプログラム、『大人のミチクサビジュツカン』。2022年12月4日と11日、いずれも日曜日の午前中に開催しました。

 

東京都美術館で展示される作品を介して交流するステップ1、都美の中で「居心地よい場所、心地よいひととき」を見つけるステップ2。2日間の交流により参加者同士のゆるやかな仲間意識が生まれ、いつもと違う美術館の過ごし方や魅力をみつけていただけました。

 

なぜ2日間、なぜ「ミチクサ」?

 

ふだんどんなふうに美術館を利用しているか? 自ら忙しい社会人でもあるとびラー同士の、そんな話合いからこのプログラムはスタートしました。「以前はお目当ての展覧会に向かって直行直帰だったけど、とびラーになってからは都美建築の中に自分のお気に入りの場所をみつけられた」「作品の鑑賞を他の人と一緒に行うと自分とは違う視点に気づけて楽しい」などの体験が語られました。そして家庭や仕事での役割から離れて一人で静かに過ごす時間も、美術館で出会った人とアートをめぐって対話する時間も、両方貴重だという気づきを得られました。そこで2日間をかけてその両方を実現しよう!とメンバーの意思がかたまりました。

 

「大人のミチクサビジュツカン」というプログラム名には、展覧会への直行直帰だけではない美術館の過ごし方をみつけてほしいというメンバーの思いを込めました。忙しい日常から少し離れて、家庭や仕事で背負っている役割から脱して、自分に戻って自分らしく「ミチクサ」することを美術館で実現してみたい。そんなふうに考えました。

 

1日め:展示作品を介して交流

 

7名の参加者をアートスタディルームでお迎えした後、2グループに分かれて、各テーブルにとびラー2名が進行役としてつきました。まずは「今回呼んでほしいお名前」と「ふだん美術館でどのように過ごしているか」というテーマの自己紹介からスタートです。

 

次に、アートカードを使った「関係探しゲーム」でウォームアップ。このゲームは11枚のカードをよく見て2枚の間に何らかの関係をみつけてペアをつくるものです。色が同じ、形が似ている、ふわふわしていそうといった目に見えることでもよいし、この人疲れていそうだからこの心地よさそうな椅子に座らせてあげたいといった想像を勝手にふくらませてもOK。同じペアをつくった人の間に連帯感が生まれたり、同じペアでもみつけた関係性の違いになるほどと感心したり。独創的なペアをつくる人もいて、場は笑いに包まれながら、和んでいきました。

 

 

場が温まったところで展示室へ向かって出発。今回鑑賞する展覧会は、ギャラリーで行われた『上野アーティストプロジェクト2022「美をつむぐ源氏物語―めぐり逢ひける えには深しな―」』(会期:2022年11月19日(土)~2023年1月6日(金))です。永遠の古典である源氏物語を題材にした、現代作家の絵画や書やガラスといった作品が展示されています。ここでは各々の参加者が「心に残る」作品をみつけるべく個人鑑賞にしたのですが、作品と向き合う皆さんの姿勢は真剣そのもの。50分という鑑賞時間は、あっという間に過ぎました。

 

 

そしてアートスタディルームに戻って、再びグループごとに自らの「心に残った」作品を図録や撮った写真で共有。美術の知識の交換ではなく、自分がみて受け取ったものや気がついたことを話すこと、他の人の発見を聞くこと、その楽しさは皆さんにとって新鮮な体験だったご様子。進行役のとびラーも、皆さんの気づきの深さに驚くとともに、とても楽しい時間を過ごしました。

 

 

2日め:「居心地よい場所、心地よいひととき」をみつける

 

前回から1週間後に、同じグループで再集合。各グループ2名の進行役とびラーは交代しましたが、参加者は既に顔なじみな雰囲気で、プログラムスタート前からおしゃべりが弾んでいます。2日めのテーマは、都美の中で「居心地よい場所、心地よいひととき」を見つけること。「心地よさ」感度を上げるために、普段の生活の中での「居心地よい場所、心地よいひととき」を各々語っていただき、それを付箋に書いて、見える化しました。人によって違う「心地よさ」のバリエーションに共感したり、そんなこともあるのかと感心したり、話が弾みました。

 

 

そして館内散策にグループごとに出発。アートラウンジでフィン・ユールのソファに座ってくつろいだり、エスプラナードで暖かい陽射しや少し冷たい風を感じたり、公募棟2階の休憩スペースから上野の森や美術館に出入りする人々を眺めたり。時々一人の時間も味わいながら、今まで知らなかった都美建築の魅力や自分にとっての「居心地よい場所、心地いいひととき」をみつけました。

 

 

最後はアートスタディルームに戻って、グループごとに各自の「居心地よい場所、心地いいひととき」をマップや撮った写真で共有。今までは美術展をみることが中心だったけど、それだけではない美術館の過ごし方や楽しみ方を、皆さん各々に満喫されていました。離れてしまうのが名残惜しいような気持ちで、2日間のプログラムは終了しました。

 

 

2日間を通して参加者が気づいてくれたこと

 

参加者のアンケートから、一部を抜粋してご紹介します。

 

〈1日め:展示作品を介して交流〉

  • いつもは一人かもしくは知り合いや家族と一緒ながら、会話とは程遠い感覚でしたが、美術館を通じて人とつながるコミュニティは非常に面白く、そんな人とつながる過ごし方の可能性を感じたのは、大きな発見かもしれません。(40代男性)
  • 自分が好きなものを見つける楽しさをたっぷり味わえましたが、その中で他の人とシェアする、他の人の思いを知る楽しさも発見できました。(60代女性)
  • お出かけの前に皆で行うウォームアップの時間が作品をよくみる準備につながっていたのが、魅力的でした。共有の時間が楽しかったです。(50代女性)

 

〈2日め:「居心地よい場所、心地いい時間」をみつける〉

  • 企画展に来るときは作品をみることを目的に都美に来ているので、目的の場所以外に目を向けたことがありませんでした。都美の新しい魅力に気がつくことができました。(30代女性)
  • 公募棟の赤いスペース、アートラウンジ、どちらもツアーで知りました。美術館の中に作品鑑賞以外で使える場所があると知り、親近感がわきました。(30代女性)
  • 散歩前に皆で居心地のよい場所などを共有したことによって、気持ちもほぐれ広い視野を持って、楽しくわくわくしながら散歩することができました。(40代女性)

 

〈美術館の過ごし方で発見したこと〉

  • 景色や座る椅子にも芸術を感じ豊かでした。一人になれる空間が見つかり、素敵な場所もたくさんあったので、都美にもっと通いたいと思いました。(50代女性)
  • 作品をみる以外に、美術館の空気感を味わうことができたのがよかったです。(40代女性)
  • 2回のアプローチが全く違っていたので、日をあらためる意味があると思います。1週間でも旧知の仲的な関係性を感じられました。(60代女性)

 

プログラムを通してとびラーが気づいたこと

 

1日めの自己紹介で、参加者の一人が「美術館では子ども向けプログラムは充実しているけど、大人向けが少ないと思っていたので、いい機会だと思って来ました」と、コメントされました。私たちメンバーが目指していたのも、まさに大人がほっとしたり何かを発見したりできる場所、日常生活から離れて「ミチクサ」できる時間、サードプレイス(家庭でも職場でもない第三の場所)的なゆるやかなつながりです。アンケート結果や途中のコメントからも、そんなニーズがあると認識しました。4月に立ち上げて12月に実施というとても長い企画準備プロセスでしたが、最後まで諦めずに実施してよかったです。その間応援してくれたとびラーやスタッフの皆さま、ありがとうございました。

 

 

参加メンバー:飯田倫子、小川恵奈、腰原好海、高崎いゆき、千葉裕輔、中村宗宏、橋本啓子、堀内裕子、森淳一、山中みどり、山本順子、吉水由美子

 


執筆:吉水由美子(アート・コミュニケータ「とびラー」)

9期とびラー。アートだけでなく、美術館という場所も好き。自分に戻れたり、思いがけない出会いや発見があったり。そんな楽しさをより多くの人に味わってもらいたいと思い、活動しています。

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