2020.07.18
【開催報告】7月の建築ツアー
日時:2020年7月18日(土) 14時00分~14時45分
場所:東京都美術館
2020年7月18日、ついに今年度のとびラーによる建築ツアーが幕を開けました。
新型コロナウイルス感染拡大への予断を許さない状況のなか、対策を徹底したうえでのプログラム実施です。
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ーー 当日の流れ
とびラーとスタッフは、ツアー開始の1時間半ほど前に2階アート・スタディ・ルーム(以下ASR)に集合。全体の流れを共有したあと、各チームでの打ち合わせに取りかかります。最終確認を終えた14時ごろ、とびラーはチームごとのスタート地点でプログラム参加者と合流。そこから45分間のオリジナル・ツアーが展開されていきます。
ツアー終了後、とびラーとスタッフは再びASRへと戻り、今日のツアーのふりかえりを行いました。
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ーー 建築ツアーにおける感染症対策
このツアーは、およそ3か月におよぶ臨時休館ののち、はじめて開催された館内プログラムでもありました。
感染症拡大防止のため、様々な対策がなされている東京都美術館(以下、都美)。もちろん、この建物をめぐる本プログラムの内容にも大きく影響しています。
以下は、ツアー開催のために実施された主な感染症対策です。
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<ツアー開始前>
・オンライン上での事前予約制、参加者の人数制限
・少人数グループの形成(3グループ各5名*⇒5グループ各3名*)
*とびラー&スタッフ除く
<ツアー実施中>
・ワイヤレス無線機の導入
・2メートルの間隔を保つ(ソーシャルディスタンス)
・建築に「触れない」
<ツアー実施後>
・ワイヤレス無線機などの回収用袋を用意、機材の消毒
・メールでの来場者アンケートの実施
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グループごとに小さな輪をつくったり、目の前のモノに触れてみたり。
こういった建築プログラムでの “あたりまえ” を控えなければならない今回のツアー。そのような状況のなか、どうすれば都美の建築をよりふかく味わえるのか。チームごとに凝らされた工夫が垣間見える回となりました。
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たとえば、このグループでは、ツアー開始前にガイド役のとびラーが参加者同士の間隔を共有していました。それぞれ両腕を広げると、だいたい2メートルの距離が保てるのだそう。
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ーー 「建築的プロムナード」の実践 ―7期とびラーの挑戦
今回フォーカスしたのは、7期のとびラー宮崎保和さんがガイドをつとめるグループ。宮崎さんは都美の建築家・前川國男の理念に関心を抱き、3年連続で建築ツアーに携わってきました。
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そんな宮崎さんの掲げた今回のテーマは、「建築的プロムナード」の実践。
「プロムナード」は、フランス語で「散歩(道)」という意味です。そして「建築的プロムナード」は、都美の建築家・前川國男が師匠ル・コルビュジエから教わった、建築のなかを歩きまわって、さまざまに変化していく空間を楽しむのが良いという考え方。
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宮崎さんは、今回の建築ツアーの開催日が特別展の会期中ではないため館内が混雑していないこと、そして今回のツアーでワイヤレス無線機が導入されたことを、この理念をツアーに取り入れられるチャンスと捉えたそうです。
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スタート地点のおむすび階段をのぼりアートラウンジへ。いったん建物を出て、各棟から正門、そして上野公園へと広がる「エスプラナード」へ。中央のエスカレーターをくだり、地下の入り口から中央棟、そこから連なる公募棟へ。そして再びアートラウンジへ。
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かぎられた時間のなか、タテへ、ヨコへ、中へ、外へ。おおきな歩幅で歩を進めながらも、見どころはしっかりとおさえます。都美館への並々ならぬ思いと、これまでの建築プログラムで積み重ねてきた経験に裏打ちされた、宮崎さんならではのオリジナル・ツアーです。
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このグループで初めて出会った参加者のおふたり。メモを取る手の動きが早くなったり、積極的に質問をするようになったり、しだいにツアーに引き込まれていったようすが伺えました。
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ーー これからの建築ツアーに向けて
ツアー後のふりかえりでは、グループごとに実践された工夫やチャレンジが、とびラーとスタッフへ共有されました。
建築クイズを〇×方式にし、口ではなく両腕でマルやバツを作ってもらうことで、離れた位置に立つ他の参加者へ聴覚ではなく視覚で回答を伝達したり、少人数のグループであることを活かし、積極的に名前で呼びかけることで、より親密な空間づくりに励んだり。感染症の猛威が留まることのない状況下でも、しっかりと建築を味わいながら、魅力を共有したいという、とびラーの意気込みが感じられる回となりました。
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その一方、ツアーを実施したことで、壁や柱といった、これまで積極的に触れていたモノの手ざわりを味わえないことに対するもどかしさなど、これから考えていきたい課題の数々も浮き彫りになりました。
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次回の建築ツアーは9月中旬に開催予定。企画展もクライマックスを迎え、今回とはまた異なる環境での実施が予想されています。感染症対策下でのツアーがどのように活かされ、次のプログラムへとつながっていくのか。今後の動向からますます目が離せません。
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(東京都美術館インターン 久光 真央)
2020.06.27
第1回建築実践講座「都美の建築と歴史」
日時|6月27日(土)13:30〜15:30
場所|zoom(オンライン)
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6月27日、2020年度最初の建築実践講座がオンライン開催されました。
本年度は7期から9期のとびラー約60名とともに建築について学び合います。
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初回である今回は、ガイダンスとして伊藤達矢さん(東京藝術大学 助教授)から本講座の目標を共有いただいたのち、河野佑美さん(東京都美術館 学芸員)から、活動拠点となる東京都美術館(以下、都美)の歴史と建築についてレクチャーいただきました。
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ガイダンス:建築実践講座の目標
まずは伊藤さんによるガイダンス。
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ーーなぜとびらプロジェクトで建築を学ぶのか
そもそも、どうしてとびらプロジェクトで「建築」を学ぶのでしょう。
伊藤さんは「自分の感覚を手がかりに建築を味わう」ことを講座の重要なテーマとして掲げています。
都美の建築に関する知識を学ぶだけでなく、それぞれが自ら建築を楽しむ目をもつこと。
さらに、とびラー自身の見つけだした美術館の魅力を他の人とシェアすることで、「建築」を通した学び合いの機会を作ることを目指します。
この学びの実践の場となるのが、とびラーによるオリジナルの建築ツアーです。
土曜昼の「建築ツアー」、金曜夜の「トビカン・ヤカン・カイカン・ツアー」。
2012年のリニューアルオープン以降、このふたつを基盤としながら、さまざまな時間帯や対象者に目を向けた、バラエティに富んだツアーが開催されてきました。
参考サイト|とびラーによる建築ツアー
https://www.tobikan.jp/learn/architecturaltour.html
ーー建築を見ると、社会が見える?
いつものように道を歩くと、何気なく目にすることになる建物の数々。
そこに建築があるのには、かならず理由やねらい、ヒトの動向に関わる様々な意図があります。
「建築がもつ様式、技巧といったことだけでなく、その内に在る建築家の考えや用途の可能性などにも思いをはせてほしい」
そう考える伊藤さんは、Googleストリートビューを活用し、都美やその周辺の歴史ある建物を次々とご紹介くださいました。
とびらプロジェクトの活動拠点となる都美が位置する上野には、幕末以降から現在に至るまで、歴史ある建物が重層的に立ち並んでいます。
オンラインでの上野探検は、しばらく上野に足を運べていない講座参加者の多くにとって、今まで見てきた景色と建物を新たな視点からとらえ直す機会となったかもしれません。
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レクチャー:「都美の歴史と建築」
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つづいて、「都美の歴史と建築」に関するレクチャー。講師は学芸員の河野佑美さんです。
当時の資料や図面などをもとに、都美の歴史や建築家の人生を辿り、建物のデザインの特徴や、それらが生まれる背景をお話いただきました。
河野さんのレクチャーでは、その都度、小さなグループでの話し合いの場も設けられました。
ーー都美ってどんなイメージ?
まず、およそ60名の参加者が3人グループのチャットルームに分かれます。
そこで、それぞれが都美にいだく印象を5分間ほど共有しました。
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「なんだか複雑で迷宮みたい」「公募展が特徴的」「夜景がきれい」などなど。
ひとつの建築に対しても、かんがえることは三人三色。
ここで話し合われた内容は、zoomのグループチャット機能を通じて、参加者全員に共有されました。
ーー「都美の歴史と建築」
それぞれの都美へのイメージを確認したところで、この建物ができるまでの歴史をたどっていく河野さん。
まずは、都美の前身である東京”府”美術館(以下、旧館)について。
この旧館は、およそ100年前から構想が練られ、1926(大正15)年、現在の都美(以下、新館)に隣接する敷地に設立されました。
このときキーパーソンとなったのは、九州の炭鉱王、佐藤慶太郎。
たまたま東京に出張していたさい、新聞の社説を目にします。そこで、日本における美術館の存在意義を自覚。建設予算が十分でなかった東京府に100万円(現在の約33億円)を寄付しました。
それから100年の月日が流れた今でも、佐藤の胸像は、新館1階のアートラウンジから都美と行き交うひとたちの様子を眺めています。
どっしりとした造りの旧館は、岡田信一郎の設計によるもの。正面入り口の大きな階段と柱が印象的です。
岡田は、都美の近くにある「黒田清輝記念館」を手がけた建築家でもあります。
この旧館は、増築を繰り返しながら、1960年代まで使われてきました。
しかし、もともと想定されていなかった増築は、しだいに建物へ負荷をかけていくことに。
そこで、1966(昭和43)年から練られることとなった新たな美術館への構想。
「現代の美術館とはいかにあるべきか?」建築と機能の両面から検討されることとなります。
そして、1975(昭和50)年、オイルショックや労働者不足などの時代の荒波を乗り越え、建築家・前川國男の設計による新しい建物(=新館)が、旧館の隣の敷地に建設。この外観は、現在まで引き継がれています。
前川は、東京都から新館に求められた3つの機能を、それぞれの棟や展示室に以下のように割り振りました。
1、「常設・企画機能」企画展示室
2、「新作発表機能」 公募展示室
3、「文化活動機能」 交流棟
さらに2012年、リニューアルオープン。
前川によるデザインや設計のこだわりはそのままに、使う人のことを考えて、時代に合わせた内装の改修が施されています。
この改修工事の前に開催されたのが、「おやすみ都美館建築講座」。
都美では史上初となる、文化資源としての建築にフォーカスしたプログラムでした。
プログラムでは、建築ツアーも実施されました。
そのときガイドを務めたのは、建築を専門としない館の職員たち。
日ごろから新館に慣れ親しんだ人々による案内は、参加者から想定以上の好評を博すことになりました。
「おやすみ都美館建築講座」は、リニューアル後の館のプログラムとしての建築ツアーへと引き継がれていくことになります。
9期に紹介!「私の推しトビ」
この講座のメインフィールドとなる都美では、今年の3月から6月まで、感染症対策のため臨時休館の措置が取られていました。
そのため、今年度からプロジェクトに参加した9期のとびラーは、都美の建築をほとんど実際に目にできていない人も少なくはありません。
そこで企画されたのが、「私の推しトビ」。
7、8期の先輩とびラーが、グループチャット経由で、自身のオススメのスポットを紹介していきます。
(押し都美マップ)
チャットに次から次へと挙げられていく「推し」スポット●。
そして9期とびラーからは「きになる!」という声も●。
今回とくに人気だったのは、
・正門付近-銀色の大きな球体(=野外彫刻《my sky hole 85-2 光と影》)
・公募棟-四色の壁
・公募棟-カラフルな椅子のある休憩スペース
・交流棟-階段のホワイトとレモンイエローの壁
・中央棟-2階レストランからの眺め
などなど。建築ツアーでも取り上げられることが少なくない名物スポットです。
なかには、
・喫煙所横の石のベンチ
・ミュージアムショップ付近の誰にも読み取れないQRコード
・かくれ彫刻の数々●
といったような、知る人ぞ知る穴場を紹介してくれたとびラーも。
参考資料|トビカンみどころマップ①
https://www.tobikan.jp/media/pdf/2017/ac_tobikanmap_combine.pdf
参考資料|トビカンみどころマップ② タイルの秘密編
https://www.tobikan.jp/media/pdf/h25/architecture_midokoro.pdf
これから都美に足を運ぶ9期とびラーだけでなく、今まで実際に活動してきた受講者も、あらためて活動拠点の魅力をしることができたのではないでしょうか。
まとめ:これからの建築ツアー
昨年度までは全6回の講座に加え、来館者に向けた6回の建築ツアーを実践の場としていました。しかしながら、今年度はコロナ禍の影響で、すでに2回分のツアーが中止になっています。
そして、今年度初となる建築ツアーは7月18日(土)に開催予定。
新型コロナウイルス感染症拡大防止に関する対策を十分に行なったうえで実施されます。
参加人数は従来の半分。それぞれ2メートルの間隔を保ちながら、目の前にある建築に触れないように。
これまでになかった制約のもと、どのように都美の魅力を発見し、共有していけるのか。
参加する人々が持ち寄ったアイデアを練り、これまでのツアーをアップデートしたうえで、いっそう深く建築を味わうことができればと思います。
(東京都美術館 インターン 久光真央)
2020.06.22
第1回鑑賞実践講座
「ミュージアム体験とは?」
日時|2020年6月22日(月)13:30~16:30
場所|zoom(オンライン)
講師|稲庭彩和子(東京都美術館)
鑑賞実践講座では「作品やモノを介して人をつなぐ場をデザインする」ことを目的とし、1年間で計7回の講義を行います。とびラーが目指したいことは次の3つです。今年は特に、これらをオンラインの講座で行っていく、初めての挑戦となります。
第1回の講師は、稲庭彩和子さんです。これからとびラーが鑑賞の場づくりを学んでいくにあたり、まずはじめに「ミュージアムでの体験とは何か」、「わかること・鑑賞することとは何か」について考えを深めていきました。
2020.06.20
第6回基礎講座「会議が変われば社会が変わる Good Meeting よい会議を作ろう!」
日時|6月20日(土)10:30〜14:30
場所|zoom(オンライン)
講師|青木将幸(ミーティングファシリテーター、オンライン会議ファシリテーター)
6月20日、第6回基礎講座が行われました。今年度の基礎講座最終回です。講師は、ミーティングファシリテーターの青木将幸さん。とびラーの自主的な活動「とびラボ」を健やかに行うために必要不可欠なGood Meeting /よい会議のコツ、方法について学びました。青木さんの軽快で巧みなファシリテーションで、オンラインの向こうのとびラーの笑顔がたくさん見える最終回になりました。
2020.06.06
第5回基礎講座 この指とまれ・そこにいる人がすべて式・解散設定
日時 | 2020年6月6日(土)10:0~15:00
場所 | zoom(オンライン)
講師 | 西村佳哲(とびらプロジェクトアドバイザー/リビングワールド代表)
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6月6日(土)、第5回基礎講座がオンラインで行われました。
講師は第3回に続いて西村佳哲さんです。とびラーがすこやかに活動していくための小さなチームの作り方や、そこに集まった人たちの全員の力を活かす方法、そして活動の終わり方のデザインについて学びました。
2020.05.30
【「VTSフォーラム」とは】
2020年5月30日(土)に開催した、「VTSフォーラム」。
「VTS」とは「Visual Thinking Strategies」の略で、日本語では「対話型鑑賞法」などと訳されています。
このラボは、参加者同士で作品をよく見て、思ったこと、感じたこと、考えたことを自由に語り合うというVTSを、とびラー同士でもっと楽しもう! というコンセプトで始まりました。ミーティングの中でとびラーたちから出てきた様々なアイデアを複数のプログラムにし、1日で体験できるように「フォーラム」というスタイルをとることにし、3月に東京都美術館のアートスタディールームで開催する予定でした。しかしコロナ禍の影響によりオンライン上に場所を移しての実施となりました。
【実施までの道のり】
元々「VTSフォーラム」は、6期とびラーがラボを立ち上げたラボです。しかし3月末で3年間の任期が満了したため、このラボに関われなくなってしまいました。
そこで在任中である7・8・9期とびラーがラボを引き継ぎ、最終的にとびらプロジェクトを卒業した6期とびラーも巻き込んで、とびラー史上初・4期合同の大規模なオンラインイベントとなりました。
打ち合わせから開催まですべてがオンラインで行われ、zoom環境に慣れない状態から手探りでミーティングを重ねること、40回以上。
それぞれのプログラムが試行錯誤と失敗を繰り返し、自分たちの考えるVTSの魅力を追求しました。
運営チームは開催日までのスケジュールを調整し、とびラー内での告知の方法などを何度も検討しました。
【プログラム紹介】
では、当日のタイムスケジュールをご紹介しましょう!
プログラムは全部で7種類。9時30分から19時まで、VTSにどっぷりつかる1日に。
続いて各プログラムの内容です。
担当とびラーのコメントと合わせてご紹介いたします。
■『最初で最後4期合同! アートdeトーク‼』
5人のファシリテータと楽しむ“正統派” VTS
普段とびらプロジェクトの活動で行っている“正統派”のVTSプログラム。1つの作品についてみんなで対話しながら、ゆっくり・じっくり鑑賞します。
コロナ禍だからこそ、6~9期の4期合同VTSが実現できました。
6期さんとスタッフさんを含む5人のファシリテータが、過去に東京都美術館で行われた展覧会から作品をチョイスし、五人五色のVTSを楽しむプログラムを目指しました。
あえて「チャット」を使わず鑑賞に集中
なによりZOOMの操作に慣れることが一番大変! ミーティングやトライアル、個人練習などを重ねました。
ZOOMのチャット機能を使うかどうかに悩みましたが、使用しないことで、参加者ひとりひとり作品に対する思いの変化を大事にしてもらいました。
オンラインVTSを楽しむ下地をつくれた
「ZOOMでVTSができるのか?」という疑問が一気に解消され、とびラーの中でオンラインのVTSをすることに抵抗がなくなったり、技術的な部分でのハードルが下がったりしたことがこのプログラムの成果だと思います。
最後に6期の方々とご一緒できたことも良い思い出になりました。
参加とびラーの感想(一部)
「VTSの面白さを知りました!」
「普段美術館で絵画を見るよりも近寄れる!? オンラインの鑑賞の楽しさがわかった」
「6期とびラーがファシリテーションするVTSを体験できて嬉しい! 念願が叶いました」
■『ひとりVTS』
作品理解を深めるためのプログラム
「ひとりVTS」はとびラーが鑑賞実践講座で知る1つのスキルです。VTSのファシリテータをする前に作品を理解するために行います。その効果をみんなが実感して使いこなせるようにするために方法を分かりやすく紹介し、体感してもらうことを目指しました。
初めての人も楽しめる資料を配布
このイベントで初めて「ひとりVTS」を知るとびラーも多くいました。一度体験して楽しんだあとにも自分で実践してスキルを獲得してもらいたいので、図と写真をいっぱい入れた資料をつくって配布できるように工夫しました。参加されなかった方も後から見て楽しまれたのではと思っています。
VTSのフルコースを体験
プログラムは濃密かつ長時間(2時間)だったため、参加者は多くはありませんでしたが、各人がひとりVTSを行ってから同じ作品でVTSをするというVTSのフルコースを満喫していただけたと思います!
参加とびラーの感想(一部)
「作品をじっくり見ながら一人で考えを深める経験ができた」
「ひとりでやるVTSと大勢でやるVTSは発見できることが違った。皆で感じたことを共有することが楽しい」
■『目隠しdeトーク』
「語る」と「想像する」から作品に迫る
作品を「語る人」と「想像する人」が言葉だけで共通の認識を目指すプログラムです。お互いに語って作品が育っていったり、ワンワードで全く違う作品に変わったり。言葉の持つイメージの違いを知り、伝えること・聴くことが少し丁寧に優しくなれたのではないでしょうか。
声に集中するために視覚情報をシャットアウト
Zoomでできることを模索し、ひとりの「語る人」と複数人の「想像する人」が言葉だけのやり取りを行うことに。問題は集中力! 耳だけの情報で作品を想像するため画面オフ、アイマスクでブラインドモードに。雑音はイヤホンマイクで対応しました。
アイデアとアドバイスを支えに
全くの手探り状態から新しいプログラムが生まれました。どんなアイデアも実践する「とびラー魂」は素晴らしい! 外から気にかけてくださり暖かいアドバイスを頂けたのも、このラボの支えでした。ありがとうございました。6期から9期まで4つの期が一丸となった忘れられないラボです。
参加とびラーの感想(一部)
「伝えられた言葉から作品を予想し、最後に正解を見たら大きくはずれていました。でも、作品を見た瞬間の『うわ〜〜〜感』が楽しかった」
「言葉で伝える楽しさ、難しさを堪能しました。オンライン向きのプログラムだと思います」
■『アートカードで遊ぼう! すごろく編』
身近なすごろくで学芸員の仕事を追体験
「すごろく」という誰にもなじみのある伝統的なゲームを選び、参加者に楽しんでもらうことを目指しました。
すごろくは、神奈川県立近代美術館オリジナルの「Museum BOX(宝箱)」に入っているすごろくびじゅつかん”を使用し、展覧会ができるまでの学芸員の仕事をみんなで追体験しました。
慣れないオンライン作業に苦戦
完全オンラインだったため準備のミーティングなどの手順に不慣れで、段取りが悪かったのが残念でした。一方、ブラウザ上でサイコロを振るアプリを導入したり、コマを進めるアイコンをつくったりと、試行錯誤をしながらかなりリアルなすごろくに近づけたと思います。
みんなでアートを楽しめて良かった!
このすごろくは、学芸員となった参加者たちがどんな作品を集めていくのかを見守っているだけでも楽しめます。コロナ禍の影響もありストレスが溜まる時期に、とびラーがオンラインに集まり、盛り上がれて良かったです。
参加とびラーの感想(一部)
「オンライン上のゲームとして面白かった!」
「学芸員として参加。無事満足のいく展示会を開くことができ、とても楽しかったです」
■『アートカードで遊ぼう! ストーリー/探偵編』
過去の共通体験からプログラムを考案
プログラムをつくろうと思ったきっかけは、数人のとびラーが香川県丸亀にある猪熊弦一郎美術館で、ミモカ・アートカードを体験したこと。複数のカードの作品について共通点を探したり、作品に登場する人物になりきってセリフを考えたりと、アートカードで遊ぶ楽しさに開眼し、みんなにも知ってほしいと2本のプログラムをつくりました。
1本目は、各自が手元に用意したアートカードを使ってストーリーをつなげていくというもの(ストーリー編)。2本目は、怪盗役のひとりが複数のアートカードの中から一枚のカードを選び、ほかの参加者が探偵役になって質問をしながらそれがどのアートカードなのかを当てるという、シンプルなゲーム(探偵編)です。
数々のハードルを越えて
ゲーム進行だけではなく、オンライン上でのアートカードの見せ方、画像の著作権など、今までにない問題をクリアにしていく作業に戸惑いました。
また、たくさんのトライアルを繰り返していく中で、やればやるほど迷宮に入っていき、はたしてこのプログラムはちゃんとVTSができているのかと悩みました。
その一方、成果もありました。ストーリー編では、各参加者が用意したアートカード一覧にそれぞれの趣味嗜好が出ていてお互いに見せあうだけでも楽しめました。探偵編では、似たようなテーマの作品や色のカードから一枚を選ぶと難易度があがることを発見。プログラム作成を通して多くの作品を知ることができました。
次はリアルでやってみたい!
作品をもっと観察できるようなゲームに発展させて、いつか対面でもやってみたいと思います。複雑なルールはないので、絵画や美術に詳しくなくても、アートを楽しむことができて、誰もが、どこの国の人も参加できるゲームです。
参加とびラーの感想(一部)
「怪盗になって探偵をかわせたときは嬉しかった!(探偵編)」
「一緒に物語を作ったことで仲間意識が強くなりました(ストーリー編)」
■『筆談deVTS』
はじめましてのメンバーたちが化学反応を起こす
「筆談」のキーワードに惹かれて集ったメンバーは、4月にとびラーになったばかりの9期も多く、ほぼ“初めまして”状態。会えるのはオンラインだけ、しかも本番まで時間もない……。しかし! その状態こそが化学反応を生み、途中参加や単発で準備に参加してくれたとびラーのサポート&応援も得て、「未来につながるなら失敗もあり!」の実験精神とチームワークが生まれました。
それぞれが筆談に感じる可能性と想いを重ね合わせ、実験を繰り返した結果、筆談のみをコミュニケーション手段としたVTSのプログラムを3つも実施することに。
筆談の魅力を再発見
実現したのは、Zoomを活用した「手書きフリップ式」と「寄せ書き式(ホワイトボード機能活用)」、オンライン掲示板を活用した「伝言板式」の3つです。
「手書きフリップ式」は、画面共有で作品を鑑賞したあと、ギャラリービューにし、それぞれが手元の紙に作品の感想を言葉やイラストで書き、それを見せ合ってやり取りしながら作品鑑賞を深めていきます。
「寄せ書き式(ホワイトボード機能活用)」は、ブレイクアウトルームに分かれ、4名程度のチームでホワイトボード機能を使って模造紙上で寄せ書きをするイメージでやりとりしながら作品鑑賞。その後メインルームに集合し、他のチームの寄せ書きも鑑賞します。
「伝言板式」は、とびらプロジェクトの活動で普段から使っている掲示板に鑑賞する作品画像を掲示。期間中、好きな時に訪れて、コメント欄に作品の感想を書き込んだり、誰かの感想にコメントしたり。VTSフォーラム当日に参加できない人も前夜祭・後夜祭として参加してもらいました。
一斉に共有できるワクワク感、時空間を超え各人のコメントがつながり広がる面白さ、そして、それらが可視化され「カタチ」になっていく達成感。そんな筆談の魅力と可能性を再発見したメンバーは、それぞれ新たなラボやとびラー活動へ! その中から新たな筆談型対話鑑賞が生まれる!……かも?
参加トビラーの感想(一部)
「コメントが増えていく様子が楽しかった。今度はリアルで模造紙を広げてやりたい」
「あとで読み返せるのがこのプログラムの特徴。成果を残したい」
■『占い「TO BE」館』
VTSって占いに似ている……?
作品を見て何かを感じたり、見つけたりするVTSには、自分の今の境遇や考えていることなどが必ずや反映されていて、カウンセリングと通じるところがあります。一方、カウンセリングと占いは、自分の力で自分の悩みを解決するという共通点が。ということは、VTSの言葉を読み解くことで“占い的”な楽しみ方ができるのではないかと考えました。
“占い師”不足になるほどの人気プログラムに
このプログラムは、お悩みを抱えた相談者役のとびラーが複数のアートカードから一枚を選び、カードを見ながら思ったことや感じたことを言葉にし、その言葉を占い師役のとびラーがお悩みの答えに結び付けていくという、占い風のVTSです。
オンラインのフォーラム開催になると参加希望者が続出! “占い師”が足りなくなり、占い師を養成する講座を開いたところ、6期から9期のとびラーたちがノリノリで参加してくれました。実施にあたっては占い師ネーム、衣装、手法、言葉遣いなど占いっぽさの演出にもこだわりました。
想像を超える大反響!
占いの最中、泣く人まで出るという想像を超えた反響にびっくり! 変身願望からか、占い師になりたい人も多いことがわかりました。オンラインだとお互いに恥ずかしさが減ってやりやすかったかもしれません。でもやっぱり、一度リアルでやってみたいです。
参加とびラーの感想(一部)
「占ってもらいながらカードをよく見る。占い師さんもカードをよく見る。VTSをとても身近に感じられました!」
以上が当日に実施されたプログラムです。どのプログラムも大盛況でした!
【VTSフォーラムで得たもの】
昨年東京に緊急事態宣言が発出されていたのは、4月5日から5月24日です。ちょうど同じタイミングで『VTSフォーラム・リターンズ☆』が走っていました。
直接会えなくても「アートを介して人と人をつなぐ」ために何ができるのか。アートコミュニケータの存在意義をそれぞれに模索していたのが、このラボだったと思います。
外出がままならず、スーパーからマスクやトイレットペーパーが消え、なぜかパスタも品切れになってしまうという日々の中、毎回のミーティングに満ちていたのは、「仕方なくzoomで」ではなく、「zoomという新しいツールでアートの新しい楽しみ方を作ろう!」という、前向きなエネルギーでした。
個人的な経験を書かせていただくと、私自身はITスキルがほとんどなく、6期とびラーから受け継いでこのVTSフォーラムのラボを立ち上げてはみたものの「どうしよう……」という状態でした。しかし、たくさんのとびラーたちの力が結集し、あっという間にラボが育っていきました。
当日の全プログラムの延べ参加人数は320人超! 立ち上げ当時には想像もできなかったし、リアルでは実現しなかった数字です。
今まで「立ち上げた人が最後まで頑張らないとラボは成立しない」と思っていたのですが、「できることをできる人がやりながら、みんなで1つのラボを完成させていく」ことを実感しました。
オンラインでしか繋がれなかった9期とびラーたちは、慣れないとびラー活動に大変だったと思います。でもすぐに頼もしい存在へと変わり、フレッシュな視点で一緒にプログラムを考えてくれました。9期さんからは「先輩とびラーと話せてよかった!」との感想も届き、名実ともに6期から9期までのとびラーが作り上げたラボになったと思います。
またすべての過程においてスタッフさんにご尽力いただきました。心から御礼申し上げます。ありがとうございました!
閉会式の様子です。6、7、8、9期のとびラーとスタッフさんたちが、こんなにたくさん集まりました!
執筆:有留もと子(アート・コミュニケータ「とびラー」)
美術展に行くとついグッズを買い、カフェでお茶をしてしまう……。美術館の魔力に抗えないとびラー8期。東京都美術館で、ハマスホイかバスキアかロートレックのTシャツを着ている人がいたら、それはきっと私です。
2020.05.30
実施報告「ハマスホイ・ラボ」
2020年1月開催「ハマスホイとデンマーク絵画展」を目指して、2019年1月から動き出したとびラボ。1年間を通してハマスホイの作品と向き合った過程を報告します。
とびラボの多くは、展覧会会期が始まる前の「とびラー向け事前勉強会」もしくは会期開始直後の「スタッフ鑑賞研修会」で展覧会の情報に触れてからプログラム実施に向けてミーティングを始めるのが通例となっています。限られた時間で生み出すからこそ良いこともある反面、展覧会で触れない部分がおざなりになりがちな点や、準備期間が短く、展覧会閉幕直前のプログラム開催になってしまうという課題がありました。
この「ハマスホイ・ラボ」では、「ハマスホイとデンマーク絵画展」についての情報が入る前から、自分たちの手で展覧会のキーとなる作家であるハマスホイについて知っていくプロセスを踏むと、どういう結果になるのか、実験的にとびラボを開始しました。
<ハマスホイ深めるラボ>
2019年1月27日の『ハマスホイ深めるラボ』キックオフミーティングの様子
まずはハマスホイを深く知りたいという想いで、『ハマスホイ深めるラボ』が生まれました。
そのミーティングの中でとびラーの1人が発した「展覧会図録って、案外全ての文章は読めないよね?」という何気ない一言をきっかけに始まったのが『ハマスホイ深めるラボ/よむ編』です。2008年に国立西洋美術館で行われた「ヴィルヘルム・ハンマースホイ 静かなる詩情」展の展覧会図録をラボのメンバーと輪読して、それぞれの感想や文章の中の理解が難しいポイントをシェアするというラボを5回行いました(2019年3月〜5月。延べ人数45名)
次に「ハマスホイの絵をじっくりみてみたい!」という気持ちから始まったのが『ハマスホイ深めるラボ/みる編』です。気付いたことを客観的に整えて文章にする「ディスクリプション」と、複数人で対話しながら作品を鑑賞する「VTS」(Visual Thinking Strategies)という2つの手法を取り入れて鑑賞を言語化しながら、ハマスホイの作品をじっくり見るというラボを5回行いました(2019年3月〜5月。延べ人数37名)
「ハマスホイ深めるラボ/よむ編」の様子。
展覧会図録を読んだ感想や気づきを付箋に書いて共有。大学のゼミのような雰囲気です。思い思いの解釈を話し合うことでお互いのモヤモヤを解決したり、共感したり。とびラーの活動らしく様々な立場から様々な解釈が生まれ、図録の内容をより面白く学ぶ事ができました。
「ハマスホイ深めるラボ/みる編」の様子。
自分が作品に抱いた感想を「なぜ?」「どこから?」と自問しながら文章化していきます。そのあと、他の人と感想をシェアすることで、より作品の見方が深まりました。
各活動の最後には、学んだことを「壁新聞」という形にアウトプットし、とびラーの活動の拠点であるアートスタディルームの壁に貼って、ラボに参加していないとびラーにも共有しました。壁新聞は0~9号まで発行しました。
「ハマスホイ深めるラボ/よむ編」「ハマスホイ深めるラボ/みる編」でハマスホイという作家を自分たちなりの見方や考え使って深く知ったところで、『ハマスホイ深めるラボ』を解散しました。
<ハマスホイ広めるラボ>
そして今度は、「ハマスホイを世に広めたい」という気持ちで『ハマスホイ広めるラボ』を開始。このラボでは、ハマスホイの絵画の中に描かれる世界の音について想像したり、室内画の部屋のインテリアを考えてコラージュを作成したり、牛乳パックを用いて彼の部屋を体感できる空間を制作してみたり、実際に手を動かすクリエイティブな活動が中心となりました。(2019年6月〜2020年3月。)
インテリアコラージュの様子。
ハマスホイの部屋を立体的に再現することを目指した活動では、牛乳パックを300本以上集めて、ハマスホイの室内画の壁面の実物大模型制作することにチャレンジしました。牛乳パックを使うというアイデアは、実は私の経験をヒントにしています。中学高校の部活動で牛乳パックを使い舞台の大道具を作っていた友人に協力して、そこに所属していない私も牛乳パックを集めていました。その時、1Lの紙パックは規定サイズであることや、切り開いていない牛乳パックはかなりの強度があること、多くの方が簡単に集めやすく、気軽に協力しやすい点などを知りました。この呼びかけは「そこにいる人すべて式」のとびらプロジェクトの気質とも想像以上にマッチし、任期満了した方にもご協力を依頼し、そうした皆さんも巻き込んで、大きなムーブメントとなりました。
壁・窓・ドアが描かれているこの作品を再現。人物の大きさなどから、実際のサイズを割り出し、必要な牛乳パックの数を計算している図。
窓がかなり大きく、光の影が不自然なことなど、サイズを測りながら作品と現実の違いを発見するのも楽しみでした。作りながら「え?本当?」なんて言いながら作品と見比べたり話し合ったり少しずつ立体にしていきました。
「これ、どこの部分だっけ?」とたまに混乱しつつも、一つずつ丁寧に牛乳パックを貼り合わせていきます。
少しずつ完成。人と比べると窓の大きさが目立ちます。
ドア部分もダンボールで再現。「リアルサイズで作るなら開閉したいよね!」と開閉式に。
色は、作品の画像をみながら絵具を混ぜ合わせ、自分たちで作っていきます
完成!作品をよく見てみると実は単なるグレーではなかったことに気付き、忠実に色を再現。作ってみたからこその発見でした。
最後は、カーテンをつけて、ハマスホイの窓越しに再現写真の撮影を実施。
一年以上の活動の集大成となったハマスホイの牛乳パックルームでは、壁の色は単なるグレーではないことや、カーテンの影が一部消えていることなど、実際に作ってみたからこその気付きも多く、ハマスホイ自身とその作品をより深く知ることができたように思います。今回のラボでは、普段は教えてもらう側になりがちな私たち市民が受け身でなく自発的に芸術と向かう挑戦となりました。
中尾友莉恵(アート・コミュニケータ「とびラー」)
この春開扉。何かを作ること、美術史、ミュージアムが大好き。とびらプロジェクトの3年間で人や知らない世界に出会うことも好きになりました。もっと多くのミュージアムに行きたい。
2020.05.17
2020年5月17日(日)。今年度初めての「あいうえの」プログラム「ムービー部オンライン上映会」が開催されました。
「ムービー部」とは、小学4年生から中学3年生の18名の参加者が上野公園やミュージアムの魅力を、約1分間のショートムービーにして配信する”ミュージアム・チューバー”となるプログラムです。2019年度に全5回の予定で進められましたが、8月から12月にかけて4回実施されたものの、3月に予定されていた最終回(5回目)の上映会だけが、コロナ禍の影響で見送られていました。
そこで、今回改めて「ムービー部オンライン上映会」と題し、Zoom(ウェブ会議システム)を導入することで悲願の実施となりました。「あいうえの」にとっても新しいチャレンジとなったプログラムの様子をご紹介します。
プログラムの様子はこちら→
(「Museum Start あいうえの」ブログに移動します。)
2020.05.09
第3回基礎講座 「きく力」を身につける
日時 | 2020年5月9日(土)10:30~14:30
場所 | zoom(オンライン)
講師 | 西村佳哲(とびらプロジェクトアドバイザー/リビングワールド代表)、稲庭彩和子(東京都美術館 学芸員)
第3回基礎講座は、アート・コミュニケータの活動の核となる「きく力」について考えました。講座は、前半はレクチャー、後半は参加型のワークを軸として進行されました。
2020.02.22
6月より8回にわたって行ってきた建築実践講座も今回が最終回です。
講座はもちろん、建築ツアーをはじめ様々な実践的なプログラムを通して学びあった8ヶ月。
今日は講座全体のふりかえりを行います。
まずはこれまでどのような講座が行われてきたかを思い出していきます。
初回は東京都美術館(以下、都美)の建築と歴史を知ることからはじまりました。
続く2回目は少し視野を広げ、活動のフィールド・上野地域を見ていく回。文化発信拠点としての現在の上野がどのような変遷の上に成り立っているのか、その歴史を紐解きます。3、4回目はここまでに学んだことを活かしながら、自分たちでミニツアーや建築空間を活用するプログラムを考えるワークショップです。
建築を味わうことや見ることの楽しさを習得しながら、自分たちの活動拠点について知り、プログラムづくりにつなげていくための前半でした。
そして第5回目は、オープンレクチャーとして開催。テーマは「モノのための美術館?人のための美術館? ―コミュニケーションと建築のいい関係」とし、改めて美術館の社会的な役割にも立ち戻りながら、その空間がどうあれば人々にとって心地の良い場所になるのか、コミュニケーションのある場所となれるのか、を考えました。
空間を生かす
6回目の外部の建物見学を経て、7回目は、実践につなげるためのさらなる一歩として、人々の能動性を高めるコミュニケーションはどのように作ることができるのかををテーマに、多様な実践を展開するゲスト講師をお招きしました。
1〜7回目まで通し、自身が建築空間に親しむことからはじまり徐々に実践への移していく流れが意図されていました。
講座の目標である「建築空間を通して生まれるコミュニケーションの場づくりについて考え、プランを実践する。」に対して、どのくらい意識的に取り組むことができたのか、今度はとびラーそれぞれの8ヶ月をふりかえってみる時間です。
「”建築空間を通して生まれるコミュニケーション”について考えたことで、どんな気づきがありましたか?」
まずはワークシートに記入し、その後3人のグループで共有します。
グループごとにどんな意見が出のか、全体でも共有します。
・建築空間のその存在自体が働きかけるものがあり、無意識にそれを受け取っていることに気づいた。
・こうすれば心地よくこの空間を使えるのではないかと考えられるようになった。
・知識に頼らず建築を楽しむことについて考えた。
など、様々なことが話されたようです。
講座に続き、次は実践を場をふりかえります。
今回紹介したのは、
「建築ツアー」、「トビカン・ヤカン・カイカン・ツアー」、そしてMuseum Start あいうえの(以下、あいうえの)で行われた「こども建築ツアー」「けんちく部」「美術館でポーズ!」のプログラム。それぞれ活動がどのようなものだったのかを写真とともにふりかえりつつ、実際に参加したとびラーにも、感想を話してもらいました。
様々なアプローチで建築空間を経験するプログラム。ツアーでは情報の一方通行ではないコミュニケーションをどのように試みたか、そしてあいうえののプログラムでは子供たちが主体的に建築に親しむための伴走役としてどのようなことを考えていたか、それぞれの経験から得た気づきをシェアしてくれました。
建築を活用するプログラムは様々な形がありますが、とびらプロジェクトでは、その歴史や情報を伝えることよりも、参加者が能動的に空間を見たり親しんでもらうためのコミュニケーションを大切にしています。実際に参加したとびラーの声からは、建築を介する中にも、参加したその人のことをいかに考えてふるまうか、がよく伝わってきます。
いよいよ講座も終わりの時間です。最後は”これから”を考えます。
テーマは、「6月からの講座での学び合いを経て、これから先に取り組んでみたいこと」。
建築実践講座を選択するとびラーの中には、講座に参加して初めて美術館の建物に注目した、という方も少なくありません。
まずは自分が建築空間を味わってみることを経て、建築空間を展示室の中にある作品と同じようにひとつの資源として捉えていく。作品の前で豊かな対話ができるように、建築空間にもその力があり、そこに集まる私たちが使い方を考えていくことができる。建築空間を捉えていくことには、私たちの豊かな体験の可能性を広げることに繋がるのではないでしょうか。
これからのとびラーの活動、そして任期満了するメンバーのその後の活動に期待します。
本年度の建築実践講座はこれにて終了です。
8ヶ月間、ありがとうございました!
(東京藝術大学美術学部特任助手 大谷郁)