東京都美術館× 東京藝術大学 「とびらプロジェクト」

活動紹介

スクールマンデー:日本橋小学校の鑑賞授業

2012.11.26

日本橋小学校の皆さん59名がスクールマンデーにやってきました。スクールマンデーは特別展の休室日を利用した、対話形鑑賞の実践の場です。まずは、学芸員の稲庭さんから展示室内でのマナーや本日の流れについての説明がありました。

 

展示室に入ると、全員で2階の最後のフロアまで移動します。展覧会全体のボリュームが掴めたところで、個別鑑賞の時間となりました。子供たちが手にもっているのは「つぶやきシート」と「開場マップ」。「つぶやきシート」には、気になった作品のちょっとした感想を言葉や絵で書き留めておきます。少し心の中のつぶやきを書き留めたりすることで、自分の気持ちを確認したり、言葉にしやすくなったりします。「開場マップ」には、展示室の中にある全ての作品の位置が写真で記載されています。「もう一度あの作品をみたい」、「美術館に来る前から気になっていたあの作品のところへ行きたい」という時にこ効率よく効果的に作品を鑑賞する助けとなります。

 

時々気になった作品が友達と一緒になることもあります。そんな時は隣り同士何となくお話をしてみます。「つぶやきシート」で少しだけ心の準備が出来ていれば、お互い作品について言葉を交わすことも自然にできるようになり

 

個別の鑑賞が終わった後は、グループ鑑賞の時間となります。VTS(ビジュアル・シンキング・ストラテジー)の鑑賞方法を用いながら、一つの作品をグループで鑑賞してゆきます。「つぶやきシート」でウォーミングアップした成果もあり、いろいろな感想が積み上げられて行きました。

 

とびラー候補生(以下:とびコー)のみなさんも、VTSのファシリテータとして活躍して頂きました。もちろん対応は完璧でした。

 

最後は、もう一度自分が一番気になった作品に会いにゆきます。特別「つぶやきシート」に何かを書かなければいけないという指示は出していませんが、何か気になったことがあったのかな?心にのこる1日であれば、なによりです。
(とびらプロジェクトマネージャ 伊藤 達矢)

 

スクールマンデー:荒川区立第三峡田小学校の鑑賞授業

2012.11.26

休室日を利用して行なわれる、対話による鑑賞教育スクールマンデー。本日は荒川区立第三峡田小学校5年生(25人)6年生(16人)の皆さんでした。「メトロポリタン美術館展」前のエントランスで、僕(伊藤)から展示室内でのマナーや本日の流れについて説明をさせて頂きました。

 

会場に入ると、一度2階の一番奥の展示室まで全員で移動しました。展覧会のボリュームを子供たちに知ってもらうためです。展覧会のボリュームが把握できたら、個別鑑賞の時間となります。
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今回の個別鑑賞はこれまでと少し違います。「メトロポリタン美術館展」で現在貸出し中の「どうぶつボード」を使って気になった作品をスケッチしたり、言葉をメモしたりしながら、楽しく鑑賞して行きます。

 

「メトロポリタン美術館展」は絵画だけではなく、彫刻やタペストリー、食器や写真まで、幅広い作品が展示されています。多種多様な素材と形状の作品を鑑賞するには、こうした自由に使える鑑賞アイテムが非常に効果的です。

 

こちら、児童の描いたエジプトの<猫の小像>のスケッチ。凄い上手です。奥は<聖餐用ハト>のスケッチ。手を動かして、形を確かめながら鑑賞することで、作品が持つ素材の魅力や、洗練された造形的美を、作者の視点をも顧みながら鑑賞することができます。

 

こちらはゴッホの<糸杉>です。本来縦構図の<糸杉>を横構図で自分なりに描いています。画面を構成する要素、この場合は「糸杉」、「雲」、「月」などの形や配置、または作品が醸し出している雰囲気を良く捉えています。描く時間は10分程度です。しかし、集中して一つの作品の前に10分立つというのは、美術の好きな大人でもあまりしないのではないでしょうか。
絵画には描かれている内容(図像)だけには留まらない魅力が潜んでいます。例えばじっくりみることで分かる絵の具の盛り上がりや輝き。さらには、形を辿ることでしか感じ取ることが難しい作者の筆運び(スピード・力強さ)から、<糸杉>を描いていたゴッホの心境までも感じとることができます。そうした奥深さを少しでも体験してもらうためには、気構えずに作品とコミュニケーションのとれる環境と、少しのアイディアやアイテムが大切なのだと改めて感じました。

 

個々人で「どうぶつボード」を使って鑑賞した後は、学芸員の河野さんやとびラー候補生(以下:とびコー)がファシリテータとなってグループで鑑賞して行きます。VTS(ビジュアル・シンキング・ストラテジー)の手法を用いながら、一人ひとりが感じたことをグループて共有することで、個人の視点では見つけることのできなかった、気付きやより深い理解を得ることができます。

 

とびコーのみなさんは、これまでたくさんの時間をかけて培ってきたVTSのファシリテータのデビューの日となりました。さすが7ヶ月以上も何度となく基礎講座や実践講座を通じて知識や実践を積んで来たとびコーさんたちだけあって、最初のファシリテートとは思えない落ち着きとしっかりした進行でした。
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VTSが終わるとまた子供たちは一人で鑑賞する時間を少しとりました。お気に入りの作品は見つかったでしょうか。今日の体験を通して、「また美術館に来たいな」って思ってもらえれば、何よりです。
(とびらプロジェクトマネージャ 伊藤 達矢)

メトロポリタン美術館展に向けたアクセスプログラム実践講座

2012.11.19

12月10日の「障がいのある方のための特別鑑賞会」に向けて、とびラー候補生(以下:とびコー)による実践講座が開かれました。今回の「障がいのある方の為の特別鑑賞会」の舞台は「メトロポリタン美術館展」です。

 

前回実施した「マウリッツハイス美術館展」での特別鑑賞会も完璧な対応をみせたとびコーの皆さんですが、今回はさらに特別鑑賞会でのサポートを充実させることと、無理の無い効率的な運営方法を両立たせるため、これまでとびコーさんたち自ら運営方法の研究を進めてきました。シフト表や注意事項、実際のシュミレーション全てがとびコーのみなさんで考えた内容です。誰かが決めて、この通りに動いて下さいということではなく、現場に立つ本人たちの手によって運営方法がブラッシュアップされて行くところが「とびらプロジェクト」らしさだと思います。

 

当日の対応布陣もばっちりです。

ほぼ準備は万端。「障がいのある方の為の特別鑑賞会」にお申し込み頂いたみなさまに満足して頂ける様な1日になることを願っております。
(とびらプロジェクトマネージャ 伊藤 達達矢)

建築ツアー:ハツリ加工の効果とは?!

2012.11.17

2回目となる建築ツアーが開催されました。本日もとびラー候補生(以下:とびコー)のみなさんによるオリジナルガイドで、東京都美術館(以下:都美)の建築物としての魅力をご紹介させて頂きました。とびコーの山中さんのツアーは、主に都美の照明をテーマとしたのもでした。

写真は企画展示室を見下ろしている様子です。都美を設計した建築家の前川国男は、設置される照明の場所や種類、強弱だけでなく、光を受け止める壁や柱の質感にもこだわりをもっていました。都美の壁や柱は「ハツリ加工」という工法で仕上げられています。「ハツリ加工」とは、コンクリート製の壁や柱の表面を、職人の手仕事によって粗めのテクスチャーを付けて行く加工のことを言います。この「ハツリ加工」によって生まれる効果は、視覚的にも暖かみが生まれ、かつ壁や柱の存在感をより引き立てるだけでなく、そこに照らし出された光までもが柔らかく、空間に滲む様な印象ををみるものに与えることができます。都美のコンクリート部分の相当面積がこの「ハツリ加工」が施されています。

 

こちらは秋本さんのガイドツアーの様子。2年前の改修工事前の都美と今の都美を模型を使いながら説明しています。

 

こちらは淵上さんのツアー。みなさん、定期的に研究・練習日を決めて、建築ツアーの内容をブラッシュアップしています。次回の建築ツアーは1月19日(日)。お申し込みはこちらから皆さんのご参加をお待ちしております。(とびらプロジェクト マネージャ 伊藤達矢)

スクールマンデー:慶応義塾大学幼稚舎の鑑賞授業

2012.11.12

休室日を利用した鑑賞教育の場、スクールマンデー。本日は慶応義塾幼稚舎6年生の皆さん36名が来館されました。はじめに学芸員の稲庭さんより、本日の流れや展示室でのマナーなどについて説明がありました。

 

展示室に入ると、まずは全員で2階の最後のフロアまで一気に進みます。展覧会全体のボリュームを確認できたところで、個別鑑賞の時間となりました。みなさんなにやらメモをとっている様子。実は、今回の授業には展覧会で作品を鑑賞するだけではない、課題が用意されています。それは、子供たち一人ひとりが、自分のお気に入りの作品を1点決め、その作品の音声ガイドを作成することです。36人分の作品のガイドが集まれば、子供たちからみた素晴らしい展覧会の側面が浮き彫りになることでしょう。

 

ゆっくり作品を鑑賞して、自分なりに感じたことをメモして行きます。もちろんキャプションの言葉だけでは十分ではありません。なぜこの作品を選んだか、どこに魅かれたのか、どんな風にみえたのか、誰かに教えてあげたい気持ちや、聞いてもらいたい言葉など、たくさんの要素を一つにして行かなければなりません。

 

個々人で作品鑑賞をした後は、とびラー候補生(以下:とびコー)2人と子供たち2人で4人一組になり、グループで鑑賞して行きます。それぞれが最も番気に入った作品を一つ決め、とびコーさんともう一人の同級生にその作品の素晴らしさを伝えます。とびコーさんもVTSで培った対話力を活かしながら、対話を通して、子供たちとともに鑑賞を深めて行きました。

 

とびコーさんとのグループ鑑賞の時間が終わると、子供たちはまた一人で作品を鑑賞する時間となりました。一人で鑑賞して、ブループで鑑賞する。そして、また改めて一人で鑑賞してみることで、一人では気付かなかった作品の魅力を発見できたりします。慶応義塾大学幼稚舎6年生のみなさんがつくる音声ガイド、凄く楽しみです。あくまで学校の授業でつくられた音声ガイドなので一般のみなさんには公開できませんが、是非聞かせて頂きたい!!と思う次第です。
(とびらプロジェクトマネージャ 伊藤 達矢)

対話による鑑賞の実践と記録について VTS実践

2012.11.05

今回の「スークールマンデー(対話を通した作品鑑賞)」実践講座のテーマは「対話による鑑賞の実践と記録について VTS実践」です。ついにVTS(ビジュアル・シンキング・ストラテジー)の実践に入ります。今日は午前・午後と通しての実践講座、気合いが入ります。講師はNPO法人芸術資源開発機構のアートプランナーである三ツ木紀英さんです。

 

はじめに、VTSを再度おさらいする意味も込めてDVD「Thinking through Art 」(イザベラ・スチュアート・ガードナー美術館)を鑑賞しました。

 

続いて講師の三ツ木さんから、VTSを行なう上で必要な「3質問&7要素」についてお話を頂きました。ここで午前の部終了。

 

午後は二組に別れてVTSの実践に入りました。とびラー候補生(以下:とびコー)のみなさんは、これまで何度となくVTSを見てきましたが、ファシリテータとして実践するのは今回がはじめてとなります。ちなみに、VTSの実践では、たんにファシリテータの練習を行なうだけでなく、1)ファシリテータ役、2)講師役、3)記録役と、必ず1回のVTSに3つの役割を分担することになっています。VTSが終了したあと、2)の講師役は、

「(ファシリテータに)実践してみてどうでしかた?学んだことは何ですか?」

「(鑑賞者に)〇〇さんのファシリテーションで、いいなと思った事はなんですか?」
「(全員に)何か驚いたこと予想外だったことはありますか?」
「(鑑賞グループに)〇〇さんに何か質問はありますか?」
「(ファシリテータに)これから取り組みたい課題はなんですか?どうしたら達成されると思いますか?」
などの質問を投げかけます。
こうしたやり取りを、VTSに参加したメンバー全員で共有し、さらに3)記録役がそこでの会話を記録することになっています。また、VTSの様子は全て音声録音がされており、後で、自分のファシリテートが適切であったかを確認することができます。

 

 

一通りの流れを終えたおころで、三ツ木さんか学芸員の河野さんからコメントを頂きました。1)ファシリテータ役、2)講師役、3)記録役を配置したVTSの練習は実践講座以外でもとびコーさんたちが自主的に集まってVTSの練習をすることのできる仕組みです。
これからの上達が楽しみです。
(とびらプロジェクトマネージャ 伊藤 達矢)

アート・コミュニケーション・アーカイブ研究(前半)

2012.10.22

「アート・コミュニケーション・アーカイブ研究 東京都美術館とアート・コミュニティー『造形講座』と『自主造形講座』そして『とびらプロジェクト』」が開催されました。これは、1978年から10年間に渡り東京都美術館(以下:都美)にて行われた「造形講座」と、「造形講座」が廃止された後にその受講生たちがたちあげた「自主造形講座」の歴史を、残されたアーカイブ資料をもとに再考し、現在行なわれている「とびらプロジェクト」との接点を見いだすことから、アート・コミュニティーの本質を考えることに主眼が於かれたアーカイブ研究会です。

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会のはじめはアートコミュニケーション担当係長の稲庭さんから、本会の趣旨や1978年当初からの「造形講座」の概要や流れについてお話を頂きました。

 

続いて、「造形講座」担当学芸員だった河合さんより、当時の様子についてお話を頂きました。当時の「造形講座」は、日本の美術館の教育普及活動としては非常に先鋭的な試みであり、また美術館教育の歴史に於いても注目される優れた試みであったとのこと。その特徴としては、一方的に情報を伝えるレクチャーではなく、学び手が主体的に参加するワークショップの手法を取り入れた最初の美術館教育であったことが報告されました。

 

そして、当時このワークショップを牽引していたのが及部克人先生(現 東京工科大学教授)でした。講座は、週2回を5週間(午後6時から9時まで)、計10日間1セットという密度の濃い講座ながらも、定員の60名(昼の部30名、夜の部30名)はすぐに埋まり、抽選となるほどの人気を博した企画であったそうです。こうした活動は1986年まで(10年間)継続しますが、その後、東京都現代美術館の設置に伴い、都美内の第一アトリエに東京都現代美術館の設置準備室が置かれると、ワークショップを行うアトリエ面積が少なくなり、教育普及活動も次第に収束したとのこと。しかし驚くべきは、この「造形講座」の受講生らが、講座廃止後に都美で行なわれていた活動を自主的に引き継ぎ、美術館外でおこなう「自主造形講座」を立ち上げ、凡そ5年間にも及ぶ活動を展開したことでした。

 

「造形講座」で及部先生と共に講師をされていた米林雄一先生(東京藝術大学名誉教授)にも、当時の講座の様子を振り返って頂きました。米林先生は彫刻を専門とされており、「造形講座」に於いてもさまざまな立体作品の指導なのどをされていました。印象的であったのは「造形講座」の講師を勤めたことが、その後の自分の人生にも大きく関わってきたとのコメントでした。人と人とを繋ぐ役割の大切さを「造形講座」を通してより深く感じられたとのこと。米林先生のその後の藝大での研究や活躍に反映されていったお話を伺うことができました。

 

後半は、当時の「造形講座」の受講生だった方々にご登壇いただきました。受講生の視点からみた「造形講座」と「造形講座」が廃止になってから「自主造形講座」を立ち上げた経緯や、ご苦労された点など赤裸々に語っていただきました。

 

聞き手は茂木一司先生(群馬大学教授)と僕(伊藤)です。受講生だった方々へのインタビューという形で進めさせて頂きました。

 

最後に、当時の受講生だった方々と、講師だった及部先生、林先生、担当学芸員だった河合さんとで当時を振りました。印象的だった話としては、講座廃止後、受講生であった面々で「ルノワール」という喫茶店に集まり、喧々諤々と美術館の外で自分たちの手でつくり上げる「自主造形講座」の定期的な開催に向けて会議を重ねたそうです。
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こうした、モチベーションは、都美が主催した「造形講座」のプログラムが魅力的であったというだけでなく、講座に参加した個々人が、講座での出来事を「自分」という物語の大切な一部として心の中に位置づけていたからに他ならないのでは無いかと感じました。「造形講座」で得た人との出会いと、体験を通したコミュニケーションは、参加者にとって、大切な財産となり、参加者それぞれの心に「小さな物語」を残していったのではないでしょうか。

 

研究会終了後の様子。2階のアートスタディールームには、「造形講座」に参加されていた受講生や、講師が持っていた資料などが展示されました。30年後の今「造形講座」にまつわる数々のアーカイブがのこされているのはまさに奇跡だといっても過言ではありません。これは、美術館が主導的役割を果たして保存したアーカイブ資料ではなく、「造形講座」の講師や受講生たちが、個々人の意思で保存した資料たちの集積です。この資料をもとにこの研究会は次週10月29日へと続きます。
(とびらプロジェクトマネージャ 伊藤 達矢)

東京藝術大学 アトリエ・工房ツアー

2012.10.12

とびらプロジェクト・アシスタントの大谷郁です。
1月末に開催される東京藝術大学卒業修了作品展(以下:藝大卒展)が藝大上野校地と東京都美術館(以下:都美)の2会場で行われます。今年はとびらプロジェクトも藝大卒展と連携することから、とびラー候補生(以下:とびコー)限定「東京藝術大学アトリエ・工房の見学ツアー」が行われました。ツアーガイドはとびらプロジェクト・マネージャの伊藤とコーディネータの近藤、それに美術学部教務係長の田野邊さん、同じく教務係卒業修了制作展担当の萬代さんです。
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年度末の藝大卒展はとびコーさんが活躍する次なる大舞台となりますが、お隣にある藝大生の実態を実はあまり知りません・・・。藝大生は普段どのようなところで制作しているのでしょうか?どんなキャンパスライフを送っているのでしょうか?・・・知りたい! そこで、作品の生まれる現場を見に行こう!そして、藝大卒展の魅力を発進するきっかけを掴もう!という試みです。普段は教員・学生でなければなかなか入ることの出来ない場所であり、プロジェクト・マネージャの伊藤(助教)ですら自分の学科以外の授業中のアトリエには入ったことが無いというまさに聖域です。しかし、今回は美術学部の特別の計らいでツアーが実現しました。さー、いざ藝大のアトリエ・工房へ!

まずは日本画専攻のアトリエ。静かで落ち着いた雰囲気の中、大学院生が古典作品(国宝)の模本の制作をしていました。テーブルにはたくさんの資料と、色見本などが置いてあります。

 

実物の複写を見ながら丁寧に描き込んでいきます。学校で実物を見ながら制作することは出来ませんが、所蔵場所まで脚を運び色などの細かな調整も行うそうです。デスクに収まる程のサイズでも、完成までに1~2年要するとのこと。本当に緻密な作業で、緊張感のあるアトリエの雰囲気が印象的でした。

 

次に油画専攻のアトリエへ。油画専攻は日本画専攻と同じ絵画棟にあります。アトリエへ入るとまず目に入るのが白壁に飾られた沢山の絵。アトリエを共有する数人の学生たちがここで制作をしています。このように大きな作品を学校で制作する学生もいれば、学校以外の自宅などで制作する学生もいるそうです。アトリエを共有しながらも、画材を広げ、資料を広げ、それぞれがそれぞれのスタイルを持っている様子でした。

 

次は版画専攻を見学。油画専攻の学部3年生から選択し所属することができます。版画は、木版や銅版をはじめ様々な技法があり、実習を通して基礎的な技術を習得します。こちらは木版の制作風景、鮮やかな色合いが素敵です。

 

次は彫刻科の工房。金属や石や木材を加工する機械の大きな音が響き渡ります。石を研磨したり、金属を繋いだり、大きな木を彫ったりと作業も様々。私には何に使用するのか一見わからない機材や工具で溢れる工房でした。
学生たちの格好も危険を伴う作業に適したものになっています。ちなみにお昼休みは、制作の合間を縫って作業着のまま学食に来る工事現場のお兄さんのような学生も大勢います。一般大学には見られない少し変わった光景です。

 

次に工芸科へ。こちらもまた彫金をはじめ漆芸、陶芸などの細かい分野に分かれ伝統技法を学びます。写真は鍛金専攻の工房、大きな機械が立ち並びます。講師の方からどのような加工に使われるのかを説明をしていただきました。彫刻科と扱う素材は近いですが、工芸科では伝統的な工芸技術の継承を主体とした教育の取り組みがなされているそうです。

 

学生作品を資料として見せていただきました。一枚の金属板が壷や動物へと形を変えるのだから不思議です。「例えば金属を叩いて形をつくるとき、失敗すると1からやり直しなのですか?」と質問すると、「直しが利くようにまずはざっくりと大きく形をとっていき、徐々に細かく手を入れて行きます。動物の目鼻のように一発で決めなければならないポイントもあります。」とのことでした。出来上がった作品と扱ったことがなければ想定しづらい制作の過程とを見比べることができ、とびコーのみなさんも驚いた様子でした。

 

最後はデザイン科のアトリエへ。機材、工具が多く置かれていた彫刻科、工芸科からは一転、とてもスタイリッシュな空間です。
ちょうど授業内で制作した作品の展示が行われていました。チョコレートメーカーのロゴやポスター、パッケージの様々なアイディアがずらっと並んでいます。このような課題や実習を積み重ね、卒業時には学生それぞれが自らの表現を作品として発表します。
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今回は2時間程のツアーの中で多くのアトリエや工房を見学しましたが、残念ながら全ての学科を見学できた訳ではありません。まだまだ藝大には魅力的な学科がたくさんあります。1月の藝大卒展はそんな藝大の魅力を一度に見ることのできる、たまと無い機会です。今からとても楽しみです。
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とびらプロジェクトでは今回のツアーをきっかけに、藝大卒展に向けて卒業作品を制作している学生を取材し、随時ブログにて公開していきます。出来上がった作品だけではなく制作の過程や作者の顔を追うことで、これまでよりもさらに藝大卒展を身近に、また藝大そのものを魅力的に感じて頂ける様にしたいと思います。最後に、各学科の教育研究助手のみなさま講師の皆様、懇切丁寧に学科内の案内と説明をして下さり、誠にありがとうございました!(とびらプロジェクト・アシスタント 大谷郁)

とびランチ:東京藝術大学 大浦食堂

2012.10.12

今日のとびランチは、東京藝術大学の大浦食堂です。ご紹介したいメニューは藝大名物の「豆腐ともやしのバター焼き丼」、通称「バタ丼」です。約40年前からある藝大伝統の味です。写真は、トッピングで卵を入れた「卵入バタ丼」。おもいっきり七味をかけて、少しソーズを垂らすといい感じです。

 

僕としてはまさに青春の味。たまに無性に食べたくなります。人によっては、卒業後に家でもつくるようになり、今では家庭の味になったという程、藝大生とは縁の深い一品です。
今回はコーディネータの近藤さん、アシスタントの大谷さん、とびラー候補生のみなさんと一緒に食べに行きました。みなさん、、美味しかったかな?(近藤さんは何か考え込んでいる様子、そして心配そうにみんなが見つめていますが、、、。)藝大を卒業した数々のアーティストたちの思い出の味、藝大美術館にお立ち寄りの際には、是非ご賞味下さい。ただし、販売は13時からですのでお気を付けて。
(とびらプロジェクトマネージャ 伊藤達矢)

とびらプロジェクト前期総会「働いてみたとびラー」

2012.10.06

とびらプロジェクトも始動してから6ヶ月が過ぎました。基礎講座が終わり、実践講座へ進み、とびラーのアイディアからさまざまな活動が生まれました。活動があまりにも急速に成長し、そのバリエーションも多様なため、ここらで一度総会を開き、とびラー候補生(以下:とびコー)同士が自分たちの活動を振り返り、今後の活動の指針を再確認することを目的に、「働いてみたとびラー」と題した総会が開かれました。講師は左から西村佳哲学さん、稲庭彩和子さん、僕(伊藤達矢)です。

 

はじめに西村さんから「なんのためのアートコミュニケーション」という問いが提示され、この半年の活動を再度とびコーさん同士が再確認し合うことから総会は始まりました。

 

3人一組になり、この半年の活動について、成果や反省を含め自分たちが感じたことを話合いました。とびらプロジェクトがはじまって半年間、とびコーのみなさんも無我夢中で走って来たというのが正直なところだと思います。しかし、このまま走り続けるのではなく、少し立ち止まって「何のためのアートコミュニケーション」なのかを考えることで、今後の活動をより意味深いものにして行ければと思います。ただ、この「何のためのアートコミュニケーション」という問いには、正解はありません。むしろ、それはとびらプロジェクトを運営するスタッフも一緒に考え続けてゆかなければならないテーマであるとも思います。そして「何のためのアートコミュニケーション」という問いは、とびらプロジェクトに関わる全ての人の中に千差万別に、個々人それそれ違った答えで深められることを期待しています。とびらスタッフやとびコーさん個々人の解釈がより多様なアートコミュニケーションの在り方を体現するきっかけになるのでは無いかと思います。

 

午後は、とびコーさん自信から各々が担当したプロジェクトについて発表して頂きました。恐らくとびらプロジェクトの全てを体験した人はスタッフを含めて一人もいないのでは無いでしょうか。そのため、自分が参加できていなかったプロジェクトについては、あまりよくしらないというとびコーさんもたくさんいます。

 

こうした発表の機会は、とびらプロジェクトのエネルギーを共有するのにとても大事な場となりました。発表は20組以上に及び、密度の濃い共有の場となりました。

 

今回の総会にはとびコーさんからさまざまなアイテムの配布もありました。写真は館内の情報がつまったとびラー&館内職員専用のマップ。内容をまとめるところから、デザインするところまでとびコーさんの丁寧な作業によって完成されたものです。

 

こちらは、とびコーさんの名刺、全員分あります、こちらも名刺プロジェクトのとびコーさんによって作成されました。これを使ってどんどんとびコーさんも地域進出して頂ければと思います。

 

これは、これまでの半年間をまとめた「とびらすごろく」とびコーさんの一喜一憂がまとめられ、見る人が見たら涙がでそうです。

 

最後はアートコミュニケーション担当係長の稲庭さんと西村ささんからコメントがありました。
^
稲庭さん>
「理論で伝えきれないものを大事にして行くのが、アート・コミュニケーションではないかと思います。とびらプロジェクトを通して作品を鑑賞する上でも、今後活動を行なってゆく上でも、とびラーを含め関わった来館者が『自分はこういう風に思う』とそれぞれの感じ方を表明し合い、共有出来る場を育んで行きたいと思っています。こうした各自の感じ方を直接共有するのは、時間や手間がかかることかもしれません。むしろ、テキストを用いた意思の伝達の方が効率の良い最短距離の意思疎通(コミュニケーション)と理解することもできます。しかし『なんとなくこんな感じ、、、』といったイメージ(感性)の共有を対話やその場の暖かみを通して紡いで行くことには、テキストでは補うことができない程の奥行きを感じます。そうした奥行きの存在こそが、『言葉にはうまく置き換えられない大切なもの』に輪郭を与えてくれるのはないでしょうか。今はまだ、アートを通して自分の価値観を表明したり、共有できたりする場所は少ないですが、とびらプロジェクトを通して、もっとそうした場や機会を増やしてゆければと思います。」
^
西村さん>
「武蔵境にある図書館『武蔵野プレイス』ってしっていますか?これまでの図書館は住宅地の奥になり、働く人に導線にはあまり乗っていませんでした。しかし、この『武蔵野プレイスは』駅の前にあり、夜10時まで開館しています。しかも1階はカフェになっています。今全国の図書館が少しずつ変化を遂げようとしています。これまでの図書館は図書の収蔵が主であり、そこに来る人も自分の欲しい本を見つけて借りて行く言わば消費者的でありました。しかし、今の先進的な図書館は従来の図書館としての機能は保つつも、人々が図書館に訪れたことがきっかけになり、何かの活動がはじまったり、自分の人生に新しい展開がみえたりと、様々な可能性を創造する『場づくり』としての図書館の姿をつくることがが試みられています。そのため、本の並べ方もいわゆる図書館的な分類法ではなく、本屋さんの様な『出産』というジャンルの後には『孫育て』といったジャンルがくる様に、活用する人の目線で並んでいます。また、ただ本を借りる/読むスペースではなく、市民の活動がスタートするための『止まり木的な空間』や、『ミーティングルーム』などが多数設置されています。更に地下2階に降りて行くと、小中高生のための場所があります。ここでは、図書館であるにも関わらず、カップラーメンをつくることのできる給湯場があったり、クライミングウォールがあったりと少し不思議な空間になっています。実は『武蔵野プレイス』が出来る以前は、授業が終わった後の小中高生に行き場がありませんでした。そのため塾や部活の無い子供たちは、武蔵境にあるイトーヨーカドーの地下に集まることが多かったそうです。この、行き場の無い子供たちに図書館という行き場を与えたのが『武蔵野プレイス』でもありました。こうした様に今では、公共文化施設の役割はどんどん変化してきています。こうした期待の一旦はとびらプロジェクトに、都美ももかかっているのではないかと感じます。」
^
稲庭さん、西村さんから、今後の展望を示唆するようなコメントを頂きました。まだまだ美術館では図書館の様な軽やかさを打ち出すことは難しい側面もありますが、施設の利便性に異存するのではなく、活用する人の側に主体性を持つことを基本とするのがとびらプロジェクトらしさであれば、とびらプロジェクト流のやり方で、こうした社会的な期待にも答える方法を今後見い出して行きたいと感じました。これからがとびらプロジェクトの本番です。この半年間の成果を土台に引き続き頑張りましょう
(とびらプロジェクトマネージャ 伊藤達矢)

 

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