2017.11.18
11月18日、秋晴れの空の下、東京都美術館の建物の魅力をご案内する「建築ツアー」を行いました。
30名の定員はあっという間に満席となり、4つのコースに別れてツアーに出発です。
今回のツアーでは手話通訳付きのコースを設け、手話通訳を必要とするみなさんにもご参加いただきました。
建築ツアーは普段馴染みのない言葉も多く登場するため、手話での通訳に加え、ガイドは各所で出てくる用語を記したフリップを持ちます。
また、とびラーは全員筆談具を持ち歩き、参加者のみなさんとはコミュニケーションをとりながら進んでいきます。
2010年〜2012年に行われた改修前後の模型を見比べ。ガイドの「どこが変わったかわかりますか?」の問いかけに、参加者のみなさんは模型をあらゆる方向・角度から覗き込み、次々と発見を教えてくれました。
1Fのアートラウンジでは北欧家具をご紹介。実際に座って座りごごちの良さを体感します。
見るだけでなく、実際にモノに触れることができるのも、このツアーの魅力です。参加者同士のコミュニケーションも活発に交わされていました。
手話通訳を必要とされる方はもちろん、いろいろな方にプログラムを楽しんでいただくにはどういった工夫が必要なのか。今回の経験を踏まえ、今後も模索を続けていきたいと思います。
(東京藝術大学美術学部特任助手 大谷郁)
2017.11.14
11月13日月曜日、本年度3回目の学校向けプログラム「スペシャル・マンデー・コース」が東京都美術館で行なわれました。
上野公園の木々も色づきはじめ、爽やかな秋晴れの一日となりました。
(「Museum Start あいうえの」ブログに移動します。)
2017.11.12
11月12日、これからゼミ「長生村鑑賞会」を開催しました。
千葉県の長生村では、毎年秋になると生涯学習課主催の「展覧会鑑賞会」が実施されています。昨秋、村のみなさんをお迎えして開催した鑑賞プログラム「よく見て話して」に続き、今年は「ゴッホ展 巡りゆく日本の夢」展を舞台に「長生村鑑賞会」を実施しました。
<プログラムについて>
◯これからゼミ「長生村鑑賞会」の目的
美術館を訪れることが少ない方々に作品とより深く向き合う時間を過ごしていただき、これからの美術館体験を豊かに広げていっていただけることを目指し、このプログラムはその入り口となる機会として実施します。
◯参加者の特徴に合ったプログラムをデザインする
昨年のプログラムでの経験を生かし、長生村生涯学習課ご担当の方とも相談をしながら参加者のみなさんに合わせたプログラムをデザインします。
今回参加いただいた23名の参加者の特徴は、30代から90歳近くの方までと、幅広い年齢層にありました。
もう一つの特徴は、ゴッホの作品を見たいと思って参加してくださっていることです。
そのため、特に移動と安全への配慮を検討し、活動の項目を極力減らしシンプルにすることで、展示室で鑑賞を深める時間を増やしました。とびラーと関わる充分な時間も確保し、参加者に合わせた鑑賞プログラムがデザインされました。
プログラム タイムテーブル
9:50 東京都美術館到着、とびラーがお出迎え。
10:15 館内のアートスタディルームに集合、本日のプログラムについて、展覧会のみどころをお話。
10:40 グループごとに展示室へ移動、とびラーと一緒に展示室をまわります。
12:00 アートスタディルームに戻り、鑑賞をふりかえる。
12:30 プログラム終了
また、<これからゼミ>として、長生村生涯学習課担当者の方との共働も視野に入れたプログラム作りを進めていきました。
担当者の方には、一般参加者と一緒にプログラムに参加していただき、体験を通して「地域の行政との連携活動とその継続」について共に考えていきます。
<当日の様子>
◯車中での活動1|安心した気持ちで美術館に向かう
当日、参加者は、村から都美までを大型バスで移動します。
バスにはとびラー1名が村から同乗し、一行が一緒に過ごす車中での時間を<美術館に行く準備>の時間に充てます。
参加者の中には、初めて美術館に行く方もいらっしゃいました。
美術館へ向かう気持ちをつくるために、展覧会のチラシやガイドを配ります。
展示室での6つのルールを書いた資料も配布します。初めて美術館に行く方にもわかりやすく、また緊張を和らげるために役に立つと考えました。
このように、全員で事前に美術館の話を聞くことは、参加者にとって、安心した気持ちで美術館へ向かうことに繋がります。
◯車中での活動2|作品鑑賞の準備
美術館へ向かう準備の次は、みんなで展覧会鑑賞の準備をします。
展覧会図録を見て、 「本物を見てみたいと思った作品」を選び、更に、「何故そう思ったのか?」「どこが気になったのか?」を考え、メモしておきます。
この活動は作品鑑賞の準備となり、参加者自身が行うことで、プログラムへの参加と作品への関心を高めることに繋げていきます。
前もって、展覧会にどんな作品が展示されているか、や、プログラムの流れを知ることは、大切な準備の時間となります。
◯全体活動1|とびラーと出会う
都美に到着すると、とびラーが参加者を迎えます。
降車地点から館内に向かう僅かな時間ですが、都美を囲む上野公園の環境についてお話しながら歩きます。
今回駐車場所となった都美の駐車場は、一般の方にとっては興味深い見どころの一つとなっていました。
◯全体活動2|プログラムスタート
参加者にとっては、初めて訪れるアートスタディルーム(以下ASR)。
グループに分かれて着席し、安心してプログラムに参加していただけるようグループ担当のとびラーから声かけをします。
プログラムが始まり、全員で学芸員の稲庭さんから「ゴッホ展の見どころ」を聞きます。
車中で図録を見る、作品を選ぶなどしてきた参加者にとって、この話は、鮮やかに心に沁み込み、展示室への期待が更に膨らんだようです。
◯グループ活動1|鑑賞の導入
4人の参加者と2人のとびラーでグループになります。年代はバラバラに組まれています。
図録を広げながら、参加者が選んだ「本物を見てみたいと思った作品」とその理由を、1人ずつお話し、グループ内で共有します。こうして、他の人の話も聞きながら、作品を見る期待感を高めていきます。
◯グループ活動2|展示室へ
グループ毎に、展示室へ向かいます。鑑賞時間は約80分。
とびラーは、参加者ごとのペースを大切に、参加者の作品鑑賞が深まる手助けをします。
混雑した展示室では参加者の鑑賞のペースを見守りながら、ゆとりのある展示室では参加者と作品についての話をしながら、状況に合わせて伴走します。 「本物を見てみたい作品」の前では、とびラーと参加者が一緒に作品に向かい合います。
図録をみてから本物の作品に出会った時の、様々な発見や驚きが語られます。
◯グループ活動3|鑑賞のふりかえり「話す・聞く」
鑑賞を終えた参加者は、作品について自分の感想を言葉で「話し」、他の人の言葉を「聞き」ます。
とびラーは時間配分も考えながら、図録を使い、その人が選んだ作品をグループ全員に示し、話を促します。
展示室で本物の作品を見た感動がグループで語られる時間でした。
◯プログラムの終了とその後
参加者の感想は尽きることはありませんが、
このプログラムで「作品を見てみんなで話をする」という、あまり経験のない鑑賞体験を共有できたことを確認して、プログラムを終えます。
そして 都美からの帰路の車中では、今回のプログラムについての感想をアンケートで答えていただきました。
<プログラムを終えて>
鑑賞プログラム「長生村鑑賞会」の一番の特徴は、大型バスで長生村を出発した時から、帰路のバスの中でアンケートの記入が終わるまでがプログラムとしてデザインされている、ということです。また、とびラーと一緒に活動することや、展示室で本物の作品を見て感想を言葉にするという体験は、昨年に続き今年も活動の柱となっています。
昨年の実施プログラムからの成果と課題に対する方策、村の担当者の希望をできるだけ組み入れながら、新たに今年のプログラムイメージとタイムスケジュールを考えました。
最後まで検討を続けたのは、「混雑した展示室での伴走の方法」という課題です。
展示室の混雑は避けられない状況のなかでも、より豊かな美術館体験をしていただくために、私達とびラーができることを検討し続けました。プログラムについて話し合いを始めてから、実施日に至るまでの間、16名のとびラーとスタッフ(延べ61名)で話し合いを重ね、長生村生涯学習課担当者とも打ち合わせをしてきました。
課題に対しては、決定的な解決策は見つかりませんでしたが、いろいろな方法をシュミレーションしながら「とびラーとしてこれまで学んできたことや、経験してきたことを活かして、参加者と関わる中で、それぞれの参加者に合った伴走のあり方を、それぞれのとびラーが探っていこう」ということになりました。
これまでの鑑賞方法を主体に、伴走の方法を工夫し、できるだけ興味深い美術館体験も組み込みました。
当日は、とびラーやスタッフの内容共有と充分な人数で迎え、余裕を持って対応することができました。
終了後の参加者からのアンケートには、今年も「とびラーさんが一緒にいてくれたお陰で、良かった、助かった、楽しかった、分かり易かった、充実していた、安心だった」とあります。
しかし、こうして振り返ってみると、「とびラーのお陰で」ではなく、参加者自身のプログラムへの関わりこそが、成果を生み出していることに気付かされます。事前に図録を見る、図録の中から作品を探す、理由を考える、本物を見る、感想を言葉にするなど、全て参加者自身の能動的な活動だったのではないでしょうか。とびラーの役割は、「参加者に何かをしてあげる」のではなく、「参加者が能動的に活動できる場を作ること」と改めて確認する機会になりました。
文:中島惠美子(アート・コミュニケータ「とびラー」)
2017.11.06
11月6日(月)、鑑賞実践講座の第4回が行われました。今回は11月にあるスペシャル・マンデー・コース(Museum Start あいうえの・学校向けプログラム)に向け、事前準備のワークと勉強法がテーマとなりました。
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★鑑賞実践講座(第4回)
「事前準備と勉強法について」
講師:三ツ木紀英さん
11月6日(月)13:30 – 16:30
今日の流れ
◯対話型鑑賞体験(白石さんによるファシリテーション)
◯ミニ・ファシリテーション体験
◯作品研究ワーク
◯学校概要の紹介
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今回のねらいは、こどもたちとの「作品鑑賞」をより豊かにするために、作品に対する理解を深めるための勉強法を学び、事前準備がしっかりできるようになるということにありました。
そのために、改めてとびラー自身にも作品鑑賞の機会を設け、さらに「作品研究のワーク」を実践しました。
当日のプログラムの様子を紹介します:
◯全員でひとつの作品鑑賞:VTSの3つの質問と7つのポイントを思い出そう
◯ミニグループで作品鑑賞
〜休憩〜
◯作品研究ワーク
ひとつの作品に対して、グループで見えること・感じることの言葉出し作業を行い、多角的な視点で作品を掘り下げ分析をしていくワークです。
見えること=事実(☆)と感じること=解釈(♡)をふせんに書き出しながら、それらの言葉がどのように紐づいているのかを整理していきます。最後には出てきた言葉を分類していく、という作品研究ワークです。
言葉出しの作業は、鑑賞者からどんな言葉が出てくるのかを想定することができ、事実と解釈を結びつける作業は、「どこからそう思うのか?」という根拠をたずねたり、リンキングしたり全体を編集するのに役立ちます。
最後の分類化は<フレーミング>と言って、別の言葉に言い換える用意をしておくことでパラフレーズに役立ちます。
このワークを、一人ずつ行うのが「ひとりVTS」と呼ばれる作業です。
鑑賞する予定の作品について、どのような言葉が作品が出てくる可能性があるか、またそれはどのような根拠や関連性があるのかを事前に一人で行うことで、対話型鑑賞のプログラム本番に備えることができます。
もちろん自分が考えもつかないような発言が出ることもありますが、作品に自分自身の意識を近づけておくことで、ファシリテーターにとって、どんな発言も受け入れられるようなゆとりのある気持ちづくりにもつながるのです。
次週はいよいよこどもたちが来館します。
この事前準備を行なってこそ、こどもたちの鑑賞の時間がより豊かになると思います!
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東京藝術大学 美術学部特任助手
鈴木智香子
2017.11.03
11月3日(金)に、あいうえのファミリー向けプログラム「うえの!ふしぎ発見 ゴッホ部」が実施され、小中学生とその保護者計26名と、アート・コミュニケータ(とびラー)12名が、東京都美術館と東京国立博物館を舞台に活動をしました。
「うえの!ふしぎ発見」は、上野公園の文化施設が有機的に連動し、アートからサイエンスまで、バラエティ豊かなテーマにそってミュージアムをめぐり、モノを丁寧に観察・鑑賞するプログラムです。
「うえの!ふしぎ発見」シリーズの第4弾となる、「ゴッホ部」では、東京都美術館と東京国立博物館がコラボレーションをして、ゴッホの作品とゴッホが愛した日本美術を鑑賞するワークショップを開催しました。
プログラムの様子はこちら→
(「Museum Start あいうえの」ブログに移動します。)
2017.10.30
10月29日(日)にファミリー向けプログラム「うえの!ふしぎ発見:アート&サイエンス部」が行われました。
台風が近づくなか大雨のお天気となったのですが、9組19名の親子と共に13名のアート・コミュニケータ(とびラー)が活動しました。「うえの!ふしぎ発見」は上野公園の様々な文化施設が連携するプログラムで、毎回一つのテーマのもと、参加者がミュージアムを横断的に体験することができます。
今回は、国立科学博物館と東京藝術大学、東京都美術館の3つの場所を、「色」をテーマにめぐる一日となりました。国立科学博物館(以下、カハク)で色をじっくり見る・観察する体験と、東京藝術大学(以下、藝大)で色を作る体験を経て、最後に東京都美術館で色が使われている絵画作品を鑑賞する、というプログラムです。
プログラムの様子はこちら→
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2017.10.29
7月から始まった実践講座もいよいよ後半戦。第6回目となるアクセス講座では、前回の舘野さんによるレクチャー「ワークショップデザイン入門:体験をを通して学びを深める場作りとは?」をさっそく活かした実践編です。前回のレクチャーで学んだワークショップの構造や設計のポイントを意識しながら、実際にワークショップを計画してみます。テーマは「上野公園内の文化財や文化資源を介してできること」。ミュージアムや上野公園を活用するとびラーの視点から、その体験を他者に伝えるためのワークを考えていきます。
講座の序盤に、まず伊藤さんによるレクチャー。前回の舘野さんの講座を振り返り、実際にワークショップを組み立てるポイントをおさえます。
「遊び」と「ずらし」を学びではさむ、目的はワークショップのなかで繰り返し伝える、1人で考える時間とグループで話す時間はコントロールする、など、常にワークショップの全体像と目的を意識してすすめていくのがポイントです。
今日のワークでは、ランダムな5〜6人のグループで、テーマに添ったワークショップを考えていきます。できた企画はワールドカフェ形式で他のグループのメンバーに紹介し、課題点などを指摘し合います。後半ではその指摘をもとに修正し、最後は1枚のポスターにまとめます。
考えていくためのツールは、ワークショップの内容を具体的に伝えるための「企画書」のベースになるものです。今回は5つのトピックにつき1枚ずつワークシートがあり、設計のポイントとなる問いが記載されています。
話し合う時間は1時間ほど。各グループで話し合い、最近気になっていることや楽しそうだと思う活動など、それぞれの経験からアイデアを持ち寄ります。話し合いの段階として「共有→拡散→混沌→収束」というプロセスがある…と基礎講座にて青木さんが仰っていましたが(参考:基礎講座番外編「GoodMeeting」)、よいミーティングの時間をもつことができたでしょうか?
やってみたい企画にわくわくしたり、アイデアに行き詰まったりしながら、あっという間の1時間が終了。次は、ワールドカフェ形式で他グループと意見交換します。
各グループのうち1人(ホスト役)が机に残り、他のメンバーは他のグループの内容を聞きに行きます。ホスト役は自分たちのグループのプレゼンテーションをしてワークの内容を伝え、聞きに来た人は内容に関する意見を付箋に記します。この企画の「いいね!」と思った点、「なぜ?」このような設計になっているのか疑問に思った点、「こうしたら?」もっとよくなるのでは…という視点を基軸に、三色の付箋にコメントを書きます。
まだまだ足りないところ、改善の余地があるところ、ここは活かさないともったいない!というところ。客観的な視点が入ることで、より様々な意見を得ることができ、企画のブラッシュアップ(精査)につながります。ホスト役は「自分がこの企画の面白さを伝えなければ」と考え、また他グループの内容を聞く人も、同じフォーマットを持った上で違う方法や内容が積み上がる過程の違いに気づくことができたのではないでしょうか。
さて、ここからが企画の大詰め。それぞれ自分のグループに戻って、もらったコメントをもとに計画を修正していきます。この練り直しが今日のワークで一番重要なところでもあります。
他人に伝えるためには、より意味のある体験をしてもらうには、どのような工夫が必要か?ラストスパートに向けて、全員で身を乗り出して考えます!
そして今日のまとめとして、ワークショップの内容を伝えるポスターを、A3用紙1枚にまとめます。
最後に、今日制作した企画書とともにテーブルに並べてポスターセッション。
自由に移動したり話したりしながら、各グループのコンセプトやワークの内容、修正されたところを学び合います。また、オレンジ色の付箋に感想を書いて残しました。
みなさん一つ一つのグループが作成した資料を、じっくり読み込んでいました。なかには今すぐやってみたい!というアイデアも。
とびらプロジェクトにかぎらず、学校や仕事などの日常生活でも、チームを組んで課題に取り組み、さまざまな話し合いを経て物事をすすめていくのは非常に重要な局面ですね。今日のワークもまたトライ&エラーのひとつであり、ワークショップの計画を実践することで、実際に発見できた課題もたくさんあるでしょう。まだ見ぬ人に自分たちで考えた企画を開くとき、そのヒントや工夫を、身をもって学ぶ講座となりました。
(とびらプロジェクト アシスタント 峰岸優香)
2017.10.29
今回のアクセス講座では、立教大学の舘野泰一さんをお迎えして、ワークショップメイキングにおける基本的な構造や方法、伝え方に関するレクチャーをしていただきました。
舘野さんの講座は昨年に続いて2回目。昨年のレクチャーで舘野さんからご教授いただいたワークショップの手立ては、とびラーによる「とびラボ」などのプログラムを組み立てる際に、重要な基盤を担ってきました。今回は昨年の内容を踏まえて、より実践的な課題にフォーカスしていきます。
【午前】
まずは舘野さんの自己紹介から講座がスタート。舘野さんの専門分野は大学での教育や、企業のなかの教育の在り方についてです。単なる情報や知識の伝達に限らず、どうしても体験を経た学習が必要なときに、有効な方法のひとつが「ワークショップ」。インタラクティブに学ぶことの意味や、そのために必要な設計の工夫について研究されています。
本日の講座の目的は、大きく2つ。まず、「ワークショップデザインの基礎を学ぶ」こと。ワークショップの基本構造や考え方、そして実際に設計するプロセスについて学びます。次に、「ワークショップの伝え方」。実際に企画を実施するにあたって、他者に自分たちのワークショップを伝える意味と方法を考えて行きます。
■導入のワーク【4項目で自己紹介】、『遊び』と『学び』のブレンド
まずはA4用紙を4つに折り、以下の項目を書き込みます。
・名前と普段の活動
・今日どんなことを学んでみたいか
・『遊ぶ』という言葉からどんな言葉を連想しますか?
・『学ぶ』という言葉からどんなことを連想しますか?
4つの観点から、まずは自分の関心について語り、今日のワークをともに進めるグループで共有します。
後半2つの質問がワークショップに必要な要素、つまり設計のポイントとなるキーワード。たとえば参加していたとびラーからは、『遊ぶ』・・・「非日常」「楽しい」「面白い」「知る」「没入する」「やりたくなる」、『学ぶ』・・・「知る」「ためになる」「自分の殻を破る」「生きる力になる」などの言葉がでてきました。考えていくと、その間に重なったりつながったりする部分があることにも気づきます。『遊び』と『学び』の要素を上手に統合する工夫が、ワークショップの醍醐味であるともいえます。
考案したワークショップには「楽しさ」があるか?自分でもやってみたくなるか?参加した人はその体験の後どのように変化するか?ねらいを引き起こす設計をし、チームで共有しているか?・・・といったように、『遊び』と『学び』の視点に立ち返りながら問い続けていくことがデザインのチェックポイントになっていきます。また、自分が偏りがちな思考を知っておいたり、チームを編成するメンバーの考え方、バランスを事前に知ることもキーポイントとなります。
■ワークショップの基本構造とは?
今日の講座にのぞむにあたり、とびラーには事前に2つの課題が出ていました。課題の1つ目は、舘野さんの著書「アクティブ・トランジション」のなかで紹介されているワークショップのうち一つから、内容を読み込んで他者に伝えること。
ワークショップの基本構造を自ら読み解き、分析して考えるための課題です。既にある内容を自分のなかに落とし込み、他者に伝えるワークを通して理解を深めていきます。
次に、紹介しあった3つのワークショップについて、基本構造や流れの共通点を発見しながら、それぞれのワークを横断的にみていきます。設計の際に気をつけるべきポイントを模造紙にまとめ、ワークショップを組み立てる際の統合的な視点について、グループごとに整理しました。
一連のワークを通して頭を使ったあとで、舘野さんからのミニレクチャー。新しい物事にアプローチする際、自分で「考える」→レクチャーを「聞く」という流れによって、より深い理解や知識の定着が得られます。
人の思考とは、白紙のように無意志なものではなく、素朴な気づきや、それまでの経験によって構成されているもの。学ぼうとする知識と、すでに持っている考えを関係づけることから、学びの体得へとつながります。さらに、自分の考えたことを他者に教え伝えるような、双方向性のある状況は学習者に「考える」ことを促します。
■ワークショップの設計
舘野さんが考案したワークショップには共通する5つのステップがあります。
ここでは舘野さんからそれぞれのステップにおいて大切なことを解説していただきました。『遊び』と「ずらし」による楽しいメインワークを、活動の目的や意味である『学び』でサンドイッチするのがポイント。参加した人が、体験を価値づけられるような設計意図が大切なんですね。
また、ワークショップの進行役にとって重要なのは『OARR(オール)を握る』こと。
活動の内容と目的を結びつけ、さらには日常生活に活かせるような態度をめざすことが、ワークショップを企画・運営するにあたって非常に重要なポイントとなります。体験したことを振り返り、その具体的な経験や反省的観察から、普段の生活でも使えるような知識の体得につなげていきます。
【午後】
■実際にワークショップの体験と、進行のポイント
まず、舘野さんの考案したワークショップ「カード de トーク いるかもこんな社会人?」を、グループごとに実際に体験してみます。
様々な社会人のキャラクターが描かれたカードは11枚。
一緒に働きたい人は?あるいは、この人と仕事するのはちょっと…なんて人は?まずは1人で考える時間をもったあとに、他人の意見と比較して、違いや共通点を発見します。
一通りカードゲームを体験した後に、舘野さんからワークショップの構造について解説。このワークでは、普段は抽象化して話す機会をなかなか持つことがない、「仕事観」を語る設計がなされています。また、ファシリテーションで重要となるのが、話し合いを設計するときの「1人で考える時間」と「グループで話し合う時間」のタイムマネジメント。個人の考えを明確にし、それぞれの立場をもって比較することはディスカッション・ワークの肝でもあります。また、1人で考える時間をしっかりもつことで、自分なりの学びを作る時間にもなるのです。そして、進行のなかで常に、参加者に目的を伝え続けること。なんども企画の意図をリマインドすることで、持ち帰ってもらいたいメッセージや、知識・態度が参加者のなかに形成されていきます。
■課題の共有
午後は、2つ目の事前課題を使ったワーク。課題のテーマは「あなたがもしワークショップをデザインするとしたら、どのようなものを作りたいと思いますか?」今日学んだことを活かし、それぞれのプランがどう発展できるか?一人ひとりが持ち寄ったアイデアについてプレゼンし、グループごとに検討します。
誰にどんな学びを得て欲しいのか。学習者に「考え方」「ものの見方」を変えるきっかけを提供するには、どんな工夫が必要か。ワークショップで伝えるのは「聞けばわかる」情報ではありません。「体験を通さなければ得られない」「モノの見方の変化」「多様な人との出会い(越境)」など、態度や価値観の問題を扱うことができるのです。
ここで有効なのが「似た構造」の体験をすること、そして「対話に仕掛け」を取り入れること。短い時間で体験できる楽しい活動と、体験してもらいたい学びが、関連づけれらるようなメインワークを考えてみる。あるいは、抽象的な思考や、今まで考えたことのなかったトピックを表現しやすくするために、カードなどのツールで導入を工夫したり。自然と多様性がでてくるような演出を設計するのが重要です。
ここで、午前中にとびラーが紹介しあった3つのワークショップについて、舘野さんから設計のポイントに関する解説。大学生に知ってもらいたい社会人や仕事の状況と、ワークショップのなかでの具体的な活動が、どう結びついていたかについて紐解いてもらいました。
ここでもう一度、ワークショップの基本構造について気づいたことを話し合いつつ、持ってきた課題のワークショップについて、再度検討してみます。何人かのとびラーに発表もしてもらいました。
■まとめ
講座の終盤には、今日のレクチャーの振り返りとまとめ、さらに補足のポイントや、実際にワークショップを実施するときにぶつかる課題などについてお話していただきました。
ワークショップのポイントは、メインワークをアイスブレイクと振り返りで挟むこと。そして学びのプロセスを楽しめる仕掛けを随所に散りばめておくことです。そして、場を進行していくファシリテーターには、参加者が十分な遊びと学びを体験するために、以下のポイントが重要です。
ワークショップを作る際は、とにかく実験してみること。最初から完璧を目指すのではなく、気づいた点を随時バージョンアップさせていく。そのために、プレ実践時の様子は記録撮影しておくと良いとのことでした。
また、ワークショップを「伝える」ことも実施にあたっては重要な課題です。企画書の書き方や広報の手段、受け入れ団体にとってのメリットを考慮して設計する等、学校の授業や講義とは異なる特性を理解してすすめることが、実現に近づく鍵となります。
最後に舘野さんから「学びの場づくりをしようと思うと、日常の過ごし方がちょっと変わります」という言葉がありました。つい夢中になって『遊んで』しまうもの、深く『学べた』と思う瞬間、そこにはどんな体験の構造があるのでしょうか。『遊び』も『学び』も、受動的な態度に収まることなく、心から楽しい・知りたいと思うと、自然とのめりこんでしまうものですよね。そんな我を忘れてしまうような豊かな体験を、学習理論の構築とともに学べる講座だったかと思います。レクチャーの最後、舘野さんが「よき学習者であってください」という言葉で締めくくられたように、よく遊び、よく学ぶ姿勢が、これからのアート・コミュニケータの活動にいかされていくことでしょう。
(とびらプロジェクト アシスタント 峰岸優香)
2017.10.24
2017年10月21日、「ミュージアム・トリップ」が行われました。
「ミュージアム・トリップ」とは、さまざまな状況にあるこどもたちをミュージアムへ招待するインクルーシヴ・プログラム。経済的に困難な家庭のこどもの支援団体や、児童養護施設、都内にある児童養護施設など、各専門機関と連携して実施しています。今回は海外にルーツをもちカルチャー・ギャップなどの困難を抱えるこどもを支援する、NPO法人音まち計画と連携し、当日は中国やフィリピンにルーツをもつこどもを含む8名を、アート・コミュニケータ(とびラー)6名が迎えました。
プログラムの様子はこちら→
(「Museum Start あいうえの」ブログに移動します。)
2017.10.14
夏につづき、今年度二回目となる「あいうえのスペシャル(旧ホームカミングデイ)」が、10月8日(日)に開催されました。「あいうえのスペシャル」は、これまでの「あいうえの」のプログラムに参加し、ミュージアム・デビューを果たしたこどもたちとそのファミリーが、ふたたび上野での冒険を楽しむ特別な一日です。
この日、みんなの冒険の拠点として解放された東京都美術館のアートスタディルームとスタジオには、ミュージアムでの冒険を応援するさまざまなコーナーが用意され、115名のこどもと大人が活動を楽しみました。
プログラムの様子はこちら→
(「Museum Start あいうえの」ブログに移動します。)