2012.10.22
「アート・コミュニケーション・アーカイブ研究 東京都美術館とアート・コミュニティー『造形講座』と『自主造形講座』そして『とびらプロジェクト』」が開催されました。これは、1978年から10年間に渡り東京都美術館(以下:都美)にて行われた「造形講座」と、「造形講座」が廃止された後にその受講生たちがたちあげた「自主造形講座」の歴史を、残されたアーカイブ資料をもとに再考し、現在行なわれている「とびらプロジェクト」との接点を見いだすことから、アート・コミュニティーの本質を考えることに主眼が於かれたアーカイブ研究会です。
続いて、「造形講座」担当学芸員だった河合さんより、当時の様子についてお話を頂きました。当時の「造形講座」は、日本の美術館の教育普及活動としては非常に先鋭的な試みであり、また美術館教育の歴史に於いても注目される優れた試みであったとのこと。その特徴としては、一方的に情報を伝えるレクチャーではなく、学び手が主体的に参加するワークショップの手法を取り入れた最初の美術館教育であったことが報告されました。
そして、当時このワークショップを牽引していたのが及部克人先生(現 東京工科大学教授)でした。講座は、週2回を5週間(午後6時から9時まで)、計10日間1セットという密度の濃い講座ながらも、定員の60名(昼の部30名、夜の部30名)はすぐに埋まり、抽選となるほどの人気を博した企画であったそうです。こうした活動は1986年まで(10年間)継続しますが、その後、東京都現代美術館の設置に伴い、都美内の第一アトリエに東京都現代美術館の設置準備室が置かれると、ワークショップを行うアトリエ面積が少なくなり、教育普及活動も次第に収束したとのこと。しかし驚くべきは、この「造形講座」の受講生らが、講座廃止後に都美で行なわれていた活動を自主的に引き継ぎ、美術館外でおこなう「自主造形講座」を立ち上げ、凡そ5年間にも及ぶ活動を展開したことでした。
「造形講座」で及部先生と共に講師をされていた米林雄一先生(東京藝術大学名誉教授)にも、当時の講座の様子を振り返って頂きました。米林先生は彫刻を専門とされており、「造形講座」に於いてもさまざまな立体作品の指導なのどをされていました。印象的であったのは「造形講座」の講師を勤めたことが、その後の自分の人生にも大きく関わってきたとのコメントでした。人と人とを繋ぐ役割の大切さを「造形講座」を通してより深く感じられたとのこと。米林先生のその後の藝大での研究や活躍に反映されていったお話を伺うことができました。
後半は、当時の「造形講座」の受講生だった方々にご登壇いただきました。受講生の視点からみた「造形講座」と「造形講座」が廃止になってから「自主造形講座」を立ち上げた経緯や、ご苦労された点など赤裸々に語っていただきました。
聞き手は茂木一司先生(群馬大学教授)と僕(伊藤)です。受講生だった方々へのインタビューという形で進めさせて頂きました。
2012.10.12
まずは日本画専攻のアトリエ。静かで落ち着いた雰囲気の中、大学院生が古典作品(国宝)の模本の制作をしていました。テーブルにはたくさんの資料と、色見本などが置いてあります。
実物の複写を見ながら丁寧に描き込んでいきます。学校で実物を見ながら制作することは出来ませんが、所蔵場所まで脚を運び色などの細かな調整も行うそうです。デスクに収まる程のサイズでも、完成までに1~2年要するとのこと。本当に緻密な作業で、緊張感のあるアトリエの雰囲気が印象的でした。
次に油画専攻のアトリエへ。油画専攻は日本画専攻と同じ絵画棟にあります。アトリエへ入るとまず目に入るのが白壁に飾られた沢山の絵。アトリエを共有する数人の学生たちがここで制作をしています。このように大きな作品を学校で制作する学生もいれば、学校以外の自宅などで制作する学生もいるそうです。アトリエを共有しながらも、画材を広げ、資料を広げ、それぞれがそれぞれのスタイルを持っている様子でした。
次は版画専攻を見学。油画専攻の学部3年生から選択し所属することができます。版画は、木版や銅版をはじめ様々な技法があり、実習を通して基礎的な技術を習得します。こちらは木版の制作風景、鮮やかな色合いが素敵です。
次に工芸科へ。こちらもまた彫金をはじめ漆芸、陶芸などの細かい分野に分かれ伝統技法を学びます。写真は鍛金専攻の工房、大きな機械が立ち並びます。講師の方からどのような加工に使われるのかを説明をしていただきました。彫刻科と扱う素材は近いですが、工芸科では伝統的な工芸技術の継承を主体とした教育の取り組みがなされているそうです。
学生作品を資料として見せていただきました。一枚の金属板が壷や動物へと形を変えるのだから不思議です。「例えば金属を叩いて形をつくるとき、失敗すると1からやり直しなのですか?」と質問すると、「直しが利くようにまずはざっくりと大きく形をとっていき、徐々に細かく手を入れて行きます。動物の目鼻のように一発で決めなければならないポイントもあります。」とのことでした。出来上がった作品と扱ったことがなければ想定しづらい制作の過程とを見比べることができ、とびコーのみなさんも驚いた様子でした。
最後はデザイン科のアトリエへ。機材、工具が多く置かれていた彫刻科、工芸科からは一転、とてもスタイリッシュな空間です。
ちょうど授業内で制作した作品の展示が行われていました。チョコレートメーカーのロゴやポスター、パッケージの様々なアイディアがずらっと並んでいます。このような課題や実習を積み重ね、卒業時には学生それぞれが自らの表現を作品として発表します。
^
今回は2時間程のツアーの中で多くのアトリエや工房を見学しましたが、残念ながら全ての学科を見学できた訳ではありません。まだまだ藝大には魅力的な学科がたくさんあります。1月の藝大卒展はそんな藝大の魅力を一度に見ることのできる、たまと無い機会です。今からとても楽しみです。
^
とびらプロジェクトでは今回のツアーをきっかけに、藝大卒展に向けて卒業作品を制作している学生を取材し、随時ブログにて公開していきます。出来上がった作品だけではなく制作の過程や作者の顔を追うことで、これまでよりもさらに藝大卒展を身近に、また藝大そのものを魅力的に感じて頂ける様にしたいと思います。最後に、各学科の教育研究助手のみなさま講師の皆様、懇切丁寧に学科内の案内と説明をして下さり、誠にありがとうございました!(とびらプロジェクト・アシスタント 大谷郁)
2012.10.12
今日のとびランチは、東京藝術大学の大浦食堂です。ご紹介したいメニューは藝大名物の「豆腐ともやしのバター焼き丼」、通称「バタ丼」です。約40年前からある藝大伝統の味です。写真は、トッピングで卵を入れた「卵入バタ丼」。おもいっきり七味をかけて、少しソーズを垂らすといい感じです。
2012.10.06
とびらプロジェクトも始動してから6ヶ月が過ぎました。基礎講座が終わり、実践講座へ進み、とびラーのアイディアからさまざまな活動が生まれました。活動があまりにも急速に成長し、そのバリエーションも多様なため、ここらで一度総会を開き、とびラー候補生(以下:とびコー)同士が自分たちの活動を振り返り、今後の活動の指針を再確認することを目的に、「働いてみたとびラー」と題した総会が開かれました。講師は左から西村佳哲学さん、稲庭彩和子さん、僕(伊藤達矢)です。
はじめに西村さんから「なんのためのアートコミュニケーション」という問いが提示され、この半年の活動を再度とびコーさん同士が再確認し合うことから総会は始まりました。
3人一組になり、この半年の活動について、成果や反省を含め自分たちが感じたことを話合いました。とびらプロジェクトがはじまって半年間、とびコーのみなさんも無我夢中で走って来たというのが正直なところだと思います。しかし、このまま走り続けるのではなく、少し立ち止まって「何のためのアートコミュニケーション」なのかを考えることで、今後の活動をより意味深いものにして行ければと思います。ただ、この「何のためのアートコミュニケーション」という問いには、正解はありません。むしろ、それはとびらプロジェクトを運営するスタッフも一緒に考え続けてゆかなければならないテーマであるとも思います。そして「何のためのアートコミュニケーション」という問いは、とびらプロジェクトに関わる全ての人の中に千差万別に、個々人それそれ違った答えで深められることを期待しています。とびらスタッフやとびコーさん個々人の解釈がより多様なアートコミュニケーションの在り方を体現するきっかけになるのでは無いかと思います。
午後は、とびコーさん自信から各々が担当したプロジェクトについて発表して頂きました。恐らくとびらプロジェクトの全てを体験した人はスタッフを含めて一人もいないのでは無いでしょうか。そのため、自分が参加できていなかったプロジェクトについては、あまりよくしらないというとびコーさんもたくさんいます。
こうした発表の機会は、とびらプロジェクトのエネルギーを共有するのにとても大事な場となりました。発表は20組以上に及び、密度の濃い共有の場となりました。
今回の総会にはとびコーさんからさまざまなアイテムの配布もありました。写真は館内の情報がつまったとびラー&館内職員専用のマップ。内容をまとめるところから、デザインするところまでとびコーさんの丁寧な作業によって完成されたものです。
こちらは、とびコーさんの名刺、全員分あります、こちらも名刺プロジェクトのとびコーさんによって作成されました。これを使ってどんどんとびコーさんも地域進出して頂ければと思います。
これは、これまでの半年間をまとめた「とびらすごろく」とびコーさんの一喜一憂がまとめられ、見る人が見たら涙がでそうです。
2012.10.06
キヤノンより寄贈された高精細複製品の「群鶴図屏風(尾形光琳筆)」をとびラー候補生(以下:とびコー)のみなさん向けに公開しました。これまで、少しずつ進めてきた「綴プロジェクト」、徐々にとびコーのみなさんの心に浸透してきるいる様子。
屏風は見る角度や明るさによって見え方に大きな違いが生まれます。それだけに奥深く魅力的です。
この屏風を使ってどんな鑑賞プログラムやワークショップができるか、ここから先は、とびコーさんからアイディアが出てくる事を待ちたいと思います。じっくり考えて、気持ちの中で何かが生まれ、他のメンバーと共有できるアイディアが出てくるまで、もう少しかかるかな。。(とびらプロジェクトマネージャ 伊藤達矢)
2012.10.05
とびらプロジェクトマネージャ伊藤達矢です。
音楽でとびらプロジェクトを盛り上げてくれている「とびら楽団」から活動報告が届きました。
とびラー同士のコミュニケーションデザイン活動の一環として発足した「とびら楽団」。純粋に音楽を楽しむだけでなく、イベントの盛り上げ役としても出番をいただきました。そんな盛りだくさんの3か月をメンバーが振り返ります。
記述はとびラー候補生(以下:とびコー)の淵上幸吉さん、林久美子さん、佐藤史さん、松澤かおりさんです。
^
◇◆◇◆◇◆◇◆◇*◇◆◇◆◇◆◇◆◇*◇◆◇◆◇◆◇◆◇*
■楽団発足と練習(5月26日)
「えっ?美術館に楽団?そんなのあり?」「あって、いいじゃん! やろうじゃん!」(佐々木学芸員の口ぐせがどうも移ってしまったようで!?)という一声から始まったとびら楽団。日本の美術館史上初の(はず)楽団が産声をあげました。楽器経験は一切問わず、サポーター大歓迎、出入りも自由、要すれば誰でも入団可という楽団の誕生です。ということで、この呼びかけに集まったとびラーは約20名。リコーダーにピアニカあり、マラカスにカスタネットあり、ウクレレに、木琴、ウッドベースにテナーサックス、もちろんボーカルもありと多種多彩。きっと参加したメンバーの本心は、「おいおい、これで音出したらいったいどうなるの?」と、みんな不安だったはず。そんな楽団の最初のチャレンジ曲は、NHKみんなの歌の『メトロポリタン美術館』。何と準備された楽譜は、ボーカルとピアノ伴奏譜のみでパート譜なし。「ねえねえ、私、どこ吹いたらいいの?」「トライアングルは、どこで鳴らしたらいいの?」そんな質問を無視して、何はともあれ音出ししてみようということで、5月26日に、都美の裏手の公園の木立の中、肩に力の入った伊藤さんの指揮のもと、初・野外練習を実施。公園の木々達も、あまりのハーモニーのすばらしさ??に、幹をねじらせたとかいないとか、前途多難の出発と相成りました。
^
とびら楽団はみなさんの応援のもとひとつになり、かたちになりました。みなさんの楽しい思い出となっているとしたら、とびら楽団デビュー公演は大成功だったのではないかと思います。(林 久美子)
■“とびら記念日”(8月5日)
楽団、青タープロジェクト(青ター)、うちわプロジェクトが一同に会し、とびコーと来館者の方々との交流を生んだ、まさに「とびらプロジェクトの記念日」に相応しい日となりました。当日の楽団員の参加人数は「あなたも真珠の耳飾りの少女プロジェクト」チーム・チラシdeうちわプロジェクトを兼任しているメンバーも含めて、10人以上。中には初参加となるとびコーもいました。楽団としては、懇親会以来の久々の音合わせとなりましたが、それ程かしこまった感じもなく、各々が楽しく音を出せていたように感じました。指揮者の出だしの合図があるわけでもなく、誰かの“音出し”をベースに、それぞれが“乗っかって”、“重なって”いくような演奏です。
ただ1つ悩ましいことといえば…そう、その場に居た誰もが感じていた「レパートリーが1曲」という精神的重圧。自然と次の楽曲選びの話題が挙がり、次曲候補をとびラー専用掲示板で募集する運びとなりました。(佐藤 史)
■“とびらゴールドデー”(8月15日)
8月15日(日)はとびら楽団2度目の演奏。シルバーデーで多くのお客様が来館される中、青ター開催・・・いや、開幕?楽団は少人数ながら唯一のレパートリー曲『メトロポリタン美術館』を演奏しました。この日は正面エレベーター前で行列のお客様に向かっての演奏。炎天下、次第に息は上がり、間も持たなくなり・・・ここで新しい風を!と初めて『カントリーロード』に挑戦しました。練習時間もなかったため、どうかな?と心配しましたが、お客様からはなかなかの反応。そして、どうしても楽器の少ない寂しさを感じていた頃、団員から「歩こうか!」の声。かくして、これまた初の鼓笛隊が都美館前を行進しました。
2012.10.05
とびらプロジェクトマネージャ伊藤達矢です
真夏のマウリッツハイス美術館展に並ぶ長蛇の列をクールダウンした「チラシdeうちわプロジェクト」から夏の活動報告が届きました。
記述はとびラー候補生の越川さくらさんです。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇*◇◆◇◆◇◆◇◆◇*◇◆◇◆◇◆◇◆◇*
■事の始まり
「今度のマウリッツハイス展では、一日に1万人の人が来るらしい」
^
越川さくら、鬼澤舞、新倉千枝、山中麻未
その他沢山のとびラーにご協力頂きました。
^
とびラー候補生:筆者:越川さくら(こしかわ さくら)
夫と3才の娘、2匹のフェレットと共に東京都三鷹市に在住。
2012.10.05