2020.09.14
「とびラジオ!とびラーが語る5つの浮世絵〜」。軽快な音楽とともに、パーソナリティが語りかけます。
「とびラジオ」は、2020年9月14日に「The UKIYO-E 2020-日本三大浮世絵コレクション」展で実施された「障害のある方のための特別鑑賞会」にて公開された、とびラー制作によるラジオ番組風音声コンテンツです。お持ち帰りいただいた作品画像掲載の特製チラシとともに、ご自宅でもう一度展覧会を楽しんでいただく趣向です。
(公開された音声はこちらのページでお聞きいただけます)
今回の特別鑑賞会は、新型コロナ感染予防のため、来館者ととびラーが直接コミュニケーションを取りづらい状況でした。そのため、「展示室ではお話できなくても、ウエルカムの気持ちを伝えて音声コンテンツを楽しんでいただき、とびラーについても知っていただく」ことを目的に、「とびラジオ」を制作しました。
5グループに分かれたとびラーが、「The UKIYO-E 2020」展からそれぞれ作品を選択。グループで鑑賞しながらその作品世界に思いを巡らせ、独自のシナリオを作って5つのショートストーリーを収録し、それらを合わせて1つの番組に編集する作業まで、全てオンラインでの作業となりました。
制作では、とびラー同士の相互チェックはもちろんのこと、とびらプロジェクトスタッフや展覧会担当学芸員の方にもご協力いただき、台本の内容や言葉遣い、演じ方、録音方法など聞きやすさを追求しました。
台本を作り演じた各グループからの感想です。
◇渓斎英泉《雪中の三美人》(太田記念美術館蔵)は、雪の降る中、着飾った3人の女性が川辺に立つ姿を描いた作品です。まるで3人が立ち止まって話をしているような場面から、女性たちの会話を想像してシナリオを作りました。
「《雪中の三美人》ならぬ四美人とびラーが集まったAグループ。お洒落で楽しげな登場人物に感情移入できるこの作品を、題材にすることに決定しました。
今も昔も変わらない乙女心や女子トークをグループで鑑賞しながら想像することはとても楽しく、時代を超えて、登場人物を身近に生き生きと感じました。
コロナ禍で1度もリアルに会ったことがないメンバーとのオンライン収録。最初は堅さも取れず、何十回とやり直したことも懐かしいです。」
◇葛飾北斎《百物語 お岩さん》(日本浮世絵博物館蔵)は、破れた提灯を四谷怪談のお岩の口に見立てた作品。恨めし気な表情の中にも、どことなくユーモラスな雰囲気が伝わってきます。展覧会会場で、異なる国の見知らぬ二人が作品を前に語り合うスタイルでシナリオを考えました。
「インパクトが強く北斎作の馴染み深い画題であることから、多くの人が作品のタイトルだけで作品を思い浮かべることができ、台本が作りやすいと思い選びました。
グループ内に中国からの留学生がいたこともあり、日本人のおばちゃんと中国人の女の子という等身大の設定が生まれ、実際に絵を見ながら話している感覚でアイディアが次々と出てくるのが楽しかったです。
別々に収録した音声を合成したので、間のとり方や臨場感の出し方などに戸惑いがあり、無事終了したときはほっとしました。」
◇歌川国芳《蛸の入道五拾三次 品川/川崎》(日本浮世絵博物館蔵)は、街道沿いのお茶屋がある品川の情景と、川崎の乗客でいっぱいの渡し舟を描いた作品です。旅番組の生中継で、それぞれの場所からレポーターがインタビューするシナリオができ上りました。
「タコを擬人化して描いているユニークな作品から、私たちとびラーが感じたことを来館者に聞いていただき、面白がってもらえたらと選びました。
旅番組でレポーターが品川と川崎から中継するスタイルを思いついたところから、タコに名前がつき、生き生きとした会話が生まれていきました。Zoom上でのやり取りがとても楽しかった半面、聞く側の立場になった台本を作ることは難しくもありました。
録音がライブ感のあるものになっていて、嬉しかったです。」
◇葛飾北斎《冨嶽三十六景 五百らかん寺さゞゐどう》(太田記念美術館蔵)は、見晴らしの良いお堂から、遠くに望む富士山を眺める人々を描いた作品。描かれた人々が「どんなことを言っているのか」を想像して、1つのショートストーリーにしました。
「候補作品を出し合って検討した結果、さまざまな人がいてセリフが聞こえてくるような、女性1名、男性2名のグループの特徴を活かせるこの作品に決まりました。
セリフを直しながら繰り返し録音するうち、いつのまにか江戸時代にタイムトリップし、絵の中の人になりきる。そんな特別な体験でした。協力し合って、ひとつの作品を作り上げるのが楽しかったです。
演者2人で複数の役を受け持ったので演じ分けが難しく、俳優さん、声優さんの偉大さがよくわかりました。」
◇歌川広重《名所江戸百景 深川万年橋》(日本浮世絵博物館蔵)は、まず、手桶の持ち手に紐で吊るされた亀が目を引きます。手桶越しには川を行き交う舟や夕焼けの富士山などが描かれていて、江戸の日常が伝わってくるようです。夕方のんびりと、おじいちゃんと孫が散歩をしている光景を想像して、シナリオを作りました。
「カメがぶら下げられている図が不思議で興味が湧きました。調べると『放生会』という習わしだと分かり、その情景を伝えるためのセリフをグループで考えました。
演者2名の設定になったため、カメのセリフを削らざるを得なかったことが心残りです。
生活音が入らないように違う時間帯で何度も録音にトライするも、救急車のサイレンの音が入ったり、ネットが落ちたり。そんなハプニングすらも大笑いしながら楽しく収録できました。」
制作したチラシ
各グループのコンテンツ作りと並行して、お配りするチラシのデザイン作成、音声編集や配信方法の検討、パーソナリティによる番組全体の台本作りも行われました。
◇チラシ原案デザイン
「夜な夜なZoom上で眠い頭を絞りながら、掲載文章やレイアウトを考えカタチにしていくアイディアを、色々出していく過程が楽しかったです。
チラシを手に取ってとびラジオを聞いてくださる方を考え、作品がハッキリ見やすい画像の大きさと文章のレイアウトを工夫しました。」
実はラボには、音声編集や配信に詳しいメンバーがひとりもいませんでした。配信日が迫る中、とびらプロジェクト内の掲示板を使って、音声編集アプリや著作権フリー音源、配信方法などを紹介してくれたとびラーがいます。そのとびラーの感想です。
「サンプルの音声を聴いたときに、一気に江戸時代にタイムスリップしたのを覚えています。ちょっとだけBGMの著作権チェックなどをお手伝いさせてもらっただけですが、完成版を聴いて作品の中にダイブする感覚に感激しました。」
とびラジオパーソナリティは、実際にラジオパーソナリティとして活躍しているラボメンバーが担当。
◇パーソナリティ
「 各グループのショートストーリーと音楽、語りが三位一体となって、少しずつ「とびラジオ」が完成していくのを間近で見ることができました。途中でつっかえないように、笑わないように、何回も練習!練習しすぎて本番では声が枯れてしまいました(笑)試行錯誤しながら作ったジングルが土壇場で不採用になったのがちょっと残念です…
印刷されたチラシを手にしたときはとびらプロジェクトスタッフのサポートも実感し、感無量!」
バラバラだった5グループのショートストーリー・パーソナリティの語り・BGMと効果音のすべてを”合体”させた「とびラジオ」が完成したのは、なんと公開2日前。
◇音声編集
「浮世絵の様々な楽しみ方を伝えるには?を考え、BGMを選び流し方を工夫するのが楽しかったです。実際のラジオを聞いて,ラジオっぽい音楽の入れ方を研究しました。
各グループ収録をZoom上で行ったため音量の差や音声の途切れがありましたが、複数の音源を提出してもらい、途切れ等を編集して聞きやすさを追求しました。」
「とびラジオ」は、会話がはばかられコミュニケーションがとりにくい展示室内で、「誰かと一緒に鑑賞している気持ちになりたい」という思いで始まった「とびラー音声鑑賞ガイドラボ」から生まれました。
「障害のある方のための特別鑑賞会」向けにシフトしたことで、鑑賞後楽しむラジオ形式に変わりましたが、リアルでは難しいコミュニケーションを補うことはできたのではないかと思います。
とびラー同士でも同じです。リアルでは一度も会ったことがないとびラーもいる中、協力しながらオンラインで全ての作業を完結させたことで、オンラインでもリアルと同等のコミュニケーションが取れることがわかり可能性の広がりを感じることができました。
熱い夏を駆け抜けた「とびラジオ」。お聞きになった方から、「こんな絵の楽しみ方があるのか」「それぞれのストーリーがユニークで面白い」「ラジオ形式の導入も自然にいろいろなシチュエーションが作れて成程と思った」などの感想を頂き、参加とびラー一同感激しております。
それでは皆様、次回の「とびラジオ」をお楽しみに!
執筆:中嶋弘子、細谷リノ
中嶋弘子:とびラー2年目。素敵なとびラーたちとアートを介したコミュニケーションをガチで楽しんでいます。作品との出会いを大切に活動を続けていきたいです。
細谷リノ:とびラー活動を通じて得たモノやコトは数知れず。面白い(興味深い)日々が続いています。ここでのご縁を大事に「アートの楽しみ」をもっと広げていきたいです。
2020.09.13
今年の新しいファミリープログラム「上野でGO!」は、Web会議サービスZoomを使った作品鑑賞と、実際にミュージアムで作品に出会うことを組み合わせた、2ステップのプログラムです。
オンラインとリアルの両方の良いところを組み合わせた「ブレンディット・ラーニング」という新しい学びの形をデザインしています。
9月13日日曜日、午前10時。8月1・2日に実施されたステップ1から約1ヶ月が経ち、いよいよ実際に上野公園にこどもたちが訪れる日がやってきました。集合場所は東京都美術館のアートスタディルーム。出迎えたのはあいうえのスタッフの渡邊祐子さんです。
プログラムの様子はこちら→
(「Museum Start あいうえの」ブログに移動します。)
2020.08.31
第4回鑑賞実践講座
「作品研究」
日時|2020年8月31日(月)13:00-17:00
場所|zoom(オンライン)
講師|三ツ木紀英(NPO法人 芸術資源開発機構/ARDA)
◎概要
◎写真(講師)
今回の「作品研究」では、主に以下の3つの内容を軸に講座が進行されました。
■「作品研究」の方法 (Visual Thinking Strategies鑑賞の事前のファシリテーション)
■「作品研究」をグループワークで行う
■ 個人で行う作品研究「ひとりVTS」について
2020.08.30
第4回アクセス実践講座
テクノロジーで拓く社会参加の回路 〜分身ロボット「OriHime」の事例をもとに考える〜
日時|2020年8月30日(日)13:30~15:30
場所|zoom(オンライン)
2020.08.01
第3回建築実践講座「都美建築を味わうワーク」
日時|8月1日(土)13:00〜15:00
場所|zoom(オンライン)
―――――――――――――――――――――
_
8月1日、第3回目となる建築実践講座が開催されました。これまでの講座では、講師によるレクチャーなどを通じて東京都美術館(以下、都美)建築の基本的な事項を受動的に学んできました。今回はその次のステップとして、都美建築の魅力を味わいながら伝えるためのコンテンツ作りについて主体的に考えるワークに取り組みました。
はじめに「都美建築のどんなところに関心がある?」というテーマのもと、それぞれの考える建築の魅力を3人組でふりかえりつつ共有します。ワークに関する説明がなされたのち、5、6名のチームにわかれ、ひとりひとりの関心を持ち寄りながら「都美建築を味わうワーク」に取り組みます。グループワークの前半では、チームごとに企画案を作成し、後半では、ほかのチームの企画やコメントをふまえ、内容をブラッシュアップしていきました。
○山崎日希さん(とびらプロジェクト)によるワークの説明|これまで実施された建築に関連する活動の紹介などを通じ、物理的に建築を味わうことができない現在できることは何か?といった問題提起がなされました。
○「都美建築を味わうワーク」のタイムテーブル|
○東京都美術館プロジェクトルームからの配信の様子|建築実践講座では、音声をテキスト化する情報保証ツール「UDトーク」が活用されています。
○ブレイクアウトルームごとに作成されたスプレッドシートの企画書(部分)|このグループでは、「都美やその周辺にある色、自然、彫刻の魅力を伝えたい!」という思いをもとに企画が練られました。そして、他のチームの作成した企画やもらったアドバイスを参考に、さらに企画をみがいていきました。
これまでの建築実践講座では、初回で都美の「建築と歴史」、続く第二回で都美建築に関する「資料・素材」について学んできました。そして今回は講義ではなく参加者同士でのワークが中心に据えられたことで、それぞれのいだく関心をきっかけにとびラーとしていかに都美の魅力を伝えられるのか、実際に考えてみる機会となりました。
「都美建築を味わうワーク」では、まず各メンバーのもつ関心をグループ内で共有します。色、彫刻、自然、周辺環境、前川國男、などなど。一見何のつながりもないような意見同士でも、おたがいのもつ考えを掘り下げるうちに、共通する事項が見つかることも。
いつ(開催時期)、だれに(受取手)、なにを(内容)、そして、どういうふうに(伝達方法)?グループで具体的な企画を組みたてていこうと話し合いを進めるうちに、ボンヤリ思い浮かべるにとどまっていたアイデアの輪郭がくっきりと浮かび上がったり、メンバーによる発見や発想で彩られたり、はたまた今まで見えなかった障壁にぶつかったり。これまで建築に関するプログラムに関わってきた方もこれから都美建築をみにいくという方も、その場のメンバーと関心を持ち寄って企画をカタチにしていくことの豊かさややりがいを味わえる回となったのではないでしょうか。
次回の講座は9月26日に開催予定。講師として佐藤慎也先生(日本大学)にお越しいただき、「美術館建築の歴史的変遷と公共性」について学んでいきます。
(東京都美術館 インターン 久光真央)
2020.08.01
今年初めてのファミリープログラムが8月1日から始まりました!
春先から感染症が拡大する中、美術館・博物館の運営も困難に直面しています。
しかし「そんな中でもできることがあるはず!」とMuseum Start の運営チームは考え、新しいスタイルで、当初の予定通り8月1日から今年度のプログラムがスタートしました。
その名も
ファミリープログラム「上野へGO!オンライン&リアル」。
学べて楽しいデジタル・ネイティブ世代のためのファミリープログラムです。
「上野へGO!」は2つのステップからなります。
STEP1がインターネットを活用したオンライン・プログラム。
STEP2が実際のミュージアムへ出かける全2回のプログラムです。
スタッフもドキドキの初日8月1日。
午前・午後と合わせて58組109名の家族が参加しました。
プログラムの様子はこちら→
(「Museum Start あいうえの」ブログに移動します。)
2020.07.25
第2回鑑賞実践講座
「ファシリテーション基礎(1)」
日時|(A日程)2020年6月29日(月)9:30~16:30
______(B日程)2020年7月25日(土)9:30~16:30
場所|zoom(オンライン)
講師|三ツ木紀英(NPO法人 芸術資源開発機構/ARDA)
◎概要
・全とびラーに開かれた講座。朝から夕方まで1日中×2日間で「ファシリテーション基礎⑴⑵」をとびラーたちが“合宿”的に学ぶ。
・Visual Thinking Strategiesのファシリテーションの基礎を学ぶ
・講師:三ツ木紀英(NPO法人 芸術資源開発機構/ARDA)2012年のとびらプロジェクトスタート当時から鑑賞実践講座を担当。今年は初のオンラインでの講座実施となった。
1日目の「ファシリテーション基礎⑴」では、主に以下の4つの内容を軸に講座が進行されました。
■講師:三ツ木紀英さんのこれまでの活動について(自己紹介として)
■鑑賞の場の観察「ファシリテーションのポイントは何か」
■観察したことをグループでディスカッション、参加している全員での共有。
■ファシリテーションの実践とふりかえり
2020.07.18
第2回建築実践講座「都美の建築に関する資料・素材をしる」
日時|7月18日(土)10:00〜12:00
場所|zoom(オンライン)
講師|NPO法人アート・コミュニケーション推進機構/PARC
―――――――――――――――――――――
_
7月18日の昼下がり、本年度2回目の建築実践講座が開催されました。前回に引き続き、東京都美術館からzoomでのオンライン配信です。今回のテーマは「都美の建築に関する資料・素材をしる」。講師として、アート・コミュニケータの小野寺伸二さん、小松一世さん、篠原久美子さん、平野文千さん、山田美佐緒さん(NPO法人アート・コミュニケーション推進機構/PARC)にお越しいただきました。
まずは、山﨑日希さん(とびらプロジェクト)から、これまで実施されてきた建築プログラムのご紹介。つづいて、PARCによる建築ツアーの生配信をじっくり観察しました。休憩をはさんで、とびラー1期から3期生でもある講師の方々による座談会。これまでの建築資料のアーカイヴや、ツアーでの体験や工夫などについてお話しいただきました。そして講座の最後には、「あなたの思う”とびら”らしいツアーとは?」というテーマのもと、少人数のグループにわかれ、それぞれの考えを共有しました。
〇建築プログラムの紹介|山﨑さんは「建築×〇〇(人、表現など)」という切り口から、建築にまつわるアート・コミュニケータの活動の数々を、これまでの記録写真とともにご紹介くださいました。
〇PARCによる建築ツアー|この模擬ツアーに参加したのは、9期のとびラー3名。PARC小野口さんのファシリテートのもと、「はつりコンクリート」をじっくり眺め、抱いたイメージをその場の人たちに共有しています。
〇PARC座談会|PARCの方々がカメラに向けているファイルは、これまでのとびラーによる個別の建築資料を整理しなおしたアーカイヴ。みんなで使える系統だった基礎資料として活用してもらいたいという、先輩とびラーPARCの思いがこもっています。
〇グループワーク|今回もオンラインでの開催でしたが、当日の午後から開催された定期プログラム「建築ツアー」のメンバーであるとびラーたちは、アート・スタディー・ルームから講座に参加しました。オンラインの講座参加者のみなさんに向けて手を振っています。
まとめ:アーカイヴを活用して建築ツアーを組み立てる
とびらプロジェクトの建築ツアーに台本はありません。とびラーひとりひとりが自分の興味や関心に合わせ、オリジナルのトビカン資料とそれを活用したプログラムを生み出しています。
今回の講師をはじめとするPARCのアート・コミュニケータは、時間をかけて集められた数多の資料が、それぞれ制作者本人にしか使えない状況を残念に思い、みんなで使えるアーカイヴの作成に取りかかったそうです。このアーカイヴは、今年度から現役とびラーを対象に公開されており、いつでも内容を閲覧することができます。
PARCのアーカイヴに掲載されているのは、スポットの基本情報や特色といったような、ツアーの一部となる「素材」。決してそのまま暗記して読み上げればい事足りるようなテンプレートではありません。この素材から何をどのように作るのか、そしてそれを誰に届けたいのか。これを考えるのはこれから活動するとびラー自身。
今回の講座で学んだ、これまでの活動の数々、先輩とびラーの建築ツアー、そしてアーカイヴ。そこに込められた先人の知恵やおもいが、よりふかく建築を味わうためのヒントとして、これからの建築ツアーにつながっていくことを願います。
(東京都美術館インターン 久光 真央)
2020.07.18
【開催報告】7月の建築ツアー
日時:2020年7月18日(土) 14時00分~14時45分
場所:東京都美術館
2020年7月18日、ついに今年度のとびラーによる建築ツアーが幕を開けました。
新型コロナウイルス感染拡大への予断を許さない状況のなか、対策を徹底したうえでのプログラム実施です。
_
_
ーー 当日の流れ
とびラーとスタッフは、ツアー開始の1時間半ほど前に2階アート・スタディ・ルーム(以下ASR)に集合。全体の流れを共有したあと、各チームでの打ち合わせに取りかかります。最終確認を終えた14時ごろ、とびラーはチームごとのスタート地点でプログラム参加者と合流。そこから45分間のオリジナル・ツアーが展開されていきます。
ツアー終了後、とびラーとスタッフは再びASRへと戻り、今日のツアーのふりかえりを行いました。
_
ーー 建築ツアーにおける感染症対策
このツアーは、およそ3か月におよぶ臨時休館ののち、はじめて開催された館内プログラムでもありました。
感染症拡大防止のため、様々な対策がなされている東京都美術館(以下、都美)。もちろん、この建物をめぐる本プログラムの内容にも大きく影響しています。
以下は、ツアー開催のために実施された主な感染症対策です。
_
<ツアー開始前>
・オンライン上での事前予約制、参加者の人数制限
・少人数グループの形成(3グループ各5名*⇒5グループ各3名*)
*とびラー&スタッフ除く
<ツアー実施中>
・ワイヤレス無線機の導入
・2メートルの間隔を保つ(ソーシャルディスタンス)
・建築に「触れない」
<ツアー実施後>
・ワイヤレス無線機などの回収用袋を用意、機材の消毒
・メールでの来場者アンケートの実施
_
グループごとに小さな輪をつくったり、目の前のモノに触れてみたり。
こういった建築プログラムでの “あたりまえ” を控えなければならない今回のツアー。そのような状況のなか、どうすれば都美の建築をよりふかく味わえるのか。チームごとに凝らされた工夫が垣間見える回となりました。
_
たとえば、このグループでは、ツアー開始前にガイド役のとびラーが参加者同士の間隔を共有していました。それぞれ両腕を広げると、だいたい2メートルの距離が保てるのだそう。
_
ーー 「建築的プロムナード」の実践 ―7期とびラーの挑戦
今回フォーカスしたのは、7期のとびラー宮崎保和さんがガイドをつとめるグループ。宮崎さんは都美の建築家・前川國男の理念に関心を抱き、3年連続で建築ツアーに携わってきました。
_
そんな宮崎さんの掲げた今回のテーマは、「建築的プロムナード」の実践。
「プロムナード」は、フランス語で「散歩(道)」という意味です。そして「建築的プロムナード」は、都美の建築家・前川國男が師匠ル・コルビュジエから教わった、建築のなかを歩きまわって、さまざまに変化していく空間を楽しむのが良いという考え方。
_
宮崎さんは、今回の建築ツアーの開催日が特別展の会期中ではないため館内が混雑していないこと、そして今回のツアーでワイヤレス無線機が導入されたことを、この理念をツアーに取り入れられるチャンスと捉えたそうです。
_
スタート地点のおむすび階段をのぼりアートラウンジへ。いったん建物を出て、各棟から正門、そして上野公園へと広がる「エスプラナード」へ。中央のエスカレーターをくだり、地下の入り口から中央棟、そこから連なる公募棟へ。そして再びアートラウンジへ。
_
かぎられた時間のなか、タテへ、ヨコへ、中へ、外へ。おおきな歩幅で歩を進めながらも、見どころはしっかりとおさえます。都美館への並々ならぬ思いと、これまでの建築プログラムで積み重ねてきた経験に裏打ちされた、宮崎さんならではのオリジナル・ツアーです。
_
このグループで初めて出会った参加者のおふたり。メモを取る手の動きが早くなったり、積極的に質問をするようになったり、しだいにツアーに引き込まれていったようすが伺えました。
_
_
ーー これからの建築ツアーに向けて
ツアー後のふりかえりでは、グループごとに実践された工夫やチャレンジが、とびラーとスタッフへ共有されました。
建築クイズを〇×方式にし、口ではなく両腕でマルやバツを作ってもらうことで、離れた位置に立つ他の参加者へ聴覚ではなく視覚で回答を伝達したり、少人数のグループであることを活かし、積極的に名前で呼びかけることで、より親密な空間づくりに励んだり。感染症の猛威が留まることのない状況下でも、しっかりと建築を味わいながら、魅力を共有したいという、とびラーの意気込みが感じられる回となりました。
_
その一方、ツアーを実施したことで、壁や柱といった、これまで積極的に触れていたモノの手ざわりを味わえないことに対するもどかしさなど、これから考えていきたい課題の数々も浮き彫りになりました。
_
次回の建築ツアーは9月中旬に開催予定。企画展もクライマックスを迎え、今回とはまた異なる環境での実施が予想されています。感染症対策下でのツアーがどのように活かされ、次のプログラムへとつながっていくのか。今後の動向からますます目が離せません。
_
(東京都美術館インターン 久光 真央)
2020.06.27
第1回建築実践講座「都美の建築と歴史」
日時|6月27日(土)13:30〜15:30
場所|zoom(オンライン)
―――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――
6月27日、2020年度最初の建築実践講座がオンライン開催されました。
本年度は7期から9期のとびラー約60名とともに建築について学び合います。
_
初回である今回は、ガイダンスとして伊藤達矢さん(東京藝術大学 助教授)から本講座の目標を共有いただいたのち、河野佑美さん(東京都美術館 学芸員)から、活動拠点となる東京都美術館(以下、都美)の歴史と建築についてレクチャーいただきました。
_
_
ガイダンス:建築実践講座の目標
まずは伊藤さんによるガイダンス。
_
ーーなぜとびらプロジェクトで建築を学ぶのか
そもそも、どうしてとびらプロジェクトで「建築」を学ぶのでしょう。
伊藤さんは「自分の感覚を手がかりに建築を味わう」ことを講座の重要なテーマとして掲げています。
都美の建築に関する知識を学ぶだけでなく、それぞれが自ら建築を楽しむ目をもつこと。
さらに、とびラー自身の見つけだした美術館の魅力を他の人とシェアすることで、「建築」を通した学び合いの機会を作ることを目指します。
この学びの実践の場となるのが、とびラーによるオリジナルの建築ツアーです。
土曜昼の「建築ツアー」、金曜夜の「トビカン・ヤカン・カイカン・ツアー」。
2012年のリニューアルオープン以降、このふたつを基盤としながら、さまざまな時間帯や対象者に目を向けた、バラエティに富んだツアーが開催されてきました。
参考サイト|とびラーによる建築ツアー
https://www.tobikan.jp/learn/architecturaltour.html
ーー建築を見ると、社会が見える?
いつものように道を歩くと、何気なく目にすることになる建物の数々。
そこに建築があるのには、かならず理由やねらい、ヒトの動向に関わる様々な意図があります。
「建築がもつ様式、技巧といったことだけでなく、その内に在る建築家の考えや用途の可能性などにも思いをはせてほしい」
そう考える伊藤さんは、Googleストリートビューを活用し、都美やその周辺の歴史ある建物を次々とご紹介くださいました。
とびらプロジェクトの活動拠点となる都美が位置する上野には、幕末以降から現在に至るまで、歴史ある建物が重層的に立ち並んでいます。
オンラインでの上野探検は、しばらく上野に足を運べていない講座参加者の多くにとって、今まで見てきた景色と建物を新たな視点からとらえ直す機会となったかもしれません。
_
レクチャー:「都美の歴史と建築」
_
つづいて、「都美の歴史と建築」に関するレクチャー。講師は学芸員の河野佑美さんです。
当時の資料や図面などをもとに、都美の歴史や建築家の人生を辿り、建物のデザインの特徴や、それらが生まれる背景をお話いただきました。
河野さんのレクチャーでは、その都度、小さなグループでの話し合いの場も設けられました。
ーー都美ってどんなイメージ?
まず、およそ60名の参加者が3人グループのチャットルームに分かれます。
そこで、それぞれが都美にいだく印象を5分間ほど共有しました。
_
_
「なんだか複雑で迷宮みたい」「公募展が特徴的」「夜景がきれい」などなど。
ひとつの建築に対しても、かんがえることは三人三色。
ここで話し合われた内容は、zoomのグループチャット機能を通じて、参加者全員に共有されました。
ーー「都美の歴史と建築」
それぞれの都美へのイメージを確認したところで、この建物ができるまでの歴史をたどっていく河野さん。
まずは、都美の前身である東京”府”美術館(以下、旧館)について。
この旧館は、およそ100年前から構想が練られ、1926(大正15)年、現在の都美(以下、新館)に隣接する敷地に設立されました。
このときキーパーソンとなったのは、九州の炭鉱王、佐藤慶太郎。
たまたま東京に出張していたさい、新聞の社説を目にします。そこで、日本における美術館の存在意義を自覚。建設予算が十分でなかった東京府に100万円(現在の約33億円)を寄付しました。
それから100年の月日が流れた今でも、佐藤の胸像は、新館1階のアートラウンジから都美と行き交うひとたちの様子を眺めています。
どっしりとした造りの旧館は、岡田信一郎の設計によるもの。正面入り口の大きな階段と柱が印象的です。
岡田は、都美の近くにある「黒田清輝記念館」を手がけた建築家でもあります。
この旧館は、増築を繰り返しながら、1960年代まで使われてきました。
しかし、もともと想定されていなかった増築は、しだいに建物へ負荷をかけていくことに。
そこで、1966(昭和43)年から練られることとなった新たな美術館への構想。
「現代の美術館とはいかにあるべきか?」建築と機能の両面から検討されることとなります。
そして、1975(昭和50)年、オイルショックや労働者不足などの時代の荒波を乗り越え、建築家・前川國男の設計による新しい建物(=新館)が、旧館の隣の敷地に建設。この外観は、現在まで引き継がれています。
前川は、東京都から新館に求められた3つの機能を、それぞれの棟や展示室に以下のように割り振りました。
1、「常設・企画機能」企画展示室
2、「新作発表機能」 公募展示室
3、「文化活動機能」 交流棟
さらに2012年、リニューアルオープン。
前川によるデザインや設計のこだわりはそのままに、使う人のことを考えて、時代に合わせた内装の改修が施されています。
この改修工事の前に開催されたのが、「おやすみ都美館建築講座」。
都美では史上初となる、文化資源としての建築にフォーカスしたプログラムでした。
プログラムでは、建築ツアーも実施されました。
そのときガイドを務めたのは、建築を専門としない館の職員たち。
日ごろから新館に慣れ親しんだ人々による案内は、参加者から想定以上の好評を博すことになりました。
「おやすみ都美館建築講座」は、リニューアル後の館のプログラムとしての建築ツアーへと引き継がれていくことになります。
9期に紹介!「私の推しトビ」
この講座のメインフィールドとなる都美では、今年の3月から6月まで、感染症対策のため臨時休館の措置が取られていました。
そのため、今年度からプロジェクトに参加した9期のとびラーは、都美の建築をほとんど実際に目にできていない人も少なくはありません。
そこで企画されたのが、「私の推しトビ」。
7、8期の先輩とびラーが、グループチャット経由で、自身のオススメのスポットを紹介していきます。
(押し都美マップ)
チャットに次から次へと挙げられていく「推し」スポット●。
そして9期とびラーからは「きになる!」という声も●。
今回とくに人気だったのは、
・正門付近-銀色の大きな球体(=野外彫刻《my sky hole 85-2 光と影》)
・公募棟-四色の壁
・公募棟-カラフルな椅子のある休憩スペース
・交流棟-階段のホワイトとレモンイエローの壁
・中央棟-2階レストランからの眺め
などなど。建築ツアーでも取り上げられることが少なくない名物スポットです。
なかには、
・喫煙所横の石のベンチ
・ミュージアムショップ付近の誰にも読み取れないQRコード
・かくれ彫刻の数々●
といったような、知る人ぞ知る穴場を紹介してくれたとびラーも。
参考資料|トビカンみどころマップ①
https://www.tobikan.jp/media/pdf/2017/ac_tobikanmap_combine.pdf
参考資料|トビカンみどころマップ② タイルの秘密編
https://www.tobikan.jp/media/pdf/h25/architecture_midokoro.pdf
これから都美に足を運ぶ9期とびラーだけでなく、今まで実際に活動してきた受講者も、あらためて活動拠点の魅力をしることができたのではないでしょうか。
まとめ:これからの建築ツアー
昨年度までは全6回の講座に加え、来館者に向けた6回の建築ツアーを実践の場としていました。しかしながら、今年度はコロナ禍の影響で、すでに2回分のツアーが中止になっています。
そして、今年度初となる建築ツアーは7月18日(土)に開催予定。
新型コロナウイルス感染症拡大防止に関する対策を十分に行なったうえで実施されます。
参加人数は従来の半分。それぞれ2メートルの間隔を保ちながら、目の前にある建築に触れないように。
これまでになかった制約のもと、どのように都美の魅力を発見し、共有していけるのか。
参加する人々が持ち寄ったアイデアを練り、これまでのツアーをアップデートしたうえで、いっそう深く建築を味わうことができればと思います。
(東京都美術館 インターン 久光真央)