東京都美術館× 東京藝術大学 「とびらプロジェクト」

活動紹介

建築ツアー実践講座3回目:「ツアーコースについて考える①」

2012.07.28

建築ツアー実践講座の3回目が行われました。とびラー候補生(以下:とびコー)のみなさんには、前回の講座の宿題であった「ツアーコースをつくる」で、各自考えたツアーコース案を事前に担当学芸員の河野さんへ提出していました。今回は、提出されたコース案の中から河野さんが3案を選び、実際に3人のとびコーさんが模擬ツアーを行いました。これまで学んだツアーの組み立て方や方法、都美の歴史や建物の特徴等を踏まえ、自分なりに都美を伝えていきます。

口頭の説明だけでなく、スケッチブックを利用してわかりやすく示したり、前年度までの改修工事で出た外壁の破片の実物を見せてくれたり、それぞれのツアーには工夫が凝らされており、なるほどと思わせる場面もありました。

 

内容は都美の特徴である赤レンガのようなタイルの外壁についてはもちろん、館内のつくりにまで及んでいます。

 

実際にツアーコンダクターのお話を聞きながら建物の中を回ると、都美の色々な場所の雰囲気を肌で感じられ、参加者自らが発見したり気づくこともあります。

 

模擬ツアーの後は全員で今回のツアーの良かった点、改善点などについて話し合いました。今後は、各自が考えたツアーや実際に模擬ツアーを行っての反省などを活かし、建築ツアー実践に向けてコースや内容を練り上げていきます。

さて、どんなツアーが出来上がるのでしょうか、ご期待ください。

(とびらプロジェクトアシスタント 大谷郁)

「対話による作品鑑賞」:「スクールマンデー」実践講座第1回目

2012.07.23

「スクールマンデー(対話を通して作品を鑑賞)」の実践講座がスタートしました。この講座では、NPO法人芸術資源開発機構のアートプランナーである三ツ木紀英さんを講師としてお招きし、実践的な取り組みを交えながら「作品を共に味わう『鑑賞』」について学んでいきます。

まず、「スクールマンデー」担当学芸員の稲庭さんから、この実践講座の概要や小中学校における美術鑑賞教育の現状についてのお話がありました。

 

スクールマンデーとは、東京都美術館(以下「都美」)が、この平成24年4月のリニューアルを機に始められた学校の先生やこどもたちのためのプログラムで、普段は来館者も多いためなかなか行うことが難しい学校での鑑賞を、休室日に特別に開室し実践します。また、このプログラムはこどもたちとの対話を軸に、自由な意見や考えを持って周りと共有しながら、こどもたちが主体となって鑑賞できるようにサポートします。

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近年、小中学校の学習指導要領が改訂され、小学校の図画工作、中学校の美術の授業で、美術館などと連携を図りながら鑑賞活動を行う事が以前にくらべて明確に示されるようになりました。そのため美術館側でも、よりよい鑑賞の機会を学校と連携しながら生み出していきたいと考えているのです。その具体的なプログラムの一つが「対話」を通した鑑賞の授業です。対話を通した鑑賞は、生徒が10名ぐらいずつグループになり対話をしていくため、生徒の数に合わせた、対話を助けるファシリテータが必要になります。このファシリテータ役を近い将来とびラーがすることをめざし、現在とびラー候補生(以下「とびコー」)は今年度14回の実践研修を積み重ねるのです。

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そしていよいよこの講座の実践的な内容へ。講師の三ツ木さんより、対話を通した作品鑑賞の中心となるVTS(ヴィジュアル・シンキング・ストラテジー)についての簡単な概要説明がありました。

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このVTS(ヴィジュアル・シンキング・ストラテジー)とは、美術史の知識に頼らず、作品をよく見ることからはじめ、「これは何だろう?」と一人ひとりに考えることを促し、様々な意見を引き出しながら作品の見方を深めていく方法です。鑑賞者の「観察力」「批判的思考力」「コミュニケーション力」を育成する効果があり、ニューヨークの近代美術館(MoMA)の教育部長であったフィリップ・ヤノウィン氏と認知心理学者のアビゲイル・ハウゼン氏が開発し、広めたものです。日本へは90年代から、この元となっている対話を通した鑑賞スタイルが紹介されてきました。誰かと話をしながら作品を見ていくことは、私たちも日常からしている自然なことのようですが、それを単なる「会話」ではなく、意見が積み重なっていく「対話」にしていくところがこの手法のポイントと言えます。

 

概要説明の後は、実際にVTSを体験。スクリーンに映された絵画や彫刻作品をじっくり見て、気づいたことや発見したことを進行役の三ツ木さんのもと自由に発言していきます。描かれているモチーフについてや作品から受ける印象など、様々な意見が飛び交いました。

 

3つ目に鑑賞した作品は、現在都美にて開催している「東京都美術館ものがたり」にも出品されている岡本太郎の「森の掟」でした。スクリーンでの鑑賞の後は、実際に展示室へ移動し本物を鑑賞。スクリーンとは違った発見も多くあったようで、鑑賞後の意見共有でも様々な意見が出ました。

アメリカで開発されたVTSですが、アメリカは国土が広く、なかなか美術館に行くことが出来ないという人も多くいます。そのような状況の中で生まれた作品鑑賞が、今回行ったようにスクリーンへの投影やスライド等を利用する方法です。スライドで出来ることも沢山あるが、実物を前にするとより深く鑑賞出来るということを実感しました。

VTSを体験した後は、具体的な方法等について等、より詳しい概要の説明がありました。

 

このVTSを行うにあたって要となるのが、鑑賞の進行役であるファシリテーターです。ファシリテーターは鑑賞者に問いかけをしながら、上手くその場の流れをつくり意見の共有を促していきます。例えば、鑑賞者が子供である場合、言葉がまだ拙く意図が伝わらないとこもあります。発言の真意を汲み取り言い換えたりすることで、他の人との意見の共有がされやすくなります。また、ファシリテーターが行う大事なことの一つとして「中立性を保つこと」があります。VTSはひとつの「正解」ではなく「思考する」ことを学ぶプロセスを重視しています。あがった意見を断定するのではなくひとつの可能性として扱うのです。大事なのは自分の意見をまず言う事で、作品について考えることを個々の中で育つようにします。そしてまた、鑑賞の最後は意見をまとめたり要約するという事はしません。もやもや感が生まれそうですが、ファシリテーターの進行のもと、自分の意見を客観的に言葉にすることで認識し、他の人の意見も受け止めると、さらに自ら今目にしているものの意味を生成したい!つまり自ら「知りたい」「わかりたい」という内発的な思いが鑑賞者の内側に育っていくようになります。さらには、その内発的な思いが強まれば、もやもやとした疑問を他人に答えを求める形で投げ出さないで自分の中に持ち続ける「自ら考え続ける力」も育まれていくのです。

アートは言葉にするには難しい分野でもありますが、他の人の考えを聞く事、また、自分の感じたことを言葉にして誰かと共有できたという充足感は、考え学び続ける力や観察すること、またコミュニケーション能力を育んでいきます。講座の最後には3人一組になって今回の体験や意見を共有しました。

 

とびコーのみなさんは14回の講座の後に、こどもたちと対話をする実践の場に立ちます。美術館に来るのは初めてという生徒も大勢いるでしょう。とびラーさんが対話による鑑賞のファシリテータとして活躍し、こどもたちと一緒に充実した時間を過ごす、その日が今から楽しみです。

(とびらプロジェクト アシスタント 大谷郁)

チームワークとアクセシビリティー:アクセスプログラム実践講座2回目

2012.07.13

2回目のアクセスプログラム(障がいのある方の為の特別鑑賞会サポート)実践講座は、白梅学園大学准教授の杉山貴洋先生を講師に迎えて「チームワークとアクセシビリティー」というテーマで行われました。

 

はじめはグループ編成からスタート。ただしワークショップ形式で編成が行われます。スタッフがとびラー候補生(以下:とびコー)の背中に7色のシールのいずれかの色を貼ってゆきます。とびコーさんは自分の背中に貼ってあるシールの色は知りません。全員の背中にシールが貼られたら、とびコーさんたちは声を出さずに、相手の反応を伺いながら、また、周囲のとびコーさんにジェスチャーで合図を出しながら、同じ色同士のグループにまとまるように動きます。グループが出来たら一列になって着席。この何気ないワークショップの効果で、グループが編成されたきには既に意気投合できる雰囲気も出来上がっていました。ちょっとした工夫でチームワークをつくる導入となるのだなと関心しました。

 

続いて、「早並びゲーム」。編成されたグループ対抗で行います。最初は「手の小さい順」にとびコーさんが整列し直します。早くできたら順から全員揃って着席。その後「名前の五十音順」「自宅から東京都美術館までの時間順」と続きます。実はこのワークショップ、ゲーム感覚で自己紹介を自然にする為の手法とのこと。

 

予め配られていた(個別の顔写真付き)シートに、各自のゲームでの答えを記入してゆくと、自己紹介カードが出来上がります。チームワークをつくるワークショップの手法を体験することはとても楽しく、こうした経験はこれから小学校との連携などで役立ててゆけそうですね。

 

続いては「クイズ東京都美術館」。早速ですが問題です。「プロジェクションされた4つの写真はいずれも東京都美術館の玄関です。A、B、C、Dの玄関を北口、東口、正面、搬入口 の順に並びかえなさい。」できた人から手をあげて解答します。2問目はかなりの難問。何も展示されていない4つの展示室の写真を入り口から出口の順に並び替えるもの。3問目は現在マウリッツハイス美術館展で展示されている絵画を入口から出口の順に並び替える問題でした。いずれの知識も、障がいのある方の為の特別鑑賞会サポートには必要な知識でしたが、こうした手法で覚えると学習意欲もあがります。解答結果はというと、さすが都美に精通しているとびコーさん、迅速に正解を導きだしていました。
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後半は杉山先生に「障がいのある方の為の特別鑑賞会」を実施するあたり、「アクセシビリティー」をキーワードに具体的な注意事項などを含めたレクチャーをして頂きました。
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この「アクセシビリティー」とは、基本的には「バリアフリー」や「ユニバーサルデザイン」とほぼ変わらない「利便性」を指す言葉だそうです。しかし、「バリアフリー」や「ユニバーサルデザイン」が建物に付帯するのに対して、「アクセシビリティー」はアクセスする側に主体性があるとのこと。東京都美術館はバリアフリーとなってはいますが、それで全ての利便性が補われる訳ではく、そこに見守る人の目があることが何よりも大事。そこで、次回の「障がいのある方の為の特別鑑賞会」でとびコーさんが担うべきことは、ご来館頂くみなさまに「安心で安全な鑑賞環境を提供すること」が第一であり、その上でより有意義な時間を過ごしてもらう工夫が必要とのお話を頂きました。また、何かしてあげなくてはという気持ちから、「サポート」が「おせっかい」にならないように注意し、特に、障がいの名前ではなく、その場の困っている状況に寄り添うことが大事とのことでした。
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次回の「障がいのある方の為の特別鑑賞会」の組み立て方については、僕も杉山先生と事前にいろいろとお話をさせて頂きました。少人数のとびらスタッフで大勢の障がいのある方のサポートを行う場合、残念ながらケア出来る範囲にも限界が出てきます。なので、ご来場頂く方々が介助者の方と共に主体的に鑑賞して頂くことを基本とした上で、我々は「より何をすべきか」を考え、よりよい鑑賞体験を提供できる様に、とびコーさん一同と共に工夫をこらして行きたいと思っています。
(とびらプロジェクトマネージャ 伊藤達矢)

アクセスプログラム(障がいのある方の為の特別鑑賞会サポート):実践講座1回目

2012.07.05

アクセスプログラム(障がいのある方の為の特別鑑賞会サポート)の実践講座がはじまりました。初回、「マウリッツハイス美術館展」特別鑑賞会は8月27日(月)に予定されています。今回の講師は学芸員の大橋さん。「マウリッツハイス美術館展」の担当学芸員でもあります。はじめに、大橋さんから展示室内でのマナーや、これからはじまるアクセスプログラムの実践講座の概要について説明がありました。

 

本日は休館日(月曜日)。誰もいない展示室で、実践講座が進められました。まずは導線の確認をしながら、大橋さんに作品の解説をして頂きました。

 

展示室内にある長いエスカレーター。普段は1時間~2時間待ちで大混雑している館内ですが、今日はひっそりしています。

 

歩いて一通り導線を確認した後は、二人一組になって、車椅子で作品の鑑賞をして頂きました。車椅子で展示会場を移動するにはどうすれば良いか、またどのくらい離れれば作品がよく見えるかなどを直接体験して頂きました。車椅子が何台も展示室にあるときは、普段よりも展示室が狭く感じます。目の不自由なお客様もいらっしゃると思うので、空間の把握は大事です。
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当日は相当大勢の障がい者の方が来館される見通しです。色々工夫を重ねることで、アスセスプログラムが育って行ければと思います。
(プロジェクトマネージャ:伊藤達矢)

壁プロジェクト推進中

2012.07.01

とびらプロジェクトマネージャ伊藤達矢です。
現在とびラー候補生(以下:とびコー)によって「壁プロジェクト」が進められています。壁のある場所はとびらプロジェクトの拠点、東京都美術館交流棟2階プロジェクトルームです。どんなプロジェクトなのか、担当とびコーの大政さんがレポートしてくれました。
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壁プロジェクトは、アートプロジェクトルームの壁を使って、共通の話題にコメントを足していくとびコーやとびらスタッフ同士のコミュニケーションの場としてスタートしました。 8月までに、質問として「とびラ―としてやりたいこと、考えたいこと」「どうしてもやめられないこと」と、3分以内に絵を描く「壁美術館」として「自転車」「夏と言えば思いつくもの」というテーマがあげられました。壁プロジェクトが起こっている場所であるプロジェクトルームは、スタッフのみならずとびらプロジェクトに関心のある外部の方が打ち合わせ等で出入りする場です。活動の動きやとびコーの気持ちが、目に見える形で伝えることができる場にしようと日々模索中です。

 

ただ言葉を集めるのではなく、生まれてきた活動の動きやつながりが見える「マインドマップ」にしたり、個が集まると全体が見える仕掛けを作ったり・・・・・・というように様々なアイデアが生まれてきています。まだまだこれからのプロジェクトですが、将来的にはとびラー同士に加え一般の来館者とつながる場としての「壁」が生まれることを期待しております。
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とびラー候補生:筆者:大政愛(おおまさあい)

筑波大学芸術専門学群美術科洋画コース所属。「アートの力で病院の空気をおいしく」をモットーに筑波大学附属病院などで活動中の「アスパラガス」プロジェクトに所属。「アートワークショップ」「コトづくり・場づくり」「つながること」に興味関心を持って、たくさんのことを吸収・模索中。また、どこか人の気配を感じるシロクマなどもふもふした動物を描くことを好み、ささやかな展示活動などを行って いる。

平田オリザによる演劇の手法を用いたワークショップ(応用編)

2012.07.01

6月3日に行われた基礎編に引き続き、平田オリザさんのワークショップ応用編が開催されました。今回はとびラー候補生(とびコー)さんに加え、学芸員の稲庭さん、佐々木さん、田村さんも一緒に参加されました。

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基礎講座の打ち上げ

2012.06.23

基礎講座最終回が終わった後、夕方6時から、東京都美術館内にあるレストランIVORYにて、基礎講座の打ち上げを兼ねた懇親会が催されました。全6回に渡る基礎講座も全て終了し、とびらー候補生(以下:とびコー)同士もかなり仲良くなりました。なかなか厳しい基礎講座だったと思います。みなさん大変お疲れさまでした。

 

以前、このブログでも紹介した「とびら楽団」のみなさんも登場しました。演奏して頂いた曲はNHKみんなのうたでおなじみの「メトロポリタン美術館」です。東京都美術館も東京メトロポリタンミュージアムなので。とびコーの時田さんがつくってくれた衣装とお揃いの青いターバンを身につけたとびら楽団の演奏は、とびらプロジェクトがはじまってからこの2ヶ月間の充実した活動を象徴しているかの様でした。

 

こちらの「真珠の耳飾りの少女」はマウリッツハイス美術館展の担当学芸員の大橋さん。かなり似合ってます!また、タイミングをみてとびコーさんが全員揃う会を是非開催したいですね。これからは実践講座です。みなさん頑張りましょう。(伊藤)

基礎講座6回目「実践の計画を立てる」(最終回)

2012.06.23

全6回の基礎講座もついに最終回を迎えました。今回の講師は学芸員の稲庭彩和子さん、河野佑美さん、大橋菜都子さん、それと僕、伊藤達矢です。はじめに、稲庭さんと僕からもう一度東京都美術館(以下:都美)の目指すアートコミュニケーション概要についておさらいさせて頂きました。

 

最終回だけあり、みなさん何時にも増して真剣に受講されていました。

 

この4月から6月にかけて行われた基礎講座の期間中に、とびラー候補生(以下:とびコー)のみなさんには、「スクールマンデー(学校連携:対話を通した作品鑑賞)」、「建築ツアー」、「アクセスプログラム(障害のある方のための特別鑑賞会サポート)」のプログラムの中から必ず1つ以上選択して頂き、今後の活動の大きな方向性を決めて頂きました。選択したプログラムについては、該当するプログラムの実践講座を8割以上出席し、次年度からはそのプログラムのリーダー的存在になって頂くことを強く推奨しています。

 

そこで、それぞれのプログラムの特色を共有するために、それぞれの担当学芸員さんにプログラムの詳細を説明をして頂きました。はじめは「建築ツアー」担当学芸員の河野さんから。建築ツアーは既に実践講座がスタートしており、このブログでも紹介済ですが、コルビュジェに師事した日本を代表する建築家前川國男の作品である東京都美術館を紹介するツアー企画です。ステレオタイプの建築ガイドではなく、とびラーひとりひとりがつくるオリジナリティー溢れる建築ツアーを目指しています。

 

続いて、「アクセスプログラム(障害のある方のための特別鑑賞会のサポート)」については大橋さんからご説明を頂きました。都美では「障害のある方のための特別鑑賞会」を年に3回予定しています。休館日を使い、障害のある方にも安全に安心して作品を鑑賞してもらえる日をとびラーがつくります。初回の「障害のある方のための特別鑑賞会」はフェルメールの「真珠の耳飾りの少女」が展示されるマウリッツハイス美術館展です。

 

最後は「スクールマンデー(学校連携:対話を通した作品鑑賞)」担当の稲庭さん。小中学校と連携した鑑賞教育の実践の場として都美を開くプログラムです。普段は来館者が多いため、鑑賞教育の実践が難しい特別展を、休館日を活かして特別開館し、VTS(ヴィジュアル・シンキング・ストラテジー)を中心とした対話型鑑賞教育を実施します。

 

「スクールマンデー(学校連携:対話を通した作品鑑賞)」、「建築ツアー」、「アクセスプログラム(障害のある方のための特別鑑賞会サポート)」はとびらプロジェクトの活動を支える3本柱となるプログラムです。そして、自分が選択したプログラム以外の活動であっても、人手が足りないときや、力を合わせなくてはならないとき、凄く興味のある内容のときなどは、プログラムの枠を超えて参加することをお勧めしています。

 

午前中の基礎講座は、この3本の主要プログラムの説明に加え、メーリングリストや「とびらプロジェクト掲示板」「本日のホワイトボード」などの専用情報共有システムについて確認したところで終了しました。とびらプロジェクト関係者以外の方でこのブログをご愛読頂いている方がいれば、きっとホームページ上のバナー「とびラー専用掲示板」にお気づきになった方もおられるかと思います。クリックすると「とびらプロジェクト掲示板」「本日のホワイトボード」の2つのバナーがでてきますが、残念ながら、ここから先はとびコーさんでないと見ることができません。実はこの先のシステムはとびコーさん同士のミーティングの記録がホワイトボードの写真ごとアップされていたり、ミーティング後の感想などや追加事項などがアップされていたりします。既に想像を超えて活発な活用が展開されています。

 

午後は、僕のファシリテートのもと、現在進行中の数々の新規プロジェクトのプレゼンテーションを担当のとびコーさん自身からして頂きました。楽器が出来るとびコーさんが集まり演奏を行う「とびら楽団」、新聞やブログなどを通して都美と芸大の情報共有と発信を目指す「とびら情報部」、とびラーの活動を支える為の都美のマップ作成と知識の共有を考える「マップ&マニュアル」などなど、とびコーさんの目線ならではの企画が既に10個以上立ち上がっています。一つ一つの企画を丁寧に発表して行くと、思わず助け合える企画同士を発見できたり、質問に答えているうちに新しいアイディアが生まれたりと、非常に実のあるプレゼンテーションの時間でした。

 

一つ一つの企画はまだ芽を出したばかりで、実現できるか否かはとびコーさんらの頑張り次第なところもありますが、とびらスタッフ一同、出来る限りとびコーさんたちをサポートして行きたいと思います。

 

また、そういった思いもある一方で、僕はプロジェクトマネージャとして、とびコーさんたちが自分たちの視点から生まれた活動をきっかけに、思いや理想をお互いに語り合うこと(共有すること)の方が、とびらプロジェクトの成長過程にとって非常に重要なプロセスであり財産だと考えています。(それを可能にするのが「きく力」なのです。)

 

年齢も職業もバラバラな凡そ90人のとびコーさんたちを繋いでいるのは、アートというプラットホームです。もちろんアートでなくとも、多様な人々の価値観を乗せるプラットホームは存在すると思います。しかし、性別や年齢、職業や価値観を軽やかに越境し、広くフラットに包み込むことの出来る類希なフレームはアートをおいて他に見当たらず、比類ない可能性を持ったフレームだからこそ、アートはコミュニティーに変換可能な媒体として機能できるのだと思います。(時代を超えた普遍的な魅力や価値がアートには内在しているからこそ、きっとこれだけの大きなフレームになりえるのでしょう。)

 

そして、アートをプラットホームとすることで、多種多様なとびコーさんたちが協調し合い、信頼関係を積み上げることこそ、とびらプロジェクトの”背骨”をつくることに繋がると思っています。

 

よく「芸術(アート)は社会の背骨である」とか、「芸術(アート)は社会にとって漢方薬のようにじんわり効能を発揮する」といった例えられ方をします。それは、芸術(アート)が人々の多種多様な価値観を抱える大きなプラットホームになることよって、ソーシャル・キャピタル(社会関係資本:多様な人々が関わり合い、関係性を築くこと自体が社会の資本となり得るという概念)が、高い水準で社会(コミュニティー)に蓄えられた状態を指し示したものに他なりません。

 

とびらプロジェクトにとっても、このソーシャル・キャピタルの蓄積は至上命題です。異なった価値観に対して理解を示し、年齢や立場を超えた信頼を築くこと、そしてなによりも問題やリスク、困難や失敗をも共有することのできる関係を構築して行くことができなければ、本当の意味でとびらプロジェクトにソーシャル・キャピタルが蓄えられたとは言えません。

 

そして、これはとびコーさん同士で終わる話ではなく、都美で働く様々な業種の方々との間にも是非とも蓄えて行きたい資本であると思っています。つまり都美の中にソーシャル・キャピタルを蓄えて行きたいと考えています。むしろ、今年のとびらプロジェクトの活動の本質はそこにあると思っています。ソーシャル・キャピタルを蓄え、都美というコミュニティーに強靭な背骨をつくってゆかなければ、「美術館を拠点に、アートを介したコミュニケーションを促進し、オープンで実践的なコミュニティーを形成」する社会装置としての美術館の姿など到底夢のまた夢。。。とびコーさんにかかる期待はますます大きくなるばかりですが、大丈夫、このメンバーなら成し得てくれることでしょう。なぜなら「対話をすることの粘り強さと、誠意をもって接する力」を持つ方々をとびラー候補生として選出したつもりだからです。(休館前に障害のある方々の特別鑑賞会のボランティアを長らくされていた方々にも、そうした資質は共通していると感じて、ひとまとまりのとびら候補生となって頂きました。)

 

最後はこれからとびコーさんたちが企画を進行させて行く上での、テクニカルなアドバイスをさせて頂きました。はじめは、講師の西村さんが「とびらプロジェクト掲示版」に書き込みした内容のおさらい。その後は僕からのアドバイスです。意気込みをしっかりと推進力に変えて行くために必要な幾つかのポイントです。ちょっと気を付けておくだけで、結果は大きく変わるかと思います。

 

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■西村さんからの3つの言葉
1)どんなプロジェクトも、最初の時点で終わり方というか、解散イメージを共有しておくと良いです。

「××××が達成できたら解散」
あるいは時限制で「いついつで自動解散」とか。
解散のときを迎えても「まだやろう!」という感じがあったら、あらたに「その2」を始めれば良いです。
2)底の見えないかかわり合いがつづいてしまって、
なんとなく自然解散というか蒸発? みたいな経験は、
その後のかかわり合いにあまりいい影響を与えないので、
終わり方や解散イメージは、
最初に共有しておくと良いと思います。解散はその都度、楽しくやるといいと思います!
3)「提案や投げかけをして、あとは反応待ち」という形に、なるべくしない。
自分たちで出来るところまでやる。
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■伊藤からのミーティングを行う上での3つの注意事項+1
1)イメージを数量化する(スケジュールや金額を具体的にする)
2)ミーティングはタスク(仕事)に変えて終わる
3)仕事の量と成果の回収のバランスを考える(とびらプロジェクトの場合は必ずしもそうではないですが、
その書類つくらなくても結果は一緒だったよね、なんてことよくあります。つくったことに満足しても仕方ないのです。。。)
+1)そして最も大事なこと
抱えきれない! とつらくなるまえに仕事をシェアする。
黄色信号を「出す」「受け止める」ことが最も大事です。
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最後の基礎講座が終了した後は、各自が進行する幾つもの企画のグループに別れ、夕方までミーティングが自主的に行われていました。素晴らしい! 写真は、障害のある方向けのアクセサビリティーの確認のために、車椅子に乗って館内を視察している様子です。
全6回に渡る基礎講座もこれで終了しました。これから実践講座へと進んで行きます。
さー!これからが本番です。(伊藤)

 

 

建築ツアー実践講座2回目「東京都美術館の歴史」

2012.06.19

2回目の建築ツアー実践講座が行われました。今回は主に、東京都美術館(以下:都美)の建物の特徴や歴史について学びました。講師は学芸員の河野さんです。とびラー候補生(以下:とびコー)が現場に立ってツアーガイドを行うときに知っておきたい基礎知識を中心に、ちょっとした裏話しまで幅広く講義して頂きました。スライドの写真は都美の父ともいわれる九州の炭鉱王佐藤慶太郎氏。当時の100万円(現在の33億円程度)を東京府に寄付し、1926年(大正15年)に東京府美術館(現 東京都美術館)が開館する礎を築いた方です。

 

佐藤慶太郎氏の寄付により建てられた旧東京都美術館も時代の流れの中で、建て替えを余儀なくされます。昭和50年に旧東京都美術館から現在の前川國男設計の東京都美術館に移行を完了させたそうですが、なんと、旧館を運営しながら、隣に新館を建設するというかなりアクロバティックな乗り換えだったようです。また、前川氏は同じ上野公園内にある東京文化会館の設計も行っており、さらにその向かい側にある国立西洋美術館は彼の師であるル・コルビュジェの作品です。一方、上野公園には、不忍池や武蔵野の原生林の面影が漂う自然の風景も残されています。こうした多様な魅力を上手に融合させ、建物を取り巻く公園全体の環境を大切にしながら、前川氏の手によって都美の建設は進められました。
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さらに館内に目を向ければ、都美の建物の中には、普段は気付かない色々な工夫が隠されています。例えば、館内の階段に付いている手すりは、全ての角を落として丸く処理されています。これは、都美が建てられた1970年代当初は、まだ美術館の来館者の多くが着物だったため、袂を手すりに引っ掛けない様にデザインされたそうで、リニューアル後の今でもその面影をの見ることができます。その他にも、一度奇麗に固めたコンクリートの表面を砕き細かな凹凸を付ける「ハツリ加工」が生み出す柔らかい光と影の印象や、都美の外観を覆い尽くす一見レンガに見える「打ち込みタイル工法」の仕組みなど、なるほど〜と思わずうなずくことがたくさん有りました。

 

時代を感じるエピソードとして印象的だったのは、都美の正面入口のコンクリートに今でも残る斜めの大きな傷のお話し。都美を建設中の70年代前半、日本はオイルショックに見舞われました。その影響で何と都美の正面入口をつくっている最中にコンクリートミキサー車が到着できなくなるというハプニングが起こったそうです。継ぎ足すコンクリートが届かないまま、途中まで入れたコンクリートが凝固しはじめ、結果的に断絶の跡が大きく残ってしまったとのこと。当時の現場担当者はこの不始末を詫びるために前川氏に土下座したとも伝えられていますが、「それも時代の傷だよ。山の稜線みたいでいいのでは。」と、前川氏はさらっと返したと言われています。なかなか深い話です。
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まだまだ都美にまつわるお話は絶えません。現在とびコーさんたちは、来るべき建築ツアーのために各々が勉強中です。次回、建築ツアー実践講座は1ヶ月先になります。それまでとびコーさんに出された宿題は各自でツアーコースをつくって来ること。どんなツアーコースが出てくるかとても楽しみです。(伊藤)

基礎講座5回目「とびラーの働き方研究」

2012.06.09

5回目の基礎講座のテーマは「とびラーの働き方研究」です。講師は西村佳哲さん(働き方研究家/リビングワールド代表)と森司さん(東京都歴史文化財団 文化発信プロジェクト室 地域文化交流推進担当課長)です。基礎講座も大詰めとなる中、これからとびラー候補生(以下:とびコー)が具体的に東京都美術館(以下:都美)を舞台にどの様に働くことができるのか、その可能性と心構えについて講座が開かれました。

はじめに、西村さんから出されたテーマは「とびらプロジェクトと自分の今日この頃」。とびコーさんとなって、都美にもだいぶ馴染み、同期のとびコーさんとも仲良くなってきた今日この頃。いろいろな企画の芽も出はじめ、周囲から寄せられるとびコーさんへの期待の大きさと、振る舞いの難しさにも気付きはじめ今日この頃。少し今を振り返るために、ペアになって近況を話し合いました。もちろん大事なのは「きく力」です。西村さんからは改めて、「きく力」とは「本気でその人に興味や感心を持つこと」とのアドバイスもありました。

 

その後、西村さんから「自分の仕事を考える3日間」(2009年)という講演会であった豊島秀樹さん(元グラフ)のお話を例に、「ミッション先行ではなく、居合わせた人がすべて式」について、お話しして頂きました。奈良美智さんの作品のインストールデザインなどを手がけ、世界を舞台に活動を展開するデザイン会社グラフは、そもそも、大阪の中之島公会堂の石段に、缶コーヒーを持って集まった6人の友人たちによってつくられた会社だったとのこと。当時、いずれの面子も半人前の職人や料理人で、仕事が終わった後に集まっては、お互いの夢や仕事の近況などを語りあっていたそうです。そんな中、一人のメンバーが椅子をつくってきたところから、グラフの活動は動きだします。椅子をつくれるなら俺が売りに行ってやるよ、売れたら量産が必要だから工房いるよね、ならばビル借りようか、ならショールームつくれるね、だったら俺がカフェをやろうと、そんな具合にグラフはアイディアの連鎖で急成長を遂げていったそうです。ミッションやゴールを決めて必要な力を持つ人材を探し集めるのではなく、その場に居合わせたメンバーから可能性が芽生える。お互いの夢や可能性を共有し、ぼんやりとした、こんな感じかなと思う未来の形を探り当てて行く方法が「ミッション先行ではなく、居合わせた人がすべて式」です。
この「ミッション先行ではなく、居合わせた人がすべて式」はとびらプロジェクトの考える「あさって性」に実に共通するところがあります。(「あさって性」の詳細は、6月6日:Educe cafe:アートが引き出すコミュニティ(東京大学にて)をご参照ください。)都美に集う多様な顔ぶれと、そこでしか生まれない出来事を積み上げ行くことでできるぼんやりとした未来像を、とびらプロジェクトも大事にして行きたいと思っています。
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実を言えば、とびらプロジェクトの活動イメージは計画当初にキチンと固まっていたわけではなく、学芸員の稲庭さんも僕も(まさかプロジェクトマネージャしているとは夢にも思わなかった。。)、講師陣の誰一人すら去年の今頃はまだなにも想像できていませんでした。しかし、人と出会い、話し合い、共感し、考えて、暖めて、とびらプロジェクトの理念や方向性を一つ一つ積み上げてきました。まさに、このスタッフの顔ぶれだからこそ、今のとびらプロジェクトの形が生まれたといえます。そして、こうしたスタンスは変わることなく、とびラーの活動方針にもつなげて行きたいと思います。
きっとそんな思いも込められていたのか(定かでは有りませんが)、西村さんから出た次の指示は、ここに集まったメンバーで3人組をつくり、その3人だからこそ出来るアイディアを考えることでした。3人とは社会の最小単位をイメージしたグループとのこと。さっそく3人組をつくり、まずは、各々自分に「できること」「不得意でないこと」「いつかやってみたいこと」をノートに書き出すことからはじめます。ノートに書き出したら、配られた、ポストイットに、その中から一つだけ言葉を選び記入します。

各々選んだ言葉が書かれたポストイットを見せ合い、3つの言葉からイメージできる、3人ならではのアイディアを考えます。はじめは特に都美という場所に捕われず、アイディアを出し合いました。ここに来てはじめて、とびコーさん同士の意外な特技に気付く事も有り、今後の活動に役立つヒントが多く隠されていることが分かりました。

 

企画の簡単なアイディアを3人で一度つくってみたところで、さらにイメージを深めて行きます。今度は、この3人で都美でできることは何かを考えます。3人で3つの言葉を持ち寄って、都美を舞台に、ここにいるメンバーだからこそ出来ることはなにかを話し合いながら、午前中は終了。午後までに、グループごとにA4用紙1枚に企画をまとめて提出する宿題が出され、お昼休みも活発なミーティングが続きました。

 

お昼休みが終わり、午後の部がスタートしました。森さんも加わり、企画を一つ一つチェックして行きます。「スカイダイビングをしたい」塩見さん、「日本一周したい」小松さん、「悪いこと以外で新聞にでたい」平野さんが集まると「空からとびラー」(笑)。「日本各地をスカイダイビングでとびらーが訪れます。パラシュートには東京都美術館の文字。降り立った地で写真を撮り、都美で展示します。」ぜったい無理ですね。その他にも、「ナイトミュージアム」や「都美をうろうろ お掃除しよう」などなどかなりユニークなアイディアがたくさん出されました。
森さんからは、「企画をつくるということは、さまざまなアイディアをもとにイメージを膨らませながらも、よりシンプルなアクションプランに落とし込んでゆくこと」「みんなのアイディアを列挙しただけの列挙型プランは企画とは呼ばない。」などなど、現実的なアイディアも、そうでないアイディアもまとめて、シビアかつ的確なアドバイスを頂きました。

 

企画書についてのコメントが一通り済んだあと、森さんから「さまざまなアイディアがでましたが、ここから先の問題は、いったいこのアイディアを誰が実行するのかということです」と鋭いご指摘を頂きました。そして、とびラーへの期待を「新しい公共」という言葉で表現されていました。
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この「新しい公共」について少し僕なりに補足すると、80年代、文化施設をつくればまちが文化的になるといった考えのもとに、多くの公民館やホールがつくられたハコ(建物)もの行政と呼ばれた時代がありました。ハコをつくれば市民が集い、文化的な活動が展開されるはず、文化的な活動が起これば、その施設周辺にもその効果は波及し、花があり、彫刻がありとなるはず、、、といった思惑はまったく叶いませんでした。誰でも使える多目的な施設は、何に使ってよいかいまいち掴みどころのない施設となってしまい、「閑古鳥が鳴く豪華シャンデリアの施設」などと揶揄されるほどでした。この失敗の原因は、ハードがあればソフトは自然に生まれるといった発想にありました。そして、活動のエネルギーは建物に宿るのではなく、人に宿ることが明らかになったころ、日本経済はバブル崩壊とともに大きく傾いて行きます。結局ハコをつくっても、中身を考えなければ意味がない、むしろ中身があれば、ハコは工夫次第ではないかという声のもと、時代は「ハコから人へ」(ハードからソフトへ)とシフトして行きます。(まちの中でアートプロジェクトが展開され出したのもこの頃からです。)これまで「ハコ」に付帯されていた公共への利益還元の役割を、「ハコ」ではなく「人」に託そうする考えが「新しい公共」という言葉に込められています。

 

ですが、この「新しい公共」の担い手として、「とびラーが、何を実行するのか。」この問いについては、プロジェクトマネージャとして深く考えさせられます。実質的にプロジェクトを行う現場視点で見たとき、非常に難しいことは、アクションとなる「プラン」と「思いつき」は明らかに違うという点です。あくまで僕なりの解釈ですが、「プラン」は「戦略」を意味することができると思っています。つまりは、期待する未来の全体像をイメージしながら、道筋をみつけて行くこと。そのイメージさえ(ぼんやりでも)あれば、途中途中にある失敗や、上手く行かない足踏みも、成果の一つとして積み重ねてゆくことができるはずです。しかし、その場その場の「思いつき」の失敗や足踏みは 、落胆や失望を生み易く、せっかく蓄えたエネルギーをいたずらに消費してしまいがちでいけません。なぜなら「思いつき」は目の前の現場を何とかしようとする「作戦」に留まってしまい、俯瞰した視点を持ち難いからです。よって、大きな「戦略」(プラン)のない「作戦」(思いつき)を繰り返すことは、プロジェクトを運営する上で非常に危険な行為に繋がって行きます。
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恐らく、その一般的な回避方法としては、プロジェクトの進行段階にあわせて、全員に共通した「戦略」(プラン)を都度提示し、適切な役割分担で進行することだと思います。ですが、あえてとびらプロジェクトでは、それをしないようにしたいと思っています。これはとびらプロジェクトのひとつのチャレンジでもあります。「戦略」(プラン)に関しても、例えば僕なら、どの様なステップでとびらプロジェクトを成長させて行けるかを考えますが、とびコーのみなさんなら、とびらプロジェクトに参加することでどんな自己実現が可能か、その為に今何をやろうかなど、その思いは人それぞれでよく、必ずしも全員が一つに絞ったイメージを共有しなくてもよいと思います。一人一人が自分の動機にあった「道筋」(戦略)を見つけてゆくことが大事だと思います。組織立てるための恒常的な役割分担を決定せず、それぞれの「戦略」(プラン)を持ったとびラーによって随時構成される有機的なチームの集合体が、とびらプロジェクトの全体像を描いてゆける様にしたいと思っています。相当ハードルが高いことは承知の上ですが。。。
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森さんと西村さんのお話のなかにも「とびラーは各々が個人事業主である」という言葉がありました。まさにその通りだと思います。とびラーは役割を与えられたボランティアさんではないのです。
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「新しい公共」とは単にボランティアさんが働くことを意味してはいません。個々人の成熟した在り方が問われる、非常に高いレベルの振る舞いが期待されているのです。この「新しい公共」となりえる個々人と、それらがプロジェクトとなって織りなす活動の遠心力。それがとびらプロジェクトにかかる大きな期待であり、とびコーさんに実感してもらいたいことでもあります。
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そして、この大きな期待を持って、「つぎ、なにをする?」という質問がとびコーのみなさんに、提示されました。

再度、気持ちを新たに3人組を再編成し、「つぎ、なにをする?」について話し合いをはじめました。「ミッション先行ではなく、居合わせた人がすべて式」、「新しい公共」という概念、どちらもとびらーの働き方を考える上では、とても重要なテーマとなります。「つぎ、なにをする?」という課題にこめられたメッセージは思いのほか深いものがありました。
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この課題については、基礎講座期の時間内に提出するのではなく、「とびラー専用掲示板」に書き込むことで提出となりました。(とびコーさん以外でブログを見て下さっている方には公開できませんことお詫び致します。。。)今後、実現できそうなものは実現に向けて進めることになる予定です。

 

とびらプロジェクトの理想は高く険しい道のりの先にあるのかもしれませんが、きっとこのとびコーさんたちとなら、実現できると信じています。そして、ちょいちょいブログに登場するスタッフの他にも、とびらプロジェクトをしっかりと支えてくれているスタッフがいます。左から順に、インターンの真砂さん、コーディネータの近藤さん、アルバイトの熊谷さん、学芸員(マウリッツ美術館展担当!)の大橋さん。(ちょっとピンぼけしていてすみません。。。) アシスタントの大谷さんが写ってないのが残念。今度登場しますね。「ミッション先行ではなく、居合わせた人がすべて式」にしても、よくぞ集まったと思います。(伊藤)

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